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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

タフさが身上・第1話

教頭先生が会長さんに騙されてしまったフォトウェディング。それから数日経った4月7日はシャングリラ学園の入学式です。私たちにとっては四度目、特別生としても三度目の入学式になるわけですが、ここはやっぱり出席しなくちゃ! と言うより、新しいクラスメイトと顔合わせをしておかないと…。桜が咲く中、学校に着くとジョミー君たちが正門前に集まっていました。
「おはよう! みんな来てるよ」
ジョミー君は今日も元気一杯。
「今年も記念写真、撮る? 毎年おんなじ面子だけれど」
「一応、撮っておくことにするか。おふくろにカメラを持たされたんだ」
親馬鹿だよな、とカメラを取り出すキース君。私たちは『シャングリラ学園入学式』と書かれた看板を囲んで記念撮影をし、それから講堂に向かいました。言わずと知れた入学式の会場です。保護者と一緒の新入生が大多数の中、最前列に陣取って…。
「ぼくたち、今年もA組になるんだよね? 特別生はクラス固定って聞いてるし」
ジョミー君の問いにシロエ君が。
「その筈ですよ。でも担任は分からないんだって会長が言ってましたっけ。グレイブ先生じゃなくなるのかも…」
「ゼル先生とか? それってキツそう…」
頑固そうだよ、とジョミー君が頭を抱えています。けれどゼル先生は面倒見の良さで人気の先生。ゼル先生でも楽しいかも、と思ったのですが…。
「エラ先生だったらどうするよ?」
サム君の言葉に私たちはピキンと固まりました。風紀の鬼のエラ先生に当たったが最後、地獄に違いありません。いくら特別生であっても、きっと容赦なくビシバシと…。
「それって困る! ブルーでも太刀打ちできなさそうだよ」
弱気になったジョミー君にマツカ君が同調して。
「ですよねえ…。いくら会長でもエラ先生が女性な以上は過激な真似は出来ないでしょうし」
「うわー…。ブルー、顔を出さなくなったりして? エラ先生じゃ何も楽しくないもんね」
御礼参りとか寸劇とか、とジョミー君が挙げる数々の行事はクラス担任を巻き添えにするのが基本でした。グレイブ先生だからこそ無茶できましたが、エラ先生では無理そうです。同じ女性でもブラウ先生なら、あるいはなんとかなるのかも?
「…シド先生なんかどうかしら?」
スウェナちゃんの意見はジョミー君に却下されました。
「ダメダメ、スウェナ、分かってないし! シド先生は男子にも女子にも人気あるしさ、オモチャにしたら恨まれそうだよ。…一人じゃ校内歩けないって!」
「そのとおりだな」
分かる、分かる…とキース君が頷いています。
「やはり俺たちのクラス担任はグレイブ先生が最適だろう。まあ、ブルーが一切出てこないのなら誰になっても平気だろうが…。おっと、そろそろ始まるか?」
壇上に先生方が現れました。並べられた椅子に順に座ってゆき、一番最後に校長先生の登場です。シド先生の司会で式は順調に進んでいって…。
「それでは、本日のスペシャル・ゲストをご紹介させて頂きます。シャングリラ学園のマスコット、そるじゃぁ・ぶるぅ君です!」
運ばれてきたのは大きな土鍋。蓋が取られて「そるじゃぁ・ぶるぅ」が飛び出してくると会場に広がる驚きの声。そりゃそうでしょう、土鍋だけでもインパクト大なのに中から子供が現れるなんて…。校長先生が「そるじゃぁ・ぶるぅ」の紹介をして、御利益パワーに与るための三本締めとなりました。これも毎年変わらないよね…と、眺めていると。
『居眠るな、仲間たち!』
突然響いた思念の主は会長さん。入学式恒例の仲間に宛てたメッセージです。私たちは顔を見合わせ、会場内を見回して…。
『今年は誰か来るのかなあ?』
ジョミー君の思念に『分からない』と返す私たち。新しい仲間は歓迎ですけど、そうなると「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に入り浸るわけにはいかなくなりそう。誰も来なければ今年も一年遊び放題! そっちの方が断然いいよね、と思念を交わしていた所へ…。
『あっらー、生徒限定なのぉ!?』
まりぃ先生の声ならぬ思念が流れて来ました。
『酷いわ、酷いわ! 私もぶるぅちゃんのお部屋で遊びたいわぁ…』
壇上で澄ました顔のまりぃ先生、心穏やかではないようです。会長さんの思念がそれをぶった切って。
『申し訳ないけど生徒限定。ぶるぅの部屋は教師は一切立入禁止になってるからね』
『そうじゃ、そうじゃ! だいたい今は入学式の最中じゃぞ?』
静粛に、とゼル先生が注意し、ヒルマン先生も宥めにかかっています。これは退屈しないかも…。先生方の思念波でのやり取りなんて、今まで見たことないですからね。春休みのサイオン強化合宿、効果があったみたいですよ~!

