シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
バニーちゃんスタイルのジョミー君たちのラインダンスで締め括られた学園祭は好評でした。初公開だった「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋での喫茶店ともども今でも熱く語られています。特に1年A組の生徒はお気楽極楽、二学期の期末試験も会長さんと共に楽々クリア。一番最後の科目のテストと終礼が済むと打ち上げに繰り出して行きましたが…。
「…今度は何処に行くんだっけ?」
ジョミー君が「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に向かう途中で尋ねました。
「ちゃんこ鍋屋じゃなかったか? 寒い季節は鍋がいいとか言っていたような…」
そう答えたのはキース君です。自慢のヘアスタイルは自前ですけど、家ではカツラと偽る生活。五分刈りにしたことになっているので、元の長さを取り戻すまでの過程をサイオニック・ドリームで調節しながら朝晩のお勤めをしているそうです。一月の末くらいまでかかりそうだという気の長い話に、私たちは同情しきりでした。
「そっか、ちゃんこ鍋ならあそこかな? パルテノンで人気のお店の…」
「ああ、多分な」
ジョミー君が挙げたお店はパルテノンで大評判の高級店。お店の構えもさることながら、素材の良さで知られています。グルメ大好き「そるじゃぁ・ぶるぅ」もお気に入りですし、今回はきっと…。
「かみお~ん♪ 期末試験、お疲れ様!」
元気一杯に出迎えてくれる「そるじゃぁ・ぶるぅ」の隣には先に帰った会長さんが座っていました。試験終了と同時に席を立つなり教室を出て行ってしまったのです。これも毎度のことですが…。
「やあ。お先に休ませてもらっているよ、年寄りは疲れやすいから。…で、今日の打ち上げパーティーだけど…」
会長さんが告げた行き先はジョミー君の予想でドンピシャリ。お値段がとてもゴージャスですから、この流れで行けば絶対に…。
「ちゃんと個室を予約してあるよ。それじゃ資金を貰いに行こうか」
あぁぁ。やっぱりいつものパターンです。会長さんは私たちを引き連れ、先頭に立って本館の奥の教頭室へ。重厚な扉を軽くノックし、「失礼します」と声をかけると。
「こんにちは、ハーレイ」
笑顔で扉を開けた会長さんに、教頭先生はフウと溜息をつきました。
「来たか…。まあいい、今日も多めに入れておいたが、これで勘弁して欲しいものだ」
差し出された熨斗袋を受け取り、中身を数えた会長さんはニッコリ笑って。
「これだけあれば十分だよ。いつもありがとう」
「は?」
「ありがとう、って言ったんだってば。それとも、もっと毟られたい? 予算は多ければ多いほど嬉しいのは間違いないけどさ」
「い、いや……。正直、これ以上は出せんのだが…」
逆さに振っても無理なのだ、と呻く教頭先生。会長さんは「そうだろうねえ」と頷いています。
「学園祭でスペシャル・セットに注ぎ込んだお金、半端な額じゃなかったもんねえ…。だから今回はこれで許してあげるんだよ。また貯めておいて貢いで欲しいな」
待ってるからね、と軽く手を振り、会長さんは教頭室を後にしました。騒ぎにならずに引き揚げるなんて実に珍しいパターンです。気紛れな会長さんだけに前例が無いこともないですけども、学園祭で派手に毟って満足しているというわけでしょうか?
「まあね。それにハーレイ、これから何かと物入りだから。年末年始は財布に厳しい」
「「「………」」」
それを承知で打ち上げパーティーの費用を貢がせるのも酷いんじゃないかとは思いましたが、誰も口にはしませんでした。ちゃんこ鍋屋へいざ出発!
