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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

副船長  第1話

マザー、とんでもない職を拝命しました。副船長です。青の間とはいえ清掃員から副船長に転任なんてありえません。掃除から戻ると封書があって、宛名も本文も全て手書きで「副船長に任命する」と…。色々転属しましたけれど、手書き文書で転任の連絡が来たのは初めてです。夢か悪戯に決まっている、と早々にベッドに入りました。青の間清掃員の仕事はその日で終わりでしたし、次の仕事は改めて指示があると思ったのです。

「…お仕事がない…」
翌朝、私には何の連絡も来ませんでした。朝食を食べに食堂へ行っても「今日からよろしく」と声をかけてくる人がありません。昨夜の封書が頭をかすめましたが、副船長なんて絶対ないです。もしかして私、リストラですか?…いえ、このシャングリラで『働けるのに無職』なんてことは無いはずです。これは悪い夢に違いありません。思い切り頬を抓ってみました。でも状況は全く同じ。食堂を出てフラフラとあてもなく歩いていると…。
「かみお~ん♪」
上機嫌な声が聞こえてきました。そういえば「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「人を化かせる」んでしたっけ。おまけに悪戯大好きです。無職な上に副船長という妙な現象は、ひょっとして…。早速「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋へ直行です。
「…また君か」
カラオケを中断された「そるじゃぁ・ぶるぅ」はジト目で睨みつけました。
「また、じゃなくて!…私に何かしたでしょう。お仕事が無くなっちゃったんです!おまけに『副船長に任命する』なんていう変な手紙は届くし、もうどうしたらいいんだか…。化かされてるのか悪戯なのか知りませんけど、さっさと元に戻して下さい!…アイス作ってあげますから!」
「…何もしてない。アイスは欲しいけど、何もしてないから何も出来ない」
それだけ言うと「そるじゃぁ・ぶるぅ」はマイクを握り直してカラオケの続き。ああ、どうしたらいいんでしょう。やっぱり悪い夢を見ているようです。抓っても目は覚めませんでしたし、噛まれたら目が覚めるかも?…恐る恐る「そるじゃぁ・ぶるぅ」の背中を撫でました。カラオケ中に触られるのは嫌いな筈です。しかし…。
「あと30分…」
気持ち良さそうに言った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は噛み付くどころか笑顔でした。ますますもって悪夢です。何度撫でても、「もっと愛情込めて撫でてほしいな…」とそっぽを向く程度で噛まれることはありません。本格的にまずい事態になってます。それにいつも外出ばかりの「そるじゃぁ・ぶるぅ」が今日は一切、お出かけ無し。カラオケ、昼寝、窓の外を眺めてみたり、トイレに1時間も入ってみたり。何もかも変なことばかりです。

オロオロしている間に時間はどんどん過ぎました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はアイスを食べたりカップ麺を食べたりしていましたが、私はお腹が空いたのかどうかも分かりません。時計はもうすぐ午前0時。そういえば「午前0時を過ぎると魔法が解ける」有名な童話がありましたっけ。掃除ばかりさせられて灰まみれの女の子が魔法でドレスを着せてもらって舞踏会に行く話。清掃員から副船長、という今の私と似ていないこともありません。
「…日付が変わればいいのかな?…元に戻って普通の仕事が貰えるようになるのかも…」
土鍋で丸くなって寝ている「そるじゃぁ・ぶるぅ」を撫で、やはり噛まれないことを確認してから壁の時計を眺めました。あと5分で午前0時です。3分、1分、30秒…。その時、ドアが外から開けられました。
「いた!こんなところに籠もっていたのか!!」
えっ、キャプテン!?
「シャングリラ中、捜したんだぞ。何処に行ったかと思ったら…」
「キャプテン、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は一度も外には出ていませんよ」
午前0時の魔法の話をすっかり忘れて、私は「そるじゃぁ・ぶるぅ」の今日の生活を報告しました。
「朝からカラオケ、それから昼寝…あとは窓の外を見て、トイレに行って」
「違う、捜していたのはぶるぅじゃない」
キャプテンは私を見つめておっしゃいました。
「辞令が届かなかったのか?…ブリッジに来るよう書いておいたのに」

マザー、副船長に任ぜられたのは本当でした。そういえばキャプテンは手書きにこだわる方でしたっけ。辞令がレトロな封書だったのも納得です。清掃員から副船長に転職だとは、シンデレラも真っ青の大出世。とんでもないオチが待ってなければいいのですけど。…夢でないことを確認した私は驚きのあまり倒れそうでした。今も頭の中で「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋で見たクリスマスツリーがグルグル回って見えてます、マザー…。




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