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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

校外へ行こう  第1話

シャングリラ学園特別生の日々は順調でした。先日は球技大会があり、去年のように会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」がやって来て…1年A組は見事に学園1位の座に。御褒美の先生方への『お礼参り』は、今年も教頭先生とグレイブ先生がドッジボールの的に選ばれて総攻撃を受けたんです。普段は姿を見せない会長さんが現れる日は、教室の一番後ろに机が増えて…。
「おはよう。今日もよろしくね」
ニッコリと笑う会長さんに、女の子たちの黄色い悲鳴が上がりました。アルトちゃんとrちゃんが会長さんのお気に入りなのは変わりませんが、そこはシャングリラ・ジゴロ・ブルーですから甘い言葉をかけて回るのはお手の物。今日もせっせとキャンディなんかを配っています。やがてカツカツと廊下を歩く足音が聞こえ、扉がガラリと開きました。
「諸君、おはよう。…またブルーか」
ムッとした顔で出席簿を広げるグレイブ先生。
「ご挨拶だね。行事予定の発表日だから来てあげたのに」
「…相変わらず耳の早いことだな」
舌打ちをして出席を取ると、先生はプリントを配り始めました。
「校外学習のお知らせだ。来週、水族館へ行くことになった。一部の諸君は去年と同じ行先になるが、苦情は一切受け付けていない。当日の集合時間や持ち物などが書いてあるから、よく読むように」
ふむふむ。去年「そるじゃぁ・ぶるぅ」がイルカショーに飛び入りで出演しちゃった水族館へ行くんですね。集合時間が普段より1時間ほど早くなっていますし、寝坊しないよう気をつけなくちゃ…。教室がザワザワしている所へ、キース君の声が響きました。
「すみません。大学の都合で集合時間に間に合わないので、遅れて行ってもいいですか?」
「それはもちろん構わないが…。サークル活動か何かかね?」
「法務基礎です」
キース君の答えを聞いたグレイブ先生は「ああ」と大きく頷いて。
「そうだったな。今まで支障が無かったせいで失念していた。まったく、私としたことが…。では、当日は現地で合流か。帰りのバスはどうするのだ?」
「それはみんなと一緒でいいです。他の講義は大丈夫ですし」
「結構。…ブルーが何かやらかさないよう、しっかり見張ってくれたまえ。なんといっても大学生だ」
期待してるぞ、とグレイブ先生。キース君は「努力します」と言いましたけど、会長さんを見張るなんてこと、私たちには無理ですよねえ…。

プリントを貰った会長さんは1時間目が終わらない内に保健室に行ってしまいました。それっきり二度と帰っては来ず、放課後になって「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行くとティーカップ片手に寛いでいます。
「やあ。今日のおやつはシュークリームの食べ放題だよ。柔道部のみんなが来たら、お好み焼きを焼くそうだ」
「かみお~ん♪今年も水族館に行けるんだね!…イルカさんたち、ぼくを覚えているかなぁ?」
去年イルカショーで遊んだ「そるじゃぁ・ぶるぅ」は楽しみにしているようでした。今年もイルカプールに飛び込むのかな?会長さんが微笑みながら小さな銀色の頭を撫でて。
「イルカは頭がいいっていうけど、ぶるぅのことは忘れちゃったかもしれないね。ショーをするには覚えなくちゃいけないことが沢山あるし」
「…そうなんだ…」
「だけど今年もショーはしてるし、イルカと握手は出来ると思うよ」
「そっか。じゃあ、また友達になればいいんだ!」
無邪気な笑顔の「そるじゃぁ・ぶるぅ」。イルカショーは今年も校外学習のハイライトかも…。去年の思い出話をしながらシュークリームを食べている内に、柔道部三人組がやって来ました。キッチンからお好み焼きの匂いが漂い、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が熱々の焼きたてを運んできます。
「お腹すいたでしょ?どんどん食べてね」
私たちもちゃっかりお相伴して、校外学習の話題に花が咲いたのですが。
「キースって朝早くから講義があるの?」
ジョミー君が不思議そうな顔で尋ねました。
「大学って始まる時間が遅いと思っていたんだけど…。それに、お坊さんって法律なんかも勉強するんだ?」
「法律だと?…俺の大学に法学部があると思ってるのか?」
溜息をつくキース君。
「いいか、俺の学校は普通の大学とは違うんだ。文学部と教育学部と社会学部しかない三流校だが、それは一般の学生に対する評価でな…。坊主を目指す学生にとっては超一流。卒業すればエリートコースまっしぐらだ。宗門校とはそういうものだが、俺もブルーに出会ってなければ一流大学で法律を学ぶ予定だった…」
キース君が法学部志望だったとは知りませんでした。傷害罪とか強姦罪とか、妙に詳しいのはそのせいですね。なのに法律とは関係のない大学へ…。あれ?だけど法務基礎とか言ってたような気がします。ジョミー君もそれを思い出して訊いたのでしょう。
「…一般教養のことじゃないですか?」
シロエ君が割り込みました。
「法務基礎とかいうヤツでしょう。大学の講義は知りませんけど、一般教養だと専門の勉強とは関係なしに色々やるって聞いていますし」
「そうそう、それ!法務基礎って法律の基礎をやるんだよね?」
我が意を得たり、とジョミー君。そっか、一般教養なんだ。大学生って大変そうです。ところが、不意にクスクスと会長さんが笑い始めて…。
「なるほど、法務基礎だから法律か。それは思いもしなかったな。みんな頭が柔らかいんだ。感心しちゃった」
えっ、もしかしなくても法律とは全く無関係?…それじゃ法務基礎っていったい何…?