入学式が終わるとクラス発表。掲示板に貼り出された名簿をチェックしに行くと、私たちは今年も1年A組でした。教室の位置も変わりませんし、お馴染みの部屋に揃って移動し、今年の担任は誰だろう…と先刻までの話の続き。掲示板には例によって『担任は見てのお楽しみ』の一文があったからです。
「グレイブ先生が絶対いいって!」
サム君がそう主張するのは会長さんに会いたいからに決まっていました。他の先生だと会長さんは遊びに来そうにありません。会長さんにベタ惚れのサム君としては少しでも長く会長さんと一緒にいたいのです。
「落ち着け、サム」
キース君がサム君の肩をポンと叩いて。
「他の生徒が引いてるぞ? そうでなくても俺たちは浮いているからな。アルトとrを見習った方が…」
「「「あ…」」」
誰もがすっかり忘れていました、新しいクラスメイトの存在を! アルトちゃんたちは新入生の女の子たちと楽しそうに話しているというのに、私たちときたら毎度のグループで一致団結、見事にクラスから浮いてるわけで…。やばい、と気付いても時既に遅し。何人かの生徒がこっちに注目しています。
「えーっと…今から散っても無駄だよね?」
ジョミー君が溜息をついた所へ、新入生の男子二人組がやって来ました。
「あのぅ…。もしかしてジョミー先輩ですか?」
「えっ、ぼく? そうだけど…。もしかして何処かで会ったかなあ?」
サッカー部の練習試合に出ることがあるジョミー君は顔を知られている方です。練習試合限定とはいえ、他校の生徒やその応援に来ている人に覚えられていても不思議はなくて…。けれど二人組の男子は「いいえ」と首を振りました。
「ぼくたち、先輩に聞いたんです。先輩って言っても…」
「小学校の先輩で、中学時代は重なってなくて…」
歳がちょっと離れてますから、と二人組。
「でも小さい頃から遊んでましたし、家が近いせいで今も仲良くして貰ってます。ぼくたちがシャングリラ学園に行くって言ったら「1年A組になれるといいな」って」
「先輩、今年卒業したんですよ。1年A組でジョミー先輩たちと一緒だったって言ってました」
聞かされた名前には嫌というほど心当たりがありました。私たちの一番最初のクラスメイトの一人です。会長さんが繰り出す悪戯の数々に率先してついて行ってた悪ガキ男子。私たちのことをどんな風に話したんでしょう? わざわざ声を掛けにくるってことは、クラスで番を張っているとかそういう系の…?
「えっと…そちらがキース先輩ですよね、柔道部の」
「それにシロエ先輩、マツカ先輩、サム先輩…。女子がスウェナ先輩、みゆ先輩」
男の子たちは続けました。
「1年A組の生徒になれたら、この七人がいる筈だ…って先輩が教えてくれたんです。一年間よろしくお願いします!」
「お世話になります!」
「「「はぁ?」」」
なんのこっちゃ、と首を傾げる私たちの周囲に集まってくる他のクラスメイト。男子二人組は得々として事情を説明し始めました。1年A組には特別生の七人グループがいて、その七人がいれば「そるじゃぁ・ぶるぅ」の御利益パワーに与れる…と。入学式で「そるじゃぁ・ぶるぅ」を見てきたばかりのクラスメイトは一斉に…。
「御利益パワーって?」
「どんなことが出来るんですか?」
「特別生って何なんですか?」
たちまち始まる質問攻め。いったいどれから答えたものか、と戸惑っていると教室の扉がガラリと開いて。
「やかましい!!」
カツカツカツ…と響く足音、しかめっ面。現れたのは他ならぬグレイブ先生でした。あぁぁ、やっぱりこう来ましたか! サム君は嬉しそうですけども…。

