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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

理由なき反抗  第1話

シャングリラ学園に中間試験の季節がやって来ました。試験の1週間ほど前から1年A組の一番後ろに机が増えて、会長さんが混ざっています。授業の方は居眠っているか、仮病で保健室に行っているかのどちらかで…休み時間にはアルトちゃんとrちゃんを口説きまくるのが日課でした。最近の会長さんは以前にも増して熱心です。
「だって。女の子って可愛いじゃないか。…そりゃフィシスには敵わないけど、つい手を出してみたくなるよね」
明日から試験という日の放課後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で会長さんが微笑みました。
「出すな!!」
睨み付けたのはキース君。
「今のあんたならやりかねん。あれ以来、何を考えてるのか分からんからな。…サム、しっかり手綱を握っとけよ」
「俺、ブルーが幸せだったらそれでいいんだ」
会長さんの隣に座るサム君は今日もニコニコしています。休み時間に会長さんがアルトちゃん達を口説いていても、幸せそうに見てるだけ。これじゃ手綱を握るどころか、逃げられたって仕方ないのでは…。でも会長さんはサム君が気に入っているらしくって、公認宣言を撤回する気配はありません。それとは逆に徹底的に避けられているのが他ならぬ教頭先生でした。
「ブルー、古典の授業を1回も受けなかったよね」
パウンドケーキを頬張りながらジョミー君が指摘したとおり、会長さんは1年A組での古典の授業を全部サボッてしまいました。それも教頭先生が顔を出す前に逃げてしまって、会長さんの机はいつも空席。前は古典の授業は必ず出席して居眠りしたり、落書きしたり、わざと倒れて授業を中断させてみたりと好き放題だった筈ですが…。
「いいじゃないか、授業を受けなくても問題ないし。君たちの満点は保証するよ」
「…でも…」
マツカ君が口を挟みました。
「教頭先生に訊かれたんです。ずっとブルーに避けられているが、まだ根に持っているのだろうか、って」
最近の会長さんは教頭先生に会っても完全に無視。会釈どころか足早に立ち去り、呼び止められても知らん顔です。
名前を呼ばれているのに聞こえないふりをし、教頭先生なんか見えていないように振舞うのでした。これでは教頭先生がマツカ君に事情を聞こうとするのも当然と言えば当然で…。
「それで?…なんて答えたんだい、マツカ」
「いえ…。ぼくは何も聞いていません、と言いましたけど…」
「言っちゃえばよかったのに。ぼくはハーレイを怖がって逃げてるんだ、って。…ハーレイに薬を飲ませた時は君たちも現場に居たんだからさ。ノルディを呼んだ時には見えないギャラリーだったけどね」
ティーカップ片手に会長さんは唇を尖らせました。
「あんな記憶を後生大事に抱え込んでる担任だよ?どう考えてもセクハラじゃないか。しかもその後、思い切って嫁に来ないかって言ったんだ!…これで怒らない方が変じゃないかと思うけど」
「………。額面通りに受け取るのなら、それで正解なんだがな」
キース君が腕組みをして。
「あんたの場合、一筋縄ではいかないだろう?…アルトたちを派手に口説いているのは、あの件の反動じゃないかと思う。だが、教頭先生を無視しているのが分からない。いつもならとっくに仕返ししている」
言われてみればそうでした。ただひたすらに避けるだけなんて、会長さんらしくありません。けれど会長さんの顔に浮かんだのは儚げな笑み。
「…ぼくだって、たまには傷付くんだよ」
赤い瞳を静かに閉じて、会長さんはサム君の肩にもたれました。
「ハーレイがサムみたいに優しかったら、あんなとんでもない夢を持ったりしないと思うんだよね。単にぼくと一緒に暮らしたい…っていうだけだったら、何もかも丸く収まるのにさ。…だから大人って嫌いなんだ」
えっと。サム君は何もしないから安心だっていうことでしょうか?それに年齢だけでいったら会長さんだって立派な大人なのでは…。会長さんの考え方は私たちにはサッパリです。教頭先生が嫌われたらしいのは確かですけど、この先、いったいどうなるのやら…。

1位がお好きなグレイブ先生が監督する中、中間試験が始まりました。会長さんのお蔭で今回も答えがスラスラ書けます。初めて体験するクラスメイト達は「そるじゃぁ・ぶるぅ」の御利益なのだと聞かされていて、御利益を運んでくれた会長さんに感謝の言葉が降り注ぐ日々。今日で3日目、試験もいよいよ最終日ですが…。
「すまん、ブルーは来ているか?」
教頭先生に声を掛けられたのは、スウェナちゃんと廊下に出た時でした。1年A組以外のクラスは試験勉強に必死ですから、廊下はガランとしています。教頭先生、いつから待っていたんでしょう?
