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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

特訓に燃えろ  第1話

大爆笑だった校外学習が済むと期末試験がもうすぐでした。校内は殺気立った雰囲気でしたが、1年A組は「そるじゃぁ・ぶるぅ」の御利益パワーを信じているので至って平和。教頭先生人魚に関する話題がまだまだ熱く語られています。そんな中、教室の一番後ろに会長さんの机が増えて。
「おはよう。今日は期末試験の日程が発表になるからね」
みんなのために出てきたんだよ、と笑顔を振りまく会長さんはワッと大勢に取り囲まれてしまいました。
「教頭先生が人魚ショーを企画なさったって本当ですか?」
「ぼくはゼル先生が黒幕だって聞いたんですけど、実際の所はどうなんですか?」
会長さんの担任が教頭先生だとクラスメイトは知っています。質問攻めに遭った会長さんは困ったように微笑んで。
「…詳しいことは知らないんだよ。ぼくも生徒に過ぎないからね、先生方の事情はサッパリで…。ぶるぅの出演はOKしたけど」
「そうなんですか…」
残念です、と肩を落とすクラスメイトたち。やがてグレイブ先生が靴音も高く現れ、来週の月曜日から金曜日までの五日間に亘る期末試験が告げられました。朝のホームルームが終わると、会長さんは姿を消してそれっきり。
「授業に出る気もないらしいな…」
呆れたもんだ、とキース君が空席になった机を眺め、ジョミー君が。
「今日は古典の授業もないしね。…ブルー、教頭先生の授業以外に興味ないから」
「興味と言うより悪戯目当ての出席だがな」
溜息をつくキース君。会長さんが古典の授業に出席した時は爆笑モノの悪戯書きが回されてきたり、わざと倒れて授業を中断してみたり。最悪だったのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が途中で現れ、「アイスクリームを買いに行くから」とクラス中に注文を取って回ったヤツです。板書していた教頭先生が振り向くと全員がアイスを食べていたという…。あれは去年のことでしたが。
「ブルーが来ると教頭先生、確実にババを引かされるもんね。来ない時でも引いてるけどさ」
こないだの校外学習とか…と言いかけたジョミー君に「シッ!」と注意するキース君。
「今度はお前がババを引くぞ? ブルーに口止めされただろうが」
「そうだったっけ…」
危なかった、とジョミー君は周囲を見回しています。幸い、クラスメイトは誰も聞いてはいませんでした。教頭先生の人魚ショーを企画したのが会長さんだというのは秘密。生徒たちは真相を知らされないまま、無責任な噂を流しています。
「あいつ、どこまで腹黒いんだか…。教頭先生の隠し芸だと信じてるヤツも多いじゃないか」
気の毒すぎる、と呟くキース君にシロエ君が。
「会長らしいじゃないですか。教頭先生が笑い物になればなるほど喜ぶ人です。…ぼくたちだって笑い物になりたくなければ黙っているしかないわけで…」
「…緘口令を破ったヤツは一人で男子シンクロだったな。みゆかスウェナが喋った場合はジャンケンで負けた男が代理に立つ、と…」
えげつない脅しをかけられている私たちですが、男子シンクロで思い出すのは会長さんの大嘘です。数学同好会に男子シンクロを指導中だと偽の情報を流しておいて、実の所は教頭先生に人魚泳法を仕込んでいたという…。
「…特訓の中身、教えてもらっていませんよね…」
指を顎に当てるマツカ君。
「解禁日は今日じゃなかったですか? 期末試験の日程が発表になったら…って約束でしたよ」
「そうだわ。話せば長くなるからって…」
スウェナちゃんが相槌を打ち、私たちの心は一気に放課後へ飛んでいました。試験前は部活がお休みになり、柔道部三人組もゆっくり時間が取れるのです。その頃になれば人魚ショーの特訓に纏わる全てを明かす、と会長さんから聞いてましたっけ。なんだかドキドキしてきました。早く授業が終わらないかな…。

終礼が済むと、私たちは影の生徒会室へ一目散。壁をすり抜け、飛び込んで行くと「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお出迎えです。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
おやつ出来てるよ、と並べられたのは洋梨のコンポートのバニラアイス添え。フルーツたっぷりのクレープなんかもあるんですけど、誰もがソワソワ落ち着きません。会長さんはいつになったら話を始めてくれるんでしょう?
