シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
待ちたい時間
「おーい、ブルー!」
今度の土曜日は暇なのか、と訊かれたブルー。学校が終わって、帰ろうとしていた所で。
声を掛けて来たのは、いつものランチ仲間の一人。誘われたことは嬉しいけれども、日が問題。土曜日はきっと、ハーレイが来てくれる筈だから…。
「えーっと…。今度の土曜日は…」
「そうか、ハーレイ先生な!」
羨ましいな、と弾けた笑顔。ハーレイは生徒に人気が高くて、柔道部員の生徒でなくても、声を掛けたくなる先生。その先生と、週末を家で過ごしているのが自分。ハーレイが用事で来られない時を除いたら。
「ブルーが来られないんだったら、俺たちだけで行って来るけど…」と、続けた友達。
「ハーレイ先生に何か用事が入った時には、来てくれればいい」と。
「土曜日に公園で集合だから…。時間までに来れば、俺たちと一緒に行けるしな」
あそこの公園、と教えて貰った待ち合わせ場所。それに集合する時間も。
「何処に行くの?」
「俺の親戚の家だけど…。子猫が生まれたから、会いに行くんだ」
生まれた子猫の予約会かな、という説明。五匹いるから、今から貰い手を決めておくのだとか。お母さん猫から離れてもいい頃になったら、予約した子猫を連れて帰れる仕組み。
「子猫…。まだ小さいのが五匹もいるの?」
「おう! 白いのも黒いのもいるんだぜ。どれも可愛いんだ!」
ハーレイ先生、断って俺たちと一緒に来るか、と尋ねられた。「今なら選び放題だぜ?」と。
「子猫はとっても好きなんだけど…。見てみたいけど、うちじゃ飼えないから…」
可愛くても無理、と肩を落とした。
子猫はもちろん、大きくなった猫も大好きだけれど、家では猫はとても飼えない。弱く生まれた自分だけでも、充分に手がかかるのだから。
(すぐに寝込むし、病院に行かなきゃ駄目な時もあるし…)
母には迷惑をかけてばかりで、この上、猫までいるとなったら大変だろう。猫の分まで、食事の世話など。それに自分が学校に出掛けて留守の間は、子猫の面倒を見るのは母。
子猫がそこそこ大きくなるまで、寂しがったりしないくらいに育つまで。
駄目だよね、と諦めざるを得ないのが子猫を飼うこと。どんなに可愛い子猫でも。
「お前の家、駄目か…。でも、飼えなくっても、見る価値あるぜ?」
好きなんだったら、遊ぶだけでも、と友達は気前がいいけれど。子猫たちの飼い主も、お客様は歓迎らしいのだけれど…。
「ううん、いい…。どうせ飼えないし、欲しくなったら困るから…」
行って来たら子猫の写真でも見せて、と断って、後にした教室。友達は他のランチ仲間の方へと走って行った。きっと土曜日の打ち合わせだろう。
(…子猫、ホントに飼えないし…)
いいんだけどね、と向かったバス停。少し待ったらバスが来たから、乗り込んだ。いつもの席に座っている間に、もう着いた家の近くのバス停。其処から歩いて、帰った家。
母がおやつを用意してくれて、ダイニングのテーブルで頬張ったケーキ。母の手作り。
(子猫に会いに行くだけだったら…)
本当の所は、出掛けてみたい。白いのも黒いのもいるという五匹、きっと可愛いだろう子猫に。
貰い手でなくても、子猫たちとは遊べるのだから。誰かが予約を入れた子猫でも、「ぼくも」と抱いたり、撫でてやったり。
(だけど、土曜日だったから…)
子猫たちに会いに出掛けるのならば、ハーレイと会うのを断るしかない。「その日は駄目」と。
恋人が来るのを断るだなんて、そんな悲しいことは出来ない。二人きりで会える週末の土曜日、それを自分から断るなんて。
「もっと別の日に誘ってくれれば良かったのに」と、残念な気分。
五匹の子猫に会いに行く日が別の日だったら、自分も一緒に行けただろうに。
(でも、土曜日と日曜日は駄目…)
週末になったら、ハーレイが訪ねて来てくれるのが当たり前。誘ってくれた友達だって、直ぐに分かってくれたくらいに。「ハーレイ先生が来る日だよな」と。
ハーレイに特に用事が無ければ、午前中から家に来てくれる。天気のいい日は歩いたりして。
(学校のある日も、放課後に来てくれたりするし…)
考えてみたら、「行けそうな日」がまるで無い自分。
子猫に会いに行かないか、と誘って貰っても。五匹の子猫と遊びたくても。
空いている日は無いみたい、と戻った二階の自分の部屋。空になったケーキのお皿やカップを、キッチンの母に返してから。
(今日も時間は空いてるけれど…)
学校が終わった後に予定は入っていないし、のんびりおやつを食べていたくらい。面白い記事が載っていないか、新聞を広げてみたりもして。
自由に出来る時間はたっぷり、これからも予定は無いのだけれど。こんな日だったら、放課後に「行こう」と誘われたならば、子猫たちに会いに行けるのだけれど…。
(みんなと子猫を見に行ってたら…)
きっと帰りは遅くなる。子猫たちと遊んだり、「この子を下さい」と予約する友達を眺めたり。飼い主の人も、おやつを出してくれたりもして「ごゆっくりどうぞ」と、大歓迎だと思うから…。
(じきに時間が経っちゃうよね?)
放課後だから少しだけ、と思って行っても、アッと言う間に経つ時間。いつもより、ずっと遅くなるだろう帰宅。もしかしたら、すっかり日が暮れて暗くなってしまっているほどに。
(遅くなっちゃった、って家に帰ったら…)
玄関を開けて「ただいま」と声を掛けた途端に、母に言われるかもしれない。「ハーレイ先生がいらしてたわよ」と、「おかえりなさい」の声の続きに。
(そんなの、困るよ…)
ハーレイが部屋で待っていてくれたらいいのだけれども、とっくに帰ってしまっていたら。
「ブルー君はお留守でしたか」と、そのまま戻って、停めてあった車に乗り込んで。
(何時に帰るか分かんないんだし、何処に行ったのか、ママも知らないし…)
ハーレイは帰ってしまうのだろう。「来てみたが、今日は留守だったか」と、人影の無い二階の窓を見上げて。「あそこがブルーの部屋だよな」と、小さく呟いたりもして。
(ぼくが子猫と遊んでいる間に、そうなっちゃって…)
家に帰ったら、いないハーレイ。
子猫に会いに出掛けなかったら、ハーレイと過ごせていた筈なのに。この部屋で二人でゆっくり話して、両親も一緒に夕食を食べられる筈だったのに。
(…ぼくが出掛けていたせいで…)
逃してしまった、ハーレイと二人でいられる時間。せっかくハーレイが来てくれたのに。
そうなるのが嫌で、いつも放課後は家にいる自分。何処かに出掛けて行きはしないで。美容室に髪を切りに行ったりした日も、終われば急いで家に帰って。
いつハーレイが来ても、「留守か」と言われないように。帰ってしまわれないように。
(今のぼくの時間…)
まるで、ハーレイを中心に動いているよう。
ハーレイが来るとは限らない日も、こうして家にいるのだから。「子猫たちに会いに行こう」と誘われたって、きっと「行かない」と断って。
(放課後に行こう、って話だったとしたって、行っちゃったら…)
そういう日に限って、来そうなハーレイ。平日に家を訪ねて来る日は、予告なんかは全く無い。仕事が早く終わった時には来てくれるけれど、そうでない日は駄目だというだけ。
(学校で会っても、そういうことは何も話してくれないし…)
「今日は帰りに寄れそうだ」とか、「行けそうにない」といった類のことは話してくれない。
他の生徒もいるからだろうか、「ハーレイ先生」が大好きな生徒たち。彼らが「いいな」と指をくわえて見ていたのでは、なんだか可哀相だから。
(ぼくだけ特別扱いだものね?)
