シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
レンコン掘り…いえ、埋蔵金探しに燃えた田舎暮らしからアルテメシアの街に戻った私たち。埋蔵金を会長さんに持っていかれてガッカリしながら帰ってきたのが二日前です。今日は会長さんのマンションに集まって慰労会ということになっていました。ダイニングのテーブルにはトムヤムクンや生春巻き、パパイヤのサラダに様々な炒め物など「そるじゃぁ・ぶるぅ」自慢の料理が並んでいます。
「かみお~ん♪ 思い切りエスニックにしてみたよ! レンコン掘りの秘密基地では、こんなの食べてる暇がなかったもんね」
「レンコンじゃなくて埋蔵金だよ…」
フゥ、と溜息をつくジョミー君。レンコン掘りがメインだと思われても仕方ない日々を送った上に、埋蔵金は会長さんの懐に…。いっそレンコン掘りをしに行った、と思った方がマシな状況かもしれません。会長さんがクスッと笑って戸棚から封筒を取り出しました。
「はい、これ。君たちが出荷した蓮の花とレンコンの売り上げだよ。道具の借り賃を差し引いて貰って残った分だ。どうする? これもシャングリラに寄付しておく?」
「「「シャングリラ!?」」」
「そう。シャングリラ号に寄付するか、って聞いてるんだけど。ああ、料理は遠慮なく食べてくれたまえ」
「「「はーい!」」」
いただきます、と食べ始めた私たちに会長さんはニコニコと…。
「シャングリラは今、恒例の乗員交代の為に地球に近い場所にいる。話しただろう、夏休みの間に一番大きな入れ替えがある、って。この間の埋蔵金はシャングリラに乗せるつもりなんだ。君たちが稼いだお金も一緒に纏めて寄付しないかい? ぼくが金貨に替えに行くから。資産として蓄えるには金が一番なんだよね」
「…万一の時の備えってわけか」
「ご名答。流石キースだ。…で、答えは?」
寄付しろと言わんばかりの会長さん。確かにシャングリラ号の存在意義を考えてみると、いざという時のための資金は必要なのかもしれませんけど…レンコン掘りの売り上げなんか、埋蔵金の前には微々たるものでは?
「埋蔵金の箱に君たちの名前を書いたプレートを付けてあげてもいいよ。売り上げを寄付してくれるなら…ね。どうだい、子々孫々まで君たちの名前が残るんだけど。…今のままだと埋蔵金はソルジャーからの個人的な寄付ってことで、名前は何も付かないんだ」
「俺たちの名前か…」
「そう。シャングリラ号はもちろん、ぼくたち全員の資金を管理する部署にも君たちの名前が残る。…どう? 売上金を手に入れたって、何回か食べに出かけたら無くなっちゃうと思うんだけど」
うーん、難しいところです。稼いだお金を使ってしまうか、グッと我慢して名を残すか。我慢すれば箱2杯分の黄金に私たちの名前が入ったプレートが…。
「どうしよう? 名前が残るってかっこいいような気もするよね」
「だよな。俺たち、あんまり役に立ちそうもないし」
ジョミー君とサム君が言い、キース君が頷いています。シャングリラ号の記録に残せるほどの大きな功績を私たちが上げられるとは思えません。タイプ・ブルーのジョミー君なら、望みがあるかもしれませんけど。
「…思い切って寄付しちゃいますか?」
シロエ君の言葉に私たちは顔を見合わせ、埋蔵金掘りの言いだしっぺのジョミー君の顔を眺めて…。
「えっ、ぼくが決めるの? じゃ、じゃあ…記念に名前を書いて貰おうよ!」
「「「さんせーい!!」」」
会長さんは嬉しそうに笑い、「いいんだね?」と念を押しました。
「分かった。埋蔵金は君たち全員の名前をつけてシャングリラ号に送ることにする。夏休みのいい記念になるよ」