キョトンとしている私たちに会長さんが「法務基礎」とメモに書いて見せてくれました。
「キースが受けているのは、この講義。確かに法律っぽく見えるかもね。法務省っていうのもあるし」
「…法務って言うのに法律じゃないの?」
ジョミー君が首を捻り、私たちの疑問も深まるばかり。法務といえば法務省に法務大臣、何をする所かは知りませんけど法務局なんかもあったような。どれも法律と無関係ではなさそうです。会長さんは「法務基礎」の横に「仏法僧」と書き加えました。
「ぶっぽうそう、って読むんだよ。これは知ってる?」
「ええ、鳥ですよね」
マツカ君が言うと、サム君が。
「夜に鳴くんだよな?ブッポーソー、って。フクロウに似た鳥で」
「先輩、それはコノハズクです」
シロエ君が即座に指摘し、「本物のブッポウソウは姿だけで鳴き声は別物ですよ」と訂正を。
「コノハズクの鳴き声だって分からなかった時代に名前が付いたんです。だから姿のブッポウソウと声のブッポウソウって言いますね」
「へえ…。ブッポウソウってそうなのか。俺、鳥は詳しくないんだよな」
「それを言うなら鳥も、じゃないの?」
「なんだと、ジョミー!」
じゃれ合いになりかかったサム君とジョミー君を会長さんが苦笑しながら止めに入って。
「君たち全員、間違ってるよ。…仏法僧は鳥じゃないんだ。ねぇ、キース?」
「ああ。罰当たりなこと言いやがって…」
しかめっ面のキース君。私も鳥の名前だと思ってましたし、他人事ではありません。会長さんは「仏法僧」の文字を一字ずつ丸で囲みました。
「いいかい。仏法僧っていうのは仏教の三宝…3つの宝って書くんだけれど、それを指すんだ。この三宝に帰依することが仏教では一番大事だとされている。仏と僧は字の意味どおりで、法は仏様の教えなのさ。法務基礎の法はそこから来てる、と言えば法律じゃないって分かるかな?」
「「「え?」」」
仏様の教えですって?じゃあ、法務基礎は仏教について学ぶのでしょうか。会長さんは「ちょっと違うね」と微笑みます。
「仏教で法務というのは仏様にお仕えするのに必要な仕事。毎日のお勤めとか、法要だとか…他にも色々。そういったことを立派にこなせるように、お坊さんを目指す学生は法務基礎が必須科目になっているんだ。…つまり、お坊さんの生活の基本。いわゆる朝のお勤めってヤツ」
「「「お勤め!?」」」
私たちの脳裏に蘇ったのは、去年の夏休みにキース君の家へお泊まりした時にやらされていた勤行でした。法務基礎って、朝からお経を読んでるんですか!?会長さんがキース君を横目で見ながら。
「キースの大学では、講義のある日は必ず勤行があるんだよ。これの出席日数が足りていないと法務基礎の単位が取れない。住職の位を貰う為の道場入りも難しくなる。…だから校外学習の日もキースは勤行に出たいってわけ。お勤めが済んでから水族館に来るんだよね?」
「そうなるな。…出席できる日は出ておきたい。ギリギリの日数しか出てなかったヤツが最後の最後でやむを得ない理由で欠席しても情状酌量はされないんだ。不足が1日でもキッチリ落第。坊主の修行の中には親兄弟が死んでも道場から出られない苦行もあるから、その時の心構えに備えろ、ってことで」
うわぁ…。とっても厳しそうです。お坊さんって大変なんだ…。驚いている私たちに会長さんがニッコリ笑って。
「どうだい、法務基礎ってちょっと面白そうだろう?勘違いもしちゃったことだし、この際、見学に行くのはどうかな。ジョミーとサムの勧誘も兼ねて」
「「「えぇぇっ!?」」」
「ジョミーには高僧になれる素質があると思うし、サムは法力が期待できそうだ。すぐに出家だなんて無茶は言わないから、見学だけでも…。どうする、サム?みんなが来なくても、ぼくと二人で行ってみる?」
「え?俺とブルーと二人っきりで…?」
これはサム君には究極の殺し文句でした。尻尾があったらパタパタと振り回しそうな勢いで「行く!」と叫んでニコニコ顔です。朝のお勤めでデートの真似ごとなんて、いいのかなぁ?…案の定、キース君が怒り出しました。
「おい、ブルー!不純な目的で乱入しないで貰おうか。サムと二人というのは許さん!」
