シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
シャングリラ学園、今年も新年度を迎えました。桜が満開だった入学式には会長さんの思念波メッセージが流されましたけれども、新しい仲間は現れず。というわけで「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋は今年も貸し切りで行けそうです。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
授業、どうだった? と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。校内見学やクラブ見学などが終わって今日から授業がスタートしました。グレイブ先生は相も変わらず絶好調で。
「ぼくたちは別にいいんだけどさあ…」
ねえ? とジョミー君が私たちを見回し、サム君が。
「他のヤツらは御愁傷様としか言えねえなあ…。補習になるヤツ、多そうだぜ」
「しかしだ、試験問題は中学までの範囲だぞ」
自己責任だと思うのだが、とキース君。それも一理はあるんですけど…。
「君から見ればそうかもね。だけど、普通はそうはいかない」
会長さんが紅茶のカップを傾けながら。
「念願の高校に合格したんだ、その段階で気が弛む。おまけに定期試験は全て満点になる1年A組の幸運つきだよ、自主学習なんて言葉と予習復習は綺麗サッパリ抜け落ちてるさ」
たまには実力を思い知るべき、と会長さんはシビアです。
「この一年間、遊んで暮らすクラスメイトの意識の下で知識をフォローするのはぼくだ。たまには楽をさせて欲しいし、出来れば自前で勉強を…ね」
そうして貰えば少し負担が軽くなる、と言われてみればもっともで。
「そっかぁ…。合格した後で吹っ飛んだ分は自分でやれってことなんだ?」
中学校の分だもんね、とジョミー君が溜息をつけば、会長さんは。
「あまり期待はしてないけどねえ…。毎年、吹っ飛んだ分も含めてフォローする羽目になっちゃってるしさ。でもまあ、1年A組で暮らすためには仕方ないかな」
年貢のようなものだと思おう、との言葉にプッと吹き出す私たち。どちらかと言えば年貢はグレイブ先生の方が納めてらっしゃる気がします。会長さんが出現する度に…。
「あっ、君たちもそう思うかい? 今年も沢山納めて欲しいね、お年貢を」
「あんた、鬼だな…。毎度のことだが」
キース君の台詞を会長さんはサラリと右から左へ。
「年貢というのは納めるためにあるんだよ。そしてグレイブよりも有望なのが一人」
「「「は?」」」
会長さんに年貢を納める有望株。グレイブ先生よりも有望だなんて、該当する人は多分、一人しかいないんじゃあ…?
グレイブ先生からの年貢を楽しみにしている会長さん。更に有望視される年貢のアテが誰なのか、ほぼ想像がつきました。つい先日も紅白縞をお届けに出掛けたばかりですけど、新年度早々、何かやらかすつもりでしょうか?
「君たちの顔を見る限りでは、誰か分かっているようだけど…。質問は?」
何でもどうぞ、と水を向けられても「ハイそうですか」と即座に返せるわけもなく。肘でつつき合い、譲り合っている内に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「えとえと…。とくちゅうふぃぎゅあ、って言ったかなぁ?」
「「「ふぃぎゅあ?」」」
なんじゃそりゃ、とオウム返しな私たち。会長さんはお皿の上のケーキにデコレーションされたエディブルフラワーをフォークにヒョイと乗っけると。
「こんな感じで花びら一杯、メルヘンたっぷりな阿呆が一人さ」
「「「…メルヘンたっぷり?」」」
ますますもって話が謎です。質問は自由にと言われたものの、何処から突っ込めばいいのやら。会長さんもそこはしっかり承知のようで、淡いピンクの可憐な花をフォークの上で弄びつつ。
「ベッドが花びらなんだよねえ…」
「「「えぇっ!?」」」
なんて無茶な、とあちこちで悲鳴。教頭先生、御乱心ですか? 失礼ながら、あの御面相と立派なお身体に花びらベッドは似合っていないと思うんですけど~!
