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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

美味しい注文
今年もシャングリラにクリスマス・シーズンがやって来た。ブリッジを仰ぐ船で一番広い公園、其処には大きなツリーが飾られ、名物の「お願いツリー」も登場している。
(クリスマスに欲しいプレゼントを書いて、お願いツリーに吊るしておくと…)
 サンタさんが届けてくれるんだよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は小さいツリーを眺めている。大人の場合、欲しいプレゼントを贈ってくれるのは、恋人だったり、プレゼント担当の係だったり。断然、子供の方がお得で、もう願い事を書いて吊るした子供もいるけれど…。
(ぼくは、もうちょっと、考えようっと!)
 考え事をするには、エネルギーだ、と早速、出掛けることにした。行先はもちろん、行きつけの店というヤツだ。このシャングリラに店は無いから、つまりは、船の外だったりする。
「行ってきまぁ~す!」
 誰が聞いているわけでもないのに、大きな声で宣言すると、瞬間移動でパッとアタラクシアへ。シャングリラが潜む雲海の星はアルテメシアで、育英都市が二つある。アタラクシアは、その一つ。
(さーて、と…)
 今日は、どの店に入ろうかな、と少し悩んで、最近ブームの激辛料理の店にした。全宇宙的に、只今、激辛料理が流行中。子供を育てるための育英惑星だって、例外ではない。
(育英都市にも、大人は沢山いるもんね!)
 大人の方が多いくらい、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は空いている席を見付けて座って、ぐるりと店内を見回した。今の時間は、子供は学校に行っているから、店の中には大人たちと…。
(学校も幼稚園も、まだ早いんです、って子供ばっかり…)
 でもでも、ぼくは平気だもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は胸を張る。なんと言っても、最強のタイプ・ブルーの子供。情報操作はお手のものだから、店員たちも見た目なんかは気にしない。
「いらっしゃいませ! ご注文は、何になさいますか?」
 おしぼりと水を持って来た店員の前でメニューを広げ、「これ!」と「本日のおすすめ」を指で示した。写真を見る限り、あまり辛そうな感じはしない。だから余計に、気になるわけだ。
「レンコンと骨付き肉の汁物ですね? そちら、辛さが選べるのですが…」
 激辛ですか、と店員に訊かれて、「おすすめで!」と即答した。長年、食べ歩きをやって来たから、経験で覚えたことがある。こういう時には自分の好みにするより、おすすめを選ぶのがベスト。
「おすすめですと、さほど辛くはないですが…。よろしいですか?」
「うんっ、おすすめの味が本物だもんね!」
 もちろんソレで、と食通らしく答えて、注文の品が来るのを待つ。どんなのかな、と。



(激辛のお店で、辛さ控えめなんてあるんだ…?)
 メニューに何か書いてないかな、と見直してみたら、各種料理の紹介の所に「全ての料理が辛いわけではありません」と記されていた。この店は、昔、地球で一番辛いと言われた種類の中華料理、それを売りにしているのだけれど…。
(全部が全部、激辛だった、ってわけじゃなくって…)
 辛さ控えめで素材を活かす、といった料理も多かったらしい。さっき頼んだ「レンコンと骨付き肉の汁物」も、その中の一つ。
(やっぱり辛さ、控えて良かったあ!)
 激辛にしてたら味が台無し、と自画自賛する内に、熱々の汁物が運ばれて来た。レンゲで掬って口に入れると、レンコンは味が染みてホクホク、骨付き肉は骨が勝手に外れてゆくほどの柔らかさ。
(わぁーい、とっても美味しいよ、コレ!)
 よく煮えてるし、と御機嫌で食べて、「もう一杯!」と、おかわりをした。激辛料理を追加するより、これを追加して食べまくってこそ、真の食通というものだろう。
(おすすめなんだし、今日は一番、力が入っている筈だも~ん!)
 お鍋を空っぽにしちゃうもんね、と頼みまくっても、よほど力を入れていたのか、「完売です」とは言われなかった。むしろ「そるじゃぁ・ぶるぅ」の胃袋の方が…。
(……もう入らない……)
 お腹一杯、と退散する羽目になったけれども、レジの横にあるテイクアウト用の肉まん、それを頼むのも忘れない。シャングリラに帰って今夜のおやつ、と「肉まん、10個ね!」と元気良く。
 肉まんを箱に詰めて貰って、クリスマス前の街を散歩してから、瞬間移動で船に戻って…。



