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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

巣立ちの季節  第1話

シャングリラ学園の特別生としての1年目を締め括るのは三学期の期末試験でした。これが終われば特別生に登校義務はありません。いえ、そもそも試験を受ける必要もないんだという話ですけど…本当でしょうか? そういえば今回の試験期間もお隣のB組の欠席大王、ジルベールを一度も見かけていません。特別生の制度にはまだまだ謎が多そうです。
「試験終了! 全員、そこまで」
グレイブ先生がツイと眼鏡を押し上げ、解答用紙を回収しました。五日間の試験もこれでおしまい。1年A組は一番後ろの机に座った会長さんのサイオンのお蔭で全員満点を取った筈です。会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」の不思議な力の御利益なんだと嘘をついているわけですけども。
「諸君、今回もよく頑張ってくれた。授業はこれからも続くわけだが、それは次の学年へのステップだ。点数がつかないと思って気を抜かないよう気を付けたまえ。くれぐれも羽目を外さんようにな」
「「「はーい!!!」」
終礼が済むとクラスメイトはカラオケや打ち上げに出かけていきます。私たちは会長さんと一緒にまずは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ。
「かみお~ん♪ 試験、お疲れさま! 今日はこんなの作ってみたよ」
テーブルの上に乗っていたのは小さなシュークリームを幾つも積み上げた円錐形のタワー。クロカンブッシュというヤツです。
「特別生1年目最後の試験が終わったお祝い。シュークリームの中身は色々あるから沢山食べてね」
カスタードにマロン、チョコレート…とクリームの種類を挙げる「そるじゃぁ・ぶるぅ」。飲み物も出てきて私たちは早速タワーを壊しにかかりました。カラメルでくっつけられたシューを外して齧って、期待した中身かどうかを確かめて…。
「あーっ! 今度はカボチャだった…」
マンゴー味が食べたいのに、とジョミー君が嘆き、マツカ君が。
「齧っちゃいましたけど、取り換えますか? ぼくのがマンゴー味なんです」
「いいの? じゃ、取り換えようよ」
嬉々としてマンゴー味のシューにかぶりつくジョミー君。会長さんが苦笑しながらタワーの方を指差して。
「相変わらずだね、君たちは。サイオンを上手く使えば中身はすぐに分かるのに…。いいかい、一番上の右がイチゴで隣がキャラメル。その下が今日の目玉の八丁味噌味…」
すらすらと告げる会長さんですが、私たちにはサッパリ分かりませんでした。どう見ても全部同じものです。
「おい。俺たちのサイオンに進歩が無い…と言われてもな。特に訓練もされてないのに、どうしろと!」
キース君が食ってかかると会長さんはおかしそうに。
「ぼくもぶるぅも訓練なんかは受けていないよ? いわば自己流。その点、君とジョミーは恵まれてるよね。坊主頭に見せかけるために特訓中。…それ以外は自力で頑張りたまえ。さあ、今日も練習してみようか」
「ま、待て!」
今日はちょっと、とキース君が叫ぶよりも早くキラッと光る青いサイオン。キース君とジョミー君の髪の毛が消え失せ、二人はその状態をキープしなくてはならないのですが…。
「えっと、どれだっけ、八丁味噌味?」
雑念だらけのジョミー君の髪がたちまち頭に戻って来ました。やる気の無さが現れています。キース君は五分間ほど頑張ったものの、「駄目だ」と元の長髪に戻ってしまって…。
「五分の壁が越えられないな…。家でも練習しているんだが、未だに坊主頭に見せることすら不可能だ」
溜息をつくキース君に会長さんは「いいじゃないか」と微笑みました。
「本当に剃ってしまえば根本的に解決するよ。坊主頭に馴染めるようにお年玉だってあげただろう?」
