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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

笑顔に福あり  第1話

教頭先生が会長さんの写真がついた抱き枕をゲットしてから日は過ぎて…中間試験がやって来ました。1位がお好きなグレイブ先生のために1年A組が一丸となって目指すは学年1位の座です。私たちはもう慣れっこになってましたけどテストの間は教室の一番後ろに机が増えて…。
「おはよう。テスト中はぼくも1年A組だからよろしくね」
会長さんの挨拶に女子が黄色い悲鳴を上げます。男子は教科書とノート片手に質問三昧。
「俺、一応ヤマはかけたんですけど…外していても大丈夫ですか?」
「この公式がどうしても覚えられなくて…。このままいくと白紙になってしまいそうです。それでもなんとかなりますか?」
全員に満点を約束している会長さん。初めてのみんなが信じられないのも無理はありません。会長さんはニッコリ笑って答えました。
「心配なんか要らないよ。ぶるぅの御利益って言っただろう? テストが始まればすぐに分かるさ、君たちは全員満点だ。あ、ほら…グレイブが来た」
カツカツと軍人のような靴音を響かせてやって来たのはグレイブ先生。出席を取り、眼鏡をツイと押し上げて…試験初日は数学から。グレイブ先生の担当科目だけあって気合の入った難問揃いの筈ですが…。
「やったー! 全部解けたぜ、この俺が!」
「凄いご利益ね…。そるじゃぁ・ぶるぅってホントに効くんだ…」
解答用紙を回収したグレイブ先生が出て行った後、クラスメイトは大感激。涙ぐむ子もいたりして…。こんな調子で三日間の試験が無事に終わって、私たち七人グループは会長さんと一緒に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に向かいました。
「かみお~ん♪ みんな、お疲れ様! お昼御飯が出来てるよ」
お腹空いたでしょ、とすぐに出てくる石焼ビビンバ。わかめスープもついています。賑やかに食べていると会長さんが。
「みんな、荷物はちゃんと用意してきた? 今から運ぼうと思うんだけど」
そうでした。今日は金曜日なので打ち上げパーティーの後は会長さんの家でお泊まり会という予定。荷物は会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が私たちの家から瞬間移動で直接運んでくれるというので持たずに登校したのです。会長さんは一人ずつ荷物の置き場所を尋ね、自分の家のゲストルームへ移動させていたようですが…。
「はい、おしまい。それじゃ軍資金を貰いに行こうか」
教頭室へ、と先頭に立って部屋を出ていく会長さん。私たちは戦々恐々として会長さんに続きました。なにしろ特別生一年目の三学期の試験の後はとんでもないことになりましたから…。教頭先生を打ち上げに誘って、会長さんが仕掛けた野球拳。身ぐるみ剥がれた教頭先生が辿った末路は思い出したくもありません。
「…なんだ、心配してるんだ? 今日はハーレイは誘わないから大丈夫だよ」
用があるのはお金だけ、と本館に入って教頭室の重厚な扉を軽くノックする会長さん。
「失礼します」
扉を開いて入って行くと教頭先生はテストの採点中でした。
「おお、来たか。今日は多めに入れておいたぞ」
教頭先生が取り出した熨斗袋を受け取った会長さんは中身を数えて冷たい口調で。
「足りないよ。今日は鉄板焼きを食べに行くんだ、いい肉が出ているらしいんだよね。ほら、最高と噂の高いラスコー産の。…だからさ、あとこれだけほど貰わないと」
会長さんが出した指の数に教頭先生は青ざめました。
「ちょ、ちょっと待て、それは高すぎるだろう! 私は今は金欠で…」
「ふうん? ああ、麻雀で負けたのか。でも財布には入っているよ、ちょうどそれくらいの額のお金が」
「こ、この金はゼルに返すんだ! 負けが込みすぎて手持ちの金では足りなくて…今日中に返さないと十一の利子が…」
