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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

華やかな野望・第2話

会長さんと教頭先生のバカップル・デートを目撃していたというエロドクター。正確にはホテル・アルテメシアでのブライダルフェアの一部を目にしただけなんですけど、よりにもよってチャペルに入って行く所とは…。更にソルジャーまでが押し掛けてきて、私たちは戦々恐々です。
「ブルー? 私が見たのは何だったのだと仰るのですか?」
お話合いをしましょうね、とエロドクターは猫なで声。
「あなたはハーレイと結婚する気は無いと信じていたのですが、どうやら間違っていたらしい。実に幸せそうなカップルでしたよ、お似合いとしか言いようの無い」
「………」
黙り込んでいる会長さん。迂闊に返事をすれば墓穴を掘りかねないからでしょう。
「黙っていては分かりませんねえ、あなたはどういうおつもりなのです? まさか結婚なさったとか? それとも極秘に入籍ですか? ソルジャーとキャプテンが結婚となれば我々にも知らせがあるでしょうし…。まあ、隠しておきたいという気持ちも分からないではありませんがね」
あなたは高校生ですし、とエロドクターは唇を笑みの形に吊り上げました。
「シャングリラ学園の校則は存じませんが、不純異性交遊は恐らく禁止事項でしょう。かといって学生の身分のままで結婚というのも他の生徒の目がありますし…。在学中には婚約までが限界なのではないですか? 結婚したとなれば自主退学を余儀なくされるかと」
「……結婚も入籍もしてないってば」
会長さんがやっとのことで口を開いて。
「ぼくは今の所は結婚する気は全く無いし、ましてハーレイなんて願い下げだよ! 結婚するなら絶対、フィシス! もうちょっと遊びたいから保留なだけさ」
「そうなのですか? では、ホテル・アルテメシアで私が見たのは…」
「勘違いだろ?」
「なるほど。確かに写真も撮っていませんし、あなただという証拠は何も無いわけですが…」
おかしいですねえ、とドクターは首を傾げています。そりゃそうでしょう、超絶美形な会長さんと目立つ体躯の教頭先生、どちらも何処にでもいそうなタイプではなく、見間違える方が難しそう。ソルジャーとキャプテンというそっくりさんがいると言っても、別の世界の住人ですし…。
「まあ、勘違いならそれはそれで。…そうそう、あの日はブライダルフェアがありましたっけね」
「「「!!!」」」
ウッと息を飲む私たち。ブライダルフェアの受付デスクはロビーの目立つ所にありましたから、エロドクターが気付いたとしても別に不思議ではありません。ひょっとすると内容の方もバレているとか…? 案の定、エロドクターはニヤニヤと。
「先着限定三組様のスペシャル・コースがあったというのも知っていますよ。個室でのウェディングメニューの試食とチャペルでプロが記念撮影をするのでしたか…。もしや、下見にお出掛けになられたとか? とりあえず今は婚約だけで卒業してから挙式でしたら、ブライダルフェアも納得です」
「誤解だってば!」
勢いよく叫んだ会長さんに、エロドクターはクッと喉を鳴らして。
「おやおや、誤解と来ましたか。それではブライダルフェアにお出掛けになったのは事実ですね? で、どの部分が誤解なのです?」
「…そ、それは……」
しまった、という表情を浮かべる会長さんの横からソルジャーが。
「ふふ、ブルーはハーレイと結婚する気は無いんだよ。ブライダルフェアも言い出したのはブルーじゃないし」
「ほう? 結婚する気も無いというのにブライダルフェアのスペシャル・コース…。ハーレイには手痛い出費ではないかと思うのですが、それをブルーが仕掛けたのではなくてハーレイが?」
信じられませんね、と顎に手をやるエロドクター。
「それにブルーが承知したというのが理解できません。自分から言い出した計画だったら乗り気でしょうが、ハーレイの申し出でブライダルフェア…。二人仲良くチャペルで記念撮影だなどと、有り得ない話だと思いますがね」
「それがそうでもないんだよね」
クスクスクス…と笑うソルジャーに、エロドクターは。
「お話合いは人数が多いほど盛り上がる、と考えたのは正解でした。あなたは色々と御存知のようで…。私が見たのは何だったのです? どうしてブルーがブライダルフェアに?」
「それはねえ…。何から話せばいいのかな?」
どうしよう、とソルジャーは楽しげな笑みを浮かべています。ソルジャー、どこまで知ってるんですか…?

