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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

三学期始業式・第1話

冬休みが終わる前の日、学校から卒業のお知らせが届きました。「例外として今年度をもって卒業とする」と書いてあります。それと理由を書いたお手紙。パパとママはビックリですが、会長さんが言っていたとおり特に気にする風もなく…。「校長先生も三百年以上生きてるんだし、そういうこともあるだろう」なんて言われてしまうと拍子抜けです。ジョミー君たちの家にも同じ通知が配達されたようでした。
「1年生のみんなと一緒に遊べるのは三学期だけでおしまいなのかなぁ…」
ベッドに転がって呟いていると、会長さんの思念波が。
『明日から学校が始まるけれど、普段どおりでいいんだよ。気にしない、気にしない』
頭が混乱してしまわないよう、ちゃんとフォローもしてきたし…と優しい気配がフワリと身体を包み込みます。そういえば毎晩、こんな暖かさを感じていたかも。心配事が薄れていくのは慣れてしまったからではなくて、会長さんのおかげだったんですね。私はその夜もぐっすり眠り、翌朝、元気に登校しました。1年A組の教室に行くと…。
「かみお~ん♪ぼく、今日は1年A組なんだ」
教室の後ろに増えた机に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が座っていました。机の主の会長さんはアルトちゃんとrちゃんに小さな包みを渡しています。
「素敵な年賀状をありがとう。…ぼくのクリスマス・カードと年賀状も無事に届いたみたいだね」
なんと!私たちに謎解きをしていた間も、アルトちゃんたちへの気配りを忘れなかったみたいです。今、渡したのは何でしょう?アルトちゃんとrちゃんも包みを眺めて不思議そう。
「…銀専用のお手入れグッズ。拭くだけで曇りが取れる布だよ」
贈った指輪は銀だったしね、と会長さんは言いました。
「錆びないようにロジューム加工がしてある銀も多いけれども、君たちにあげた指輪は違うんだ。…知ってるかい?愛されてる銀は錆びない、って」
「「え?」」
アルトちゃんたちが首を傾げます。
「いつも身に着けていると銀はあんまり錆びないんだよ。ロジューム加工してない指輪をプレゼントしたのは、愛される銀になって欲しかったから。でも、学校も寮もアクセサリーは禁止だし…着けたままではいられないよね。だからお手入れグッズなんだ。ぼくたちの仲が曇らないよう、磨いてくれると嬉しいな」
極上の笑みの会長さん。アルトちゃんとrちゃんは真っ赤です。
「あ、ありがとうございます…」
rちゃんがお礼を言うと、会長さんは更に重ねて。
「そうそう、二人とも、指輪のサイズは合っていた?…ピッタリだったと思うんだけど」
アルトちゃんたちはコクリと頷き、rちゃんが尋ねました。
「あの…。どうしてサイズが分かったんですか?私たち、言わなかったのに…」
「ああ、そんなことくらい簡単だよ。…一度こうして手を取れば……」
会長さんの手がrちゃんの右手を捕まえ、キュッと握って。
「分かっちゃうんだよね、この手ならどのくらいのサイズかって。指を握らせて貰えば、もう完璧」
rちゃんの薬指の付け根に会長さんの指が軽く巻き付き、次はアルトちゃんの右手に触れて。
「何度も触れている指なんだから間違えないさ。…指輪、大切にしてくれるかな?」
アルトちゃんとrちゃんは大感激です。シャングリラ・ジゴロ・ブルーの名前はダテではありませんでした。握っただけで指のサイズが分かっちゃうなんて凄すぎます。それとも心を読んで知ったのでしょうか?なんにしても最高の殺し文句だ、と呆れながらも感心していると、教室の扉がガラリと開いて…。
「諸君、おはよう。そして、あけましておめでとう」
グレイブ先生の登場です。
「やはりブルーが来ていたか。…ぶるぅもいるとは最悪だな」
新年早々、苦虫を噛み潰したような顔でグレイブ先生が言いました。
「…仕方ないか…。男は諦めが肝心だ。さあ、始業式会場について来たまえ」
そういえば会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は何をするために来たんでしょう?机が置いてあるということは1年A組に在籍中、という意味です。始業式の日に在籍したって、何もないように思うんですが…。もしかして、アレと関係あるのかな?一昨日、学校からメールが来たんです。そこにはこう書いてありました。