「入学早々、騒ぎたてるとはいい度胸だな。私は1年A組の担任、グレイブ・マードック。グレイブ先生と呼んでくれたまえ。…そもそも騒ぎの原因は何だ? どうやら諸君のせいらしいが…?」
ジロリと睨まれ、首を竦める私たち。グレイブ先生は「まあいい」と舌打ちをして名簿を取り出し、前から順に名前を呼んで座席と照らし合わせると。
「さっきの騒ぎからして既に諸君は知っているようだが、このクラスには特別生と呼ばれる連中がいる。彼らには出席義務も無ければ成績も不問だ。空気のようなものだと思って無視したまえ。そして私には私のやり方がある。まずは諸君の日頃の努力の成果を見たい。今から実力テストをする!」
「「「えぇぇっ!?」」」
「私の担当は数学だ。中学校で真面目に勉強していれば解ける問題ばかりだぞ。正解が七割以下の生徒は補習をするからそのつもりで」
問題が裏返しにされて配られ、パニック状態になった教室の後ろの扉がカラカラと…。
「ごめん、ごめん。…遅くなっちゃった」
入って来たのは会長さん。銀色の髪に赤い瞳、超絶美形の会長さんにクラスの視線が集中する中、会長さんはスタスタと教卓の前まで行くと。
「例によって実力テストだって? 君の机を借りるよ、グレイブ。ぼくも仲間になりたいからねえ」
「また来たのか…」
「うん。でも、まずは自己紹介をしなくっちゃ」
会長さんはグレイブ先生を押しのけて教卓を占拠し、良く通る声で。
「初めまして、1年A組のみんな。…ぼくはシャングリラ学園の生徒会長をやってるブルー。ついでに特別生でもある。三百年以上在籍している生徒の噂を知っている子もいるだろう。それがぼくだ」
どよめきが上がりましたが、さっき話しかけてきていた男子二人は全く驚いていませんでした。元1年A組だった先輩から聞いていたのでしょう。けれど大多数の生徒はビックリ仰天、会長さんの顔を見詰めています。
「ぼくには決まったクラスが無い。1年A組に混ぜてくれるなら、この一年間、君たちの力になろう。入学式でそるじゃぁ・ぶるぅを見ただろう? ぶるぅの御利益パワーで定期試験は全て満点とか、そういうお得なヤツなんだけど」
「「「満点!?」」」
「そう、満点。今から始まる実力テストにも効果があるよ。…混ぜてくれる? それとも…」
会長さんが言い終えない内に「混ざって下さーい!」の声があちこちで…。会長さんは満足そうな笑みを浮かべてグレイブ先生の椅子に座りました。
「じゃあ、一年間よろしくね。グレイブ、ぼくにも問題を」
「そう来るだろうと思っていたのだ! お前に渡せる問題は無い。今後の定期試験はともかく、実力テストは実力テストだ。お前に引っ掻き回されたのでは皆の実力が分からんからな」
フフンと笑うグレイブ先生。これは大番狂わせです。会長さんの分の問題が無いと正解をクラスメイトの意識の下に送り込むことが出来ません。
『これってヤバイ…?』
ジョミー君の思念波が届き、キース君が。
『いや、あいつなら俺たちの分の問題を読み取るくらいは簡単だろう。だが、しかし……ぶるぅパワーを主張するなら問題が無いとマズイのか?』
『そうじゃないですか? ぶるぅの力を借りられるというのを毎年売りにしてるんですから』
まずいですよ、とシロエ君が青ざめ、グレイブ先生は勝ち誇った顔。
「どうする、ブルー? お前が問題を見られない以上、ぶるぅの力は借りられない。…私の勝ちだな。では、諸君。今から三十分間だ。…はじめっ!」
あちゃ~。大変なことになってしまいました。会長さん自身に力があるのは秘密です。バレても問題ないんじゃないかと思いますけど、今まで内緒になってましたし…。
『そうなんだよね』
頭の中に流れてきたのは会長さんの思念。
『ぼくのサイオンは出来れば秘密にしておきたい。三百年以上生きているって件はともかく、他は普通でいたいんだ。だから試験問題が無いと困るんだけど…。さて、どうするか…』
視線を上げると会長さんは教卓に頬杖をついて手持無沙汰に座っていました。グレイブ先生が作った実力テストは、会長さんに長年知識をフォローしてもらった私たちには楽勝ですけど、クラスメイトには難問みたい。聞こえてくるのは溜息ばかりでペンを走らせる人は皆無のようです。ここで「そるじゃぁ・ぶるぅ」の御利益パワーを見せられなければ会長さんの立場が危ういのでは…?
「十分経過! どうした、さっぱり進んでおらんぞ! そんな問題も解けんのか?」
補習だな、とグレイブ先生が教卓を指でコツコツ叩いています。その後も時間は無情に流れて…。
「残り五分だ! つまらないミスが無いよう、よく見直しておくように!」
「「「………」」」
見直すも何も、クラスメイトが総崩れなことは気配で察知できました。もうダメだ、とジョミー君たちが嘆きの思念波を送ってきます。ジョミー君を知っていた男子生徒二人の期待を裏切り、クラスメイトが会長さんに抱いた期待も微塵に砕けてしまいそう。今年の1年A組は初日から躓いてしまうのでしょうか…?

