忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

デート大作戦  第3話

全身の筋肉痛に加えて疲労が激しく蓄積されたエロドクター。それでも夕食を終えると会長さんの肩にしっかり腕を回してスイートルームに引き上げてきました。その執念は流石としか…。私たちの食事はとっくに済んで、お皿もテーブルも片付いています。隣室の模様は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が中継をしていましたが…。
「…ブルー。お楽しみはこれからですよ」
エロドクターがニヤリと笑いました。
「まずはバスルームに行きましょうか。あなたもサッパリしたいでしょう? さあ」
そう言って会長さんの手を取り、バスルームへと促します。どうやら一緒に入るつもりのようで、会長さんの顔が引き攣りました。
「ちょ、ちょっと待って! お風呂なら一人で入れるから!」
「…あなたはそうかもしれませんがね。私は年寄りなんですよ。介助して下さって当然ではないかと思いますが…。背中を流したり、他にも色々」
年配者呼ばわりしたでしょう、と意地の悪い笑みを浮かべるドクター。
「それにバスルームはなかなか楽しい場所ですよ? バスタブの中で…というのも燃えるものです」
「…………。生憎、ぼくは初心者なんだ。慣れないことは御免蒙る。湯あたりするのも嫌だしね」
なんとか切り返した会長さんに、ドクターはチッと舌打ちをして。
「では、慣れてから…ということにしておきましょう。一から教えて差し上げますよ、まずはベッドでゆっくりと…ね。二人の夜はこれからですし、あなたが慣れたらバスルームの方で楽しみましょうか。で、どうします? 先にシャワーを浴びますか? それともベッドへ…?」
「…ぼくはシャワーを浴びたいな。今日はたっぷり遊んだから」
「時間稼ぎというわけですか…。いいでしょう、私はあっちの部屋でシャワーを浴びます。その方が時間に無駄がない。スイートルームはこういう時に便利ですね」
部屋が沢山ありますから、とドクターは得意顔でした。言われてみれば私たちの部屋にもバスルームは複数あったりします。ドクターがそこまで計算してスイートルームを予約したのなら天晴れとしか…。会長さんは不機嫌そうにバスルームに向かおうとしたのですが。
「お待ちなさい。…シャワーを浴びたら着るものはこれを」
ドクターがラッピングされた箱を会長さんに渡します。
「せっかくですから私好みの装いをして頂きたい。バスローブというのもそそられますが、そちらはバスルームでのお楽しみの後でよろしいでしょう。…いいですね、これを着るのも利子の内です」
「…利子は支払ったと思うんだけど…?」
「デートだけで私を満足させられるとでも…? 一年間も待ったのですから期待の方も膨らむんです」
「……………」
憮然としている会長さんの手にチュッと口付けるエロドクター。
「ふふ、相変わらず滑らかな肌をしておいでですね。では、また後で…」
ドクターは悠然と別室に向かい、会長さんも箱を抱えてバスルームへ。私たちが見ている中継画面は今は無人のリビングです。この後いったいどうなるのでしょう? 救出に向かうのだったら早い内がいいと思うんですが…。と、口を開いたのはキース君。
「ぶるぅ、今の間に隣の部屋に入り込めるか? この様子だと待機していた方が良さそうだ。ノルディのヤツめ、身体のダメージは大きいくせに全く口が減らんからな。油断してたらどうなるか…」
「隣の部屋に? えっと…シールドで隠れて、だよね?」
大丈夫だよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。私たちは急いで一ヶ所に集まり、青いサイオンに包まれて…フワッと身体が浮き上がったと思う間もなく隣の部屋に移っていました。広いリビングの隅っこの方に隠れていると、やって来たのはエロドクター。バスローブだけを羽織っています。
「まだですか、ブルー? いつまでも待たせていると着替えを手伝いに行きますよ?」
「『お断りだ!!!』」
思念波と声が同時に響き、バスルームに通じる扉がカチャリと開いて。
「「「!!!」」」
現れた会長さんの姿に私たちは目をむきました。え、えっと…。足首まで届くワインレッドの艶やかな生地に、足の付け根まで入った深いスリット。ソルジャーの正装に似た立襟と、身体に隙間なくフィットしたライン…。これってチャイナドレスとか言いませんか? 独特の飾りボタンと華やかな刺繍はどう見ても…。
「お似合いですよ、ブルー。…ネグリジェとどちらにしようか迷いましたが、あなたのサイズを知っているからには誂えたドレスの方がいいでしょう? おいでなさい」
エロドクターは会長さんの腰に腕を回してグッと引き寄せ、筋肉痛をものともせずにベッドルームへ。…ヤバいです、これは相当にヤバかったりして~!?

