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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

絶賛修行中  第1話

 ※この作品はアルト様の女性向け短編「絶賛修行中」とのコラボになります。
  アルト様バージョンは「こちら」をクリックなさって下さいv





シャングリラ学園は今日も平和な時間が流れています。ただ、今までと違うのは…たまに別世界からの来客があることでしょうか。キース君が持ち込んだ掛軸がきっかけで知り合った、別の世界のシャングリラ号に住む会長さんそっくりのソルジャーや「そるじゃぁ・ぶるぅ」そっくりの「ぶるぅ」がヒョッコリ遊びに来るんです。
「ブルー、昨夜はブルーを泊めてやったってホントかよ?」
サム君がいつもの「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で尋ねました。会長さんは授業に出なかったので、サム君は早く放課後にならないか…と一日中ソワソワしていたんです。
「うん、メールしたとおりだよ。時間が出来たとかで夕食前にフラッと来たから、ぶるぅと3人で食事して泊まっていってもらったんだけど」
「…そうか…。それで…その…」
言いにくそうに口ごもってしまうサム君。朝から様子が変ですけれど、ソルジャーが会長さんの家にお泊りすると何か問題があるのでしょうか?二人が入れ替わってしまう恐れが無いってことは既にハッキリしているのに…。
「ふふ、心配してくれてたんだ?…大丈夫、ブルーはぼくには興味ないから」
「「「えっ?」」」
意味不明な言葉に私たちは首を傾げましたが、サム君はホッと安堵の吐息をついています。今日はキース君はシロエ君やマツカ君と一緒に柔道部。ここにいるのはジョミー君とスウェナちゃん、それに私と少なめです。会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」が差し出す洋梨のタルトのお皿を受け取りながらクスッと小さく笑いました。
「サムはぼくが変なことをされていないか、気にしてくれていたんだよ。…ブルーにはあっちの趣味があるからね」
「「「!!!」」」
「だから何にもされてないって。…瓜二つっていうのも楽しいかもね、とは言われたけれど、それ以上は押してこなかったし…一緒に寝たけど平気だったし」
「ちょっ…。一緒に、って、ブルーの部屋で!?」
フォークを取り落としかけたサム君の慌てっぷりに、会長さんはおかしそうに。
「そうだよ。ベッドは1つしか無いし、もちろん二人で一緒に寝たさ。…ゆっくり話していたかったしね」
「ゲストルームならベッドが2つずつあるじゃねえか」
「…同じベッドだとダメなのかい?…フィシスだって使うベッドだよ」
「………!!!」
サム君はみるみる真っ赤になってしまいました。この純情さでは、会長さんとの初デートはまだまだ遠そうです。
「今ならサムと一緒に寝たって危ないことはなさそうだね。次の土曜日に泊まりに来る?」
「い、いや…。お、俺…」
「そういうところが好きなんだ。真面目で、安全」
会長さんはサム君の頬に軽くキスして、紅茶を一口飲みました。
「確かにサムよりブルーの方が危険と言えば危険かも。ぼくが女の子専門って知っているから、どうも興味があるらしくって。昨夜はぼくのキスが向こうのハーレイより上手いかどうか試してみたいな、なんて言ってたよ」
「ブルー!…なんで追い出さねえんだよ!」
「だって、あっちが女役ってわけだろう。…ぼくにその気は全くないし、間違いなんか起こらないさ」
「…あんたってヤツは…」
溜息をつくサム君の肩を会長さんが軽く叩いて「心配ないよ」と言っていますが、あのソルジャーなら何かのはずみで会長さんにキスするくらいは朝飯前かもしれません。たとえ冗談でも、瓜二つの人を相手に腕前を知りたいからキスしないかと持ちかけるなんて、どんな思考回路をしているんだか。軽い頭痛を覚えながらも昨夜の話を聞いていた所へ、部活を終えたキース君たちがやって来て…「そるじゃぁ・ぶるぅ」が焼きたてのピザを運んできました。えっと、とりあえず食べるのが先かな…?

