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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

繋がる小細工  第1話

校内見学日とクラブ見学日が済み、無事に授業がスタートしました。今年も私たち七人グループとアルトちゃん、rちゃんを担任することになったグレイブ先生も今のところは御機嫌です。悪戯者の会長さんが出てこない限り、平穏な日々が続くのですから。私たちも放課後は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に通う日々。
「アルトさんたち、今年は来ないね」
去年は入学式の後に来てたのに、とジョミー君が首を傾げると。
「…君たちとは待遇を別にするって言っただろう」
会長さんが澄ました顔でシフォンケーキを頬張っています。
「ぼくの悪戯好きはバレてるけども、ハーレイにトランクスを届けているのは内緒にしたい。他にも色々と隠しておきたい面があるのさ、男としてはね」
「本気で愛人扱いする気なのか!? 坊主のくせに罰当たりな…」
キース君が詰りましたが、会長さんは余裕でした。
「罰当たり? じゃあ、君に聞くけど、パルテノンの高級クラブや料亭なんかのお得意さんにお坊さんが多いのはどういうわけかな? 璃母恩院よりも厳しい筈の恵須出井寺だって上得意だ。きちんと修行を積んでさえいれば、後ろ指を指される筋合いはないよ」
「……それはそうだが…」
春休みに会長さんがファラオの呪いを封じて以来、キース君は修行の面ではまるで頭が上がりません。まだ口の中でモゴモゴ言いつつ、負けを認めたみたいです。でも、そっか……アルトちゃんたちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に遊びに来ないんだ…。
「遊びに来てたよ? クラブ見学の日に」
特製クレープを御馳走したんだ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は嬉しそう。
「二人とも、ちゃんとサイオンを使えるようになったから…壁の紋章が見えるんだよね。だからブルーが思念波で呼んで、ぼくも一緒におしゃべりしてた」
「「「………」」」
それは全く知りませんでした。クラブ見学の日も放課後はここに来ましたけれど、見学時間中は柔道部でキース君たちが勧誘活動をやっているのを見てたのです。柔道十段の教頭先生目当てに入学してきた人はもちろん、見学中の人にも今年から豚汁を配っていたり…。合宿の名物なんだそうです、特製豚汁。
「君たちが留守にしていたからね、鬼の居ぬ間になんとやら…さ」
会長さんはフフンと鼻で笑いました。
「できる男は幾つもの顔を使い分ける。アルトさんたちにもリラックスして過ごして欲しいし、専用のカップを買おうと思ってるんだ。もちろん二人の好みを聞いて。…食器の管理はぶるぅだからね、君たちの目には触れない場所に置いてもらって大事にしよう」
「「………」」
顔を見合わせたのはスウェナちゃんと私。女の子扱いして貰っているつもりでしたが、私たち、二人とも格下でしたか…。
「ん? 君たちも愛人希望? だったらジョミーたちとは別になるけど、それでもいい?」
ぼくは大いに歓迎だけど、と微笑んでみせる会長さんは超絶美形。女の子なら誰でも憧れます。でも…愛人希望かと尋ねられたら、そこまではちょっと…。
「ふふ、みゆもスウェナも万年十八歳未満お断り…だっけね。みんなとセットで遊んでいたまえ、背伸びしないのが一番だよ。君たちにはそれが似合ってるんだ」
出ました、女殺しの魅惑の笑み。スウェナちゃんと私が頬を染めている間に話は別の方へと行ってしまって、今度の土曜日は会長さんの家に招かれることに。
「みんなでおいでよ、お花見をしたばかりだけどさ」
歓迎するよ、と会長さん。「そるじゃぁ・ぶるぅ」もニコニコ顔です。アルトちゃんたちのように特別扱いも素敵ですけれど、やっぱりみんな揃ってこそ…かな?