いくら聖痕を持っている子で、ハーレイがその守り役でも。「時間が許す限りは、側にいる」という役目を背負っている立場でも。
(他の子から見たら、羨ましいだけで…)
「ハーレイ先生を一人占め」なのが、今の自分。それが表に出過ぎないよう、学校の中では他の生徒と同じ扱い。「今日は帰りに寄ってやるから」とは言ってくれずに。
(そうなんだろうと思うけど…)
お蔭で分からない、ハーレイの予定。家に来てくれるのか、そうでないのか。
分からないから、毎日のように待つことになる。「来てくれるといいな」と窓の方を見て。
ハーレイがチャイムを鳴らさないかと、耳を澄ませて。
(遊びに行こうって誘われたって、断っちゃって…)
家に帰って、ただハーレイを待っている。来るか来ないか、まるで分からない恋人を。
もしもウッカリ出掛けてしまって、会えるチャンスを逃したならば、悲しくなってしまうから。
週末ともなれば、もう絶対に入れない予定。今日も、子猫の予約会を断って帰ったように。
考えるほどに、ハーレイを中心に回っているのが自分の時間。
週末はもちろん、今日のような平日の放課後だって。ハーレイに会える機会を逃さないように、自分だけの予定は一つも入れないで。
(ぼくの時間は、ハーレイを中心にして回ってて…)
ハーレイの方でも、似たようなもの。
仕事をしている大人なのだし、子供の自分ほどには「縛られていない」というだけで。あくまで大人の世界が優先、教師としても、「ハーレイ」という一人の人間にしても。
(先生同士のお付き合いとか、ハーレイの古い友達だとか…)
柔道や水泳の先輩なども、チビの恋人より優先されることだろう。ハーレイが使える時間の中でやりくりするなら、チビの自分は後回し。
(ちゃんと「恋人です」って紹介できる恋人だったら、もうちょっと…)
優先順位が上がりそうだけれど、今の所は「ただの教え子」。…聖痕を持っている子供だから、他の生徒よりは「側にいて貰える」というだけのことで。
(だけど、順番は後の方でも…)
ハーレイが使う時間の中では、今の自分も軸の一つになっている。自分を中心に回る時もある、ハーレイの時間。
週末は出来るだけ、予定を入れないようにして。平日だって時間を作って、仕事の帰りに家まで来てくれたりもして。
(なんだか、待ち合わせをしているみたい…)
自分も、それにハーレイも。
週末はともかく、今日のような平日はそうかもしれない。会えるかどうかは分からないままで。
(ハーレイの仕事が早く終わって、ぼくが家にいたら…)
この部屋で会えて、ゆっくり話して、夕食は両親も一緒に食べる。食後のお茶を此処で飲む日も珍しくない。ハーレイが「またな」と立ち上がるまでは、二人きりで。
(そういう時間があったらいいな、って…)
思いながらの待ち合わせ。
本当に待ち合わせをするのだったら、時間も場所も決めるのだけれど、それは謎のままで。
場所は「この家」でいいとは言っても、家の前とか、そういったことは決めていないのだから。
お互い、相手に「会えるといいな」と思いながらの待ち合わせ。
ハーレイは待っているのではなくて、「来る」のだけれど。自分は家で「待つだけ」だけれど。
そうして会えたら、とても嬉しくて、駄目ならガッカリ。待ち合わせの約束はしていなくても。
(ハーレイが来てくれなかったら、ぼくはガッカリだし…)
そのハーレイの方も、訪ねて来た時に「留守」だったならば、ガッカリだろう。子猫と遊ぼうと出掛けてしまって、家に帰っていないとか。…母も一緒に家を空けていて、誰もいないとか。
(そんなの、ハーレイに悪いから…)
こうして今日のように待つ。何も予定を入れはしないで、「来てくれないかな?」と。
ハーレイは、どうだか知らないけれど。今日は予定が入ってしまって、来られないとか。長引く会議に出席中とか、他の先生たちと食事を食べに行くことになったとか。
そうなっていたら残念だけれど、ハーレイの予定は分からない。学校で会っても、何も話してはくれないから。「今日は行くから」とも、「行けない」とも。
(前のぼくたちだった頃には…)
待ち合わせなどはしなかった。今のようなものも、本当の意味での待ち合わせも。
恋人同士になった後にも、前の自分は、青の間でハーレイを待っていただけ。前のハーレイが、ブリッジでの勤務を終えて報告にやって来るのを。…キャプテンとしての一日の締め括りを。
(航宙日誌とかも、ちゃんと書いてから…)
青の間を訪れていたキャプテン。報告を終えたら、もうキャプテンではなくなるから。
恋人同士で過ごす時間で、次の日の朝まで、「キャプテン・ハーレイ」はいなくなるから。
(前のぼくは、待ってるだけで良くって…)
待ち合わせなどはしていない。何処かに出掛けて待っていなくても、ハーレイは必ず来てくれたから。夜になったら、青の間まで。
「来ないのだろうか」と心配することも無くて、どんなに遅くなった時でも、ハーレイは来た。前の自分が疲れてしまって、先に眠ってしまっていても。
来てくれて当然だったハーレイ。だから待ち合わせはしていない。ただの一度も。
(視察に行く時にも…)
ハーレイが迎えにやって来たから、やっぱりしていない待ち合わせ。
ソルジャーとしても、ハーレイの恋人としても、前の自分はハーレイを待っていただけで…。
(やっぱり今と同じじゃない!)
待ち合わせをしていなかっただけで、と気が付いた。前の自分も今と変わらない、と。
今と同じに、ハーレイを中心に動いていた時間。意識していなくても、毎日がそう。前の自分のためだけにあった、あの青の間で一人、ただハーレイを待っていた。
来る日も来る日も、夜になったら。
「まだ来ない」だとか、「もうすぐだ」とか、サイオンを使ってハーレイの様子を探りながら。
そして、あの頃のハーレイは…。
(ぼくを中心には動いてなかった…)
ソルジャーだった前の自分はともかく、ハーレイの恋人だった方の自分は違う。前のハーレイが使う時間の中心ではなくて、いつも後回しにされていた。ハーレイはキャプテンだったから。
(夜までかかる仕事があったら…)
当然のように、そちらが優先。恋人の所に駆け付けるよりも、シャングリラの方が大切だから。
そうやって仕事を終えた時間が遅くなければ、報告のために急いで青の間に来ていたけれど…。
(あの報告を急いでいたのは、ソルジャーのためで…)
翌朝まで報告を持ち越すよりは、と急ぎ足で通路を歩いていただけ。時には走ったりもして。
「ソルジャー」が待っているのでなければ、ハーレイは急ぎはしなかっただろう。通路を走って来ることも。
たとえ恋人を待たせていたって、キャプテンの仕事が最優先。忙しい日なら、訪ねられないまま終わったとしても仕方ない。「遅くなるから」と思念で一言、詫びておくだけで。
(謝った後は仕事に戻って、帰って行く先もキャプテンの部屋で…)
ぐっすり眠って疲れを癒して、次の日に備えたのかもしれない。恋人の所に出掛けてゆくより、休息を取ることが大切だから、と。
(前のハーレイは、キャプテンだったから…)
恋人同士になるよりも前から、「朝食はソルジャーと一緒に青の間で」という習慣が船に出来ていた。一日の予定などの報告を兼ねて、ソルジャーとキャプテンの二人で朝食。
その習慣があったお蔭で、遅い時間になった時でも、ハーレイは青の間にやって来た。とっくに恋人は眠った後でも、次の日の朝に、朝食を一緒に摂るために。
恋人が「ソルジャー」だったからこそ、来ていた青の間。キャプテンの部屋で眠る代わりに。
前の自分が「ただの恋人」なら、前のハーレイの時間を縛れはしなかっただろう。自分を中心に時間をやりくりして貰うなどは、夢のまた夢で。
白いシャングリラを預かるキャプテン、その職はとても多忙だから。恋人のために時間を割けはしなくて、「今日も行けない」と謝ってばかりの毎日だっただろうから。
(だけど、今だと…)
ハーレイはチビの恋人のために動いてくれる。本当にチビで「キスも出来ない」自分のために。
会いに行くための時間を作ろうと、懸命に。週末はもちろん、仕事がある日も。
(どうしても駄目な日も、多いんだけど…)
待っていたって、チャイムが鳴らずに終わる平日も多いのだけれど。…そうでない日は、時間を作ってくれたということ。自分と出会うよりも前なら、ハーレイが好きに使っていただろう時間。それを恋人のために使って、この家を訪ねて来てくれる。
(ドライブに行ったり、ジムに出掛けたり…)
幾らでもあった、ハーレイの時間の使い方。この家を訪ねて来ないのだったら、好きに使ってもいい時間は沢山。
けれど、ハーレイはそうしない。仕事が早く終わった時には、必ず訪ねてくれるのだから。
そう考えると、なんて幸せなのだろう。前の自分だった頃とは違って、ハーレイの時間を縛れる自分。「ソルジャー」ではなくて、「恋人」として。
(チビで、キスもして貰えないけど…)
幸せだよね、と改めて思った自分のこと。
「留守の間に、ハーレイが来たら大変だから」と待ってばかりで、放課後に友達と一緒に遊びに行けはしなくても。…「行こう」と誘われても、子猫に会いには行けなくても。
(子猫、可愛いだろうけど…)
誘われた日が土曜日ではなくて、平日の放課後だったなら、と思わないではないけれど。子猫に会いに出掛けていたなら、駄目になりそうな待ち合わせ。
時間も場所も決めていなくても、毎日がハーレイと待ち合わせのようなものだから。
(来てくれた時に家にいなかったら、ハーレイ、帰ってしまうから…)
そうなるよりかは、こうして待っていたいと思う。子猫には会いに行かないで。
今度は「恋人」の自分のために、時間を作ってくれるハーレイを。家を訪ねて来てくれる人を。
ハーレイが来ない日になったとしても、「留守にしている間に来た」と後で知らされるよりは、ずっといい。友達と出掛けて留守の間に、訪ねて来て「留守か」と帰られるよりは。
(子猫と楽しく遊んだ後に、帰って来たら…)
ハーレイも帰ってしまった後。母から「ブルーは留守です」と聞いて、車に乗って。ドライブに行くか、ジムに行くのか、ハーレイの好きに時間を使いに。
(そう聞いちゃったら、ガッカリで…)
楽しく遊んだことも忘れて、気分がすっかり落ち込むのだろう。「行かなきゃ良かった」と。
どうして遊びに行ってしまったのかと、子猫たちの可愛さも頭の中から消えてしまって。
(ホントにそうなっちゃうんだよ…)
自分の頭をポカポカ叩いて、「ぼくの馬鹿!」などと怒ったりして。もしかしたらポロポロ涙も流して、「どうして遊びに行っちゃったの…?」とベッドの上で膝を抱えて。
きっとそうだ、と考えていたら、聞こえたチャイム。窓に駆け寄ってみると、ハーレイが大きく手を振っている。門扉の向こうで。
(ハーレイが来るの、待ってて良かった…!)
やっぱり子猫を見に行ってちゃ駄目、と弾ける喜び。誘われたのが土曜日でなくても、放課後に行ける平日だとしても、出掛けて行ったら後悔しそう。こんな風にハーレイが来る日だったら。
(きちんと家で待っていなくちゃ…)
待っていたから会えるんだよ、と嬉しくてたまらない気分。「家にいて良かった」と。
嬉しい気持ちは顔にも出るから、ハーレイとテーブルを挟んで向かい合うなり、問われたこと。
「お前、なんだか嬉しそうだな」
今日はやたらと、顔が輝いてるように見えるんだが…。俺の気のせいか?
