忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

想いの伝え方・第1話

会長さんが住むマンションの庭が真紅の薔薇で埋め尽くされてから日は経って…新入生歓迎のエッグハントだの親睦ダンスパーティーだのも終わって一段落です。教頭先生が会長さんに贈った薔薇の一部は薔薇ジャムになり、私たちの放課後のティータイム用に。残りはマザー農場で香油などに加工されて出荷されてしまったとか。
「かみお~ん♪ 今日のおやつはコーヒーティラミス! 薔薇ジャムはちょっと合わないよね…」
ロシアンティーよりココアにコーヒー、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が笑顔で用意してくれます。特別生になって三年目の春も順調でした。教頭先生のED騒動も無事に解決、なべてこの世は事も無し…と思ったのですが。
「あのさ。明日、付き合ってくれるかな?」
会長さんが真剣な瞳で切り出しました。
「今年も健康診断なんだ。…ノルディの所に行かなきゃならない」
「「「………」」」
またこの季節になりましたか! 会長さんの健康診断はソルジャーの義務。しかも三百歳を超える会長さんの健康チェックはエロドクターことドクター・ノルディに一任されているのです。隙あらば会長さんを食べてやろうと企んでいるドクターだけに、ボディーガードは欠かせません。
「…そうか、そういうシーズンか…」
溜息をつくキース君。
「正直、あいつとは顔を合わせたくないんだが…。俺も酷い目に遭ったしな」
「それを言うなら全員ですよ!」
シロエ君が顔を顰めて。
「みゆとスウェナは外野だったからいいですけどね、ぼくたちは…」
「…すまん、何もかも俺のせいなんだ」
キース君が項垂れています。去年の暮れにキース君が修行道場に行くにあたって、サイオン・バーストを起こす危険性が無いかチェックするようにと学校から指示がありました。指定されたのはドクター・ノルディの診療所。そこで待ち構えていたエロドクターとソルジャーのせいで男子は全員バニーちゃんの衣装を着せられたという…。
「先輩は悪くないですよ。諸悪の根源はドクターですし! どうしてああも悪趣味なんだか…」
信じられません、と悪態をつくシロエ君に会長さんが。
「ノルディは変態じみてるからねえ…。で、そんな所へ健康診断に行く可哀想なぼくに付き添ってくれる奇特な人は? キースの時の騒ぎがあるから今回は期待できないかなぁ…」
顔を見合わせる男の子たち。が、サム君が決然と。
「俺は行く! ブルーを放っておけないぜ。誰もいなかったらブルーがどんな目に遭うか…。正直、腕に自信はないけど」
「嬉しいよ、サム。その気持ちだけで十分だってば」
今回は最終兵器もあるし、と会長さんが宙にフワリと取り出したのは…。
「「「!!!」」」
忘れてましたよ、ドクター人形! キース君たちが強制されたバニーちゃんコンテストでトロフィーになった品ですけども、元はソルジャーが作ったもの。サイオンを伝達しやすいジルナイト製で、上手く使えばドクターの身体を呪縛することができるのです。
「…そういえばあったな、こういうヤツが…」
正視に堪えん、とキース君が呻き、ジョミー君が。
「ソルジャーが作ったヤツだもんね。だけど効き目は確かなんだし…」
「そうなんだけどね…」
会長さんが人形の頭を指で弾いて。
「この格好は頂けないな。だから健康診断の時期が来るまで何処にあるかを忘れるように自分に暗示をかけたんだ。健康診断の通知が来たから思い出した。これを大いに活用しよう」
サムでも簡単に扱えるから、と人形を眺める会長さん。ドクター人形は全裸でポーズを決めています。これに会長さんがサイオンで細工するだけで、エロドクターの身体や痛覚とシンクロさせられる仕掛けでした。
「…俺がやろう」
名乗り出たのはキース君。
「あいつには個人的に恨みがあるしな、仕返しのチャンスは逃したくない」
「なるほどね。じゃあ任せるよ、指で弾くだけで大ダメージを与えられるようにしておくからさ。…他のみんなは?」
会長さんの問いには有無を言わさぬものがあります。ここで断っても強制的に連行されてしまうでしょう。私たちは「行きます」と答え、明日の予定が決まりました。ドクター・ノルディの自宅に併設された診療所まで付き添いです。きっと今年もロクなことにはならないんでしょうねえ…。

