忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

言えない悩み・第3話

教頭先生の大事な部分に残された毛は指の幅二本分だけのツーフィンガー。しかも形を綺麗な長方形に整えるために長さも揃えて切ってあったり…。脛毛を剃られた件も大概ですけど、ツーフィンガーを見てしまった今、脛毛や脇の無駄毛の処理は些細な事と言うべきでしょう。
「あれじゃハーレイが悩んでいるのも無理ないよ。悩み過ぎて十円ハゲになっちゃう前に専門家の意見を聞くべきだってば」
十円ハゲになってからでは遅いんだ、と主張しているのはソルジャーです。
「下の毛が指二本分の幅しか無くて頭の方は十円ハゲって悲惨だよ? ツーフィンガーはお風呂の時しか目につかないけど、十円ハゲは一目瞭然! 場所によってはハーレイの髪でも隠せないかもしれないし!」
「そうかな? オールバックだから上手く隠せば…」
大丈夫そうだよ、と会長さんが反論すればソルジャーは。
「ハゲるのが頭の天辺だとは限らないよ? 生え際だとか項に近い場所がハゲたらどうするのさ?」
「十円ハゲも愛嬌じゃないかと思うけどなぁ。…ツーフィンガーだって」
「愛嬌で済むんならハーレイは絶対悩んでいない! 要するに君が行きたくないだけなんだろ、ノルディの所へ」
ソルジャーがビシッと指摘し、会長さんは渋々といった様子で頷きました。
「…まあね。十円ハゲの方はともかく、ツーフィンガーがお風呂に入るのに差し障りそうなのは認めるよ。ハーレイを連れてった先はメンズエステだし、ああいう処理をしている人もいるんだろうけど…。少なくともぼくは見たことは無い。だからハーレイの悩みは分かる。分かるんだけど…」
「ノルディの所へ行ったりしたら自分の立場が危うい、と。…ノルディは君に御執心だしねえ…。だったら、ぼくが連れて行こうか?」
ノルディとはバッチリ顔馴染み、と片目を瞑ってみせるソルジャー。
「ハーレイの頭を悩ませているツーフィンガーはぼくもしっかり目撃したし、的確に説明出来ると思う。きっとハーレイは恥ずかしがって答えるどころじゃないだろうしね」
「うーん…。そっちの方がマズイ気がする。なにしろ君は前科が多い」
「失礼な! ぼくが今まで何をしたと?」
「思い出すのも嫌になるほど色々やらかしてくれただろ! ノルディ相手にもハーレイにもさ」
その調子で出て行かれたら困るんだ、と会長さんは文句たらたら。
「君がハーレイの受診に付き添ってるってだけでノルディは妙な勘繰りをしそうだし…。そうでなくても相談するのがツーフィンガーへの対処法だし、ぼくの名前が嫌でも出てくる。だからって犯人は君だっていうことにでもしたら、それはそれで話がこじれるんだよ」
「別にこじれてもいいじゃないか。解決すれば結果オーライ」
「全然良くない! ノルディがぼくをどんな目で見るか、はたまた君とノルディが更に危ない関係になるか…。そこへハーレイまで絡んで来たら、どうにもこうにもならないし!」
「運命の糸が縺れまくりっていうのも素敵じゃないかと思うけどねえ? ツーフィンガーを機会に三角関係、四角関係、ぼくは大いに歓迎するよ」
どんと来いだ、とソルジャーは楽しげな笑みを浮かべています。けれど会長さんがそんな展開を喜ぶ筈も無いわけで…。
「お断りだよ! それくらいなら、ぼくが行く!」
バンッ! と会長さんがテーブルを叩いた所でソルジャーがスッと差し出した物は携帯電話。見覚えのあるそれは会長さんの携帯でした。
「じゃあ、電話。…君がハーレイを連れて行くんだろ? ノルディの所って予約制だよね」
「な、なんでそういう方向に…!」
「君が自分で言ったんじゃないか。嫌ならぼくが電話するけど? えーっと…」
携帯を弄り始めたソルジャーの手から、会長さんがマッハの速さでそれを奪い取って。
「分かったよ、かければいいんだろう! …もしもし?」
電話はすぐに繋がったらしく、会長さんは不快そうな顔で。
「…ぼくだけど。ちょっと予約をお願いしたくて…。え? 特別に開けてくれるって? そ、それは…。細かいことは行ってから言うよ、6時以降だね。それじゃ、よろしく」
通話を終えた会長さんの顔にはデカデカと『不本意』の三文字が。エロドクターは会長さんが受診するのだと思い込んだ上、本来ならば休診の所を都合をつけると言ったとか。