「違うよ、ホントに嬉しいんだよ。だって、ハーレイが来てくれたんだもの」
それで嬉しくない筈がないでしょ、ハーレイはぼくの恋人だものね。…ずっと昔から。
今のぼくたちになる前からね、と言ったのだけれど、ハーレイは怪訝そうな顔。
「恋人同士なのは間違いないが…。俺は何度も来てると思うぞ、この家に」
しかし、今日みたいに嬉しそうな顔は、そうそう見ない。何かいいこと、あったのか?
「いいことって…。どっちかって言うと、その逆だけど…」
とても素敵な話があったの、断って帰って来たんだけれど…。
土曜日に子猫を見に出掛けるのを断ったのだ、と話したら。「それが放課後でも、行かない」と今の自分の気持ちを、ハーレイに正直に説明したら…。
「断ったって? お前、子猫と遊びたかったんだろう?」
今からでも別に遅くはないしな、土曜日に出掛けてくればいいのに…。
待ち合わせの場所と時間は聞いたんだろうが、その時間に行けば、まだ充分に間に合うぞ?
素敵な話だと思うんだったら、行くべきだと俺は思うがな…?
子猫を飼うのは無理にしたって、とハーレイは「行け」と勧めてくれた。五匹もいるという子猫たち。白いのも黒いのも、どの子猫たちも可愛い盛り。「遊ぶだけでも楽しいだろう」と。
「でも、ハーレイと会えなくなっちゃう…」
土曜日はハーレイが来てくれる日だよ、予定があるとは聞いてないもの。
子猫の予約会に行ってしまったら、土曜日はハーレイに会えないままだよ。ぼくは留守だから。
来てくれたって家にいないんだもの、と瞬かせた瞳。「この部屋は朝から空っぽだってば」と。
「俺か? 俺は放っておけばいいだろ、子供ってわけじゃないんだから」
お前が友達と出掛けるんなら、俺も何処かに出掛けるとしよう。行き先は幾つもあるからな。
気ままにドライブするのもいいし、道場で指導するのもいいし…。
どれにするかな、とハーレイが指を折り始めたから、「駄目だってば!」と止めにかかった。
「ハーレイには何も用事が無いのに、ぼくがいないからって出掛けるなんて…」
会えないで土曜日が終わっちゃうなんて、そんなのは嫌。
今日みたいに此処で会える日は全部、ぼくはハーレイに会いたいんだから…!
「平日だって、ぼくは出掛けないよ」と、膨らませた頬。誘われたのが今日の放課後だったら、大変なことになっていたから。
五匹の子猫とたっぷり遊んで、御機嫌で家まで帰って来たら、母が「おかえりなさい」の続きに告げること。「ハーレイ先生がおいでだったわよ」と。
けれど、そのハーレイは帰って行った後。訪ねて来たのに、目当ての恋人が留守だったから。
「それはまあ…。そうなるだろうな、お前が留守なら」
じきに帰ると言うんだったら、お母さんだって、客間や此処に通してくれるだろうが…。
何処に行ったか分からない上に、戻る時間もまるで分からないとなったなら…。
お母さんは俺を引き止められんし、俺の方でも居座るわけにはいかないってな。
そんな図々しい真似が出来るか、とハーレイは帰ってしまうらしい。予想した通り、留守の間に来てしまった時は。…行き先も、家に戻る時間も分からない時は。
「ほらね、やっぱり帰るんじゃない…。ぼくが出掛けてしまっていたら」
それは嫌だから、家にいようと思ったんだよ。今日みたいな日の放課後だって。
ハーレイを家で待つのがいいよ、って考えていたら、ハーレイが来てくれたから…。
ぼくの考え、間違ってなんかいなかったよね、って、とても嬉しくなって…。それでハーレイに訊かれちゃった。「何かいいこと、あったのか?」って。
ホントはその逆だったんだけど、と残念ではある「子猫たちに会いに行けない」こと。この家でハーレイを待つのだったら、これから先もチャンスは無さそうだから。
「そうだったのか…。嬉しい反面、残念な気持ちもあるってことだな」
俺には会えても、子猫たちには会えないから。…俺が来るのを待とうとしたら。
まあ、その内にチャンスが巡って来ないとも言い切れないが…。俺に仕事が入っちまった時は、週末でも駄目な時はある。そういう時に、また誘われたりしたならな。
それなら遊びに行けるだろうが、とハーレイは慰めてくれた。「俺の代わりに子猫と遊べ」と、「貰われて行くまでには、まだまだ日があるだろうしな」と。
「…そうかもね…。予約会なんだから、まだ暫くはお母さん猫と暮らすんだろうし…」
もしもハーレイが来られない日になりそうだったら、あの友達に頼んでみるよ。子猫たちを見に行ってもいいのか、親戚の人に訊いてみて、って。
でも、子猫たちと遊ぶよりかは、ハーレイを待っていられる日の方がいいかな…。
だってね、今のハーレイだと…。
「俺がどうかしたか?」
子猫に比べりゃ、可愛さってヤツがまるで無いんだが。…でっかく育っちまったから。
見ての通りの図体なんだし、見た目も可愛いって年じゃないよな。ガキの頃なら、今よりは多少マシだったとは思うんだが…。
それでも可愛くはなかったぞ、とハーレイは可笑しそうな顔で笑っている。子猫の方がずっと、可愛らしくてお得だろう、と。
「こんな俺なんかを待っているより、子猫だ、子猫」と。
白いのも黒いのもいる子猫たちに会いに行く方が素敵だろうと、ハーレイは笑うのだけれど…。
「…可愛さだったら、子猫の方がハーレイよりも上だと思うけど…」
ぼくよりも可愛い筈だけれども、でも、ハーレイは子猫たちより素敵なんだよ。ずっと遥かに。
恋人だから、っていうだけじゃなくて、今のハーレイだからこそ。今のハーレイにしか出来ないことだよ、ぼくが素敵だと思うことはね。
今のハーレイは、前のハーレイと違って、ぼくのためにだけ時間を作ってくれるから…。
週末もそうだし、今日だってそう。
ぼくに会いに来るために、時間をやりくりしてくれてるでしょ、仕事を早く終わらせたりして。
他の誰かのためじゃなくって…、とハーレイの鳶色の瞳を見詰めた。前のハーレイなら、恋人の方の自分は後回しだったから。「ソルジャー・ブルー」は優先されても。
「そういや、そうか…。前の俺だと、ソルジャーのお前が優先か…」
お前がソルジャーだったお蔭で、それで不自由は無かったんだが…。ソルジャーのために時間を割いたら、お前のために割いているのと同じだったから。
報告に出掛けてゆくにしたって、お前の所へ急いで走って行くにしたって、同じことだったな。
しかし、お前がソルジャーじゃなくて、他の仲間たちと同じミュウの中の一人だったら…。
俺はキャプテンだったわけだし、そうそうかまってやれないか…。
いつも「後でな」と後回しにして、「遅くなった」と謝ってばかりの毎日になって。
前の俺たちのようにはいかないかもな、とハーレイは顎に手を当てた。「キャプテンだったら、恋人のために時間は割けん」と、「ソルジャーしか優先出来そうにないな」と。
「でしょ? 前のハーレイには無理だったんだよ」
ぼくのためだけに、時間を作るのは。…キャプテンの時間を、恋人用にやりくりすることは。
前のぼくはソルジャーだったお蔭で、ハーレイの時間を貰っていただけ…。
ハーレイが時間を使う時には、その中心にいられただけ。恋人じゃなくて、ソルジャーだから。
でもね、今だと、ハーレイの時間をぼくのものに出来る時もあるでしょ?
普段は仕事や、ハーレイの先輩や友達なんかが、ハーレイの時間の中心になっていたってね。
チビのぼくでも、ちゃんとハーレイに時間を作って貰えるから…。
ソルジャーじゃなくて、ただの生徒で、ハーレイの教え子の中の一人でも。
前のぼくには出来なかったことだよ、恋人用にハーレイの時間を貰うってことは。
どう頑張っても無理なことだったし、前のハーレイだって、そうしないものね…?
それに気付いたから幸せなのだ、と笑顔で話した。ハーレイが来る前に考えたことを。
今はお互い、待ち合わせをしているようなもの。「会えたらいいな」と二人揃って。
時間と場所とが決まっていないだけで、毎日、待ち合わせているみたいじゃない、と。
「そう思わない? ぼくはこの家でハーレイを待ってて、待っていたくて…」
来てくれるかどうか分からなくても、留守にしたくはないんだもの。ハーレイが来た時に、家にいないと後でガッカリしちゃうから。
ぼくはそうやってハーレイを待って、ハーレイの方も待ち合わせに急いでいるんでしょ?
約束なんかはしていなくっても、ぼくに会えたら二人で話が出来るから…。今日みたいにね。
待ち合わせの場所は決めてなくても、会えたらいいな、って仕事を早く終わらせたりして。
「ふうむ…。時間も場所も、決まってはいない待ち合わせなのか…」
俺たちがこうして出会える時には、お互い、待ち合わせをしてるわけだな?
