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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

試験と対策と  第1話

シャングリラ学園に入試の季節がやって来ました。今年も会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は合格グッズ販売の準備に勤しんでいます。試験に落ちない風水お守りと謳った「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手形パワー入り天然石のストラップとか、以前私がお世話になった格安グッズの『パンドラの箱』と呼ばれるクーラーボックスとか。
「できたぁ!」
やっと完成、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がストラップをテーブルの上の箱に入れました。天然石のビーズへの手形押しに始まるストラップ作りもこれで終了。会長さんが「ご苦労さま」と言い終えない内に「そるじゃぁ・ぶるぅ」はキッチンの方へ走って行って…。
「みんな、お待たせ~! ごめんね、毎日おやつも作らなくって」
今日もケーキ屋さんのだけれど、と運ばれて来たのはバラエティー豊かなケーキが盛られた大皿でした。飲み物も先に用意してくれていたのを温かいものと取り換えてくれて、久しぶりにのんびりみんなでティータイムです。昨日までは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作業中だったため、なんとなく誰もが遠慮がちで…。
「今年も無事に完成か…」
キース君がストラップの箱から1個取り出して眺めています。
「これにぶるぅの手形パワーが入っているというのが凄い。入試でいい点が取れるんだろう? そういえば前にアルトさんとrさん用に特別製のを作っていたな。…卒業までの全部の試験で満点が取れるとかなんとか言って」
「ああ、あれね」
答えたのは会長さんでした。
「あの時点ではアルトさんたちは仲間になってなかったし…。特別生になれるっていうのをフライングで話すのは許されないし、かといって…大切な女性を不安にさせるのはマズイじゃないか。だからプレゼントしたんだけれど、結局、必要無かったね。ぼくたちと同じ1年A組になっちゃったから」
「あんたが裏で手を回したんだと思ってたんだが、違うのか? クラス編成くらい簡単だろう」
キース君の問いに会長さんはアッサリ頷いて。
「ご名答。アルトさんたちに仲間になって欲しかったから、君たちと同じクラスにしといた。そしてその後は…みんなも知ってるとおりの展開。これから先もアルトさんたちも君たちも1年A組が定位置だよ」
「それってグレイブ先生も?」
ジョミー君が尋ねましたが、今度はすぐに答えは返らず…。
「どうだろうね。…クラス担任は先生方が決めるんだ。1年A組が鬼門だってことはバレバレなんだし、誰もが避けそうな気がするよ」
だから謎、と会長さんは肩を竦めて。
「担任もぼくが決められるんなら、ぜひハーレイにお願いしたいな。教頭だから無理だとか言って断られるのは目に見えてるけど、ハーレイが担任になってくれたら愉快なクラスになるのにねえ…」
「しかし本当に無理なんだろう?」
教頭だから、とキース君。
「そうなんだよ。例外的にぼくだけを担任している特殊な立場。…いっそ教頭をクビになったらどうだろうとも思ったけれど、シャングリラ号のキャプテンである以上は教頭で決まりなんだよね」
つまらないや、と会長さんは不満そうです。けれど教頭先生の立ち位置が重要なことは私たちにも分かっていました。会長さんへのセクハラ事件で謹慎処分に処された時の長老会議で色々と事情を聞きましたから…。
「教頭のままでいいじゃないか。今でも十分あんたのオモチャだ」
キース君の鋭い指摘に私たちはプッと吹き出し、それからは「もしも教頭先生が1年A組の担任になったらどうなるか」という馬鹿話に花が咲きました。シャングリラ学園は今日も平和です。ストラップ作りも終わりましたし、入試まではまだ一週間以上ありますし…。外は雪でも「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋はポカポカ、こんな冬の日もいいものですよね。

翌日から受験生の下見のために校内が開放されました。休み時間には校舎の中でも受験生の姿を見かけます。私たちにもそんな時代がありましたっけ。サム君と私は下見に来ていて「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に迷い込み、サム君は「頭を噛んで貰えば合格する」という噂を信じて噛んで貰うために「そるじゃぁ・ぶるぅ」を殴ってしまい、私はお部屋の豪華さからして大金持ちの生徒なのかと思ったという…。
「ごめんな、ぶるぅ。殴ってしまって…」
サム君がまた謝っています。殴られた本人は気にしていないのに、もう何度目の謝罪でしょうか。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「大丈夫だったもん♪」とニコニコ笑ってアーモンドクリームパイの切り分け中。甘い香りで美味しそう!