「違う、違う! ああ、でも、それは使えるねえ…。年貢はソレで行こうかな?」
「何のことだ? …教頭先生の話じゃないのか?」
おおっ、やりました、キース君! よくぞ訊いてくれた、と誰もが喝采。訊かれた方の会長さんは「それで合ってる」と微笑んで。
「花びらベッドはハーレイだけどさ、それに寝てるのはハーレイじゃない。ぶるぅが言ったろ、特注フィギュア! それが毎晩寝てるんだってば」
「…教頭先生にフィギュア集めの御趣味があるとは聞いていないが…」
知らないぞ、と首を傾げるキース君に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がニコニコと。
「一個だけなの、特注品なの! 思い切りこだわって注文したの!」
「そういうこと。ただのフィギュアじゃないんだな、これが」
こんなのだけど、と会長さんの指が閃いて、ティーカップの縁にチョコンと腰掛ける小さな小さな会長さんが。マント無しのソルジャーの衣装ですけど、特注フィギュアってコレなんですか~!?
「「「……スゴイ……」」」
実に細かい、と私たちの目はフィギュアに釘付け。会長さんの姿形をそっくり再現してあります。カップの縁に座れるサイズとは思えないほど素晴らしい出来で。
「ね、なかなかの出来だろう? お値段の方も凄かったようだよ、なにしろ特注の一点モノ!」
この衣装にもこだわりが…、と会長さんは自分のフィギュアを摘み上げると。
「私服や制服ではダメだったらしいね、身体のラインが出ないから。こっちだと身体にフィットしてるし、妄想の余地があるみたいだよ」
ついでにポーズもこだわりアリ、とテーブルにコトリと置いてみせて。
「カップの縁に座ってる分には普通なんだけど、こう置くと…。足が少し開いてイイ感じなわけ、君たちには分からない次元でね。そそられるらしいよ、大人の時間な気分ってヤツが」
「…そうなのか?」
まるで分からん、とキース君が答え、私たちも一斉にコクコクと。でもまあ、少しなら分かる気もします。軽く開いた膝の奥には人間で言えば大事な部分があるわけですから、チラリズムとでも申しましょうか…。
「そうそう、それだよ、チラリズム! 誘ってるように見えないこともないらしい」
迷惑千万な話だけれど、と顔を顰める会長さん。
「ハーレイときたら、カップの縁に座らせた時も足の間をガン見してるねえ…。ついでに指先でチョイと触って、耳まで真っ赤になってみたりさ」
殆どビョーキ、と、教頭先生、身も蓋も無い言われようです。
「そして寝かせる時は花びらベッド! 妄想とメルヘンのごった煮なんだよ」
「「「ごった煮?」」」
「そう、ごった煮。妄想の方はハネムーンによくあるフラワーベッド、正しくはフラワーデコレーションベッド! 知っているかな、ベッドの上に花をたっぷり飾ってあるんだけれど」
こんな感じで、と思念波で伝えられたイメージは実に様々。無秩序に花を散らしたものから、整然と並べた幾何学模様までバリエーション豊かな世界です。ふむふむ、これが妄想、と…。
「ハーレイの夢はそういうベッドでハネムーンらしいね、そんな気持ちをたっぷりと込めてフィギュアに花びらを被せるわけ。メルヘンの方は親指姫だよ、あれは花びらのベッドだろ?」
その上に更に妄想が、と会長さんはフィギュアをカップの縁に戻すと。
「親指姫ならぬフィギュアのぼくを愛情こめて世話していれば、ぼくに気持ちが伝わるかも…と思っているわけ。いずれ目出度く花いっぱいのベッドでハネムーン、とね」
そのために花びらも惜しみなく、と嘲っている会長さんによれば、教頭先生は特注フィギュアのために毎日、とてもお高い薔薇を一輪買うそうです。その日の気分で真紅やピンク、べらぼうに高い青薔薇なんかも買うらしいですよ…。
メルヘンと妄想が混ざった世界で会長さんの特注フィギュアを愛でているという教頭先生。親指姫を育てる気分でせっせと世話をし、語り掛け…。
「なにしろ親指姫だからねえ、薔薇の花にも座らせてるよ。メルヘンちっくに夢を見ている時はウットリ、妄想タイムに入る時にはモッコリってね」