ほらね、とダイニングの床に瞬間移動で現れたのは埋蔵金が詰まった箱。蓋が開けられ、黄金の輝きに魅せられながらのランチタイムが賑やかに過ぎていきました。
「そうそう、例の阿弥陀様だけど」
タイ風お好み焼きを取り分けながら、会長さんがジョミー君とサム君を交互に見詰めて微笑みます。
「ジョミーとサムが使うゲストルームに置こうと思ってるんだよね。そうしておけば、泊まりに来た時はいつも拝んでもらえるし…それ以外でも拝みたくなったら言ってくれれば招待するし」
「…それって、俺とジョミーはいつでも来てもいいってこと?」
「そうなるね。もちろんサムが一人で来てもかまわないよ」
「ええっ!?」
サム君の顔がパァッと輝き、幸せオーラが出ています。会長さんの家に来られるのなら、毎日でも阿弥陀様を拝みかねない勢いですけど…そんな動機でいいんでしょうか? 案の定、キース君が渋い顔で。
「おい。弥陀本誓願に恋愛成就は無かったと思うぞ」
「…ミダ…ホンセーガン…?」
オウム返しはジョミー君。えっと、それって何でしょう? 会長さんが「入ってないね」と即答して。
「弥陀本誓願っていうのは、阿弥陀様が衆生を救うためにお立てになられた四十八の誓いなんだ。その中に恋愛成就は無いだろう、とキースは文句を言ってるわけ。だけど発心なんて動機は何でもいいんだからさ、サムが阿弥陀様を拝みたいならいつでもおいで」
「ホントに?」
「うん。どうせなら御厨子に入れてもらうのもいいね。仏具のカタログがあるから見るかい?…よかったらジョミーも一緒に選ぶといいよ」
寺院仏具と書かれた分厚いカタログを会長さんが取り出し、パラパラとページをめくります。埋蔵金ならぬ阿弥陀様を掘り当てたばかりに、ジョミー君とサム君は仏門に更に近づいてしまったようですが…。
「ぼくとしては黒漆塗りが荘厳でいいんじゃないかと思うんだけどね。黒檀もなかなかに重みがある。もっと気軽に接したい、というなら杉やケヤキがいいかもしれない。形も色々揃ってるから、好みのがあれば言ってほしいな」
「んーと…。俺、こういうのってよく分からないし…。ブルーに任せていいよな、ジョミー?」
「どうでもいいよ…。嫌だって言っても買う気だろうし」
ジョミー君はブツブツ言いつつ蟹のカレー炒めをお皿に盛って。
「そんなことより日焼けをどうにかしてほしいんだ。庭で日光浴をしてみたんだけど、一日じゃどうにもならなかったよ。…顔しか日焼けしてないだなんて、ものすごくカッコ悪くってさ!」
「「「うっ…」」」
キース君たちがグッと言葉に詰まります。レンコン掘りの作業服は顔以外をゴムの胴長と手袋で覆ってしまうものでしたから、男の子たちは顔だけ日焼けして手足は全く焼けていません。ジョミー君が日光浴をしようとしたのも無理はないという状況でした。
「阿弥陀様を拝めば手足もちゃんと日焼けする、っていうんだったら頑張るよ? でも違うだろ! 夏休み、あと2週間しかないじゃないか! 毎日庭で日光浴なんて退屈だよ。退屈せずに日焼けしたいよ!」
「…みんなで海に行ってみますか?」
遠慮がちに聞こえたマツカ君の声。けれど…。
「「「行く!!!」」」
一斉に叫ぶ男の子たち。スウェナちゃんと私も便乗して叫んでしまっていました。マツカ君が言う海というのは、埋蔵金を掘りに行かなかったら泊まってた筈の海の別荘。去年過ごしたゴージャスな別荘ライフをもう一度、です。
別荘行きの案はアッという間に盛り上がり、マツカ君が手配をしようとケータイを取り出したのですが。
「納涼お化け大会には参加しないのかい?」
