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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

アルトちゃんレポート・その3
「皆が集まるまで、お茶しながら遊んでいよう」
 強引に連れてきてしまった手前、一人だけサヨナラする訳にもゆかず、今はもうrちゃんの後ろで小さくなっている。
 でもお茶ならいいかもね!と強引に緊張をほぐせば、パスカル先輩は笑みを浮かべてお茶の用意を始めた。
 まさか、と思ったけれど。
 そんなベタな、と思ったけれど。
 ここは理科室で手近な湯沸かし装置と言えばアルコールランプとビーカー。
 ちっちゃいビーカーで紅茶を飲むとかになったら暴れちゃうよ!?
 傍らのrちゃんも不安そうな表情をしていて、やっぱり帰ればよかったと思っていそうだった。
 そんな心を見透かしているのか、ボナール先輩は出入り口付近に陣取っていて脱出は不可能そうだ。
 諦めが肝心と黙っていると、
「ボナール。冷蔵庫にさっき食堂からもらってきたものがあるから」
 パスカル先輩の言葉で隣の準備室へ移動したボナール先輩。耳を澄ませばガタガタと音がする。
 何が出てくるんだろうと、いつの間にか二人手を握り合っていたrちゃんと私は、準備室の出入り口を見つめていた。
「なんだ、これは!」
 驚きの声に心臓が飛び跳ねる。
「作りすぎたらしい」
 そう言って持ってきたのは、大皿に山と積まれたクレープだった。
「ぶるぅか」
 あの美味しいと噂のクレープ!?
 それなら食べたい!
「新作研究をしていたらしい」
 ……いや、やっぱり遠慮したいかも。
「さあどうぞ」
 目の前に現れたのは、濃い紺に金の縁取りが美しいティーカップだった。
 微かに甘い紅茶の香りが広がってゆく。
 でも理科室には似合わない。
 綺麗なティーカップも紅茶の香りもクレープも。
 促されて紅茶を飲めば美味しく、怖々食べたクレープも美味しい。
 今度こそホッとしてrちゃんと二人、ティータイムを楽しむことにしたが、
「で、1点だったんだって?」
「ぐっ」
 突然のアプローチにクレープが喉に詰まってしまった。
 rちゃんが背中を叩く。
 パスカル先輩もごめんと言いながら背中を叩き、それでも苦しんでいるとボナール先輩が背骨が折れる勢いで叩いてくれてようやく飲み込めた。
「なかなか取れない点だな」
「…そ、それって…馬鹿にしてませんか?」
「でも数学1点で合格したんだから、他の科目がすごいんじゃない?」
 rちゃんがフォローしてくれる。
 うう、ありがとう。
 まだ会ったばかりなのに。
 でもね……それはあり得ない。
「並、って聞いた」
「誰にですか?」
「グレイブ先生」
「ひどい。教えるなんて」
 でもその通りだ。
 他の科目が素晴らしく出来た、なんて考えられない。
「裏口か?」
「知り合い、いません!」
「じゃあ何故入学出来たんだろうね?」
 そんなの私が聞きたい。
「まあとにかく。入学許可は本当だし、これから頑張ればいいってことにして。はい」
 置かれたのは数学の問題用紙。
「遊び感覚でどうぞ」
 遊びってこれ……。
 ため息つきながらもrちゃんはペンを手に問題を読み始めた。
 仕方ない、私も…と思って問題を読み始めた瞬間、くるくると目が回り気分が悪くなってきた。
 ど…どうしよう……。
 思った時にはもう意識はなかった。





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