忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

クラブ見学・第3話

キース君とシロエ君、マツカ君が柔道部の入部手続きを済ませ、制服に戻って私たちの方へやってきました。ジョミー君がサッカー部に入らなかった理由を聞いたキース君は…。
「そうなのか。柔道と違ってサッカーは団体競技だからな…1年しか在籍しない部員をレギュラーにはしてくれないだろう。だが、それが事実なら俺たちが1年で卒業することに決まっているという怪しげな話は本当だということに…」
「でも学校からは何の話もないですよ?」
シロエ君がそう言った時、教頭先生が柔道着のままでおいでになったではありませんか。
「どこかで見た顔だと思っていたが、君たちは今年の…。1年間、存分に活躍してくれ。大会にも早速出てみるか?」
「先生、お聞きしたいことがあります」
キース君が姿勢を正して教頭先生を見つめました。
「今、1年とおっしゃいましたね。ぼくたちが1年だけで卒業することになっているというのは本当ですか?だとしたら、その理由をお聞きしたいのですが。…それともう1つ。先生は宇宙クジラと何か関係がおありなのでしょうか?」
「…君たちが1年で卒業と決まっているのは本当だ。だが、理由を知るにはまだ早い。宇宙クジラの件も同じだ。…そう、知るべき時期が来ていない。今の君たちに出来るのは…」
「ぼくと一緒にお茶を飲むこと。そうですね、先生?」
絶妙のタイミングで現れたのは生徒会長さんでした。
「ああ、ブルー。ちょうどよかった。今、部員に呼びに行かせようかと思ったところだ」
「そんな気配がしたんです。だから呼ばれる前に来たんですけど…珍しい新入部員を獲得なさったご感想は?」
「柔道部員である以上、特別扱いすることはない。…気になるのなら一緒に入部してみるか?」
「…お断りさせて頂きますよ」
生徒会長さんは涼やかに微笑み、私たちに極上の笑顔を向けました。
「クラブ見学はどうだったかな?君たちを誘いに来たんだよ。今日のおやつはクレープなんだ」
教頭先生の方を見ると「行きなさい」と目で合図しておられます。私もスウェナちゃんたちもクラブを決めてないんですけど…急いで決めなくても大丈夫かな?

生徒会室の壁の紋章を使って「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に入ると美味しそうな匂いがしていました。テーブルの上にクレープが山盛りのお皿が乗っかっています。
「かみお~ん♪今日も来てくれて嬉しいな!新作に挑戦してみたんだよ。春だから桜クレープとか。いっぱい食べてゆっくりしてね」
ニコニコニコ。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は今日も元気いっぱいでした。会長さんが紅茶を入れて下さいましたが、前に会った副会長のフィシスさんと書記のリオさんはいないんでしょうか?
「フィシスとリオは生徒会の方で忙しいんだ。年度初めだから」
「…あんたが会長なんじゃないのか?」
遠慮の無いキース君の突っ込みに会長さんはクスッと笑って。
「ああ、ちゃんと仕事はしているよ?でもぼくは色々と特別だから、学校中を走り回る必要は特にないんだ」
「命令だけしてればいいってこと?」
そう言ったのはジョミー君です。
「おやおや、これは手厳しいね。そういうわけでもないんだけど…現時点で一番大切な仕事は君たちの面倒をみることで…」
「面倒を見てくれと頼んだ覚えはないが」
「ちょ、ちょっと…キース先輩!」
「頼んだ覚えはない、か。でも今も君の面倒を見ているんだよ、ぼくは。正確には君たち全員の…ね。ちょっと中断してみせようか?」
次の瞬間、頭の中にワッと声が溢れ出しました。耳元で叫ばれるとかそういうのじゃなくて、本当に頭の中で大勢の声がザワザワと…。そう、入学式で聞いた不思議な声の時みたいに。
『面倒をみてやっている、だと?茶ばかり飲んでいるヤツに世話されている覚えなどないぞ』
『ああもう、キース先輩ったら!とりあえず相手は先輩ですよ。目上の人には礼を欠くなっていっつも言っているくせに!』
『…サッカー部、入りたかったよなぁ…。いいなぁ、キースたちは入りたかったクラブに入れて』
『…柔道部、入部しちゃったけれど…ぼく、本当に大丈夫かな?見学だけってできるんだろうか…』
『なんだかゴチャゴチャ言ってるけどさ。今日のクレープも美味そうだし、昨日の冷麺も美味かったし。ここの待遇、悪くないよな』
『面倒を見てるって、なんのことかしら?お茶に誘ってくれることなの?それともこの部屋に入れてくれること?』
響いてくる声は他のみんなのものでした。でも、誰の口も動いていません。それに頭がキーンとなって…他のみんなも同じらしくて、両手で耳を押さえています。私も耳を押さえましたが声は大きくなるばかり。
『だから言ったろう?…ぼくが面倒みてるんだ、って』
会長さんの声が響いてフッと静かになりました。恐る恐る耳から手を離しても、もう大丈夫みたいです。私たちはまだクラクラする頭を押さえてソファに座り込んでいましたが…。
「君たちにかけていたシールドを一時的に解いたんだ。頭の中に声が溢れただろう?…あれはみんなの心の声。君たちは他の人の心の声が聞こえる力を持っている」
え。会長さんの言葉はとんでもない衝撃の内容でした。心の声を聞くことができるだなんて、そんな馬鹿な…!