「医師会の仲間と飲む約束はドタキャンにしておくってさ。今日が休診なのは知っていたから明日以降だと思ったのに…」
「早い方が有難いじゃないか、毛は一日にして伸びずだよ。後はハーレイに話をつけるだけだね」
善は急げ、とソルジャーは内線電話に手を伸ばしました。パパッとダイヤルを押して教頭室を呼び出しています。会長さんは顔色を変え、受話器をサッと引ったくると。
「あ、ハーレイ? さっきはごめん。別に笑い物にしたかったってわけじゃないんだ、ブルーが出てきてゴチャゴチャ言うから…。でね、物は相談なんだけど…」
エロドクターの診療所に行かないか、という会長さんの提案に教頭先生は躊躇したようですが、ツーフィンガーで悩んでいるのは事実。解決策が見つかるのなら…、と藁にも縋る気持ちで申し出を受け入れ、会長さんとお出掛けすることに。餅は餅屋と言いますものね、劇的に効く育毛剤がありますように…。

約束の6時を迎える少し前。私たちはお通夜のような気分で教頭室に向かって歩いていました。シールドで姿を隠したソルジャーも一緒に来ています。
「なんで俺たちまで行かされるんだ…」
キース君がぼやけば、会長さんが。
「ボディーガードだと言っただろう。ノルディの所に行くんだよ? ブルーとハーレイとぼくだけで行けば何が起こるか想像がつくと思うけど?」
「しかしだな…。教頭先生はこんな面子は全く望んでらっしゃらないかと」
「ハーレイの意見はどうでもいいんだ。ぼくの安全が一番大切! そう言えば必ず納得するさ」
「「「………」」」
一様に押し黙る私たち。そして辿り着いた教頭室では会長さんの読みの通りに教頭先生の承諾が。
「…ブルーを危ない目に遭わせるよりは、私一人が辛抱する方がいいだろう。正直、かなり恥ずかしいのだが……一度見られた後でもあるしな」
恥ずかしいのは我慢しよう、と教頭先生は赤くなりながらも付き添いを受け入れる覚悟です。そこでソルジャーがクッと笑って…。ええ、とっくの昔にシールドを解いていましたとも!
「いい覚悟だね、ハーレイ。その決心に見合う成果が上がればいいんだけれど…。そうそう、ノルディの診察を受けてみれば、って提案したのはぼくだから! 劇的に伸びる薬があったら盛大に恩を感じて欲しいな」
「…あなたの発案だったのですか…。どおりで妙だと思いました」
ブルーはノルディを嫌ってますし、と教頭先生は苦笑い。それでも会長さんが予約をしてくれ、更に同行してくれることが嬉しくて堪らないみたいです。ツーフィンガーに追い込んだのは他ならぬ会長さんですけども、そっちの恨みは忘れたんですか、そうですか…。いえ、最初から恨んでなんかいないんでしょうねえ。
「おっと、6時だ」
ソルジャーが壁の時計を見て言い、会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」に「行くよ」と合図。
「かみお~ん♪ しゅっぱぁ~つ!」
パアッと青い光が溢れて私たちはサイオンに包まれました。目指すはエロドクターの診療所。教頭先生が駐車場に置いていた愛車も同時に教頭先生の家のガレージへと運ばれて行ったことでしょう。身体がフワリと浮く感覚があり、床に足がつくと…。
「ようこそいらっしゃいました」
白衣を着けたエロドクターが待合室に立っています。
「ブルーとぶるぅだけかと思えば、なんと皆さんお揃いで…。しかし、何故ハーレイまでいるのです? 今日の患者はブルーなのでは? …ブルーの付き添いでしたらハーレイは余計な気がしますがねえ…」
解せません、と首を捻るエロドクターにソルジャーが。
「今日の患者はハーレイなんだよ」
「は?」
「だからハーレイが患者だってば! 一人じゃ度胸が出ないだろうから付き添いが要ると思ったんだけど、ぼくが付き添うと言ったらブルーが文句を…。だけどブルーは自分一人で付き添いをするのは嫌なんだよね。…そういうわけで増殖したのさ、付き添いが」
「はあ…。付き添いの件はそれで分かりました。が、ハーレイが患者ですか…」
風邪ひとつ引かない男だったと思うのですが、とエロドクター。
「まさしく鬼の霍乱ですね。ギックリ腰でもないようですし…。で、本日はどうなさいました?」
奥へどうぞ、とエロドクターは診察室へ入ってゆきます。さて、教頭先生の窮地を救う素晴らしい薬はあるのでしょうか? こんな所まで来たんですもの、収穫無しでは浮かばれませんよ~!

