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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

宇宙で休日を・第3話

居心地のいい部屋を後にして向かった公園には既に大勢のクルーが集まっていました。三日間も続く勝負の間、纏う衣装が決まるとあれば誰だって気になるでしょう。会長さんはにこやかに挨拶しながら公園の中央に向かってますけど、前哨戦って何をするのかな?
「待ちかねたぞ、ブルー! …いや、ソルジャー」
特設ステージに立っていたのは長老服のゼル先生です。その後ろにはキャプテンの制服の教頭先生を始め、長老の先生方がズラリと…。会長さんはステージの階段に足をかけ、私たちにもついて来るよう合図してからステージの上へ。
「そっちはスタンバイ出来てるようだね。選手は誰かな?」
「ソルジャー、それは反則なのでは?」
選手は同時に発表です、と教頭先生が返すと、会長さんは。
「やっぱり引っ掛からないか…。それと敬語とソルジャー禁止! 他のクルーは仕方ないけど、みんなはシャングリラ学園流でお願いしたいな。なんだか調子が狂いそうだ」
「ほほう…。では、あえてソルジャーとお呼びしますかな?」
それも戦術かと存じますが、とヒルマン先生が言えば、ブラウ先生が。
「面白いかもしれないねえ。でもさ、やっぱり普段通りが肩が凝らなくていいじゃないか。ブルーはブルーさ」
「ありがとう、ブラウ。だけど御礼に手加減したりはしてあげないよ?」
「そうこなくっちゃ。あんたが静かじゃつまらないしね」
ソルジャーと呼んだら借りて来た猫になっちまう、と豪快に笑うブラウ先生。でも…会長さんはソルジャー扱いでも好き勝手にやらかしているような? 去年も一昨年もGWのシャングリラ号は賑やかで…。あ、そういえば長老の先生方は敬語を使っていなかったかも!
『そうなんだよね。他のクルーだと敬語でもソルジャーでもいいんだけどさ』
ハーレイたちにやられると寒いんだ、と会長さんの思念波が。途端にピーッと電子音。
「ブルー、何か悪口を言いおったな?」
分かっておるぞ、とゼル先生がステージの床を指差して。
「サイオン検知装置を仕込めと言ったのはお前じゃろうが。悪口はともかく、いざ勝負じゃ! 選手は決まっておるんじゃろうな?」
「うん、ぼくの独断と偏見で」
えっ。私たちは顔を見合わせました。選手って…誰? 何の勝負かも分からないのに…。けれどブラウ先生が進み出ると。
「よーし、それじゃ選手は前へ! 勝負は早食い競争だ!」
な、なんと! どうなるんだ、と思った途端に会長さんがジョミー君の背中を押して。
「君が出たまえ。他の子たちはファミレスでたらふく食べていたからねえ…。君の胃が一番余裕があるんだ」
「ぼ、ぼく? ぶるぅの方がいいんじゃあ…」
「ぶるぅは桁外れに食べられるから、最初から外されていたんだよ。とにかく頑張ってくるんだね。…ぼくたちの衣装は君の胃袋にかかっているのさ」
負けたらハーレイたちが選んだ衣装だ、と肩を叩かれたジョミー君の対戦相手は教頭先生。これって不戦敗とか言いませんか? まるで勝てる気がしないんですけど~! ん? 食べるパンを選ぶことが出来るのかな? 教頭先生とジョミー君がジャンケン勝負をしています。で、でも…。
「「「……負けた……」」」
ジョミー君は教頭先生にアッサリと負け、教頭先生は余裕の笑みで二つのパンの片方をチョイス。気持ちサイズが小さめです。もうダメ、この勝負、最初から負けに決まってますよ~!