(まだまだ、お腹、一杯だから…)
 悪戯のアイデアでも考えようかな、と自分の部屋で、床にコロンと転がった。寝床の土鍋もいいのだけれども、それだと眠ってしまいそうだし、考え事には向いていない、と。
(えーっと、悪戯…。だけど、さっきの、とっても美味しかったよね!)
 激辛料理のお店で辛さ控えめのが美味しいなんて、と思い出しただけで唾が出て来そう。料理の世界は奥が深い、と感心せずにはいられない。「今日のおすすめ」になっていなかったなら、きっと一生、頼まなかったような気がする。「激辛の店だし、辛くなくっちゃ!」と頭から思い込んで。
(おすすめの料理、あちこちで選んで来たけれど…)
 こんなサプライズは初めてだよね、と新鮮な驚きと感動がある。世の中にはいろんな「一番」があって、「激辛料理の店だから、激辛が一番美味しい」とは限らないらしい。
(ホントに不思議なお話だよね…)
 すると一番美味しい料理って、どんなのだろう、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は首を傾げた。この広い宇宙に、料理は文字通り「星の数ほど」存在する。まだ食べたことのない未知の料理も、色々とあるに違いない。それらも含めて、「一番美味しい」料理を食べたいと思ったら…。
(……地球で一番美味しいお店の、おすすめ料理ってことになるわけ?)
 地球は人類の聖地で、最高の星らしいもんね、と顎に手を当てる。首都惑星のノアも、なかなか栄えているそうだけれど、聖地には敵わないだろう。人類のお偉方が、最高の料理を食べに出掛けてゆくとなったら、当然、地球にある店で…。
(地球にも、お店は幾つもあって、その中で一番美味しいお店が最高で…)
 其処で出される料理の中でも、最高の品が「宇宙で一番、美味しい料理」との評判を取っているのだと思う。「こちらが当店おすすめの料理になります」と、店員が運んで来るヤツが。
(…食べてみたいかも…!)
 それに…、と頭に閃いたこと。「地球で一番、美味しい料理」を食べるためには、その店がある地球に出掛けて行くしかない。
(お取り寄せだと、一番美味しい状態で届くわけじゃないから…)
 地球の店に入って食べるのが一番、その店に「食べに行く」ことは、つまり…。
(食事しに、地球に行くってことだよ!)
 行かないと食べられないんだから、とナイスなアイデアが浮かんで来た。今年のクリスマスは、これをお願いすればいい。そうすれば地球に行くことになって、地球の座標が分かって…。
(ブルーと一緒に、地球に行けるよ!)
 シャングリラでね、と飛び跳ねる。「今年のお願い、これに決めたあ!」と。



