シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
ついこの間、想定外の教頭先生の艶姿を見せられてしまった私たち。もうこれ以上、会長さんの悪戯に巻き込まれるのは御免です。でも…やっぱり来てしまうんですよね、影の生徒会室に。夏休みももうすぐ終わりですけど、明日は『納涼お化け大会』なる肝試し大会があるのだとか。自由参加ということなので、どうしたものかと相談中。
「毎年、リタイヤが多いらしいけど…。そんなに怖いものなのかな?」
ジョミー君は乗り気でした。夏休み前に噂を聞いて楽しみにしていたみたいです。
「怖いらしいぜ。明らかに仕込みって分かるヤツの他に、ヤバイのが紛れ込むとかなんとか…」
サム君が肩を竦めると、スウェナちゃんが。
「あ、その話、私も聞いたわ。…予定にない場所に出るそうよ。白い着物の女の人とか、仕掛けが分からない人魂だとか」
「それって、ぶるぅとか会長さんなら出来そうですよね」
そう言ったのはシロエ君。確かに会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の力なら謎の仕掛けが出来そうです。でも「そるじゃぁ・ぶるぅ」は首を左右に振りました。
「ぼく、そんなことしてないよ!…夜のお墓って怖いもの。お化け大会なんか行かないもん!…ブルーも何もやっていないよ」
納涼お化け大会の開催場所は学校から近い墓地でした。広いお寺の境内にあって、大木が周りを囲んでいるせいか昼でも気味の悪い場所です。男子寮の生徒が新入生歓迎の肝試しをすることで有名ですが、この肝試しがまたいわくつきで…。
「たまに神隠しがあるそうだな。…美形の新入生が消えてしまって、戻ってきた時には魂が抜けたように惚けているか、記憶が無いかのどちらからしい」
キース君の言葉にジョミー君が首を捻りました。
「そうだっけ?…ぼくが聞いた話じゃ、美形に限らないみたいだよ。ものすごく幸せそうな顔して、寮の物置で素っ裸で寝てるのを発見された人がいるんだってさ」
「「「素っ裸!?」」」
「うん」
素っ頓狂な声を上げた私たちにジョミー君は頷いて。
「狸か狐が化かすんだろう、って言ってたなぁ。素っ裸で寝てたって人、一晩中、凄い美形と…」
そこまで言ってジョミー君は真っ赤になりました。なるほど、一晩中、凄い美形とあ~んなことや、こ~んなことをしていたというわけですね。…ん?まさか、もしかして、その美形というのは…。
「呼んだかい?」
ヒョイ、と現れた会長さんに私たちはサーッと青ざめました。みんな同じことを考えていたみたいです。
「ふぅん、男子寮の肝試しか。神隠しのことなら知っているよ。…手癖の悪い寮生がいてね、可愛い子が来ると攫っちゃうんだ。上手いこと口説き落とせたら部屋に連れ込んで、失敗したら記憶を消す。それが真相なんだけど」
「……ひょっとして、あんた……」
キース君が会長さんを睨みましたが、会長さんはクスッと笑って。
「寮生だって言ったろう?…ぼくは寮には入ってないよ。それに男の子は趣味じゃない。寮生の中にも百年以上在籍している生徒が何人かいて、犯人はその中にいるんだけれど…特に問題にはなっていないね。…そうそう、ジョミーの話の美形っていうのも百年以上在籍してる。そっちは襲う方じゃなくって誘惑するのが得意技さ」
男子寮ってとんでもない所みたいです。無法地帯ではないんでしょうけど、かなり乱れているみたい。そういえば…アルトちゃんとrちゃんも寮に入ってるんでしたっけ。女子寮の方は大丈夫かな?