「では、ジョミーの強運を称えて乾杯!」
会長さんがグラスを差し上げたのは私たちに与えられた部屋に戻ってから。早食い競争は運も勝負の内だったとかで、パンは二種類あったのでした。片方はジャムパン、もう片方はカレーパン。ジャンケンで勝った教頭先生がチョイスしたのはジャムパンで…。
「サイオン検知装置を仕込んでおいた甲斐があったよ。パンの中身を透視されたらおしまいだからね。あそこでハーレイがカレーパンを選んでいたらジョミーの負けだし、透視が出来ないジョミーが勝ってジャムパンを選んでいてもジョミーの負け。…ハーレイがジャムパンだったから勝てたんだ」
会長さんは御満悦です。甘いものが苦手な教頭先生、早食い競争だと分かってはいてもジャムパンを猛スピードで食べ尽くすことが出来ずに惨敗。お蔭で前哨戦は私たちの勝利に終わったわけですが…。
「あれっ、嬉しくないのかい? 記念すべき第一戦に勝ったのに」
「そりゃあ……勝ったけどさぁ…」
乾杯なんて気分じゃないよ、と膨れっ面のジョミー君。私たちも勝利の美酒とは全く言えない気持ちでした。いえ、グラスの中身は元からお酒じゃないですけども…。
「かみお~ん♪ みんな似合ってるよ? もしかしてウサギさんの方が良かった? ごめんね、ブルーが勝手に決めちゃって…」
だけどブルーが大将だし…、と謝る「そるじゃぁ・ぶるぅ」にキース君が。
「いいんだ、ウサギでも大して変わらんからな。…いや、ウサギの方がもっと酷いか…」
「決まってるじゃないか! こっちの方がまだマシなんだよ」
でもイヤだ、と叫ぶジョミー君の頭には黒い猫耳がくっついていました。キース君もサム君も、マツカ君もシロエ君も…みんな頭に猫の耳。いわゆる猫耳カチューシャです。もちろん私の頭にだって…。グラスを掲げて御機嫌な会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭上にも。
「猫耳、いいと思うんだけどなぁ。ぼくたちのチームは猫耳、長老チームはウサギ耳! これだと頭に乗っけるだけだし、制服の邪魔にならないんだよ」
名案だろう? と自画自賛する会長さんの説明によると、一見して同じに見えるクルーの制服にも実は違いがあるのだそうです。肩や袖にシャングリラ学園の校章に似たマークがついている人とそうでない人、それぞれ役職が違っていたり…。
「耳だとマークが隠れたりすることはないだろう? それにパッと見てどちらのチームか一発で分かる。ランチタイムが済んだら本格的な勝負開始で、自分が対戦相手に勝ったら自分側の耳に付け替えさせると宣言したし…。猫耳の人で溢れ返ったらぼくたちが優勢、ウサギ耳が多いようなら巻き返さないと」
いろんな意味で便利なんだよ、と語る会長さんは猫耳にまるで抵抗が無いようです。
「猫耳には特に嫌な思い出も無いからねえ…。ウサギの耳ならあるけどさ」
「待て! その先は言うな」
俺たちだって聞きたくない、とキース君が遮りました。この中で誰が一番ウサギの耳が嫌かと言えば恐らくキース君でしょう。一時期、エロドクターまで乗り出してきたほどに流行りまくったウサギ耳。その正体はバニーガールの仮装で、最初にそれをやらされたのがキース君です。会長さんはクスッと笑って…。
「なんだ、やっぱり覚えてたのか。大丈夫、今回は耳だけだから! だけど勝負は真剣にね。今回も勝ったチームには賞品が出るんだ」
「えっ、ホント!?」
ジョミー君が一気に立ち直り、私たちも浮上しました。シャングリラ号での賞品と言えば超豪華! 地球で使える旅行券とかが惜しみなく出るのがお約束です。これは頑張って勝たないと…。猫耳ごときでヘコんでいては運が逃げるじゃないですか!
