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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

親睦ダンスパーティー・第1話

私は結局、クラブに入りませんでした。ジョミー君、サム君、スウェナちゃんも無所属です。部活の時間は4人揃って「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋でお茶をしていることが多いのですから『そるじゃぁ・ぶるぅファンクラブ』ということになるかもしれません。柔道部に入ったキース君たちも「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に毎日のように出入りしていました。なんだか落ち着くんです、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋。そんなこんなで日は過ぎて…。

学校生活にも馴れてきたある朝、グレイブ先生が仏頂面で教室に入ってきました。
「諸君、おはよう。授業にも身が入ってきたようだが、ここで残念なお知らせがある。来週、恒例の親睦ダンスパーティーが開催されることになった」
「質問!どこが残念なんですか?」
何人もが叫ぶ中、先生はチッと舌打ちをして。
「残念だ。…私の気持ちを理解してくれないとは、実に残念だよ、A組の諸君。親睦ダンスパーティーが開催されるということは、お祭り騒ぎで貴重な授業が1日分、潰れてしまうということなのだが…。諸君は授業より祭りの方が好きなようだな」
「もちろんで~す!!」
あちこちから歓声が上がります。親睦ダンスパーティー!とても楽しそうな響きですよね。
「もういい。どうせ毎年、こうなのだ。期待などせん」
先生はフッと鼻で笑うと背中の後ろで両手を組んで。
「では、親睦ダンスパーティーについて説明しよう。当日は全員、浴衣持参で来るように。ダンスナンバーは炭坑節、ソーラン節、よさこい節。それに阿波踊りで有名な『阿波よしこの』がメインになる」
「「「えぇぇぇぇっっ!??」」」
教室中がどよめきました。どこがダンスパーティーなんでしょう。盆踊り大会の間違いでは…。
「ワルツなどを期待していたのか?男女でパートナーを組んでのダンスパーティーなど風紀が乱れる元だからな。この学園でダンスパーティーといえば健全な大衆踊りなのだ」
クラス中がガックリとうなだれました。いっそ屋台でも出れば文化祭みたいで楽しいでしょうが、そんなわけでもなさそうです。
「不満がある者は参加する必要は無い。欠席して家で存分に自習することだ。…その代わりワルツを踊れるチャンスもゼロだが」
「「「ワルツ!?」」」
うなだれていた皆がガバッと顔を上げると。
「そう、ワルツだ。ダンスパーティーと銘打った以上、まるでダンスが無かったのでは父兄から苦情が来るからな。パーティーの締めくくりに教職員の有志でワルツを披露することになっている」
「なんだ、先生たちが踊るのか…」
またまたガックリとなったクラス一同ですが、先生の言葉はまだ終わりではありませんでした。
「人の話は最後まで聞け。このワルツの時に全生徒から選ばれた十組がフロアの中央で踊るのだ。諸君にもワルツを踊るチャンスはある」
「え…。でも…。たった十組…」
「やかましい!ゼロよりマシだろうが。正確には選ばれるのは九組だがな。男子と女子、各1名は既に決まっている。男子は生徒会長のブルー、女子は副会長のフィシスが踊る」
ワッ、と教室が湧き立ちました。生徒会長さんは女子に絶大な人気を誇っていますし、フィシスさんも男子の憧れの先輩なんです。
「ワルツではパートナーチェンジをする決まりだ。残る九組の中に選ばれたなら、彼らと踊るチャンスもあるだろう。そして肝心の選出方法だが、男子は女子による人気投票、女子は抽選で決定される」
「「「えーーーっっっ!??」」」
ブーイングしたのは男子でした。
「女子だけ抽選ってなんでですか!?男子も抽選にすればいいじゃないですか!」
「…男子諸君、そんなにがっついて女子と踊ろうという根性は感心せんな。それだから女子に敬遠されるのだ。女子による人気投票で選出する理由はたったひとつ。…抽選で当たった女子が安心して踊れるように、好感度の高い男子を揃えるのだよ」
「差別です!俺たちは別にがっついたりは…」
「では聞こう。…夜道で女性の一人歩きが危険とされる理由は何だ?また、逆に。男性の夜道での一人歩きが危険視されることはあるかね?」
グレイブ先生の目が眼鏡の奥でキラッと鋭く光りました。
「まだ納得のいかない奴は、まりぃ先生に男子と女子の違いについて教えを請うといいだろう。保健室で暇を持て余しておられるからな。…男子生徒の人気投票だが、今から女子に投票用紙を配布する。ダンスパーティー前日の午前中までに記入し、校長室前の投票箱に入れておくように」
投票用紙が配られてきました。えっと…3名まで書けるんですね。学年は問われないみたいです。先輩に入れてもいいってことかな?
「言い忘れたが、ワルツには私も参加する。パートナーはパイパー教諭だ。ワルツを踊りたいと思うのならば、我々のステップに飲まれないよう、せいぜい練習しておくのだな」
ひゃあああ!…グレイブ先生も踊るんですか?かなり自信がありそうですけど、私、ワルツなんか踊れませんよう…。

ダンスパーティーでワルツを踊ってみたい男子3人に投票するのは実に悩ましい問題でした。私たちのグループに男子は5人。全員の名前は書けません。スウェナちゃんも同じことを思っていたらしく、授業の合間に相談した結果、スウェナちゃんが昔からの友達のジョミー君とサム君の名前を書き、残りの欄に出場が決定している生徒会長さんを記入することに。私はキース君とシロエ君、マツカ君の名前を書いて放課後に二人で投票箱に入れ、いつものように「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に行きました。
「かみお~ん♪投票してきたの?…ブルーは今、ちょっとおでかけしてるんだけど。みゆとスウェナもワルツ、踊りたい?」
「もちろんよ!せっかくだもの、踊ってみたいわ」
「…踊りたいけど…ステップも何も分からないし…」
即答したのはスウェナちゃん。私は口の中でモゴモゴと…。
「じゃ、ここでブルーと練習する?ブルーはワルツ、得意なんだよ。リードだって上手いんだから」
えぇっ、会長さんと…ワルツの個人レッスン!?それはものすごく嬉しいかも。ダンスパーティーの抽選に外れたとしても、全く悔いはありません。
「じゃ、決まりだね」
ニコニコニコ。「そるじゃぁ・ぶるぅ」がテーブルの上にレモンパイを置き、楽しそうに切り分け始めました。
「ブルーが帰ったらお茶にしようよ。ジョミーとサムももうすぐ来るし、キースたちはブルーが呼びに行ったし…。今日の話題はダンスパーティー!」
美味しそうなレモンパイを目にしていながら、私の頭は会長さんのことで一杯でした。入学前から憧れていた会長さんとワルツの練習ができるだなんて本当でしょうか?
「本当だよ。ぼくからも頼んであげるから♪」
この時ほど「そるじゃぁ・ぶるぅ」を頼もしいと思ったことはありません。『そるじゃぁ・ぶるぅファンクラブ』…最高かも…。そして会長さんや皆が揃ってレモンパイでお茶にした後、私は会長さんからワルツを習うことになったのでした。明日からはフィシスさんやリオさんも加わって皆で練習することになるそうです。
「はい、そこでクルッと回って。力を抜いて、軽やかにね」
会長さんのリードでステップを踏みながら私は夢見心地になっていました。ダンスパーティー前日まで毎日ここで会長さんと踊れるなんて…。うっかり足を踏んでしまってもニッコリと微笑んでくれる会長さん。上達するよう頑張ります~!




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