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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

夜明けを見たい

 八月二十八日はハーレイの三十八歳の誕生日。劇的な再会を遂げてから初めて迎えるハーレイの誕生日にブルーは羽根ペンを贈りたかった。ところが予算を軽くオーバー、十四歳の子供には些か高すぎる品。買って買えないことはないのだが、ハーレイに気を遣わせてしまいそうで。
(…羽根ペン、プレゼントしたいんだけどな…)
 諦め切れないブルーの悩みは早々にハーレイに見抜かれた。悩みの中身までは掴めなかったが、気付いたハーレイは気分転換にと夜の庭での夕食を持ち掛け、ブルーは楽しい時間を過ごす。星が瞬く下での夕食。しかもハーレイと二人きりとくれば、心に残らないわけがない。
 羽根ペンが買えない悩みを引き摺りつつも、ブルーは少し欲張りになった。星空は堪能したから次は夜明けを見てみたい、と。



「ねえ、ハーレイ」
 訪ねて来てくれたハーレイと自分の部屋で向かい合いながら切り出してみる。
「ハーレイと日が昇る所を見てみたいな。星はこの前、一緒に見たから」
「日が昇る所?」
「うん。夜が明ける所を見たいんだけど…。きっと素敵だと思うんだよね」
 空が次第に明るくなってゆき、星の数が減って、やがて太陽が昇って来る。星空もいいけれど、この地球を照らす太陽が顔を覗かせる瞬間をハーレイと見てみたかった。しかし…。
「お前なあ…」
 ハーレイが呆れた口調で言った。
「夜明けを見るって、夏休みにか?」
「そうだよ、ハーレイのお休みが沢山あるもの」
「…お前、最近、何時に起きてる?」
「んーと……。学校は無いけど早起きしてるよ、目覚ましはいつもどおりで七時!」
 得意げに答えたブルーだったが、ハーレイは「話にならんな」と苦笑した。
「どおりでとんでもないことを言い出すわけだ。夜明けは何時か知ってるのか?」
「……五時頃かな?」
「その時間なら付き合ってやるが、残念ながら五時にはすっかり明るいぞ」
 日が昇るのはもっと前だ、とハーレイがフウと溜息をつく。
「お前が言うような夜明けを見るなら四時には此処に来ないとな。俺は早起きも得意な方だが、そんな時間に俺がチャイムを鳴らしてみろ。お前のお父さんとお母さんが大迷惑だ」
 訪問するには早過ぎる時間。非常識にもほどがある。
「それとも俺に泊まれってか?」
 冗談で口にした言葉だったが、ブルーは「そうだね」と頷いた。
「それならハーレイも四時頃に起きればいいんだものね。じゃあ、泊まってよ」
「おい! お前が勝手に決めてどうする!」
 両親に訊きに行こうともせずに決めるブルーを、ハーレイは大慌てで止めにかかった。
「人を泊めるのは簡単じゃないぞ? 部屋はあってもお母さんに余計な負担がかかる。一晩しか使わなかったシーツなんかも洗わなければいけないんだしな」
「それはそうだけど…。パパもママも許してくれると思うよ、ハーレイだもの」
 泊まりに来てよ、とブルーは赤い瞳を輝かせた。