「始業式の日に持参するもの。これだ、と思う食品を1つ。加工の有無は特に問わない」
なんとも妙なお知らせですよね。

始業式は校長先生の退屈なお話と、卒業を控えた3年生への訓示でした。私たち特例卒業組には意味の無さそうな訓示です。だって大学に行くわけじゃないし、進路も全然決まってないし…。まぁいいか、と欠伸をしている内に始業式は終了でした。あれ?教室に戻るんじゃないのかな?…教頭先生がマイクを持っています。
「諸君、これから新年恒例、クラス対抗お雑煮食べ比べ大会を開催する」
「「「えぇぇっ!?」」」
お雑煮食べ比べ大会ですって!?…クラス対抗と言われた瞬間、会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が来ていた理由が分かりました。1年A組を学年1位にしようと現れたのに違いありません。教頭先生は咳払いをして大会の説明を始めます。
「クラス対抗と言ったが、最終的には全学年の中から男女別に1位を選ぶことになる。そして1位を取ったクラスにはちょっとしたお楽しみがあるというわけだ。お雑煮食べ比べ大会だからな、一番沢山食べた生徒が在籍しているクラスに1位の栄誉が与えられる」
おぉぉっ、と会場がどよめきました。食べ比べ大会の会場は体育館だというので全学年でゾロゾロと移動。広いフロアに湯気がたちこめ、白味噌の甘い匂いが漂っています。テーブルが沢山並べられていて、ブラウ先生が司会役でした。
「じゃあ、大会のルールを説明しよう。全員が一度に食べるわけにはいかないからね、1学年ごとに食べ比べだ。すまし汁だと量が入りやすくて面白くないし、白味噌でトロッと甘めに仕立ててある。お餅も焼餅じゃなくて茹でて柔らかくしてあるよ。ちょっとヘビーなお雑煮なのさ」
う~ん、確かに重たそうです。白味噌仕立てのお雑煮は一度食べたことがありますけれど、何杯もお代わりするには不向きなシロモノだったような…。
「いいかい、制限時間は二十分。その間に何杯食べたかで競うんだ。教頭先生も言ってたように、一番沢山食べた生徒が所属するクラスが1位になる。さあ、1年生から始めるよ。クラス別にテーブルに行っとくれ」
私たちは指定されたテーブルの横に立ちました。椅子は無いので立ち食いです。A組の男子には会長さん、女子のテーブルには「そるじゃぁ・ぶるぅ」が混じっていますが、大丈夫かな?「そるじゃぁ・ぶるぅ」の胃袋は桁外れですから平気でしょうけど、会長さんは人並みの量しか食べられないような気がします。テーブルの間には大きな鍋とお碗を詰め込んだ大きな籠が置かれ、割烹着を着た職員さんがおたまを手にしてスタンバイ。
「みんな、お碗とお箸は行き渡ったかい?…準備はいいね。それじゃ、はじめっ!!」
最初の1杯はテーブルに用意されていました。柔らかいお餅が1個とたっぷりの甘い白味噌汁。1杯で十分に満腹感が広がります。でも、頑張って食べなくちゃ!お碗が空になった途端に、職員さんが新しいお碗にお雑煮を入れてくれるんですもの。2杯、3杯…と空のお碗を自分の前に積み上げたものの、さすがに苦しくなってきた頃、ブラウ先生がマイク片手に。
「ペースが落ちてきているねぇ。ギブアップするなら、お碗に蓋をすればいい。蓋はテーブルの真ん中にあるよ」
なるほど。テーブルの中央に置かれた籠にお碗の蓋が入っていました。何に使うのかと見てましたけど、ギブアップの合図にするんですね。…もうダメ、蓋をしちゃおうっと。あっちこっちで蓋をしている人がいます。まだ食べ続けている人もいますが、お碗の数は十個に届いてないみたい。そんな中で山のように空のお碗を積み上げていたのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」と会長さん。
「す、凄い…」
「いったい何杯食ってるんだ?」
A組だけでなく他のクラスや学年の人まで二人に注目していました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大きな口を開けて流し込むように食べていますし、会長さんはごく上品な物腰ながら…凄い勢いで食べてゆきます。会長さん、お腹が苦しくならないのかな?