診察室の椅子に所在無げに座った教頭先生。育毛の相談だとは思いもしないエロドクターは普段の診察のマニュアルどおりに口を開けさせて喉をチェックし、お次は定番の聴診器です。更に脈を取り、血圧を測り、手元のカルテに目を通すと。
「…これといった症状は無いようですが、腹痛ですか、それとも頭痛? 黙ってらっしゃったのでは困りますねえ…。メタボ検診をご希望でしたら先に仰って頂きませんと」
「いや、私は……そのぅ、メタボではないと思うが…」
「そうでしょうねえ、三月の末にシャングリラ号で検査した時には正常値でしたし。とはいえ、油断するとメタボになりますよ。今日も何らかの自覚症状があって受診なさってらっしゃるのでしょう? 痛風でしたらメタボの方も改めて検査しませんと」
エロドクターの発想は思い切り斜め上でした。何処から痛風が沸いて出たんだか…。教頭先生もブスッとしています。
「…断じて痛風などではないぞ」
「おや、そうですか? 足の方を気にしてらっしゃるように見えましたので…。これは失礼」
なるほど、痛風といえば普通は足に出ますよね。ツーフィンガーもさることながら脛毛も剃られた教頭先生、頻りと足を見ていたようです。気になっているならズバリと言ってしまえばいいのに、言えない所が微妙な男心でしょうか? と、ソルジャーが教頭先生の肩を軽く叩いて。
「ほらね、勘違いされちゃってるし! 足なら足だとハッキリ言う!」
「…し、しかし……」
「相手は本物のお医者さんだよ? 相談に乗って欲しいんだったら言わなくちゃ」
「……だが……」
やはり言えない教頭先生にエロドクターが溜息をついて。
「何処が悪いのか自分で説明できないケースは赤ん坊と幼児くらいなものですよ? 仕方ありません、脱いで下さい」
「なんだと?」
眉間に皺を寄せる教頭先生に、エロドクターは涼しい顔で。
「とりあえず全部脱いで頂けますか? それから診察台に横になって頂ければ全身をチェック致します。…私もプロの医者ですからね、それで大体分かりますとも」
「こ、断る…!」
「ほほう…。即座に仰った所をみると、何か脱いだらマズイことでも? 上半身は先ほど見せて頂きましたし、問題は下半身ですか?」
言い当てられた教頭先生、ウッと呻いたのが運の尽き。エロドクターはニヤニヤと…。
「ああ、見当がつきました。EDが再発したわけですね。そういうことなら薬を出させて頂きますので、それで暫く様子を見て…。おや、EDではないのですか?」
ブンブンと首を横に振っている教頭先生。それでもツーフィンガーをカミングアウトする度胸は出てこないらしく、痺れを切らしたソルジャーが。
「…剃られちゃったんだよ、下半身の毛を」
「は?」
間抜けな声を上げたエロドクターにソルジャーは重ねて言いました。
「メンズエステに連れて行かれて危うく脱毛される所を剃るだけで勘弁して貰ったとか…。脛毛と脇毛は綺麗に剃られて、なんだったかな…Vライン? それも剃られて、トドメにツーフィンガーなのさ」
「……はあ……」
ポカンと口を開けているエロドクターの頭の上には『?』マークが飛び交っています。そりゃそうでしょう、教頭先生とは結び付かない単語の嵐で、挙句の果てにツーフィンガーでは…。
「あーあ、君でも混乱しちゃうのか…。だったらハーレイが悩みまくるのも無理ないね。診察に来たのは劇的に伸びる育毛剤があるといいな、っていう理由。今の状態では恥ずかしくって合宿でお風呂に入れないらしい。…こんな風になっちゃってるから、急ぎで伸ばしたいんだよ」
見て、とソルジャーがやらかしたのは教頭先生のズボンと紅白縞を椅子に座ったままの状態でストンと床に落とすこと。サイオンを使えば簡単だとは分かってますけど、わざわざ公開しなくても…。ツーフィンガーは一回見れば充分です。いくらモザイクつきだとはいえ、二回も見せられちゃうなんて~!

