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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

デート大作戦  第1話

闇鍋に、家出してきたソルジャーに…と賑やかだった始業式。その次の日は健康診断がありました。シャングリラ学園恒例の『かるた大会』に備えるためです。去年は「かるた大会なのに何故、健康診断?」と不思議でしたが、かるた大会は温水プールで開催される『水中かるた大会』だったりします。健康診断はプール対策というわけでした。今日も1年A組の教室の一番後ろに机が増えて…。
「やあ、おはよう」
会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」と一緒にやって来ました。
「かみお~ん♪ かるた大会もよろしくね!」
最強の助っ人の登場にクラスメイトの大歓声が巻き起こります。そこへガラリと扉が開いて。
「諸君、おはよう。…またブルーか…」
苦虫を噛み潰したような顔のグレイブ先生。
「…かるた大会を狙って来たのだろうが、学園1位など取らなくてもいい! 学園1位で十分だ。三学期だからな、学生の本分である勉学に励むのが望ましい。諸君もじきに2年生だ」
グレイブ先生が学園1位を敬遠するのには立派な理由があるわけですが、クラスメイトはまだ知りません。けれど学園1位を取る気満々、「はーい!」と元気に返事しています。グレイブ先生は舌打ちをして出席を取り、それからすぐに健康診断。皆が体操服に着替えた中で、会長さんだけはいつもの水色の検査服でした。
「…まりぃ先生も飽きないよね。そろそろ体操服を許可してくれてもいいのにさ」
そう言いつつも、まんざらではなさそうな会長さん。体操服では見た目の色気が足りないことを百も承知ということでしょう。健康診断は女子が先なので、スウェナちゃんと私は「そるじゃぁ・ぶるぅ」を連れて保健室へと出かけました。
「あらぁ~! ぶるぅちゃん、いらっしゃい!」
まりぃ先生は喜色満面。一部の男子生徒からセクハラ養護教諭と恐れられるまりぃ先生は「そるじゃぁ・ぶるぅ」を健康診断の度にバスルームに連れ込み、念入りに洗いまくります。どう考えても子供に対するセクハラですが、当の「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大喜びとあっては告発することも出来ないわけで…。
「ぶるぅちゃん、今日もセクハラをして欲しいのかしら?」
「うん! せくはらの時間、大好きだよ♪」
「はいはい。じゃあ、ヒルマン先生に代わって貰うわね」
まりぃ先生はウキウキと内線でヒルマン先生に健康診断の代理を頼み、「そるじゃぁ・ぶるぅ」と手を繋いで保健室の奥の特別室へ。スウェナちゃんと私も道連れです。まりぃ先生が会長さんを引っ張り込むために用意したという特別室には大きなベッドやソファが置かれた部屋とバスルームとがありました。まりぃ先生と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がバスルームに消えた後、取り残された私たちは…。
「ねえ。前から気になっていたんだけど」
スウェナちゃんが指差したのは天井の隅の方でした。そこには綺麗な形のライトがポウッと灯っています。
「えっ? ああ、あれ…。なんだっけ、アールヌーヴォー様式だっけ? アンティークかなぁ?」
「多分ね。まりぃ先生、理事長さんの親戚でしょ? 特別室を作らせてしまうくらいなんだし、インテリアもこだわってるんだと思うわ。でもね…私が気になってるのはそこじゃなくって…あの陰の壁よ」
キラッと光るモノがあるでしょ、とスウェナちゃん。言われてみれば小さな円形のモノがあるような…?
「あれって…隠しカメラじゃないかしら。…時間はまだまだ大丈夫よね?」
スウェナちゃんは一人用のソファを引っ張っていって壁際に据え、背もたれの上に立って伸び上がりました。しばらくライトの周囲をチェックしてからストンと降りると…。
「…やっぱりカメラのレンズだったわ。本体は壁の中に仕込んであって、壁を開けて取り外しができるみたいよ」
「じゃ、じゃあ……。まりぃ先生、あのカメラで…」
私たちは真っ赤になって顔を見合せます。この特別室は会長さんが授業をサボッた時に利用する部屋。まりぃ先生にサイオニック・ドリームで大人の時間な夢を見せておいて、自分はベッドで昼寝するのだと前々から聞いていたのですが…。隠しカメラがあるってことは、昼寝じゃなくて大人の時間を楽しんでるってことなのでは…?