「…他の生徒には聞きにくくてな。ブルーは来たか?」
「はい。自分の席にいますけど」
「そうか。…それで、その…。ちゃんと元気にしているだろうか」
「元気ですよ?」
なんだか変な質問です。会長さんが出席してるかどうか、なんてグレイブ先生に後で確かめればいいのでは?それに元気かって…。私たちを待たなくたって他の生徒で十分なような。
「…ありがとう。時間を取らせて済まなかったな」
穏やかな笑顔でお礼を言われると悪い気持ちはしませんけれど、教頭先生の真意は謎でした。私たちが不思議そうに見詰めていると、教頭先生は咳払いをして。
「いや、ちょっと…。ブルーの様子を見に来ただけだ。元気だったらそれでいい」
なるほど。避けられているだけに気になる、というところでしょうか。教頭室のある本館の方へ向かう背中には哀愁の二文字が見えました。それを知ってか知らずか、試験が終わって「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に私たちが集まると、会長さんはにこやかに。
「ぶるぅ、ハーレイの所に行ってくれないかな。打ち上げパーティーのお金を用意してくれてると思うんだよね」
「…あの…」
スウェナちゃんがおずおずと口を開きました。
「教頭先生、ずいぶん心配しているみたい。お金を取りに行けば顔を見せてあげられるし…」
「…ぼくが?なんで出向かなきゃいけないのさ。ぼくの機嫌を取りたいんなら、届けに来ればいいじゃないか。この部屋のことはハーレイだって知ってるのに」
「あんたが立ち入り禁止にしてるんだろうが!…生徒以外はお断りって。まして避けられている教頭先生にすれば結界みたいなものだと思うぞ」
入りたくても入れないし、とキース君が言いましたけど、会長さんは涼しい顔。
「ここまで来いとは言ってないよ。生徒会室のぼくの机に置いて帰れば済むだろう?…そうしないってことは、ぼくが来るのを待ってるんだ。その手には引っ掛からないからね。ぶるぅ、行っておいで」
「オッケー♪」
飛び出して行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」はすぐに熨斗袋を持って帰って来ました。
「足りなかったらハーレイの名前でツケにしといていいんだって!行こうよ、今日は個室で串カツだよ!活けの海老とか揚げてくれるし、美味しいんだから!」
うわぁ、高級そうな串カツ屋さん!私たちは教頭先生のことなんかすっかり忘れてタクシーに乗って街に繰り出し、食べて騒いで楽しく盛り上がったのでした。

それから数日が経って、試験結果の発表日。1年A組はもちろん学年トップでグレイブ先生はご満悦です。私たちも満点の答案用紙を返して貰って、放課後はキース君と柔道部の二人も一緒に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ行こうと中庭を歩いていたのですが…。
「あなたたち、ちょっといらっしゃい」
待ち構えていたように現れたのはエラ先生。生活指導をなさってますが、私たち、何かマズイことでも…。もしかして串カツを食べに行った時、「そるじゃぁ・ぶるぅ」がチューハイを頼んでいたのがバレましたか!?どうしよう、停学になっちゃいますよ~!!
「あらあら、何か悪いことでもしたのですか?…みんな真っ青な顔をして。大丈夫、少しお話をしたいだけです」
その『お話』が怖いんです、と心で叫ぶ私たちが連れて行かれたのは生活指導室でした。ここへ来るのは全員、初めて。現役の1年生の頃ならともかく、何が悲しくて特別生の身で連行されなきゃいけないのでしょう。第一、チューハイを飲んだのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」で、私たちはジュースとウーロン茶なのに!