土曜日のお昼前、私たちは会長さんのマンションにお邪魔しました。何種類ものピザが並んで壮観です。あれこれ選んで食べまくってからリビングの方に移動すると…。
「なんだ、まだ片付けていないのか?」
キース君が目を留めたのは棚の上に置かれた人魚像。鈍い金色に輝くそれは教頭先生を象った逞しい像で…。
「ああ、あれね。何か使い道がないかと思って、しばらくは置いておくつもり」
「…またチョコか? 教頭先生、相当にダメージが大きかったみたいだぞ」
溜息をつくキース君。花祭りと称して溶かしたチョコを浴びせまくられた人魚の像は、どういう仕掛けか分かりませんが教頭先生の舌にチョコの甘さをダイレクトに伝えるものだったのです。甘いものが苦手な教頭先生は倒れてしまい、翌日の柔道部の朝練に出て来なかったらしいのですが…。
「ダメージねえ…。ハーレイが倒れた本当の原因は甘さじゃなくってチョコのイメージの方なんだよ? ぼくの身体を連想しちゃったハーレイが悪い」
ぼくは全然悪くない、と主張している会長さん。人魚の仮装をさせた挙句に像を作ってオモチャにするなんて、誰が聞いても悪戯なのに…悪戯は罪じゃないのでしょうか? と、棚の前に行って像を見ていたシロエ君が。
「これって何で出来てるんですか? 今は触ってもいいんでしょうか?」
「ああ、いいよ。ハーレイと常にシンクロしているわけではないし。…それが気になる?」
好きなだけどうぞ、と会長さんは人魚像を掴んでテーブルの上に持って来ました。
「シロエは機械弄りが好きなんだっけね。だから仕組みを知りたいのかな?」
「ええ、まあ……。そんなところです」
「興味を持つのはいいことだよ。そう簡単には壊れないから、叩いてみてもかまわない」
会長さんのお許しを貰ったシロエ君は像を手に取り、重さを確かめ、表面を撫でたり指先で軽く弾いたり。隅から隅まで調べたものの、得られるところが無かったようで…。
「駄目です、全くのお手上げですよ。…金属製だとは思いますけど、どうやって教頭先生の味覚とシンクロしたのか分かりません。仕掛けは何も見当たりませんし」
ゴトリ、と像をテーブルに戻すシロエ君。
「そうなのか? そう言われると俺も気になる」
メカは専門外だがな、とキース君が像を持ち上げ、コンコンと軽く叩いてみて。
「この音からすると中までキッチリ詰まっているな。空洞だったら内側に呪符の類を入れるってこともあるんだが」
「「「ジュフ?」」」
聞き慣れない単語に首を捻ると、キース君は「お札だ」と説明してくれました。
「呪文なんかを書き付けた紙を呪符と呼ぶ。効果は呪文によって自在に変わるし、守ることも呪うことも出来ると聞くぞ。…素人が書いたものでは効果は無いが、ブルーくらいの高僧だったら十分だ。そういう仕掛けかと思ってみたが、それも違うか…」
降参だ、と像を戻して両手を上げるキース君。私たちも像を順番に手渡ししながら見てみましたが、金属らしい重さを確認できただけです。
「どうだった? やっぱり誰にも分からない?」
会長さんの問いに、私たちは素直に頷く以外にありませんでした。会長さんはテーブルに置かれた像の頭をチョンとつついて。
「素材に秘密があるんだよ。これは普通の合金じゃない。ぼくたちの…シャングリラ号には必要だけど、この地球上で生活するにはさして意味のない配合かな、うん」
「「「え?」」」
「シャングリラ号のブリッジを覚えているだろう? サイオンキャノンの発射装置は?」
「あ!」
シロエ君が声を上げました。
「ホントだ、あれと同じ色です! 興味があったんでよく覚えてます。…あれって特殊鋼か何かですか?」
「まあね。サイオンキャノンの試射も見せたけど、サイオンキャノンはその名のとおりサイオンを利用したシステムだ。そのためにはサイオンを伝えやすい素材を使わないと…。他のセクションでも使われてるよ、この合金は。要になっているのはね…」
「……ジルナイト鉱石」
「「「!!?」」」
答えを言ったのは私たちの中の誰でもなくて、もちろん「そるじゃぁ・ぶるぅ」でもなくて…。
「こんにちは。温泉旅行は楽しかったね」
紫のマントをフワリと翻してソルジャーがリビングに立っていました。い、いつから話を聞いてたんですか? それに何しに来たんですか~!?