置き去りにされた会長さんが仏具カタログを手にして不満そうです。
「去年はスウェナとみゆしかクリアできていないだろう。雪辱戦をすればいいのに」
「クリアしたって手拭いとお菓子しかくれないじゃないか! 日焼けの方が大問題だよ」
ジョミー君が食ってかかると、キース君が。
「そうだな。それに、お化けの仕掛けもサイオンだと分かってしまったし…今の俺たちには意味がない」
「でも、出るべきだとぼくは思うな」
唇を尖らせている会長さんに、マツカ君が恐る恐る尋ねました。
「あの…。話に加わってらっしゃらなかったので、お嫌なのかと思ったんですが…。よろしかったら別荘においでになりませんか? ぶるぅも一緒に」
「ぼくとぶるぅも? ありがとう、君はいい子だね、マツカ」
あちゃ~。会長さんったら、拗ねていただけだったみたいです。上機嫌になった会長さんは別荘ライフについて話し合うべく、仏具カタログをポイッと後ろへ放り投げたのですが…。
「いったぁ~い!!」
ゴッ、という音と甲高い悲鳴が響きました。
「「「ぶるぅ!!?」」」
頭を抱えてうずくまっているのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。あれ? テーブルのそばでグリーンカレーを盛りつけているのも「そるじゃぁ・ぶるぅ」…。
「いたたたたた…。今の、ブルーが攻撃したの? ひどいや、全然読めなかったよ!」
「…ぶるぅ? ごめん、ごめん。お使いに来たのかい?」
銀色の小さな頭を撫でる会長さん。仏具カタログがヒットしたのは別の世界のシャングリラから来た「そるじゃぁ・ぶるぅ」のそっくりさんの「ぶるぅ」でした。「ぶるぅ」はプルプルと頭を振って。
「ううん、寄り道しただけだよ。美味しそうな匂いがしたんだもん!」
「ああ、今日はパーティーみたいなものだからね。辛い料理も多いけど、食べていく?」
「うん!」
会長さんの言葉に「ぶるぅ」は無邪気に喜び、増やされた椅子に座りました。えっと…確か「ぶるぅ」は大食いなのでは…。お料理が足りなくなったら「そるじゃぁ・ぶるぅ」に頑張って貰うしかありません。
「ぶるぅ、寄り道って言ってたけど…。ぼくの家の他に、君が行くような場所があったかな?」
首を傾げる会長さんに「ぶるぅ」は得意そうな笑みを浮かべて。
「あのね、キャプテン……ううん、教頭先生のところ。何回か来てみたんだけど、いつもお留守でダメだったんだ」
「ハーレイの家? 夏休みはシャングリラ号と何度か往復するから、留守の時にばかり当たったんだね。でもハーレイに用事って…ぼくにじゃなくて?」
「うん! ブルーに頼まれたものを届けに行ってきたんだよ」
「…ブルーが……ハーレイに…?」
眉を寄せる会長さん。ソルジャーが教頭先生にお届けものをするなんて…どうした風の吹き回しでしょう? ロクでもない予感がするのは私だけではないようで、ジョミー君たちも食事の手を止めて見守っています。お客様の「ぶるぅ」はそうとも知らず、甘辛いタレつきのタイ風焼き鳥を大きく口を開けて頬張りました。
「これ、美味しい! これも、これも…」
パクパクといろんな料理に手を出し、次々に胃袋に収めながら。
「ねぇねぇ、美味しいものばっかりだね! 寄り道してみて良かったぁ!」
「ぶるぅ、頼まれたものって何だったんだい? よかったら教えてくれないかな」
「ん?」
口いっぱいに詰め込んだ料理をモグモグ、ゴクンと飲み下した「ぶるぅ」はニッコリ笑って。
「えっと…えっとね、アヒル!」
「「「アヒル!?」」」
想定外の答えにビックリ仰天の私たち。アヒルって…アヒルをプレゼントって、なに?