運動してきた柔道部三人組のお相伴でピザも食べちゃった私たち。話題は自然と昨夜現れたというソルジャーの話に流れていって、会長さんが。
「そういえば、ハーレイなんだけど。…あっちの世界は恐ろしかった、って言ってる割に秘かに憧れているみたいだよ。あっちのハーレイはブルーとしっかり恋仲だから、それが羨ましいらしい。…この間、ちょっと用事があって教頭室に行ったんだ。そしたらボーッと窓の外を見てて、心の中身が零れ放題」
ぼくに気付くなり慌てて遮蔽したけれど、と会長さんは続けました。
「あっちのハーレイと一晩だけ入れ替わって過ごせたら…と凄い高望みをしていたよ。入れ替わってどうする気なんだろうね?…ぼくを抱こうとして挫折したくせに、ブルーの相手が出来るとでも?」
「…あんたが挫折させたんだろうが」
苦々しい顔のキース君。
「青の間の時は危なかったと俺は思うぞ。ぶるぅに妨害させてなければ、あのまま食われていたんじゃないか?」
「それは無理。…ハーレイの心を読んでいたんだ。あれがハーレイの限界だよ。ぶるぅが姿を現さなくても、鼻血を出してリタイヤするのは時間の問題」
なんといってもヘタレだから、と会長さんは過去の事例を並べ立てます。白ぴちアンダーで扇情的なポーズを取られて仮眠室に駆け込む羽目になったり、足つぼマッサージをしていて会長さんの艶っぽい声に煽り立てられてトイレに
立て籠もる結果になったり…。逃げ込んだ先で何をしてたかはバレバレですし、鼻血レベルの話ともなれば枚挙に暇がありません。
「だからハーレイがあっちの世界に行ったとしても、ブルーと…なんて夢のまた夢。三百年越しのヘタレが治るというなら別だけどね。…ん?これって、もしかして使えるかも…」
楽しいことを思いついたらしく、赤い瞳が悪戯っぽい光を湛えて。
「そうだ、ハーレイの夢を叶えてやろう。あっちの世界に送ってやって、修行をさせてやるんだよ」
「「「修行?」」」
「うん、修行。…お寺の修行なんかじゃなくて、ハーレイにはとても有意義なヤツ。ズバリ名づけてヘタレ直し!」
「「「ヘタレ直し!?」」」
話の見えない私たちですが、会長さんはノリノリでした。
「そう、ヘタレを直すために修行に行くのさ。…あっちのブルーとハーレイの夜をじっくり観察してもらう。目を逸らさずに頑張れたなら、少しはヘタレが直るかもね」
「それって、思い切り危ないじゃないか!」
サム君が会長さんの右手をギュッと掴みます。
「教頭先生が本気になったら、俺の力じゃ勝てっこないし…キースたちだって勝てないし!ヘタレが直って帰ってきたら、絶対すぐにブルーのこと…」
「攫って食べてしまうって?」
コクコクと頷くサム君の髪を会長さんはクシャッと撫でて。
「平気だってば。ハーレイのヘタレは、そう簡単には直りっこない。…修行は新手の悪戯なんだよ。ハーレイがどんな目に遭わされて帰ってくるか、考えただけで楽しいじゃないか」
三百年の経験に裏打ちされた会長さんの自信はケタ外れでした。おまけにタイプ・ブルーですから、心の動きの読み間違えなんて有り得ません。教頭先生は別の世界まで飛ばされた挙句にオモチャにされてしまうんでしょうか?
「…ぼくは表に出ない方がいいな。ハーレイに警戒されるし、ここはぶるぅに任せよう。…ぶるぅ、今度あっちのぶるぅが遊びに来たら、ハーレイを修行に連れてって欲しいと頼んでくれる?」
「いいけど、なんだかよく分からないや。ヘタレ直しって言えばいいの?…それでお話、通じるのかな?」
「ハーレイが一人前になるための修行なんだ、って言えばいいよ。鼻血を出さずにぼくの相手ができる身体にキッチリ仕込んでくれ、ってね。あのぶるぅには、それで通じる」
ぶるぅと違って余計なことに詳しいし、と意味深な笑みを浮かべる会長さん。そういえば「ぶるぅ」はおませな子供でした。きっと嬉々として修行のセッティングをしてくれるでしょう。それで、教頭先生は…?