「「「トイチ?」」」
初めて聞いた耳慣れない単語をつい復唱する私たち。会長さんはクスクスおかしそうに笑っています。
「十日で1割の利子ってことさ。ゼルはけっこうがめついからね」
「分かっているなら勘弁してくれ! その金が無いと生活費が……私の食費が…」
「お金なら口座にあるだろう? キャプテンの給料が入った筈だよ、それに比べたらはした金さ」
そう言いながら財布を出すよう脅しをかける会長さん。
「払ってくれないんなら長老たちに言いつけるよ? ぼくに無理やりポーズを取らせて抱き枕用の写真を撮った…って。教え子に対する猥褻行為で謹慎処分は間違いない。…どうしようかな、ゼルに言うのが一番かな?」
「…………」
教頭先生は眉間を押さえ、深くなった皺を指で何度も揉んで…。
「…やむを得ん…。今月は耐乏生活だな」
懐から出した財布は会長さんにお金を渡すと本当に空になりました。嬉々としてお札を数えた会長さんはそれを熨斗袋に突っ込み、クルリと鮮やかに回れ右。
「ありがとう、ハーレイ。それじゃ、またね」
バタンと閉まった扉の向こうで教頭先生が気落ちしているのが分かります。特別生のヒヨコといえども、二年目にもなれば少しはサイオンで感じ取れるのかもしれません。でも、いいのかな…トイチの利子…。
「いいんだってば。ハーレイはぼくに惚れてるんだし、ぼくが使えば有効利用。麻雀の賭け金なんかよりずっと素敵さ」
平気、平気…と会長さん。まあ確かに、いざとなったらキャプテンとしてのお給料だってあるのです。それを使わずに貯金しているのは会長さんとの結婚生活に備えてのこと。そこから少し持ち出してくれば済む話ですし、放っておいてもいいですよね…?

打ち上げパーティーは個室でゴージャスに鉄板焼き。生産者の名前がついたラスコー産のお肉はとても美味しく、舌が肥えている会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」も大満足の味でした。たっぷり食べてタクシーで会長さんのマンションに行くと、ゲストルームにちゃんとお泊まり用の荷物があります。お風呂に入ってリラックスして、みんなでリビングに集まって…。
「かみお~ん♪ お待たせ! 梅シロップ寒天だよ」
フルーツたっぷりの器を配ってくれる「そるじゃぁ・ぶるぅ」。梅シロップはマザー農場で採れた無農薬の梅を漬け込んだ秘蔵の品で、セットで梅酒もあるのだそうです。会長さんの前に置かれたグラスがそうかな? 私たちはどう転んでも未成年なので梅シロップのソーダ割りですが…。ジョミー君たちはパジャマ姿で、スウェナちゃんと私はパジャマにガウン。
「結局、いつも借りちゃうのよね」
素敵だから、とスウェナちゃんが言うのはガウンのこと。フィシスさん用のガウンを借りて羽織るのがスウェナちゃんと私のお泊まりスタイル。お姫様のドレスみたいなガウンが沢山置かれているので、ついつい借りてしまうのでした。だって憧れるじゃないですか…繊細なレースやゴージャスな刺繍。
「女の子って好きだよねえ…。そういうのが」
レースびらびら、とジョミー君が笑ってますけど、この気持ちは男の子には理解不能だからいいんです。スウェナちゃんが借りてきたのはミントグリーンのシルクのガウンで襟や袖口にレースがたっぷり。私のもレースをあしらったローズピンクでしたが、キース君がスウェナちゃんをまじまじと見て…。
「おい、その色って…似てないか?」
「えっ? 何に?」
キョトンとしているスウェナちゃん。ここへは制服で来たんですからスウェナちゃんの私服はまだ見ていません。下のパジャマは水色ですし、いったい何に似ていると…? キース君は「いや…」と言葉を濁し、気のせいだろうと付け加えました。
「冷静に考えてみたら別物だしな。…とっくに処分している筈だ」
「「「処分?」」」
穏やかでない響きに首を傾げる私たち。一番に口を開いたのはジョミー君でした。
「処分って何さ? 何が似ていて、なんで似ていたら処分なのさ?」