「この有難くないコンパクトか…」
鞄から銀色のコンパクトを出すキース君。四葉のクローバーが彫られた上品なそれが映し出すものは坊主頭のキース君だと聞いています。キース君はコンパクトをパチンと開けて覗き込んでから…。
「見慣れれば慣れるってものではないぞ。こいつのお蔭でよく分かったんだ。やっぱり俺には坊主頭は似合わない…ってな」
「それは思い込みってヤツだよ、キース。でもまあ…嫌だって言うなら訓練の方を頑張るんだね。第一関門は今年の秋か…」
「……言わないでくれ……」
秋にキース君を待ち受けているのは髪の毛を短く刈るのが必須条件の修行道場。自慢のヘアスタイルを守りたいなら努力するしかありません。今の調子だとショートカットは免れそうもありませんけど…。

キース君をからかいながらクロカンブッシュを食べ終えてしまうと、試験最終日の恒例行事、打ち上げパーティーに出発です。今日は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が個室を予約してくれた焼肉店。上等のお肉と備長炭が売りの高級店で、お金はもちろん…。
「ハーレイの所に行かなくっちゃね。大事なスポンサーだから」
会長さんは先頭に立って教頭室に向かいました。重厚な扉をノックし、「失礼します」と足を踏み入れる会長さん。
教頭先生は心得たように熨斗袋を取り出し、会長さんを手招きして。
「ブルー、いつもより多めに入れておいたぞ。今年度最後の試験だったからな、打ち上げも派手にやりたいだろうし…。足りなかったら私の名前でツケにしておけ」
「今日はハーレイも一緒に行こうよ。よかったら、だけど…。たまにはスポンサーにも感謝しながら食べないとね」
そうだろう? と私たちを見る会長さん。確かに教頭先生にはお世話になってばかりです。会長さんが毟り取るのは貢がせているということでオッケーでしょうが、私たちはただのオマケ。なのにオマケの方が人数が多いんですから、教頭先生は内心複雑かも…。会長さんが教頭先生を誘いたいならオマケの身では反対できません。私たちが頷くのを確認してから会長さんはニッコリ笑って。
「ねえ、ハーレイ。この子たちもいいって言ったし、来ないかい? 仕事の方は…大したことはないだろう?」
明日でも良さそうな書類ばかりだ、と勝手に手に取ってチェックしている会長さん。ついでにパソコンまで操作しています。正体はソルジャーですからいいのでしょうが、教頭先生は苦笑するばかり。
「…ブルー、お前には敵わんな。こらこら、いくらパスワードを知ってるかしらんが、それは私の仕事だぞ」
「いいじゃないか。…うん、ザッと見たけど、急ぎの用事は無いみたいだね。はい、終了」
メールチェックまでした会長さんはパソコンの電源を切ってしまいました。教頭先生は溜息をついて書類を片付け、棚などに鍵をかけてゆきます。
「…分かった、一緒に行くことにしよう。事務局に鍵を返しておくから、門の所で待っていてくれ」
「うん。ハーレイの車は家に送っておいてあげるよ」
「おいおい、私は酒は飲まんぞ」
「飲みたくなるかもしれないじゃないか。じゃあ、正門で待ってるからね」
会長さんは軽く手を振って踵を返し、私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ荷物を取りに戻りました。それから教職員用の駐車場に行き、教頭先生の車を会長さんがアッという間に瞬間移動。日は暮れてきていますけれども、車が駐車スペースから煙のように消え失せるのはインパクトのある光景です。こんな風にサイオンを堂々と使えてしまうシャングリラ学園って凄いですよね…。
「そのために作った学校なんだ」
正門へ向かって歩く途中で会長さんが言いました。