空いているソファに腰を下ろしたソルジャーの前に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が急いで紅茶を運んできます。私たちにも飲み物が配られ、ダックワーズを盛ったお皿も…。
「これがハーレイの人魚像か。本物を見ると実に傑作」
花祭りの騒動を覗き見していたというソルジャーは人魚の像を撫で回したり、持ち上げてみたり。
「いいね、これ。…ぼくもこういうのを作ろうかな? モデルに逃げられそうだけれども」
「これが見たくて来たのかい?」
迷惑そうな会長さんに、ソルジャーは「ううん」と首を横に振って。
「像の素材でみんなが頭を悩ませてたから、正解を言いに。…それと、ぶるぅのおやつかな。いつも美味しくてハズレが無いし」
「お誉めに与ってどうも。…で、ジルナイト鉱石って?」
会長さんの言葉にソルジャーはキョトンとした顔で。
「え? サイオンの伝導効率を高めるために混ぜると言ったらジルナイトだろう? それとも、こっちじゃ別のものかな?」
こんなのだけど、とソルジャーが会長さんに思念で情報を伝えているようです。会長さんは納得した様子で「なるほど」と呟き、私たちに。
「じゃあ、ジルナイトってことにしておこう。ぼくが言いたかったものとジルナイトとは同じだから」
「ジルナイト!? そんな鉱石ありましたっけ?」
シロエ君が突っ込み、キース君が。
「俺も初耳だ。他の惑星で採れるのか?」
「…まさか。シャングリラ号は地球で造った船だよ? 材料を採りに他の星まで行ったと思う? 言っておくけど、生身で宇宙空間に出て行けるのはタイプ・ブルーのぼくとぶるぅしかいないんだからね。そこまでしないと造れない船なら諦めてるさ」
そうだろう? と会長さん。言われてみればそのとおりですが、キース君たちも知らないような稀少な鉱石がシャングリラ号の要ですか…? 会長さんは疑問だらけの私たちを見回して。
「ぼくたちの世界では別の名前で呼ばれてる。そして珍しいものでもない。…ただ、サイオンが知られてないから地球上では意味がないだけだ。君たちには『サイオンを伝えてくれる鉱石』と説明しようと思ってたけど、ちょうどいい別名が出てきたからね…。ジルナイトってことで納得しといて」
本当の名前はシャングリラ号のクルーにならないと教えられないのだ、と会長さんは真顔でした。そういう理由ならジルナイトでもいいですけども、それが入った合金製の教頭先生人魚の像の仕掛けの方は…? サイオンを伝えやすい素材で出来ているから、あんな悪戯が出来たんですか? 口々に尋ねる私たちに、会長さんはニッコリ笑って。
「そういうこと。ぼくのサイオンで表面を覆って、ハーレイの身体の方にもぼくのサイオンを侵入させて…味覚と直結させたってわけ。その要領で色々できるよ」
「…うん、本当に色々と…ね」
相槌を打ったのはソルジャーでした。
「上手に使えばコレだけでハーレイを昇天させるのも可能かな」
「「「昇天!?」」」
冗談ごとではない恐ろしい単語に、私たちは顔面蒼白。ま、まさか…この像に釘を打ったら教頭先生はお亡くなりに…? それって藁人形と同レベルでは? いくらなんでも丑の刻参りはあんまりでは…?
「丑の刻参り? なんだい、それは」
今度はソルジャーが首を傾げる番でした。流石にSD体制が敷かれたソルジャーの世界に丑の刻参りは無いようです。でも似たものはあるんですよね? 呪いの人形は確かブードゥーでしたっけ? ジルナイトみたいに名前は違えど、きっと呪いの人形が…。