「どうしてぼくが夜明けを見たいか、ハーレイは分かる?」
「星を一緒に見たからだろう?」
「…半分は当たりで、半分はハズレ」
 ハズレな方の半分がブルーにとっては重要だった。当たり前のように来る朝だけれど、前世では朝日は見られなかった。地球の太陽はもちろんのこと、アルテメシアにあった太陽でさえ。
「ハーレイ、シャングリラに居た頃の朝を覚えてる?」
「朝?」
「そう。船の中だったから何処でも外を見られるってわけじゃなかったけれど…。シャングリラでは雲が白くなったら朝が来るだけで、太陽が昇るのは見えなかったよ」
 いつも雲海の中に潜んだままだったシャングリラ。サイオンシールドとステルスデバイスで姿を隠した船だったから、雲海からは出られなかった。浮上すれば目視で発見される。
「朝になったら雲が白くなって、暗くなったら夕方で…。夜明けなんか一度も見られなかった」
「…それはそうだが…」
「でしょ? だからハーレイと一緒に夜が明ける所を見たくって…。おまけに地球の太陽だよ?」
 二人で見よう、とブルーは強請った。
「シャングリラでは見られなかった夜明けが見られて、昇ってくるのは本物の地球の太陽だもの。せっかく二人で地球に生まれて来たんだから、夏休みの間に一緒に見ようよ」
「…お前の気持ちは分からんでもないが…。俺はこの家に泊まる気は無いぞ」
「なんで?」
「子供のお前には分からん理由だ。説明はするだけ無駄ってヤツだ」
 そう返してハーレイは沈黙した。ブルーの家に泊まり込むなど、冗談ではない。よりにもよってブルーと同じ屋根の下。耐えられないのが目に見えている。
(…ブルーに手を出すつもりは無くても、俺は健康な成人男性だしな)
 いくら小さな子供の身体であっても、ブルーはブルーだ。前の生で愛したソルジャー・ブルーの生まれ変わりで、今も変わらず恋人同士。前世と違って結ばれていない分、ハーレイは辛い。
(…それに同じ屋根の下だけで済むとも思えないからなあ…)
 ハーレイとブルーが恋仲なことをブルーの両親は全く知らない。それだけにハーレイを泊めるとなったら、気を利かせてブルーと同じ部屋にしかねなかった。二階にある二人用のゲストルームを「どうぞ」と提供されてしまったら断れない。
(そうなったら蛇の生殺しだぞ、俺は)
 同じ屋根の下よりも厳しい「ブルーと同じ部屋」は回避したいし、なんとしても勘弁願いたい。ブルーの家に泊まるだなんてとんでもない、とハーレイは固辞することにした。



「とにかく俺は泊まらないからな。朝日はお前が一人で見ておけ、夏休みの宿題にちょうどいい」
「宿題って?」
「絵日記だ。夏休みの宿題の定番だろうが」
「そこまで小さな子供じゃないよ!」
 ブルーは頬を膨らませたが、ハーレイの気持ちは変わらない。シャングリラに居た頃は無かった朝日を見たがるブルーの心は分かるけれども、それに付き合ったら身が持たない。
 そんなハーレイの思いに気付かないブルーはと言えば、どうしても夜明けを見たいわけで…。
「泊まれないなら、朝に来てよ。チャイムを鳴らさなくても大丈夫だから」
「どうするつもりだ?」
「ハーレイが来るよりも早い時間に起きるだけ! そうっと下に下りて開けるから」
 玄関を開けて門扉も開ける、と名案を思い付いた顔でブルーが微笑む。
「それならハーレイも何も心配しなくていいよね。パパとママを起こさないように静かにしてればいいんだもの」
「静かに…って、お前、何処から朝日を見るつもりなんだ?」
「あっちの部屋だよ」
 ブルーは壁の方向を指差した。
「東向きの大きな窓があってね、太陽が昇って来るのがよく見えるんだ。…だから足音を立てないように二階へ上がって、窓から二人で見てればいいよ」
「俺に挨拶も抜きで上がれと?」
「パパとママ? 朝御飯の時に挨拶すればいいんじゃないかと思うけどな」
「……お前……」
 子供ならではの発想の凄さにハーレイは頭を抱えそうになった。この家の住人のブルーが一人でコソコソするなら問題は無いが、それに付き合えと言われても困る。
 訪問を知らせるチャイムも鳴らさずに門扉をくぐって玄関から入り、足音を忍ばせて二階まで。それだけでも非常識な客人なのに、朝食の時間になったらダイニングに出掛けて挨拶だとは…。
 如何にブルーの守り役として出入り自由な身分といえども、厚かましいを通り越して傍若無人な振舞いと言うか、コソ泥のようだと言うべきか。泊まり込むのも勘弁だったが、こっそり入り込むコースの方も大概だった。家人が寝静まっている間にブルーの手引きで忍び込むなど論外だ。
(…しかし、俺には選ぶしか道が無さそうなんだが…)
 ブルーは小さくて愛らしかったが、頑固さだけは前の生と変わっていなかった。こうと決めたら譲らない。たった一人でメギドへ飛んだ時と同じ勢いを発揮する。
(…メギドよりかはマシなんだがな…)
 選択権が俺にある分だけは、とハーレイは眉間の皺を深くした。