タクシーに分乗してパルテノンのお店に着いて…個室に入ると早速お鍋が運ばれて来ました。黄金色の透明なスープは毎日十五時間もかけて作られるそうで、そこへ最高級のお肉や新鮮な魚介類を入れて煮込んで次から次へと…。
「ね、ね、美味しいでしょ?」
ぼくのお気に入り、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がスープを掬いながらニコニコ顔。
「いつもブルーと食べに来てるし、フィシスが一緒のこともあるんだ♪」
なるほど、会長さんのデートスポットでもありましたか…。フィシスさんが一緒だとお洒落なお店や高級店になるのでしょう。私たちは打ち上げパーティーの時くらいしか高級店には縁が無いんですけど。
「あ、そうだ。フィシスで思い出した」
会長さんがお箸を置いて。
「実は今年のクリスマスだけど、久しぶりにフィシスと過ごしたいんだ。去年も一昨年も君たちとパーティーだったからねえ、たまには二人でゆっくりと…。まあ、ぶるぅもいるから厳密に言えば三人だけどさ」
「そうなんだ…」
ちょっと残念、とジョミー君。
「ぶるぅの誕生日もクリスマスだよね? そっちのパーティーもなくなっちゃうの?」
「パーティーはするよ? フィシスと一緒に」
「そうじゃなくって、ぼくたちは? ぶるぅの誕生日のお祝いは無し?」
ジョミー君の言葉に私たちも寂しくなりました。クリスマスと言えば会長さんの家で賑やかに二日続きのパーティーだったのに、今年はそれが無いなんて…。いえ、パーティーがなくなったのも残念ですけど、お世話になってる「そるじゃぁ・ぶるぅ」の誕生日を一緒に祝えないのは残念です。バースデープレゼントは後で渡せばいいのでしょうが…。
「ぶるぅの誕生日を祝いたかったのかい?」
会長さんに訊かれて素直に頷く私たち。今年もパーティーだとばかり思っていたのに…。
「毎年賑やかにやってたからねえ…。でもフィシスと二人で過ごす時間も大事にしたいし、クリスマスだけは譲れない。…どうだろう、ぶるぅの誕生日パーティーは改めて仕切り直しというのは?」
「「「仕切り直し?」」」
「うん。クリスマスが済んでお正月までは暇だろう? その間の何処かでパーティーをするっていうのはどうかな、くの家で。…ね、ぶるぅ?」
「お誕生日パーティーが二回になるの? それって最高!」
わーい! と飛び跳ねる「そるじゃぁ・ぶるぅ」。私たちも異存はありませんでした。パーティーの日取りは会長さんが決めることになり、私たちは予定を空けておくことに。
「じゃあクリスマスは俺たちだけでパーティーするか」
誰かの家で、とキース君が言い、シロエ君が。
「先輩の家はダメですよねえ。宿坊の部屋は広いですけど…」
「いや、いいが? クリスマス・ツリーも問題はない」
「ダメだって! お寺じゃ雰囲気台無しだよ」
お店にしよう、とジョミー君。結局、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のバースデープレゼントの買い出しがてら、食べ物やケーキを仕入れて持ち込みOKのカラオケボックスへ行くことに。それが一番無難そうです。でも今からじゃ予約で一杯じゃないのかな…?
「大丈夫だよ。キャンセル待ちにしておきたまえ」
会長さんが微笑みました。
「楽しみにしてくれていたパーティーを勝手に延期にしちゃったんだし、部屋くらいぼくがなんとかするさ。そのくらいの顔は利くんでね」
サイオンで小細工という手もあるし、と会長さんは笑顔です。よーし、今年のクリスマス・パーティーはカラオケボックス! 「そるじゃぁ・ぶるぅ」の十八番の『かみほー♪』なんかを歌ってみるのも楽しいかも…。ちゃんこ鍋を食べながら私たちは大いに盛り上がりました。カラオケボックスに仕切り直しのパーティーに…。冬休みが来るのが待ち遠しいです~!
そして迎えた終業式の日。教室の一番後ろに会長さんの机がありました。おまけに「そるじゃぁ・ぶるぅ」まで…。いったい何が始まるんでしょう?