丑の刻参りの説明を会長さんから聞いたソルジャーはプッと吹き出し、散々笑い転げました。もしかして私たち、藁人形で人が殺せると信じ込んでいる非科学的な人間だと思われてますか? ソルジャーの世界にだって、呪いの人形はあるというのに…。鰯の頭も信心からです。しかし…。
「ごめん、ごめん。つい……おかしくってさ」
涙まで出てきちゃった、と指で目尻を拭ったソルジャーは不満一杯の私たちに謝ってから。
「丑の刻参りにブードゥーだっけ? ぼくの世界にそういう類の迷信は無い。SD体制以前の古い本を読んで、その気になってやっている人は存在するのかもしれないけれど…。呪いで人は殺せない。あくまで普通の人間には…ね」
「「「???」」」
「ミュウはサイオンで人を殺せる。それを望むミュウはいないというのに、その能力を持つというだけで恐れられるし、抹殺される。…この話は暗くなるから置いといて……さっきの君たちの反応だけどさ。昇天の意味を間違えてるよ」
「「「は?」」」
ソルジャーの世界の話で沈んだ気分になりかかっていた私たちですが、ソルジャーの瞳は悪戯っぽく輝いています。昇天の意味って、ひょっとして…お亡くなりという意味ではなくて、エロドクターがよく口にする口説き文句の中のアレ…? ジョミー君たちも思い当たったのか、頬がちょっぴり赤くなっています。
「やっと分かったみたいだね。そう、ぼくが言ったのはそっちの方さ。でも、この人形は残念なことに人魚になっているものだから…」
ツツーッと指で教頭先生の像の首から下を辿るソルジャー。
「肝心の部分が無いんだよねえ。…もっとも、あのハーレイなら上半身だけで十分だって気もするけれど。ちょっと試してみようかな」
「却下!!!」
会長さんの雷が落ち、青い光がソルジャーの指をパシッと弾き飛ばしました。教頭先生の像はシールドに包まれ、青く発光しています。
「いたたた…。なんだ、結局、ハーレイのことが好きなんじゃないか。…ぼくに触らせたくないほどに」
「違う! ハーレイが妙な気分になったら一番にぼくが困るんだ! 家に電話がかかってきたり、熱烈なラブレターを送ってきたり…。本当にムラムラしちゃった時は最悪なんだよ、プレゼントを送って寄越すから」
「…プレゼント? 何を?」
「こういうヤツ!!!」
バサリとソルジャーの膝の上に落ちて来たのは青い布きれの塊でした。
「………???」
両手で広げてみたソルジャーの目が点になり、ジョミー君がウッと仰け反り、私たちの脳裏に一昨年の夏がフラッシュバック。…それは超ミニ丈で青いスケスケの……ベビードールではありませんか! 教頭先生が「これを着たあなたを見てみたい」というカードをつけて会長さんに贈り、会長さんがそのままジョミー君に回して着せてしまった因縁の…。
「…これを……君のハーレイが…?」
有り得ない、と一蹴するソルジャーに、会長さんは大きな溜息をついて。
「それがあるんだよ、十年に一度あるか無いかの御乱心ってヤツが。…分かったらハーレイを刺激するのはやめてほしいな。あの人形のせいで昇天なんかしちゃった日には、絶対ロクでもないことに…」
「なるほどねえ…。そういうわけなら手を引こう。珍しいものも拝めたしさ」
一世一代のプレゼントか……とベビードールを矯めつ眇めつ眺めるソルジャー。会長さんったら、まだあんなものを残していたとは驚きです。まりぃ先生が言っているように歪んだ愛でもあるのでしょうか? ソルジャーもそれを指摘しましたが、答えは実に明快でした。
「何が愛だって? バカバカしい。…脅しのネタに置いてあるだけだよ。これを学校に提出したらハーレイの立場はどうなると思う? 証拠品は大事にしておかなきゃね、場合によってはお金にもなるし」
「「「………」」」
まだまだ毟り足りないのか、と頭痛を覚える私たち。ソルジャーもガッカリしたようですけど、この性格こそが会長さん。三百年の筋金入りは多分直りはしないでしょう。