場所はお前の家なんだが…。決まっているような気がしないわけでもないんだが…。
そうか、待ち合わせか、お前と俺が会う時には。
お前は俺が来るのを待ってて、俺はお前が待ってる所へ行こうと時間をやりくりしてる、と。
上手くいったら会えるんだな、とハーレイも頷く「待ち合わせ」。会えずに終わってしまう日も多いけれども、今日のように会える時もあるから。
ハーレイが時間を作りさえすれば、待っている自分が何処かに出掛けてしまわなければ。
「うん、待ち合わせ…。何も決めてはいないけれどね」
ハーレイも、ぼくも、何処で会うのか、何時に会うのか、場所も、時間も。
それでも会える時には会えるし、ちゃんと立派に待ち合わせだよ。自分の時間をどう使うのか、恋人を中心に考えていって。…ぼくも、ハーレイも、他の予定を入れないで。
…前のぼくたちは、本物の待ち合わせもしていないけどね。恋人同士の待ち合わせは。
何処で会うとか、何処に行くとか…、と前の自分たちが生きた時代を思う。白いシャングリラで暮らした頃には、無理だった。ハーレイと二人、恋人同士で待ち合わせをして会うことは。
あの船がどんなに広くても。
船で生きていた他の仲間たちが、公園などで恋を語らっていても。
ソルジャーとキャプテンが船の中で二人一緒にいるなら、友達としてか、あるいは視察か。他に理由を作れはしない。恋人同士で出掛けたくても、待ち合わせなどをしたくても。
長く二人で生きていたのに、誰にも言えなかった恋。明かせないままで終わってしまって、暗い宇宙に消えた恋。待ち合わせさえも一度も出来ずに、それきりになった恋人同士。
「前の俺たちは、難しい立場にいたからなあ…。シャングリラでは」
ソルジャーとキャプテンが恋人同士なんだと知れたら、あの船はおしまいだったから。
誰一人として、俺たちの意見を真面目に聞いてはくれなくて。…皆がそっぽを向いちまって。
そうならないよう、恋を隠すしかなかったが…。待ち合わせなんぞは出来もしないで。
しかし今度は出来るわけだな、今も待ち合わせをしてるんだから。
時間も場所も決めちゃいないが…、とハーレイが笑む。「今日も、お前は待ってたっけな」と、「俺も待ち合わせに間に合ったようだ」と。
「そうだよ、毎日が待ち合わせ。…時間も場所も決めてなくても、恋人同士で待ち合わせだよ」
ハーレイが来ないで終わっちゃった日は、ガッカリだけど…。
子猫と遊びに出掛けた方が良かったのかな、と思っちゃう日もありそうだけど…。
「すまんな、そういう日も多いから…」
こればっかりは仕事の都合で、俺の付き合いというヤツもある。…他の先生と食事だとかな。
その日に決まることも多いし、どうすることも出来ないんだが…。
学校でお前に言ってやろうにも、他の生徒が羨ましそうに見そうだからなあ、「会うんだ」と。会えない日の方が多いにしたって、会える日の方が断然、目立つだろ?
それに「会える」と話した後でだ、何か用事が入っちまったら、待ちぼうけをさせてしまうってわけで…。だから予告は出来ない、と。
もっとも、それも今だけのことだ。
お前が大きくなった時には、もう待ち合わせは要らないからな、とハーレイが言うから驚いた。
「え? 要らないって…。どういうこと?」
ぼくが大きくなった時でしょ、前のぼくと同じ背丈になって…?
それならデートに行くんだろうし、そういう時には、待ち合わせ、しない?
いろんな所で、恋人と待ち合わせをしている人たち、いるじゃない。
公園の入口とか、喫茶店とか…、と思い付いた場所を挙げてみた。そういった所は、カップルの待ち合わせ場所の定番。チビの自分でも知っているほどに、恋人たちを見掛ける場所。
デートに行く前に時間を決めて、お互い、其処へと出掛けて行く。二人で過ごす一日のために。
今の自分も大きくなったら、そうするのだろうと思ったのに。
ハーレイとデートに出掛ける時には、恋人同士で待ち合わせなのだと考えたのに…。
「俺がお前を待たせるわけがないだろう。…公園にしても、喫茶店にしても」
お前を待たせる暇があったら、家まで迎えに来るもんだ。俺が早めに家を出て来て。
車でドライブってわけじゃなくても、此処まで迎えに来ないとな。デートの時には、俺が必ず。
そいつが俺の役目だろうが、とハーレイは迎えに来るつもり。待ち合わせをする代わりに、この家のチャイムを鳴らして、「さあ、行こうか」と。
「迎えに来るって…。本当に?」
そんなの、ハーレイ、面倒じゃないの?
ドライブに出掛けて行く時だったら、迎えに来るのが普通かもだけど…。そうじゃない時まで、家に迎えに来なくても…。ぼくの方なら、待ち合わせでかまわないんだけれど…?
公園でもいいし、喫茶店でも、と思ったままを口にした。待ち合わせも、きっと幸せだから。
約束の時間より早く着いても、ハーレイが来そうな方を眺めて待つ。「遅いよ!」などと怒りはしないで、「もうすぐ来るかな?」とワクワクしながら。
「待ち合わせ自体はいいんだが…。お前、丈夫じゃないからなあ…」
前と同じに弱い身体に生まれちまったし、これからも弱いままなんだろうし…。
待ち合わせ場所まで出て来いだなんて、言えるもんか。
此処は地球だぞ、シャングリラの中とは違うんだ。待ってる間や、其処まで行く間に、いきなり雨が降って来るとか、思ってたよりも寒い日になってしまうとか…。
それじゃ駄目だろ、お前の身体が悲鳴を上げちまう。デートに出掛けるよりも前にな。
用心のためにも、俺が此処まで迎えに来る、という言葉。
車で出掛けるわけではない日も、場合によっては車を出して。「この方がいい」と判断したら。
待ち合わせをしない代わりに臨機応変、どんな時でも、恋人の身体に負担をかけないように。
そして結婚した後は…。
やはり無いという待ち合わせ。ハーレイは自信たっぷりで言った。
「待ち合わせは、もう要らんだろう」と。「いつも一緒だし、必要ないぞ」と。
「でも、ハーレイの仕事の帰りとかに…」
待っているっていうのは駄目なの、仕事に行く時は、ハーレイは一人なんだから…。
ちょっと何処かで待ってみたいよ、とハーレイにぶつけてみた、おねだり。
学校の近くの喫茶店で待って、一緒に食事に出掛けてゆくとか、そういう幸せな待ち合わせ。
「近くの店なあ…。お前が待ってみたいんだったら、それも悪くはないんだが…」
俺が家まで迎えに帰った方が良くないか?
仕事に行くなら車なんだし、家に帰るのも早いから。…お前もその方が楽だぞ、きっと。
用意だけして家で待ってろ、とハーレイは言ってくれるのだけれど、待ち合わせだってしたいと思う。結婚前には出来ないのならば、結婚した後でかまわないから。
「ううん、たまには待ってみたいよ。…でも、結婚前のデートの時には駄目なんでしょ?」
それなら、結婚しちゃった後。ハーレイが仕事に行っている日に、待ち合わせ。
今のぼくだと、今日みたいに待っているんだもの。時間も場所も決めないままで。
そんな待ち合わせが終わった後には、もう待ち合わせが無いなんて…。つまらないでしょ、前のぼくたちは待ち合わせをしていないんだから。…恋人同士の待ち合わせをね。
だからやりたい、と強請った待ち合わせ。結婚して二人で暮らし始めたら、ハーレイが出掛けた仕事先の近くの、何処かで待って。
「お前がしたいと言うのなら…。「駄目だ」と止めるわけにはいかんな」
だったら、お前が元気な時で、天気のいい日。そういう時なら許してやろう。待っているのを。
それでいいなら、仕事の帰りに待ち合わせをして出掛けてやるが…。
あくまで俺の車でだぞ、と念を押された。「もう遅いんだから、歩くのは駄目だ」と。
「いいよ、ハーレイの車でも。…ぼくは何処かで待っているから」
喫茶店がいいかな、って思っていたけど、本屋さんも退屈しなくていいかも…。
ハーレイの仕事が終わる時間まで待っているから、会えたら一緒に出掛けようよ。遅くなっても平気だから。…ハーレイ、ちゃんと来てくれるしね。
「遅くなっても、って…。お前、無理はするなよ?」
待ってる間に気分が悪くなったら、帰っちまっていいんだぞ?
店の人に伝言を頼んでおくとか、学校に電話してくるとかして。…「先に帰る」と。
「無理なんか、ぼくはしないってば!」
駄目だと思った時は帰るよ、我慢していつまでも待っていないで。
家に帰って大人しくするから、そうじゃない時は二人で出掛けなくっちゃね…!