試験終了、とグレイブ先生が告げると同時に阿鼻叫喚の1年A組。やはり大半が白紙でした。回答欄が全部埋まった人は特別生の他には一人もおらず、グレイブ先生は集めた解答用紙をめくってニヤリと笑うと。
「ほほう…。これは全員補習のようだな、一応採点してみるが。補習はクラブ見学などで授業が無い期間の放課後を充てる。一日二時間、みっちりと…だ」
げげっ、補習が二時間ですか! 会長さんの約束は? 実力テストも大丈夫だって言い切ったのに…。クラスメイトは泣きそうですし、これじゃ会長さんは大嘘つきに……と思った時。
「かみお~ん♪」
パアッと青い光が走って教卓の横に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が出現しました。クルクルクル…と宙返りしてストンと降り立ち、「こんにちは!」と満面の笑顔。
「えっと、えっとね、ぼく、ぶるぅ! 入学式で会ったでしょ? ぼくも1年A組の仲間になりたいなぁ…って。ブルーが困っていたから急いで来たの! テスト、満点にしてあげられるよ♪」
「「「満点?」」」
白紙のテストをどうやって、と疑問だらけのクラスメイトに「そるじゃぁ・ぶるぅ」は右手を高く差し上げて。
「右手のパワーはパーフェクト! ぼくが手形を押しちゃうだけで、どんなテストも満点なんだよ。すぐにパパッと押しちゃうからね」
言うなり教卓の上の解答用紙をサッと引ったくり、手形を押しまくる「そるじゃぁ・ぶるぅ」。グレイブ先生が呆気に取られている間に全部の用紙に赤い手形が…。
「な、何をする! これでは実力テストの意味が…」
我に返ったグレイブ先生が叫びましたが「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコと。
「だって、ブルーが約束したもん。嘘をつくのはいけないんだもん! そうだよね、ブルー?」
「ありがとう、ぶるぅ。いい子だね。…というわけで全員満点」
安心して、と会長さんは手形の押された用紙をグレイブ先生に差し出して。
「文句があるなら聞いてあげるけど? その場合はもれなく黒い手形とセットだけども」
「…く、黒……」
言葉を失うグレイブ先生。黒い手形はダメの印で「そるじゃぁ・ぶるぅ」の左手から出ます。これを人間の身体に押すと、アンラッキーなことが次から次へと湧いてくるとか来ないとか…。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は左手を構え、グレイブ先生は会長さんと睨み合ったまま激しく火花を散らしたのですが。
「…くそっ、またしても私の負けか…。仕方ない、実力テストはクラス全員合格とする!」
わぁっ、と大きな歓声が上がり、会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」に惜しみない拍手が送られます。グレイブ先生は仏頂面で終礼を済ませ、ブツブツと文句を呟きながら立ち去る羽目に…。こうして今年も会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は1年A組に仲間入りを果たし、新学期のスタートが切られたのでした。