ベビードールが片付けられると「そるじゃぁ・ぶるぅ」が何種類ものケーキやスコーン、サンドイッチを運んで来ました。会長さんの家でのアフタヌーンティーは久しぶりです。ソルジャーのお目当てはこれだったらしく、「ぶるぅ」の分を持ち帰り用に詰めて貰って上機嫌。美味しいお菓子に舌鼓を打っていると…。
「…身代わりを立てるっていうのはマズイよね…」
唐突な会長さんの台詞に全員の手が止まります。身代わりって…誰の? そして何の? 矢継ぎ早に質問を浴びせるソルジャーと私たちに、会長さんは苦笑しながら。
「いいんだ、どう考えても無茶だから。…第一、ソルジャーの立場では許されるわけがないんだし」
「…だから何のさ?」
言ってみたまえ、とソルジャーが畳み掛けると、会長さんは少し逡巡していましたが…。
「………。年に一度の健康診断」
「「「健康診断?」」」
ソルジャーは怪訝な顔でしたけど、私たちにはすぐ分かりました。去年、サム君が会長さんをエロドクターから守ろうと必死になっていたヤツです。もう一年になるんですか…。会長さんはソルジャーとしての自分に健康診断の受診が義務付けられている事情を話し、逃げられないのだと語ってから。
「…ノルディがぼくに御執心なのは知ってるだろう? 去年の借りは返したけれど、またキスマークをつけられちゃったら大変だ。それで今年もボディーガードを頼むつもりでキースたちを呼んだんだけど…。君が乱入したってわけ」
「それじゃ身代わりって言っていたのは…ぼくのことかい?」
「うん。君はノルディも平気だからね、代わりに行って貰おうかなあ、って思ったんだよ。…だけど…必要なのはぼくの健康診断だ。ぼくの代わりがいない以上は、ぼく自身が受けておかないと…」
万一の時に困るから、と珍しく殊勝な会長さん。日頃の行いからはとても想像できませんけど、ソルジャーとしての自覚はあるようです。三百歳を超えているだけに健康管理は大切でしょう。それでも気乗りしないというのは行き先がドクター・ノルディの所だからで…。
「あーあ、ハーレイの人形じゃなくてノルディの人形が作れたらなあ…」
「「「は?」」」
会長さんの真意が掴めません。ドクターの人形なんかがあったとしたらどうするんですか? 会長さんは棚の上の教頭先生の像を見遣り、私たちの方に視線を戻して。
「キースが言っていただろう? 呪符を使えば色々出来る…、って。あの時に頭を掠めていったんだよね、陰陽道の人形が」
「「「ヒトガタ?」」」
えっと。人形と書くヒトガタですか? 漫画や映画で陰陽師が呪文を唱えて紙の人形に人間の身代わりをさせる話を見ましたけれど、あれなんでしょうか…?
「そう、ヒトガタ。字は人形と同じなんだ。キースの言葉で思い浮かんだのは人形をぼくの身代わりに立てることだったけどさ…。今、考えてるのは別のこと。ノルディの身代わり人形が欲しいなぁ、って。それでノルディを呪縛しとけば不埒な真似は出来ないだろうと」
「あんた、陰陽道の心得まであったのか!?」
仰天しているキース君。会長さんは「少しだけね」と微笑みました。
「でも本当に齧っただけだし、身代わり人形までは作れない。陰陽道の技では…ね。だけどハーレイの人形と同じ方法だったら、ぼくにも作ることは可能だ。そういう人形があればいいのに…」
「作ってしまえばいいじゃない」
ジョミー君が何のためらいもなく言い放ちました。
「教頭先生はオモチャにされたら可哀想だけど、エロドクターならいいと思うな。ブルーを追っかけ回してるだけで、ちっとも大事にしていないもの」
「おう! ジョミーが言ってる通りだぜ!」
拳を握って叫ぶサム君。会長さんが大好きなだけに、エロドクターへの嫌悪感も半端じゃないのです。
「あいつ、何かって言えばブルーに悪さをしようとするし……作っとけよ、その人形。絶対それがいいと思うぜ」
「俺もそう思う。…作るべきだな」
まるで同情の余地はない、とキース君も断言します。シロエ君もマツカ君も、スウェナちゃんも私も賛成でした。あのドクターを封じるための人形があれば、安心して生活できそうですから。…ソルジャーも乗り気になり、作ってしまえと言ったのですけど。
「……それが出来たら苦労はしないよ」
無理なんだ、と悔しげに唇を噛む会長さん。
「さっき言っただろう、陰陽道は少しだけしか齧っていない…って。そんなレベルじゃノルディの人形は作れやしない。絶対的に力不足だ」
もっと極めておくべきだった、と項垂れている会長さん。いいアイデアだと思ったのですが、作れないんじゃダメなのかなあ…。ん? あれ? さっき作れるって言ってたような…? それとも私の聞き間違い…?