「「「…もっこり?」」」
「あ、ごめん。つまりアレだよ、大人の時間の準備段階!」
ここから先は保健体育の授業でどうぞ、と説明されれば分かります。大事な部分が変化しちゃうほど、会長さんのフィギュア相手に興奮なさっておられるようで。
「そうなんだよねえ、流石にフィギュアは押し倒せないからサカる時には抱き枕だけど。…こんなフィギュアを作った男には年貢を納めて貰いたい」
でないと気分が収まらない、と会長さんはブツブツと。
「コレを相手にはサカれないから、抱き枕と違って躊躇なくオーダーしたんだよ! 思い付いたら即、実行で…。ぼくの資料をキャプテン権限であらゆる角度から引き出して…ね」
シャングリラ号のデータベースから、と吐き捨てるように言う会長さん。
「データベースには地球からでもアクセス出来る。マントを外したぼくの映像を山ほどゲットして、ついでに座った姿もね…。そういう画像をドカンと渡せば精巧なフィギュアが作れるってわけ」
そして夜な夜な妄想の世界でお楽しみ、と会長さんの御機嫌は斜め。
「こういうコトをやらかす男をどうしようかと思ってたけど、君たちが考えた花びらベッドで閃いた。目には目をって言うし、花びらベッドには花びらベッド! 親指姫には親指姫だよ」
「「「は?」」」
「一方的に親指姫にされたぼくの気分をハーレイにも味わって貰うのさ。可愛らしくカップの縁に座って、花びらのベッドでお昼寝だよ、うん」
それに決めた、と会長さんは特注フィギュアを指でチョンとつついて。
「お前もお揃いがいいだろう? まずはカップの用意からだね、ドリームワールドのコーヒーカップの予備でも失敬しようかな。アレなら余裕で座れるからさ」
「あんた、本気でやるつもりなのか!?」
コーヒーカップと花びらベッド、とキース君が突っ込むと、会長さんの笑みが深くなり。
「決まってるじゃないか、年貢だよ? 納めて貰ってなんぼなんだよ、とりあえずフィギュアは戻しておこう」
此処が定位置、と瞬間移動で戻した先の映像が思念波で頭の中に。教頭先生が大事にしてらっしゃる夫婦茶碗の縁にチョコンと小さな小さな会長さん。うーん、とってもメルヘンチック…。
教頭先生に年貢がどうこうと恐ろしげな計画を口にした会長さんは早速動き始めました。私たちには「今日も順調」としか言いませんけど、着々と準備を進めている様子です。そして週末、会長さんの家に招かれて出掛けてみると。
「うっわー…。本気で用意したんだ?」
コーヒーカップ、とジョミー君。ドリームワールドで子供に人気の遊具、コーヒーカップの予備と思しき大きなカップがリビングに鎮座しています。
「素敵だろう? これならけっこう頑丈だしねえ、ハーレイが縁に座っても大丈夫! 傾かないように重石も入れたし、後は座って貰うだけさ」
縁にチョコンと可愛らしく、と会長さんはニヤニヤと。でも肝心の教頭先生に招待状は出したのでしょうか? 出したとしたら、どんなのが…。
「招待状? 出すわけないだろ、そんなもの! 親指姫だし」
「「「え?」」」
「親指姫は攫われるものだよ、これから拉致して連行するだけ!」
よし! と会長さんの声が響いて、教頭先生が瞬間移動でリビングに。家で寛いでらっしゃったらしく、ラフな格好をしておられます。
「やあ、ハーレイ。ぼくの家にようこそ」
「…ブ、ブルー!? これはいったい…?」
どうなっているのだ、とキョロキョロしている教頭先生に、会長さんはスッとコーヒーカップを指差して。
「あれに座ってくれるかな? 縁にチョコンと」
「…な、なんだ?」
ギクリと顔色を変える教頭先生、特注フィギュアがバレたとも知らず挙動不審になりながらも。
「そ、それは…。別にかまわないが、アレに座ってどうするのだ?」
「そりゃもう、可愛く座ってるだけでいいんだよ。ぼくたちがそれを愛でるから」
「……愛でる……?」
「うん。カップの縁に座る姿って可愛いじゃないか、こう、親指姫みたいでさ」
でもその服だとイマイチだよね、と会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」に合図を送ると。
