忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

校外学習・第3話

校外学習という名の遠足はすぐにやって来ました。お弁当を持って登校すると、大きなバスが何台も並んでいます。教室でグレイブ先生が出席を取り、欠席者は一人も無し。その代わり…。
「なんだ、お前は」
グレイブ先生の視線の先では、生徒会長さんの机に座った「そるじゃぁ・ぶるぅ」が足をブラブラさせていました。
「ぼく?…そるじゃぁ・ぶるぅ。知ってる筈だと思ったけど…ぼけちゃった?」
「シッ!言っちゃダメだよ」
そう言ったのは会長さんです。
「最近、生え際をずいぶん気にしてるようだから…ボケとかハゲは禁句なんだ」
「ふぅん…。そういえば今朝、カツラの広告が入っていたよ。残しておいてあげようかな」
「貴様ら!!!」
ブチ切れそうな顔でグレイブ先生が叫びました。
「誰がハゲだ、誰が!私の頭髪管理は完璧だ。1ミリたりとも後退させておらん。くだらんことを言うと置いていくぞ!」
「…じゃ、言わなければいいんだね」
会長さんが笑みを浮かべて。
「ぶるぅ、連れてってくれるってさ。よかったね。バスはぼくの隣に座るといいよ」
「うん!!!」
嬉しそうに頷いた「そるじゃぁ・ぶるぅ」。グレイブ先生はハメられたことに気付いて愕然としていましたが、今更どうにもなりません。1年A組のバスは「そるじゃぁ・ぶるぅ」と特製お弁当を載せて水族館へと出発しました。車内はワイワイとても賑やか。私の隣はスウェナちゃんで、通路を挟んでキース君とマツカ君。私たちの後ろにはアルトちゃんとrちゃんが座っています。rちゃんと通路を挟んだ隣にいるのはジョミー君。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は一番後ろの席でした。
「ねぇ、この間、ブルーと何を話してたの?」
ジョミー君がrちゃんに声をかけたのを聞いてスウェナちゃんと私は青ざめましたが、rちゃんが上手にごまかしたのでホッと安心。アルトちゃんとrちゃんはそのままジョミー君と楽しそうにおしゃべりしています。
「…アルトちゃんたち、あのお守りをどうしたのかしら?」
「使ってない…と思いたいな。だって、つい一昨日のことなんだし」
「そうよね…。いくらなんでもすぐに使うってこと、ないわよね…」
コソコソと声をひそめて話すスウェナちゃんと私。
「でも、一昨日だから二晩経つし…もしかしたら速攻で二人とも…」
「そ、それは…。確かに時間的にはそういうこともあるのよね…」
まさか、まさか…ね。アルトちゃんとrちゃんがもうお守りを使っていたら…ショックかも。更に追加のお守りをゲットしてたらもっとショックかも~!せっかく「そるじゃぁ・ぶるぅ」と文通をして、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に通って、会長さんとの距離を縮めてきたのに…思い切り先を越されるなんて…。