「やあ、呼びつけて済まなかったね」
えっ、ヒルマン先生?…ゼル先生にブラウ先生も!?部屋の中には宇宙クジラ…いえ、シャングリラ号の長老と呼ばれる5人の内の4人までが揃っていたのでした。こんな面子に呼ばれたとなると、停学くらいで済まないのでは…。
「その顔つきでは後ろ暗いようじゃが、校則違反なぞどうでもいいわい。わしらの用事は別の話じゃ」
ゼル先生がぶっきらぼうに言い、エラ先生が。
「おかけなさい。…あなたたちに聞きたいのはソルジャー…いえ、ブルーのことです」
「「「えぇぇっ!?」」」
会長さんったら、何をやらかしてくれたんですか!ビクビクしながら椅子に座ると、ブラウ先生が緑茶を配ってくれました。ヒルマン先生はお饅頭を配りながら。
「君たちはブルーと親しいそうだが、最近、何か変わった様子はなかったかね?…悩んでいたとか、そういうことは?」
「えっ…」
会長さんに悩み、ですって?あの件以来、教頭先生を避けているのは事実ですけど、悩んでいるようには見えません。それに会長さんのことなら、私たちよりフィシスさんの方が詳しいのでは…。会長さんとフィシスさんが恋人同士なのは先生方もご存じです。キース君がそう言うと、即座にヒルマン先生が。
「もちろんフィシスにも尋ねたのだよ。だが、私たちの望む答えは得られなかった。それで今度は君たち7人に来てもらったというわけだ。ブルーが何をしていたのかはクラスメイトに聞くのが早そうだからね」
クラスメイトと言われても…。今年はまだ中間試験と入学式の日の実力テストでしか会長さんは私たちのクラスに来ていません。普段の授業中に会長さんが何処にいるのか、それすら知らない私たちです。多分「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋か、自分の家で好きに過ごしているんでしょうけど。
「ヒルマン。こういう話はズバッと言っちまうのが一番だよ」
回りくどいのは好きじゃない、とブラウ先生が割り込みました。
「あんたたちに尋ねたいのは試験期間中のブルーのことさ。…1年A組が全員満点を取っているのはブルーが混ざったお蔭だろ?なのに肝心のブルーときたら、全科目で0点を取ったんだ」
「「「0点!?」」」
「そう、0点。赤点なんて甘いモンじゃなくて、掛け値なしの0点なんだよ。無茶苦茶な答えが書いてあったり、白紙で出してあるのもあった。…こんなことは今まで一度も無かっただけに、あたしたちにもサッパリ理由が分からないのさ」
会長さんが…0点…。どう考えてもわざとです。追試になったりするのかな…。ゼル先生がフンと鼻を鳴らして。
「ブルー…いや、ソルジャーの実力を我々はよく知っておる。追試をしたらこれ見よがしに満点を取って馬鹿にするつもりかもしれんのだ。じゃが、馬鹿にされるようなことはしておらん。…しておらん…と思うのじゃが…」
「けれど、全科目0点だったのは事実です。理由も無しにそんな点数を取るでしょうか」
エラ先生が溜息をついて視線を膝に落としました。
「試験の1週間ほど前からブルーは1年A組に在籍していましたが、グレイブに尋ねても心当たりは無いそうです。
これ見よがしに0点で統一するなど、事情があるとしか思えません。悪戯にしてもやり過ぎですし、私たち教師に抗議したいことでもあったのでしょうか。…何か聞いてはいませんか?」
聞いてないかと言われても…。会長さんが0点を取ったというのは初耳ですし、そんなそぶりも皆無でした。何のために間違った答案や白紙を提出したのでしょう。確かに悪戯にしては酷すぎますけど、エラ先生がおっしゃるような抗議行動とも思えません。わざと0点を取って無言のアピールをするくらいなら、学校中にビラを撒きそうな気がします。それも捏造だらけの怪文書を。
「…君たちにも心当たりは無いかね」
困った顔のヒルマン先生に私たちは「すみません」と頭を下げるしかありませんでした。
「そうか…。では、もう一つ聞かせてほしい。…ハーレイのことだ」
「「「は!?」」」
会長さんの0点の次は教頭先生についてですか!?それって生徒に聞くようなこと…?職員会議の管轄では…。

「ハーレイがブルーの担任なのは知っているね。そして古典の教師でもある。ブルーの中間試験の答案なのだが、古典だけが白紙で提出されていたのだよ」
他は出鱈目でも解答が書いてあったのだ、とヒルマン先生は言いました。
「担任の担当する科目だけが白紙で他は無茶苦茶、結果は0点。これは担任に訴えたい何かがあったか、あるいは担任が気に入らないか。そのどちらかだと思われるのだが、決め手が無くてね。…そこで聞きたい。ハーレイとブルーの間で何か起こっていないかね?」
えっと。会長さんが教頭先生を無視しまくっていることくらい、学校中にバレバレなのでは…。私たちは顔を見合わせましたが、そこでハッタと気が付きました。他の先生や生徒の目がある時に会長さんが教頭先生と出くわしたことは無かったのです。タイプ・ブルーだけに、教頭先生の居場所を把握しながら自分の通路を選んでいたというわけでしょう。
「心当たりがありそうじゃな」
ゼル先生が髭を引っ張り、ブラウ先生が。
「あんたたちを呼んで正解だったよ。ダテに友達をやってないねえ」
「「「友達!?」」」
「そうさ。…あんたたち、ブルーの友達だろ?特別生は今までに何人もいたけど、ブルーの友達はいなかった。毎日ぶるぅの部屋に入り浸らせるほど仲良くなったケースは無いんだよ。よっぽど気に入ったんだろうねぇ、あんたたちが」
あれ?…それじゃフィシスさんやリオさんは?