「分かってくれたみたいだね。じゃあ、改めてジョミーの強運にあやかるためにも…乾杯!」
「「「かんぱーい!!!」」」
カチン、とグラスを合わせてジュースを飲み干す私たち。そろそろランチタイムです。これが終わると対戦開始。ウサギ耳の人を猫耳に付け替えさせるための予備の猫耳は私たちにも配られていますが…。
「そうだ、長老の先生たちが考えてた衣装って分かりますか?」
何だったのか気になります、とシロエ君が会長さんに質問しました。それは私も知りたいです。ジョミー君たちも興味津々! 会長さんは「知ってるよ」と微笑んで。
「あっちが用意していたヤツはゼッケンと鉢巻だったんだ。それも紅白。ハーレイたちが白で、こっちを赤にする気でいたらしい。…そんなダサイのは御免だよ。それに赤は年寄りチームが着けるべきだと思うんだけどねえ?」
還暦の赤に健康長寿の赤パンツ、と論っている会長さん。えっと…赤か白かはともかくとして、ゼッケンと鉢巻って運動会とかで普通に使うじゃないですか! 猫耳なんかよりも余程マトモかと…。
「「「…そっちの方が良かったです…」」」
揃って呟いた私たちの声は無視されました。こんな結果なら前哨戦は負けてしまった方が良かったのでは? けれど初戦で敗北というのも全体の士気に関わりますし、この機を逃さず勝ち進むしか…。えーい、猫耳で目指せ、豪華賞品!

ユニフォームならぬ猫耳をつける羽目に陥ってしまった私たち。この格好で部屋の外に出るのは憂鬱ですが、長老チームと勝負するには出て行かないといけないのです。快適なお部屋に引き籠っていては勝負の機会を逸しますし…。
「この部屋と青の間には長老チームは立ち入り禁止! 逆にぼくたちはブリッジがダメだ。それと長老たちの部屋だね」
それ以外の場所は何処で勝負を挑んでもいい、と会長さん。もちろん逆に挑まれることもあるわけです。どんな勝負が待っているのか、それは挑戦者次第であって。
「君たちの方から仕掛けていってもいいんだよ? ハーレイ相手に果たし状を出して公園で柔道一直線とか」
「…遠慮しておく」
そんなことをしたら確実にウサギの耳にされてしまう、とキース君が呻きました。そう、私たちが負けたら猫耳はウサギの耳と交換しなくてはなりません。君子危うきに近寄らず。負けが見えている勝負はしないが吉です。
「慎重だねえ…。まあ、とりあえずお昼ご飯を食べに行こうか。ランチタイムが終了したら食堂だって戦場だ」
あそこにもウサギ耳のクルーがいる、と会長さんに指摘された私たちは食堂へ急ぎ、ランチを注文。なるほど、注文を取りに来た女性クルーはウサギの耳をくっつけています。でも全員がそうというわけでもなくて…。
「だってクジ引きで決めたわけだし、猫とウサギはランダムだよ。…ん?」
会長さんの視線がテーブルに釘付けになりました。今日のランチはカツレツですけど、お皿が並べられた隣に伏せて置かれているのは一枚の紙。此処で伝票は無い筈なのに…。
「なんだろう?」
紙を表返した会長さんの目が丸くなり、それからクスクス笑い始めて。
「早速挑戦状とはね…。ランチタイムが済んだら勝負を挑ませて頂きます、って書いてある。皿洗いで勝負するらしい。どちらが早く洗い上げるか、是非ともお願いします…ってさ」
「「「皿洗い!?」」」
そんな勝負もアリですか! ここは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に受けて立って欲しい所です。家事万能ですし、華麗に勝つと思うんですけど…。ところが会長さんは人差し指をチッチッと左右に振って。
「向こうもきちんと考えてるさ。ぶるぅ相手じゃ敗北は必至。対戦相手は話題のお坊さんチームにしたいと書いてあるよ」
「お、お坊さんチームって…」