「じゃあ、全員ならいいんだね?…大丈夫、大学にはぼくが話をつけるから。明後日の朝にみんなで行くよ。はい、これで決まり」
遅れないように、と私たちに念を押す会長さん。うぅぅ、こういう時って反論するだけ無駄なんですよね…。

こうして私たちはキース君の大学へ出かけることになりました。当日は大学に近いバス停に集合と決まった所で会長さんが立ち上がります。
「いつもキースがやってるんだから、授業が始まるまでに学校へ来られるだろうとは思うけどね。万が一、遅刻しちゃった時の為に届けを出しに行っておこうか。君たちは特別生の1年目だし、まだサボリには慣れてないだろ?」
「は、はい…」
出席日数も成績も特別生にはあんまり意味が無いのですけど、なんといっても1年目。本当なら2年生をやっている筈の私たちだけに、無断欠席やサボリとは縁がありません。遅刻だって寝坊した時くらいで、いつもきちんと登校してます。キース君の朝のお勤めを見学に行く為に届けを出すのは、しごく自然なことでした。そういうのって事務局とかでいいのかな?
「担任の先生に言えばいいのさ。病気とかで休む時にも連絡先は先生じゃないか」
行くよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を出てゆく会長さんを私たちは慌てて追いかけました。あらら、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も一緒です。中庭に出て本館の方へ歩き始める会長さん。あれ?グレイブ先生は数学科のお部屋じゃないのでしょうか。数学科は本館とは違う建物に入っているのですが…。
「グレイブは今日は研修があって、とっくに帰ってしまったんだよ。だからハーレイに言おうと思って。…ぼくの担任だし、なんといっても教頭だしね。ハーレイからグレイブに伝えて貰うさ」
「…………。また何か企んでるんじゃないだろうな」
疑いの眼差しを向けるキース君。
「グレイブ先生に届け出るなら明日でも構わないだろう。出かけるのは明後日の朝なんだぞ。わざわざ教頭先生に言わなくっても…」
「今日は何にも企んでないよ。第一、教頭室には先客がいる」
「「「先客!?」」」
私たちは息を飲みました。またエロドクターが湧いて出たとか、そんなパターンだったらどうしましょう。
「そんな顔しなくても平気だってば。ゼルが遊びに来てるんだ」
なぁんだ…。ゼル先生なら心配無用です。会長さんが何もやらかさなければ、の話ですけど。会長さんは「まだ疑っているのかい?」と肩を竦めながら本館に入り、まっすぐ教頭室へ向かうと重厚な扉をノックしました。
「どうぞ」
渋い声が応えるのを待って扉を開き、会長さんを先頭にして入ってゆくと、教頭先生とゼル先生が応接セットに座っています。テーブルの上には湯飲みの他に将棋の盤が…。
「ブルーか。どうした、皆でゾロゾロと…」
「ちょっとね、許可を貰いに来たんだ。明後日の朝、みんなで出かけたいんだけれど…授業までに戻ってこられなかったら遅刻になるだろ?グレイブに届けを出そうとしたら、もう帰っちゃった後だったから…」
「それで私の所へ来たのか。分かった、グレイブには私から伝えておこう。何処へ行くんだ?」
机の所へ行って紙を取り出し、椅子に座って羽ペンを持つ教頭先生。会長さんはニッコリ笑って。
「行先はキースが行ってる大学。目的は法務基礎の講義の見学」
「…法務基礎…?…お前がお経を読みに行くのか?」
流石は教頭先生です。シャングリラ号のキャプテンを務めるだけあって、キース君の大学生活の中身まで把握してるんですね。…もしかしたら柔道部でキース君から直接聞いているのかもしれませんけど。お経を読むのか、と訊かれた会長さんは「やだなぁ」と銀色の髪をかき上げました。
「見学だって言ったじゃないか。みんなを連れて行きたいだけだよ。…ジョミーとサムにお坊さんの素質がありそうだから、どんな世界か見せておこうと思ってさ」
「ほほぅ…。お前がそんなことを言うとは珍しいな。よほど将来有望らしい」
教頭先生はサラサラと紙に何かを記入し、「よし」とサインをしています。
「一応、明後日はお前たち全員、フリーということにしておいた。見学の後は登校してくるも良し、そのまま遊びに行っても良し。グレイブにも写しを渡しておく」