「い、いや…だから……気のせいだろうと…」
モゴモゴと呟くキース君ですが、あまりにもらしくない歯切れの悪さに誰もが疑問を募らせるだけ。そこへ…。
「キースが似ていると言っているのはコレだろう?」
割って入った会長さんが取り出したのはシルクのパジャマ。スウェナちゃんのガウンとそっくり同じの色合いをしたミントグリーンのそのパジャマには嫌というほど見覚えが…。
「「「!!!」」」
キース君がウッと息を飲み、私たちも目が真ん円です。これって教頭先生にプレゼントされてしまった抱き枕の写真に使ったパジャマと同じなのでは…? 色もデザインもそっくりですし…。
「…アレなんだよね、残念ながら…」
会長さんは大きな溜息をついてパジャマを広げてみせました。
「例の写真と同じヤツだよ、まだ何枚も新品がある。…撮影に使われたヤツは捨てちゃったけど、残りは諦めて着るしかないんだ」
え。キース君の言葉を思い出すまでもなく、会長さんが抱き枕の写真に使われたパジャマを処分しないわけがありません。現にそうしたようですけれど、同じデザインのを残しておいて着るしかないとは一体どうして? もしかして凄く高価でレアもののパジャマだったとか…?
「うーん…。レアものというのが正しいかな。なにしろ二度と手に入らないし…。初売りっていうのはお正月しかないものだろ?」
「「「初売り?」」」
ますますもって訳が分からなくなってきました。初売りで買ったパジャマがどうレアだと? 縁起物だから処分できないとかそういうのですか…?
「………フィシスのラッキーカラーなんだよ」
「「「は?」」」
「だからさ、フィシスの今年のラッキーカラーがミントグリーンだって占いに出て…二人で初売りに行って買って来たんだ、パジャマとネグリジェ。スウェナが着ているガウンもね。…ほら、フィシスはぼくの女神だし……ラッキーカラーが幸運を呼ぶなら手伝いたいと思うじゃないか」
それで自分もミントグリーンのパジャマにした、と会長さん。フィシスさんは運気が上がりそうな日や大切な時はラッキーカラーを身に着けるのが習慣だとか。そういえば今年の親睦ダンスパーティーのワルツで着ていたドレスもミントグリーンでしたっけ…。
「夜は二人で一つになるだろ? お揃いの色のパジャマがいいんだ。フィシスが言うには初売りで買った品物には更にパワーがあるとかで…。事情はどうあれ、捨てちゃうなんて出来ないよ」
「…正直に言えばいいんじゃないのか?」
キース君が腕組みをして真面目な顔で尋ねます。
「フィシスさんもあっちのブルーを知ってるんだし…悪戯されて抱き枕の写真に使われた、と言ってしまえば着ずに済むかもしれないぞ。なんと言っても教頭先生が大事にしている抱き枕だしな」
「…もう言った。話したんだけど通じなかったよ、フィシスはとても純情だから…」
女神だしね、と会長さんは苦笑いして。
「ノルディがぼくを狙っているのを理解できないって前に話さなかったっけ? それと同じでハーレイのこともフィシスは全然分からなくってね…。ぼくを大切にしてくれる人だと信じている。だから抱き枕の絵柄にされたと言ってもニッコリ笑って…よかったわね、って。ぶるぅと同じレベルなんだよ」
「えっ、なあに? ぼく、何かした? そっか、ハーレイにあげたブルーのぬいぐるみだね!」
コーティングしてあげたもんね、と胸を張っている「そるじゃぁ・ぶるぅ」。…気の毒な会長さんは理解されない悲哀を背負ってミントグリーンのパジャマを着続けるしかないようです。でもフィシスさんのためなら我慢するなんて、やっぱり女神は別格ですねえ…。

それから私たちはトランプをしたりしてワイワイ騒いで、夜が更けても元気一杯。誰もゲストルームに引き上げないまま遊んでいると、休憩していたシロエ君が壁際の棚に目を留めて…。
「あれ? これって…」
視線の先には淡いピンクの背表紙の本がありました。本棚ですから本があるのは当然ですけど、シロエ君、どうかしたのかな? 顔を近づけてまじまじと観察しているようです。何か珍しい本なのでしょうか?