『平気だよ』
笑いを含んだ会長さんの声が頭の中に響きました。
『食べてるように見えるだろうけど、サイオニック・ドリームの応用。本当はぶるぅのお碗に転送してる。ぶるぅはぼくの分まで食べてるんだよ』
恐るべし、会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」。二人は制限時間いっぱい食べまくった挙句、凄い量のお碗を積み上げました。1年A組は男子も女子も文句なしの学年1位です。二人の記録は上の学年にも破ることが出来ず、私たちのクラスは男女とも学園1位の座を見事に射止めたのでした。1位のクラスには「ちょっとしたお楽しみがある」って教頭先生が言ってましたけど、何なのでしょうね?あ、ブラウ先生が出てきました。
「学園1位は1年A組で決まりだね。これから会場はグランドに移る。みんなそっちに移動だけども、1年A組の生徒は一度教室に戻って、学校から指示されていた食べ物を取って来ておくれ」
え?…今日持ってきたアレですか?私たちは顔を見合わせながら校舎の方へ向かいました。

「スウェナは何を持ってきたのさ?」
尋ねているのは激辛ポテトチップスの袋を持ったジョミー君。スウェナちゃんの手には何かの瓶。
「イカの塩辛。…お歳暮で貰ったんだけど、うちでは誰も食べないから…」
ああ、そういうモノってありますよねぇ。私は平凡にお饅頭です。
「俺もお歳暮の残りなんだ」
キース君は辛子明太子を持っていました。マツカ君は白トリュフ。「今が旬なんです」と世界三大珍味の黒トリュフの上を行く高級食材を生で丸ごと持って来るあたり、「ぼっちゃま」は格が違います。
「でも、こんなもの、何にするのかしら?」
スウェナちゃんの視線の先では会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が怪しげなモノを手にしていました。『くさや』の文字が躍った真空パックは明らかに『くさやの干物』でしたし、トゲトゲがいっぱいついているのは『悪魔の果物』ドリアンでは…。どちらも悪臭で名前を知られた食品です。嫌な予感がするのを押さえてグランドに行くと、ブラウ先生が待ちかねたように。
「さあ、A組のお出ましだよ!…男子と女子と、それぞれ1人ずつ先生を指名しておくれ。お楽しみイベントに必須だからね」
あ。こんなの、前にありました。球技大会で学園1位を勝ち取った時、会長さんが教頭先生を指名して…。もしかしなくても、今回も?…恐る恐る会長さんを見ると、赤い瞳が悪戯っぽく煌いています。
「指名権、ぼくとぶるぅにくれるかな?」
A組一同に否はありません。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」がお雑煮を食べまくってくれなかったら、学園1位は不可能でしたし。会長さんはニッコリと笑い、教頭先生を指差しました。
「…A組男子は教頭先生を指名させて頂くよ。…ぶるぅは?」
「ゼル!…ぼくはゼルがいいな♪」
大はしゃぎで指名する「そるじゃぁ・ぶるぅ」。ブラウ先生がククッと笑って。
「オッケー、ハーレイとゼルに決まりだね。あとは…1年A組の担任か。グレイブ、覚悟はできてんだろ?あんた、1位が大好きだしね」
え。覚悟?…球技大会でグレイブ先生と教頭先生を『お礼参り』と称するドッジボールでボコボコにした1年A組ですが、また恐ろしいイベントが待っているとか?…でも…お雑煮食べ比べ大会だったんですし…。グランドの中央に据えられた大きなお鍋が気になりますけど、まさか釜茹でにはしませんよねぇ?