「少々不思議なことがあっても、そういう噂を見聞きされても、あの学校なら…と誰もが納得してしまうように仲間を集めて創立した。今のところは上手くいってる。何百年も生きる教師や生徒や卒業生…。そんな仲間たちがシャングリラ学園の出身者として社会に溶け込んで暮らしているよ。長命だという特徴目当ての求人もある」
「…そうなんですか?」
シロエ君が目を丸くします。求人って…そんなのありましたっけ? 去年、私たちが卒業する時、進路は何も決まらないままで卒業式を迎えたような…。キース君は大学に行きましたけど、それはお坊さんになるという明確な目標があったから。他は全員アテもなかった筈なんです。求人なんて…聞いてませんよ? 疑問だらけの私たちの顔に会長さんはクスクスと笑い出しました。
「求人は毎年来てるんだ。だけど適性の問題もあるし、最終的には長老たちの会議にかけて決定してる。生徒に通知するかどうかをね。…基本的に学校生活に退屈してきた特別生が対象だから、君たちはまだまだ関係ないさ。特別生にならない進路を選択しそうな生徒がいれば、その子も対象になるんだけども」
「…特別生にならない選択って…もしかして心を読んでたわけ?」
ジョミー君が尋ね、会長さんはコクリと静かに頷いて…。
「うん。読むのはぼくの役目なんだよ。でも、必要な部分しか読んでいないから安心して。…君たちのサイオンを導くついでにやってたことさ。……勝手に読んでたなんて許せないかな?」
私たちは揃って首を横に振りました。いつも悪戯ばかりの会長さんですが、本当に大切なことは…きっときちんとしてるのです。なんといってもソルジャーですから。…会長さんよりも悪戯好きな別の世界のソルジャーだって普段は死と隣り合わせの生活で仲間を守っているわけですし、人は見かけだけでは判断できないものですよねえ…。
「かみお~ん♪」
ハーレイがいるよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が正門に向かって駆けていきます。コートを羽織った教頭先生が門の所で待っていました。タクシーに分乗して目指すは打ち上げパーティー会場。シャングリラ学園の謎はまだまだ沢山あるのでしょうけど、今はとりあえず焼肉ですよ~。

今回のお店は初めてでした。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は何度も来ているらしいのですが、焼肉専門店には見えないようなお店の構えが素敵です。畳敷きの個室も広くて落ち着いていて、掘り炬燵式のテーブルに焼肉用の炭火が無ければ焼肉店とは気付かないかも。教頭先生を囲んで打ち上げパーティーは和やかに始まりました。
「そういえば去年も焼肉だったね」
会長さんが本来はお刺身用らしい新鮮な海老を焼きながら教頭先生に微笑みかけて。
「隣の部屋にノルディがいてさ…。お酒を持って押しかけてきて怖かったっけ。ハーレイが助けてくれなかったら危なかったな」
ありがとう、と言われた教頭先生は「いや…」と照れ笑いしています。
「飲み比べでカタがつけられたからな。…それにノルディに取られるくらいだったら私がお前を攫って帰っていたと思うぞ」
「…へえ…。ヘタレのくせに攫って帰ってどうするのさ」
教えてほしいな、と教頭先生の顔を覗き込む会長さん。
「まさか飾っておくだけとか? 三百年以上も惚れてるからには色々と望みもあるだろうけど、ハーレイの場合、身体がついていかないしねえ…。寝室に飾ってそれでおしまい?」
「…そうだな…。お前の姿を見ていられれば…それで十分なのかもしれん」
頬を染めている教頭先生。心の底に会長さんの裸エプロンという願望があったことを私たちはソルジャーの悪戯のせいで知っていますが、教頭先生自身の記憶は会長さんが消してしまって残っていません。けれど願望自体は消えていない筈。教頭先生に甲斐性があれば会長さんを眺めるにしても好みの格好をさせておくとか、楽しみようもあるのでしょうけど…鼻血ばかりのヘタレでは…。
「見ているだけで十分なんだ? それじゃサービスしないとね」
