シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
会長さんの追跡を振り切ってエロドクターの写真を撮りに出掛けたソルジャー。翌日の放課後、私たちは戦々恐々として「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に入りました。会長さんがショックを受けて沈没していなければいいんですけど…。ソルジャーが単独行動を取った場合はロクな結果になりませんから。
「かみお~ん♪ 今日のおやつは桜のシフォンケーキだよ!」
マザー農場で生みたて卵を貰ったから、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコ顔です。そういえばソルジャーが朝食にホットケーキをリクエストしてて、そのために卵を貰いに行くとか聞きましたっけ。この様子では昨夜は何事もなかった…のかな?
「…なかったんだと思いたいね」
ソファに座っていた会長さんがフウと吐息をつきました。
「ぼくは結局、ブルーの行動を把握することが出来なかった。夜遅くにフラッと帰ってくるなり、おやつを寄越せと言い出して……ぶるぅがフルーツサンドを作ったんだ。そしたらお皿を持ってプリンターのある部屋に籠っちゃってさ。出て来た時にはカメラのデータは消されていたし、プリントアウトされた写真も見てない」
「じゃあ、写真は…?」
恐る恐る尋ねたジョミー君に、会長さんは。
「撮って来たらしいよ。見てみるかい、と言われたけれど…ノルディの写真なんか見たくもないし」
白衣かスーツ姿ならともかく、と会長さんは仏頂面です。ドクターの手足をサイオンで呪縛できる人形を作るためには素肌の露出が必要不可欠。腕と足をむき出しにしたドクターの写真なんて会長さんが見たくないのは無理ありません。
「…自己顕示欲丸出しの写真なんだと思うんだよね」
会長さんは嫌悪感に溢れた顔で言いました。
「ノルディはジムで鍛えてるから身体に自信を持っている。手足の写真を撮らせて欲しい、なんて言われたら大喜びでポーズをとるよ。…どんな人形が出来上がるのか知らないけれど、呪縛はキースに任せようかな」
「俺!?」
驚いて自分を指差すキース君。
「そう。君が適任じゃないかと思って…。今後はともかく、健康診断の結果を聞きに行く時はボディーガードに委ねておくのが一番だ。ぼくが不埒な真似をされそうになったら、即、呪縛」
「ちょっ……ちょっと待て! 俺のサイオンはまだ不安定だぞ? 坊主頭のサイオニック・ドリームも十分にキープしきれない状態なのに、そんな高度な…」
「大丈夫。花祭りの時と同じだよ。ぼくがサイオンで仕掛けをするから、君はノルディの像を押さえればいい。手とか足とかをギュッと掴むだけで効果を発揮できると思う」
それでダメなら殴るだけだ、と会長さん。
「像を殴れば確実にダメージを与えられる。気絶するか、激しい痛みで座り込むか…。それとも藁人形風の方がいい? 痛覚とシンクロさせて針でつつけば大ダメージっていう仕掛けを施しておくのがいいかな?」
「い、いや…。普通でいい! とにかく押さえればいいんだな? 分かった、なんとかやってみよう。人形を上手く使えなかったら俺が自力で投げ飛ばすだけだ。それだけの覚悟は出来ている」
キース君は決意を固めたようです。ソルジャーがどんな人形を作ってくるのか謎ですけども、効果抜群な人形だったらエロドクターの脅威が減るかも…?