「…さてと。みんなも家に帰ったことだし、ぶるぅの部屋に移ろうか?」
会長さんが言い出したのは、手形パワーで窮地を脱したクラスメイトたちが学校を出た後のこと。あれ? 今年の新入生が来るのでは? 新しい仲間にメッセージを送っていましたし…。まりぃ先生が反応しちゃってゼル先生たちが困ってましたよ?
「新しい仲間は今年もいないよ」
だから平気、と先に立って歩き出す会長さん。今年もいないって…去年も誰もいなかったのに…? 生徒会室に到着しても、待っている生徒は誰もいません。会長さんは壁の紋章に手を当て、隠された部屋に消えて行きます。
「今年も新しい人は来ないわけ…?」
ジョミー君が校章と同じ形の紋章を眺め、サム君が。
「新しい面子がいないって嬉しいじゃねえか。今年も俺たちの溜まり場にできるぜ」
もちろんブルーも独占できる、と言わなくても顔に書いてあります。サム君はホントに嬉しそう。新しい仲間が来てしまったら「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を明け渡さなくてはダメかもですし、会長さんだって忙しくなってしまうでしょうし…。公認カップルを名乗るサム君には避けたい状況なのでした。
「そっか、サムのためには良かったかもね。ブルーと一緒にいられるし」
デートもできていないけど、と笑うジョミー君にサム君は「かまわねえよ」と気にしない風。会長さんの家での朝のお勤めがデート代わりというわけです。今朝も行っていたようですし…。
「おい、いつまで立ち話をしている気だ?」
先に入るぞ、とキース君が壁を通り抜け、私たちも慌てて続きました。一足お先にお部屋に戻った「そるじゃぁ・ぶるぅ」の元気な声が迎えてくれます。
「かみお~ん♪ みんな、今年もよろしくね!」
入学式のお祝いケーキ、と桜色のクリームをたっぷり使った桜のケーキが切り分けられて賑やかに始まる新年度最初のティーパーティー。新しい仲間はやはり本当に来ないようです。
「なんで今年も新しい仲間が来ないんだ?」
メッセージはちゃんと流れてたのに、とキース君が訊くと会長さんは。
「去年も言ったと思うけど? 新しい仲間がいてもいなくても、あのメッセージは流すんだ。そして新しい仲間は滅多に来ないと教えた筈だよ、君たちの年が特別なだけ。それに今年はシャングリラ・プロジェクトで一気に仲間が増えたしね…。君たちの御両親が揃って仲間になったんだから」
「あ、ああ…。そうだっけな。どうも今一つ実感がない」
キース君の気持ちは私たちにも分かりました。パパやママたちがサイオンを持ったと言っても、思念波も操れないレベルです。連絡手段に思念波は使えず、今までどおり電話にメール。家での会話にサイオンの話が出てきていたのもシャングリラ号から戻ってきてすぐの頃だけで…。
「それでいいんだよ。急ぐ必要は何も無いしさ」
普通が一番、と会長さんが微笑みます。
「君たちだってゆっくりだったろ? 入学式でまりぃ先生の思念波を捉えていたようだけど、あれは去年じゃ拾えないレベル。まりぃ先生の思念波は初心者レベルで、これから先も期待できない」
「…期待できない…? なんだ、それは」
キース君の問いに会長さんはクスッと笑って。
「まりぃ先生の趣味は濃すぎるからね、思念波の扱いに長けてもらうと困るんだ。覗き見とかが得意になったら大変じゃないか」
「「「………」」」
その先は言われなくても明白でした。会長さんの悪戯だとか、教頭先生の夜の時間とかを覗き見されたら一大事です。きっと妄想に拍車がかかってイラストどころか突撃レポート、果ては写真の隠し撮り…。頭を抱える私たちの姿に会長さんは「困るだろ?」と繰り返して。
「ぼくの平和な日常のためにも、危険な力は伸ばさない! まりぃ先生には悪いけれども、力をブロックしておこうかと…。あ、表向きは「期待できない」ってことにしておくんだから口外無用」
分かったね? と念を押されて私たちは頷きました。まりぃ先生が暴走したら巻き込まれるのは確実ですし、平穏な学園生活を送りたければ触らぬ神に祟りなしです。