「それじゃ1年A組の健闘を讃えて…」
ブラウ先生が声を張り上げました。
「新年恒例、闇鍋開始!…1年A組の生徒は、持ってきた食べ物をお鍋の中に入れるんだよ。食べるのはグレイブとハーレイ、それにゼルだ。三人ともがギブアップしたら、1年A組の生徒全員にお年玉として食堂の無料パスを1週間分あげちゃおう!!」
ひえぇぇ!…や、闇鍋って…しかも先生が食べるですって!?会長さんがドリアンとくさやを用意したわけが分かりました。教頭先生を指名したのも納得です。ゼル先生は…巻き添えかな?
『違うよ。ゼルはハーレイの飲み友達だから敬意を表しただけなんだけど』
思念波で私にそう返事して、会長さんはくさやの干物をお鍋に入れに行きました。続いて「そるじゃぁ・ぶるぅ」がドリアンを丸ごとドボンと入れて…。二人に触発されたA組のみんながお鍋に次々と食べ物を投げ込み、私たちもお饅頭をお鍋の中へ。お味噌の匂いをさせていたお鍋は異様なものになってしまって、グランド中に漂う悪臭は半端ではありませんでした。
「闇鍋はお碗に1杯ずつ食べて貰うからね。食べ切れなければギブアップだ。…ただし、一口も食べずにギブアップは認められないよ?それがシャングリラ学園の闇鍋ルールだ。最低、3口。ここは教師の意地を見せなくちゃ。もしも誰かが3口も食べずに逃げ出したなら、その分は残った者が責任を持って食べること。覚悟はいいかい?」
ブラウ先生の声に追い立てられるように、三人の先生方がお鍋の周りに座ります。目隠しをされておたまを持たされ、自分で闇鍋を掬わされて…お碗の中へ。何を掬うかは自己責任ってわけですね。ブラウ先生の合図で目隠しを取ったグレイブ先生たちの顔は真っ青。お碗の中身はさぞかし凄いものなのでしょう。教頭先生がお碗に口をつけ、果敢に挑戦しましたが…。
「うぅっ…!!」
たった一口含んだだけで、教頭先生は口を押さえて校舎の方へ走り出します。会長さんがサッと飛び出して行く手を塞ぎ、赤い瞳を燃え上がらせて。
「最低3口。…あと2口も残ってる。一口だけで逃げ出すなんて…最低だね。武道家のプライドは無いのかい、ハーレイ」
努力しない男は嫌いだよ、と冷たい言葉を投げつけられた教頭先生は逃げ場を失くし、お鍋の所に戻りました。その間にグレイブ先生とゼル先生が一口だけで逃げて行ったのですけど、そっちは誰も制止しません。教頭先生は逃げた二人のノルマも含めて、闇鍋を残り6口分も食べる羽目に…。

教頭先生は自分のお碗から2口食べて、グレイブ先生とゼル先生が残して逃げたお碗からも2口ずつ飲むと、まりぃ先生が差し出したペットボトルの水をガブ飲みしてから、その場にへたり込みました。1杯分も食べきるなんて不可能だ、と片手を上げてギブアップです。1年A組、お年玉ゲット!他の生徒たちも歓声を上げて騒いでますけど、初めて目にした闇鍋の凄さにちょっと心が痛むような…。お饅頭じゃなくて普通のお餅にすべきでした。
「いいじゃないか。毎年とても盛り上がるんだよ」
そう言ったのは会長さん。
「一度参加してみたかったんだ。でも始業式の行事だからね、馴染みのクラスが無いと難しいから諦めてた。ほら、ぼくには決まったクラスが無いんだし。1年A組のみんなのお蔭で初めて闇鍋が出来て感激だな。…みんな、三学期も宜しくね」
もちろんです!と叫ぶ1年A組生徒一同。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」、二人がいれば1年A組は無敵です。先生方からのお年玉も貰いましたし、三学期も幸先よさそうですよ。しかし、闇鍋をやってみたかったという会長さん。くさやとドリアンは明らかに教頭先生だけを狙った食品テロというヤツでしょう。あの二つさえ入ってなければ、匂いは少しはマシだったかも…。




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