それから平凡な日々が流れてアッという間に水曜日。会長さんが診断結果を聞きに行く日です。授業を終えた私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に集まり、腹ごしらえと称してお好み焼きを食べ始めました。そこへユラリと空気が揺れて…。
「こんにちは」
紫のマントを翻してソルジャーが優雅に近付いてきます。
「今日はお好み焼きなんだ? ぼくは海老入りのヤツがいいな」
「かみお~ん♪ 海老入りだね!」
早速焼き始める「そるじゃぁ・ぶるぅ」。ソファに腰を下ろしたソルジャーの手には四角い箱がありました。大きさからして中身はきっとドクターの…。ゴクリと唾を飲み込む私たちをソルジャーの赤い瞳が見渡して。
「…うん、ノルディの人形が入ってる。でも……。ごめん、ブルー」
「「「えっ?」」」
ソルジャーの謝罪なんて耳にしたのは初めてでした。すまなそうに頭を下げるソルジャーの顔は真面目そのもの。いったい何を謝ることが…? 少し間を置いて会長さんが。
「…ごめんって……何さ?」
「だから、ごめん。…ノルディの人形、作ってあげるって言ったよね。だけど失敗しちゃったんだ。人形はここに持って来たけど…」
箱をテーブルに乗せるソルジャー。
「この人形、全然効果が無いんだよ。君に教わったとおりにしたのにダメだった。やっぱり修行を積んでいないと無理ってことかな…」
「効果って…。試したのかい? ぼくに無断で?」
会長さんの問いにソルジャーは謝罪の言葉を重ねてから。
「だって気になってしまうじゃないか。上手く出来たのかどうなのか…って。ごめん、期待させといて失敗だなんて」
「いいよ、あったらいいなと思っただけの人形だしね。でもいつの間に実験したのさ? こっちに来たなら寄ってくれればよかったのに。ぶるぅはお客様が大好きだから。ねえ、ぶるぅ?」
「うん! ぼくも遊びに来てほしかったな、ぶるぅと一緒に」
「ありがとう。そう言ってもらえると気が楽になるよ。…でも実験はこっちの世界でやったんじゃない。ぼくの世界で試してみたんだ」
見事に失敗しちゃったけどね、と箱を眺めるソルジャーに向かって会長さんが。
「君の世界って…。まさかそっちのノルディを使って実験を?」
「そう。仕事の虫で澄ました顔をしているけども、実はスキモノだったりして…と気になっていたものだから…。こっちのノルディは淫乱だしさ。だけど全く効果なし」
「「「………」」」
ソルジャーが何をやらかしたのか、知りたいとも思いませんでした。けれど会長さんは立ち直りも早く、ソルジャーの前から箱を素早く引っ手繰って。
「キース、ノルディの人形は君に預ける。さあ、これを…」
箱の蓋を取った会長さんがそのままの姿勢で凍り付いてしまい、クスクスクス…とソルジャーの笑いが零れます。
「失敗作でも良しとしておくよ、君にはウケたようだしね。ぼくの力作、いい出来だろう?」
青いサイオンの光に包まれたドクターの像が箱の中からフワリと出てきてテーブルの上に鎮座しました。教頭先生の人魚像と同じくらいの縮小サイズみたいですけど、会長さんが読んだ通りに自信満々のポージング。しかも一糸纏わぬ姿だなんて、会長さんが硬直するのも当然と言えば当然かも…。
「ふふ、ぼくが写真を撮りに行ったらノルディが自分で言ったんだ。どうせ比較するなら全身くまなく比べませんか…って。ポーズも自分でとってくれたし、有難く沢山写真を撮らせて貰ったわけ。…この後かい? もちろんベッドに誘われたからサービスしようかと思ったけれど…。ぼくがサービスされちゃった」
「「「サービス!?」」」
エロドクターのサービスだなんて想像したくもありません。会長さんの動揺は激しく、ソルジャーがクッと喉を鳴らして。
「そうか、失敗作じゃなかったのか…。この人形は使えるんだ? こっちのノルディ限定で」
「―――!!!」
会長さんが息を飲み、掠れた声で。
「…ど、どうしてそれを…」
「君が仰天している間に遮蔽が弱くなってたからね、ちょっと心を読ませて貰った。キースに預けるって言った辺りでどうも怪しいと思ったんだ。…この人形はモデルになった人間にしか効かないんだね。姿形が瓜二つでも、ぼくの世界のノルディじゃダメだというわけか」
「…………」
「せっかく仕組みが分かったんだ。キースに預けておくのは惜しい。この人形はぼくが使うよ、今日だけね。次からは君の好きにするといい」
言い終えるなりソルジャーの手の中にドクターの像が瞬間移動で出現しました。
「それじゃノルディの所に行こうか。そろそろ時間なんだろう? 心配しなくても君の身は守るさ、そのために作った人形だから」
ほら早く、と像を手にしたまま会長さんの制服にサイオンでパッと着替えるソルジャー。壁の時計は確かに約束の時間に近付いています。私たちは冷めかけていたお好み焼きを大急ぎで食べ、みんなで校門へ向かいました。タクシーに分乗して行先はドクターの自宅に接した診療所。ソルジャーがドクターの人形を手にしているのは吉と出るのか、それとも大凶…?