 前の生でブルーがメギドへ向かった時には、ハーレイに選ぶ権利は無かった。ブルーが一方的に告げた遺言を守り、シャングリラに残って生きてゆくより他には道が無かった。
 それに比べれば、ブルーの家に泊まり込むのか、忍び込むかを自分で選べる今回はマシだ。まだマシなのだが、どちらの道もなかなかに酷い。泊まり込んでブルーと同室にされて蛇の生殺しか、忍び込んでバツの悪い顔で朝食の席に出てゆくか。
(…辛い目に遭うか、大恥をかくか…。俺としたことが、比較対象がメギドだとはな…)
 前の生で一番辛くて苦しかったブルーとの永遠の別れ。それを持ち出して比べるには小さすぎて情けなくなる悩みなのだが、此処でメギドが出てくる辺り、心の傷が癒えつつあるのだろうか。
 ブルーを喪った時の悲しみの記憶は今もハーレイを苦しめる。夢に見て叫び、その声で目覚めることもある。そんなメギドを引き合いに出せる分だけ、傷は癒えたのかもしれないが…。
(……今は選ぶしか無いんだよな?)
 目の前で小首を傾げたブルーがハーレイの答えを待っている。ハーレイと一緒に夜明けを見ようと決めたブルーが、計画を実行に移すための方法はどれになるのかと待ち受けている。
(…泊まり込むも地獄、忍び込むも地獄か……)
 他に選択肢は無いのだろうか、とハーレイは懸命に考えた。ブルーの望みは叶えてやりたいし、夜明けを見たいと言い出した理由ももっともなものだ。アルテメシアの雲海の中に潜んでいた頃、シャングリラの船体が朝日に照らされることは無かったのだから。
 だが、生き地獄な蛇の生殺しも、コソ泥も遠慮したかった。他に何か…、と苦悩する内に閃いた一つの考え。これならば、とハーレイはそれをブルーに伝えた。
「いいか、ブルー。俺が泊まるとお母さんたちに気を遣わせるし、忍び込んでも結果は同じだ。…俺はどちらも乗り気になれんな。…そこでだ、朝早くから俺がチャイムを鳴らしても誰も困らない日があるようだったら来ることにしよう」
「…どういう意味?」
「お父さんたちが早起きする日だな。まだ暗い内に出掛ける用事があるとか、そういうことだ」
 そんな日があれば、夜が明ける前に来て東向きの窓からブルーと一緒に朝日を見てもいい。
 そう言われたブルーは「分かった」と答え、ハーレイもこれで朝日の件は当分の間は保留だろうと思っていたのに…。



「パパ! 朝早く出掛ける用事って、無い?」
 夕食の支度が出来たと呼ばれて下りてゆくなり、何の前置きもなくブルーが叫んだ。唐突すぎる問いに、テーブルに着いていたブルーの父が「なんだ?」と驚く。
「どうした、ブルー?」
「何か用事ないの? 暗い内から出掛けなくっちゃいけないような!」
「………? お前、何処かへ行きたいのか?」
「そうじゃなくって!」
 ブルーは子供ならではの我儘っぷりを爆発させた。
「ハーレイと夜明けを見てみたいのに、ハーレイ、泊まるの嫌だって…。朝早くにウチに来るのはかまわない、って言ってくれるけど、パパたちが早く起きる日でなきゃダメなんだって!」
 だから用事、と父に詰め寄る。
「暗い間に出掛ける用事って、なんにも無いの!?」
 無ければ作れと言わんばかりのブルーに気圧されつつも、其処は父だけに。
「…どうして夜明けを見たいんだ? お前は朝も弱いだろう?」
「シャングリラで一度も見てないからだよ! 外は真っ白だったから!」
「真っ白?」
「雲海の中にいたんだってば! だからハーレイと朝日が見たい!」
 夏休みの間に絶対見たい、とゴネ始めたブルーにハーレイは肝を冷やしたのだが、勝利の女神はブルーの上に微笑んだらしく。
「…なるほど。パパの知らない頃のお前が見たいわけだな、夜が明けるのを」
「うんっ!」
「そういうことなら、一つ用事を作るとするかな。…どうかな、ママ?」
 父に問われた母が「ええ」と頷く。
「でも、用事って…。暗い内からって、会社の門もまだ開いていないでしょ?」
「前から釣りに誘われてるんだ。朝が早過ぎるからと断っていたが、一度行ってみるさ。ブルーもそれでいいんだろう?」
「パパ、ホント?」
「ああ。今週の土曜も行くと言ってたし、パパは釣りだ。お前はハーレイ先生と朝日を見なさい」
 望みが叶ったブルーは歓声を上げて父に抱き付き、ハーレイの土曜日の予定も決まった。朝日が顔を出す前にブルーの家に来て、門扉の横にあるチャイムを押す。その頃にはブルーの父の愛車がガレージから消えているだろう。朝一番から釣りに出掛ける友人たちと合流するために。