「ありがとう、ハーレイ。気が利くね。…ゼルと勝負の最中だったのに、邪魔してごめん」
帰ろうか、と私たちの方に向き直る会長さん。今回は本当に何も企んでいなかったらしいです。明日の天気予報は快晴でしたが、暴風雨とかになったりして…。

椅子から立ち上がった教頭先生と、ソファに座っているゼル先生にお辞儀して教頭室を出ようとした時、背後から声がかかりました。
「ブルー。…ハーレイとは仲良くやっておるようじゃな」
ゼル先生が珍しく笑顔を見せています。会長さんはコクリと頷き、「おかげさまで」と答えて応接セットの方へ。
「あの時は心配かけちゃってごめん。今はすっかり平気だよ」
そう言ってゼル先生の隣にストンと腰かけ、ソファに戻った教頭先生と斜め向かいから向き合う形になった会長さん。帰ろうと言っていたのに、気が変わっちゃったみたいです。ゼル先生は相好を崩して会長さんを眺めました。
「そうか、平気か。それは良かった。…お前に無理を強いてしまったことが心配じゃったが、仲直りしたから、とチラシを持ってきたじゃろう。あんな手があるとは驚いたわい。流石わしらのソルジャーじゃ」
は?…あの時というのは教頭先生が冤罪で自宅謹慎になったセクハラ騒動を指すのでしょうが、チラシって何?会長さんったら、教頭先生と仲直りしたとチラシ寿司でも配って回ったんですか?
「ああ、チラシね。せっかくだから宣伝するのもいいかと思って。…なかなか腕がいいだろう?」
「そうじゃな。わしはエステは初めてじゃったが、すっかりクセになりそうじゃわい」
「「「エステ!??」」」
思わず叫んでしまった私たちをゼル先生がジロリと睨んで…。
「失礼なヤツらじゃ。いくら剣道で鍛えておっても、お前たちのような若造相手に暮らしておってはストレスが溜まってしょうがないわい。全身エステに癒しを求めて何が悪い!」
全身エステ…。それって、もしかしなくてもエステティシャンは教頭先生…?
「「「…………」」」
ゼル先生と教頭先生を交互に見比べていると、会長さんがニヤリと笑って。
「もちろんハーレイのエステだよ。君たちも見ていただろう?あの腕前を埋もれさせるのは勿体ないから、ぶるぅと一緒にチラシを作って長老のみんなに渡したんだ。一応、今のところは長老限定の会員制。だけど会員の紹介があれば他の先生や一般の人もオッケーってことで」
ほらね、と会長さんがサイオンで宙に取り出したのは色鮮やかなチラシでした。南国風の景色や花の写真が配された中に、教頭先生の顔写真と連絡先が書いてあります。
「会員は誰でもタダでエステが受けられるんだよ。ぼくへの罪滅ぼしの一環として、ハーレイには無料で奉仕して貰う。オイルとかにかかる費用は福利厚生費で賄ってるから、赤字の心配は全く無いし。…ねえ、ハーレイ?」
「…う、うむ……」
「で、ゼルもやっぱりラベンダーとかローズが好み?…ぼくは花の香りが好きなんだけど」
「わしはマンゴーとザクロのクリームでマッサージして貰うのが大好きでのう。ボディーローションはレモングラスとミントに限る。フェイスジェルはラベンダーゼラニウムじゃが」
会長さんとゼル先生はエステ談義で盛り上がり始めました。二人とも常連客になってるみたいです。ゼル先生はともかく会長さんが常連なのでは、教頭先生は鼻血モノでは…。と、教頭先生が鼻を押さえて。
「…し、失礼…!」
ソファから立ち上がるなり足早に机に向かい、ティッシュを掴むと私たちに背を向けてしまいました。ゼル先生がクックッと笑いを噛み殺しながら。
「あんな騒ぎを起こしたくせに、相も変わらず純情じゃのう。しかし全身エステとは妙案じゃった。マッサージで心地良くなった後では、ハーレイを怒る気にもなれんそうじゃな」
「そうなんだ。何度もエステを受けたからね、どんな目に遭わされたのかも思い出せなくなっちゃった。今じゃハーレイといえばマッサージだもの」