 クリスマスに欲しいものが決まったからには、有言実行。「そるじゃぁ・ぶるぅ」はウキウキと「お願いツリー」の所に出掛けて、願い事を書いた札を吊るして大満足。悪戯のアイデアを練るのはすっかり忘れて、肉まんを食べて土鍋に入って、ぐっすり眠ってしまったけれど…。
「ソルジャー、ぶるぅが、こんなものを…」
 欲しいと言って寄越しました、とキャプテン・ハーレイが青の間に行くことになった。ツリーに吊るされたプレゼントを用意する係の者が、「キャプテン、これは…」と言って来たせいで。
「クリスマスに欲しいプレゼントかな?」
 何か問題でもあるのかい、とソルジャー・ブルーが炬燵の中から尋ねる。この時期、青の間には炬燵が出て来て、上にはミカンが盛られた器や、緑茶を淹れるための道具が並ぶのが常。
「はい、ソルジャー。…ご覧下さい」
 この通りです、とハーレイが差し出した紙には、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の字で、こう書かれていた。「地球で一番美味しいお店で、おすすめ料理が食べられるチケット、下さい」。
 ソルジャー・ブルーは赤い瞳を真ん丸にして、その願い事を何度も読み返して…。
「うーん…。どう考えても無理だね、これは」
「そうなのです。ぶるぅには、コレを諦めて貰うしか…」
「無いんだけどねえ…。今はぐっすり眠っているし、夜も遅いし…」
 明日、よく言い聞かせて変更させるよ、とソルジャー・ブルーは苦笑する。
「きっとぶるぅは、一石二鳥だと思っているんだろう。美味しく食べて、地球の座標も…」
「分かるでしょうねえ、地球の店で食べるんですからねえ…」
 上手く断って下さいよ、とハーレイは眉間の皺を指先で揉んだ。
「もちろんだよ。でないと、ぶるぅが機嫌を損ねて大変なことになるんだろう?」
「ええ、大暴れで悪戯大盤振る舞いに違いありません!」
 クリスマス前は、悪戯を我慢しているだけに…、とハーレイも充分、承知している。悪い子には欲しいプレゼントが届かないから、今の時期の「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大人しいのだ、と。
 そんなハーレイにミカンを持たせて送り出した後、ソルジャー・ブルーは「さて…」と赤い瞳を瞬かせる。「ぶるぅに上手く諦めさせるためには、どう言おうかな…?」と。



 翌日、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は、またも出掛けて食べまくった後、船に戻って、自分の部屋で「地球で一番美味しい料理」に思いを馳せていた。「どんな料理で、どんなお店?」と、想像逞しく夢の翼を大きく広げて、ヨダレが垂れそうな顔をして。其処へ…。
『ぶるぅ、青の間まで来てくれるかな?』
 大好きなブルーの思念が飛んで来たものだから、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は急いで飛んだ。
「かみお~ん♪ 何かくれるの?」
 瞬間移動で青の間に入って、いそいそと炬燵のブルーの向かいに座る。ブルーは炬燵の上にあるミカンを一個、「はい」と「そるじゃぁ・ぶるぅ」に渡すと、「あのね…」と口を開いた。
「ぶるぅ、サンタさんに食事のチケットを頼んだそうだね?」
「そう! 地球で一番、美味しいお店に行きたいの!」
 でもって、其処のおすすめ料理を食べるんだよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は得意満面、名案を披露し始める。宇宙で一番美味しい料理を食べることが出来て、地球にも行ける、と。
「えっとね、お店のお料理、一番美味しく食べるためには、お店に行くのが一番だから…」
 チケットを貰えば、地球にあるお店の場所も分かるよ、と大好きなブルーに説明した。でないと店には行けないのだから、地球の座標も分かる筈だ、と。
「なるほどね…。それは間違いないだろうけど、その前に…」
 地球に行ける人は、どういう人かな、とブルーは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に尋ねた。人類ならば誰でも行ける資格があるのか、それともそうではないのか、と。
「んーと…。んーとね、きっと、うんと偉い人たちだけじゃないかな?」
 メンバーズ・エリートだったっけ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は考え込む。他にはどういう偉い肩書があっただろうか、と乏しい知識を総動員して。ノアにいるのは、メンバーズの他に…、と。
「ほらね、人類の中でも、地球に行ける人は少ないんだよ?」
 サンタクロースは行けそうだけど…、とブルーは困った表情になった。「でもね」と、「サンタさんはチケットを手に入れられても、其処には、きっと…」とブルーの顔が曇ってゆく。「恐らく、サンタさんの名前が書かれているだろうね」と。
「サンタさんの名前って?」
 なあに、と怪訝そうな「そるじゃぁ・ぶるぅ」に、ブルーは答えた。
「そのチケットを、使っていい人の名前だよ。サンタクロース様、と書いてあるチケットは…」
「もしかして、それ、サンタさんしか使えないの?」
「そうなるね。だから、ぶるぅが貰っても、使えないんだし…」
 願い事は他のものにしなさい、とブルーは諭した。「サンタさんだって、困るだろう?」と。