「かみお~ん♪ はい、ハーレイのキャプテン服!」
コレに着替えて座ってみてね、と唐草模様の風呂敷包みが差し出されました。キャプテンの制服、教頭先生の家のクローゼットに山ほどあるとは聞いていますが、一着ゲット済みでしたか…。
「……なんかイマイチ可愛くないねえ……」
どう思う、と会長さんが尋ね、素直に頷く私たち。巨大カップの縁に腰掛けた教頭先生は全く可愛くありませんでした。シャングリラ号のブリッジでキャプテンシートに座っているのと殆ど変わらないような…。
「だよねえ、これじゃ親指姫どころか普通にキャプテンスタイルだってば…」
何処が違うと言うんだろう、と会長さんはコーヒーカップの縁に座らせた教頭先生をジロジロと。
「ポーズは全く同じなんだよ、キッチリ指定したんだからさ」
「……同じだと?」
何のポーズと同じなのだ、と教頭先生が訊き返し、会長さんが高らかに。
「君の御自慢の特注フィギュア!」
「!!!」
教頭先生の顔色がサーッと青ざめ、カップの縁で硬直中。会長さんは教頭先生の身体をツンツンつつき回して。
「…分からないねえ、君の趣味…。どう転んだらコレに萌えるのか、ぼくにはサッパリ謎なんだけど…。やっぱりアレかな、君が毎晩やっているようにココをつつくのが王道だとか?」
会長さんの指が教頭先生の股間を示してピタリと止まり、教頭先生の鼻からツツーッと鼻血が。
「なるほど、ココが大切、と…。でも触りたくもないからねえ…」
おまけにモッコリしてきちゃったし、と会長さんは冷たい口調。
「こんな所でモッコリしてもね、見た目に醜いだけなんだよ。さっさと萎えてくれないかな?」
「…………」
教頭先生、タラリ脂汗。これは一気に萎えそうです。しかし…。
「待たされるのは趣味じゃないんだ。すぐに萎えないなら隠すしかない。…ぶるぅ!」
「かみお~ん♪」
パァァッと迸る青いサイオン。教頭先生のキャプテン服は一瞬の内にピンクのドレスに変わっていました。フリルひらひら、レースたっぷり。
「このドレス、ぼくが作ったの! お花の国のお姫様だよ♪」
「ふふ、ぶるぅの力作のドレスはどうだい? そこに座るのに疲れてきたら言ってよね。花びらのベッドを用意したんだ、ゆっくり昼寝をしてくれていいよ」
ほらね、と瞬間移動でリビングに出現した大きなベッド。華やかな薔薇や香り高いジャスミン、他にも花がてんこ盛り。教頭先生がお休みになるには似合わなさすぎる気がするんですけど、ピンクのドレスのお姫様にはこのくらいで丁度いいのかな?
会長さんの特注フィギュアを作ったばかりに晒し者となった教頭先生。ピンクのドレスでコーヒーカップの縁に座って所在なさげに項垂れてらっしゃるのですけれど。
「…ふうん…。これが元ネタのヤツなんだ?」
「「「!!?」」」
あらぬ方から声が聞こえてフワリと翻る紫のマント。そこには手乗りの小鳥よろしく会長さんフィギュアを右手に座らせたソルジャーが笑顔で立っていました。
「ぼくの世界から眺めてたけど、手に取ってみると違うものだね。これならハーレイがサカるのも分かる。ついでに頑張って貢いでいたのも」
毎日一輪、高い薔薇! とソルジャーはフィギュアの頭にチュッとキスを。教頭先生の頬が赤らみ、会長さんは柳眉を吊り上げて。
「何しに来たのさ! それ、返してよ!」
「え、ハーレイのヤツだろう? 君に返してどうするのさ」
「処分するんだよ、存在自体が許せないから!」
さっさと寄越せ、と会長さんが伸ばした手からソルジャーがサッと身をかわすと。
「勿体ないじゃないか、よく出来てるのに…。こんなヤツならぼくも欲しいな」
「「「へ?」」」
ソルジャーが会長さんのフィギュアを……ですか? そりゃあ昔は会長さんを食べようとして騒ぎになったこともありましたけど、キャプテンと晴れて結婚してからはそんな話も無かったかと…。なのに今更フィギュアなのか、と思ったら。
「ううん、ブルーのフィギュアは別にどうでもいいんだよ。これと同じのをぼくで作ってハーレイにプレゼントしようかなぁ…って」
なんだ、そういうことですか! だったら問題ないんじゃあ…?