「…なんだ、忘れていなかったんだ?」
手がお留守だよ、と指摘されてスプーンやフォークを慌てて動かす私たち。会長さんはクスクスと笑い、紅茶のカップをコトンと置いて。
「ハーレイ人魚の特訓秘話がよほど気になるみたいだね。…そんなに聞きたい?」
「ああ。大いに気になる所だな」
キース君が口を開きました。
「俺たちにも内緒で企画したなんて、サプライズにも程があるだろう? 俺たちは信用されてないのか、他に事情があったのか…。いくら考えてもサッパリ分からん」
「なるほどね。ジョミーあたりがウッカリ喋ってしまいそうだと思っていたのは事実だけれど…。本当はハーレイの心の問題。君たちが知ったら練習を見たくなるだろう? 大勢が見物していたんでは訓練に集中できないよ」
「そうか? 教頭先生は心身の鍛錬を積んでおられる。見物人ごときで揺らぐようには思えんが…」
「……バレちゃったか」
突っ込まれた会長さんは肩を竦めて。
「確かにハーレイの心は強いよ、集中力に関してはね。だけど人魚ショーをやれって言ったら真っ赤になって、言い訳を並べて逃げようとした。あの格好は恥ずかしいらしい。だから脅してやったんだ。…やらなかったら抱き枕を処分するけどいいのかい、って」
「「「抱き枕!?」」」
「そう。君たちとブルーが作ってくれた抱き枕だよ」
特注品の、とニヤリと笑う会長さん。ソルジャーが会長さんの名前で注文した抱き枕は今もハッキリ覚えていますが、あれって処分してないんですか? とっくの昔に会長さんが消し去ったものと思ってたのに…。
「残念ながら出来ないんだ。処分したら即、ブルーにバレる。そしたら新しいのを注文されて恥の上塗りになるってわけさ、このぼくが。…ぶるぅがサイオンでコーティングまでしてくれちゃったし、もうハーレイの家宝だよね。でも、ハーレイには処分不可能ってバレていないし」
「「「………」」」
「あの枕、ハーレイはとても大事にしてるんだ。だから人魚ショーにも出演せざるを得なかった。…で、特訓を始めてみたら厄介なことになっちゃってさ…。それで内緒にしていたんだよ。その厄介な事情については、ちょっと此処では話せないかな」
えっ、そんなぁ…。今日こそ聞けると思ってたのに…。
「もう少しだけ待ちたまえ。…土曜日に家に泊まりにおいでよ、今度こそ全部教えるからさ。お客様があるとぶるぅも喜ぶ。それに今更、試験勉強は必要ないだろう?」
「えっと…」
そうかもね、とジョミー君。私たちは三度目の1年生ですし、試験の度に会長さんが知識のフォローをしてくれた結果、実力はバッチリ身についています。会長さんの力を借りなくたって、全科目で満点が取れちゃうほどに。会長さんは私たちを見渡し、勝手に決めてしまいました。
「じゃあ、今週の土曜日に。昼御飯を用意して待ってるからね」
「「「はーい…」」」
教頭先生人魚の特訓秘話はもう少しだけ先延ばし。厄介事が気になりますけど、お預けじゃ仕方ないですよね…。

待ちに待った土曜日が訪れ、私たちはお泊まり用の荷物を持って会長さんのマンション前に集合しました。入口のロックを外してもらい、エレベーターに乗って最上階へ。玄関のチャイムを鳴らすと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が扉を開けてくれます。
「かみお~ん♪ ブルーが待ってるよ!」
荷物はいつもの部屋に置いてね、とゲストルームに案内されて、それから向かったダイニング。美味しそうな匂いが漂ってきます。お昼御飯も期待できそう! いそいそと中に入っていくと…。
「「こんにちは」」
そこには会長さんが二人いました。…ということは片方は…。
「やあ。ゆっくり会うのは久しぶりだね」
ニッコリと微笑んだ方がどうやらソルジャーらしいです。おやつ目当てに何度か姿を見せてましたが、特に騒ぎを起こすこともなく平穏な日々が流れていたので最近は気にしていませんでした。でも…「ゆっくり」だなんて言われてしまうと嫌な予感がひしひしと…。