(そっかぁ…。サンタさんがチケット、手に入れて、ぼくにくれたって…)
 使えないんじゃ仕方ないね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」はチケットを諦め、お願いツリーに別の願い事を書き込んだ紙が吊るされた。「ステージ映えするカラオケマイクを下さい」と。
 ソルジャー・ブルーも、ハーレイも、プレゼントを用意する係もホッと一息、そしてクリスマスイブがやって来て…。
「では、ソルジャー。今年も行って参ります」
 サンタクロースの衣装を纏ったハーレイが、大きな白い袋を手にして「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に向かった。何度か此処で懲りているので、罠があるかどうかもチェックしてから…。
(よしよし、今年もよく寝ているな。寝ていれば、普通に可愛いんだが…)
 悪戯小僧め、とハーレイは「そるじゃぁ・ぶるぅ」の枕元にプレゼントを並べてゆく。ブルーや長老たちからのプレゼントに、ご注文の品のカラオケマイクに…、と順番に。
(これで良し、っと…。無事に済んだな、今年の私のお役目は)
 いい年だった、と新年も来ていないというのに、ハーレイの中では一区切り。青の間でブルーに報告をして、キャプテンの部屋に戻って眠って、シャングリラの子供たちも夢の中。
 次の日の朝、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が目を覚ますと…。
「わあ、プレゼントが今年も一杯! んとんと、うわあ、ピカピカのカラオケマイク!」
 これならステージで映えるよね、と歓声を上げた所へ、大好きなブルーの思念が届いた。
『ハッピーバースデー、ぶるぅ! みんなが公園で待ってるよ? それに大きなケーキもね』
「あっ、忘れてたあ! お誕生日もあったんだあ!」
 今、行くねーっ! と叫んで瞬間移動で、ブリッジの見える公園へ飛んで行くと…。
「「「ハッピーバースデー、そるじゃぁ・ぶるぅ!!!」」」
 おめでとう! とシャングリラの仲間たちが笑顔で迎えて、バースデーケーキが担がれて来た。それは大きな、みんなで食べても充分、たっぷり余ってしまいそうな豪華な超特大のが。
 船の誰もが手を焼く悪戯小僧だけれども、今日は主役で、クリスマスパーティーも賑やかに。
 ハッピーバースデー、「そるじゃぁ・ぶるぅ」。今年もお誕生日、おめでとう!




              美味しい注文・了

※「そるじゃぁ・ぶるぅ」お誕生日記念創作、読んで下さってありがとうございます。
 管理人の創作の原点だった「ぶるぅ」、いなくなってから、もう5年になります。
 2007年の11月末に出会って、其処からせっせと続けた創作、なんと今年で15年目。
 シャングリラ学園番外編の方は、今年で連載終了ですけど、場外編は続いてゆきます。
 つまり良い子の「ぶるぅ」は現役、けれど悪戯小僧な「ぶるぅ」も大好きな管理人。
 お誕生日のクリスマスには記念創作、すっかり暮れの風物詩。今年もきちんと書きました。
 「そるじゃぁ・ぶるぅ」、16歳のお誕生日、おめでとう!
 2007年のクリスマスに、満1歳を迎えましたから、15年目の今年は16歳です。
 アニテラだと、ステーション生活は4年ですけど、原作だと2年間な件。
 16歳になった今年は卒業ですねえ、メンバーズになれる年齢です。ちょっとビックリ。

※過去のお誕生日創作は、下のバナーからどうぞです。
 お誕生日とは無関係ですけど、ブルー生存EDなんかもあるようです(笑)












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