ぼくたちのこと? と情けない声を出すジョミー君。いくら広報誌で特集記事を組まれたとはいえ、「お坊さん」で一括りにされるのは不本意でしょう。けれどクルーの方からすればジョミー君たちは「お坊さんチーム」。名指しで勝負を挑まれた以上、知りませんでは済みません。
「御指名を受けたからには頑張って洗いまくるんだね。キースは柔道部の合宿で皿洗いも経験していることだし、いい線いくと思うんだ。それより何より、負けたらウサギの耳になるのは君たち三人。ぼくも含めて他のみんなは無関係!」
連帯責任じゃないんだから、と会長さんに冷たく言われたジョミー君たちは厨房の方を眺めて深い溜息。なんと言っても対戦相手は皿洗いのエキスパートです。卑怯なり、と文句をつけたくなるのは山々ですが…。
「どんな形で勝負するかは切り出した方のアイデア次第。負けちゃった時は勝てそうな戦法を考え出して雪辱戦をするしかないさ」
勝ち負けは時の運なんだから、と会長さん。やがてランチタイムが終わって、全艦放送でブラウ先生が。
「さあ、お待ちかねの勝負の時間が始まるよ! 猫耳が勝つか、ウサギの耳か。…始めっ!」
カーンとゴングの音まで入って真剣勝負の開幕です。ジョミー君たちは厨房のスタッフ三人に皿洗い勝負に連行されて…。
「………。要するに、派手に負けたわけだね」
会長さんの視線がジョミー君たちの頭上に注がれています。三人の頭には猫耳の代わりにウサギ耳。キース君が不満そうに。
「俺は決められた量の皿とカップを一番に洗い上げたんだ! なのにジョミーとサムがグズグズと…。でもって、勝負はチーム単位のものだから、と俺までウサギにされてしまった」
「なるほどねえ…。お坊さんチームだから仕方ないか」
諦めたまえ、と会長さん。開戦早々、負けてしまったジョミー君たちに巻き返しのチャンスはあるのでしょうか? それに明日は我が身という話も…。全員ウサギになってしまう前に、急いで撤退しなくっちゃ~!

長老チームは立入禁止の部屋へと戻る途中は生きた心地がしませんでした。あっちにもこっちにもウサギ耳のクルーがいるのです。もしも勝負を挑まれたなら断ることは出来ないわけで…。
「くっそぉ…。なんで最初から負けるんだ!」
部屋に入るなりキース君が悔しそうにテーブルを叩きました。自分は勝ったのに連帯責任でウサギ耳では、やり切れないものがあるのでしょう。ジョミー君とサム君は申し訳なさそうに項垂れていますが、会長さんは可笑しそうに。
「ウサギの耳が嫌だったんなら挑戦すればよかったのに。誰に挑んでもいいんだよ? 通路に何人もウサギがいただろ、ジャンケンしてみれば猫耳に戻れていた…かもしれない」
「そこで負けたらウサギの耳がダブルになってしまうんだろうが!」
キース君の叫びにアッと息を飲む私たち。確かにもう一度ウサギに負ければ耳がダブルになりそうです。そういう場合は二つ同時に着けるとか…? 恐る恐る会長さんに尋ねてみると。
「もちろんダブルさ。更に負ければトリプルになるし、頭にくっつけるには多すぎる量の耳を持つ羽目になる…かもしれない。そういう時はね…」
会長さんがそこまで説明してくれた所でピーッという音が鳴り響きました。公園で聞いたサイオン検知装置の警告音に似ています。なんで此処で? と思った途端に部屋に開いたのはスクリーン。シャングリラ号独特の、円形で縁に葉っぱをくっつけたようなデザインで…。
「コッソリ付け替えは反則ですわよ?」
スクリーンの中で微笑んでいたのはフィシスさんでした。
「今のはジョミーへの警告ですわ。手持ちの猫耳と取り替えようとしたでしょう?」
「「「え?」」」
指摘を受けてジョミー君を見れば、確かに右手に猫耳が。私たちが勝った場合に敗者に着けさせる猫耳です。ジョミー君ったら、なんて姑息な真似を!