会長さんがスッと立ち上がり、サイオンの青い光に包まれたかと思うと制服がチャイナドレスに変わっていました。エロドクターが誂えてきたワインレッドのドレスです。ゴクリと唾を飲む教頭先生に会長さんはクスッと笑って。
「ふふ、このドレス…素敵だろう? スリットが深く入ってるから下着も変えなきゃいけないんだ。いつもの黒白縞だと見えちゃうんだよ」
ほらね、とスリットから白い腿を覗かせてみせる会長さん。黒白縞というのは教頭先生の紅白縞とお揃いだと言って騙し続けている青月印のトランクスです。そんなモノ、一度も履いてないくせに…。教頭先生の視線が釘づけになっているのを確認してから、会長さんは教頭先生の隣にストンと腰を下ろしました。
「今日はホステスをさせてもらうよ。…ハーレイ、お酒は?」
「い、いや……。生徒を引率してきた教師が飲むというのはまずいだろう」
「引率? 堅苦しいことを言わなくっても…。去年だってそう言ってたけど、ノルディが来ちゃって飲み比べだろ? 少しくらいはいいと思うな。ね、ぶるぅ?」
何故にそこで「そるじゃぁ・ぶるぅ」…と思いましたが、訊かれた方は元気よく。
「うん! ぼくもチューハイ飲みたいな♪ ブルーと来た時はいつも飲むんだ」
注文しようよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は大はしゃぎ。教頭先生は渋い顔をしていましたが、チャイナドレスの会長さんに何度も甘く囁かれる内に…。
「たまにはいいか。…お前の酌で飲める機会はこれを逃すと無さそうだしな」
「そうだよ、特別サービスなんだ。頼まなくっちゃ損だって!」
会長さんは自分と「そるじゃぁ・ぶるぅ」用にチューハイ、教頭先生にはお銚子を頼んで…早速お酌を始めました。おまけに教頭先生のためにお肉や野菜を焼いてあげては、せっせとお皿に入れています。サム君はガックリ肩を落として。
「…せっかく試験の打ち上げなのに……教頭先生にブルーを取られた…」
「まあ待て。落ち込むのにはまだ早いぞ」
ヒソヒソ声で囁いたのはキース君。
「どうもサービス過剰すぎる。あるいは裏がある…かもしれない」
「裏? そんなの無いだろ、いいムードなのに」
サム君は悲観的でした。チャイナドレスに着替えるまでは会長さんはサム君の隣にいたんですから、無理もないかもしれません。私たちはサム君を慰めながら焼肉の方に集中しました。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」、教頭先生はお酒も入って賑やかですけど、負けないように盛り上げなくちゃ~!

美味しいお肉や魚介類などを次々頼んで、サム君の嘆きもすっかり何処かへ消し飛んだ頃。完全防音の個室の中に雄叫びが響き渡りました。
「かみお~ん♪」
チューハイで出来上がってしまったらしく、可愛い顔を真っ赤に染めた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が拳を突き上げて畳の上で飛び跳ねています。
「ハーレイ、遊ぼ! ねえねえ、ぼくとジャンケンしようよ! 鬼ごっこして遊ぼう、ハーレイ!」
「「「…鬼ごっこ…?」」」
私たちの声と教頭先生の声が重なりました。ジャンケンだとか鬼ごっこだとか、会長さんのホステスの次はお子様向けのサービスタイム? 「そるじゃぁ・ぶるぅ」はやる気満々みたいです。
「駄目だよ、ぶるぅ。テーブルに炭火があるだろう? 鬼ごっこなんかしちゃいけない」
危ないからね、と会長さんが止めに入ると「そるじゃぁ・ぶるぅ」は膨れっ面で。
「つまんなーい! ぼく、鬼ごっこ好きなのに…。サイオン使って逃げて遊ぶの、久しぶりにしたかったのに!」
「……あれか……」
どうやら覚えがあったとみえて教頭先生がフウと溜息を吐き出しました。
「ぶるぅ、あれは広い場所でやるから面白いんだ。この部屋ではあまり楽しくないぞ? 今日はやめておきなさい。その代わり、シャングリラに乗ったら公園でやろう」