「うーん、そんなに信用ないかな? 今日のぼくはあくまでゲストで、呼んだのはブルーなんだけど?」
「「「え?」」」
会長さんがソルジャーを呼んだ? 押しかけられたわけではなくて…? 私たちの視線を浴びた会長さんは「本当だよ」と苦笑して。
「…厄介な事情っていうのはブルー絡みで、ブルーを抜きに特訓秘話は語れない。でも学校へ呼ぶと危ないだろう? 同じ敷地内にハーレイがいるし…。悪戯防止に日を改めたっていうわけさ。それで納得できたかな?」
コクコクと頷く私たち。教頭先生人魚の特訓にソルジャーが関わっていたとは驚きです。それじゃ、おやつを食べに来てたのは…。
「ウォーミングアップってヤツらしいよ。おやつを食べてから帰ったふりをしてこっちへ移動。ゲストルームで昼寝した後、フィットネスクラブに出勤するわけ。…ブルーもコーチをしてたんだ」
「「「!!!」」」
衝撃の事実に私たちは声も出ませんでした。呆然としている間に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がロブスターのパエリアを取り分けてくれます。
「人魚ショーについて語るんだからね。海の幸は必須だろう?」
会長さんはご機嫌でした。厄介事だと言っていたのに、ソルジャーとの間にわだかまりとかは無いのでしょうか? 抱き枕とか、抱き枕とか、抱き枕とか…。
「ブルーが出たのは抱き枕のせいってわけでもないし」
いつも覗き見してるんだから、と笑う会長さんにソルジャーが。
「出たって何さ、オバケみたいに! ぼくは遊びに来てみただけで、覗き見だって気が向いた時しかしてないし!」
「…その割にやたらと詳しいよね…」
「楽しい匂いはすぐ分かるんだ」
どんな匂いだ、と心で突っ込む私たち。どうやらソルジャーは会長さんの動きを察知して空間を越えて来たようです。それっていったいどの時点から…?
「見ていたのはね、ブルーがハーレイを脅しにかかった所から。人魚の格好で大水槽に潜りに行け、って」
つまり最初から筒抜けだったわけですか…。あれ? 大水槽に潜るって…イルカショーに出演するんじゃなくて?
「…潜るだけの予定だったんだよ」
初めはね、と会長さんが口を挟みました。
「ハーレイは素潜りが得意だからさ、せっかく人魚の尻尾を誂えたんだし大水槽で潜ればいいかと…。あそこはダイバーが大水槽に潜ってくるのが売りだろう? 特に仮装はしてなくっても、見ている人との交信とかさ」
言われてみればそういうショーがありました。水槽の中のダイバーが観客の質問に答えてくれたり、魚の写真を撮ってくれたり…。会長さんが素潜りショーを思い付いたのは自然な流れかもしれません。教頭先生人魚の尻尾は泳げる仕様なのですから。
「大水槽で潜らせるには練習しないといけないしね…。フィットネスクラブに深いプールがあったっけ、と思って会員になったんだ。それでハーレイを引っ張って行って、練習してたらブルーが来ちゃった」
「…覗き見だけのつもりだったんだけど…。実際に見たくなっちゃってさ」
本物を、と人差し指を立てるソルジャー。もしかして人魚ショーの真の黒幕はソルジャーだったりする…のでしょうか? まさか…まさか……ね…。

昼食を終えてリビングに移動してから特訓秘話が始まりました。口火を切ったのはソルジャーです。
「ブルーは厳しいだけだったんだよ。…あれじゃ駄目だね」
「あれで十分と判断してた!」
即座に反論する会長さんにソルジャーはウインクしてみせて。
「飴と鞭とを使い分けるのがコツなのさ。鞭を振り回しているだけじゃ伸びない」
「それは君の方のハーレイだろう? こっちにはこっちの事情があって!」
「無理無理、脅すだけでは絶対に無理。笑顔で演技をさせたかったら、やっぱり飴をあげないとね。御褒美は絶対、必要不可欠! 実際うまくいったじゃないか」
え。飴? 御褒美? 教頭先生の人魚ショー、顔で笑って心で泣いての演技だったのか、演技ではなく本物の笑顔だったのか……ずっと疑問に思ってましたが、御褒美つきなら笑顔は本物?