「……アヒルなんだね? 鶏じゃなくて…?」
「「「は?」」」
会長さんの質問は訳が分かりませんでした。贈り物にアヒルというのもサッパリですが、それが鶏だったら意味があるとでもいうのでしょうか? 三百年以上も生きてる人の知識には全然ついていけないです…。
「んーとね…。アヒルだったと思うよ。自信なくなってきちゃったけれど」
深く考えてなかったから、と「ぶるぅ」が答え、会長さんはホッと吐息をつきました。
「アヒルだったんなら構わないんだ。少なくとも雄鶏とアヒルを間違えたりはしないだろうし」
「雄鶏? えとえと…、もしかするとヒヨコだったかもしれない!」
「ヒヨコ?」
「だって黄色をしてたんだもん。鶏のヒヨコ、黄色いよね。アヒルじゃなくてヒヨコだったかも…」
それを聞いた会長さんの顔がサーッと青ざめ、独り言のように。
「…ヒヨコ…。雄のヒヨコだった場合は雄鶏ってことになるんだろうか…」
「おい、ブルー! あんた一体どうしたんだ!?」
キース君の問いに会長さんはブルッと身体を震わせ、料理に夢中の「ぶるぅ」をじっと眺めてから。
「雄鶏のプレゼントだったとしたらマズイんだ。…ブルーが知ってるかどうかは分からないけど、古代ギリシャの習慣で…雄鶏をプレゼントするのは求愛の申し込み。受け取ったらオッケーだという合図で…」
「「「えぇっ!?」」」
それは確かにヤバイです。「ぶるぅ」はアヒルだったと言ってますけど、雄のヒヨコだったらどうしましょう? 会長さんは青い顔をして続けました。
「しかも普通の求愛じゃない。男同士に限られる上、贈られた方が受け身なんだよ」
「「「えぇぇぇっ!?」」」
きょ、教頭先生が……受け…。ソルジャー、まさか本気で教頭先生に雄のヒヨコを…? あのソルジャーならやりかねない、と誰もが震え上がっています。会長さんは掠れた声で尋ねました。
「ぶるぅ、ハーレイはアヒルを受け取ったのかい…?」
「うん!」
元気一杯の答えに愕然とする私たち。何も知らない教頭先生がソルジャーの意図に気付かず、雄のヒヨコを貰ったのなら大変です。なんとかしないと…。でもどうやって…?
「…ふぅん…。そのプロポーズは知らなかったな」
「「「ソルジャー!??」」」
ダイニングに姿を現したのは会長さんのそっくりさんでした。優雅にマントを翻して「ぼくの椅子は?」と催促します。キース君が慌てて追加の椅子を運んできました。柔道で心技体を鍛えているだけあって、立ち直りの早さはピカイチなんです。ソルジャーは悪びれもせずにテーブルについて。
「美味しそうだね。ぶるぅが帰ってこないから、ちょっと覗いてみたんだよ。…どれがお薦め?」
「えっと…王道はトムヤムクンかな、そこのスープ。…じゃなくて、ブルー! ハーレイに何を…」
「君の読みと大差は無いと思うけど?」
具だくさんの海老スープを取り分けながら、ソルジャーは意味深な笑みを浮かべました。
「本物の地球には面白い習慣があったんだね。知ってたらアヒルじゃなくて雄鶏をプレゼントしてみたのにさ。こっちのハーレイがどんな反応をするか見てみたかったな」
「………。ハーレイは多分、雄鶏の意味は知らないと思う」
「なんだ、残念。じゃあ、ぼくのハーレイに雄鶏をくれって頼んでみよう。プロポーズの意味だとも知らずに馬鹿正直に持ってくるだろうから、素敵なことになりそうだ」
クックッと笑うソルジャーは本当に楽しげで、雄鶏をプレゼントする意味を知っていたとは思えません。それなのに何故、教頭先生にアヒルなんかを…?
「プレゼントしたのはアヒルだけじゃないよ。ラッコとペンギンとカッパもつけた。他にも色々」
「「「カッパ!?」」」
ソルジャーが住む世界には、そんな生物がいるのでしょうか? カッパといえば頭にお皿がある伝説の生物だとばかり思ってましたが、世界が違えば同じ名前で全く別の生き物が生息しているのかも。それとも私たちが知っているカッパが当たり前に生きていたりしますか…?