ワイワイ賑やかに盛り上がる内に、話題になったのはグレイブ先生。1年A組の担任はグレイブ先生と決まったわけではない、と聞いていたように思ったのですが…。
「ああ、グレイブね。…特別手当に釣られたようだよ」
会長さんが片目を瞑りました。
「職員会議で揉めたんだ。1年A組の特別生は固定してるし、もれなくぼくとぶるぅが来るし…。担任すればババを引くって分かってるだけに希望者ゼロ。クジ引きで決めるって話まで出た」
「「「………」」」
先生方の腰が引けるほど最悪でしたか、1年A組。ところで特別手当って…?
「絶対に酷い目に遭うのが分かってるから、危険手当と言うべきか…。具体的な金額は知らないけれど、相当な額が加算されるらしい。グレイブはそれに飛びついたんだよ。愛妻家なのは知ってるだろう? ミシェル先生に貢ぐためには特別手当が手っ取り早い」
残業しなくても毎月出るし、と会長さん。
「そういうわけでグレイブは全部覚悟の上ってことになる。今年も派手にやらせて貰うよ、遠慮しなくていいんだしね」
「あんたのオモチャ手当ってわけか?」
キース君の鋭い突っ込みに、会長さんは「そうとも言うね」と涼しい顔。
「でもさ、グレイブじゃオモチャにするには物足りない。オモチャはやっぱり頑丈でなくちゃ。踏んでも蹴っても壊れないタフさがオモチャの身上」
「おい、タフさって…」
途中で消えたキース君の言葉を会長さんは正確に読み取りました。
「もちろんハーレイに決まってるじゃないか。タフで頑丈、おまけに懲りることがない。…分かってるんなら出発するよ、新学期の初日はコレなんだから。…ぶるぅ!」
「かみお~ん♪」
勢いよく走って行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」が奥の部屋から抱えてきたのはリボンがかかった平たい箱。綺麗サッパリ忘れてましたが、新学期と言えばこの箱で…。
「そうさ、青月印の紅白縞を5枚だよ。待ちくたびれているだろうから、急いで届けに行かなくちゃ。今日はオマケもついてるし」
ほら、と会長さんが取り出したのは立派な台紙つきの写真でした。ホテル・アルテメシアでのフォトウェディングの写真です。
「ハーレイは持っていないんだよ。ぼくの家にだけ送ってくれるように手配したから。…だって、新郎は逃げちゃったし? 恥をかかされた花嫁としては当然取るべき行動だよね」
「「「………」」」
逃げたんじゃなくて拉致られたのでは、と喉まで出かかった声を私たちは辛うじて飲み下しました。こんな写真をプレゼントされて教頭先生が喜ぶでしょうか? でも青月印の紅白縞とセットだったらいいのかな? 新学期と言えば紅白縞。トランクスのお届け行列、教頭室に向かって出発です~!

 

 

 

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