シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
楽しかった夏休みも終わり、今日から新学期の始まりです。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋目当てに学校に通うのは苦になりませんでしたけど、新学期となると憂鬱かも。また退屈な授業を聞いたりしなくちゃいけませんし…って、学生の本分は勉強でしたっけ。全科目で満点を取れる生徒会長さんは相当勉強したのでしょう。ちょっとくらいは見習わないといけないかな?
「あ~あ、とうとう新学期だよ。次は冬休みまで勉強かぁ…」
「ジョミー、お前は部活もしてないだろうが!勉強くらいしてみたらどうだ」
ジョミー君とキース君の言い争いを聞いている内にグレイブ先生が入ってきました。会長さんは今日はA組には来ないようです。
「諸君、おはよう。長い休み中、特に問題もなかったようで嬉しく思う。…納涼お化け大会で見た顔もいるが、そうでない者もかなりいるな。一学期は新入生気分が抜けない者もいたかもしれん。しかし二学期からはしっかり頑張るように」
「「「はーい!」」」
みんな返事だけは元気一杯です。なにしろ1年A組には生徒会長さんという無敵の助っ人がついてるので、頑張らなくても楽勝、楽勝。えっ、期末テストで全員満点だったのはグレイブ先生のバンジージャンプのお蔭だろう、って?…あれは会長さんの遊び心だと思います。もしも先生が飛ばなくっても満点は取れたんじゃないでしょうか~。
「とにかく、まずは始業式だ。校長先生のお話がある」
グレイブ先生に連れられて行った会場で校長先生の長いお話を聞いて、教頭先生から二学期の行事の説明を聞いて…。教頭先生はスーツでしたが、どうしても頭に浮かんでくるのは夏休みに見たトンデモなもの。パレオに赤と青のベビードールに…。あのビッグサイズのベビードールはどうなったかな?
『紅白縞も忘れないで』
頭の中でいきなり声がしました。えっ、とキョロキョロ見回してみると、ジョミー君と目が合って…更にキース君、マツカ君、スウェナちゃんとも視線が合って。
「…今、誰かが紅白縞って言った?」
ジョミー君が小声で尋ねてきます。頷くとジョミー君がキース君をつつき、キース君がマツカ君をつつき…。どうやら私たち5人は同じ声を聞いたようでした。紅白縞ってやっぱりアレでしょうか?始業式が済んで教室に戻る途中でコソコソ集まり、謎の声について話していると。
「かみお~ん♪」
いきなり「そるじゃぁ・ぶるぅ」が現れ、ニコニコと話しかけてきました。
「ブルーのメッセージ、ちゃんと聞こえた?」
「「「紅白縞!?」」」
「うん。ちゃんと聞こえていたんだね」
嬉しそうに頷く「そるじゃぁ・ぶるぅ」。そこへ叫び声を聞いてしまったクラスメイトが「紅白縞」とは何のことか、と一斉に尋ねてきたので会話はしばらく中断です。いくらなんでも教頭先生のトランクスだとは言えません。どうしようかと焦っているとキース君がアッサリと。
「学園祭で使う幕の話だ。紅白縞だと言われたんでな、ちょっと定番すぎないか…と」
ああ、なるほど…とクラスメイトたちは納得して去って行きました。せっかくの学園祭ともなれば、紅白縞の幕の他にもあれこれ検討してみたい…と思う気持ちはありがちです。
「凄いや、キース!よく咄嗟にあんな言い訳、思いついたね」
「紅白にはあまり縁が無いんだが、白黒ならイヤというほど馴染みがある」
ジョミー君の賛辞にキース君はニコリともせずに答えました。そういえばキース君の家はお寺でしたっけ。白黒の幕はお葬式には欠かせません。…ん?白黒縞っていうのも何処かで聞いたような…?
「ブルーがハーレイにお揃いだよって言ってるヤツだよ」
即答したのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ハーレイに赤と白の縞をプレゼントする時、ブルーのは白と黒の縞だってチラつかせてさ。…お揃いだよ、って騙してるんだ。ブルー、いっぺんも履いたことなんか無いんだけどね」
そういえば高原の別荘で会長さんがそんな話をしてましたっけ。教頭先生がまんまと騙されて赤と白の縞々トランクスを後生大事に履いてる…って。紅白縞と白黒縞。なかなかに派手なチョイスです。
「…今の今まで思わなかったが、もしかしてその選択は…祝儀と不祝儀のネタでやってるんじゃあないだろうな?」
キース君の目が険しく細められました。あ。紅白はおめでたいけど、白黒は…。
「しゅうぎ?…ぶしゅうぎ?…それっていったい、どういう意味?」
キョトンとしている「そるじゃぁ・ぶるぅ」にキース君は苦笑しながら説明します。
「祝い事とその反対。水引とか幕とか、そういう物の色を知ってるか?めでたい時には紅白を使うが、葬式には白と黒なんだ」
「あ、そういうのなら知ってるよ!ブルー、そのこと話してた。色の意味に気付かないなんてハーレイは凄くおめでたい、って」
えっと。…教頭先生の紅白はおめでたいかもしれませんけど、会長さんの白黒縞は全然おめでたくないですよねえ。それに気付かないのがおめでたいってことでしょうか…?