「えっ、公園? 広いよ、ハーレイ、大丈夫?」
ぼくは平気だけど、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。教頭先生は「甘く見るなよ」と笑って見せて。
「普段から鍛えているからな。ぶるぅ、捕まった時は逆さ吊りがいいか?」
「うん、それと足を掴んで振り回すヤツ! ポーンと遠くへ投げちゃってね!」
捕まるとハードな目に遭うみたいですけど「そるじゃぁ・ぶるぅ」はそういう遊びが好きなんでしょうか? 私たちのジト目に教頭先生が肩をすくめて。
「おいおい、誤解しないでくれ。…ぶるぅはタイプ・ブルーだぞ? 投げられたって平気なんだ。絶叫マシンの感覚らしい」
「そうなんだよね」
会長さんが頷きました。
「なにしろ小さな子供だから…絶叫マシンに乗れないだろう? その分、激しい遊びが好きでさ。でも、ぶるぅを投げたり振り回したり…なんて大技、ハーレイくらいしか出来ないんだ。おまけに人目がない場所でないと…。シャングリラ号なら大丈夫だけど。よかったね、ぶるぅ」
小さな銀色の頭を撫でてから会長さんは「でも…」と首を傾げて。
「ジャンケンだけなら此処でも出来るか…。そうだ、ハーレイ、ぼくとジャンケンしないかい?」
「…えっ?」
怪訝そうな教頭先生に会長さんは艶やかに微笑みかけました。
「もう十分に食べたしね…。追加でサービスしようかなぁ、って。こんなジャンケンはどうだろう? 負けた方が服を1枚脱ぐんだ。ネクタイやベルトも1枚とカウントするのがいいね」
「「「えぇぇっ!?」」」
それはとんでもない提案でした。もしかしなくても野球拳とかいうヤツですか? で、でも…教頭先生はスーツにネクタイ、ベルトなんかもガッチリなのに…会長さんはチャイナドレス。1回負けたら下着1枚になってしまうのでは…。それともサイオンで相手が何を出すかを読み取るとか…?
「ああ、サイオンは禁止だよ。…ぼくも使わないと約束する。だけどぼくはドレスが1枚きりだし、一度で勝負がつくというのも楽しくないし…。ぼくの代理でぶるぅが脱ぐっていうのはどうかな? ぶるぅが全部脱がされちゃったら、その後、一度だけジャンケンをして……それで負けたらぼくが脱ぐんだ。ぼくが勝ったら勝負はおしまい。…もちろんハーレイが全部脱いでも終わりだけどね」
どうする? と赤い瞳で見詰められた教頭先生は…。
「よし! その勝負、受けて立とう」
テーブルにあった水割りをグイと呷って教頭先生は立ち上がりました。会長さんも続いて立って、二人は広い個室の空きスペースで向かい合います。会長さんの横には「そるじゃぁ・ぶるぅ」が立っていますが、教頭先生と会長さんが…野球拳とは! いつものヘタレな教頭先生からは考えられない勝負ですけど、やはりお酒の勢いでしょうか…?

サイオン抜きのジャンケン合戦。私たちが見守る中で教頭先生がパーを繰り出し、会長さんはグーでした。
「私の勝ちだな。…どうする、ブルー? やめておくなら今の内だぞ」
「やるさ! ぶるぅ、マントを脱いじゃって」
「かみお~ん!」
紫の小さなマントが放り出されて畳の上に落っこちます。次に出たのはチョキとパー。
「…ぶるぅ、負けちゃったから上着を頼むよ」
「オッケ~♪」
「いいのか、ブルー? お前の方が不利なようだが…」
「負けないってば!」
会長さんは強気でしたが、ジャンケン勝負は圧倒的に教頭先生が優位でした。アッという間に「そるじゃぁ・ぶるぅ」はアヒルちゃん模様のパンツ1枚になってしまって、教頭先生は余裕の笑み。シャツもズボンも身に着けています。そして教頭先生がグーを、会長さんがパーを繰り出し…。
「ふむ、ネクタイを取られたか…」
スーツの上着に続いてネクタイを外す教頭先生。次の勝負ではベルトが外されました。そこからは教頭先生の連敗続きで、ズボン下とトランクスだけになった教頭先生がパンツ1枚の「そるじゃぁ・ぶるぅ」をしげしげと見て。