「ぶるぅ、ハーレイの方も頼むよ。…いいかい、ハーレイの家に行ってこう言うんだ。…あっちの世界のハーレイはブルーと仲がいいって聞いたんだけど、ハーレイもブルーと仲良くしたい?…って。ハーレイは赤くなる筈だから、仲良くするコツを覚える修行をしてこないか、って勧めてごらん。あっちのぶるぅと話をしていて思い付いた、ってことにしてね。絶対に乗ってくる筈だ」
ぼくの名前は出さないこと、と会長さんは念を押しました。素直で無邪気な「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコ笑顔で頷いています。大事な役目を任されたのがよほど嬉しいらしいのですが、意味は絶対分かっていません。次に「ぶるぅ」が遊びに来たら、恐ろしいプランが動き出します。二つの世界を跨ぐ会長さんの悪戯企画、教頭先生の『ヘタレ直し』が始動する日はすぐそこかも。私たちは頭を抱え、サム君はオロオロしていたのでした。

それから十日ほどが経ったある日の放課後。柔道部の部活が早く終わったので、私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が焼いたシフォンケーキを食べながら賑やかにおしゃべりしていたのですが…。
「今日の部活は早かったね。ハーレイが出張にでも出かけたのかな?」
会長さんの問いに、マツカ君が。
「いえ、教頭先生は今日は急用だそうで…。朝練に顔を出された時には、今日の放課後は厳しく指導するから頑張れよ、っておっしゃっていたんですけれど」
「なるほど。…急用ね。休養の間違いじゃないかと思うんだけど。…休むって意味の方の休養」
「「「え?」」」
教頭先生が休養ですって?どこか具合が悪いのかも、と私たちは顔を見合わせました。
「だから文字通りの休養だよ。柔道部の部活も学校の用事も全部キャンセルして、非日常の世界でリフレッシュ。いや、まだ出発してはいないかな…」
ふふふ、と微笑む会長さんは何かを知っていそうです。非日常の世界でリフレッシュって、まさか…!でもでも、あれから「ぶるぅ」をの姿を見かけた覚えはないですし…。
「ぶるぅが君たちのいる時に来るとは限らないよ。ブルーだってそうだろう?ぼくがメールを送らなかったら、この間ぼくの家に泊まってたなんて知らずに終わっていたんじゃないかな」
「じゃ、じゃあ…もしかして…」
ジョミー君が口をパクパクとさせて「そるじゃぁ・ぶるぅ」を指差しました。
「あっちのぶるぅが遊びに来たわけ?…で、ぶるぅにあのとおり言わせたの?…あっちのぶるぅと教頭先生に…修行の話…」
「決まってるじゃないか。修行を思いついた次の日だったかな…。あっちのぶるぅが家に来たんだ。美味しいお菓子が食べたいな、って。だから、ぶるぅがキッチンに誘って、お菓子を作る間に頼んだらしい。オッケーが出たとぼくに報告してくれたから、その日の内にハーレイの家へ行かせたのさ」
得意そうな顔の会長さん。
「ハーレイはすぐに乗り気になったし、向こうの世界のぶるぅも頑張って下調べをしてくれたようだ。今日、君たちが授業を受けてる間に、ぶるぅが準備が出来たと迎えに来たから…教頭室に行くように言った。こっちのぶるぅにも様子を見に行かせたけど、ハーレイはいそいそと早退してったそうだよ」
もちろん「ぶるぅ」と一緒にね、と言って会長さんは優雅な仕草でティーカップを口に運びます。
「修行は夜にならないと無理だし、向こうのシャングリラの中を出歩くわけにもいかないし…。ぶるぅの部屋とやらでレクチャー中か、それともハーレイの家で腹ごしらえして、夜になってから出発か…。どっちにしても今夜はハーレイにとって忘れられない夜になると思うよ」
「…修行と言えば聞こえはいいが、とどのつまりは覗きじゃないか」
キース君の突っ込みに会長さんはニヤリと笑って。
「そういうこと。…まりぃ先生のイラストなんかじゃなくって、本物でしかも音声つき。ハーレイ、どこまで耐えられるかな?あ、ポケットティッシュを持つように根回しするのを忘れてた。シールドの中で見学なんだし、この前みたいにティッシュを分けてもらうわけにはいかないよねえ…」
「そっか、鼻血が出ないようにする修行だっけね」
頷いたのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ティッシュが要るならぶるぅが用意してくれると思うよ。任せてね、って自信たっぷりだったもん」
「ライブラリで色々調べたって言ってたっけ。生中継が無いのが残念」
生中継って…!会長さんったら、覗きの現場を見物したかったらしいです。ソルジャーと向こうのキャプテンの夜を見てみたいのか、「ぶるぅ」と覗き見する教頭先生の反応が見たいのか…。後者の方だと思いたいですけど、好奇心旺盛な会長さんだけに、実は両方見たかったりして。
「とにかく明日には結果が分かるよ。放課後はみんなで教頭室に行ってインタビューだ」
明日は部活の無い日だし、と会長さんは上機嫌です。つまり私たちも巻き込まれるってことですね。とんでもない展開にならなければいいんですけれど…。覗きの感想をインタビューなんて、どう転んでも悪趣味ですよ!