「まりぃ先生、そんなの録画していったい何に…」
「さ、さあ…」
大人ってよく分からない、と頭を抱えた私たちはソファを元に戻すことをすっかり忘却していました。

やがてバスルームの扉が開き、まりぃ先生と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が出てきたのですが。
「…んまあ……。いけない子たちねえ」
バスローブを羽織ったまりぃ先生の第一声はこれでした。
「隠しカメラに気付いたのね? …大人の時間を覗こうだなんて、あなたたちには早過ぎてよ。あ、ぶるぅちゃんには関係ないの。さあ、お洋服を着ましょうねえ」
真っ裸でホカホカと湯気を立てている「そるじゃぁ・ぶるぅ」に手際よく下着と体操服を着せるまりぃ先生。セクハラの意味も知らない「そるじゃぁ・ぶるぅ」は御機嫌でニコニコしています。
「まりぃ先生、せくはら、ありがと~! またしてね」
「そうねえ、次の健康診断の時も来てくれたらね」
大人の女性の魅力溢れるまりぃ先生はバスローブを脱ぎ、服と白衣を身につけながら。
「そこのいけない子猫ちゃんたち。…あなたたちが見つけたカメラはねぇ…。ちょっと壊れているみたい」
「「え?」」
「この部屋に変な磁場でもあるのかしら? カメラは故障していないのに、全然録画できないの。残念だわぁ…。イラストの参考にしたいのにね」
「「は!?」」
イラストって…参考って…なに? まさかの妄想イラストですか!? まりぃ先生はバチンとウインクして。
「生徒会長のあ~んな姿やこ~んな姿を資料にできたら、もっとイラストに深みが出るでしょ? なのに録画ができないなんて…。春休みになったら業者に点検して貰わなきゃ」
あーあ…。まりぃ先生ときたら、大人の時間と妄想イラストは別の次元のモノらしいです。録画できないのは会長さんがサイオンで妨害しているからでしょうけど、隠しカメラがあっただなんて…。でも会長さんが妨害するのはサイオニック・ドリームだとバレるから? …それとも本当は楽しんでるけど、イラストの参考にされたくないから…? う~ん、考え始めたらドツボのような…。
「さあさあ、ぶるぅちゃんの貸し切り時間はおしまいよ。センセ、お仕事に戻らなきゃ。…教室に帰ったら、生徒会長に保健室に来なさいって言っといてね」
まりぃ先生は「生徒会長は私が診断しなくちゃいけないのよ」と持論を唱え、私たちは大人しく頷きました。これも毎度のことなんです。会長さんにだけ検査服を着せて楽しんでいるまりぃ先生、会長さんの健康診断を終えたら特別室でサイオニック・ドリームとも知らずに大人の時間を…。
「それじゃよろしく頼んだわよ」
ガチャリ、と保健室へと通じる扉が開くと。
「まりぃ先生、その子たちの貧血は治ったのかね?」
温厚なヒルマン先生が振り返ります。まりぃ先生はスウェナちゃんと私の具合が悪い、と嘘をついてヒルマン先生を呼んだのでした。
「お陰様ですっかり治りましたわ。…それで、次はブルーの番なんですけれど…あの子も身体が弱いですから…」
「ああ、いつも気分が悪くなるようじゃな」
「すみませ~ん。ヒルマン先生には代理ばっかりお願いしちゃって…」
まりぃ先生とヒルマン先生のお馴染みの会話の横をすり抜け、私たちと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は1年A組に帰りました。男子の健康診断はとっくに終わり、会長さんだけが手持無沙汰に座っています。
「…やっとぼくの番が来たみたいだね。…じゃあ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃ~い!」
笑顔で手を振る「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭を撫でて会長さんは保健室へ。見送りを済ませた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は役目は終わったとばかりに帰ってしまい、会長さんも二度と帰ってはこず…。これもよくあるパターンです。要は1年A組に二人の籍がありさえすればいいんですから。

終礼が終わると私たち七人グループは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ向かいました。今日は柔道部の部活は朝練だけなので最初から全員集合です。
「昨日みたいにソルジャーがいるんじゃないだろうな…」
キース君が眉を寄せ、シロエ君が。
「休暇がどうとかって言っていたじゃないですか。いませんよ、きっと」
「また家出したってこともあるぞ? ブルーもそうだが、あいつの思考回路もサッパリ謎だ」
それを聞いたサム君がムッと口を尖らせて…。
「ブルーが謎ってどういう意味だよ! 変人みたいに聞こえるじゃないか」
「…すまん、言い方が悪かった。凡人には考えもつかないことをやるって意味で…」
慌てて取り繕ったキース君の言葉をサム君は好意的に解釈したらしく。
「そうだよな! ホントにブルーって凄いよなぁ…。俺の気持ちも分かってくれるし、もう最高の人だって!」
ノロケを聞かされながら生徒会室に着き、壁の紋章に触れて「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に入ると…。