「ああ、女子寮は安全だよ。警備も厳重だし、男子禁制。…その分、忍び込むのはスリルがあって楽しいね」
ひゃあああ!い、言っちゃった…。呆然とする私とスウェナちゃんの前で会長さんは余裕の笑みです。
「アルトさんとrさんの寝顔、とても可愛くて素敵だったな。二人とも手紙をくれたんだけど、まだ寮に帰ってきていなくって。納涼お化け大会は欠席します、と書いてあったよ」
寝顔!?…会長さんがアルトちゃんとrちゃんの寝顔を見たということは…。ジョミー君たちも愕然とした顔で会長さんを見ていました。どうしよう、アルトちゃんとrちゃん…お守りを使っちゃったんだ!
「そんなに心配しなくてもいいよ。まりぃ先生と同じで、夢以上のことはしていないから」
「うん、大丈夫!ブルーはお料理して食べるんじゃない、ってアルトが言った!」
無邪気な「そるじゃぁ・ぶるぅ」が叫んだ言葉で、私たちはテーブルに突っ伏しました。つまり、アルトちゃんもrちゃんも、会長さんに食べられちゃったというわけで…。
「あんた、嘘をついているだろう」
一番先に復活したのは、やっぱりキース君でした。
「夢以上のことはしてないだなんて…どこまで本当か分かるものか。寝顔を見たって言うんだからな」
「…夢を見せたら眠るものだよ。寝顔を堪能するのもいいものだけどね」
「寝顔だけ見て帰るのか!?」
「そうだけど。…あ、そうか。据え膳食わぬはナントカ…ってこと?あいにく、ぼくはそんなに飢えてないから」
会長さんは軽く片目をつぶって見せました。
「ぼくに気がある女の子にいい夢を見せて、幸せそうな寝顔を見る。これだけで十分なんだよねえ。そこまで想ってくれる女の子がいるって素敵じゃないか。もちろん、ちゃんとフォローもするし」
絵葉書も出しておいたんだよ、と会長さん。更に続けて…。
「アルトさんもrさんも素敵な所に住んでいるんだ。観光案内もしてもらったし、お礼にちゃんと御馳走してきた。君たちと行った旅行も楽しかったけど、一人で旅に出るのもいいね」
うわわわ…。会長さん、帰省先まで行っちゃったんだ!アバンチュールがどうとか言ってましたけど、まさか旅先でも例のお守りを…?
「旅先でどう過ごしていたかは、ご想像にお任せするよ。…そんなことより、納涼お化け大会はどうするんだい?その話をしていたように思ったけれど」
そういえば、すっかり忘れていました。参加するかどうかを検討していて話がズレたんでしたっけ。私たちは最初に戻って話し合った結果、参加することに決めたのでした。
「や、やっぱりやめておこうかしら…」
その夜、会場の墓地の入り口で順番待ちをしながらスウェナちゃんが呟きました。真っ暗な木立の中でフクロウがホー、ホー、と気味悪い声で鳴いています。気のせいか風も生暖かいような…。肝試しのコースは墓地を回ってくるだけですが、途中で監視役を兼ねて立っている先生方からスタンプを貰わなくてはなりません。それが揃わなければリタイヤです。あ、また誰か戻ってきましたが…。
「スタンプ2個か」
ブラウ先生が3人グループの男子のカードをチェックし、ダメだねぇ、と笑っています。
「半分も回れていないじゃないか。1回だけならリベンジできる。チャレンジするなら一番後ろに並び直しな」
「…い、いえ…!もういいです!」
「っていうか、本当に出るみたいなんですけど!…これって事前にお祓いとか…」
ガタガタと震え始めた男子生徒たちの顔は真っ青になっていました。
「お祓い?…ああ、一応、頼んでおいたけどねぇ。何かっていうと芸者をあげて宴会ばかりの坊さんたちに法力とかが期待できると思うかい?」
「や、やっぱり…。し、失礼します~!!」
男子グループは凄い勢いで逃げていきます。あ、転んじゃった。転んだ人を見捨てて走り去るなんて、よほど怖い体験をしてきたに違いありません。わ、私もやめたくなってきたかも…。
「おっ!もう俺たちの番みたいだぜ。リタイヤ多いから早かったよな」
「うん、あまり待たされなくて助かったよね」