バスが水族館に到着すると、この後は自由行動です。私たちはC組のバスで来たサム君、シロエ君と合流し、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が見たがっているイルカショーの時間を確認していたのですが。
「あ、ちょっと待って」
会長さんが何処へ行くのかと思ったら…アルトちゃんとrちゃんが歩いています。ラッコの餌やりをやる場所へ向かおうとしているみたいですね。会長さんは二人を呼び止め、「そるじゃぁ・ぶるぅ」を手招きしました。トコトコと駆けていった「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大きな保冷バッグの中から小箱を二つ取り出すと、会長さんがそれをアルトちゃんとrちゃんに。二人はパァッと顔を輝かせ、何度もお辞儀しながら小箱を大事に抱えて嬉しそうに去っていったのです。
「待たせたね。じゃあ、スタジアムの方に行こうか」
戻ってきた会長さんに皆の質問が集中しました。アルトちゃんたちに何を渡したのか?一昨日のことと関係があるのか?
「あの子たち、ぼくに憧れていたらしいんだ。でも、なかなか話すチャンスが無かったらしい」
歩きながら会長さんが話し始めます。
「話してるだけで照れちゃって…可愛いかったよ。ファンだって言われると嬉しいじゃないか。だからお礼にお菓子をちょっと、ね。寮生だって言っていたから、今日のお弁当は君たちのお弁当みたいなママの味じゃない。つまらない食事の彩りになれば…と、ぶるぅ特製マカロン詰め合わせ」
「…あんた、本当に罪作りだな」
溜息をついたのはキース君。
「あいつら、思い切り舞い上がってたぜ?ほどほどにしておかないと、女ってのは…」
「先輩の言うとおりです!勝手に盛り上がっちゃって、振られたとか言って泣き出されたらどうするんですか?」
シロエ君の言葉にジョミー君とサム君が同意し、マツカ君も心配そうです。スウェナちゃんと私はお守りのことがあるので一層気がかりなんですが…。
「大丈夫、そうならないようフォローはするよ。お年寄りと女の子、それに子供は大切にしなきゃ」
「…まさか食ったりしないだろうな。まりぃ先生と違って相手は純情なクラスメイトだ。不祥事で退学なんてことになったら、俺はあんたを許さないぞ」
キース君の不穏な問いに会長さんはクスッと笑って。
「そんなことになったら、ハーレイが号泣しちゃうじゃないか。ぼくも退学になるんだよ?」
クスクスクス。おかしそうに笑う会長さんの袖を「そるじゃぁ・ぶるぅ」がツンツンと引っ張って言いました。
「食べちゃうって…なんのこと?ぼく、お料理は得意だけれど…ブルーの食事も作ってるけど…人間を料理するのは嫌だし、お断りだよ。どうしても食べたいんなら、ブルーが自分でお料理してね」
ぶぶっ。私たちは一斉に吹き出し、しばらく笑いが止まりませんでした。会長さんも笑いすぎて涙を浮かべています。
「違う、違う、ぼくだって人間は食べないよ。ぶるぅにはちょっと難しかったみたいだね」
「笑わないでよ!ぼく、子供だもん。1歳だもん!」
プゥッと頬をふくらませた「そるじゃぁ・ぶるぅ」はイルカショーのスタジアムに着くまで機嫌が直りませんでした。

見ごたえたっぷりのイルカショーの後、私たちは水族館の広い敷地を回って、いろんな魚やショーを見て…午後のイルカショーをまた見たいという「そるじゃぁ・ぶるぅ」とスタジアムの椅子に座ってランチタイム。特製マカロンの他にも美味しいおかずが保冷バッグから次々出てきて、大満足のひと時でした。イルカショーが始まるまでは…。
「ぶるぅ、またイルカと握手しに行くのかい?」
トレーナーさんが子供の参加者を募集し、勢いよく手を上げた「そるじゃぁ・ぶるぅ」はコクンと頷き、マントを外してプールの方に行きました。午前中のショーの時にはマントをつけていたんですけど、もしかして目立つから外したのかな?他の子供たちと一緒にステージに並んだ「そるじゃぁ・ぶるぅ」はイルカに二度目の餌やりをして、握手して…そこで退場の筈でした。ところが。
「かみお~ん!」
ザッパーン!!水しぶきが上がった次の瞬間、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はイルカプールの中でした。トレーナーさんたちが慌ててプールサイドに駆け寄り、スタジアムの観客が悲鳴を上げ、私たちが仰天している間に…「そるじゃぁ・ぶるぅ」はイルカたちと並んでスイスイ泳ぎ始めます。そう、トレーナーさんがしていたように。
「あらぁ、凄いわねぇ♪」
驚嘆の声と共に現れたのは、まりぃ先生。両手で抱っこできるサイズのゴマフアザラシをしっかりと抱え、イルカプールを見ていました。
「あ、この子?先生のペットのゴマちゃんなの。水族館だから連れて来たけど、この子ったら…泳げないのよねぇ。ほら、ゴマちゃん。ぶるぅちゃんはあんなに上手に泳いでるわよ?ちょっと見習ったらどうかしら?」
「キュッ~!キュッ、キュッ、キュッ~!!」
ゴマちゃんは大暴れして嫌がっています。泳げないアザラシなんて情けない気もしますけど…今、目を離せないのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。イルカたちとシンクロナイズド・スイミングを披露し、イルカの背に乗っかってプールを泳ぎ回り、トレーナーさんの出番を完全に奪ってスタジアム中の拍手喝采を浴びているんです。呆然としている私たちの前で「そるじゃぁ・ぶるぅ」はイルカと一緒に深く潜っていったかと思うと。
「かみお~ん♪」
雄叫びと共にイルカの鼻先に押し上げられて宙に飛び出し、クルリと回転して水中へ。このハイジャンプを3回も華麗に決めた後、尾びれでバイバイとするイルカたちの間で大きく何度も手を振ってから「そるじゃぁ・ぶるぅ」はプールサイドに上がりました。トレーナーさんたちの横をスタスタ通り過ぎ、満足しきった顔で戻ってきます。服は防水仕様になっているのか全く濡れていませんでした。
「叱られる前に逃げよう、もうすぐ集合時間になるから!」
会長さんが叫び、観客の拍手と歓声、カメラのフラッシュが取り囲む中、私たちは脱兎のごとくスタジアムを抜けて水族館の入り口に近い集合場所へ。うーん、なんとか…逃げ切れたかな?