「…えっと……会長?」
「ん? 気になる本でも見つかったかい?」
好きなのを出して読んでもいいよ、と会長さんが答えを返すとシロエ君は「でも…」と口ごもって。
「いいんですか、本当に? この本のタイトル、人魚姫って書いてあるんですけど…」
「なんだ、それか。 読みたいんだったら好きにしたまえ」
「…でも……会長の分はないんだって聞いたような…」
え。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」を除いた全員の視線がシロエ君に集まりました。淡いピンクの背表紙の本で、タイトルが人魚姫。そして会長さんの分がない本といえば、もしかしてあの…人魚姫絵本? 連休にシャングリラ号へ遊びに行った時、ゼル先生が口止め料代わりに読ませてくれた爆笑モノの…?
「…ぼくの分の本も出来たんだよ」
不本意ながら、と会長さん。それじゃやっぱりあの本は…? 会長さんは棚の所へ行き、シロエ君が見ていた本を引っ張り出して私たちの方へ戻って来ました。シロエ君も後ろにくっついています。私たちの真ん中にトンと置かれた淡いピンクの装丁の本は記憶の中の…絵本そのもの。
「気持ち悪いから要らないって言ってたのに……なんで?」
ジョミー君の問いに会長さんはフウと吐息をついて。
「…フィシスが欲しがったから増刷したのさ。フィシスが持ってるとなったらペアで持ちたくなるじゃないか。だから自分の分も作った。…フィシスはブラウに見せて貰って羨ましくなったらしいんだ」
「…けっこう悪趣味なんですね…」
意外でした、と言うシロエ君に会長さんは顔をしかめて。
「違うよ、中身の問題じゃない。…長老しか持っていないというのがフィシスが残念がった点。自分は長老たちほど長い年数をぼくと一緒に生きていない、と寂しそうにしていることがあるからね…。本の中身はどうでもいいんだ、フィシスにとっては。長老たちと同じに扱われたい、と願っただけ」
「…それにしたって…」
人魚姫だぜ、とキース君が呆れています。フィシスさんの天然っぷりは先刻も聞かされましたけれども、女神ともなれば心もドーンと広くなるとか…? この絵本を欲しいと思うだなんて…。
「…君たち、フィシスを馬鹿にしてるだろう? でも君たちも他人のことを言えた義理かい? 読みたくてたまらないくせに」
「「「!!!」」」
ギクッ。おずおずと顔を見合わせる私たちの瞳は好奇心を隠し切れていませんでした。ゼル先生に見せて貰った人魚姫絵本は凄かったですし、ここでなら誰に遠慮もせずに笑い転げられるというものですが…。シャングリラ号の機関部で見た時も散々笑いましたけど。
「ほらね、やっぱり読みたがってる。…フィシスにきちんと謝るんなら読ませてあげるよ、その絵本。あ、いきなり謝られてもフィシスも困ってしまうだろうし……とりあえず、ぼくに謝っておきたまえ」
「「「…はーい…」」」
ごめんなさい、と私たちは頭を下げました。天然だろうがズレていようが、フィシスさんは会長さんの女神です。しかも美人で占いも出来て、優しくてとても賢い人で…。
「そのくらいでいいよ、フィシスの素晴らしさを分かっているならそれでいい。はい、どうぞ。…ぼくの特製人魚姫絵本、第二版」
ズイと押し出された絵本を囲んで車座になった私たち。ページをめくる係をジャンケンで決め、正面に陣取ったジョミー君が。
「それじゃ開けるね。ページをめくりたい時は合図して」
淡いピンクの表紙がめくられ、褐色の肌にショッキングピンクの尻尾を持った人魚姫の写真が現れました。海面に突き出た岩に座ってウットリ手鏡を眺めています。髪に貝殻の冠を飾った教頭先生…いえ、人魚姫のロマンティックな恋と冒険が次のページから始まりますよ~!