「うん、本当に美味しそうだね」
いい所に来た、と聞こえた声に私たちは一斉に顔を上げました。
「「「!!!」」」
「こんにちは。ぼくにも一切れ貰えるかな? あ、ぶるぅの分もあると嬉しいけれど」
当然のように空いたソファに腰を下ろしたのは紫のマントを着けたソルジャー。ま、また来ちゃったんですか、この人は! いい所も何も、最初からパイを狙っていたのに決まっています。
「君に一切れ、ぶるぅに一切れ。…ダメだなんてケチは言わないけどさ」
会長さんが切り分けたパイをお皿に載せてソルジャーに渡し、「そるじゃぁ・ぶるぅ」はキッチンから持ち帰り用の箱を取って来ました。詰められたパイはアッという間に姿を消して「ぶるぅ」の所へ運ばれたようです。
「美味しいね、これ。ぶるぅもとっても喜んでるよ」
一口でペロリだ、と笑うソルジャー。大食漢の「ぶるぅ」にかかると一切れは一口サイズでした。もしもこちらに来ていたならば、お代わりも要求したでしょう。ソルジャーだけでも私たちの取り分が減るのに「ぶるぅ」まで来たら大変ですよ…。
「でね、今日はお願いがあって来たんだけれど」
パイを食べ終えたソルジャーは大皿に残っている分をチラチラ見ながら口を開きました。あの目は明らかに残りのパイを意識しています。
「…お願い? パイのお代わりかい?」
どうぞ、と会長さんがソルジャーのお皿に素早くパイを載せたのですが。
「気が利くねえ。…だけどパイとは別件なんだ」
「だったら食べなきゃいいだろう! 物を頼もうっていう態度には全然見えないんだけど?」
「お菓子には目が無いんだよ。君だってよく知ってるくせに」
まずは食べよう、とソルジャーはお代わりのパイにフォークを突き刺して黙々と…。お願いって何を頼む気でしょう? パイじゃないならチョコレートとか? そろそろバレンタインデーのシーズン入りではありますけれど…。確か去年もデパートの特設売り場のカタログを持って来ていた覚えがあります。
「ふうん…。今年もチョコを頼みに来たとか?」
そう言ったのは会長さん。けれどソルジャーは首を横に振り、「ごちそうさま」とフォークを置いて。
「チョコも欲しいけど、それとは違う。頼みたいのは手形なんだ」
「「「手形?」」」
「そう、手形。ぶるぅが押してたあの手形だよ」
こないだビーズに押していたよね、とソルジャーは膝を乗りだしました。えっと…合格グッズを希望だなんて、ソルジャー、何か試験を受けるんですか? ソルジャーの世界のことはサッパリですけど、あちらの世界のシャングリラ号ではソルジャーに対する試験があるとか…?