「ぶるぅちゃんったら、ホントにオチャメねぇ♪」
あら。まりぃ先生とゴマちゃんも一緒に逃げてきてたんですか。
「でも水泳は上手いのね。ゴマちゃん、特訓してもらう?」
「キュッ、キュッ、キュッ~!!!」
ゴマちゃんの悲鳴が響き渡る中、向こうからやって来たのはアルトちゃんとrちゃんでした。まりぃ先生を見て顔を赤らめ、それから真っ赤な顔で会長さんに…。
「「あの、これっ!ご馳走様でした!!」」
ピョコンと頭を下げて「そるじゃぁ・ぶるぅ」特製マカロンの空き箱を返すと、集合場所から少し離れた木陰を目指して一目散に走っていきます。あの様子では、お守りは…まだ使ってないみたいですね。楽しかった校外学習もそろそろおしまい。先生たちが点呼を取って私たちはバスに乗り込みました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が起こした騒ぎのせいで叱られるかと思いましたけど、グレイブ先生は特に何も言わず、バスは順調に走っていきます。
「ねぇ、みゆ。…アルトちゃんたち、お守り、使ってないのよね」
スウェナちゃんがコソッと囁きました。
「うん。使ってたら、もっと違う展開になってそう」
コソコソと囁き返した私でしたが、お守りはいつか使われる日が来るのでしょうか?
『どうだろうね?…二人の気持ち次第かな』
頭の中に響いてきたのは会長さんの声でした。
『今日のぶるぅのイルカショー…叱られなかったのは何故だと思う?ぼくが水族館の人に偽の記憶を刷り込んだんだ。ぶるぅの乱入は予定にあったプログラムだ、と』
一番後ろの座席で会長さんが微笑んでいます。隣では「そるじゃぁ・ぶるぅ」が保冷バッグにもたれて眠っていました。
『嘘も極めれば本物になる。アルトさんたちがお守りを使う日が来ても…本当のことを言っちゃいけないよ。二人にとっては決して夢じゃないんだからね』
スウェナちゃんと私は顔を見合わせ、お守りがまだ使われていないことに安堵の息をついたのですが。後ろの席でウトウトしているアルトちゃんとrちゃん…。お守り、手放す気だけはないでしょうねぇ。バスの中は寝ている人が多くて静かです。アルトちゃんとrちゃんの校外学習を締めくくる夢、健全な中身だといいんですが…。




PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]