「忘れたのかい? ほら、お歳暮だよ」
会長さんがパチンとウインクして。
「去年は宿泊券だっただろう、先生の家の。今年も何かあるようだから来てみたんだ」
「かみお~ん♪ 去年はお留守番だったけど、今度はブルーが大丈夫だよ、って! ぼくもお歳暮ほしいもん!」
ちゃんと生徒をしてるもん、と胸を張っている「そるじゃぁ・ぶるぅ」。校外学習だの水泳大会だのとイベント限定のような気もしますけど、確かに1年A組の生徒には違いありません。当然、冬休み前に先生方が下さるというお歳暮を貰う権利もあるわけで…。そこへグレイブ先生が現れ、私たちは講堂へ。終業式は校長先生の退屈な訓話に、教頭先生による注意事項に…。
「以上が冬休みの生活に対する注意点だ。校則を守り、節度ある生活をするように。それから…」
教頭先生が咳払いをして続けました。
「去年に引き続き、今年も我々教師一同から諸君にお歳暮を贈ろうということになった」
ワッと湧き立つ全校生徒。去年の先生の家での宿泊券は大好評で、ゲットし損ねた生徒はリベンジのチャンスをじっと待ち続けていたのです。ところが…。
「内容は去年と同じではない。そして入手方法も去年とは違う。今年はオークション形式だ」
「「「えぇぇっ!?」」」
たちまちブーイングが巻き起こりました。オークション形式となればモノを言うのはお金です。そんなのフェアじゃありませんよう~!
「静粛に!」
マイクを握る教頭先生。
「これは職員会議で決まったことだ。お歳暮はチャリティー・オークションで競り落としてもらい、売り上げは施設に寄付される。また、金額にも上限を設け、形式もそれに準ずるものとする。…ただし金額が小さすぎても面白みに欠けると思うだろう。そこでゼロを加えることになった」
「「「???」」」
なんのこっちゃ、と誰もが首を傾げました。上限だのゼロを加えるだのって、それってどんなオークションですか? ここで説明係として登場したのはお馴染みのブラウ先生でした。
「オークションに参加するには事前登録が必要なんだよ。使用できる金額もその時に決まる。…食堂のランチは知ってるね? 格安ランチから豪華ランチまでの各種のコース、好きなのを選んで該当料金を支払ってくれれば登録成立。オークションで使える金額はランチの価格にゼロを二個つけた数字になるのさ」
格安ランチなら三万だ、とブラウ先生は例を挙げました。
「もちろん最上級の豪華ランチで登録すれば十万ということになる。手持ちのお金が続く間は何個でも落札可能になるし、入札したいものが無かった場合はオークション終了後に手数料を差し引いて返金されるよ」
へえ…、とあちこちで声が上がりました。参加料金の返金システムはちょっと魅力かもしれません。
「そしてここからが肝心だ。同じ品物が複数ある場合は落札者も複数出ることがある。これは問題ないだろう。逆に一つしかない品物を競り合う場合、上限が豪華ランチ止まりではつまらない子もいるだろうね。そこで共同入札を許可しよう。何人かで組めば人数分の豪華ランチ価格の合計額まで吊り上げられるというわけさ」
講堂がどよめきに包まれます。誰かと組むのは簡単ですが、そこまでやって落札するほどの価値ある品が出るのでしょうか? まず商品のカタログくらいは配って欲しいと思うのですけど…。しかし。
「いいかい、このオークションはサプライズだから事前に品物は明かさない。出品者は教師だとだけ言っておこうか。この講堂がそのままオークション会場になる。参加したい子は登録を受け付けるから前の机に」
「「「………」」」
ゴクリと唾を飲む生徒たち。ブラウ先生や教頭先生が立つ舞台のすぐ下にエラ先生とヒルマン先生が細長い机を置いて座っています。ミシェル先生とシド先生が助手をするらしく、二人の後ろに立っていて…。
「誰も登録しないのかい? だったらオークションは中止だね。…ハーレイ、挨拶をお願いするよ」