「だろ? だからね、これは暫く貸しといてよね」
ソルジャーの手からフィギュアが消え失せ、別の世界へと送られてしまった模様です。ソルジャー曰く、あちらの世界の優れた技術でポーズを自由に変えられるように作りたいらしく。
「出来上がったらモデルは返すよ。勿体ないような気もするけれど、処分するなら御自由に…。あ、そうだ。ぼくの世界のバージョンアップ版、こっちのハーレイにもあげようか?」
「却下!!」
モデルが君でもお断りだ、と会長さんが叫び、教頭先生がボソボソと。
「…そ、そのぅ…。分けて頂けると嬉しいのですが……」
あらららら。ついウッカリと本音が出ちゃったみたいですけど、会長さんにも聞こえてますよ?
特注フィギュアどころかバージョンアップ版のヤツが欲しい、と漏らしてしまった教頭先生を見詰める会長さんの視線は氷点下でした。それに気付いた教頭先生が取り繕っても後の祭りで。
「違うんだ、ブルー! 私はそういうつもりでは…!」
「そんなつもりでなきゃ言わないだろ、欲しいだなんて! しかもバージョンアップ版!」
よくもぼくの目の前でエロい世界に、と会長さんは怒りMAX。
「大人しく座って花びらベッドで寝てるようなら見逃そうかとも思ってたけど、もうその線は消えたから! 嫁に行くのかスイレンの葉っぱか、二つに一つで選びたまえ!」
「…よ、嫁…?」
私がなのか、と問い返す教頭先生に、フンと鼻を鳴らす会長さん。
「親指姫はお金持ちのモグラに嫁ぐものだと決まってる。幸か不幸かノルディがいるしね、嫁に行くならノルディの所だ」
「「「えぇっ!?」」」
エロドクターにも選ぶ権利があるだろう、と私たちはビックリ仰天ですけど、会長さんは。
「嫁に来たのがハーレイだってバレないように細工をするさ。もちろん花嫁はぼくってことで…。サイオニック・ドリームが通用しないのはぼくを相手にした時だけだし、対ハーレイなら引っ掛かる。ぼくだと思ってそりゃあ念入りに可愛がってくれると思うよ」
「ま、待ってくれ! そ、それは勘弁して欲しいのだが…!」
助けてくれ、と泣きの涙の教頭先生に、会長さんがピシッと指を突き付けて。
「じゃあ、スイレン!」
「…スイレン?」
「スイレンの葉っぱの上に捨てられるんだよ、後は野となれ山となれでさ」
どっちにする? とズイと迫られた教頭先生に選択の余地がある筈もなく…。
「……スイレンでいい…。いや、スイレンだ、是非スイレンの上に捨ててくれ!」
「了解。それじゃ、後悔しないようにね」
行ってらっしゃい、と会長さんが手を振り、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「かみお~ん♪ ハーレイ、元気でね~!」
青いサイオンが走ったかと思うと、教頭先生は何処にもいませんでした。残ったものはドリームワールドのコーヒーカップと、飾り立てられたフラワーベッドと。ソルジャーがフラワーベッドを興味津々で眺め、会長さんに。
「これも貰っていいのかな? ぼくのハーレイと楽しめそうだよ」
「…好きにしたら? ハーレイを寝かせたベッドなんかを再利用するつもりは無いから、格安の家具を買ったんだ。ベッドごと持って帰っていいよ」
「ありがとう! それじゃ有難く貰って行くね」
ソルジャーは大喜びで帰ってゆきましたけれど、教頭先生は何処なんでしょうねえ?
