シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
マザー、今度は操舵士補佐になりました。前回の航海士以上に役立てない職場のような気がしましたが、まずはブラウ航海長にご挨拶です。
「本日付で操舵士補佐に着任しました。よろしくお願いいたします」
「ああ、来たね。…で、あれからゴムボートくらいは漕げるようになったのかい?」
「いえ、練習の機会もなかったですし…。操舵士って練習すればなんとかなりますか」
「…あんたにシャングリラの舵を任せる度胸は無いよ。家事の方ならまだしもねえ…。ってわけで、ハーレイ」
ああ、またです。航海士補佐の時は雑用、機関士補佐の時は出向、そして今回も雑用で…。
「部下に不自由しなくて助かるだろう?引き続き、ぶるぅの番をやってもらいな」
航海長のご命令では仕方ありません。自分の無能さを思い知りつつ「そるじゃぁ・ぶるぅ番」をすることになりました。
相変わらず「そるじゃぁ・ぶるぅ」は悪戯三昧、お出かけ三昧。ただ、何度目かに『おでかけ』の札が下げられた後、奇妙なものを見つけました。メモのような紙片が扉のそばに落ちています。拾ってみると…。
『すまない、ハーレイ。君を選んで心からすまないと思っている』
ヘタクソな字でそう書きなぐってありました。落としたのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に違いありません。手紙の下書きか何かでしょうか。キャプテンに報告すべきか否か、非常に悩むところです。新手の悪戯ということもありますし…。どうしようかと眺めていると、あれ?キャプテンとリオさんが来ます。もちろん土鍋の乗った台車も。怪しい紙片はとりあえずポケットに押し込むことにしました。
「今度のお出かけは悪戯でしたか」
『おでかけ』の札を外してドアを開けます。キャプテンとリオさんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」入りの土鍋を部屋に運びましたが、なんだか空気がいつもと違う?…リオさんは台車を押してそそくさと出て行きました。
「…ぶるぅがブリッジにやって来た」
「はぁ。大暴れしたんですか?」
噛み付こうとする「そるじゃぁ・ぶるぅ」と逃げ惑う長老方を想像しながら返事をすると。
「そうか…君は知らなかったか。ぶるぅはブリッジが怖いのだ」
え。あの傍若無人な「そるじゃぁ・ぶるぅ」に怖い場所なんてあったんですか!
「生後1ヶ月頃だろうか、ブリッジで大暴れして航行に支障が出たことがある。ソルジャーがサイオンで取り押さえられたが、かなり手荒な攻撃だった。それ以来、ぶるぅはブリッジに来ていない」
「立ち入り禁止ってことですか」
「いや、禁止ではないのだが…入るとよくないことが起こると思い込んでしまったようだ」
「それは平和でよかったですねえ」
「まあ、そうだが…」
キャプテンは複雑なお顔です。
「それなのに、ぶるぅはブリッジに来た。私の方を眺めていたが、恐怖心がよほど強かったのか床にへたり込んで丸くなり…そのまま眠ってこのとおりだ。寝かせておくしかないだろうな」
何か用でもあったのだろうか、と呟くキャプテン。そういえば妙なモノを拾ったんでしたっけ。
「心からすまないと思っている…?」
キャプテンと首を傾げていると、土鍋の中で「そるじゃぁ・ぶるぅ」が突然、寝言を呟きました。
「…すまない…ハーレイ…君を選んで…。心からすまないと……むにゃむにゃ」
えっ、と覗き込んだところへ寝言の続きが聞こえたのです。
「…帰ってきたら…また君の後姿を見せてくれ…」
マザー、「そるじゃぁ・ぶるぅ番」はお役御免になりました。怖くて立ち入れないというブリッジに直訴に行くほど「そるじゃぁ・ぶるぅ」はキャプテンに扉の前で待っていてほしいみたいです。キャプテンの胃がまた痛み出しそうですが、結局のところ、キャプテンは「そるじゃぁ・ぶるぅ」に甘いのですね。