ベッドルームには大きくて立派なベッドがありました。ドクターは会長さんをベッドの縁に腰掛けさせて…。
「初心者だとか仰いましたね。ええ、そうでしょうとも…。いつもハーレイを煙に巻いて遊んでらっしゃいますが、あなたは男とは経験が無い。そのくらいは一目で分かりますよ。ですが、それも今夜でおしまいです。みっちり仕込んで差し上げますとも」
「…付き合うのは今夜だけだと言った筈だよ」
会長さんがドクターを睨みましたが。
「さあ、どうでしょうね? あなたの方が私無しではいられなくなる…ということもありますよ。ハーレイの悔しがる顔が見えるようです。私にあなたを掻っ攫われて…ね」
言うなりドクターは会長さんをベッドに押し倒し、唇を深く重ねたのですが…会長さんは全く抵抗しませんでした。前にドクターの家で襲われた時もそうでしたけど、抗えないと言うべきか。ドクターのテクニックに翻弄されて逆らう意思さえ無くなるのだと会長さんに聞きましたっけ。
「キース、やばいよ!」
ジョミー君がシールドの中で叫びます。
「と、止めなくちゃ…。ドクターを止めないとブルーが危ない!」
「分かってる。…だが俺たちが乱入するのは最後の手段だ。下手に乱入してしまったら借金を返す計画が…」
「そりゃそうだけど! でも…でも、ブルーが…」
騒ぎ立てるジョミー君の隣では、サム君が拳を震わせて耐えていました。
「くっそぉ…。殴りたい、今すぐ殴ってやりたいぜ! だけど…俺が出て行ったらまた利子が…」
ドクターは唇を離すとカニ攻撃で傷めつけられた震える指でドレスのボタンに手をかけます。襟元のボタンが外され、白い首筋が覗いても…会長さんは目尻をほんのりと染めて微かに身体を震わせただけ。魂が抜けているのでしょう。
「もう待てませんよ、キース先輩!」
シロエ君が絶叫しました。
「乱入しましょう、このままじゃ会長がエロドクターに…」
「…うう……。畜生、あいつの思考さえ読めればな…。限界が近いのかどうか、それさえ分かれば…」
唇を噛むキース君。会長さんは胸元をはだけられ、エロドクターが筋肉痛に顔を顰めながらも白い身体を撫で回したり口付けたり。もう危険なんてものじゃありません。乱入するしか道はない…と誰もが思ったのですが。
「えっとね、真っ白になってるみたい」
「「「は?」」」
無邪気な声の主は「そるじゃぁ・ぶるぅ」でした。ベッドの上で起こっている惨事を全く理解していないだけに、冷静に観察していたようです。首を傾げて私たちの顔を見上げながら…。
「あのね、ブルー、頭の中が真っ白だよ。限界ってブルーのことだよね? とっくに突破しちゃってるけど」
「…限界突破…。いや、そうじゃなくて!」
キース君が「そるじゃぁ・ぶるぅ」の肩をガシッと掴んで。
「ぶるぅ、お前ならエロ……いや、ノルディの思考が読める筈だな!? 細かいことはどうでもいいからヤツの心を読んでくれ。ノルディはまだまだ余裕があるのか? それとも疲れて限界なのか?」
「…えっ? えっと…。なんだか凄く楽しそう。甘くて眩暈がしそうだとか…いい匂いだとか…。変なの、お菓子なんか食べてないのに」
それは会長さんの味だろう…と頭を抱える私たち。何も知らない「そるじゃぁ・ぶるぅ」は意味不明なアヤシイ言葉も含めてドクターの思考を次々と語り、会長さんは上半身を完全に脱がされた上にスリットから手を入れられて…。
「ダメだ、行くぞ!」
キース君が拳を握り締めて踏み出そうとした時、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「…うーん、天国……」
次の瞬間、ドクターの身体がガクリと崩れ落ちました。会長さんの胸元に顔を埋めて動きません。喋り続けていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」もピタリと黙って、1分、2分……。
「寝ちゃったみたい」
夢を見てるよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「…えっとね……なんだか変な夢だよ、ノルディとブルーが…」
「読まなくていいっ!!!」