翌日の放課後、私たちは戦々恐々として陰の生徒会室に出かけました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がアップルパイを出してくれますが、会長さんはソファに腰掛けて浮かない顔をしています。
「ブルー、具合でも悪いのか?」
サム君が隣に座って心配そうに覗き込むと、会長さんは「大丈夫」と微笑んで。
「ちょっとね、気がかりなことがあって。…ハーレイが欠勤してるんだよ。あっちのぶるぅが家に送ってくれたらしいんだけど、昨日の夜にいっぱい運動して疲れたっていうのが原因だって。帰るなりベッドに潜り込んだそうだ」
「…運動?」
眉を潜めるキース君。夜に運動って、もしかして…。
「大人の運動。ハーレイを送ってきたぶるぅはハッキリそう言った。自分も恋をしたらするんだ、とね」
「「「!!!!!」」」
目が点になった私たちに、会長さんはトドメの一言を付け加えました。
「あっちのブルーも今朝はベッドから出てこなかったらしい。おまけに壊れちゃいそうだと言ったんだってさ」
誰も言葉が出ませんでした。それって、修行が上手くいきすぎてヘタレが直ってしまった挙句に、教頭先生がソルジャー相手に頑張りまくったって意味なのでは…。
「真相はぼくにも分からないんだ。ぶるぅの思考を読もうとしたけど、何も見てないし聞いてないから無理だった。まだ大人じゃないからダメだと言われて防音土鍋の中にいたらしい」
「…ぶるぅはダメって…。シールドから出ちゃったってことですか?…ぶるぅも教頭先生も」
シロエ君の指摘に会長さんは大きな溜息をつきました。
「最初からシールドしなかったんだよ。その辺のことは読み取れた。…あっちのぶるぅは下調べして、見られていると燃えるという知識を仕入れてね…。ハーレイと二人でベッドの端から目から上だけを出して見ていたらしい」
そこを向こうのキャプテンに見咎められて、教頭先生は鼻血を出しつつ修行に来たことと目的を白状した…という所までは確かな事実。でもその後は謎なのです。鼻血を出してばかりの教頭先生が本当にあのソルジャーを…?
「ぼくだって信じたくないんだけれど、こんなお土産を貰ってはね…。ブルーからぼくへのプレゼントなんだ」
会長さんがテーブルの上に出してきたのはハート型の箱でした。蓋を開けて中身を1つずつ並べ始めます。どれも綺麗な色ですが…。
「これも、これも気持ちよくなる魔法の薬だそうだ。こっちは飲んで、こっちは塗る。それから…」
催淫剤以外の何物でもない薬の説明を終えた会長さんは「どう思う?」と困ったような顔で尋ねました。
「こんなお土産を寄越すってことは、ハーレイのヘタレが直ったから相手をしてやれって言ってるのかな?…ぼくは正気じゃ絶対にハーレイとなんか出来っこないし、薬を使えって意味なんだろうか…」
「なんでそこまでしなくちゃいけねえんだよ!?」
サム君が怒り出し、テーブルに並んだ小さな容器を次々と箱に戻します。
「ブルーがそうしたいならともかく、嫌なんだろ!?…嫌なのにこんな薬を使って教頭先生の相手をするなんて冗談じゃねえよ!教頭先生が我慢できないって言うんだったら、あっちのブルーに頼めばいいだろ!!」
箱に蓋をして忌々しそうに睨むサム君に、会長さんは柔らかな笑みを浮かべました。
「…ありがとう、サム…。そうだよね、ブルーに頼めばいいんだよね…。高くつくかもしれないけれど」
「あんたそっくりだし、ふっかけられるかもな」
キース君が頷いて。
「だが、ふっかけられようが借りができようが、教頭先生に食われるよりかはマシだろう?…大体、あんたが妙な悪戯を思い付いたのが元凶なんだし」
「…こうなるとは思わなかったんだ。あのハーレイが…ぼく相手でさえ本気になれない筋金入りのヘタレが、ぼくそっくりとはいえ赤の他人を…」
何度目か分からない溜息をついて、会長さんはすっかり冷めてしまった紅茶を一気に飲み干しました。
「ぶるぅの証言と、このお土産。ハーレイは限りなく黒に近いけど…。でも本人に確かめるまでは黒と決まったわけじゃない。…今からハーレイの家に行こうと思う。みんな、ついて来てくれるよね?」
「「「えぇっ!?」」」
「えぇっ、じゃないよ。…昨日の夜、運動しすぎて欠勤しているハーレイだよ?ぼくが一人で出かけていったら、修行の成果を発揮しようと襲ってくるかも…」