「そうだけど。だからブルーが笑うんだ。おめでたい色とそうでない色をセットにするなんて縁起でもないし、ブルーの方がお葬式の色になってて不吉なのにさ。ブルーのことばかり考えてるくせに、なんでそこまで気が回らないかな、ってブルーはいつも呆れてるんだ」
「確かに紅白と白黒をセットで出されりゃ、人によっては気がつくかもな」
「…トランクス限定なら気付かないかもしれませんけど…」
キース君とマツカ君が言うと「そるじゃぁ・ぶるぅ」はそうかもね、と頷きました。
「でも、ブルー、ハーレイが気付かないのはデリカシー…だっけ?それに欠けてるからだって言ってるよ。でね、ぼく、これからトランクスを買いに行くんだ」
へ?と驚いた私たちに「そるじゃぁ・ぶるぅ」はエヘンと胸を張りました。
「ハーレイの紅白縞はブルーが最初は冗談でプレゼントしたんだけれど、ハーレイ、凄く気に入っちゃって。とても大事に履いているから、新学期の度に新しいのをプレゼントして感激させるのがブルーの趣味」
「…新学期の度に1枚なわけ?…いつ見ても紅白縞だけど」
ジョミー君が尋ねたくなるのも、もっともです。あんなにしょっちゅう履いているとなると、かなりくたびれそうなんですけど…。
「えっとね、洗い替え用も入れて一度に5枚」
5枚!…柔道部で汗を流している教頭先生にこの枚数は妥当かどうか…ちょっと見当がつきません。そりゃ、他にもトランクスは沢山持っているでしょうけど、1学期ごとに5枚だと…かなり大事に履いてるのかな?
「お洗濯は手洗いだよ」
「「「手洗い!?」」」
「うん。おしゃれ着用洗剤で手洗いしてから陰干ししてる。たまにパリッと糊付けすることもあるけどね」
ひゃあああ!たかがトランクスを洗うのにそこまで…。しかもあの教頭先生が!?
「ホントに大切にしてるんだよ。古くなったヤツも捨てられなくて、ほどいて幾つも縫い合わせて…抱き枕のカバーにしてるんだけど」
「「「抱き枕!!?」」」
「うん。あれって寝相がよくなる…んだっけ?ぼくにはあんまり関係ないね」
危ない妄想が思い浮かんだ私たちと違って「そるじゃぁ・ぶるぅ」は純粋でした。土鍋で丸くなるのに抱き枕なんか邪魔なだけだし、と子供らしいことを言っています。しかし、教頭先生が…会長さんに貰ったトランクスのお古で手作りカバーの抱き枕とは。これは相当に危ない趣味の持ち主に違いありません。会長さん、いつも教頭先生で遊んでますけど、あんなことしてて大丈夫かなぁ?
「平気だよ。ブルーはタイプ・ブルーだからね」
「「「タイプ・ブルー!!!?」」」
それは納涼お化け大会の後で耳にした単語。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のことだとばかり思ってましたが、会長さんもタイプ・ブルー?…タイプ・ブルーっていったい何?
「あっ、いけないっ…。えとえと、今の、取り消しだから。っていうか、教えられないから!」
わたわたと両手を振り回しながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」はそう言って。
「じゃあ、ぼく、トランクスを買いに行くから。また後でね~!」
クルン、と宙返りをしたと思ったら姿は消え失せてしまっていました。
逃げられたか、とキース君が呟き、私たちは諦めて教室へ。そこで私たちを待っていたのは…。
「ホームルームを忘れたのか?…夏休みボケが酷いようだな」
グレイブ先生が教卓の前でイライラと歩き回っています。
「宿題免除の特権を持っているからといって、いつまで遊び呆けるつもりだ。宿題の提出時間はとっくに終わってしまったぞ。…同じ宿題免除とはいえ、アルトとrは素晴らしい。他の連中に遅れることなく教室に戻って座っている。さすがは数学同好会だ。私が見込んだ生徒に間違いは無い」
あちゃ~…。紅白縞のトランクスのせいでホームルームを忘れていました。教頭先生も罪作りです…って、この場合は変なメッセージを送って寄越した会長さんと、お使いに行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」を恨むべきでしょうか?グレイブ先生は思い切りご機嫌斜めで、私たちは一人ずつ前に出て反省の言葉を言わされた上、掃除当番をすることに。
「始業式の日は掃除はしなくていいのだがな、お前たちの弛んだ精神を叩き直すにはもってこいだ」
終礼が済んでみんなが帰って行く中、私たち5人は机を全部どけて床を掃除し、机の上も綺麗に拭いて…。グレイブ先生はコツコツと教室中を歩き回りながらお掃除チェックをしています。
「その隅にホコリが残っているな。…ああ、机はキッチリ並べるように。勉学はきちんと整えられた教室ですることに意義がある」
あれこれ注意されながら掃除を終えてグレイブ先生が出て行った後、入れ替わるように入ってきたのはサム君とシロエ君でした。今まで廊下でじっと待ってくれていたみたいです。
「先輩らしくありませんね。居残りだなんて、どうしたんですか?」
シロエ君の問いにキース君は額を押さえて「紅白縞だ」と答えました。サム君とシロエ君は顔を見合わせてアッと声を上げ、殆ど同時に。
「あれ、空耳じゃなかったのかよ!」
「会長のメッセージだったんですか!?」
どうやら二人はメッセージの意味に全く気付かず、「そるじゃぁ・ぶるぅ」にも会わなかったので平和に過ごしていたようです。私たちは紅白縞のトランクスにまつわる怖い実話を二人に聞かせ、お使いに行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」のことも話してしまいました。でも、話さなかったことが一つだけ。正確には忘れていたんですけど、「タイプ・ブルー」という言葉です。…あれってどういう意味なのかな?スパイのコードネームみたいで、ちょっと響きがいいですよねぇ?