シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
何処のクラスにも籍が無い、という生徒会長さんは球技大会以降、たまに1年A組に姿を見せるようになりました。朝、教室の一番後ろに机が増えていれば会長さんが来る前兆。でも会長さんが昼休みまで教室にいることは滅多に無くて、早退とか保健室に行ってしまうとか…。
「今日は何時間目までいるんですか?」
グレイブ先生も来ない内からジョミー君が尋ねています。影の生徒会室、もとい「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に毎日通っているんですから、他のクラスメイトに比べて遠慮が無いのは当然ですね。
「…終礼まで」
答えた会長さんにキース君が迷惑そうな顔をしました。
「ほう。すると保健室に行く日だな。最近、まりぃ先生の手つきが更にセクハラじみてきたのは、間違いなくあんたのせいだと思うが」
「教頭先生のせいだとは思わないのかい?シド先生もだ。柔道部にサッカー部、二人とも保健室の常連だよ。ゼル先生もたまに見かける」
「男の子のお肌はやっぱり素敵ねぇ…というのが口癖なんだぞ、まりぃ先生。教頭先生はオッサンだし、シド先生も男の子というには無理がある。ゼル先生は論外だ」
「やれやれ。そんなにぼくを悪者にしたいのかい、キース?…マツカも何か言いたそうだね」
「…い、いえ、ぼくは…」
そこで教室の扉がガラリと開いてグレイブ先生ご登場。
「諸君、おはよう。…また余計なヤツが増えているようだな」
「君のクラスが気に入ったんだ。たまに来るくらい、いいだろう?」
グレイブ先生は苦虫を噛み潰したような顔をしながら出席を取り始めました。会長さんの名前をちゃんと呼ぶあたり、グレイブ先生は律儀です。机の無い日は呼ばないんですからプロの心意気というものでしょう。
キース君の苦情が功を奏したのか、会長さんは昼休みまで教室に座っていました。退屈そうにノートに落書きをしていたようですが…。4時間目の古典の授業中、あちこちでププッと笑いを堪える声が聞こえて、何が起こったのかと思っていたら原因は1枚のメモでした。隣の席から投げられたそれを開くと、漫画チックにデフォルメされた教頭先生の似顔絵と『Blue』のサイン。こ、これは…お腹の皮がよじれるかも…。
「どうした、みゆ君。腹痛か?」
「い、いえ…。ちょっと、しゃっくりが…」
こっちを見た教頭先生にかなり無理のある言い訳をして、私はメモを次の席へと投げました。最終的にメモは教頭先生に見つかり、開いて中を見た先生は…。
「ブルーっ!これはいったい何のつもりだ!?」
「ぼくの力作」
しれっと答えた会長さん。
「なかなか特徴が出ているだろう?鼻の形と眉間の皺がポイントなんだ」
クラスメイトが一斉に笑い出し、教頭先生は真っ赤になってメモを丸めると柔道十段の逞しい腕で会長さんの机に向かって投げたのですが。
「もらったぁ!」
ヒョイ、と伸ばされたジョミー君の手がメモをガッチリ受け止めています。
「いいぞ、ジョミー!後で黒板に貼っておこうぜ」
教室中が拍手喝采。教頭先生は頭を抱えて授業を再開したのでした。4時間目が終わると昼休み。教頭先生の似顔絵が黒板に書かれた日直の名前の横にセロテープで貼られ、皆でワイワイ囲んでいると…。
「かみお~ん♪ブルー、お弁当、届けに来たよ!」
大きなバスケットを抱えた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が意気揚々と入ってきました。
「はい、サンドイッチ8人前。デザートにカップケーキも焼いちゃった。みんなで食べてね」
机からはみ出しそうなバスケット。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は見たいテレビがあるからと大急ぎで帰ってしまい、会長さんは『影の生徒会室』のメンバーに笑いかけます。
「今日は天気がいいから、外でランチにしようと思って。芝生に座ってみんなで食べよう。シロエとサムを呼んでおいでよ」