無理をして待ったりは絶対しない、と約束をした。
具合が悪くなりそうだったら、諦めて家に帰るから、と。待ち合わせは次のお楽しみにして。
(せっかくハーレイと出掛けるんだし、その後で、ぼくが寝込んじゃったら大変…)
ハーレイは「俺のせいだ」と慌てそうだから、そうならないよう、気を付けよう。余計な心配をかけないように、「また行こうな」と言って貰えるように。
今も待ち合わせのような毎日だけれど、いつかは本物の待ち合わせをしたい。
お互いの時間の都合を合わせて、食事やドライブに出掛けてゆく。ハーレイと二人で。
シャングリラでは一度も出来なかったから、きっと楽しいに違いない。
ハーレイが遅れてやって来たって、自分が早く着きすぎたって。
出会えた後には、二人きりで出掛けてゆくのだから。
好きに時間を使えるわけだし、恋人同士の素敵な時間が始まる合図が待ち合わせだから…。
待ちたい時間・了
※前のブルーも、今のブルーも「ハーレイを待っている」わけですけど、違った状況。
ハーレイの時間が「本当の意味で」ブルーを中心に回っているのは、平和な時代だからこそ。
←拍手して下さる方は、こちらからv
←聖痕シリーズの書き下ろしショートは、こちらv
今度の土曜日は暇なのか、と訊かれたブルー。学校が終わって、帰ろうとしていた所で。
声を掛けて来たのは、いつものランチ仲間の一人。誘われたことは嬉しいけれども、日が問題。土曜日はきっと、ハーレイが来てくれる筈だから…。
「えーっと…。今度の土曜日は…」
「そうか、ハーレイ先生な!」
羨ましいな、と弾けた笑顔。ハーレイは生徒に人気が高くて、柔道部員の生徒でなくても、声を掛けたくなる先生。その先生と、週末を家で過ごしているのが自分。ハーレイが用事で来られない時を除いたら。
「ブルーが来られないんだったら、俺たちだけで行って来るけど…」と、続けた友達。
「ハーレイ先生に何か用事が入った時には、来てくれればいい」と。
「土曜日に公園で集合だから…。時間までに来れば、俺たちと一緒に行けるしな」
あそこの公園、と教えて貰った待ち合わせ場所。それに集合する時間も。
「何処に行くの?」
「俺の親戚の家だけど…。子猫が生まれたから、会いに行くんだ」
生まれた子猫の予約会かな、という説明。五匹いるから、今から貰い手を決めておくのだとか。お母さん猫から離れてもいい頃になったら、予約した子猫を連れて帰れる仕組み。
「子猫…。まだ小さいのが五匹もいるの?」
「おう! 白いのも黒いのもいるんだぜ。どれも可愛いんだ!」
ハーレイ先生、断って俺たちと一緒に来るか、と尋ねられた。「今なら選び放題だぜ?」と。
「子猫はとっても好きなんだけど…。見てみたいけど、うちじゃ飼えないから…」
可愛くても無理、と肩を落とした。
子猫はもちろん、大きくなった猫も大好きだけれど、家では猫はとても飼えない。弱く生まれた自分だけでも、充分に手がかかるのだから。
(すぐに寝込むし、病院に行かなきゃ駄目な時もあるし…)
母には迷惑をかけてばかりで、この上、猫までいるとなったら大変だろう。猫の分まで、食事の世話など。それに自分が学校に出掛けて留守の間は、子猫の面倒を見るのは母。
子猫がそこそこ大きくなるまで、寂しがったりしないくらいに育つまで。
駄目だよね、と諦めざるを得ないのが子猫を飼うこと。どんなに可愛い子猫でも。
「お前の家、駄目か…。でも、飼えなくっても、見る価値あるぜ?」
好きなんだったら、遊ぶだけでも、と友達は気前がいいけれど。子猫たちの飼い主も、お客様は歓迎らしいのだけれど…。
「ううん、いい…。どうせ飼えないし、欲しくなったら困るから…」
行って来たら子猫の写真でも見せて、と断って、後にした教室。友達は他のランチ仲間の方へと走って行った。きっと土曜日の打ち合わせだろう。
(…子猫、ホントに飼えないし…)
いいんだけどね、と向かったバス停。少し待ったらバスが来たから、乗り込んだ。いつもの席に座っている間に、もう着いた家の近くのバス停。其処から歩いて、帰った家。
母がおやつを用意してくれて、ダイニングのテーブルで頬張ったケーキ。母の手作り。
(子猫に会いに行くだけだったら…)
本当の所は、出掛けてみたい。白いのも黒いのもいるという五匹、きっと可愛いだろう子猫に。
貰い手でなくても、子猫たちとは遊べるのだから。誰かが予約を入れた子猫でも、「ぼくも」と抱いたり、撫でてやったり。
(だけど、土曜日だったから…)
子猫たちに会いに出掛けるのならば、ハーレイと会うのを断るしかない。「その日は駄目」と。
恋人が来るのを断るだなんて、そんな悲しいことは出来ない。二人きりで会える週末の土曜日、それを自分から断るなんて。
「もっと別の日に誘ってくれれば良かったのに」と、残念な気分。
五匹の子猫に会いに行く日が別の日だったら、自分も一緒に行けただろうに。
(でも、土曜日と日曜日は駄目…)
週末になったら、ハーレイが訪ねて来てくれるのが当たり前。誘ってくれた友達だって、直ぐに分かってくれたくらいに。「ハーレイ先生が来る日だよな」と。
ハーレイに特に用事が無ければ、午前中から家に来てくれる。天気のいい日は歩いたりして。
(学校のある日も、放課後に来てくれたりするし…)
考えてみたら、「行けそうな日」がまるで無い自分。
子猫に会いに行かないか、と誘って貰っても。五匹の子猫と遊びたくても。
空いている日は無いみたい、と戻った二階の自分の部屋。空になったケーキのお皿やカップを、キッチンの母に返してから。
(今日も時間は空いてるけれど…)
学校が終わった後に予定は入っていないし、のんびりおやつを食べていたくらい。面白い記事が載っていないか、新聞を広げてみたりもして。
自由に出来る時間はたっぷり、これからも予定は無いのだけれど。こんな日だったら、放課後に「行こう」と誘われたならば、子猫たちに会いに行けるのだけれど…。
(みんなと子猫を見に行ってたら…)
きっと帰りは遅くなる。子猫たちと遊んだり、「この子を下さい」と予約する友達を眺めたり。飼い主の人も、おやつを出してくれたりもして「ごゆっくりどうぞ」と、大歓迎だと思うから…。
(じきに時間が経っちゃうよね?)
放課後だから少しだけ、と思って行っても、アッと言う間に経つ時間。いつもより、ずっと遅くなるだろう帰宅。もしかしたら、すっかり日が暮れて暗くなってしまっているほどに。
(遅くなっちゃった、って家に帰ったら…)
玄関を開けて「ただいま」と声を掛けた途端に、母に言われるかもしれない。「ハーレイ先生がいらしてたわよ」と、「おかえりなさい」の声の続きに。
(そんなの、困るよ…)
ハーレイが部屋で待っていてくれたらいいのだけれども、とっくに帰ってしまっていたら。
「ブルー君はお留守でしたか」と、そのまま戻って、停めてあった車に乗り込んで。
(何時に帰るか分かんないんだし、何処に行ったのか、ママも知らないし…)
ハーレイは帰ってしまうのだろう。「来てみたが、今日は留守だったか」と、人影の無い二階の窓を見上げて。「あそこがブルーの部屋だよな」と、小さく呟いたりもして。
(ぼくが子猫と遊んでいる間に、そうなっちゃって…)
家に帰ったら、いないハーレイ。
子猫に会いに出掛けなかったら、ハーレイと過ごせていた筈なのに。この部屋で二人でゆっくり話して、両親も一緒に夕食を食べられる筈だったのに。
(…ぼくが出掛けていたせいで…)
逃してしまった、ハーレイと二人でいられる時間。せっかくハーレイが来てくれたのに。
そうなるのが嫌で、いつも放課後は家にいる自分。何処かに出掛けて行きはしないで。美容室に髪を切りに行ったりした日も、終われば急いで家に帰って。
いつハーレイが来ても、「留守か」と言われないように。帰ってしまわれないように。
(今のぼくの時間…)
まるで、ハーレイを中心に動いているよう。
ハーレイが来るとは限らない日も、こうして家にいるのだから。「子猫たちに会いに行こう」と誘われたって、きっと「行かない」と断って。
(放課後に行こう、って話だったとしたって、行っちゃったら…)
そういう日に限って、来そうなハーレイ。平日に家を訪ねて来る日は、予告なんかは全く無い。仕事が早く終わった時には来てくれるけれど、そうでない日は駄目だというだけ。
(学校で会っても、そういうことは何も話してくれないし…)
「今日は帰りに寄れそうだ」とか、「行けそうにない」といった類のことは話してくれない。
他の生徒もいるからだろうか、「ハーレイ先生」が大好きな生徒たち。彼らが「いいな」と指をくわえて見ていたのでは、なんだか可哀相だから。
(ぼくだけ特別扱いだものね?)