「………。これは確かに問題ですね」
エロドクターが我に返って口を開くまでには1分以上かかったかもしれません。その間、教頭先生は動くことも出来ずに指二本分の幅で残された毛と大事な部分を大公開。どうやらソルジャーがサイオンで縛っているようです。エロドクターは徐にメジャーを取り出すと。
「…4センチ」
計ったものはツーフィンガーの幅でした。
「でもって、長さが…。ふむふむ、剃られた部分はこの辺りまでということですか」
あちこちにメジャーを当ててからカルテに図解と数値を書き込み、教頭先生の方へ向き直って。
「剃られてしまったと伺いましたが、どういう理由でメンズエステに? 毛深いのは好みでは無いと誰かに言われでもしましたか? 如何にもブルーが言いそうですがねえ…」
「「言わないよ!」」
会長さんとソルジャーの声が見事にハモッて、ソルジャーが。
「ぼくはワイルドな方が好きだし、剃っちゃうなんてとんでもない! でもって、ブルーは毛深かろうがツルツルだろうが、ハーレイなんかは眼中に無いさ。…だけどハーレイなら剃りそうだねえ? ブルーにツルツルが好きだと言われたら」
「なるほどねえ…。すると犯人は、こっちの世界のブルーですか? 上手く騙して剃らせたとか?」
「騙された方がハーレイは幸せだったと思うな、ブルーが喜ぶと思い込んで自発的に剃りに行くわけだしね。…連れて行かれたって言っただろう? 無理やり剃られてしまったんだよ、脇とか脛もセットにして」
ほらね、とソルジャーが指差したのは教頭先生の剥き出しの脛。ええ、教頭先生は今も下半身は丸裸のままなのです。靴下とスリッパは履いてますけど。
「おやおや、足までツルツルですねえ。脇も剃られたと仰いましたが、なんでまた? そんな必要がいったい何処に…?」
「話せば長くなるんだけどね、ブルーが水着を着せようとしたのが発端かな。それもハイレグの」
こんな感じで、とソルジャーが思念でイメージを直接送ったらしく、おええっ、と呻くエロドクター。
「な、なんなのです、これは! 不気味としか言いようがありませんが」
「ウケたようだよ、シャングリラ学園の生徒たちには。ブルーも個人的に気に入ったのか、ツーショットなんかを撮っていたっけ」
「ツーショットですって!?」
有り得ません、とエロドクターは教頭先生を睨み付けて。
「あんな格好でブルーと写真に写ろうだなんて、厚かましい…。ブルーの隣に相応しいのはテクニシャンの私の方ですとも! ブルーを喜ばせるだけの自信も技も持ってますしね」
「……そ、そのぅ……」
教頭先生が消え入りそうな声を上げました。
「ズボンを履いてもいいだろうか? 診察は済んだと思うのだが…」
「おや。てっきり好きで露出してらっしゃるのかと…。これは失礼。ご自由にどうぞ」
ソルジャーのサイオンによる拘束が解けたらしくて、教頭先生は床に滑り落ちていた紅白縞とズボンを慌てて身に着けています。エロドクターはそれを横目で眺めながら。
「で、診察にいらした目的は劇的に伸びる育毛剤は無いかということでしたね? みっともないモノを見せて頂きましたが、私にそれを育毛しろと?」
「い、いや…。い、言い出したのは私ではなくて…」
しどろもどろの教頭先生に代わって、ソルジャーが。
「ぼくが言ったんだよ、育毛するならプロの意見を聞くべきだ、ってね。柔道部の合宿が近いらしくて、それまでに伸ばしておきたいらしい。足はともかくツーフィンガーは悪目立ちするし」
「…ああ、ツーフィンガーは目立つでしょうねえ…」
分かります、と頷くエロドクターはツーフィンガーという単語を知っていたようです。遊び人だけに、そういう流行りモノにも詳しいのでしょう。しかし…。
「こうなった以上、いっそワンフィンガーになさっては? それとも全部剃ってしまうとか…。その方が潔いですよ。育毛剤で劇的に伸びるということは無いですからねえ」
そんな薬は無いのです、とエロドクターはバッサリ切って捨てました。教頭先生、わざわざ此処まで連れて来られた上に恥ずかしい思いもさせられたのに、育毛剤が無いなんて…。御愁傷さまとしか言えませんよね。

合宿までにツーフィンガーは解消しそうにないと悟った教頭先生は傍目にも分かるガックリ状態。伸ばせないなら剃ってしまえとエロドクターは煽っていますが、そっちの方が更に情けないのは間違いなしです。何もかも会長さんのせいなんですけど、サイオニック・ドリームで誤魔化してあげる気は無いそうですし…。