ジョミー君とサム君がカードを貰って墓地に入っていきました。しばらくするとキース君たち柔道部三人組がカードを貰って出発です。ど、どうしよう…。スウェナちゃんと私は次なんですが、「風紀が乱れるから男女は別グループ」なんて決まりのせいで、心強い男の子たちもいませんし…。
「や、やめちゃおっか…」
ギャーッという悲鳴が墓地の奥から響いてきます。ジョミー君たちより先に出発した男子グループがスタンプ3個でリタイヤしてきたのを見て、スウェナちゃんと私がやめようと決心をした時のこと。
「おやおや。…せっかくだから行けばいいのに」
悠然と現れたのは浴衣姿の会長さん。右手に団扇、左手で浴衣を着た「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手を引いています。
「用心棒に貸してあげようと思ってね。ぶるぅは子供だし、グループに入れても大丈夫だよ。…ねえ、ブラウ先生?」
「そうだねぇ。あんたなら許可できないけども、ぶるぅは女子に混ぜてもいいよ」
「じゃ、そういうことで。…ぶるぅ、そんなに怖くないから。スウェナもみゆもいるんだしね」
え。怖くない?…よく見てみると「そるじゃぁ・ぶるぅ」は元気がありませんでした。帰りたい、と顔に書いてあります。ひょっとして用心棒はスウェナちゃんと私の方ですか!?
「うん、まあ…そんなところかな。でも怖がってるだけで役には立つから。騙されたと思って連れてってごらん」
「で、でも…私たちも棄権しようかなって…」
「かわいそうだわ、私たちでも怖いのに」
そこへブラウ先生がカードを取り出し、私たちの首から紐でぶら下げてくれました。
「さあ、行った、行った。早く行かないと後がつかえるよ!」
ドン、と背中を押されて踏み込んだ先は墓地の中。会長さんが「バイバイ」と手を振っています。こうなったらもう行くしかないか、と私たちは歩き始めました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はスウェナちゃんと私の間でしっかりと手を繋いでもらって歩いていますが、本当に役に立つんでしょうか…。
「あ、あそこ…。し、白いものが…」
スウェナちゃんが指差したのと、私たちの足を濡れたモノがスーッと擦ったのは同時でした。
「ひぃぃぃぃっ!!!」
ぬるりとした物体が引き摺るような音をさせて、私たちの足元から墓石の方へ。コンニャクとかではありません。猫なんかより遥かに大きい濡れた何かがズルズルと…。恐怖のあまり声も出なくなった私とスウェナちゃんの間から「そるじゃぁ・ぶるぅ」が飛び出していって墓石の裏に回りました。
「わぁい、やっぱりゴマちゃんだぁ!」
歓声を上げて抱えてきたのは、まりぃ先生のペットのゴマフアザラシ。役に立つかも、「そるじゃぁ・ぶるぅ」。スウェナちゃんが見つけた「白いもの」の正体は白衣のまりぃ先生でした。
「はい、1個目のスタンプね。ここから先は手ごわいわよぉ♪」
スタンプを押して貰う間に聞こえた悲鳴はジョミー君だった気がします。その後は仕掛けが本格的になってきました。井戸の蓋が開いて白い影が這い出してきたり、血まみれの女性が立っていたり。怖がって震え始めた「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手を引っ張ったスウェナちゃんと私は勢いだけで進み、エラ先生に2個目のスタンプを貰い、シド先生に3個目のスタンプを貰って…。
「ここでちょうど半分だよ。女の子でここまで来たグループは今年は無いね」
ちょっと気をよくした時です。先の方でキース君たちの凄い悲鳴が聞こえて、シド先生が。
「あの声じゃリタイヤ確実だな。…ところで君たち、リタイヤする方法は知っているのかい?」
いいえ、と首を振ると先生は「カードを裏返しにすればいいんだよ」と親切に教えてくれました。
「この先は怖くなる一方だから、もうダメだと思ったら裏返しにするといい。そしたら誰も脅かさないしね。本当は絶叫して逃げるまで放置だけども、君たちは女の子なのに頑張ってるし…」