終業式終わり、とブラウ先生が言いかけた時、ダッと飛び出したのは三年生の一部でした。私たちと同じ年に入学してきた懐かしのクラスメイトです。不思議一杯のシャングリラ学園に馴染んだだけあって「イベントの類は参加してなんぼ」と吹っ切れたのかもしれません。
「格安ランチでお願いします!」
ポケットからコインを取り出す男子の名前をエラ先生が記録し、ミシェル先生が番号の書かれた札を渡しました。ヒルマン先生の所にも既に何人か並んでいます。札はオークションの時に自分で上げるヤツでしょう。テレビでしか見たことありませんけど…。
「さあ、ぼくたちも並ぼうか」
会長さんに声を掛けられ、私たちは思わず「えっ?」と返していました。
「えっ、じゃないよ。さっさと並んで登録しなくちゃ。…ぶるぅもぼくも豪華ランチだ。君たちも豪華ランチにしたまえ」
「そんなぁ…。金欠になってしまうよ、ぼく!」
悲鳴を上げたのはジョミー君です。
「ぶるぅのバースデープレゼントも買ってないのに、豪華ランチ代なんか出せないってば! 格安ランチが精一杯! だってバイトもしてないし…」
「登録料はぼくが出す。だから豪華ランチ」
君たち全員、と会長さんはポケットから財布を出して私たちの手に紙幣をしっかり握らせました。
「心配しなくても、スポンサーはハーレイだから。学園祭のスペシャル・セットで毟った分から持って来たんだ。…いいね、豪華ランチで登録すること。そして入札はぼくと共同」
げげっ。会長さんが登録料を出すと言うからには逆らえませんが、共同入札って何を落とす気? 私たちにはサッパリ読めない出品物を知っているのは確かです。妙な商品でなければいいけど…と思いながらも登録しないわけにはいきませんでした。登録番号入りの札を渡されたものの、会長さんと共同ってことは自分の札は使えませんねえ…。
お歳暮ゲットがオークション形式と知らされた時のブーイングっぷりとは打って変わって、講堂の中にはオークション用の札を持った生徒が溢れていました。入札しなかった場合は手数料を引いた残りが戻ってくるとあっては、ダメで元々、あわよくば…の精神です。ブラウ先生がエラ先生たちの報告を受けて笑いながら。
「なんだい、結局全校生徒が登録しちゃったみたいじゃないか。それじゃオークションを始めていいかい?」
「「「はーい!!!」」」
期待に満ちた視線の中で壇上に登場したのはオークション用のハンマーを持ったシド先生。校長先生たちが訓話に使う演台にハンマーが置かれ、ブラウ先生が。
「最初の出品物はサッカーボールだ! ただし普通のボールじゃない。ここにサインが…」
壇上のパネルに映し出されたボールの写真にワッと歓声が上がりました。大写しになったサインの名前はプロサッカーの有名選手。いったい何処からこんなモノが…? 私たちの疑問に答えるようにブラウ先生は明るい声で。
「ほうら、いいモノが出てきたろう? シド先生はプロサッカーの世界に友達が多いから頼んで貰った。他にも色々登場するよ。さて、このボールは最低落札価格が百としておく」
「「「百!?」」」
登録価格にゼロを二つ加えた数字がオークションでの手持ち金額。格安ランチで登録した人でも三万は持っているのですから、百っていうのは普通のお金でいったい幾ら? 破格の安さなのは間違いありません。
「じゃあ、いくよ。入札開始!」
ブラウ先生の声が終わらない内にあちこちから札が上がりました。
「百!
「二百!」
「三千!!!」
景気よく跳ね上がってゆくボールの価格。アッと言う間に格安ランチ価格になるかと思ったのですが…。
「二万出ました!」
シド先生がいつもと違った敬語を使って会場中を見回します。
「他にどなたかいらっしゃいませんか? 二万です!」
「「「………」」」
新たに札を上げようとする人はいませんでした。シド先生がハンマーを振り下ろして。
「サッカーボール、二万で落札されました! おめでとうございます!」
落札者の男子が拳を突き上げ、周囲で拍手が起こっています。サイン入りボールが格安ランチ価格に届かないなんて、いったいどうして…?