診療所には今日もドクターだけしかいませんでした。ドクターはソルジャーを目ざとく見つけて両手を広げ、「先日はどうも」と嬉しそうな笑み。
「如何でしたか? あなたの世界のノルディとの違いは見つかりましたか?」
「そうだねえ…。なにしろ脱いでくれないからね、入浴中に盗み見するしかないものだから……まだなんとも」
「同じ私とも思えませんね。無粋な男だ。あなたに誘われて脱がない男などいないでしょうに」
呆れたものです、と首を振るドクターとソルジャーの間に何があったのかは聞くだけ野暮というものでしょう。しかもソルジャーは例の人形を何処かに隠してしまったらしく、ドクターは何も気付いていません。ドクターが次に矛先を向けたのは勿論会長さんでした。
「ブルー、先日の健康診断の結果ですが…。どうぞ診察室へお越し下さい。よろしければお一人で」
「お断りだよ。今日も全員、付き添いなんだ」
年寄りには付き添いが要るからね、と私たちをお供に診察室に入る会長さん。ドクターは会長さんを椅子に座らせ、あれこれ結果を説明してから…。
「残念ながら今回も異常はありませんでした。また一年間あなたを診察できないと思うと寂しいですよ。…あなたは虚弱体質ですから、もっと頻繁に来て下さってもよろしいのに…」
「ごめんだね。君に診察されるよりかは家で寝ている方がマシ。ぶるぅにお粥を作ってもらって静養するさ」
プイと顔を背ける会長さんに、ドクターがハタと思い出したように。
「静養といえば、小耳に挟んだのですが…。全身エステに凝ってらっしゃるというのは本当ですか?」
「へえ…。地獄耳とは知らなかったな。あれはホントに気持ちがいいよ。生き返ったような気分になれる」
会長さんは今も機会がある度に教頭先生を呼び出して全身エステを受けています。チョコレート・スパの時には私たちも居合わせましたが、その他にも色々やっているようで…。長老の先生方も教頭先生にエステを頼んだりしていますから、ドクターの耳に入ったのでしょう。案の定、ドクターは苦い顔つきになって。
「…エステティシャンはハーレイなのだと怪しい噂を聞きましたが…?」
「怪しい? どこが? 腕前はいいし、長老のみんなも頼んでいるし……出張エステとしては高級な部類に入ると思うよ。なんなら君も頼んでみる? はい、チラシ」
宙に取り出されたのはチラシならぬ立派なリーフレット。いつの間にやら定番として広まっているみたいです。ドクターはリーフレットを受け取り、ザッと目を通してフフンと鼻を鳴らしました。
「なるほど、すっかりプロ気取りですか…。いや、失礼、副業なだけでプロなのですね。ここに書いてあるのが本当ならば、エステティシャンとしてのテクニックはあなたが仕込まれたそうですし」
「そうさ、ぼくがハーレイに技を仕込んだ。だから安心して任せられるし、気に入ってるんだ。おかげで体調を崩すこともなくなったね。マッサージで血行が良くなるらしい。…君の出番はもう無さそうだ」
ぼくは健康、と微笑む会長さんにドクターは「本当ですか?」と疑わしそう。
「本当だってば。疲れ気味だな、と思った時には即、エステ。マッサージを受けてウトウトしてると疲れも取れるし、身体もすっかり元通りさ。君も試してみればいい」
「そうですか…。ですが、エステは医療行為ではありませんよ? 私の方が絶対に腕が確かです。ハーレイがあなたに全身エステを施している、と聞いた時から実は特訓しましてね…。鍼灸に整体、カイロプラクティック。本物の医者の立場で極めてきました。今ならマッサージを特別にサービスいたしますよ」
「「「………」」」
エロドクターのマッサージ。いくら本物のお医者さんと言っても下心が嫌と言うほどありそうです。会長さんも私たちも変質者を見るような視線でしたが、ソルジャーだけは。
「腕は確かだよ、保証する。ぼくもサービスして貰ったんだ。…身体が蕩けそうなほど気持ち良かった」
え。サービスって…。それじゃ先週の夜にソルジャーがドクターにして貰ったというサービスは…?