「…嘘じゃない。ぼくが入学式でぶるぅの力を借りて流したメッセージ。素質のある者があれを聞くと、因子が目覚める。今年は4人の筈だった。でも、その4人には仲間がいたから…切り離してしまったら悲しいだろうと思ったから…」
「ぼくの力を分けたんだよ。赤い手形を覚えてるよね?」
会長さんの隣で「そるじゃぁ・ぶるぅ」が右手を突き出してニコニコしています。すると私たちは本当に特殊な存在になってしまったというのでしょうか?
「平たく言えばそういうことだ。でも、簡単に理解して貰えるとも思わない。だからゆっくりと…徐々に馴れてくれるよう、ぼくが力を制御している。当分は普通の生活を送った方がいいだろうね」
「そうそう。ぼくの悪戯かも、って思っておけば?」
悪戯。本当に「そるじゃぁ・ぶるぅ」の悪戯だったらいいんですけど、違うような気がします。みんなの顔も青ざめてますし。
「大丈夫、平気だよ!ぼくの手作りクレープを食べればきっと元気が出ると思うな。新作、新作~♪」
結局、私たちは問題を棚上げにしてクレープを食べることにしました。とても美味しいクレープの中には1個だけ…。
「なんだ、これはーーーっっっ!!!」
キース君の絶叫が部屋中に響き、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が嬉しそうにクラッカーを鳴らして飛び跳ねています。本日の大当たりは『わさび漬けクレープ、辛子入りカスタードクリーム添え』でした。納豆も入っていたようですが、『クレープ冷麺』のジョミー君に対抗心を燃やして完食したキース君の感想は…教えてもらえないまま終わってしまったのです。キース君、お腹を壊さなければいいんですけど。

そんなこんなでクラブ見学日も終わり、家に帰った私は『パンドラの箱』を取り出して「そるじゃぁ・ぶるぅ」に質問の手紙を出しました。私たちは何になっちゃったのか、って。人の心の声が聞こえるだなんて、絶対、普通じゃないですよね?
「来てるかな、返事…」
蓋を開けてみるとそこにはメモが1枚。
「心配しないで。ぼくとブルーがついてるからね。クラブ活動、ぼくのファンクラブを作ってくれると嬉しいな♪」
あああ、全然答えになっていません。シャングリラ学園、まだまだガードが固そうです…。




PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]