「ち、違うよ! この部屋は中立地帯だって言うし、休憩中くらいウサギの耳を取ってもいいかなぁ…って思っただけで!」
「そうかしら? あわよくばこのまま誤魔化せないかな、と思っていたから警告させて頂きましたわ。…ブルー、しっかり監督しないと反則負けになりますわよ」
気を付けて、と通信が切れるとスクリーンも消え、ジョミー君が猫耳を手にしたままで。
「い、今の通信は何だったの? 警告だって言っていたけど、ぼくたちって監視されてるわけ?」
「監視対象は君だけじゃないよ」
艦内全部だ、と会長さんが答えました。
「猫の耳にもウサギの耳にも思念波の検知装置が仕込まれている。不正に外そうという考えを起こすと反応する仕組みになってるのさ。それを監視して警告するのがフィシスの仕事。補佐役のリオと一緒に天体の間で頑張ってるよ」
「「「………」」」
「ついでに多すぎるほどの耳を持つことになった人の管理もフィシスの管轄。これ以上は頭に載せられない、という状態に陥った時は増殖した耳を天体の間で一時預かり」
あちゃ~。載せきれないほどのウサギの耳って考えたくもありません。みっともない姿になりたくなければ勝負に勝たねばならないのです。既にウサギ耳になってしまったキース君たちの場合は猫耳に戻る所から始めなければ…。
「やっぱり負けが込んだらウサギの耳が増えるのか…」
困ったものだ、とボヤいたキース君に会長さんが。
「だけど増殖を恐れて勝負を投げればウサギの耳のままだからね? まあ、ウサギならサムとジョミーも現時点ではウサギだし……どっちかに勝てば猫耳に戻れないことはない。負けた方はウサギ耳がダブルだけどさ」
おおっ、そんなのもアリですか! あれ? でもサム君もジョミー君も猫耳のスペアは持ってますけどウサギの耳は持ってませんよ? 首を傾げる私たちに向かって会長さんは。
「その辺のフォローもフィシスたちの仕事! 手持ちの耳が足りないという思念も天体の間に伝わるからね、すぐに追加が届くんだ。ぼくとぶるぅが配達係さ」
瞬間移動で待たせずお届け、とウインクされて背筋が寒くなりました。こんな勝負が三日間も続くんですって? 勝てる自信が無いんですけど、私たち、これからどうなっちゃうの…?

ウサギの耳と猫の耳。休戦になるのは夜間だけです。他の時間はもれなく熾烈な戦いが続き、私たちの頭の上にはウサギ耳が載ったり、猫耳に戻ったりと大忙し。ソルジャーである会長さんの悪友という認識だけでも目立っているのに、今をときめくお坊さん三人組までいたのでは…。
「なんとか全員、猫耳に戻れたみたいだねえ?」
会長さんがそう言ったのは勝負の最終日の朝のこと。いわゆる端午の節句の日です。今日の正午で勝負は終わりと聞いていますし、後は猫耳を死守していればいいんですよね?