特別だよ、と奥の手を教えて貰って心強い気分です。いざとなったら首から下げたカードを裏返しにして歩いて帰ればいいんですから。仕掛けはどんどん手が込んできて、本物にしか見えないお化けや幽霊があちらこちらに潜んでいます。百鬼夜行とはこのことかも、と思いつつ「そるじゃぁ・ぶるぅ」を引っ張りながら進んでいくとグレイブ先生が4個目のスタンプを押してくれました。残りのスタンプは2個らしいです。
「その先でキースたちがリタイヤしたぞ。ジョミーたちもな」
グレイブ先生はわざわざ怖がらせるようなことを言ってクルリと背中を向けました。シド先生とは大違いです。紳士じゃないわね、と陰口を叩きつつ墓石の間を歩いていると…。
「きゃあああ!!!」
いきなり足首をガシッと掴まれ、続いて肩も。強い力が地面の中に引きずり込もうとしています。スウェナちゃんも「そるじゃぁ・ぶるぅ」も無数の白い手に掴まれてもがいていますが、これって…これって、本当に仕掛け!?地面が沼に変わったみたいに身体が沈んでいくなんて…。
「いやぁぁぁ!!!」
ママ助けて!と叫びそうになった瞬間、迸ったのは青い閃光。
「ぼくに触るなーっっっ!!!」
絶叫する「そるじゃぁ・ぶるぅ」が放った青い光に飲まれるように白い手も沼も消えていきます。青い光は墓地中を照らし、それからゆっくり収まりました。も、もしかして…助かった…?
「酷いよ、ブルー!…だからイヤだって言ったのに。ぼくが怖がりだってこと、知ってるくせに!」
泣きじゃくっている「そるじゃぁ・ぶるぅ」を交代でおんぶしながら私たちは先を目指しました。あれ?ゼル先生が立っています。5個目のスタンプ、貰っちゃった。…えっと…何も出ないんですけど…。ただ墓石があるだけで…って、教頭先生?服はベビードールではありませんでした。ホッとしたような、残念なような。
「これでスタンプ6個目だ。この先はもう何もない。よく頑張ったな」
教頭先生から6個目のスタンプを貰った後は出口を目指して歩くだけ。「そるじゃぁ・ぶるぅ」も背中から降りて元気一杯に歩いています。肝試しをクリアしたってことを皆にアピールしたいのでしょう。墓地から出るとブラウ先生が賞品の手拭いとお菓子の詰まった袋をくれて、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は早速お菓子を食べ始めました。
今年の『納涼お化け大会』、クリアしたのは私たちの前に男子3組、私たちの後は殆どがクリア。この差は一体、何なのでしょう?ジョミー君やキース君たちはリタイヤ組に入っていました。とても恐ろしい思いをしたそうですが、クリアしてしまった私たちには何も話したくないそうです。
「ぶるぅが青く光ったのよ。そしたらお化けが出なくなったわ」
「ちぇっ、いいなあ…。絶対、何か秘密があるんだよ。みゆとスウェナが出てきた後に入ったグループ、誰もリタイヤしてないもの」
お化け大会の翌日、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋でジョミー君がブツブツ文句を言い始めると、会長さんがニッコリ笑いました。
「…ぶるぅはタイプ・ブルーだからね」
「「「え?」」」
聞き慣れない言葉に私たちは首を傾げましたが、会長さんは微笑んだだけ。
「今、言えるのはそれだけだよ。ぶるぅは仕掛けより強かったのさ。物事を知るのに急ぐ必要は無い。まだ2学期も3学期もある。…瞬間移動も体験したろう?あまり欲張らずにゆっくりと…ね」
慌てていると早く老けるよ、とウインクしている会長さん。三百歳を超えているというこの人のことも謎だらけです。ま、いいか…。きっと卒業する頃までには色々分かってくるんでしょう。夏休み、残りあと僅か。よ~し、遊んで遊びまくるぞ!
※rちゃんレポート
生徒会長さん、ホントに帰省先に遊びに来てくれました。
おいしい物を御馳走して下さって、観光案内出来て、ああ、楽しかったなあ...!