「もっといいモノが出てきた時にお金が無ければ悲しいだろう?」
会長さんが自分の札を弄びながら言いました。
「この辺で手を引いておくのが上策だ、と他の生徒が思ったんだよ。この後も激しい競り合いになる」
「そんなものか?」
キース君の問いに会長さんは「そんなものさ」と微笑んで。
「ご覧よ、次もサッカーボールだ。サインの名前は…」
今度も有名選手でした。白熱する男子生徒とサッカー好きの女の子たち。落札価格は二万を越えていたりして…。何点かサッカーボールが続いた後で競りに出されたのは意外な品。
「さあ、今度のは珍品だよ!」
ブラウ先生が楽しそうに紹介しました。
「うちの学校の限定商品! 特別生だけが注文できる幻のメニュー、ゼル特製とエラ秘蔵に使える食券だ! これをゲットすれば食べられる日時の案内状がセットで貰える。特別生に混じって幻のメニューを食べてみたい人は落札しとくれ、ペアチケットだから共同入札するのもいいね。…はじめっ!」
「一万!」
いきなり飛び出す万単位。サイン入りのサッカーボールよりもレアものですか、幻のメニュー…。そりゃ私たちだって初めて食べた時はドキドキでしたし、その後も数えるほどしか食べてませんけど。おっと、三万!? 格安ランチを越えましたか!
「五万!」
「十万!!」
「十五万!!!」
ついに出ました、共同入札! 一人じゃ豪華ランチ価格の十万が限度ですものね。ゼル特製とエラ秘蔵は共同入札に出た女子二人組が十八万で落札しました。本来のゼル特製は一人分がオークション価格に換算すれば幾らでしたっけ? うーん、でも…一般生徒が食べたいと思って出すんだったらいいのかな…?
こんな調子でオークションは進んでいきました。まりぃ先生が描いた会長さんの肖像画が出品されたのには驚きましたが、落札者はなんとアルトちゃんとrちゃん。他の女子生徒をあっさり振り切り、豪華ランチ価格で共同入札、二十万です。でも肖像画は一枚しかないのに喧嘩になったりしないんでしょうか?
「ああ、その点は大丈夫だよ。あの二人ならしっかりしてる」
会長さんがクスクス笑ってアルトちゃんたちを見ています。
「まりぃ先生の絵だから、同じものを描いて貰えるように頼みに行こうと決めたみたいだ。それまでは一日交替で寮の部屋に飾ろうと相談しているよ。可愛いよねえ。…そうだ、まりぃ先生に一筆書こうかな。二人の友情のために追加で一枚お願いします…って」
流石シャングリラ・ジゴロ・ブルーです。きっと代金もアルトちゃんたちに代わって会長さんが支払うのでしょう。オークションの方は素敵な家具が出品されたり、有名な役者さんとのお食事券が出てきたり…と盛りだくさんな内容でした。入札しない人は一人もおらず、競り負けた人が共同入札で別のオークションに打って出るのは最早常識。
「ヒートアップしてきたねえ…。まあ、これだけの人数がいれば余裕だろうとは思うけどさ」
会長さんは未だ入札を指示しようとせず、私たちは待機状態です。七人グループと会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の九人ですから九十万までOKですし、そこまでの高額商品はまだ出ていません。会長さんが狙っているのは何なのでしょう? と、ブラウ先生がマイクを握り直して。
「オークションを楽しんでくれてるみたいだねえ。そろそろ終わりになるんだけども、最後の商品だけは予告しとこう。各先生とホームパーティーを開く権利が出品される」
「「「えぇっ!?」」」
「もちろん先生を招いてもいいし、先生の家に行ってもいい。ただし一対一が許されるのは同性同士の時だけだ。女子が男の先生に入札するなら二人以上の共同で。男子が女の先生相手に入札する場合は人数制限は設けないけど、落札したのが男子のみの場合は先生の方に女の先生が一人セットでつく。…風紀上の制限ってヤツだ」
あちこちで起こる笑いの渦。でも、いざ入札が開始されると真剣勝負の連続です。シド先生を競り落とすのに女子が十五人も豪華ランチ価格で共同入札したのにはビックリ仰天。会長さんの狙いは薄々見当がついていますが、九人だけで大丈夫…?