呆然としている私たちを他所にソルジャーと「ぶるぅ」は美味しそうに食事をしています。そして「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大食漢の「ぶるぅ」のために追加を作りに、キッチンとの間を忙しそうに往復中。
「悪いね、急に二人もお邪魔しちゃって」
そう言って「そるじゃぁ・ぶるぅ」を労うソルジャーですが、私たちだって負けず劣らず、迷惑を被っていると思うんですけど…。会長さんの責めるような瞳に、ソルジャーは渋々口を開きました。
「…カッパといえばカッパだろう? 頭の上にお皿があって、背中に甲羅をしょっている」
「君の世界にはそんな生物が存在するのか? ぼくの世界では架空のものだが」
「ぼくの世界も同じだよ。…君のハーレイにプレゼントしたのはオモチャのカッパさ」
「「「オモチャ?」」」
なんでそんなものを、と首を傾げる私たち。ソルジャーはクスクスと笑い、「分からない?」と微笑んで。
「あんなに君のことを思っているのに、報われないのが可哀想で…。君と入れ替わった時、君のハーレイの思いが痛いほどぼくに伝わってきたよ。なのに君はハーレイを受け入れない。…それが悲しくて、ぼくのハーレイに話したんだ。そしたら釘を刺されてね。…ぼくが代わりに応えようとは思わないように、って。自分に嫉妬するのは不毛らしい」
「「「…………」」」
「慰めてあげたいのなら代わりにオモチャを送れと言われた。それがアヒルやカッパの正体。…全部ぼく専用のお風呂オモチャだったんだ」
「「「お風呂オモチャ!?」」」
ソルジャーがそんなモノを持っていたとは知りませんでした。お風呂オモチャって、お風呂に浮かべるオモチャですよね? 子供用だと思うんですけど…。会長さんもポカンとしています。
「君はお風呂オモチャと一緒にお風呂に入るのか…?」
「いけないかい? 君のハーレイにプレゼントしようと決めて、ぶるぅに梱包させた後は別のオモチャと入ってる。一人で入るのは寂しいしね」
「別のオモチャ…」
いったいどこまで子供なんだ、と思ってしまった私たちですが。
「ああ、新しいお風呂オモチャはハーレイだよ。…これがなかなか具合がいい」
「「「!!!」」」
今度こそ私たちは目が点でした。
「オモチャと違って色々便利だってことに気が付いた。シャンプーだってして貰えるし、身体も洗って貰えるし」
「ちょっ……ブルー、それって…」
絶句している会長さん。ソルジャーと向こうのキャプテンは両想いでしっかり深い仲です。そんな二人が一緒にお風呂って、どう考えてもアブナイ大人の世界なのでは…。
「お風呂で何をしてるのか、って言いたいわけ? 君に言われる筋合いはないね」
ソルジャーはフンと鼻を鳴らしました。
「ぼくもハーレイも男だよ? 男同士でお風呂に入ってやましいことでもあるのかい? ぼくとハーレイの場合はともかく、男同士なら間違いなんかは起こりようもないと思うんだけど。男女で入る方がよほど危険だ。…君はフィシスと入ってることがあるだろう? それに比べればぼくとハーレイなんて…」
「………」
反論できない会長さん。そっか、フィシスさんと一緒にお風呂に入ってることがあるんですね。そりゃあ…同じ寝室を使ってる日があるんですから、お風呂だって…とは思いますけど、会長さんってやっぱり大人…。
「ふふ、君の友達が絶句してるよ。フィシスとお風呂っていうのはアヤシイよねえ?」
「「「………」」」
同意を求められても困ります。私たちは耳まで真っ赤になって立ち尽くしているばかりでした。