「そんなもの、何に使うのさ?」
必要だとは思えないけど、と会長さんが聞き返します。
「ソルジャーに試験なんかは無い筈だ。クルーの試験で使う気だったらお勧めしないよ、実力がつくわけじゃないからね。あれはあくまで一時的なものだ」
「そのくらいのことは知ってるさ。でも…販売用の手形はそういうものかもしれないけれど、本物はもっと効力がある。そこの三人がその証拠だ」
ソルジャーが指差したのはキース君とサム君、スウェナちゃんでした。
「その三人は最初からサイオンを持っていたわけじゃないと聞いている。フィシスだってそうだ。…ぶるぅが手形を押した人間はサイオンを持ち、ぼくの世界で言うミュウになるんだと思ったけどな」
「…誰かミュウにしたい人間でも…?」
不安そうな顔の会長さん。
「だとしても、ぶるぅは貸せないよ。その人間を連れて来たまえ。君の世界は特殊な場所だし、そんな所で人間の住む場所に子供のぶるぅを行かせたくない」
危険すぎる、と眉を寄せる会長さんにソルジャーは再び首を横に振って。
「違う、違う。そういうのだったら自力でなんとかしてみるさ。そうじゃなくって、ぶるぅならではの手形の力を借りたいんだ。試験に合格させることが出来て、普通の人間をミュウにも出来る。だったら夜の試験なんかもドーンとオッケーなんじゃないかと」
「…は?」
「夜の試験さ。試験官はぼくで、受験するのはハーレイなんだ」
「「「えぇっ!?」」」
なんですか、それは? ひょっとしなくても大人の時間のお話ですか…? 大混乱の私たちにソルジャーはニッコリ微笑んで。
「十分通じたみたいだね。最近、またまたマンネリ気味でさ…。こういう時こそヌカロクだって思うんだけど、ハーレイが薬を飲みたがらない。だから手形パワーに縋りたくって」
それなら自然で問題なし! とソルジャーはキッパリ言い切りました。夜の試験に手形パワーって…そんなのホントにアリなんですか~?

「ちょ、ちょっと…。ブルー…」
念のために確認したいんだけど、と言う会長さんの声は震えていました。そりゃそうでしょう、小さな子供の「そるじゃぁ・ぶるぅ」の力を使って大人の時間をどうこうなんて無茶苦茶すぎます。
「…夜の試験対策にぶるぅの手形を使いたいって言うのかい? 本当に?」
「そうだけど? 内容はともかく試験は試験だ。試験に落ちないパワーがあるなら是非貰いたいね、ぶるぅの手形を」
「で、でも……あのストラップは普通の試験対策グッズで、そっち方面のパワーは無いよ?」
「分かってるさ。だからきちんと用意してきた」
このとおり、とソルジャーが宙に取り出したのはデパートの包装紙に包まれた箱でした。ソルジャーは包装紙をベリベリと剥がし、箱の蓋を開けて中からパッと…。
「「「!!!」」」
「ほらね、青月印の紅白縞! 君のハーレイがこだわってるから同じヤツにしてみたんだよ。あ、お金はちゃんと払ってきたから! チョコを沢山買いたいって言ったらノルディがたっぷりくれたんだ」
ソルジャーはエロドクターからお小遣いをせしめては何かと購入しているようです。お金持ちで遊び人なドクターは、会長さんそっくりのソルジャーがランチやディナーに付き合っただけでポンと大金を渡す傾向が…。今日のお金もそうやって手に入れてきたのでしょう。…会長さんは額を押さえて呻きながら。
「…またノルディか…。そうやって財布代わりに使っていると、その内にとことん付き合う羽目になると思うよ」
「ぼくなら別に気にしないけど? それにぼくのハーレイにもいい薬になる。ヘタレてばかりじゃ浮気するよ、ってね。それよりも、これ」
紅白縞のトランクスを両手で持ってヒラヒラさせるソルジャー。
「ここに手形が欲しいんだ。勝負パンツって言うんだろう?」
「「「………」」」
それは何かが違うような気がしましたが、万年十八歳未満お断りだなんて呼ばれているだけに正確なことは分かりません。ソルジャーは箱の中から紅白縞を五枚も取り出し、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に渡しました。
「分かるかい? 合格手形の要領でこう、ポンポンと押してくれるかな?」