「ぶるぅが全部脱いでしまったら、その後はジャンケンは一度だったか?」
「そう言ったけど…。何か不都合でも?」
不思議そうな顔をする会長さんに、教頭先生は少し躊躇ってから思い切ったように。
「一度というのはおかしいぞ。もしもお前が負けたとしたらドレスを脱いでもらうわけだが…そこで勝負は終わりになる。おかしい。これは絶対おかしい。お前の方が勝ち続けたら、私が全部脱がされるまで勝負は終わらないと言わなかったか?」
「…気付かれちゃったか…。つまりはぼくにも全部脱げって言いたいんだね?」
「う…。まあ、手短に言えばそういうことだ」
咳払いをする教頭先生。会長さんはクスクスと笑い出しました。
「ハーレイが鼻血で失血死したら困ると思って下着は残しておいたのにさ。…いいよ、全部脱ぐのが見たいんだったらジャンケンの回数を増やしておこう。ぶるぅがパンツまで脱がされちゃったら、ジャンケンはそこから改めて二回。ハーレイが二連勝すれば潔く裸になってあげるよ」
「よし、決まった。では勝負だ!」
チョキとパーが出され、会長さんはパーでした。アヒルちゃんパンツが畳に落ちて、残るジャンケンは二回です。会長さんが脱がされるのか、教頭先生のフルヌードか……二人とも仲よく下着1枚? と、私たちの頭の中に響いた声は…。
『ぼくはサイオンを使わない。…でも、ぶるぅが使わないとは言ってない』
「「「えっ?」」」
私たちが思わず顔を見合わせたのと、会長さんがグーを出したのは同時でした。教頭先生の右手はチョキ。
「……むむぅ……」
教頭先生はズボン下を脱ぎ、トランクスだけになりました。会長さんが紅白縞をチラリと眺めて。
「どうする、ハーレイ? 今ならルールを元に戻せる。そしたら勝負はここで終わりだ。…だけど変更したルールでいけば、ぼくの下着を拝めちゃうかもしれないよ? このドレスには黒白縞は合わなくって……紐を解いたらそれで終わりの下着を履いてるんだよね。ただしハーレイが負けた時には…」
「かまわん、ルールは今のままだ!」
行くぞ、と構える教頭先生。紅白縞のトランクスまで失う危機に瀕していても会長さんのセクシー下着を取りますか! 会長さんはサイオンを使わないと宣言してましたけど、さっき怪しい思念波が…って、うわわわ…。
「……ハーレイ。脱いで貰おうか」
チョキをそのままVサインに変えた会長さんが教頭先生を睨んでいます。会長さんの後ろでは真っ裸の「そるじゃぁ・ぶるぅ」が十八番の『かみほー♪』を歌い踊っていました。私たちに再び届いた思念は…。
『ハーレイが何を出してくるかは、ぶるぅが読んでた。ついでにぼくの手を操って、勝ったり負けたりさせていたのさ。…ぶるぅが全部脱いじゃったのは八百長なんだ。なのにルールまで変えちゃうなんて、ハーレイったら何処までおめでたいんだか…』
げげっ。じゃあ、ジャンケン勝負を言い出した時から負けるつもりは無かったと…? 会長さんは勝ち誇った笑みを浮かべて空中にゴザを取り出しました。
「ハーレイ、脱がないんなら脱がせるからね? もうサイオンは使えるんだし、やらせてもらうよ」
「ま、待ってくれ、ブルー!」
紅白縞のトランクスを両手で押さえて絶叫している教頭先生。けれど…。
「やだね」
教頭先生の身体にゴザが巻き付き、代わりに宙に舞い上がったのは紅白縞のトランクス。会長さんはチャイナドレスから制服に戻り、教頭先生が脱ぎ捨てた服を全部纏めて「そるじゃぁ・ぶるぅ」に手渡すと…。
「ぶるぅ、これをトイレに置いておいで。あ、ちゃんと服を着てから行くんだよ」
「かみお~ん♪」
チューハイで御機嫌の「そるじゃぁ・ぶるぅ」はサイオンでパパッと服を着るなり走って行ってしまいました。教頭先生はゴザの上から紐をかけられ、いわゆる簀巻きというヤツです。えっと、これからどうなっちゃうの? トイレって確かこの部屋からは、かなり離れていたような…?



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