「…弱ったな…。やはり風呂は諦めるしかないのだろうか…」
教頭先生の力無い呟きを聞き咎めたのはエロドクター。
「風呂を諦める? それは感心しませんね。夏こそ清潔にするべきです」
「…いや、風呂に入らないというのではなくて…。生徒と一緒に入浴するのはマズかろうと」
「それで合宿までに伸ばそうと焦っておられたのですか。…お気の毒ですが、育毛剤で伸びが速くなることはありません。この辺りは体質とでも申しますか…。体毛は男性ホルモンが多いと伸びるのが速いのは確かですがね」
そう言ったエロドクターに向かってソルジャーが。
「へえ…。だったら、それを投与してみたら? 少しは速くなるかもしれない」
「そう簡単にはいきませんよ。あなたの世界にそういう薬は?」
「うーん…。ぼくの世界にも劇的に伸びる薬というのは無いんだよ。人類側の最先端のデータバンクにはあるのかな? でも……ゼルの頭もダメだったし…」
ソルジャーは自分の世界のゼル機関長が薄毛に悩み始めた頃に人類側のデータを調べに行ったそうです。たかが仲間のハゲのために危険な橋を渡らねばならないとは、ソルジャー職は大変なのだなぁ…、と誰もが思ったのですが。
「あれは完全にぼくの趣味! 人類側に入り込むのは大好きでね」
「「「………」」」
「スリリングだし面白いよ? あっち側の人間になりすましてみたり、色々やっているんだけれど…。特に好きなのは研究所かな」
虎穴に入らずんば虎児を得ず、と得意げにウインクするソルジャー。それでも育毛剤のデータは無かったわけで、教頭先生、やはり諦めて頂くしか…。と、エロドクターがニッと笑って。
「私と代わって差し上げられればいいのですがねえ…。私は伸びるのが速いのですよ」
「「「は?」」」
なんのこっちゃ、と皆の視線が集中する中、ドクターは。
「スケベな人は髪が速く伸びる、とお聞きになったことはないですか? これが男性ホルモンと関係があると言われる所以です。…実際に速く伸びるのですが、髪ではなくて体毛でして…」
なんと! エロドクターの異名はダテではないと? ああ、教頭先生にその体質があったなら…。
「ハーレイもそれなりに速い方ではないかと思いますがねえ、濃さから言って。…しかし私の方が上です。濃くはないですが伸びるのは速い。…ブルー、無駄毛は多めの方がお好みですか?」
エロドクターが尋ねた相手はソルジャーでした。ソルジャーは「うーん…」と首を捻って。
「ハーレイ限定なら無駄毛の処理はしてない方が好みかなぁ。…だけど、君ならどうだろう? ツーフィンガーとかワンフィンガーとか、素っ頓狂な処理をされるよりかは、普通に無駄毛は少なめでいいかな」
「分かりました。では、どうですか? せっかくおいでになったのですから、私と一晩」
「いいかもねえ…。そうだ、ブルーも一緒にどう? ハーレイなんかは放っておいてさ」
きっと素敵な思い出になるよ、とソルジャーが誘えば、会長さんは顔面蒼白。なのにソルジャーは会長さんの手首をガッシリ掴むと。
「この際だから楽しもう! ノルディのベッドまで直行便だ」
ユラリと立ち昇る青いサイオン。ソルジャーのもう一方の手はエロドクターの手を握っています。
「おい、待て!」
キース君が叫んで飛び出すよりも早く空間が歪み、もうダメだ……と思った時。
「ブルー!!!」
教頭先生の絶叫と共に弾けた緑色の光。誰かが「伏せろ!」と私たち全員の身体を突き飛ばして…。

「……高価な医療機器もあったのですがねえ……」
溜息をつくエロドクター。診察室は足の踏み場も無い状態で、医療機器やカルテが床に散乱しています。その真ん中に仰向けに倒れている教頭先生の傍らにソルジャーが屈み込んでいて。
「仕方ないだろう、ブルーの真似をしたまでさ。新しい技には興味があるんだ。…でも、こんなサイオンの使い方はぼくの世界では出来ないし」
周囲が何かとうるさくて…、とソルジャーは診察室を見回すと。
「被害は最小限に抑えた筈だよ、この部屋の外には振動一つ伝わってないさ。警備システムも作動してない。ブルーだとこうはいかないね。下手をしたら診療所ごと吹っ飛んでいる。…そうだろ、ブルー?」
「…悔しいけれど当たっているよ。で、君はハーレイをバーストさせるためにノルディの誘いに乗ったのかい?」