芝生で「そるじゃぁ・ぶるぅ」特製ランチ!嬉しくないはずがありません。私たちは大喜びで校舎を飛び出し、木陰の芝生でサンドイッチを賑やかに食べ始めたのでした。
「美味しいね、これ。あ、そっちも美味そう」
「こんなに色々入ってるなんて…。デザートまで辿り着けるでしょうか?」
パクパク食べるジョミー君と、食が細めのマツカ君。私もスウェナちゃんも美味しく頂き、残るはデザートのみになった時。
「「あのぅ…」」
遠慮がちな声が聞こえて、現れたのはアルトちゃんとrちゃんでした。
「お食事中なのにすみません。でも、こんなチャンス、なかなか無くて…」
「教室とかだと他のみんなに聞こえちゃうから…」
いったい何の用事だろう?と、私たちが首を傾げると、会長さんが尋ねました。
「アルトさんとrさん…だね。この前は保健室に連れてってくれてありがとう。もしかして、ぼくに用なのかな?」
頷きながらつつきあっているアルトちゃんとrちゃん。何か言いにくい話でしょうか。席を外した方がいいのかも…と考えたのと、会長さんが口を開いたのは同時でした。
「ジョミー、キース。サムたちも、向こうで遊んできてほしい。カップケーキは1個ずつ持っていっていいから」
「了解!…じゃ、また後でね♪」
男の子たちは素早くカップケーキを掴んでグランドの方へ走り去りました。私とスウェナちゃんも立ち上がろうとしましたが…。
「「待って!」」
アルトちゃんとrちゃんの顔に「行かないで!」と書いてあります。私たちが座り直すと、二人はしばらくモジモジした後、会長さんを見つめて真っ赤な顔で言ったのでした。
「あ、あのぅ…。会長さんと、あの、そのぅ…まりぃ先生って…」
「もしかして、もしかしなくても…やっぱりそういう関係ですか?」
あ。アルトちゃんとrちゃん、思い切り誤解しています。まりぃ先生と会長さんの関係は会長さんが…。
『やめたまえ!』
頭の中に会長さんの声が響いて、スウェナちゃんと私は金縛りになってしまいました。
『ぶるぅはともかく、ぼくの力は知られていない。まりぃ先生に夢を見させる力があることを一般生徒に知られるわけにはいかないんだよ。二人が誤解しているのなら、そのように。真実を話す必要は無い。…いいね』
ほんの一瞬の金縛りでしたけど、理解するには十分でした。口を挟むな、ということです。会長さんはしごく真面目な顔でアルトちゃんたちを見上げました。
「なるほど、そういう関係…ね。男と女の仲ですか、っていう意味かな?…だったら答えはイエスだけども」
アルトちゃんとrちゃんはボンッ!と耳まで真っ赤に染まり、どうやら言葉も出ないようです。本当のことを教えてあげたいのは山々ですけど、しゃべっちゃダメだと言われてますし…。私とスウェナちゃんが顔を見合わせていると、会長さんは悪戯っぽい笑みを浮かべて。
「もしかして、まりぃ先生が羨ましいとか?」
アルトちゃんとrちゃんは今度こそ全身が赤くなったと思います。会長さんはクスクスと笑い、白い指先で自分の唇をゆっくりと撫ぜ、舌をチラッと覗かせました。
「二人とも寮生だったっけね。シャングリラ学園では男女の深い交際がバレたら退学になる規則だけども。…君たちの部屋が個室だったら、こっそり忍んで行くことができる。もちろん誰にも知られずに…ね」
ゴクリ。アルトちゃんとrちゃんの喉が鳴ったのが分かります。会長さんがポケットを探り、取り出したのは神社のお守りみたいな赤い錦の袋でした。
「ぶるぅの手形は知ってるだろう?この中にそれを押した紙が入ってる。部屋のバルコニーの手摺に結んでくれれば、ぶるぅが手引きをしてくれるんだ。縁結びのお守りみたいなものかな。…はい、君たちに1つずつ。決心がついたら結んでごらん。あ、二人同時はダメだからね。ちゃんと相談して別々の日に」
お守り袋を手渡されたアルトちゃんとrちゃんは魂が抜けたような顔で校舎に戻っていきました。…って、会長さん…まさか本気でお守り袋を!?
「さぁ、どうだろうね?…呼ばれたら行くかもしれないよ。誰だって夢を見たいだろう?」
クスクスクス。まりぃ先生の例もあるしね、と笑う会長さんを止める勇気は私たちにはありませんでした…。
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