「うーん…。その辺はちょっと複雑なんだけど」
ソルジャーは少し考えてから。
「ハーレイが人魚ショーを楽しんでいたか、という観点で言えば答えはノーだね。でも自然と笑顔が出てきた筈だよ、御褒美のことを考えただけで」
「…その御褒美っていうのは何なんだ?」
おおっ、キース君、よくぞ尋ねてくれました! 会長さんは苦虫を噛み潰したような顔ですけれど、ソルジャーの方は嬉々として。
「ブルーからのキスさ」
「「「えっ!?」」」
私たちの声は完全に裏返っていたと思います。キスって…会長さんが教頭先生に? それが御褒美? ソルジャーは口をパクパクさせる私たちを見ておかしそうに笑いながら。
「そう、本物のブルーのキス。練習の時はぼくが代わりにキスをしててね、水族館でのショーを成功させたらブルー本人がしてくれるって言っといたんだよ」
「…そ、それじゃ……」
べそをかきそうになったのはサム君でした。
「…ブルー、教頭先生と…? ショーは成功したんだもんな…」
公認カップルを名乗って一年以上経っているのに、サム君は会長さんとデートしたこともありません。強いて言うなら会長さんの家で朝の勤行をしてから朝食を食べ、二人一緒に登校するのがデートでしょうか。慎ましい幸せで満足しているサム君だけに、この御褒美は大打撃かも…。
「あ…。ごめん、サムにはショックだったかな?」
ソルジャーは会長さんそっくりの顔でサム君に謝り、ポンポンと肩を優しく叩いて。
「大丈夫だよ、ブルーのキスは餌だから。…ハーレイは信じて頑張ってたけど、ブルーがその気になるとでも? 悪戯でならキスするけども、本気のキスはしやしない。…そうだよね、ブルー?」
「当然だろう! サム、今回は悪戯のキスもしていないから安心して。ショーの御褒美はぼくじゃなくってブルーのキス。ハーレイは涙を飲んだってわけ」
ありゃりゃ。気の毒な教頭先生、また会長さんに騙されましたか…。いえ、この場合はソルジャーかも? 罪作りな御褒美もあったものです。釣られる方が悪いと言えば悪いのでしょうが…。それにしたってソルジャーは何を考えているんだか。飴だの鞭だの御褒美だのと、教頭先生で遊んでますか?
「もちろんさ。だって最高に笑えるじゃないか」
人魚だよ、とソルジャーは棚の上を指差しました。そこには前に会長さんが作った教頭先生人魚の像が飾られています。鈍い金色に光るジルナイト製の。
「あれを作った時の撮影会を覗き見するのは愉快だったよ。似合わないよね、人魚の尻尾。…その格好で泳ぐとなったら見学しなくちゃ損じゃないか。…うっかり溺れさせそうになったけれども」
「「「は?」」」
ソルジャーが見学に来たら教頭先生が溺れかけた…って、どういうこと? まさかソルジャーにプールに突き落とされたとか? 