キース君がガバッと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の両眼を塞ぎ、シロエ君が耳を押さえます。私たちもベッドと「そるじゃぁ・ぶるぅ」との間に割って入って余計な物を遮断しました。エロドクターの妄想が爆発している恐ろしい夢を子供に見せてはいけませんから。

それからどのくらい経ったでしょうか。シールドの中で騒いでいた私たちの耳に聞こえてきたのは…。
「……重い……。ノルディをどけてくれないかな?」
「「「ブルー!?」」」
サム君が、キース君が…ジョミー君が声を上げました。会長さんがベッドから手招きしています。
「もうシールドは要らないよ。ノルディは朝まで目覚めやしない。疲れ切ってグッスリだ。…作戦成功」
だからどけて、と会長さんは身体の上のエロドクターをさも邪魔そうに指差しましたが。
「…そのまま耐えてろ」
気の毒だがな、と溜息をつくキース君。
「その格好で朝まで耐えてこそ説得力があるってもんだ。…あんたの上で爆睡したという証拠になる」
「…そりゃそうだけど……。ノルディ、けっこう重いんだよ」
会長さんはブツブツ文句を言っています。喉元過ぎれば何とやら…。食べられてしまうことを思えば、エロドクターの体重なんて問題じゃないと思うんですけど。会長さんの白い肌には赤い花びらのようなキスマークが幾つも散らされ、それをつけられた記憶は定かではないと言うんですから、本当に危機一髪でした。会長さんは溜息をついて。
「…悔しいけれどノルディのテクニックは確かだったよ。指を傷めた上に筋肉痛で腕も満足に動かせないのに、キスだけでぼくを追い詰めるなんて…。舌も傷めつけておくべきだったな」
「そこまでやったら日を改められていたと思うぞ」
キース君が言い、サム君が。
「ブルーが無事でよかったぜ。俺、心配で心配で…。エロドクターを殴りたいけど、それをやったら俺たちの計画がバレちゃうし…」
「気持ちだけで嬉しいよ、サム。ノルディは…このまま放っておくしかないか」
重たいけれど、と苦笑している会長さん。朝まで下敷きにされていたのでは身体が痺れてしまうかも…。私たちは会長さんとエロドクターをベッドに残して「そるじゃぁ・ぶるぅ」の瞬間移動で隣の部屋に帰りました。万一の場合に備えて男の子たちが交代で寝ずの番をしましたけれど、ドクターは朝まで爆睡で…。
「……最低だね、ノルディ」
ルームサービスの朝食を食べていた私たちは会長さんの思念を合図に再び中継を見ています。目覚めたばかりのエロドクターをチャイナドレスの会長さんが詰っていました。もちろんボタンをきちんと留めて、皺もサイオンで伸ばしみたい。
「今まで沢山の女の子と付き合ったけれど……デートでどんなに疲れ果てても途中で寝るなんて失礼な真似はしたことがないよ。散々ぼくを口説いてたくせに結果がこれか…。君にとっては遊びの相手というわけだ。真剣だったら寝ないだろうし」
「誤解です! 私は本気であなたのことを…」
「うん、本気でぼくの身体だけを愛している…ってことなんだろうね。とにかく約束の一晩は過ぎた。これで借金は返したよ。あのネタでは二度と脅せないから、そのつもりでいてくれたまえ。…それじゃ」
さよなら、と会長さんの姿が消えて。
「ただいま。…心配かけてごめん。みんなのお蔭で無事だったよ」
部屋の中央に現れた会長さんはチャイナドレスのままでした。どうして着替えていないんでしょう? 私たちの視線に会長さんはクスッと笑って。
「あ、これ? せっかくだからサムに見せたいと思ってさ。…ノルディが誂えるくらいなんだし、サムならグッとくるかなぁ…って。どうかな、サム? 似合ってる?」
「……う、うん……」
似合ってる、というサム君の言葉は口の中でモゴモゴと消えました。ついでに耳まで真っ赤です。会長さんはチャイナドレスが気に入ったのか、チェックアウトの時間になるまで着替えようとはしませんでした。エロドクターに散々な目に遭わされたのとドレスとは別モノらしいです。このタフさこそが会長さんの真骨頂かも。
「…ノルディはとっくに引き払ったよ」
元の服に戻った会長さんがニッコリ笑って言いました。
「だから堂々とチェックアウトしても安心さ。さあ、帰ろうか。お昼はぼくの家で慰労会にしよう」
何が食べたい? と尋ねる会長さんは元気一杯、素敵な笑顔。エロドクターは自分の家で身体中に湿布を貼って落ち込んでいるという話でしたが、知ったことではないですよねえ?