確かにそれは危険でした。サム君は会長さんが教頭先生に会うこと自体に反対でしたが、会わないと真相は闇の中だと言われて渋々承知し、私たちもボディーガードとして付き添うことに。
「いいか、俺の腕では勝てないぞ。…まずいと思ったら瞬間移動で逃げてくれ」
後は俺たちがなんとかする、とキース君が言っています。教頭先生は柔道十段の武道家だけに、会長さんを守り抜くのは至難の技かも。
「分かった。悪いけど、その時はお願いするよ。…ノルディと違ってテクニックは全然ダメだと思うし、振り切って逃げるくらいはできるだろうから」
会長さんが立ち上がり、私たちもカバンを持ちました。アップルパイのお皿は空ですけども、どこへ食べたのか全く記憶にありません。
「君たちのカバンは邪魔になるから、ぼくの家に送っておくよ。帰る時にまた取り寄せるから」
そう言って会長さんがカバンを移動させる間に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が「ちょっと待ってて」と大急ぎでお皿とカップを洗って片付け、トコトコと走って戻ってきました。
「ぼくも行く。…だって、修行を頼んじゃったの、ぼくなんだし…責任あるし!それにブルーと二人なら、みんなを瞬間移動でハーレイの家に送れるよ。玄関前でいいんだよね?」
今なら人がいないみたい、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は私たちを部屋の真ん中に立たせ、青い光が包み込んで…フッと身体が宙に浮きます。トン、と足が再び地に着くまでは一瞬でした。

初めて行った教頭先生の家は住宅街の中の庭付き一戸建て。ごくありふれた家ですけれど、向こうに見えるのは会長さんのマンションでは…。会長さんが二階建てが並んだ住宅街を指差して。
「この辺りはシャングリラ学園の関係者の家が多いんだ。あそこに見えるのがぼくの家」
瞬間移動で教頭先生の家の前庭に降りた私たちはキョロキョロと周囲を見回しました。門扉も開けずにいきなり庭に飛び込んでしまったわけですけども、警報が鳴り響くようでもありません。
「セキュリティは甘いよ、この家。盗られるような物も無いしね。…金庫の中身って、あの指輪しか無いんじゃないかな。給料の三ヶ月分だったとかいうルビーの…ぼくの婚約指輪」
「指輪を貰う羽目にならないように気をつけろよ」
キース君が言い、会長さんは「分かってる」と右手をキュッと握りました。
「この家、ハーレイが一人で住むには大きいだろ?…教頭だから大きい家を割り当てられてるわけじゃない。ぼくとぶるぅが引っ越してきても住めるように、っていうハーレイの希望と願望の結果」
ひえぇ!教頭先生ったら、ヘタレのくせに妙に手回しがいいようです。それとも夢見るタイプなのか…。
「夢に決まっているじゃないか。家の希望を聞かれた時に家族用って即答したんだ。家族のアテもないくせに…。いつも頑張って掃除してるよ、ぼくを迎える日のためにさ。本当にぼくと結婚したくてたまらないらしい」
家の中には宝物を隠してるしね、と会長さんは一階の窓を指差しました。
「あそこがハーレイの書斎なんだ。机の引き出しの中に、まりぃ先生のイラストのコピーが沢山入ってる。まりぃ先生ったら、プレゼントしては煽ってるのさ。…どんなイラストかは想像つくだろ?それを選んで寝室に持っていくのが秘かな楽しみ。ついでに言うと寝室の壁には写真が貼ってあるんだよ。ぼくのウェディング・ドレス姿の等身大の写真がね」
教頭室の戸棚に隠しているのと同じ写真を堂々と貼っているようです。その寝室にまりぃ先生の妄想イラストを持ち込んで…どうするのかは聞くだけ野暮というものでしょう。そこまで会長さんに惚れ込んでいる教頭先生が、昨夜、会長さんにそっくりのソルジャーを相手に積年の想いを遂げてしまったのか、違うのか。
「ハーレイったら、ぼくに合鍵までくれたんだ。…使う日が来るとは思わなかったな」
宙に取り出した銀色の鍵で玄関の扉を開ける会長さん。堂々と侵入しようというわけですが、寝室で寝ているらしい教頭先生に出会った瞬間、抱きすくめられてそのままベッドに…なんて事態になってしまうかもしれません。ソルジャーと熱い夜を過ごしたらしい教頭先生、ちゃんと理性が戻っていればいいんですけど…。




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