「え? え、えっと…。パンツを履いて試験をするの?」
「そんな感じだと思ってくれれば…。さっきから話を聞いてただろう? ぼくのハーレイが試験に合格出来ますように、って力を籠めてこの辺にポンと」
ソルジャーがトランクスの前開きの辺りを示すと、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は素直にコクリと頷きました。
「分かった! ぼく、頑張る。パンツに押したことはないけど、試験合格でいいんだよね?」
「うん。出来れば最高点でお願いしておきたいな」
「オッケー!」
小さな右手が紅白縞のトランクスにペタリと押し付けられて、久しぶりに見る赤い手形がくっきりと。白抜きで「そるじゃぁ・ぶるぅ」の文字と猫の足形のような落款風の模様が入っています。不思議な事に紅い縞の上に押された部分でも白が鮮やかに浮き出していて…。
「これでいい?」
「そうだね、とてもいい感じだ。その調子で全部に押してくれれば…」
残り四枚、とソルジャーが言い終わらない内に仕事の早い「そるじゃぁ・ぶるぅ」はポンポンポン…と手形を押していました。ソルジャーは手形の模様つきになったトランクスを満足そうに箱に戻すと立ち上がって。
「ありがとう。とりあえずは五枚あればいいかな。足りなくなったらまた頼むから」
「いつでもオッケー! ハーレイが最高点で試験に受かりますように」
何も知らない「そるじゃぁ・ぶるぅ」は手形パワーを本気でトランクスに入れてしまったようでした。試験とは何か、最高点とは何のことかも分かっていない小さな子なのに、とんでもないことをさせられちゃって…。しかも本人は合格ストラップと同じ次元だと認識しているみたいです。ソルジャーったら、心が痛んだりはしないんでしょうか?
「よーし、これでマンネリ脱出だ! それじゃ、またね」
軽く手を振ってソルジャーは姿を消しました。脱マンネリ用の紅白縞が入った箱をしっかりと持って…。残された私たちは暫くポカンと口を開けていたのですが。
「おい!」
沈黙を破ったのはキース君でした。
「あんなことさせていいと思うのか、本当に? ぶるぅは小さな子供なんだぞ!」
会長さんの襟元に掴みかかりそうな勢いで激しく詰め寄るキース君。
「絶対あいつはまたやって来る。味を占めたら何度でもだ。ぶるぅの力を本人が理解できない目的のために使わせるのは間違ってるとは思わないのか!?」
「…思わないけど?」
「貴様…!!!」
ブチ切れそうになったキース君の背中を「そるじゃぁ・ぶるぅ」がトントンと叩き、振り返ったキース君に泣きそうな顔で。
「お願い、ブルーをいじめないで! ブルー、なんにも悪くないから!」
「なんだと? 俺はお前のためにと思ってだな…。お前だってわけの分からない試験なんかに力を使いたくないだろう?」
「え…。でも…。でもね、それっていつものことだし!」
「はぁ?」
間抜けな声を上げたキース君に「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「本当だもん」と呟くと…。
「あのね、ぼく、試験合格の力は持っているけど、試験の中身は知らないよ? みんなが受けてる試験の問題、見たって意味は分からないもん。…だからさっき押してた手形が何の試験に使われるのかも分からなくって当たり前だし、それでも手形のパワーはあるし!」
だから絶対大丈夫、と胸を張られるとキース君も怒る気力が失せたようです。
「…そうか…。ぶるぅがいいなら仕方ないかもな…。また押してくれって頼みに来たら押すんだよな?」
「うん! ブルーもダメって言ってないしね。いけないことはブルーがダメって言うんだよ」
「そうなのか…。ぶるぅ、お前はいい子だよな」
強く生きろよ、とキース君が銀色の頭を撫でます。ソルジャーはきっとまた押しかけてくるでしょう。貴重な手形パワーを紅白縞のトランクスなんかに使われるのは癪ですけども、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が納得の上で押しているなら誰も文句は言えませんよね…。