「最初はデートだったんだよ」
お話合いに乱入してきたソルジャーは、いきなり爆弾発言をかましました。
「デートですって?」
エロドクターの声が引っくり返り、それから「ああ…」と両手を打って。
「なるほど、昔の私と同じケースかもしれませんね。ブルーにデートを申し込んだら散々な目に遭わされました。…あの感覚で悪戯というなら理解できます」
勝手に一人で納得しているエロドクターに、私たちも思い出しました。あれは特別生の一年目も終わろうという三学期のこと。その一年前に会長さんを食べようとして果たせなかったエロドクターが「一年間も待ったのだから利子をつけて頂きたい」とデートを申し込んできたのです。
「私はそこのボディーガードたちに邪魔されましたが、ハーレイも酷い目に遭わせたのですか? チャペルでは幸せそうでしたがね」
「んーと…。特に酷い目には遭ってないかな」
ソルジャーはパチンとウインクをして。
「どっちかと言えば幸せ一杯? なにしろデートのテーマがねえ…。バカップルごっこだったっけ?」
ひぃぃっ、そこまでバレてましたか! そしてバカップルという単語はエロドクターの耳にバッチリ入ったようです。
「バカップル…ごっこ? なんですか、それは」
「話せば長くなるんだけれど…。そもそも春休みに行った旅行が発端なんだ」
「…旅行…。ブルーとハーレイが?」
「他にもゾロゾロいたけどね。そこの子たちは勿論参加。ぼくと、ぼくの世界のハーレイも行った。河原を掘ったら露天風呂が作れるんだよ」
面白かった、と語るソルジャーに、エロドクターは怪訝そうに。
「いわゆる団体旅行ですね。ハーレイとブルーの仲が進展するような旅だったとは思えません。それがどうしてバカップルごっこに?」
「ぼくとハーレイの旅のテーマさ、バカップルは。せっかく旅行に行くんだからね、婚前旅行っぽく楽しみたくて…。こっちのハーレイに指南役をお願いしたってわけ。そういう風に使えますよ、とぼくのハーレイに紹介してくれたのは君だろう?」
新婚生活を夢見る師匠として、と続けるソルジャー。
「今回の旅でも大いに役に立ってくれたよ。バカップルな旅のアルバムまで作れたし…。それを師匠にプレゼントした辺りから話が大きくなったんだ。こっちのハーレイが羨ましがっているのをブルーが逆手に取って悪戯を…ね」
「おや。やはり悪戯ではないですか」
「それは最後の部分だけ! 悪戯で締めたってだけで、そこまでは楽しくデートしてたさ。でもって、デートのテーマがバカップルごっこ。だからこっちのハーレイも張り切っちゃって、ブライダルフェアを予約したんだ」
あちゃ~。ソルジャーは全て喋ってしまいました。ブライダルフェアの発案者が教頭先生だったと知ったエロドクターは腕組みをして考え込んでいましたが…。
「あのハーレイがスペシャル・コースを奮発したとなりますと……頑張らないといけませんね。ブルーの花嫁姿を拝める上にチャペルで記念撮影ですか…。私も負けてはいられません」
ズイと乗り出すエロドクター。
「ブルー、私とゴージャスなブライダルフェアは如何です? 個室で試食などと言っていないでゲストも呼んで賑やかに…ね。そこの皆さんをお招きすればグッと会場が華やぎますよ」
「な、なんでぼくが…!」
会長さんの顔が引き攣るのも気にせず、ドクターは。
「次のブライダルフェアを待つほどのこともありません。ああいうものは出すものを出せばいくらでも…。あなたのためなら安いものです。模擬結婚式と洒落込みましょう」
「ちょ、ちょっと…!」