「マッサージさ。君たちは派手に勘違いしてたけれども、ノルディがぼくにしてくれたのはマッサージ。これが本当に気持ちよくてね、お礼にサービスしようと思っていたのに寝ちゃってさ…。ごめんよ、ノルディ」
「いえいえ。お楽しみはまたの機会に…。あなたも急いでおいででしたし」
お気になさらず、とドクターは余裕たっぷりでした。ソルジャーの方なら会長さんと違ってモノに出来そうだと考えている証拠です。実際、あちらの世界まで押しかけたこともあったくらいの行動派。あの時は返り討ちに遭いましたけど、全く懲りていませんし…。そんなドクターの今日のターゲットはソルジャーではなく会長さん。
「ブルー、今のを聞きましたか? ハーレイのエステもよろしいですが、たまには医者のマッサージも…。骨格などが知らない間に歪むことだってあるのですよ。さあ、こちらへ。念入りにマッサージして差し上げます」
ドクターがカーテンを開けると、診察用のベッドの代わりにエステサロンの広告などで見る専用ベッドがありました。会長さんも実は家に一台持っていたりします。もちろんエステに使うためで…。
「どうしました、ブルー? ああ、服は脱いで下さいね。エステで慣れておいででしょうが」
「………」
顔を引き攣らせている会長さん。どう考えても安全なわけがありません。ドクターが鼻の下を伸ばし、会長さんの腕を掴んだ時。
「ぐわっ!!!」
会長さんの足許に蹲るドクター。なんだか苦しそうですけども、ドクターの身にいったい何が…?
声も出せないドクターの両手が押さえていたのは股間でした。身体を丸めているので見えませんけど、顔も歪んでいるのでは…。驚愕している私たちの前にソルジャーが取り出したのは例のドクター人形です。
「ブルーが言ったとおりだね。…こっちのノルディには効果抜群」
「何をしたのさ!?」
声を荒げる会長さんに、ソルジャーは肩を竦めてみせて。
「キースの代わりに君を守っただけだけど? まあ、キースなら腕を押さえて終わりだったかもしれないけどさ。本当に効くのかどうかも疑問だったし、一撃で効く必殺技を」
こうやって、とソルジャーの指先がドクター人形のデリケートな部分を弾いた瞬間、ドクターは白目をむいて悶絶しました。ぶっ倒れているドクターに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が近付いて…。
「ノルディ、気絶しちゃったみたいだよ? おしぼり用意した方がいい?」
「どうだろう? アンモニアか何かないのかな。病院だしね」
気付けに一発、と棚を探ろうとするソルジャーに会長さんが厳しい顔で。
「守ってくれたのは感謝するけど、やり過ぎだ! ただ封じれば充分なのに、気絶させるなんて!」
「…ふうん…。ノルディの肩を持つんだ? この程度で懲りるようなタマじゃないから放っておけばいいのにさ」
「だからって…。ぼくも一応、ソルジャーなんだよ? 仲間を傷付けるのは不本意だ!」
会長さんが叫んだ所で床の上のドクターがピクリと動いて…。
「…その……言葉だけ…で…」
不敵な笑みを浮かべたドクターが顔を上げ、痛そうに身体を起こしながら。
「その言葉だけで…嬉しいですよ、ブルー…。あなたの…愛が…感じられます…」
いたたたた、と呻きつつもドクターは椅子に座って会長さんを見詰めました。
「ブルー、私を愛して下さっていたのですね。たとえソルジャーとしての愛であっても、いずれ私が変えてみせます。ええ、私の心に溢れる愛で」
「…そ、それは……そうじゃなくて……」
引き気味の会長さんの肩をソルジャーがポンと叩きました。
「ほら、ぼくが言ったとおりだろう? あんなのじゃ懲りやしないって。この人形の威力を見せ付けておいた方がいい。そしたら君に手を出せないかも」
ソルジャーの言葉にドクターが眉間に皺を寄せて。
「…人形ですって?」
「そう、人形。これなんだけど、見ていたら何か思い出さない?」
目の前に突きつけられた全裸の人形にドクターは驚きの声を上げました。
「こ、これは…。先日写真を撮りに来られた時の…。あの写真を元にこの人形を…?」