「うん。君が絡めばバーストするかと…。案の定、派手にやってくれたよ」
ソルジャーはエロドクターの誘いに応じるふりをし、会長さんを巻き込むことで教頭先生の危機感を煽ったみたいです。切羽詰まった教頭先生、ついにサイオンが大暴走。その機に乗じてソルジャーが教頭先生のサイオンをサイオニック・ドリームを操れるように方向づけて…。
「ノルディが誘ってくれなかったら、この方法は思い付かなかった。でも一瞬で思い付いた上に実行に移して、ちゃんと結果を出せたってことは場数を踏んでいるからで…。感謝して欲しいね、ぼくの力に」
そんなソルジャーにエロドクターが。
「結局、ハーレイはどうなったのです? サイオニック・ドリームを操れるようになったそうですが、体毛限定だとか聞こえましたが…?」
「そうだよ? キースが髪の毛限定で使える話は知ってるだろう? それと同じで体毛限定。正確に言えばツーフィンガーを誤魔化せるというのが正しいかな。足と脇は意識して気合を入れないと難しいかもね」
クスクスクス…と笑うソルジャーに、エロドクターは思い切り苦い顔をしています。
「診察室をメチャクチャに壊された私からすれば、感謝する気にはなれませんねえ…。部屋と医療機器の修理は高くつきますが、請求書をハーレイ宛に送った所で払えないのは見えていますし…」
「ぼくで良ければ身体で返してあげるけど? 君が企画してくれた模擬結婚式以来、ぼくのハーレイは言うこと無しだし! 一生満足させてみせます、と誓っただけのことはあるんだ」
「…謹んで遠慮させて頂きますよ、今日の所は。とりあえず、ハーレイを起こして仕上がりを確認なさっては?」
エロドクターに促されたソルジャーが教頭先生をサイオンで目覚めさせると、教頭先生は部屋の惨状に息を飲み…。
「すまん、ノルディ。…本当に申し訳ないことを…」
平謝りに謝る教頭先生に支払い能力はありませんでした。会長さんとの結婚を夢見て貯金しているキャプテンの給料からなら払えるそうですが、エロドクターはそれを固辞して。
「ブルーには私も惚れていますし、ブルーのために貯めてある資金をピンハネしたくはないのですよ。この費用は……そうですね、身体で払って頂きましょうか」
「「「身体で?」」」
力仕事でもするのだろうか、と散らかった診察室を見渡す私たち。修理に備えて片付けるだけでも大変そうな雰囲気です。それを教頭先生にやらせるのなら納得だ、と思ったのですが、エロドクターは。
「ともあれ、脱いでみて下さい。本当にサイオニック・ドリームが操れるかどうかの確認です」
「…あ、ああ…」
スウェナちゃんと私が揃って後ろを向いている間に教頭先生はズボンと紅白縞を下ろし、ソルジャーに叩き込まれたサイオニック・ドリームを披露。結果の方は文句無しで…。
「良かったね、ハーレイ。これで合宿も平気だろ?」
「ありがとうございます。本当に一時はどうなることかと…」
ソルジャーに頭を下げる教頭先生。そこへエロドクターが拾い集めたアルコール綿やハサミを持ってきて…。
「では、万事解決ということでお支払いの方をお願いします。…ワンフィンガーなどは如何でしょうか? 私の専門は外科でしてね。切るのは勿論、毛刈りも得意なのですよ。剃毛は医者の仕事の範囲外ですが、たしなみです」
看護師がいない現場でも手術出来てこそプロでして…、とハサミを鳴らすエロドクター。
「ま、待ってくれ、ノルディ! そ、それだけはやめてくれ~!」
教頭先生の野太い悲鳴が響き、ソルジャーのサイオンが教頭先生を金縛り。会長さんが床に倒れた診察台をサイオンで引っ張り起こして、教頭先生を上に乗っけて、しっかりと台に固定して。
「綺麗に剃って貰ったら? ワンフィンガーはぼくも興味があるな」
「皆さんが協力的で嬉しいですよ。では、早速」
腕まくりをしたエロドクターと、会長さんとソルジャーと。共犯者たちが笑みを交わした後は、チョキチョキと鳴るハサミの音と、ジョリジョリジョリ…と剃刀の音。教頭先生のツーフィンガーはワンフィンガーへと変身中です。とんだ結末になりましたけど、教頭先生、流行りの形でオシャレにキメて下さいね~!




 

PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]