お金持ちのモグラならぬエロドクターへの嫁入り話をお断りになった教頭先生。スイレンの葉っぱを選んで何処かへ消えてしまわれましたが、そのスイレンって何ですか? まさか本物ではないのでしょうし…。
「ああ、スイレンの葉っぱかい? ちゃんと特注したんだよ」
浮かぶ素材で、とニッコリ微笑む会長さん。
「ハーレイが乗っても沈まないように作ってあるから大丈夫! プカプカ水に浮かんでいるさ」
「それって何処の池なんです?」
空港の敷地内にあるヤツですか、とシロエ君が質問しました。シャングリラ号に行くための専用空港を含む広大な土地には大小の池が幾つかあります。その中の一つか、あるいはマザー農場の溜池とかか。その辺だろうと思ったのですが…。
「池じゃないねえ、湖だよ」
「「「湖?」」」
「それに思いっ切りの観光名所! もちろんスイレンはシールドしてある」
観光客には発見されない、と会長さんは得意げです。
「発見されてすぐに救助じゃつまらないしねえ…。ハーレイはそんなこととは思ってないから、側を通って行く遊覧船とか漁船なんかに手を振っているよ。誰か助けてくれ、ってね」
「…あの格好で救助されても恥ずかしそうねえ…」
変態みたい、とスウェナちゃんが呟き、揃って笑い出す私たち。恥ずかしいのもさることながら、発見されたのが遊覧船なら一部始終を撮影している乗客とかがいそうです。うっかりネットに投稿されたりしようものなら恥ずかしいなんてレベルではなく…。
「それは確かにシールドの方がマシなようだな」
俺なら発見されない道を選ぶ、とキース君。
「いつかは救助するんだろう? まさか死ぬまで放置じゃあるまい」
「それはもちろん。あれでもシャングリラ学園の教頭な上に、シャングリラ号のキャプテンだしねえ? 湖の上で餓死された日には生徒会長とソルジャーの立場が無いってものでさ」
その辺はきちんと考慮している、との答えにホッと一息。スイレンの葉っぱで漂流中の教頭先生、餓死寸前まで行かなくっても月曜日の授業が始まるまでには救助して貰えることでしょう。それまでは湖の水でも飲みつつ、じっと我慢でいて下されば…。えっ、なんですって?
「ねえ、ブルー。…なんか、時間が来たみたいだけど」
大丈夫かなぁ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。ちょっと、時間が来たって、なに? 何の時間が来たんですか~!
スイレンの葉っぱに揺られて漂流中の教頭先生は観光名所の湖の上。自分の姿がシールドされて見えないとも知らず、遊覧船などに救助を要請中らしいですが。
「時間だって? そういえば…」
そんな時間か、と時計に目をやる会長さん。教頭先生がコーヒーカップの縁に座って親指姫をやってらっしゃる間に私たちは昼食を済ませていました。教頭先生を見物しながらワイワイと食べて、それからソルジャーがやって来て…。いつの間にやら午後三時です。
「時間がどうかしたのかよ?」
日が暮れるには早いよな、とサム君が訊くと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「えとえと、滝の時間なの! 三時から滝が始まっちゃうの!」
「「「滝?」」」
滝が始まると言われましても、何のことやら意味不明です。滝っていわゆる滝ですよね? 始まるも何も、滝は年中無休なんじゃあ? ダム湖の放水じゃあるまいし…。
「違うんだな、これが」
世間は広い、と会長さんがチッチッと人差し指を左右に振って。
「ハーレイが漂流中の湖は火山活動で出来た堰止湖でねえ、そこから滝が流れ出してる。この滝がまた観光名所! ところがどっこい、水量不足だと滝の迫力が出ないものだから…。そういう時期には時間限定で水を流すのさ、それが今日だと三時からだね」
やってる、やってる…、とサイオンで見ているらしい会長さん。
「今年は水が少ないらしくて一日に三回、一時間ずつ流してるんだ。午前九時と正午と、午後三時。ハーレイが漂流し始めてからは本日初の放水ってことで」
どうなるかな、とワクワクしている会長さんの瞳の輝きっぷりと、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の心配そうな顔つきからして、もしかしてスイレンの葉っぱが浮かんでいる場所は…。
「えっ、ハーレイのスイレンの場所? 運が悪けりゃ滝に行くねえ、そういう場所を選んで浮かべておいたし…。下手に暴れなきゃ安全だったけど、遊覧船とか漁船を追っかけて自力で漕いだりしちゃったからさ…」
かなりリスクは上がったかと、と会長さんの指がパチンと鳴って壁に映し出される中継画面。そこでは大きな緑のスイレンの葉っぱに腹ばいになったピンクのドレスの親指姫が懸命に水を掻いていました。なんだか焦っているようです。会長さんが悠然と。
「おやおや、流れに乗っかっちゃったか…。滝の存在にも気付いたようだね、ピンチとなったらサイオンが研ぎ澄まされてくるらしい」
流れの先には川があるってこともあるのに、とクスクス笑う会長さん。確かに川なら湖よりも脱出しやすい雰囲気です。けれど教頭先生が乗った流れの先は滝。教頭先生、大ピンチでは…?