「うん。あの時ぼくが急いで帰ったのはプリントアウトするためでね。そういう事情がない時だったらマッサージのお礼に一発や二発、付き合ってあげてもよかったんだけど…。ぼくはブルーと違うから」
ヌカロクだって大歓迎、と意味不明な言葉を付け足したソルジャーは、ドクター人形をツーッと撫でて。
「どう? 今、身体がゾクッとしなかった?」
「え、ええ…確かに…。その人形は何なのですか?」
「ブルーに作り方を教えて貰った身代わり人形。君の身体とシンクロさせて色々なことが出来るらしいよ。ブルーは君のイヤラシイ手足を封じたかったみたいだけどね、例えばこんな使い方も…」
ソルジャーの舌がペロリと人形を舐め、ドクターが艶っぽい声を漏らします。
「やっぱり感じてくれるんだ? じゃあもっと…」
「ブルーっ!!!」
血相を変えて怒鳴る会長さん。ソルジャーはつまらなそうに唇を尖らせ、渋々といった様子でドクター人形を舐めるのをやめました。
「うーん、楽しいと思うんだけどな…。ノルディだって喜んでたし、もっと遊んでみたいのに…」
「ぼくと君とは身体のパーツが同じなんだ! ノルディがもっと高望みをするようになったらどうするのさ! 追いかけ回されるだけでも迷惑なのに、奉仕しろなんて言われた日には…」
「ブルー。君の後ろに十八歳未満の子たちが一杯」
「…うっ……」
会長さんが詰まっています。何か問題発言があったのでしょうか? 私たちは顔を見合せましたが、心当たりはありませんでした。ソルジャーは愉快そうに笑っています。
「奉仕の内容が問題なんだよ、君たちは知らなくていいんだけどさ。で、ブルー…。君と同じ身体のパーツがダメだと言うなら、他の身体ならいいのかな?」
「えっ?」
「こんなのもあったな、と思ったんだよ。…ほらね」
パアッと青い光が走って、空中に出現したのは教頭先生の人魚像。ドクター人形の先輩格の人形ですが、ソルジャーはこれをどうすると…?
「ねえ、ノルディ。…こっちはハーレイの人形なんだ。事情があって下半身が人魚になってるけどさ。どう思う?」
「…不細工な人魚もいたものです。なんとも悪趣味な人形ですね」
「悪趣味…ね。作ったのはブルーなんだけど」
ドクターはたちまち血相を変えて。
「……!! も、申し訳ありません、ブルー…。あなたの趣味を疑うなど…」
「別に。実物も悪趣味だったし」
尻尾はショッキング・ピンクだったんだ、と会長さんが言い終わらない内に再び光った青いサイオン。
「「「教頭先生!?」」」
帰宅して寛いでいたのでしょう。ラフな格好の教頭先生がポカンとした顔で立っていました。人魚像のモデルを召喚したのはどう考えてもソルジャーです。ドクター人形と教頭先生人魚の像が揃うと恐ろしいことが起こるとか…?
「こんばんは、ハーレイ。…婚前旅行以来かな?」
ソルジャーの台詞に教頭先生の顔が真っ赤に染まり、ドクターが聞き咎めました。
「なんですって? 婚前旅行?」
「そうだよ。ブルーが企画したんだ。ぼくは途中で参加してね、おかげで温泉三昧の日々」
また行きたいな、と言うソルジャーにドクターは必死に食い下がり、事の顛末を聞き出すと…。
「ははは、実にハーレイらしい話です。私なら満点どころか婚前旅行を新婚旅行に切り替える自信がありますよ」
「だろうね。そんなハーレイに相応しいのがこの像だ。…下半身が無いからこうやっても…」
ピシッと指で人魚像の股間あたりを弾くソルジャー。教頭先生は所在なげに立っているだけです。
「ほらね、ハーレイは痛がりもしない。これが君の像の場合だとさっきみたいに大変な事になるってわけさ」
「なるほど…。身代わり人形でさえ大事な部分がついていない、と。これでは本当に役立たずですね」
勝ち誇ったように笑うドクターに、ソルジャーは「そうでもないんだ」と呟いて。
「覚えてるかな? ぼくがトンズランスの検査に来た時、君とハーレイに薬を飲ませてベッドで仲良くしろって言ったのを」
「「「!!!」」」
綺麗に忘れ果てていた私たちですが、一気に思い出しました。ソルジャーが二人に強力な精力剤を飲ませて放置して逃げた事件です。ドクターはベッドで、教頭先生はトイレで、それぞれ薬が切れるまで不毛な作業に励んでいたとか…。ソルジャーはクスッと笑って二つの人形を手に取りました。