「…プールの底から見上げていたらハーレイと目が合ったんだ。ガボッと口から泡を噴いてね、息が続かなくなっちゃったらしい」
思い出し笑いをするソルジャーによると、教頭先生は必死に水面を目指したそうです。しかし人魚の尻尾では上手く泳げず、溺れそうになった所でソルジャーが教頭先生を引っ張り上げて…。
「ブルーに思い切り叱られちゃった。黙って来るなんて最悪だ、ってね。…プールの底に座ってるっていうのは非常識かい? ぼくは青の間の水に潜って過ごしてたことも多かったから、何とも思っていなかったけど」
「「「………」」」
どう考えても非常識というものでしょう。シールドを張っていたのでしょうが、人間は普通、水中では呼吸できません。教頭先生が仰天したのも無理はなく…。
「そんな怖い目で見なくても…。ちゃんと人工呼吸はしたし、その縁でキスの御褒美っていう飴も出来たし」
終わり良ければ全て良し、とソルジャーは得意げに微笑んでいます。…飴の由来は分かりました。教頭先生、溺れたお蔭で夢を貰えたみたいです。会長さんのキスを励みに精進できたことでしょう。最終的には裏切られちゃったわけですが…。
「ブルーがノコノコ出てきた以上、特訓のことは秘密にせざるを得なかったんだ」
唇を尖らせる会長さん。
「御褒美のキスだけで済めばいいけど、何をやらかすか分からないだろ? 日頃の行いが行いだから」
「「「………」」」
否定する人はいませんでした。ソルジャーといえばトラブルメーカー。関わり合いになったが最後、巻き添えを食って酷い目に…。教頭先生の特訓を見られなかったのは残念ですが、会長さんの英断に感謝しておくべきなんでしょうね。

ソルジャーの登場で教頭先生の技は飛躍的に向上したのだ、と会長さんは語りました。一日分のノルマをこなせばソルジャーがキスをし、本番のショーを終えた後には会長さんのキスが待っている…と耳元で甘く囁くのです。発奮するのは至極当然。日々頑張って頑張りまくって、大水槽なら十分に潜れるレベルに到達したのは球技大会の頃だったとか。
「後はおさらい程度でいいかな…と、ぼくは思っていたんだけどね」
会長さんが立って行って棚から1冊の本を取り出しました。淡いピンクの表紙のそれは…人魚姫絵本。人魚姫になった教頭先生の愛と冒険の物語です。この本がどうかしたんでしょうか?
「ブルーがぼくの家で昼寝をしてたって言っただろう? おやつを食べてからハーレイの練習が始まるまでの間にね。…ブルーは昼寝に来ていたついでに人魚姫絵本を熟読したんだ」
「とても愉快な本だからねえ。これを見てると素潜りだけではつまらなくなって…。もっと人魚らしく躍動感のある見せ場を作れないかな、とブルーに相談してみたら…イルカショーを提案されたってわけ」
げげっ。それじゃイルカショーは会長さんとソルジャーが二人で練った企画ですか? 会長さんの独断だとばかり思っていたのに…。
「ぼく一人でも思い付いたかもしれないけれど…デビューは来年以降だったろうね。今年は無理だ。素潜りダイバーで満足してたし」
あれでも十分笑えるから、と会長さん。確かに私たちも大満足だった記憶があります。あの後にイルカショーが無かったとしても、印象に残る校外学習になっていたのは確実で…。
「そうなんだ。だけどブルーに言われてしまうと、人間、欲が出てくるものでね。何か使えそうなイベントは…と思った所へぶるぅが顔を出したんだ。今年もイルカと遊びたいなぁ、って」
「「「………」」」
「その時、ぶるぅはシンクロの練習を始めてた。元々はテレビで見たらしくって、やってみたいと言っていたから好きにやらせていたんだけれど…イルカと遊ぶならショーに出させてやらなきゃね。でもシンクロがイルカプールに映えるかどうかを考えてみたらイマイチだった」
イルカと動きがちぐはぐになるし、と会長さんは大真面目でした。