エロドクターを封じられるかもしれない身代わり人形。作り出そうと盛り上がったのに、不可能と知って落胆したのは私だけではありませんでした。サム君などは歯軋りをしてキース君に詰め寄っています。
「おい、お前の知り合いにプロの陰陽師はいないのかよ! 坊主って顔が広いんだろ!」
「そんなこと俺に言われても…。ブルーの方が人脈もあるし、なんといっても高僧だし…そっちのツテが確かだって! なあ、ブルー?」
「ん…? あ、そうだね…。そうかもしれないね…」
煮え切らない様子の会長さん。自分の身を守るアイテムに関する問題なのに、心ここに在らずと言った感です。視線も何処か定まりませんし、気になることでもあるのでしょうか…?
「……ブルー。ぼくは記憶力に自信があるんだけどね」
こっちを向いて、とソルジャーが会長さんに声をかけました。会長さんは一瞬ビクッと肩を震わせ、すぐに普段の顔に戻って。
「あ、ああ、ごめん。ちょっと考え事をしていて…」
「考え事ねえ…。ノルディのことだろ? …もう一度言うよ。ぼくは記憶力には自信がある。ついでに、この補聴器は記憶装置を兼ねているんだ。ブルー、君はノルディの人形を作れると言ったと思うんだけど、ぼくの記憶は間違ってるかい?」
「…………」
否定はしない会長さん。それは無言の肯定でした。ソルジャーも私も作れると聞いたドクターの人形が作れないことになったのは何故…? ジョミー君たちも記憶を遡って確認したのか、肘でつつきあって顔を見合せています。ソルジャーが重ねて問い掛けました。
「ハーレイの人形と同じ方法で作れると確かに聞いたんだよ。なのに君は別の方法を持ち出して来て、力不足で無理だと言う。…片方は可能で片方は不可能。この矛盾はどこから来るんだろうね? ノルディの人形を作りたくないんだとしか思えないけど…?」
「………」
「でも君は人形が欲しいと言った。…その人形、ぼくが作ってあげようか?」
「えっ?」
俯きかかっていた顔を弾かれたように上げた会長さんに、ソルジャーはクスクスと笑い出しました。
「やっぱりぼくでも作れるらしいね。…やり方は? 教えてくれれば作ってみるよ。ハーレイの人形で遊びたいって言ったら止められちゃったし、代わりにノルディで遊んでみたい。ぼくは人形遊びが出来て、君はノルディの人形を手に入れる。…ね、悪くない取引だろう?」
げげっ。エロドクターとソルジャーといえば何かとお騒がせな組み合わせですが、これから一体どうなるのでしょう? 会長さん、許可を出すのでしょうか? それに人形の作り方は…? この胸騒ぎは気のせいなんだと思いたいですけど、嫌な予感が治まりません~! 

 

 

 

 

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