「お、おい…。まさかと思うが、その滝とやらは…」
自殺の名所じゃないだろうな、とキース君が繰り出したトンデモ発言。自殺の名所で滝っていうのがありましたっけ? 三大名所は崖が二つと樹海だったと思うのですが…。
「ふうん? 流石は副住職だね、マイナーな場所も押さえていたとは」
そこで間違いないんだけれど、と会長さんがスッパリ言い切り、私たちの方は目が点で。
「あんた、教頭先生を殺す気か!」
キース君が噛み付き、ジョミー君が。
「じ、自殺の名所って、落ちたら死ぬほど凄いわけ? そんな滝なわけ?」
「そうなるねえ…。なにしろ落差が百メートル近く」
流されて落ちたら確実にアウト、と会長さんは中継画面に見入っています。
「でもさ、最近はあそこで自殺は無いみたいだよ? やっぱり時間限定の滝はウケないのかもね、水がそこそこある時期なんかも夜間は止めたりするものだから…」
「そんな寝言を言ってる場合じゃないだろうが!」
流れが速くなってるぞ、というキース君の指摘どおりにスイレンの葉っぱは加速中。必死の形相で水を掻き続ける教頭先生の努力も空しく滝の方へとグングン流されているわけで。
「平気だってば、殺しやしないよ。ちょーっと死にそうな気分になるだけ」
「かみお~ん♪ ブルーのシールド、完璧だもんね!」
真っ逆さまでも壊れないもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお墨付き。ということは、このまま落っことすんですね? 滝から真っ逆さまなんですね…?
「そりゃもう、そのくらいしなくちゃね。でないとホントに気が済まないんだ、あの特注のフィギュアの御礼! ノルディに一晩可愛がられるか、滝から真っ逆さまかって目に遭わせないと!」
派手にトラウマになるがいい、と会長さんに助ける気持ちは皆無でした。まあ、死ぬわけではなさそうですけど、教頭先生の苦手はスピード。それに加えて落下となれば一生モノのトラウマかもです。特注フィギュアを作ったばかりに、こんな末路になろうとは…。
「ヒントをくれたのは君たちだろう? 親指姫のさ」
実に素敵なアイデアだった、と上機嫌で鼻歌でも歌い出しそうな会長さんと、今や「助けてくれ」と絶叫しながら流される教頭先生と。親指姫ってこういう結末でしたっけ? これじゃ童話のラストというより世界残酷物語では…。
「うん。親指姫ではないよね、これは」
可哀相に、と聞こえた声と優雅に揺れる紫のマントが今日ほど頼もしく見えた日はありませんでした。ソルジャーだったら会長さんを止められそうです。止めて下さい、お願いします! 特注フィギュアは教頭先生の持ち物だったんですから、恩返しに~!
教頭先生を乗せたスイレンの葉っぱは滝に向かって一直線。もうダメだ、と私たちが両手で目を覆った時、部屋の空気がフッと揺らいで。
「あーーーっ!!!」
酷い、と会長さんが中継画面の向こうへと怒鳴り、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はポカンと丸い目。そして私たちは見たのです。目もくらむ落差の滝を落っこちてゆくスイレンの葉っぱと、それと一緒に放り出されたピンクのドレスのお姫様を抱えて飛び去ってゆくソルジャーとを。
「と、飛んじゃったぁ…」
ビックリしたぁ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。会長さんも「そるじゃぁ・ぶるぅ」もサイオンの力で飛べますけれど、普段は瞬間移動です。それだけにソルジャーが見せた瞬間移動した先で空を飛ぶ技は歴戦の戦士ならではの凄いものとして映ったようで。
「凄い、凄いや、飛んでっちゃったぁ…。もうすぐ帰ってくるのかなぁ?」
おまけにシールドしていたよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は感動中。ソルジャーが空を飛んだ姿は一般人に見られないようにシールドされていたみたいです。ソルジャー、特注フィギュアの御礼に華麗に活躍してくれましたよ、これで教頭先生も…。
「ただいま。親指姫を助けて来たよ」
「……あ、ありがとうございました……」
本当に死ぬかと思いました、とリビングに現れた教頭先生が濡れ鼠で土下座しています。瞬間移動で戻って来たソルジャーは教頭先生を抱えてはおらず、隣に立っていただけなのですが。
「………。助けた以上は結婚だよ?」
親指姫のラストはそういうものだ、と会長さんが恨みがましく。
「特注フィギュアも貰った仲だろ、この際、結婚するんだね」
「えぇっ? それは困るな、ぼくはこれでも既婚者なんだし…。重婚はちょっと」
「事実婚って手もあるだろう!」
確か三人でやりたがっていたと思うんだけど、と会長さんは親指姫な教頭先生をソルジャーに押し付けるつもり。えーっと、本当にそれでいいんですか? 教頭先生がソルジャーの世界に行くんでなければ、色々と面倒なことになっちゃうような…?