「かみお~ん…」
あれ? 「そるじゃぁ・ぶるぅ」、ちょっと元気がないような…? ソファに座っている会長さんも顔色が悪いみたいです。挨拶もしてくれませんし…。
「…あのね、みんなが来るのを待ってたんだよ」
困ってるんだ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が俯き加減で言いました。
「…ブルーがね……元気が全然なくなっちゃって、なんだか様子がおかしくて…。病気だったらどうしよう…」
「「「病気!?」」」
「うん。熱は測ってみたんだけれど、ないみたい。…でも、遊びに行きたくないっていうのは変だよね?」
「遊び…?」
誰かブルーを誘ったのか、とキース君が尋ねましたが誘った人はいませんでした。フィシスさんとのデートでしょうか? デートに行きたくないとなったら、それは相当に重症かも…。
「そうだよね? やっぱりデートが嫌って変だよねえ…」
デートは楽しい筈だもの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は困惑顔です。会長さんは黙ったままで、テーブルに置かれた紅茶とチーズケーキも手つかずで…。
「おい、具合でも悪いのか?」
キース君が会長さんの隣に座って顔を覗き込み、反対側にはサム君が座ります。心配する二人に会長さんの答えは返ってきません。キース君は溜息をついて「そるじゃぁ・ぶるぅ」に尋ねました。
「…ぶるぅ、いつからこうなんだ? 健康診断に出かける前は元気だったが…」
「えっとね、朝は元気だったよ。でもね、ここへ帰って来た時には元気がなくて、デートに行きたくないんだって」
おかしいんだよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。キース君も首を捻って。
「…健康診断を受けたら様子が変になったというわけか。そしてデートに行きたくない…と。問診で引っ掛かったとか? 虚弱体質だと聞いてはいるし、当分の間は安静に…と言われたのかもしれないな」
なるほど、と私たちは頷きました。デートの経験はありませんけど、座ってお茶を飲むだけのものではないでしょう。少しは歩いたりもするのでしょうし、フィシスさんとのデートともなれば会長さんのことですから…色々と尽くしまくりたいかもしれません。ん? ひょっとしてもっと他にも…? 私と同じ考えに至ったらしく、キース君が首を捻りました。
「俺は経験がないから分からんが…。安静に、と言われた場合は夜の運動も控えるものか?」
「そ、そうなのかな…?」
そうかも、とジョミー君が頬を赤らめ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はキョトンとして。
「夜の運動ってなぁに?」
「俺たちにも何かよく分からん。…大人の時間と言えば分かるか?」
キース君の機転に「そるじゃぁ・ぶるぅ」は納得しました。
「うん、分かった! そっか、ブルー、大人の時間はダメだって言われちゃったんだ…。それじゃデートどころじゃないよねぇ…。ブルーの大事な時間だもの」
でも心配、と顔を曇らせる「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ねえねえ、キース、それって治すの大変なの? お食事とかはどうするのかなぁ…」
「栄養のある物を食わせておけばいいんじゃないか? その内に自然に治るだろう。病院へ行けと言われたのなら話は別だが、それなら紙を渡される筈だ。ブルーは紙を持ってたか?」
そうでした。健康診断で引っ掛かった人は要チェックと書かれた紙を渡されます。それを家へ持って帰って、該当する項目を専門に診る病院を受診するわけで…。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は少し考えてから「紙は無かった」と答えました。
「ブルー、なんにも持ってなかったよ。…あ、違う、違う。お手紙を持って帰って来たんだ」
「「「手紙!?」」」
それは要チェックの上をいく代物でした。病院に持参するための紹介状です。明らかに病気らしき人に渡されるもので、会長さんがそれを受け取ったのなら落ち込むのも無理はありません。三百年以上も生きてきた会長さんを診察できる病院といえば1ヶ所だけしかないのですから。
「……ぶるぅ…。それは確かにデートどころではないと思うぞ」
キース君が深い溜息をつきました。
「大人の時間がどうこう以前の問題だ。ドクター・ノルディの出番じゃな……」
「…そうなんだ…」
知らなかったよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は黙り込んでいる会長さんに視線を向けて。
「よく分からないけど、デートっていうのがダメってことだね。…ドクターとデートじゃ最悪なんだ?」
「「「ドクター!?」」」
引っくり返った私たちの声に「そるじゃぁ・ぶるぅ」は頷きました。
「うん。ブルーがデートするのはノルディだよ? そのお手紙を貰ってきてからブルーの様子が変なんだけど…」
「「「…………」」」
私たちの目は点になっていたと思います。会長さんとドクターが…デート。いったい何がどうなってるの~!?