「ほら、シンクロは手足の動きがメインだろう? イルカには手もないし足もないよね。去年みたいにトレーナーの代わりに泳ぐしかないかな、とプールの方を見たらハーレイ人魚が目に入ってさ。…あれで一発閃いた。イルカと一緒にショーをするなら人魚だとね。ハーレイ人魚をイルカプールで披露しよう、と」
「そういうこと」
ソルジャーが大きく頷いています。
「魚…ううん、イルカは魚じゃないんだったかな? とにかく尾びれのある生き物とショーをするなら人魚はとてもお似合いだ。ハーレイがマスターした人魚の泳ぎを素潜りだけで終わらせるのは惜しいじゃないか。ダイナミックな動きが出来るイルカショーなら映えるってものさ」
会長さんとソルジャーは水族館までイルカショーを見に行き、出来ると確信したのだとか。最初は会長さんのサイオンで教頭先生を補助する予定が、「そるじゃぁ・ぶるぅ」も人魚ショーをやると言い出して…サイオンの方はそっちに丸投げ。同じプールに入るのですから、適役だろうというわけです。
「あのね、ぼくの尻尾ね、お揃いなんだよ♪
ソファに腰掛けていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が足をピョコンと動かしました。両足が見事に揃ってますから人魚レッスンの成果でしょう。ショーで見たのは真珠色の鱗の尻尾でしたし、お揃いというのは教頭先生人魚のショッキングピンクの尻尾と同じメーカー製のヤツって意味かな…?
「ううん、ハーレイとお揃いじゃなくて!」
見てて、と廊下へ駆け出していった「そるじゃぁ・ぶるぅ」は銀色の尻尾を抱えて戻って来ました。教頭先生人魚の尻尾よりも遥かにサイズが小さく、それに合わせて鱗も小さめ。可愛いでしょ、と自慢してからサイオンでパパッと装着します。
「ぶるぅだと着替えは一瞬なんだ」
会長さんが人魚に変身した「そるじゃぁ・ぶるぅ」の頭を撫でて。
「…ハーレイの方もサイオンを使えば一発だけどね、ぼくは手伝いたくないし……変身の過程で情けない思いをして貰うのも楽しみの内だし、あっちは自力で悪戦苦闘。下着は今でもアレのままだよ」
アレとは紫のTバックです。人魚になるには専用下着が必要だから、と会長さんが押しつけたモノ。それを履かないならノーパンしかない、なんて脅迫してましたっけ。そして「そるじゃぁ・ぶるぅ」の方はノーパンなのだと聞いています。で、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の銀色の尻尾は一体何とお揃いだと…?
「かみお~ん♪」
雄叫びが響き渡って宙に舞ったのは銀色の人魚。…あれ? ソファにも銀色の人魚が座ってますが…?
「こんにちは~!」
宙返りして降り立った人魚がピョコンと頭を下げました。
「今日は一緒に泳げるんだよね? ぶるぅズ再結成だよね?」
「「「ぶるぅズ!?」」」
二人目の人魚はソルジャーの世界から来た「ぶるぅ」でした。お揃いの尻尾というのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」と「ぶるぅ」のを指していたのです。どちらも銀色の人魚の尻尾で、まるで見分けがつきません。
「…ハーレイをしごいている間にね、ぶるぅが暇になっちゃって…。子供の方が断然覚えが早いんだ。ハーレイと一緒に練習してても、どんどん先へ進んでしまう。そしたらブルーが遊び相手を呼んでくれてさ」
「そうなんだ。子供同士で泳いでる内にグループ名までついちゃった。ぶるぅズ…って誰が呼んだんだっけ? ぼくかな? それとも君だった?」
忘れちゃったよ、とソルジャーが言い、会長さんも忘れたようです。銀色の二人の人魚はプールで泳ぐ気満々でした。会長さんもそのつもりで貸切予約を入れていたらしく、私たちは瞬間移動でフィットネスクラブへ行くことに。『ぶるぅズ』の泳ぎはどんなのでしょう? なんだか楽しみになってきたかも~!




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