会長さんを襲った危難が去って、また学校が始まって…木曜日は学園を挙げての『かるた大会』。今年も温水プールで百人一首の下の句が書かれた取り札の奪い合いです。1年A組はクラス対抗試合を勝ち抜き、学年1位のクラスが戦う首位決定戦を勝ち抜いて…。
「学園1位! 1年A組!」
司会のブラウ先生の声がプールサイドに響きました。学園1位の副賞は…クラス担任と指名された先生とが演じる寸劇。グレイブ先生が『かるた大会』の開催を告げた時にはクラスメイトは副賞を知らなかったんですけども…。
「やった、1位だ!」
「これで先輩たちにも顔が立つな!」
あちこちで肩を叩き合って喜ぶ男子たち。女子も小躍りしています。私たちが喋ったわけではなくて、アルトちゃんとrちゃんが喋ってしまったわけでもなくて…。クラス全員が副賞の中身を知っているのは先輩たちのせいでした。先輩というのは去年の1年生と2年生。私たちの卒業を祝って送りだしてくれ、今も学園にいる生徒。その人たちが入れ替わり立ち替わり「1位を目指せ」と激励に来ていたのです。
「「「A組! A組!!」」」
プールサイドから高らかに上がるA組コール。誰もが思い切り期待していました。去年はグレイブ先生と教頭先生が爆笑モノのバレエを披露しましたが、さて、今年は…? クラスを優勝に導いたのは会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の見事な連携。寸劇に出る先生の指名権を会長さんに委ねることは競技前から決定済みです。
「さあさあ、かるた大会は終わりだよ!」
早く着替えな、とブラウ先生が皆を促しています。表彰式はA組コールの中で終了しており、職員さんが片付けをしに出てきましたが、誰もがこの後の催しを知っているのでドキドキワクワク。ブラウ先生が苦笑しながらマイクを握り直しました。
「終わりだって言っているのに聞いてない子は放って行くよ? この後、会場は講堂へ移る。講堂の中は水着禁止だ。いいかい、さっさと着替えること! そして1年A組の代表は先生を一人指名しておくれ!」
ワッとプールサイドが湧き立ち、会長さんが手を挙げます。
「1年A組は教頭先生を指名させて頂きます!」
シナリオどおりの進行でした。先輩たちが希望したのは教頭先生を指名すること。それと、もう一つ…。
「オッケー! ハーレイ、御指名だよ」
ブラウ先生が教頭先生に向かってウインクしてから。
「さて、副賞は指名された先生とクラス担任による寸劇だ。希望の演目があった場合はご注文にも応じることになっている。1年A組、希望はあるかい?」
またしても大歓声が上がりました。先輩たちの期待を一身に背負った会長さんがブラウ先生の側まで行ってコソコソ耳打ちしています。ブラウ先生は去年同様、散々笑い転げた挙句に…。
「よーし、今年も面白いことになりそうだ。見たい生徒は全員着替え! 1年A組には講堂の一番前の特等席を用意するから思う存分楽しんどくれ!」
「「「はーい!!!」」」
1年A組だけでなく、全校生徒が返事しました。ハードな水中かるた大会の疲れも吹っ飛ぶ勢いです。着替えのために飛び出していく皆は足取りも軽く、それは私たち1年A組も同様で…。
「やりましたね、1位!」
会長さんに声をかける人もいれば、取り札を頑張って運んだ「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭を撫でている人もいます。
エロドクターに振り回されたのは遠い日々。会長さんは御機嫌でした。だって教頭先生が…。いえいえ、それは舞台の幕が上がってからのお楽しみです。

「…本当にあれでいいのかしら…」
更衣室で着替えているとスウェナちゃんが声をかけてきました。
「会長さんは平気だって言ってるけれど、みんなの期待を裏切るのよ? …多分」
「うーん…。裏切ってないと言えば嘘になるけど、半分くらいは応えてるんだし…いいんじゃないかな?」