会長さんの力作の人魚姫絵本は私たちが撮影した写真を元に背景などを合成した上、文章を添えたオリジナル。もちろんストーリーだっていわゆる『人魚姫』とは全く違っているのでした。どんなのかって? えっと、それは…。
「うぷぷぷ…。何回見ても笑えるよな、これ」
サム君が笑いを堪えているのは人魚姫と王子様の出会いのシーン。お城の舞踏会で踊っているのは魚、さかな、サカナ。鯛やヒラメが舞い踊る中、逞しい人魚姫が恋をするのは立派なマグロの王子様です。二百キロを超える本マグロですが、カッコ書きで「刺身にすれば二千人分」と添えてあるのが会長さんのセンス。
「うん、お刺身は余計だよねえ…」
ロマンティックが台無しだよ、と言いつつジョミー君が笑うとキース君が。
「いや、伏線は大事だぞ? 刺身はベストな選択だ」
分かり易いからな、との言葉に誰もが納得。マグロといえばお刺身が身近ですものね。…人魚姫と王子様はデートを重ね、今日は海面に近い明るい海へ。語らっている所に泳いできたのは金色のイワシ。金で出来たイワシではなく、アルビノのイワシなのですが…人魚姫は物珍しさに瞳がキラキラ。そこで王子様は金のイワシを捕まえようと…。
「マグロだものねえ…。咥えるしかないっていうのは分かるんだけど」
悲惨よね、とスウェナちゃん。マグロの一本釣り漁法の中に「まずイワシを釣る」方法があるのだそうで、釣ったイワシを泳がせておいてマグロの餌にするのです。…王子様が人魚姫にプレゼントしたくて咥えたイワシは釣り用の餌で…。
「これ、これ! ここの写真の人たち、今頃クシャミしてるんじゃないの?」
ジョミー君がめくった絵本の中では笑顔のおじさんが二人がかりで王子様を船に引き上げていました。船の周りを泳ぎ回る人魚姫には気付いていません。驚き慌てる人魚姫と大漁を喜ぶ漁師たちとの表情のかけ離れっぷりが最高で…。教頭先生の焦った顔は撮影会では撮ってませんし、会長さんが他の写真を合成して作り上げたのでしょう。
「この辺りまで来ると気の毒としか…。し、しかし…」
笑いが止まらん、とキース君が目尻に涙を滲ませ、誰もが笑い転げています。マグロを釣り上げた漁師が一番にすることは活け締めですが、太くて鋭いキリのような道具を構えた瞬間、おじさんの腕にヒットしたのは大きな尾びれ。王子様の尾びれではなくショッキングピンクの尾びれです。
「…だ、誰なんだろうね、このおじさんたち…」
ジョミー君が笑いながら指差しているのは船の上でダウンしている二人のおじさん。船に躍り込んだ人魚姫は大乱闘の末に王子様を無事に救い出し、いそいそと海に帰るのですけど…逞しい尾びれで殴られまくったおじさんたちの写真は何処から…?