「断るのですか? では、健康診断の結果をメチャクチャにして差し上げましょうか。月に一度は検査のために来院しなくてはならないように書き換えるとか…。ええ、あなたは多分今回も何の問題も無いでしょうから。ですが、それは医者としてどうかという話もございますしね…」
バレたら懲戒免職ですし、とエロドクターは大袈裟な溜息をついて。
「あなたの主治医という美味しい立場は私も失いたくありません。さて、断られないためにはどうするか…。断ったらキスをプレゼントするというのもいいですねえ…」
テクニックには自信があるのです、と会長さんの顎を捉えようとしたエロドクターに、キース君が。
「触るな! 人形に一発お見舞いするぞ」
キース君の手が風呂敷包みの結び目をグッと握っています。何かあったら風呂敷を解いてドクター人形を殴りつけるつもりでしょう。ドクターは「やれやれ…」と苦笑しながら。
「キスをされればブルーもその気になりそうですがね? 私とベッドに行きたくなるようなキスを仕掛ければいいだけのことで…。そういう仲なら模擬結婚式どころか結婚式でも大丈夫ですよ」
「やかましい!」
キース君が怒鳴り付け、サム君がエロドクターを睨み付け…。会長さんは顔色を失くして半ばパニック。これは相当ヤバイんじゃあ…、と私たちが思った時。
「模擬結婚式か…。それって、ぼくだとダメなのかな?」
「「「は?」」」
割り込んで来たのはソルジャーでした。エロドクターも会長さんも、誰もがポカンとしています。何がソルジャーだとダメなんでしょう?
「だからさ、花嫁役はブルーじゃないとダメなのか、ってこと! そっくりさんでもいいんだったら、ぼくが代わりに出たいんだけどな」
「「「………」」」
えっと。ソルジャーって女装の趣味とかありましたっけ? 会長さんのウェディングドレスを貰って行ったりチャイナドレスを誂えたりはしてましたけど、エロドクターの花嫁役って、なんでまた…?

予想もしない提案に呆気に取られた私たちですが、立ち直りが一番早かったのはエロドクター。会長さんのそっくりさんの花嫁姿も悪くはないと思ったらしく…。
「ブルーの代わりにあなたが…ですか? 確かにあなたなら嫌がりもせずに楽しくお付き合い下さるでしょうが、ブライダルフェアに興味を持たれましたか?」
「まあね。見ててけっこう面白かったし…。それに君のは模擬結婚式とか言わなかったっけ? そこの子たちを呼んで披露宴もどきってヤツも出来るんだろう?」
「それは勿論。ご希望でしたらウェディングケーキもお付けしますよ。…ええ、あなたの方がブルーよりいいかもしれませんねえ…。嫌がる相手をその気にさせるのも燃えるものですが、ブルーの場合は物騒なボディーガードがおりますし…」
風呂敷包みの中身も脅威です、と言うエロドクターとキース君の間で火花が一瞬バチッと散って。
「やはりブルーは諦めた方が吉ですね。せっかく乗り気の花嫁役がいらっしゃるのに、お断りをするというのも失礼ですし…。で、本当に模擬結婚式を御希望ですか?」
「うん。ぼくの方もゲストを呼べるんならね」
「ゲスト…? しかし、あなたの世界の皆さんは…」
「こっちの世界があるって話はしていない。でも二人だけ例外がいる。ぶるぅとハーレイ」
ソルジャーはクスッと小さく笑うと。
「ハーレイをぼくの結婚式に招待したらどうなると思う? 前に現地妻の募集もしたのに、ホントに危機感が無くってさ…。結婚するぞ、と脅してやりたい」
「そういえば指輪をプレゼントさせて頂きましたね。今度は挙式をなさりたい、と」
「結婚式まで挙げるとなったら現地妻は君で決定だろう? 現地妻の座を確保したとなればハーレイも手出し出来ないさ。…前は殴られてくれたっけね」
「いえいえ、どういたしまして」