「そういうことになるのかな。欲を言えばもうちょっと積極的に挑んで欲しい所だけれど…。実は大接戦になってるんだよ」
ほら、と会長さんの指が閃き、私たちの休憩室である中立地帯にスクリーンがパッと出現しました。そこに映し出されたデータは天体の間でリアルタイムで集計中のウサギ耳と猫耳の勢力図。何度か目にしてきましたけれど、これは確かに大接戦です。ウサギ耳と猫耳がほぼ同数。
「猫耳が少しリードしてはいる。だけど何が起こるか分からないしねえ? まあ、君たちが頑張ったって他の誰かが派手に負ければ猫耳チームの負けなんだけどさ…」
僅差で負けるのは嫌なんだ、と会長さん。けれど迂闊に勝負を挑んで逆に負けたら大変ですし…。
「ダメダメ、それじゃ勝てないよ。今日までの勝負で分かっただろう? 挑戦する方が有利なんだ。自分の土俵で戦えるから」
言われてみればその通りです。そうなると期待の星はキース君率いるお坊さんチーム。キース君がシャングリラ号の中で書き上げた勤行用のお経をズラリとコピーした冊子が武器でした。これを勝負の相手に渡して、淀みなく読み上げた方の勝ち。私たちだって強化合宿などのお蔭で素人さんよりはマシに読めますし…。
「「「頑張ってきまーす!」」」
こうして私たちの最終日の勝負は読経三昧。途中で挑まれたジャンケン勝負で敗北した分も読経勝負で取り返しましたし、猫耳チームの勝利は確実でしょう。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」も広いシャングリラ号の何処かで最後の戦いをしている筈です。そして正午の時報が艦内に響き、天体の間からフィシスさんの放送が。
「間もなく結果発表を行います。手の空いている方は公園の特設ステージ前までお越し下さい」
「へえ…。公園で発表なんだ」
前哨戦も公園だったね、とジョミー君。あそこでチーム分けは猫耳とウサギ耳だと決定してから長かったですが、それもようやく終わりの時が。勝ったら何が貰えるのかな? ドキドキしながら私たちは揃って公園へ。すると入口にリオさんが立っていて…。
「皆さんは特設ステージに上がって下さい」
「「「え?」」」
「勝負がつかなかったんですよ。大将チームの対決になります」
「「「えぇぇっ!?」」」
た、大将チームって……私たちと長老の先生方との対決ですか? 今度こそ負けるに決まってますよ…。それにしてもなんで勝負がつかなかったんだろう、と話し合っていると。
「やあ。リオから話は聞いているよね? 一緒に行こう」
現れた会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」はウサギの耳を着けていました。よりにもよって最後の最後で負けたんですか、大将とその側近が…?
「だってさ、二人差で猫耳チームが勝ちそうになっていたんだよ」
しれっと言ってのける会長さんに、キース君が。
「二人差で負けそうだったから挑みに行ったと言うなら分かる。なんで勝ち戦なのに負けに行くんだ!」
「決勝戦をやってみたくてねえ…。大差だったら諦めるけど、接戦となればヤラセでいける。わざと負けるのも楽しいものさ」
足取りも軽く特設ステージに向かう会長さんは何を考えているのでしょう? わざと負けてまで決勝戦を希望だなんて、それって一体どんなものなの?

特設ステージの上にはウサギ耳を着けた長老チームが勢揃い。私たちがステージに上がるとリオさんとフィシスさんもやって来ました。この二人は審判みたいな役割ですからウサギでも猫でもありません。公園に集まっているクルーの方は猫とウサギが半々で…。
「それでは発表いたしますわね。猫とウサギは同数でした」
フィシスさんの声に広がるどよめき。どうなるんだ、と騒ぐ人々をリオさんがマイクを握って制して。
「勝者は大将チームの対決によって決まります。対戦方法は予め届け出済みとなっていまして、前哨戦を制したチームが提出した案が採用されます」
え。なんですか、それは? 私たち、何も聞いてませんが…。会長さんの方を盗み見てみるとニヤニヤしているのが分かります。と、フィシスさんがリオさんに封筒を渡しました。
「対戦方法は封印されておりましたので、私たちも何か知りません。こちらがソルジャー・チームからお預かりした封筒です。…では、発表させて頂きます」
封筒の中身を取り出したリオさんがウッと息を飲み、それから大きく深呼吸をして。
「対戦方法はポッキー・ゲーム! ポッキー・ゲームと決まりました!」
「「「えぇぇっ!?」」」
ポッキー・ゲームって、一本のポッキーの両端を二人で咥えて齧っていって、先に口を離した方が負けだって言うアレですか? 大将チームの戦いってことは、会長さんと教頭先生が…?