アーモンドクリームパイはまだ何切れか残っていました。いつものようにジャンケンで分け、ソルジャーに全部掻っ攫われなかったことを喜んでいると。
「ところで、さっきの手形だけどね」
蒸し返すように口を開いたのは会長さん。
「あれを押したぶるぅの力は完璧だったし、手形パワーはパーフェクトだ。…でもさ、本当に効くと思うかい?」
「「「え?」」」
「効かないだろうとぼくは思うよ、ブルーに美意識というものがあれば」
「「「美意識?」」」
なんですか、それは? ソルジャーの美意識と手形パワーがどう繋がると? 会長さんはクスクスと笑い、ジャンケンに勝ってゲットしたアーモンドパイをフォークでつつきながら。
「十八歳未満お断りの団体様でも知識はそこそこあるだろう? 手形パワーは紅白縞に宿ってるんだよ、試験合格のパワーは…ね。ブルーがどんな試験をするつもりかは知らないけれど、あっちのハーレイが試験に合格するには紅白縞が欠かせない。…つまり、どこまで行っても紅白縞がついてくるんだ」
「それって…もしかしなくても脱げないってこと?」
ズバリ尋ねたのはジョミー君でした。会長さんはニヤリと意地悪い笑みを浮かべて…。
「そういうこと。…試験合格には紅白縞! 最高点を目指すんだったら絶対必要不可欠なんだよ、ぶるぅの手形を押したアレがね。脱いでしまったら御利益の方もそこでおしまい」
「お、おい…。それは相当マズイんじゃないか?」
危ないぞ、とキース君。
「盛り上がった所でパワー切れだなんて、それこそヘタレの極め付けとか言わないか? あいつはヘタレが嫌いなんじゃあ…」
「流石は大学生、十八歳未満お断りでも知識はきちんと入っているね。君が言うとおりの道を辿ると思うよ、手形パワーに頼った結果は。…まあ、ブルーはなんだかんだ言ってもヘタレなハーレイが好きみたいだし、破局にはならないと思うけどさ」
「じゃ、じゃあ……」
オロオロとした声でシロエ君が口を挟みました。
「ソルジャーが怒鳴り込んでくるんじゃないですか? 手形パワーは効かなかった、って」
「そんなこともあるかもしれないねえ…」
会長さんは他人事のように言い、心配そうな顔をしている「そるじゃぁ・ぶるぅ」に微笑みかけて。
「大丈夫だよ、ぶるぅ。お前の手形に問題があったわけじゃない。使い方を間違えているブルーの方が悪いのさ。どうしても夜の試験に手形パワーを使いたいなら、あっちのハーレイ本人に押すか、でなければ…。おっと、十八歳未満お断りの団体様がいるんだっけね」
後はご想像にお任せするよ、と誤魔化されてしまった私たち。けれど『ご想像にお任せ』とやらのアイテムに手形を押させるつもりは会長さんには無いそうです。ですから多分、大人の時間に使用する何かなのでしょう。
「そういうわけだし、ブルーが言ってた勝負パンツは効果なし。怒鳴り込まれてもブルーのミスを指摘してやれば済む話だから、ぶるぅに手形を押させたのさ。…ぼくだって善悪の分別はあるよ、子供を巻き込まない程度にはね」
「…そうだったのか…。怒ったりして悪かった」
すまん、と頭を下げるキース君に会長さんは。
「いいんだよ、ぶるぅのために色々考えてくれたんだろう? あの段階では仕方ないよね、何も説明していなかったし…。その調子でこれからも正義の味方でいて欲しいな。それでこそ未来の高僧だ」
「うっ…。言わないでくれ、俺はまだ心に傷が残って…!」
髪の毛を押さえるキース君はやっと五分刈りスタイルの名残を脱却できたばかりでした。つい先日まで家での朝晩の勤行の時はサイオニック・ドリームで短めの髪を演出していたのです。道場で三週間過ごした間の五分刈りスタイルはキース君の心に相当な傷を残したようで…。
「やれやれ、本当に切ったわけじゃないのに心の傷か…。それじゃ今年の道場入りはどうなるだろうねえ」
今度こそ坊主頭だよ、と会長さんに指摘されてキース君は低く呻いています。手形やらサイオニック・ドリームやらと不思議な力が入り乱れているのが私たちの日々ですけれど、これがまた慣れれば楽しいもので…。特別生になって良かったです。今度の入試でも新しい仲間が入ってくるかも…?