でも本当は少し心配だったりします。先輩たちの希望の演目を会長さんは実現する気満々ですし、抜かりなく準備もしたのですが…なんといっても会長さん。おまけにエロドクターに付き纏われたせいで溜まったストレスを発散しようと考えたから大変で…って、この話は内緒でしたっけ。講堂に着くとジョミー君たちが最前列から呼んでいます。
「おーい、こっち、こっち! 席、取っといたよ!」
会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は最前列の真ん中に座っていました。私たちはその両側です。全校生徒が着席しても舞台の幕は下りたまま。まだリハーサル中なのでしょう。去年と違って舞台からは全く音が聞こえてきません。ブラウ先生がマイク片手に登場すると客席が一気にざわめいて。
「こら、静かに! その様子じゃあバレてるようだが、今年の演目を発表するよ。…ハーレイとグレイブ、二人の花魁の舞踊ショーだ!」
「待ってましたーっ!!!」
あちこちから景気のいい声が飛びます。先輩たちの注文はコレ。学園祭で教頭先生が披露していた花魁道中が人気を博して、こういう結果になったのでした。グレイブ先生は道連れです。…ただし会長さんが聞き届けたのは…ストレス解消で半分だけ。ブラウ先生がマイクを握って。
「始める前に断っておこう。花魁といえば白塗りだけどね、ブルー…いや、生徒会長からの注文がついてメイクは口紅だけなんだ。ハーレイの肌の色とグレイブの眼鏡を生かしたいらしい」
「「「ええぇっ!?」」」
ひどい、とブーイングの嵐が巻き起こりました。ほーら、言わんこっちゃない…。ブラウ先生は負けじと声を張り上げます。
「それと花魁の衣装は重くて舞に向いてないから黒子がつくよ。衣装を整えるために必要だからと生徒会長が言ってきた。黒子は職員さんたちだからね、幕が上がったら盛大な拍手で迎えてあげとくれ! 返事は!?」
「「「はーい…」」」
逆らったら舞踊ショー自体が吹っ飛びそうだと思ったものか、ブーイングはピタリと止みました。スピーカーから琴と三味線の音が流れて幕がスルスル上がっていきます。舞台中央にスポットライトがパッと当たって。
「いよっ、学園一っ!!!」
威勢のいい掛け声はシド先生。それを合図に拍手が起こり、同時に笑いも広がっていたり…。華やかな花魁の衣装と鬘を着けた教頭先生とグレイブ先生はどこから見ても仮装大会。白塗りメイクをしていない顔に真っ赤な口紅だけを塗りたくられると、なんとも凄い破壊力です。グレイブ先生は眼鏡が光ってますし…。
「「「わははははは!!!」」」
さっきのブーイングが嘘だったように二人の姿は大ウケでした。会長さんが自信たっぷりだったのも頷けます。教頭先生とグレイブ先生は黒子を従えて舞い始めました。袖を翻してゆったりと…玄人はだしの艶やかさで。

とんでもないメイクも帳消しになりそうな美しい舞。黒子の職員さんたちが袖や裾に気を配りながら忙しく舞台を駆け回ります。先輩たちは笑えるネタとして注文した事実をすっかり忘れて二人の舞に見入っていました。…と、いきなり音楽がプツリと途切れ、続いて流れ出したのは…。
「「「えぇぇっ!?」」」
大音響のハワイアン・メロディー、『アロハオエ』。花魁の舞踊ショーには不似合いすぎる音楽です。皆が呆気にとられる間に、目にも止まらぬ動きをしたのは黒子さんたち。教頭先生とグレイブ先生の帯がスルスルと解かれ、花魁の衣装と鬘がパッと外れて。
「「「!!!!!」」」
二人は裸の胸にココナッツで出来た大きな丸いブラジャーを着け、腰には緑の葉っぱを編んだティーリーフスカート…いわゆる『腰みの』。当然、手足もむき出しです。首からオレンジのレイが下げられ、髪には真っ赤なハイビスカスが…。その格好で腰をくねらせ、音楽に合わせて踊り出したからたまりません。
「「「ぶわははははは!!!」」」