「いかん、いかんぞ!」
わしは反対じゃ、とゼル先生が叫んでいます。
「ブルーとハーレイにポッキー・ゲームなぞさせられんわ! 万一のことがあったらどうするんじゃ!」
「楽しいじゃないか、そういうのもさ」
ニッコリ笑う会長さん。
「それとも団体戦にしてみるかい? 団体戦だと同じチームの中で二人組を作るんだよね。でもって残ったポッキーが短い方のチームが勝ち…、と。ただし団体戦は目を瞑ってポッキーを齧る決まりだ。不幸な事故でキスする羽目になっても気にしないんなら団体戦で」
「「「!!!」」」
今度は私たちが猛烈に抗議する番でした。どう組んだって事故った時には悲劇です。長老の先生方も同じ考えだったらしくて、団体戦の話はお流れに。ということは、決勝戦は…。
「位置について!」
リオさんが何処からか調達してきたポッキーを差し出し、ウサギ耳を着けた会長さんと教頭先生が向かい合いました。まずはポッキーを咥える所から。会長さんが片方の端をヒョイと咥えて上目遣いに教頭先生を見ています。その教頭先生は耳まで赤くなり、額に汗が噴き出していて…。

「勝者、ソルジャー・チーム!」
リオさんの声が高らかに響き、猫耳のクルーたちが大歓声。特設ステージの上には教頭先生が仰向けに倒れ、ゼル先生が忌々しげに蹴りつけながら。
「万一のことなぞ心配するだけ損じゃったわ! ええい、不戦敗になりおって! だらしない!」
教頭先生はポッキーを咥える寸前に鼻血を噴いて倒れてしまい、私たちのチームが勝ったのです。会長さんが決勝戦に持ち込みたかった理由はコレでしたか…。
「だってさ、最高に素敵だろ? ハーレイの鼻血を大公開! 撮影していた人も多いし、次の月刊シャングリラでは特集記事が組まれるかもね」
上機嫌で頭のウサギ耳を引っ張っている会長さんに、キース君が。
「キャプテンの威厳はどうなるんだ! あんた、一応、ソルジャーだろうが!」
「クルーの心を掴んでおくのもキャプテンの重要な仕事の一つだって前にも言わなかったっけ? ポッキー・ゲームで鼻血で失神って美味しいネタだと思うけどな」
恥ずかしいのは本人だけ、と会長さんは涼しい顔です。
「月刊シャングリラは新鮮なネタが売りなんだ。猫耳とウサギ耳の勝負もいい記事になるよ。あちこちで写真が撮られていたのは知っていた?」
げげっ。それは気付いていませんでした。クルー同士の記念撮影だと思っていたのに、あれって取材?
「決まってるだろう、シャングリラ号を挙げてのお祭り騒ぎを取材しないでどうすると? ああ、今回は君たちは特に協力していないから家のポストに届きはしないさ」
安心して、と言われても…。ウサギ耳やら猫耳やらの写真が記事になるのは確実です。ソルジャー・チームの代表として扱われていたわけなんですから、何処にも逃げ場がありません。
「…どうしよう…。お坊さんの次は猫耳だよ…」
ジョミー君が嘆けば、キース君も。
「ウサギの耳の方かもしれんぞ。畜生、二ヶ月続けて時の人ってか…」
災難だ、と頭を抱えるキース君たちの隣で私たちも泣きそうな気分でした。これから豪華賞品が発表されるそうですけども、それよりも記事を消したいです。賞品なんて……賞品なんて…。
「おや、要らない? 今回は本当に豪華なんだよ」
地球で使える金券がこんなに…、という会長さんの声で思わず歓声を上げてしまった私たち。その瞬間にフラッシュが光り、「笑って下さーい!」と注文が。ええい、こうなったらスマイル、スマイル! 今年のGWは宇宙で猫耳、ウサギ耳です~!




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