 念願叶って土曜日の朝。朝と呼ぶにはあまりにも早い三時半すぎにブルーは父に起こされた。
「ほら、ブルー。朝だぞ、ハーレイ先生がおいでになる前に起きるんだろう?」
「…パパ、眠い……」
「知らんぞ、パパは出掛けるからな」
 ブルーの上掛けを引っぺがした父は、いそいそと釣りに出掛けて行った。その父の車がガレージから走り去っても起きて来ないブルーに、今度は母が階段を上がってやって来る。
「ブルー、そろそろ起きないと…」
「…眠いよ、ママ…」
「もうすぐハーレイ先生がいらっしゃるわよ?」
「ハーレイ!?」
 ガバッと飛び起きたブルーは時計を見るなり悲鳴を上げた。
「酷いよ、ママ! なんで起こしてくれなかったの!?」
「パパが起こして行ったでしょ? ママで二度目よ」
「間に合わないよーーーっ!!」
 ハーレイが来ちゃう、とブルーがアタフタしている間に門扉の横のチャイムが鳴らされ、客人の来訪を母に知らせた。母は「開けてこなくちゃ」と部屋を出てゆき、ブルーはパニック状態で。
「さ、先に歯磨き? 着替えるのが先?」
 ドタバタと駆け込んだ洗面所でパジャマ姿で顔を洗っていると、背後から「おはよう」と笑いを含んだ声がかかった。
「寝起きのお前を見るのは何年ぶりだか…。いや、ナスカのアレもカウントするのか? 格納庫で小さいトォニィを抱えて、ナキネズミに顔を舐められてた時な」
「ハーレイの意地悪っ!」
 こんな所を見に来なくても、と鏡に映ったハーレイを睨み付けても笑われるだけ。寝癖がついた髪もパジャマ姿もしっかり見られた。どうせならもっと色っぽい所を見て欲しかった。なのに…。
「やっと着替えか。覗かないから早くしろよ」
 じゃあな、とハーレイはブルーの部屋の扉を外からパタンと閉ざしてくれた。
(…酷い!)
 見るんだったら着替えじゃないの、と泣きたい気持ちになってくる。寝坊したブルーが悪いのだけれど、みっともない部分だけを見られて「色っぽい」であろう着替えは無視。
(…ぼく、ハーレイの恋人なのに…)
 思わず声に出た「ハーレイのバカッ!」を、当のハーレイは扉の向こうで笑いを噛み殺しながら聞いていた。一人前に「覗き」を期待したらしい小さな恋人の脹れっ面を思い浮かべて。