大したことではありませんよ、とエロドクターが返しています。すっかり忘れていましたけれど、教頭先生がキャプテンに新婚生活の心得とやらを伝授していた時にソルジャーがエロドクターに監禁されたふりをしたのでした。キャプテンはソルジャーを取り戻そうと屋敷に乗り込み、ドクターにアッパーをお見舞いしたという…。
「今度は結婚式だからねえ、ハーレイも殴りはしないと思う。泣き崩れるのが関の山かと…。ゲストに呼んでもいいのかな?」
「かまいませんよ。ぜひ盛大にやりましょう」
エロドクターは大乗り気です。
「あなたとでしたら、式の後にはスイートルームで過ごすというのもいいですね。如何ですか、私と一晩」
「それはマズイと思うけど…。あ、ブルーにバレなきゃいいだけのことか」
バレるも何も、此処で話している段階で筒抜けでは…と思うのですが、ソルジャーとエロドクターは意気投合。アッと言う間に挙式の日取りは一週間後の日曜日とまで決まってしまって…。
「部屋もバッチリ押さえましたし、後はあなたのドレスなど…ですね」
仕事の早いエロドクターはホテル・アルテメシアにしっかり予約を入れました。えっ、会長さんは口を挟まなかったのかって? 下手な事を言えば自分が花嫁役にされちゃいますから、忍の一字で必死に耐えたみたいです。スイートルームで一泊の件は、後でソルジャーに厳重注意でもする気でしょう。
「ドレスはオーダーしませんか? せっかくですから」
急げば充分間に合いますよ、と聞かされたソルジャーは大賛成。明日は早速エロドクターと一緒にホテル・アルテメシアの衣装室へと出掛けるそうです。この二人、もう放っておくしか…。
「ああ、そういえば。大切なことを忘れていました」
私としたことが、とエロドクター。
「模擬結婚式をするのでしたら、エスコート役が必要です。いわゆる花嫁の父役ですね。…あなたの世界のハーレイにやらせますか?」
「えっ? それだと何かが違いそうな…。でも…」
他に適当な人材も無いか、とソルジャーが首を捻っています。
「ぶるぅじゃどうにもならないし…。そこの子たちの誰かに頼むというのも手かな?」
「「「!!!」」」
キース君たちは必死になって首を左右に振りました。お遊びとはいえ、ソルジャーとエロドクターの結婚式に手を貸すなんて、誰だって遠慮したいでしょう。ソルジャーは誰を指名すべきか、順々に視線を向けていましたが…。
「そうだ、適役がいるじゃないか! ハーレイだったらこっちにもいる」
忘れていたよ、と嬉しそうに微笑むソルジャー。
「ぼくがノルディと式を挙げたらブルーは晴れて自由の身だ、と言ってあげれば食い付くだろう。…どう思う?」
「そうですねえ…。では、交渉をなさいますか?」
「うん。明日、ドレスをオーダーしに行くついでに寄ってみよう。きっと嫌とは言わない筈さ」
あーあ…。とうとう教頭先生まで巻き込むことになっちゃいましたよ! こんな調子でソルジャーとエロドクターは話を進め、段取りもガッチリ組まれてしまって…。
「今日は良い日になりましたよ。明日は楽しみにお待ちしております」
「こちらこそ、よろしく。どんなドレスが似合いそうかな?」
ワクワクするよ、と言うソルジャーを止められる人はいませんでした。会長さんの健康診断の結果は来週の金曜日に聞きにこなくてはいけないのですけど、エロドクターは最早そっちはどうでもいいようで…。
「ブルー、来週の日曜日ですよ。私とブルーの結婚式と披露宴にご出席頂けますね? そちらの皆さんも」
また招待状をお届けします、と告げるエロドクターはソルジャーの方ばかり見ていました。会長さんから矛先が逸れたのはいいことですけど、おかしな展開になっちゃったような…?