「フィシスは最初から特別だったのさ。ブルーが恋人にしようと連れて来たんだし、友達とはちょっと違うんだ。リオの方は腰が低すぎてダメだね。悪戯好きのブルーには物足りなく見えるみたいだよ」
あんたたちは楽しい仲間らしい、とブラウ先生はウインクしました。
「で、ブルーは何をやっているんだい?…全科目で0点を取ってハーレイのメンツを潰そうっていう魂胆かい?」
「…そうするからには何か理由がある筈だ」
顎に手を当てるヒルマン先生。
「ブルーが全科目0点だったと職員会議で判明した時、ハーレイが顔面蒼白になった。担任だから無理もない、と思ったのだが、違ったのかもしれないな。…身に覚えがあった、ということもある。君たちの様子からして、その確率が高そうだ。…生徒に聞くのも妙だとは思うが、一度卒業した特別生だし、ここは大目に見てくれたまえ」
そして先生は声を潜めて。
「………ブルーはセクハラに遭ったのかね?」
「「「は!?」」」
せ、セクハラって…。教頭先生と会長さんの間に何かあった、というだけのことで何故にセクハラ!?
「これは失礼。君たちは知らなかったのか…。勘ぐりすぎてしまったようだ」
ヒルマン先生が言い訳を始める前に、ブラウ先生が「知らないってことはないだろう」と。
「ハーレイはブルーに一方的に惚れてるのさ。…知らなかったかい?」
どう返事すればいいのでしょう。首を横に振るべきか、縦に振るべきか。横に振ったら知らなかったことになるんでしょうか?困惑する私たちを見たエラ先生が。
「この様子では知っていますね。…ハーレイには私たちも困っているのですけど、ブルーが構わないと言うので見て見ぬふりをしてきました。でも、今回の0点がハーレイのせいだというなら、考え直さないといけません」
「そうじゃ、そうじゃ!…ハーレイが何かやりおったのじゃ。ブルーはわしらに知らせる代わりに、0点を取って注意を引こうと…。今から思えば修学旅行のアレも」
ハッと口を押さえたゼル先生に、他の先生方の視線が集中しました。
「……修学旅行がなんですって?」
エラ先生の咎めるような視線にゼル先生は頭を押さえ、仕方がない…というように。
「去年の修学旅行の時じゃ。わしが夜中に見回っておると、ブルーが泣きそうな顔で飛びついてきて、ハーレイに襲われそうになったと言いおってな…」
「ちょっと!そんな報告、聞いてないよ!!」
ブラウ先生を筆頭に先生方の非難の声が責め立てる中、ゼル先生は額に汗を浮かべて。
「ブルーが報告しないでくれと言ったんじゃ。表沙汰になると学校に居づらくなる、とな。…それに修学旅行が終わって暫くしてから、あれは自分の悪戯だったと謝りに来たし…」
「それは判断が難しいな。…本当にブルーの悪戯だったか、あるいはハーレイが悪戯だったと言わせたか。以前だったら間違いなく悪戯だったと言い切れたろうが、今回の0点を見てしまうと…」
疑いの目で見ざるを得なくなる、とヒルマン先生が言い、他の先生方も頷きました。修学旅行で起こった事件は私たちも『見えないギャラリー』として眺めていたので真相を知っているんですけど、魔がさしたとでも言うのでしょうか。教頭先生の潔白を証言する人は誰一人としていませんでした。

先生方は修学旅行の事件について話し合った後、私たちの方に向き直って。
「…教頭がセクハラだなんて、これが普通の学校だったら恥ずかしい限りなんだがね…」
ヒルマン先生が切り出しました。
「君たちも知ってのとおり、ここは特殊な学校だ。ブルーはソルジャーでハーレイはキャプテン。…その役職においては恋愛沙汰は全く問題ないのだよ。だからブルーの担任がハーレイであっても、誰も異を唱えはしなかった。それにハーレイが担任をするというのはブルーの希望でもあったしね」