「まぁ、ぼくとハーレイも仲良くお風呂に入っているってわけなんだけど。…こっちのハーレイもブルーと一緒に入る日を夢見て広いバスタブにしているだろう? だからお風呂オモチャをあげたんだ。ぼくはブルーの代わりになれないけれど、ぼくとお風呂に入っていたオモチャがあれば幸せかな…って」
ニッコリ笑うソルジャーの隣で「ぶるぅ」がエヘンと威張ります。
「オモチャはぼくが包んだんだよ! 綺麗な紙でラッピングしてリボンもかけて、何度も配達しに来たのに…お留守ばっかり。やっと渡せて良かったぁ~。ブルーからだよ、って言ったら喜ばれたし!」
「…お風呂オモチャだって言ったのかい…?」
会長さんが訊くと「ぶるぅ」は首を左右に振りました。
「言ってないよ。ブルーが書いたお手紙を渡してきたけれど」
「手紙…?」
ハッと顔を上げた会長さんは窓の彼方へ視線を向けて、それから頭を抱え込んで。
「…ダメだ、ハーレイ、もう昼風呂に入ってる…。しかもオモチャに囲まれてトリップ中だ」
あちゃ~。きっと教頭先生の頭の中は薔薇色でしょう。ソルジャー、どこまで罪作りなんだか…。
教頭先生のお風呂を覗き見たらしいソルジャーと「ぶるぅ」はおかしそうに笑い、食事の合間に「あっ、鼻血」だとか「のぼせてる」だとか「沈んじゃった…」とか、中継をしてくれました。会長さんは憮然とした顔でデザートに手を伸ばしています。とんでもない慰労会になっちゃいましたよ、珍客のせいで! やがて教頭先生は湯あたりしてダウンしてしまったらしく、中継も終了しましたけれど…。
「ぶるぅは何度も配達に行っては留守だったって帰って来たんだ。ブルー、君も留守をしていたみたいだね」
「うん、まあ…。夏休みだし」
「有意義に過ごしてきたっていうのは見れば分かるよ。そこの黄金、凄いじゃないか」
ソルジャーが指差したものは埋蔵金が入った木箱でした。最初から知っていたのか、やっと気付いたのかは分かりませんが、興味深そうに眺めています。
「ああ、あれね。…みんなが頑張って掘ったんだからあげないよ。ぼくたちにだって備えは必要なんだ」
「埋蔵金か。地球には本当に色々なものがあって素敵だな。ぼくたちの世界でこういうものを手に入れようと思ったら…海賊のアジトの跡でも探すしかないかな」
それからソルジャーは海賊の話をしてくれました。お世話になったことがあったり、海賊出身の仲間がいたり…とソルジャーの生きてきた世界は凄すぎます。私たちには耐えられそうもない厳しい状況なんですけども、ソルジャーは穏やかに微笑みながらゆったりと話し続けるのでした。
「…海賊の話はこれでおしまい。今度は君たちの冒険の話が聞きたいな」
「冒険って…。レンコン掘りだよ?」
ジョミー君が言うと、ソルジャーはとても楽しそうに。
「そういう話が聞きたいんだよ。ぼくたちの世界は船の中だ。地上に降りて自由に過ごせる日が来るかどうかも分からない。だから君たちが黄金を掘り当てるまでの苦労話を共有できたら面白そうだな…って」
「顔だけ日焼けになる話でも?」
「うん。それはとっても興味がある。…なんで顔だけ?」
男の子たちの顔を見回したソルジャーはプッと吹き出し、「ぶるぅ」もお腹を抱えて笑っています。蓮の花や葉っぱの出荷とレンコン掘りに明け暮れた日々の話は大いにウケたようでした。そして最後の最後にズルをしたばかりに、会長さんに掻っ攫われた埋蔵金。ソルジャーと「ぶるぅ」は箱に詰まった砂金に両手を突っ込んでみたり、黄金の阿弥陀様を不思議そうな顔で眺めたり。埋蔵金探しの慰労会、別世界からのお客様もお迎えできて大賑わいってことでいいのかな…?