「そうだよ、その子たちが思っているとおりだよ? ハーレイがぼくで味を占めたら君もヤバイと思うけどねえ、それでも結婚がオススメなわけ?」
そこまで言われたら断れないな、とソルジャーは艶やかな笑みを浮かべて。
「聞いたかい、ハーレイ? ぼくたち、結婚しなくちゃいけないそうだ」
「…で、ですが、私は一生ブルーだけだと決めておりまして…」
助けて頂いたのは有難いですが、と頭を下げるピンクのドレスの教頭先生に、ソルジャーが。
「ぼくもブルーだ。…君がその気になるまで待つから、ここは結婚してみないかい?」
ブルーの許可も出ているんだし、と微笑んだソルジャーの手に例のフィギュアが。
「ぼくのハーレイには暫くコレで我慢して貰って、ぼくは君と……ね。悪い話じゃないと思うな、今日から色々教えてあげるよ」
こっちのブルーと大人の時間を過ごすためのコツとか過ごし方とか、と耳元で熱く囁かれた教頭先生がブワッと鼻血を噴いてしまわれ、会長さんが。
「退場! 結婚の話は無かったことに!!」
「嫌だね、ぼくはその気になったんだ。特注フィギュアを作るセンスはぼくのハーレイには無いからねえ…。この結婚から得るものは多い。だから結婚させて貰うよ」
親指姫のラストに相応しく…、と開き直ってしまったソルジャー、結婚する気満々です。教頭先生も滝から真っ逆さまのピンチからさほど時間が経っていないだけに、まだ冷静ではないらしく。
「こ、これも何かの御縁でしょうか…。不束者ですが、どうぞよろしく…」
「あっ、君もその気になってくれた? それじゃ早速、愛の巣へね」
君の家へお邪魔しようかな、とソルジャーが教頭先生の手を取った所へ。
「ま、待って下さい、ブルー!!!」
転げ込んで来たキャプテン服の人物が一人と、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のそっくりさんと。
「け、結婚はぶるぅがするそうです! 親指姫のラストは姫を救ったツバメが王子様の所へ運ぶのですから、名乗りを上げてくれまして! あなたのパートナーは私一人でお願いします!」
「かみお~ん♪ ぼく、ハーレイに頼まれたの! ブルーの代わりに結婚しろって!」
一度結婚してみたかったの、と「ぶるぅ」の瞳がキラキラと。
「ハーレイ、ぼくと結婚しようね、それならいいでしょ?」
「ぶ、ぶるぅ…。そうか、お前もブルーの内だな……」
それもいいか、と教頭先生、アッサリ承諾してしまいました。おませな「ぶるぅ」は大喜びで。
「わーい、親指姫と結婚だぁ! お花の土鍋を特注しなくちゃ、ハーレイ用だよ♪」
「う、うむ…。特注は実にいいものだからな」
幸せになろう、と教頭先生、滝から真っ逆さまのショックで今も盛大に混乱中。えっと、特注はフィギュアです! 土鍋じゃなくってフィギュアなんです、教頭先生、落ち着いて! 会長さんも笑っていないで止めて下さい、絶対、何かが間違ってますぅ~!
可憐な親指姫・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
教頭先生が落っこちて行った滝にはモデルがあります、日光の華厳の滝がそうです。
多少脚色してはいますが、いつも流れてはいないのでした…。
次回、3月は 「第3月曜」 3月16日の更新となります、よろしくです!
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こちらでの場外編、2月はドクツルタケことイングリッドさん、再登場…!
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