「今日こそ仲良くしてもらおうかな。こんな感じで」
教頭先生人魚の像でドクターの像をゴシゴシと擦り始めるソルジャー。
「ふふ、ハーレイの感じる所は知ってるし…。どう? ノルディも熱くなってきたかな?」
「「…うっ……」」
ドクターと教頭先生の息が次第に荒くなります。私たちは呆然としていましたが、我に返ったのは会長さんで。
「ブルー!!!」
恐らくサイオンを使ったのでしょう、凄い勢いでソルジャーの懐に飛び込み、二つの像を奪い取ると…。
「ごめん、ハーレイ! なんでもないから今の忘れて!」
青い光が迸り、教頭先生は消えていました。会長さんは肩で息をしながらソルジャーをキッと睨み付けて。
「ハーレイの記憶は消去した。ノルディはともかく、ハーレイはああいうことに慣れてないから…」
「悪い遊びはやめてくれ、って? 愛してるんじゃないか、ハーレイのこと」
「違う! 刺激されると矛先がぼくに向くから困るんだって言っただろう! ノルディは発散する場所があるけど、ハーレイは何もないんだからさ!」
「…そうだっけね……」
忘れてたよ、と素直に謝るソルジャー。会長さんは教頭先生の像を瞬間移動で家に帰すと、もう一体の像をドクターの前に突きつけて。
「これの効力は分かったよね? ぼくに手を出そうとしたら使わせて貰う。苦痛を与えることもできるし、こうやって…」
ドクターの身体が強張り、会長さんが像の胴体を握っています。
「身体の動きを封じることも出来るんだ。これに懲りたらぼくには二度と手を出さないこと。キスマークもマッサージもお断りだ!」
じゃあね、と会長さんはドクターに背を向け、私たちを引き連れて診療所を後にしたのでした。タクシーを呼ぶのも面倒だったらしく「そるじゃぁ・ぶるぅ」の力も借りて瞬間移動で一気に家まで…。
「あーあ、ブルーのせいで酷い目に遭った」
信用したぼくが馬鹿だったよ、と会長さんは愚痴っています。けれどソルジャーは馬耳東風。
「そうかな? ちゃんとエロドクターから守ってあげたし、身代わり人形も作ったし…。言っておくけど、ぼくが写真を撮って作らなかったらあの人形は無いんだからね」
ドクター人形は布に包まれ、収納棚の奥に放り込まれてしまっていました。教頭先生人魚の方は棚に置かれているのですけど…。私たちは健康診断の打ち上げで焼肉パーティーの真っ最中です。エロドクターの診療所とは当分縁が切れる筈。会長さんがキスマークをネタに脅されていた頃と違って、追われる理由もないですし…。
「いいのかい、身代わり人形を片付けちゃって? ノルディが来るかもしれないよ」
ソルジャーの問いに会長さんは。
「来たら速攻で取り出してやる! 君がもう少しマシな人形を作ってくれたら置いておけたかもしれないのに…。いくらなんでもアレはちょっと」
「指で弾くだけで気絶するほどダメージを与えられるんだからいいじゃないか。傑作中の傑作だよ、うん」
我ながら上出来、とソルジャーは自画自賛しています。そして焼肉を頬張りながら言った言葉は…。
「あの人形ってなかなかいいね。ぼくもハーレイのを作ろうかな」
「「「え?」」」
そんなもの必要ないのでは…と思ったのは多分全員です。ソルジャーとあちらのキャプテンは両想いですし、身代わり人形の出番はありません。
「…あるんだな、これが」
ソルジャーの瞳が悪戯っぽく輝きました。
「休暇を取ってほしくなった時に使うんだよ。ぼくが青の間でハーレイの人形に指とか舌で色々と…ね。そしたら身体の芯からムズムズしてきてブリッジに居づらくなると思わないかい? まさかトイレで処理するわけにもいかないだろうし……処理しちゃったら再チャレンジ。よし、今度写真を撮らせて貰おう」
騙して撮ればオッケーだ、とソルジャーはあれこれポーズを考えています。元はといえば会長さんの健康診断に端を発した身代わり人形、とんでもない使われ方をされた挙句に別の世界に飛び火しそうな勢いですけど、ソルジャーは本当に作る気でしょうか? もしもキャプテン人形が作られたなら……キャプテン、許して下さいです~!