なんと!教頭先生が会長さんの担任をやっているのはソルジャーとキャプテンという要職同士だからではなく、会長さんの趣味でしたか。自分に片想いしているヘタレの教頭先生をオモチャにするには、担任と生徒というのは極上の関係と言えるでしょう。私たちは溜息をつき、ヒルマン先生が苦笑いして。
「…エラの言うとおり、君たちもハーレイの気持ちを知っているようだね。では、改めて聞かせてもらうよ。…ブルーとハーレイの間で何があったか。……セクハラかね?」
「「「…………」」」
私たちは言葉に詰まってしまいました。別世界からのお客様のことを先生方はご存じありません。教頭先生が別世界へ修行に行ったお土産に凄い記憶を貰ってしまって、それが原因でドクター・ノルディまで巻き込む騒ぎになっただなんて、もちろん言える筈も無く…。
「…無理ですわ、ヒルマン。とてもデリケートな問題です。…教師には話しにくいでしょう」
エラ先生の助け船に、ホッと息をつく私たち。それで先生方には分かってしまったようでした。
「…やっぱり…。ハーレイも焼きが回ったねぇ」
「いつかこうなると思っていたんじゃ!…おのれハーレイ、よくもソルジャーに…」
呆れた顔のブラウ先生と、拳を震わせるゼル先生。エラ先生とヒルマン先生は眉間を押さえて深い溜息。
「…………。具体的に何があったかは聞かないことにしておこう」
長い長い沈黙の後、口を開いたのはヒルマン先生でした。
「ソルジャー……いや、ブルーはどうしているのかね?…我々の目には普段と変わりなく見えたのだが」
私たちは何度も視線を交わし、肘でつつき合い…キース君が代表に押し出されました。
「…教頭先生を徹底的に無視しています」
「無視?」
「はい。…呼ばれても聞こえないふり、顔を合わせても見えないふりです」
「それは随分と…酷いようだね。なるほど、それでハーレイの担当科目だけが白紙だったというわけか。見えていない問題ならば解答しようがないからな。そこまで嫌っているとは思わなかった」
事態はかなり深刻そうだ、とヒルマン先生。
「よっぽどのことをしたんだよ。…まだ1学期の半ばだけども、担任を変えた方がいいかもしれないね」
「…担任を変えるじゃと?…誰が担任するんじゃ、ブラウ!」
「適役がいるじゃないか。どうせブルーは今年もこの子たちのクラスに入り浸りさ。…グレイブだよ」
「あんな若造にソルジャーのお守が務まるかいっ!!」
ブラウ先生とゼル先生の議論が始まり、ヒルマン先生とエラ先生も難しい顔をしています。まさか担任を変更だなんて…。三百年間も会長さんを担任してきた教頭先生を外すだなんて、シャングリラ学園創立以来の大事件に違いありません。もしかして会長さんはそれを狙って0点を?…その為に教頭先生を無視?…そういえば古典の試験は初日でした。試験最終日に教頭先生が会長さんの様子を見に来ていたのは、白紙解答に驚いたからでしょう。
「…これはブルーに事情を聞くしかないですな」
「それが最善だと思います。…傷付けないよう、注意を払わなくてはなりませんけど」
結論が出たらしく、ヒルマン先生がエラ先生と頷き合ってから、私たちに。
「…貴重な情報をありがとう。ぶるぅの部屋に行こうとしている所だったかな?」
はい、と答えると言われたことは…。
「我々の用は終わったから、行きたまえ。もしブルーがいたら、此処に来るよう言ってほしい。留守だったら、ぶるぅに伝言を頼む。…私たちが話をしたがっているから、都合のいい日を教えてくれ…とね」
シャングリラ号の長老方が会長さんに…呼び出し。教頭先生を無視しまくって、中間試験で0点を取って、呼び出しを食らった会長さん。これが会長さんの狙いでしょうが、いったい何をする気ですか~!




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