蜂の巣をつついたような騒ぎの中で「そるじゃぁ・ぶるぅ」が紅茶とチーズケーキを配りました。会長さんの冷めた紅茶も淹れ替えられて、サム君が砂糖を入れながら…。
「ブルー? いったいどうしたんだよ。さっきの話、本当か? ドクターとデートがどうとか…って」
ほら、と差し出されたカップに会長さんの手がようやく動いて。
「…ありがとう……サム」
吐息をついた会長さんは温かい紅茶で喉を潤し、サム君の顔を見詰めます。サム君が照れたように笑うと、会長さんは俯いて。
「…サムとなら楽しくデート出来そうなのに、よりにもよってノルディだなんて…。もう時効だと思っていたのに、一年分の利子までつくって言われても…」
「…利子?」
キース君が聞き咎めました。
「一年分の利子がつくだと? おい、ひょっとして…あの話か? 去年、あんたがノルディに無理矢理……そのぅ、とんでもない目に遭わされそうに…」
「「「!!!」」」
私たちの脳裏に蘇る記憶。それは去年の『かるた大会』を控えて健康診断があった日のこと。たまたまシャングリラ学園を訪ねてきたドクター・ノルディと私たちが初遭遇した日に起こった事件で、会長さんは危うくドクターに食べられそうになったのでした。確か会長さんが以前から「キスマークをつけることが出来たら抱かせてやる」とドクターをからかっていたのが原因で…。
「…そう、あの時の約束さ」
会長さんはやっと心が落ち着いたのか、少しずつ話し始めました。
「健康診断を受けに行ったら、突然ノルディが入って来たんだ。どうやら保健室が見える所にいたらしい」
「…ストーカーだね…」
ジョミー君の素直な意見を否定する人はいませんでした。会長さんは更に続けて。
「ノルディはヒルマンやまりぃ先生に挨拶をして、ぼくに手紙を手渡した。健康診断が終わったら読んで下さいね…とだけ言って、それっきり。もう学校の中にはいない」
自分の病院に帰ってしまったらしいです。シャングリラ学園に現れた目的は会長さんに手紙を渡すこと。それで問題の手紙というのは…?
「ほら、まりぃ先生にサービスしなくちゃいけないだろう? 特別室でまりぃ先生に夢を見せながら休憩してて…ベッドに寝転がって手紙を開けたら、とんでもないことが書いてあった。…読んでいいよ」
口に出すのもムカつくから、と会長さんが手紙を取り出します。いかにも高級そうな洒落た封筒に入っていたのは、ドクターの名前が端の方に浮き彫りになった特注品の便箋でした。最初に目を通したキース君の顔が引き攣り、次に手にしたサム君が激怒し…といった具合で回覧された文面は…。
『あれから一年経ちましたね。まさか約束をお忘れになってはいないでしょう? 一年も待ったのですから利子がつくのは当然かと…。今週の土曜日、利子として私とデートして下さい。お友達も御一緒でかまいませんよ。ただし夜は二人きりで…。お昼前にアルテメシア公園の入口でお待ちしております』
他にも理解不能な言葉が並べてあったのですが、要約すればこんな所です。会長さんにデートをしろと強要した上、夜は二人きりで…というのは一年前の約束どおり大人の時間に付き合えという意味。おまけに手紙の最後には脅し文句が書き添えられていたのでした。先送りにすればするほど利子が膨らんでいきますよ…と。
「…でも、ブルー…。それってデートのお誘いでしょ?」
無邪気な瞳で首を傾げたのは、幼い「そるじゃぁ・ぶるぅ」でした。
「ブルー、デートは大好きなのに、ノルディとデートじゃ気に入らないの? デートって二人で遊ぶことでしょ?」
「「「………」」」
素朴な疑問に私たちは顔を見合わせ、会長さんは複雑そう。と、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はポンと手を打って。
「分かったぁ! ノルディ、おじさんだから遊びたい場所がブルーと全然違うんだ? 大人の人はパルテノンとかで遊ぶんだって聞いたもの! 何して遊ぶのか知らないけれど」
そうだよね、と勢い込む「そるじゃぁ・ぶるぅ」の小さな銀色の頭を会長さんがクシャリと撫でて呟きました。
「まあ……そんな感じで合ってるかな。ノルディがしたいと思うデートとぼくの好みは全く違う。ぶるぅ、デートは相手によって楽しくもなるし、嫌なものにもなるんだよ。…ノルディとデートはしたくないな…。でも断ったら来年はもっと凄いことに…」
どうしよう、と苦悩している会長さん。教頭先生の力は借りられません。ドクターはしっかり釘を刺したのでした。『ハーレイを連れて来たら利子は十倍に膨らみますよ』と。