「釣りバカ日誌ってウェブサイトだよ」
会長さんが口にしたのは釣り好きの二人組が運営しているというサイトの名前。マグロの一本釣りにも何度か挑戦していて、成功例ももちろん沢山。ダウンした図は二人揃って日射病に倒れた時のだそうです。
「画像はご自由にお持ち下さいって書いてあったから貰って来たのさ。まさか人魚と格闘したとは夢にも思ってないだろうけど…。あ、のけぞってる写真はイカ釣りのヤツ。墨を吐くだろ、だから色々と笑える写真が多くてさ」
「…イカなのか…。人魚よりかはまだマシだろうな」
キース君が呟き、マツカ君が。
「当然ですよ。人魚を釣ったら殴られますって」
凶器は尻尾だけですけれど、と肩を竦めるマツカ君。教頭先生人魚の写真撮影で撮ったポーズに格闘技のが無かったせいか、人魚姫の武器はショッキングピンクの尾びれでした。…漁師たちを殴り倒した人魚姫に王子様は改めて惚れ直し……ハッピーエンドの結婚式。二百キロのマグロと頬を染めた人魚姫のキスが感動のラストシーンです。
「「「うぷぷぷぷぷ…」」」
堪えていた笑いが一気に噴き出し、私たちは人魚姫絵本を囲んで床をバンバン叩いていました。会長さんったら奥付ページに鉄火巻きの写真を添えているのです。ページの下には鉄火巻きを頬張る教頭先生の写真がしっかりバッチリ載せてあったり…。船長服を着ていますから、クルーの交流会か何かの写真でしょう。
「その写真ね、ハーレイのアルバムから拝借してきてスキャナで取り込んだんだけど…元の写真だと隣にゼルたちが写ってる。長老だったら笑える仕掛けさ、見た瞬間にピンとくるしね」
「「「!!!」」」
どこまで凝った絵本なんだか…。マグロとのキスで終わった愛の物語の奥付ページに鉄火巻き。しかも教頭先生が鉄火巻きを食べる写真とセットだなんて…この人魚姫絵本、本当にハッピーエンドでしょうか? 王子様は鉄火巻きになったのでは…?
「それはない、ない。人魚姫と王子様は末永く幸せに暮らしました…って書いてあるだろ? 鉄火巻きの写真は遊び心さ。それにハーレイ、マグロが好きだし」
「「「えぇっ!?」」」
私たちの頭に浮かんだものは食材としてのマグロではなく魚の方のマグロでした。人魚姫絵本に頭の中まで毒されていたみたいです。教頭先生とマグロがラブラブな図を連想してしまい、再起不能になりかけていたり…。
「違うってば。ハーレイが好きなのは食べる方だよ、鉄火巻きとかお刺身とか…。マグロといえばカルパッチョなんかも美味しいよね」
自分のやらかしたことを棚上げにしてクスクス笑いの会長さん。
「ぶるぅ、明日のお昼は手巻き寿司にしようか、美味しいマグロを買ってきて」
「かみお~ん♪ じゃあ、朝一番に行かないとね!」
もうすぐ市場が開いちゃうよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が壁の時計を見ています。朝の4時から始まる市に間に合うように出掛けるつもりらしいのですが…いつ寝るんでしょう、子供なのに…。
「ぶるぅもタイプ・ブルーだからね、市場には瞬間移動で出掛けるのさ。帰りも同じ。買い物をして帰ってきてから土鍋でぐっすり眠れば十分。…さてと、ぼくも一緒に行こうかな」
買いたいものが沢山あるし、と会長さんは着替えに行ってしまいました。パジャマで市場は無理ですしね。人魚姫絵本で笑い続けた私たちは睡魔に捕らわれかかっています。
「眠くなってきたね…」
「ええ、流石に…」
4時ですもんね、とジョミー君とシロエ君が言葉を交わし、私たちはゲストルームに引き揚げることに。入れ替わりに会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が朝市に向かって出発です。二人がいつの間に帰って来たのかも知らず、ぐっすり眠って目を覚ますと…お昼。手巻き寿司パーティーの始まりでした。
「それじゃ、1学期後半の前途を祝して…」
会長さんが音頭を取って、みんなでウーロン茶のグラスを掲げて…。
「「「かんぱーい!!!」」」
今日は土曜日、明後日からは1学期の授業の後半です。祝した前途にロクでもないことが待っているのか、それとも楽しい毎日なのか。…いいえ、よくよく考えてみれば楽しくないことってありましたっけ? きっとこの先にも素敵でワクワクする出来事が…。会長さんも「そるじゃぁ・ぶるぅ」もジョミー君たちも、これからの日々もよろしくです~!



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