セクハラなんて忘れたよ、と会長さんは御機嫌です。ゼル先生は「よかった、よかった」と繰り返しては会長さんの肩を優しく叩いていました。長老の先生方は会長さんと教頭先生の仲が険悪になってしまうのでは、と心配していたらしいんです。冤罪だなんて夢にも思ってないのでしょうね。ちなみに教頭先生のエステは他の先生方にも好評だとか。私たちは鼻血が止まらない教頭先生とニコニコ顔のゼル先生に深々とお辞儀してから帰りました。

さて、教頭先生が一日フリーだと許可してくれた、キース君の法務基礎講座の見学日。集合場所のバス停に集まったのはキース君を除く特別生の6人でした。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」はまだ来ていません。
「ぼくが来た時、キースが門を入っていったよ」
ジョミー君がキャンパスの方を指差しました。
「その後にもう一人、学生っぽい人が入ってったけど…。それっきり誰も来ないんだ」
一番に着いたというジョミー君は少なすぎる学生の数に不安を覚えたようでした。
「この大学って一般の学生も沢山通っているんだよね。お坊さんコースの人って少ないのかもしれないよ。どうしよう、ぼくたち目立っちゃうかも…」
「だからってスカウトはされないでしょう。宗教の勧誘とは違うんですから」
シロエ君が言いましたけど、ジョミー君は髪を撫でたり引っ張ったりして落着きが無い様子です。見学に来ることになった理由が理由だけに、うまく丸めこまれて剃髪コースに送り込まれたらマズイと思っているのかも。そこへクスクスと笑う声が聞こえて…。
「おはよう。みんな揃っているね」
フッと姿を現したのは会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」。いきなり瞬間移動なんかしてきて誰かに見られたらどうするんですか~!
「平気、平気。ぼくたち、その道のプロだから」
悠然と佇む会長さんは緋色の衣に立派な袈裟を着けていました。その隣に立つ「そるじゃぁ・ぶるぅ」は白い着物の腰に黒いスカートのようなものを巻いた小坊主スタイル。これで頭がクリクリ坊主だったら一休さんです。
「ぶるぅはぼくのお供なんだ」
目を丸くして「そるじゃぁ・ぶるぅ」を見おろす私たちに会長さんが告げました。
「見学の許可を貰おうと思って電話をしたら、光栄ですって言われちゃって。…事務局に電話したのに学長が出てきて、お待ちしてますって言うんだよ。そうなると、それなりの格好をしなくちゃいけないだろう?」
「ブルーは分かるけど、なんでぶるぅが?」
「…ぼくくらいの高僧がお寺の行事でお出かけとなると、お供がつくのが普通なんだ。ここは大学だけど、お寺みたいなものだからね。…だけどぼくにはお供をしてくれる人がいないし、ぶるぅにお願いしたってわけ」
ね?と言われた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は得意満面で胸を張って。
「えへ、似合う?昨日、頑張って作ったんだ。…ぼく、和裁だって得意なんだから!」
会長さんが法衣の下に着けている白い着物も「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手縫いだそうです。う~ん、どこまで器用なんだか。小坊主スタイルも可愛らしくて似合ってますし、こんな弟がいたら嬉しいかも…。
「それじゃ、そろそろ行くとしようか。…ジョミー、心配しなくても法務基礎の受講生は沢山いるよ。みんな熱心だから早めに来て準備をしているだけさ。キースも普段はもっと早い」
「え、そうなの?」
「うん。やると決めたら一直線な男だからね、いつもは始発のバスで来るんだ。ところが今朝は寝過ごしたらしい。ぼくたちが見学に来るのが不安で不安で、昨夜はなかなか寝付けなかったらしくてさ」
意外に小心者なんだよね、と会長さん。既にキース君に迷惑をかけてしまったようですけれど、この先、お勤めの邪魔にならずに過ごせるでしょうか?心配そうに顔を見合わせる私たちに「早くおいで」と手招きしながら、会長さんはキャンパスに入って行きました。もうなるようにしかなりません。よ~し、朝のお勤め、どんなものなのかキッチリ見学させてもらおうっと!




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