会長さんをデートに誘ったエロドクターの究極の目的は大人の時間。デートには友達を連れて来てもいい、と寛大な所を見せていますが、夜になったら早々に追い払ってホテルか自宅へ会長さんを引っ張り込んで…。会長さんが逃げ出したなら、利子が膨らんでまた来年。
「おい。…借金は早めに返した方がいいと思うぞ」
言いにくいことをズバッと言ったのはキース君でした。
「このまま逃げてもロクな結果にならんだろう。さっさとデートして約束を果たせ」
「ちょっ……キース!!」
ガタン! とサム君が立ち上がります。
「お前、なんてことを言うんだよ! デートじゃなくて約束の方が問題なんだぜ!? 約束を果たすって意味、分かってんのか?」
「…分かってるさ。だが、それを果たさないと何年経っても追いかけられて、下手な真似をしたら力ずくでも…」
私たちの背筋に冷たいものが走りました。エロドクターなら会長さんに薬を盛って自由を奪いかねません。職業が職業だけに危ない薬はお手のもの。動けなくなったらもうおしまいで、会長さんもそれを考えて酷く落ち込んでいるのでしょう。でも…。
「…ブルー、逃げている場合じゃないぞ」
キース君はとても冷静でした。
「俺はあんたのためを思って言っている。この問題は逃げているだけでは解決しない。今回の件を片付けたって、ドクターはしつこく出てくるだろうが……明確な借りはこれだけなんだ。まず、この借金を綺麗にする。そうすれば強気に出ることもできる」
けれど会長さんは溜息をついて。
「…それが出来れば苦労はないよ…。言っただろう? ノルディにサイオニック・ドリームは通用しない。つまり…ぼくが本当に約束を果たさない限り、借りは返せないということなんだ」
「あんたらしくもなく弱気だな」
似合わないぜ、とキース君。
「サイオニック・ドリームが効かないという話は聞いてる。だが、本当に効かないのか? あんただけでは無理かもしれない。ぶるぅもタイプ・ブルーではあるが、子供だから力は借りられない。…そうだな?」
「ああ。…怪しい夢を見せるんだからね、ぶるぅを巻き込みたくはないんだよ」
だから無理、と会長さんは話が見えなくてキョトンとしている「そるじゃぁ・ぶるぅ」を眺めます。キース君はフッと笑って私たちを指差しました。
「じゃあ、俺たちは何のためにいるんだ? 俺たちだってサイオンがある。思念波で話すのが精一杯だが、ぶるぅにサポートして貰えたら相当な力が出せるんじゃないか? きっとあんたの役に立てるさ」
「「「えぇぇっ!?」」」
驚いたのは私たちでした。やったこともないサイオニック・ドリームを…会長さんの力も効かないというドクター相手にぶつけろと!? 会長さんも赤い瞳を見開いて。
「そ、そりゃあ…。もしかしたら可能なのかもしれないけれど…。ノルディにサイオニック・ドリームが効かない理由は全く謎だし、ぼくとは違うパターンの思念波を持つ君たちの力だったら効くのかも…」
「だろう?」
自信たっぷりにニヤリとしてみせるキース君。
「俺たちのサイオンを集結させれば、ドクターに素晴らしい夢を見せてやれるかもしれないんだぜ? ただし、その方法は両刃の剣だ。首尾よく夢を見せられた場合、ドクターはあんたを手に入れたという自信を持つ。…そうなれば今まで以上に付きまとわれる」
「……そうだろうね……」
会長さんが溜息混じりに呟きましたが、キース君は悠然と紅茶を飲み干して。
「だから俺たちの出番なんだ。サイオニック・ドリームは使わない。仮説として言ってみただけのことだ。実際にやるのは妨害工作。…ドクターは俺たちがデートについてきてもいいと言っている。お言葉に甘えてお供するさ。要は夜までにエロドクターが疲れ果てればいいわけだ」
「…疲れ果てる…?」
怪訝そうな顔の会長さん。私たちだって同じでした。夜までにドクターが疲れ果てたらどうなると…? キース君は私たちをグルッと見渡して。
「エロドクターの目的は夜のお楽しみにあるんだろう? その時、ドクターが爆睡しても…それはドクターの自己責任だな? ブルー、あんたに罪はない。ドクターが爆睡している横で寝ていろ。朝になったら借金はチャラだ。…そうだろう、みんな?」
「「「………」」」
私たちはポカンとしていました。なんとも危険で、かつ大胆な解決策です。そんなに上手くいくんでしょうか? でも借金は早い間に返すのが吉。これは検討する価値あるかも~?




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