いくら聖痕を持っている子で、ハーレイがその守り役でも。「時間が許す限りは、側にいる」という役目を背負っている立場でも。
(他の子から見たら、羨ましいだけで…)
「ハーレイ先生を一人占め」なのが、今の自分。それが表に出過ぎないよう、学校の中では他の生徒と同じ扱い。「今日は帰りに寄ってやるから」とは言ってくれずに。
(そうなんだろうと思うけど…)
お蔭で分からない、ハーレイの予定。家に来てくれるのか、そうでないのか。
分からないから、毎日のように待つことになる。「来てくれるといいな」と窓の方を見て。
ハーレイがチャイムを鳴らさないかと、耳を澄ませて。
(遊びに行こうって誘われたって、断っちゃって…)
家に帰って、ただハーレイを待っている。来るか来ないか、まるで分からない恋人を。
もしもウッカリ出掛けてしまって、会えるチャンスを逃したならば、悲しくなってしまうから。
週末ともなれば、もう絶対に入れない予定。今日も、子猫の予約会を断って帰ったように。
考えるほどに、ハーレイを中心に回っているのが自分の時間。
週末はもちろん、今日のような平日の放課後だって。ハーレイに会える機会を逃さないように、自分だけの予定は一つも入れないで。
(ぼくの時間は、ハーレイを中心にして回ってて…)
ハーレイの方でも、似たようなもの。
仕事をしている大人なのだし、子供の自分ほどには「縛られていない」というだけで。あくまで大人の世界が優先、教師としても、「ハーレイ」という一人の人間にしても。
(先生同士のお付き合いとか、ハーレイの古い友達だとか…)
柔道や水泳の先輩なども、チビの恋人より優先されることだろう。ハーレイが使える時間の中でやりくりするなら、チビの自分は後回し。
(ちゃんと「恋人です」って紹介できる恋人だったら、もうちょっと…)
優先順位が上がりそうだけれど、今の所は「ただの教え子」。…聖痕を持っている子供だから、他の生徒よりは「側にいて貰える」というだけのことで。
(だけど、順番は後の方でも…)
ハーレイが使う時間の中では、今の自分も軸の一つになっている。自分を中心に回る時もある、ハーレイの時間。
週末は出来るだけ、予定を入れないようにして。平日だって時間を作って、仕事の帰りに家まで来てくれたりもして。
(なんだか、待ち合わせをしているみたい…)
自分も、それにハーレイも。
週末はともかく、今日のような平日はそうかもしれない。会えるかどうかは分からないままで。
(ハーレイの仕事が早く終わって、ぼくが家にいたら…)
この部屋で会えて、ゆっくり話して、夕食は両親も一緒に食べる。食後のお茶を此処で飲む日も珍しくない。ハーレイが「またな」と立ち上がるまでは、二人きりで。
(そういう時間があったらいいな、って…)
思いながらの待ち合わせ。
本当に待ち合わせをするのだったら、時間も場所も決めるのだけれど、それは謎のままで。
場所は「この家」でいいとは言っても、家の前とか、そういったことは決めていないのだから。
お互い、相手に「会えるといいな」と思いながらの待ち合わせ。
ハーレイは待っているのではなくて、「来る」のだけれど。自分は家で「待つだけ」だけれど。
そうして会えたら、とても嬉しくて、駄目ならガッカリ。待ち合わせの約束はしていなくても。
(ハーレイが来てくれなかったら、ぼくはガッカリだし…)
そのハーレイの方も、訪ねて来た時に「留守」だったならば、ガッカリだろう。子猫と遊ぼうと出掛けてしまって、家に帰っていないとか。…母も一緒に家を空けていて、誰もいないとか。
(そんなの、ハーレイに悪いから…)
こうして今日のように待つ。何も予定を入れはしないで、「来てくれないかな?」と。
ハーレイは、どうだか知らないけれど。今日は予定が入ってしまって、来られないとか。長引く会議に出席中とか、他の先生たちと食事を食べに行くことになったとか。
そうなっていたら残念だけれど、ハーレイの予定は分からない。学校で会っても、何も話してはくれないから。「今日は行くから」とも、「行けない」とも。
(前のぼくたちだった頃には…)
待ち合わせなどはしなかった。今のようなものも、本当の意味での待ち合わせも。
恋人同士になった後にも、前の自分は、青の間でハーレイを待っていただけ。前のハーレイが、ブリッジでの勤務を終えて報告にやって来るのを。…キャプテンとしての一日の締め括りを。
(航宙日誌とかも、ちゃんと書いてから…)
青の間を訪れていたキャプテン。報告を終えたら、もうキャプテンではなくなるから。
恋人同士で過ごす時間で、次の日の朝まで、「キャプテン・ハーレイ」はいなくなるから。
(前のぼくは、待ってるだけで良くって…)
待ち合わせなどはしていない。何処かに出掛けて待っていなくても、ハーレイは必ず来てくれたから。夜になったら、青の間まで。
「来ないのだろうか」と心配することも無くて、どんなに遅くなった時でも、ハーレイは来た。前の自分が疲れてしまって、先に眠ってしまっていても。
来てくれて当然だったハーレイ。だから待ち合わせはしていない。ただの一度も。
(視察に行く時にも…)
ハーレイが迎えにやって来たから、やっぱりしていない待ち合わせ。
ソルジャーとしても、ハーレイの恋人としても、前の自分はハーレイを待っていただけで…。
(やっぱり今と同じじゃない!)
待ち合わせをしていなかっただけで、と気が付いた。前の自分も今と変わらない、と。
今と同じに、ハーレイを中心に動いていた時間。意識していなくても、毎日がそう。前の自分のためだけにあった、あの青の間で一人、ただハーレイを待っていた。
来る日も来る日も、夜になったら。
「まだ来ない」だとか、「もうすぐだ」とか、サイオンを使ってハーレイの様子を探りながら。
そして、あの頃のハーレイは…。
(ぼくを中心には動いてなかった…)
ソルジャーだった前の自分はともかく、ハーレイの恋人だった方の自分は違う。前のハーレイが使う時間の中心ではなくて、いつも後回しにされていた。ハーレイはキャプテンだったから。
(夜までかかる仕事があったら…)
当然のように、そちらが優先。恋人の所に駆け付けるよりも、シャングリラの方が大切だから。
そうやって仕事を終えた時間が遅くなければ、報告のために急いで青の間に来ていたけれど…。
(あの報告を急いでいたのは、ソルジャーのためで…)
翌朝まで報告を持ち越すよりは、と急ぎ足で通路を歩いていただけ。時には走ったりもして。
「ソルジャー」が待っているのでなければ、ハーレイは急ぎはしなかっただろう。通路を走って来ることも。
たとえ恋人を待たせていたって、キャプテンの仕事が最優先。忙しい日なら、訪ねられないまま終わったとしても仕方ない。「遅くなるから」と思念で一言、詫びておくだけで。
(謝った後は仕事に戻って、帰って行く先もキャプテンの部屋で…)
ぐっすり眠って疲れを癒して、次の日に備えたのかもしれない。恋人の所に出掛けてゆくより、休息を取ることが大切だから、と。
(前のハーレイは、キャプテンだったから…)
恋人同士になるよりも前から、「朝食はソルジャーと一緒に青の間で」という習慣が船に出来ていた。一日の予定などの報告を兼ねて、ソルジャーとキャプテンの二人で朝食。
その習慣があったお蔭で、遅い時間になった時でも、ハーレイは青の間にやって来た。とっくに恋人は眠った後でも、次の日の朝に、朝食を一緒に摂るために。
恋人が「ソルジャー」だったからこそ、来ていた青の間。キャプテンの部屋で眠る代わりに。
前の自分が「ただの恋人」なら、前のハーレイの時間を縛れはしなかっただろう。自分を中心に時間をやりくりして貰うなどは、夢のまた夢で。
白いシャングリラを預かるキャプテン、その職はとても多忙だから。恋人のために時間を割けはしなくて、「今日も行けない」と謝ってばかりの毎日だっただろうから。
(だけど、今だと…)
ハーレイはチビの恋人のために動いてくれる。本当にチビで「キスも出来ない」自分のために。
会いに行くための時間を作ろうと、懸命に。週末はもちろん、仕事がある日も。
(どうしても駄目な日も、多いんだけど…)
待っていたって、チャイムが鳴らずに終わる平日も多いのだけれど。…そうでない日は、時間を作ってくれたということ。自分と出会うよりも前なら、ハーレイが好きに使っていただろう時間。それを恋人のために使って、この家を訪ねて来てくれる。
(ドライブに行ったり、ジムに出掛けたり…)
幾らでもあった、ハーレイの時間の使い方。この家を訪ねて来ないのだったら、好きに使ってもいい時間は沢山。
けれど、ハーレイはそうしない。仕事が早く終わった時には、必ず訪ねてくれるのだから。
そう考えると、なんて幸せなのだろう。前の自分だった頃とは違って、ハーレイの時間を縛れる自分。「ソルジャー」ではなくて、「恋人」として。
(チビで、キスもして貰えないけど…)
幸せだよね、と改めて思った自分のこと。
「留守の間に、ハーレイが来たら大変だから」と待ってばかりで、放課後に友達と一緒に遊びに行けはしなくても。…「行こう」と誘われても、子猫に会いには行けなくても。
(子猫、可愛いだろうけど…)
誘われた日が土曜日ではなくて、平日の放課後だったなら、と思わないではないけれど。子猫に会いに出掛けていたなら、駄目になりそうな待ち合わせ。
時間も場所も決めていなくても、毎日がハーレイと待ち合わせのようなものだから。
(来てくれた時に家にいなかったら、ハーレイ、帰ってしまうから…)
そうなるよりかは、こうして待っていたいと思う。子猫には会いに行かないで。
今度は「恋人」の自分のために、時間を作ってくれるハーレイを。家を訪ねて来てくれる人を。
ハーレイが来ない日になったとしても、「留守にしている間に来た」と後で知らされるよりは、ずっといい。友達と出掛けて留守の間に、訪ねて来て「留守か」と帰られるよりは。
(子猫と楽しく遊んだ後に、帰って来たら…)
ハーレイも帰ってしまった後。母から「ブルーは留守です」と聞いて、車に乗って。ドライブに行くか、ジムに行くのか、ハーレイの好きに時間を使いに。
(そう聞いちゃったら、ガッカリで…)
楽しく遊んだことも忘れて、気分がすっかり落ち込むのだろう。「行かなきゃ良かった」と。
どうして遊びに行ってしまったのかと、子猫たちの可愛さも頭の中から消えてしまって。
(ホントにそうなっちゃうんだよ…)
自分の頭をポカポカ叩いて、「ぼくの馬鹿!」などと怒ったりして。もしかしたらポロポロ涙も流して、「どうして遊びに行っちゃったの…?」とベッドの上で膝を抱えて。
きっとそうだ、と考えていたら、聞こえたチャイム。窓に駆け寄ってみると、ハーレイが大きく手を振っている。門扉の向こうで。
(ハーレイが来るの、待ってて良かった…!)