「さてと、あたしまで高値で落札してくれて感謝するよ。いよいよ最後の商品だ。シャングリラ学園教頭、ウィリアム・ハーレイ!」
「二十万!」
え。いきなり二十万って誰ですか? 番号札を上げていたのは、なんとパスカル先輩でした。アルトちゃんとrちゃんが両脇から縋るような目で見ています。会長さんの肖像画で一文無しになった二人のために数学同好会が立ち上がりましたか! ということは…今までパスカル先輩たちは競り負け続けてきたんですよね、いきなり豪華ランチ価格の共同入札。
「三十万!」
会長さんが札を差し上げ、パスカル先輩が諦めたように札を下ろしました。数学同好会の人数からして四十万はいけるものだと思ったのですが…。
「他のオークションで使っちゃったんだよ、パスカルたちは。二十万が限度と見たね」
会長さんの言葉が終わらない内に柔道部の男子が札を差し上げ、教頭先生の値段は五十万に。
「六十万!」
「七十万!!」
ひぃぃっ、どんどん上がってますよう! 柔道部は人数が多いんですし、これは九十万でもダメかも…。
「八十万!」
「八十万と百!」
へ? なんだか急に変な単位が出ていませんか? 百って…妙に半端な数字ですけど?
「どうやらアレが限界らしい」
会長さんが勝ち誇った笑みを浮かべて、壇上のシド先生が。
「八十万と百です。他においでになりませんか?」
「九十万!」
澄んだ声が講堂に響き、会長さんは教頭先生を見事落札。教頭先生が嬉しそうな顔で会長さんを見ています。明らかにオモチャにされるんじゃないかと思いますけど、そんなことは微塵も思っていないんでしょうねえ。それともオモチャにされてもいいと? 教頭先生、素晴らしすぎます…。
お歳暮チャリティー・オークションは大盛況に終わり、登録料の払い戻しを申し出る生徒はいませんでした。私たちは終礼の後で「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に出掛け、会長さんが差し出してきた教頭先生とのホームパーティー券を覗き込み…。
「楽しかったね、オークション! どんなパーティーにしようかなぁ…」
ハーレイを呼んでくるのがいいよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がはしゃいでいます。無邪気な子供の「そるじゃぁ・ぶるぅ」はお客様だと喜んでいますが、教頭先生、オモチャ街道一直線? 会長さんもニヤニヤしてますし…。
「…そのパーティー。ぶるぅの誕生日の仕切り直しとセットがいいね」
ああ、そういえば今年は仕切り直しの誕生日パーティー! なんて名案なんでしょう…って、ええっ!?
「こんにちは」
会長さんの声だと思っていたのに、挨拶してくるそっくりの声音。紫のマントを翻したソルジャーが部屋の中央に立っていました。
「オークション、ぼくのシャングリラから見てたんだ。なかなか粋なイベントをするよね、こっちの世界の長老たちは。…それでさ、ハーレイを呼ぶパーティーだけど。ぼくのぶるぅも誕生日パーティーをしたがってるし、二人分合わせて仕切り直しでパーティーしようよ、ハーレイを呼んで」
ね? と赤い瞳を煌めかせるソルジャーはやる気満々でした。そりゃあ確かに去年も一緒に誕生日パーティーをしましたけれど、今年もですか? しかも教頭先生つきって、なんだか嫌な予感がします。でもパーティーはやりたいですし、私たち、いったいどうすれば…?