 すったもんだはあったけれども、太陽はブルーの身支度が整うまで出るのを待っていてくれた。いつものブルーの部屋とは違って、来客用に整えられた部屋。東向きの大きな窓はまだ真っ暗で、カーテンを開けると空の端の方だけがほんのり明るい。
「よし、間に合ったな。まだ星もあるぞ」
「ホントだ。けっこう沢山光ってるけど…。東の方にはもう見えないね」
「みるみる内に見えなくなるさ。ほら、あの辺りもさっきまで星があったのにな?」
 白み始めた空は瞬く間に明るさを増してゆく。窓の向こうの木も黒々とした塊だったのが茂った葉になり、その遙か上を何処へ行くのか何羽もの鳥が飛んでゆく。
「…夜が明けるのって、太陽が昇ってくるだけじゃないんだ…」
「そりゃまあ……なあ? 雲海の上なら太陽だけかもしれないけどな」
 今なら空気も違う筈だ、とハーレイが窓を開けると涼しい風が流れ込んで来た。夜気の名残りに爽やかな緑の匂いが混じる。露を帯びた木々を渡ってくるからだろうか。
「どうだ、お前が見たかったものは?」
「…シャングリラの朝とは全然違うね。公園なんかは朝も夜も再現していた筈なのに…」
「人工の照明とは比べようもないさ。おっ、出て来るぞ」
 サアッと辺りが明るくなった。太陽の欠片が顔を出しただけで世界に一気に色が付く。
「本物の地球の太陽だ…。ぼくが見たかった地球の太陽…」
「俺は一応、見てはいるんだがな…。あんな汚い空気の中ではサッパリ駄目だな」
 この太陽とは別物だ、とハーレイが笑う。
「ガキの頃から日の出は散々見て来たんだが…。記憶が戻ると味わい深いな、同じ太陽でも」
「ぼくはあんまり見たことないや…。朝には強くないんだもの」
「それは今朝のでよく分かった。俺と約束していたくせに寝坊するとは天晴れだ。しかも夜明けを見たいと言い出したのはお前なのにな?」
「…ホントに朝には弱いんだもの…」
 そういう言葉を交わす間に太陽はとても見ていられない明るさになり、やがて階下から母が来て朝食は何処で食べるかと訊いた。ダイニングか、それとも庭の木の下のテーブルか。
「木の下がいい!」
「はい、はい。それじゃ用意をしてくるわね」
 母の姿が消えて間もなく、窓からの風に焼き立てのパンの香りが加わった。他にも美味しそうな匂いが混じる。そして母が「朝御飯、用意出来たわよ」と呼びに来て…。



「こいつは最高に贅沢だな」
 朝一番から外で食事か、とハーレイが分厚いトーストを齧り、ブルーは普通サイズのトースト。庭で一番大きな木の下の白いテーブルと椅子の周りの芝生はまだ朝露が光っていた。
「ハーレイ、朝からよく食べるよね」
「お前が食べなさ過ぎなんだ。しっかり食べて大きくなれよ、と何度も言っているだろう」
「…入らないんだもの……」
 特に朝は、とブルーが唇を尖らせると。
「ふむ。そういう時には運動がいいぞ? ああ、そうだ。もう少ししたら公園に行くか」
「公園?」
「夏休みの間は朝に体操をやってるようだ。掲示板に時間が書いてあったぞ、六時からだ」
 ハーレイはパチンと片目を瞑った。
「食べ終わって少し休憩してだな、それから朝の体操をする。どうだ?」
「えっ…? ぼ、ぼく、朝の体操は…」
「行ってみたことが無いってか? 連れてってやるぞ、健全なデートといこうじゃないか」
「む、無理! 今日はとっても早起きしたからもう眠い!」
 眠いんだもの、と言えば「朝の体操はシャキッと目が覚めるぞ」などと言い返されて。
 けれどブルーの身体が弱いことを知っているハーレイは決して無理強いしなかった。公園に行く代わりに他愛ない話をして笑いながら過ごす。
 ここ数日、ブルーの頭を悩ませている羽根ペンを買うべきか買わざるべきか、という悩みも今は幸せな時間に溶けて消えていた。
 早起きのせいで眠いどころか、ブルーの心は満ち足りていて元気一杯。うんと早起きをしたから今日はハーレイと普段よりも長く一緒にいられる。
 体操デートはしたくないけれど、朝と呼べる時間もまだたっぷりと残っている。
 今日はハーレイと何を話して過ごそうか?
 二人で眺めた今日の夜明けに、シャングリラに居た頃の雲海の夜明け。
 どちらもハーレイと眺めた景色。ハーレイが隣に居てくれる幸せ。
 ハーレイが好きでたまらない。前の生も、今も、これからも………ずっと。




         夜明けを見たい・了


※シャングリラでは見られなかった日の出をハーレイと二人で見られる幸せ。
 ブルー君、早起きした甲斐があったみたいですね。

 聖痕シリーズの書き下ろしショート、30話を超えてしまいました…。
 ←拍手してやろう、という方がおられましたらv
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