ドッと疲れていた私たちはタクシーを呼んで貰うのも忘れてしまい、瞬間移動で会長さんのマンションへ。今夜は御馳走を食べてお泊まりの予定なのですが…。
「どうして君がついてくるのさ!」
リビングに着くなり声を荒げたのは会長さんです。
「え、だって…」
一度戻るのは面倒じゃないか、とソルジャーが悠然と答えを返して。
「明日はドレスのオーダーに行かなきゃならないし…。こっちのハーレイにエスコート役をお願いしに行くのも明日だしね? 今夜は泊めてもらおうかな、って」
「あれだけ勝手をやらかしておいて、今更泊めて貰えるとでも?」
「ふうん? じゃあ、君がノルディと挙式するかい? ぼくとしては君の窮地を救ったつもりなんだけど…。ぼくが花嫁役を引き受けなかったら君が花嫁にされていた」
「………」
否定できない会長さん。そして会長さんが花嫁役の場合でも、エロドクターはスイートルームに予約を入れていたでしょう。そうなっていたら私たちはドクター人形を武器に乱入するしかないわけですけど、あんまりやりたくないですし…。
「ね? 助かったって自覚があるなら、ぼくの機嫌は取っとくべきだよ。ところで、今日の夕食は?」
「かみお~ん♪ 鉄板焼きだよ! いいお肉が沢山買ってあるんだ」
お魚とかも、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は元気一杯。
「ね、ね、結婚式の御馳走って何が出るのかなぁ? ウェディングケーキもあるんだよね」
とっても楽しみ! と飛び跳ねている「そるじゃぁ・ぶるぅ」。小さな子供だけに、結婚式はイベントでしかないのでしょう。発端になったブライダルフェアでもビュッフェコーナーに突撃していましたし…。
「ぶるぅはホントにいい子だね。結婚式にはぼくのぶるぅも来るからよろしく」
「うん! ぶるぅと一緒に遊べるといいな♪」
早く来週の日曜日になあれ! と叫ぶと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は手際よく夕食の支度を整えました。ダイニングのテーブルにホットプレートを幾つも据えて、お肉や海老やホタテなんかをジュウジュウと…。何種類ものタレは勿論手作り。とりあえず今は削られた体力の回復のために食べまくらなきゃ!
「ぶるぅ、ガーリックは多めにね」
会長さんが指示を出したのは締めのガーリックライスです。スライスされたガーリックが食欲をそそる匂いをさせてますけど、もっと増やせってことなのかな?
「えと、えと…。追加?」
「ドカンとね。明日は休みだから匂いがしたって平気だし!」
あ。その瞬間に私たちにも分かりました。ガーリックを増やすのは明日お出掛けのソルジャーに対する嫌がらせです。ホテルの衣装室でドレスのオーダー。サイズを測る人やデザイナーさんたちの前でガーリックの匂いがプンプンするのは最悪ですよね。
「そう来たか…。でも、ぼくだってダテにソルジャーやってないし?」
フフンと鼻で笑うソルジャー。
「匂いをシャットアウトすることくらい、君だって朝飯前だろう? 君よりも遙かに場数を踏んでるぼくに出来ない筈が無い。ガーリックの追加、大いに結構。ガーリックライスは美味しいしね」
「「「………」」」
こりゃ駄目だ、とガックリ肩を落とす私たち。その間に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がガーリックをたっぷり追加してくれ、美味しいけれども丸一日は人前に出られそうもないガーリックライスの出来上がりです。ソルジャーは全く気にせず胃袋に収め、デザートのケーキとアイスクリームも平らげて…。
「それじゃ、お先に寝させてもらうね。明日は忙しくなりそうだから、ゆっくり休んでおかないと」