講堂中が爆笑に包まれ、ブラウ先生が必死に笑いを堪えながら。
「ここから先はフラダンスだよ。拍手が多けりゃアンコールもある。どうだい、みんな気に入ったかい?」
割れんばかりの拍手が起こり、教頭先生とグレイブ先生はしなやかに腕を、腰を大きく振ってフラダンスを優雅に踊っています。ええ、腕前は最高でした。花魁の舞もこのフラダンスも、達人のコツをサイオンでまるっとコピーしたもの。リハーサルを数回すれば、あとは身体能力の問題だけで…。
「ふふ、思った以上の出来だよね」
会長さんが舞台を見上げて満足そうに頷きました。
「ハーレイもグレイブもバレエをキッチリ身につけてるし、かなりやれると踏んでたけれど…アマチュアの域を超えてるかな」
去年の『かるた大会』の副賞でバレエを踊らされた教頭先生とグレイブ先生。謝恩会ではゼル先生とミシェル先生も加わって『四羽の白鳥』を披露してくれたのですが、その後も先生方はバレエのレッスンを続けています。しかし踊りが上手であっても、この傑作なコスチュームは…。
「…ぶるぅが頑張って作ったんだよ」
「「「は?」」」
会長さんの謎の言葉に私たちは首を傾げました。花魁の衣装は面倒だから業者に発注するとか言っていたのに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が何を作ったと? あの丸っこいココナッツ・ブラ? ココナッツをぶった切って刳り抜いただけの黒光りするブラジャーは笑えるものがありますが…。
「違う、違う。腰みのを編んでくれたんだ。ウエストが普通サイズの女性で必要な葉っぱが120枚。だったらハーレイは何枚だろうね? 葉っぱの芯を抜いて茎を削って…1枚ずつ編んで。初心者は丸一日もかかるそうだよ。ぶるぅは1時間ちょっとで作り上げた。熟練者並みの器用さってこと」
力作だよ、と笑う会長さん。先輩たちからリクエストされた花魁の舞をフラダンスに変えてしまった悪人ですが、怒っている生徒は誰もいません。花魁からフラダンサーへの早変りは実に見事でしたし、白塗りメイクが無かった理由も今となっては明白です。フラダンスには真っ赤な口紅しか塗っていない顔が映えるってもので…。
「…ウケていますね…」
シロエ君が呟き、キース君が。
「ウケるだろうさ、フラダンスだぜ? ブルー、アンコールは何回までだ?」
「ブラウに訊いたら制限時間は無いってさ。でも、適当な所で撮影タイムに切り替わるんだ。あ、ほら…ブラウが出てきた」
ブラウ先生が記念撮影の希望者を募集し始めました。フラガール姿の教頭先生とグレイブ先生を囲んでの思い出のショット。1年A組はもちろん全員参加です。みんな笑顔でハイ、ポーズ! と、その瞬間に会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の衣装がパッと変わってビックリ仰天。
「かみお~ん♪」
ポーズをキメている「そるじゃぁ・ぶるぅ」はミニサイズの腰みのを着けて、ココナッツ・ブラはありませんけどオレンジのレイ、髪には真っ赤なハイビスカス。教頭先生たちとお揃いです。会長さんはワインレッドのチャイナドレスに刺繍入りの黒い繻子の靴を履き、白い羽扇まで持っていたからたまりません。記念撮影は大幅な時間延長となり、写真屋さんも大忙しで…。
「楽しかったね、かるた大会!」
いつもの服に戻った「そるじゃぁ・ぶるぅ」がピョンピョン飛び跳ねて喜んでいます。会長さんはチャイナドレスのままでした。これで終礼に出る気でしょうか? エロドクター所縁の品を着用するほど復活したのは嬉しいですけど、もしかして…フラダンスはストレス解消ではなく、ただの悪戯? なんだかとってもありそうな話。教頭先生、グレイブ先生、今日はありがとうございました~!




PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]