やっぱり子猫を見に行ってちゃ駄目、と弾ける喜び。誘われたのが土曜日でなくても、放課後に行ける平日だとしても、出掛けて行ったら後悔しそう。こんな風にハーレイが来る日だったら。
(きちんと家で待っていなくちゃ…)
待っていたから会えるんだよ、と嬉しくてたまらない気分。「家にいて良かった」と。
嬉しい気持ちは顔にも出るから、ハーレイとテーブルを挟んで向かい合うなり、問われたこと。
「お前、なんだか嬉しそうだな」
今日はやたらと、顔が輝いてるように見えるんだが…。俺の気のせいか?
「違うよ、ホントに嬉しいんだよ。だって、ハーレイが来てくれたんだもの」
それで嬉しくない筈がないでしょ、ハーレイはぼくの恋人だものね。…ずっと昔から。
今のぼくたちになる前からね、と言ったのだけれど、ハーレイは怪訝そうな顔。
「恋人同士なのは間違いないが…。俺は何度も来てると思うぞ、この家に」
しかし、今日みたいに嬉しそうな顔は、そうそう見ない。何かいいこと、あったのか?
「いいことって…。どっちかって言うと、その逆だけど…」
とても素敵な話があったの、断って帰って来たんだけれど…。
土曜日に子猫を見に出掛けるのを断ったのだ、と話したら。「それが放課後でも、行かない」と今の自分の気持ちを、ハーレイに正直に説明したら…。
「断ったって? お前、子猫と遊びたかったんだろう?」
今からでも別に遅くはないしな、土曜日に出掛けてくればいいのに…。
待ち合わせの場所と時間は聞いたんだろうが、その時間に行けば、まだ充分に間に合うぞ?
素敵な話だと思うんだったら、行くべきだと俺は思うがな…?
子猫を飼うのは無理にしたって、とハーレイは「行け」と勧めてくれた。五匹もいるという子猫たち。白いのも黒いのも、どの子猫たちも可愛い盛り。「遊ぶだけでも楽しいだろう」と。
「でも、ハーレイと会えなくなっちゃう…」
土曜日はハーレイが来てくれる日だよ、予定があるとは聞いてないもの。
子猫の予約会に行ってしまったら、土曜日はハーレイに会えないままだよ。ぼくは留守だから。
来てくれたって家にいないんだもの、と瞬かせた瞳。「この部屋は朝から空っぽだってば」と。
「俺か? 俺は放っておけばいいだろ、子供ってわけじゃないんだから」
お前が友達と出掛けるんなら、俺も何処かに出掛けるとしよう。行き先は幾つもあるからな。
気ままにドライブするのもいいし、道場で指導するのもいいし…。
どれにするかな、とハーレイが指を折り始めたから、「駄目だってば!」と止めにかかった。
「ハーレイには何も用事が無いのに、ぼくがいないからって出掛けるなんて…」
会えないで土曜日が終わっちゃうなんて、そんなのは嫌。
今日みたいに此処で会える日は全部、ぼくはハーレイに会いたいんだから…!
「平日だって、ぼくは出掛けないよ」と、膨らませた頬。誘われたのが今日の放課後だったら、大変なことになっていたから。
五匹の子猫とたっぷり遊んで、御機嫌で家まで帰って来たら、母が「おかえりなさい」の続きに告げること。「ハーレイ先生がおいでだったわよ」と。
けれど、そのハーレイは帰って行った後。訪ねて来たのに、目当ての恋人が留守だったから。
「それはまあ…。そうなるだろうな、お前が留守なら」
じきに帰ると言うんだったら、お母さんだって、客間や此処に通してくれるだろうが…。
何処に行ったか分からない上に、戻る時間もまるで分からないとなったなら…。
お母さんは俺を引き止められんし、俺の方でも居座るわけにはいかないってな。
そんな図々しい真似が出来るか、とハーレイは帰ってしまうらしい。予想した通り、留守の間に来てしまった時は。…行き先も、家に戻る時間も分からない時は。
「ほらね、やっぱり帰るんじゃない…。ぼくが出掛けてしまっていたら」
それは嫌だから、家にいようと思ったんだよ。今日みたいな日の放課後だって。
ハーレイを家で待つのがいいよ、って考えていたら、ハーレイが来てくれたから…。
ぼくの考え、間違ってなんかいなかったよね、って、とても嬉しくなって…。それでハーレイに訊かれちゃった。「何かいいこと、あったのか?」って。
ホントはその逆だったんだけど、と残念ではある「子猫たちに会いに行けない」こと。この家でハーレイを待つのだったら、これから先もチャンスは無さそうだから。
「そうだったのか…。嬉しい反面、残念な気持ちもあるってことだな」
俺には会えても、子猫たちには会えないから。…俺が来るのを待とうとしたら。
まあ、その内にチャンスが巡って来ないとも言い切れないが…。俺に仕事が入っちまった時は、週末でも駄目な時はある。そういう時に、また誘われたりしたならな。
それなら遊びに行けるだろうが、とハーレイは慰めてくれた。「俺の代わりに子猫と遊べ」と、「貰われて行くまでには、まだまだ日があるだろうしな」と。
「…そうかもね…。予約会なんだから、まだ暫くはお母さん猫と暮らすんだろうし…」
もしもハーレイが来られない日になりそうだったら、あの友達に頼んでみるよ。子猫たちを見に行ってもいいのか、親戚の人に訊いてみて、って。
でも、子猫たちと遊ぶよりかは、ハーレイを待っていられる日の方がいいかな…。
だってね、今のハーレイだと…。
「俺がどうかしたか?」
子猫に比べりゃ、可愛さってヤツがまるで無いんだが。…でっかく育っちまったから。
見ての通りの図体なんだし、見た目も可愛いって年じゃないよな。ガキの頃なら、今よりは多少マシだったとは思うんだが…。
それでも可愛くはなかったぞ、とハーレイは可笑しそうな顔で笑っている。子猫の方がずっと、可愛らしくてお得だろう、と。
「こんな俺なんかを待っているより、子猫だ、子猫」と。
白いのも黒いのもいる子猫たちに会いに行く方が素敵だろうと、ハーレイは笑うのだけれど…。
「…可愛さだったら、子猫の方がハーレイよりも上だと思うけど…」
ぼくよりも可愛い筈だけれども、でも、ハーレイは子猫たちより素敵なんだよ。ずっと遥かに。
恋人だから、っていうだけじゃなくて、今のハーレイだからこそ。今のハーレイにしか出来ないことだよ、ぼくが素敵だと思うことはね。
今のハーレイは、前のハーレイと違って、ぼくのためにだけ時間を作ってくれるから…。
週末もそうだし、今日だってそう。
ぼくに会いに来るために、時間をやりくりしてくれてるでしょ、仕事を早く終わらせたりして。
他の誰かのためじゃなくって…、とハーレイの鳶色の瞳を見詰めた。前のハーレイなら、恋人の方の自分は後回しだったから。「ソルジャー・ブルー」は優先されても。
「そういや、そうか…。前の俺だと、ソルジャーのお前が優先か…」
お前がソルジャーだったお蔭で、それで不自由は無かったんだが…。ソルジャーのために時間を割いたら、お前のために割いているのと同じだったから。
報告に出掛けてゆくにしたって、お前の所へ急いで走って行くにしたって、同じことだったな。
しかし、お前がソルジャーじゃなくて、他の仲間たちと同じミュウの中の一人だったら…。
俺はキャプテンだったわけだし、そうそうかまってやれないか…。
いつも「後でな」と後回しにして、「遅くなった」と謝ってばかりの毎日になって。
前の俺たちのようにはいかないかもな、とハーレイは顎に手を当てた。「キャプテンだったら、恋人のために時間は割けん」と、「ソルジャーしか優先出来そうにないな」と。
「でしょ? 前のハーレイには無理だったんだよ」
ぼくのためだけに、時間を作るのは。…キャプテンの時間を、恋人用にやりくりすることは。
前のぼくはソルジャーだったお蔭で、ハーレイの時間を貰っていただけ…。
ハーレイが時間を使う時には、その中心にいられただけ。恋人じゃなくて、ソルジャーだから。
でもね、今だと、ハーレイの時間をぼくのものに出来る時もあるでしょ?
普段は仕事や、ハーレイの先輩や友達なんかが、ハーレイの時間の中心になっていたってね。
チビのぼくでも、ちゃんとハーレイに時間を作って貰えるから…。
ソルジャーじゃなくて、ただの生徒で、ハーレイの教え子の中の一人でも。
前のぼくには出来なかったことだよ、恋人用にハーレイの時間を貰うってことは。
どう頑張っても無理なことだったし、前のハーレイだって、そうしないものね…?
それに気付いたから幸せなのだ、と笑顔で話した。ハーレイが来る前に考えたことを。
今はお互い、待ち合わせをしているようなもの。「会えたらいいな」と二人揃って。
時間と場所とが決まっていないだけで、毎日、待ち合わせているみたいじゃない、と。
「そう思わない? ぼくはこの家でハーレイを待ってて、待っていたくて…」
来てくれるかどうか分からなくても、留守にしたくはないんだもの。ハーレイが来た時に、家にいないと後でガッカリしちゃうから。
ぼくはそうやってハーレイを待って、ハーレイの方も待ち合わせに急いでいるんでしょ?
約束なんかはしていなくっても、ぼくに会えたら二人で話が出来るから…。今日みたいにね。
待ち合わせの場所は決めてなくても、会えたらいいな、って仕事を早く終わらせたりして。
「ふうむ…。時間も場所も、決まってはいない待ち合わせなのか…」
俺たちがこうして出会える時には、お互い、待ち合わせをしてるわけだな?