まずはシャワーだ、と出てゆくソルジャーは会長さんの私服でした。押し掛けて来た時にサッサと着替えてしまったヤツなのです。パジャマも適当に借りるのでしょう。当然、明日のお出掛けにも…。ソルジャーにとって会長さんの家は勝手知ったる他人の家。何を言っても無駄なんですから、好きにさせるしかありませんよね。

ソルジャーがゲストルームに引っ込んだ後、私たちは飲み物を持ってリビングに移動。本当だったら健康診断の付き添い第一弾の終了祝いで盛り上がっていた筈なんですけど、状況は完全に真逆でした。
「どうしよう…。ブルー、やる気になっちゃってるよ…。よりにもよって挙式だなんて…」
溜息をつく会長さんにキース君が。
「落ち着け、挙式と言っても遊びみたいなモノなんだろう? 誓いの言葉は言わないそうだし」
「まあね…。模擬結婚式だし、籍が入るってわけでもないけど…」
それでも色々と問題が…、と会長さんは項垂れています。
「だって相手はブルーだよ? ノルディに対して嫌悪感が無いし、現地妻だなんて言ってたし…。スイートルームにも泊まる気満々、これからどうなっちゃうんだろう、って…」
「考えようによってはチャンスじゃないか? エロドクターがあいつに夢中になったら、あんたは一気に安全圏だ」
「うん…。ハーレイにもそう持ち掛けてエスコート役をさせるつもりだと思う。だけどノルディはブルーを手に入れて満足するようなタイプじゃない」
ぼくとブルーは別人だから、と会長さんは再び深い溜息。
「二人いるなら二人とも、と考えそうなのがノルディなんだよ。ブルーの方で味を占めたら次はこっちに向かってくるね。…だけど結婚式を止めようとしたら確実にぼくが花嫁役にされちゃうし…」
「最初からそのつもりだったようだしなあ…。エロドクターは」
「ブルーが来たから助かったのか、更に危なくなっただけかが今一つぼくにも分からない。どっちにしてもブライダルフェアに行っていたのを目撃されたのが敗因だよね」
失敗した…、と会長さんは額を押さえています。けれど、あの会場付近にエロドクターが来ていたことには誰も気付いていなかったわけで。同じ時間帯にホテルの中をウロウロしていた私たちだって医師会の集まりを全く知らなかったのですから、バカップルごっこに興じていた会長さんが気付かないのも無理はなく…。
「…不幸な事故だと思うしかないな」
キース君がキッパリ言い切りました。
「これ以上の事故を重ねないためにも用心するしかないだろう。エロドクターの方は注意してればなんとかなる。教頭先生という強い味方もいらっしゃるんだし、今回の件はもう諦めて失敗は次の機会に生かせ」
「次の機会って…?」
「エロドクターが改めて言い寄って来た時だな。あんたにはブルーがいるだろう、とか、妻がいるヤツの浮気の相手をする気は無いとか…。とにかく物は言いようだ」
「そうか、ノルディが結婚式を挙げるってことは、それから後はブルー以外だと浮気になるのか…」
いいことを聞いた、と会長さんが喜び、私たちも万歳をしかけましたが。
「ただし本物の挙式じゃないのが問題と言えば問題だがな」
あちゃ~…。キース君の冷静な突っ込みは真実でした。模擬結婚式だとお芝居みたいなものですもんねえ、ソルジャーがはしゃいでいるだけで。まあ、現地妻には充分すぎるイベントですけど…。
「ブルー、この先はあんた次第だ。エロドクターに隙を見せないように努力するだけでも違うだろう。いいか、結婚式を挙げるブルーとあんたは違う」
流されるな、とキース君が会長さんの肩を叩きました。
「あんたは俺たちと同じ招待客だし、当日はドンと構えておけ。いざとなったら教頭先生もいらっしゃる。多分……だがな」
「ハーレイか…。ぼくからも頼んでおこうかな?」
会場に来てくれていれば安心だよね、と会長さん。教頭先生、エスコート役をちゃんと引き受けて下さるでしょうか? そうなってくれるようにと今は祈るしかありませんです~!

 

 

 

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