入試を控えての最大の行事は今年も試験問題のゲットでした。先生方は例年通り「試験問題が流出するか否か」で密かに賭けをしているそうです。試験問題ゲットといえば会長さんの独断場。責任者である教頭先生の所に試験問題が揃う日を待ち、教頭先生が用意したコピーを貰いに行くわけですが…。
「それじゃ今年も行ってくるよ」
用意が出来たみたいだし、と会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋のソファから立ち上がったのは試験を数日後に控えた放課後。
「でね、付き添いを頼めるかな? 去年みたいにシールドの中で」
「「「え?」」」
「去年サービスしちゃったせいでハーレイが期待してるんだ。今年は何をしてくれるのか…って」
「何を…って、条件は耳掃除と決まっているんだろう?」
そう聞いてるぞ、とキース君が言い、サム君が。
「だよな、他には…って、アレのことか! ほら、去年ブルーが着ていたチャイナ・ドレス!」
「思い出してくれて嬉しいよ、サム。…もしかしてサムもあの格好が好きだった?」
会長さんの問いにサム君は耳まで真っ赤になって。
「そ、そりゃあ…まあ……綺麗だなぁって…。もちろんブルーは何を着てても綺麗だけど!」
「ありがとう。そんなわけでね、あのハーレイが期待の余りに暴走する危険性がある。だから君たちに付き添いを…」
そこまで会長さんが言った所で部屋の空気がユラリと揺れて不穏な気配が広がりました。
「………楽しそうだねえ………」
物凄く恨みがましい声と共に現れたのは他ならぬソルジャー。ひえぇっ、よりにもよってこのタイミングで怒鳴り込みですか! 来るならもっと他の日に……せめて明日とか明後日とか…。
「…今日だから意味があるんじゃないか。もっと早くに来ちゃおうかとも思ったけどさ。だって、これ!」
不機嫌極まりない顔のソルジャーが取り出したのは紅白縞のトランクス。バサリと床に叩きつけるように投げられたそれを私たちは蒼白になって見ていました。やっぱり会長さんが言っていたとおり、手形パワーは途中で切れてしまったようです。って言うより、このトランクスって…あちらの世界のキャプテンが履いた使用済み…?
「安心して。それは新品だから」
まだ一回も使っていない、とソルジャーは憎々しげにトランクスを睨み付けています。
「手形パワーは確かに効いたよ、勝負パンツは完璧だった。だけどさ、それを脱いだ途端に無効だなんて! 獣みたいに凄かったハーレイがいきなりトーンダウンだよ? しらけるなんてレベルじゃなくて!」
「…ぶるぅの手形パワーはそういうものだよ、確認しなかった君がいけない」
会長さんが切り返しました。
「勝手に決め付けて手形を押させて、思い通りにならないからって苦情を言いに来られてもねえ…。それよりも今日は忙しいんだ。さっさと帰ってくれないかな?」
「忙しいことくらい知ってるよ。耳掃除の日だろ、去年見学したから覚えてる。だからその日を狙って来たんだ。ぼくのハーレイがヘタレたお蔭で脱マンネリは大失敗さ。鬱憤晴らしに君のハーレイと遊ぼうかと…。君の代わりにぼくが行く」
「「「えぇぇっ!?」」」
「要はハーレイの耳掃除をして試験問題のコピーを貰えばいいんだろう? ぼくならブルーに出来ないサービスも色々出来るし、そうするつもりだったんだ。そしたらブルーが付き添い募集とか言ってるし…。ちょうどいいじゃないか、付き添いつきで君が行くより最初からぼくが行った方が」
何かと被害が少ないと思う、とソルジャーは主張し始めました。でも本当にそうなんでしょうか? 手形つきトランクスで当てが外れたソルジャーだけに、余計に危ない気がするんですが…?



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