場所はお前の家なんだが…。決まっているような気がしないわけでもないんだが…。
そうか、待ち合わせか、お前と俺が会う時には。
お前は俺が来るのを待ってて、俺はお前が待ってる所へ行こうと時間をやりくりしてる、と。
上手くいったら会えるんだな、とハーレイも頷く「待ち合わせ」。会えずに終わってしまう日も多いけれども、今日のように会える時もあるから。
ハーレイが時間を作りさえすれば、待っている自分が何処かに出掛けてしまわなければ。
「うん、待ち合わせ…。何も決めてはいないけれどね」
ハーレイも、ぼくも、何処で会うのか、何時に会うのか、場所も、時間も。
それでも会える時には会えるし、ちゃんと立派に待ち合わせだよ。自分の時間をどう使うのか、恋人を中心に考えていって。…ぼくも、ハーレイも、他の予定を入れないで。
…前のぼくたちは、本物の待ち合わせもしていないけどね。恋人同士の待ち合わせは。
何処で会うとか、何処に行くとか…、と前の自分たちが生きた時代を思う。白いシャングリラで暮らした頃には、無理だった。ハーレイと二人、恋人同士で待ち合わせをして会うことは。
あの船がどんなに広くても。
船で生きていた他の仲間たちが、公園などで恋を語らっていても。
ソルジャーとキャプテンが船の中で二人一緒にいるなら、友達としてか、あるいは視察か。他に理由を作れはしない。恋人同士で出掛けたくても、待ち合わせなどをしたくても。
長く二人で生きていたのに、誰にも言えなかった恋。明かせないままで終わってしまって、暗い宇宙に消えた恋。待ち合わせさえも一度も出来ずに、それきりになった恋人同士。
「前の俺たちは、難しい立場にいたからなあ…。シャングリラでは」
ソルジャーとキャプテンが恋人同士なんだと知れたら、あの船はおしまいだったから。
誰一人として、俺たちの意見を真面目に聞いてはくれなくて。…皆がそっぽを向いちまって。
そうならないよう、恋を隠すしかなかったが…。待ち合わせなんぞは出来もしないで。
しかし今度は出来るわけだな、今も待ち合わせをしてるんだから。
時間も場所も決めちゃいないが…、とハーレイが笑む。「今日も、お前は待ってたっけな」と、「俺も待ち合わせに間に合ったようだ」と。
「そうだよ、毎日が待ち合わせ。…時間も場所も決めてなくても、恋人同士で待ち合わせだよ」
ハーレイが来ないで終わっちゃった日は、ガッカリだけど…。
子猫と遊びに出掛けた方が良かったのかな、と思っちゃう日もありそうだけど…。
「すまんな、そういう日も多いから…」
こればっかりは仕事の都合で、俺の付き合いというヤツもある。…他の先生と食事だとかな。
その日に決まることも多いし、どうすることも出来ないんだが…。
学校でお前に言ってやろうにも、他の生徒が羨ましそうに見そうだからなあ、「会うんだ」と。会えない日の方が多いにしたって、会える日の方が断然、目立つだろ?
それに「会える」と話した後でだ、何か用事が入っちまったら、待ちぼうけをさせてしまうってわけで…。だから予告は出来ない、と。
もっとも、それも今だけのことだ。
お前が大きくなった時には、もう待ち合わせは要らないからな、とハーレイが言うから驚いた。
「え? 要らないって…。どういうこと?」
ぼくが大きくなった時でしょ、前のぼくと同じ背丈になって…?
それならデートに行くんだろうし、そういう時には、待ち合わせ、しない?
いろんな所で、恋人と待ち合わせをしている人たち、いるじゃない。
公園の入口とか、喫茶店とか…、と思い付いた場所を挙げてみた。そういった所は、カップルの待ち合わせ場所の定番。チビの自分でも知っているほどに、恋人たちを見掛ける場所。
デートに行く前に時間を決めて、お互い、其処へと出掛けて行く。二人で過ごす一日のために。
今の自分も大きくなったら、そうするのだろうと思ったのに。
ハーレイとデートに出掛ける時には、恋人同士で待ち合わせなのだと考えたのに…。
「俺がお前を待たせるわけがないだろう。…公園にしても、喫茶店にしても」
お前を待たせる暇があったら、家まで迎えに来るもんだ。俺が早めに家を出て来て。
車でドライブってわけじゃなくても、此処まで迎えに来ないとな。デートの時には、俺が必ず。
そいつが俺の役目だろうが、とハーレイは迎えに来るつもり。待ち合わせをする代わりに、この家のチャイムを鳴らして、「さあ、行こうか」と。
「迎えに来るって…。本当に?」
そんなの、ハーレイ、面倒じゃないの?
ドライブに出掛けて行く時だったら、迎えに来るのが普通かもだけど…。そうじゃない時まで、家に迎えに来なくても…。ぼくの方なら、待ち合わせでかまわないんだけれど…?
公園でもいいし、喫茶店でも、と思ったままを口にした。待ち合わせも、きっと幸せだから。
約束の時間より早く着いても、ハーレイが来そうな方を眺めて待つ。「遅いよ!」などと怒りはしないで、「もうすぐ来るかな?」とワクワクしながら。
「待ち合わせ自体はいいんだが…。お前、丈夫じゃないからなあ…」
前と同じに弱い身体に生まれちまったし、これからも弱いままなんだろうし…。
待ち合わせ場所まで出て来いだなんて、言えるもんか。
此処は地球だぞ、シャングリラの中とは違うんだ。待ってる間や、其処まで行く間に、いきなり雨が降って来るとか、思ってたよりも寒い日になってしまうとか…。
それじゃ駄目だろ、お前の身体が悲鳴を上げちまう。デートに出掛けるよりも前にな。
用心のためにも、俺が此処まで迎えに来る、という言葉。
車で出掛けるわけではない日も、場合によっては車を出して。「この方がいい」と判断したら。
待ち合わせをしない代わりに臨機応変、どんな時でも、恋人の身体に負担をかけないように。
そして結婚した後は…。
やはり無いという待ち合わせ。ハーレイは自信たっぷりで言った。
「待ち合わせは、もう要らんだろう」と。「いつも一緒だし、必要ないぞ」と。
「でも、ハーレイの仕事の帰りとかに…」
待っているっていうのは駄目なの、仕事に行く時は、ハーレイは一人なんだから…。
ちょっと何処かで待ってみたいよ、とハーレイにぶつけてみた、おねだり。
学校の近くの喫茶店で待って、一緒に食事に出掛けてゆくとか、そういう幸せな待ち合わせ。
「近くの店なあ…。お前が待ってみたいんだったら、それも悪くはないんだが…」
俺が家まで迎えに帰った方が良くないか?
仕事に行くなら車なんだし、家に帰るのも早いから。…お前もその方が楽だぞ、きっと。
用意だけして家で待ってろ、とハーレイは言ってくれるのだけれど、待ち合わせだってしたいと思う。結婚前には出来ないのならば、結婚した後でかまわないから。
「ううん、たまには待ってみたいよ。…でも、結婚前のデートの時には駄目なんでしょ?」
それなら、結婚しちゃった後。ハーレイが仕事に行っている日に、待ち合わせ。
今のぼくだと、今日みたいに待っているんだもの。時間も場所も決めないままで。
そんな待ち合わせが終わった後には、もう待ち合わせが無いなんて…。つまらないでしょ、前のぼくたちは待ち合わせをしていないんだから。…恋人同士の待ち合わせをね。
だからやりたい、と強請った待ち合わせ。結婚して二人で暮らし始めたら、ハーレイが出掛けた仕事先の近くの、何処かで待って。
「お前がしたいと言うのなら…。「駄目だ」と止めるわけにはいかんな」
だったら、お前が元気な時で、天気のいい日。そういう時なら許してやろう。待っているのを。
それでいいなら、仕事の帰りに待ち合わせをして出掛けてやるが…。
あくまで俺の車でだぞ、と念を押された。「もう遅いんだから、歩くのは駄目だ」と。
「いいよ、ハーレイの車でも。…ぼくは何処かで待っているから」
喫茶店がいいかな、って思っていたけど、本屋さんも退屈しなくていいかも…。
ハーレイの仕事が終わる時間まで待っているから、会えたら一緒に出掛けようよ。遅くなっても平気だから。…ハーレイ、ちゃんと来てくれるしね。
「遅くなっても、って…。お前、無理はするなよ?」
待ってる間に気分が悪くなったら、帰っちまっていいんだぞ?
店の人に伝言を頼んでおくとか、学校に電話してくるとかして。…「先に帰る」と。
「無理なんか、ぼくはしないってば!」
駄目だと思った時は帰るよ、我慢していつまでも待っていないで。
家に帰って大人しくするから、そうじゃない時は二人で出掛けなくっちゃね…!
無理をして待ったりは絶対しない、と約束をした。
具合が悪くなりそうだったら、諦めて家に帰るから、と。待ち合わせは次のお楽しみにして。
(せっかくハーレイと出掛けるんだし、その後で、ぼくが寝込んじゃったら大変…)
ハーレイは「俺のせいだ」と慌てそうだから、そうならないよう、気を付けよう。余計な心配をかけないように、「また行こうな」と言って貰えるように。
今も待ち合わせのような毎日だけれど、いつかは本物の待ち合わせをしたい。
お互いの時間の都合を合わせて、食事やドライブに出掛けてゆく。ハーレイと二人で。
シャングリラでは一度も出来なかったから、きっと楽しいに違いない。
ハーレイが遅れてやって来たって、自分が早く着きすぎたって。
出会えた後には、二人きりで出掛けてゆくのだから。
好きに時間を使えるわけだし、恋人同士の素敵な時間が始まる合図が待ち合わせだから…。
待ちたい時間・了
※前のブルーも、今のブルーも「ハーレイを待っている」わけですけど、違った状況。
ハーレイの時間が「本当の意味で」ブルーを中心に回っているのは、平和な時代だからこそ。
PR