翌日の放課後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で夕方まで待ち、タクシーに分乗してエロドクターの診療所へ。豪邸の隣に建つ診療所の扉を開けると人影はやはりありません。普段は受付の人や看護師さんもいるそうですが、会長さんの健康診断の日はスタッフはお休みになるのでした。
「ようこそいらっしゃいました」
診察室から白衣のエロドクターが出て来ます。
「お待ちしておりましたよ。…おや、その物騒な人形は…」
キース君が風呂敷包みを解くなり、ドクターは顔を顰めました。
「トロフィー代わりに差し上げたのは覚えていますが、後生大事にお持ちでしたか。…暴力には反対なのですけどねえ?」
「あんたの場合はセクハラだろうが! 俺にも色々しやがって…。だが今日は個人的な恨みは置いておく。その代わりブルーに何かしてみろ、即、思い知らせてやるからな!」
「…なるほど…」
それは恐ろしい、と大袈裟に肩を竦めるエロドクター。
「痛い思いは御免です。今日は吉日なのですよ。御存知でしたか、大安でしてね。ですから平和にいきましょう。ブルー、そちらの部屋で着替えを」
「…大安? なんだい、それは」
怪訝そうな会長さんですが、エロドクターは答えません。会長さんも心を読むほどでもないと思ったらしく、更衣室で検査服に着替えてきて…それから健康診断開始。いつもならセクハラまがいの触診などがつきものですが、どうした風の吹き回しなのか今日のドクターは淡々と…。
「なんだか変だと思わない?」
スウェナちゃんに尋ねられたのは待合室のソファでした。心電図やレントゲンになると女子は追い出されて男子だけが付き添います。それで出てきたわけですけども、待ち時間はとても手持無沙汰で…。
「絶対に変よ、今日はアッサリしすぎているわ」
再度繰り返すスウェナちゃん。
「うん…。採血も痛そうじゃなかったもんね」
「でしょ? いつもだったら採血する前に腕を散々撫で回すのに、普通に消毒だけだったし…。何か企んでなければいいけど」
「大安だからって言ってたのは?」
「その大安に裏がありそうな気がするのよねえ…」
覚悟しといた方がいいわよ、とスウェナちゃんが声をひそめた所で診察室の扉が開きました。もう診察が終わったようです。会長さんは更衣室に入り、キース君がドクター人形を手にしたままで。
「…これの出番は無かったぞ。大安とはそんなに有難いものか?」
「どうでしょう?」
首を傾げるシロエ君。
「暦のことは先輩の方が詳しいんじゃないかと思いますけど…。お寺には欠かせないんでしょう?」
「それはそうなんだが、合点がいかん。大安だからと言ってエロドクターが大人しくなるとは思えんのだがな…。ぶるぅ、前にもこういうことはあったのか?」
話を振られた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は記憶を探っているようでしたが…。
「んーと、んーとね、無かったと思う。ぼく、ブルーの健康診断についてきた時はお菓子を貰って待ってたんだよ。ブルー、いつも嫌そうにしてたし、終わった後も嫌そうだった。でも…今日は平気みたい」
珍しいよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は更衣室の方を見ています。やがて扉がカチャリと開いて制服姿の会長さんが現れました。キース君の時は制服の代わりにバニーちゃんの衣装が用意されたりしましたけれど、そういうこともないらしく…。これが大安効果でしょうか?
「お疲れ様でした。では、結果は一週間後ということで」
エロドクターが診察室に消え、キース君が『?』マークの書かれた顔で。
「おい…。何もないといっそ不気味なんだが、一週間後というのが問題なのか? それとも検査で引っ掛かりそうで精密検査が必要だとか?」
会長さんは診察室の方を伺い見ながら。
「うーん…。ぼくにもサッパリ分からないけど、ノルディの心はあまり読みたくないからね…。とにかく今日は終わったんだし帰ろうか。その人形もさっさと仕舞って」
「あ、ああ…。そうだったな」
見ているだけで不愉快になるし、とキース君がドクター人形を風呂敷で手早く包んでゆきます。と、診察室の奥から白衣を脱いだエロドクターがやって来たではありませんか。しまった、片付けるのが早すぎましたか!?

咄嗟に身構えた私たちを軽く一瞥してからエロドクターは会長さんにスタスタと近付き、取り出したのは小さな箱。手のひらに収まるサイズで綺麗にリボンがかけられています。
「…今日は大安だと言いましたよね」
改めて念を押すエロドクター。会長さんは後ずさりながら「それで?」と辛うじて声を絞り出しました。
「大安ですね、と言ったんです。…これをお渡しするには最高の日だと思うのですが、是非受け取って頂きたい」
「は?」
狐につままれたような顔の会長さんの手にドクターは箱を押し付けて。
「どうぞ開けてみて下さい。お気に召すと思いますよ」
「…???」
ドクターの気迫に押された会長さんがリボンを解きます。包装紙を剥がし、箱の蓋を開けると出てきたものは革張りの小箱。えっと…これがプレゼントですか? けれどドクターは「開けて」と更に促しました。そっか、あの中にまだ何か…。って、えぇっ!?
「「「………」」」
私たちは目の玉が飛び出すくらい驚きましたし、会長さんは硬直中。箱の中身は…。
「あなたの瞳の色に合わせて誂えました。…最高級のピジョン・ブラッド、ナチュラルです」
得々として解説を始めるエロドクター。
「大抵のルビーは色を良くするために加熱処理がしてあるのですよ。ヒート・エンハンスメントと言いますが、この処理は公に認められています。…自然のままで美しい色をしている石はナチュラルもしくは非加熱と呼ばれ、ことにピジョン・ブラッドとなりますと…滅多に出ないルビーですね」
如何です? とドクターが指差す先には真紅のルビーがメインストーンの見事な指輪。
「ハーレイがあなたにルビーの指輪を贈ったことがあったでしょう? あれとは格が違います。非加熱以前にピジョン・ブラッドでもなかったですし…。この柔らかな色合いがピジョン・ブラッドの身上ですよ。…あなたにもこんな柔らかな瞳をして頂きたいものですが…」
警戒心丸出しの瞳ではなく、とドクターは猫撫で声で続けました。
「先日、小耳に挟んだのです。ハーレイがあなたのマンションの庭一杯に真紅の薔薇を並べたとか…。そういう歌がございましたね、貧乏な画家が家とキャンバスを売って、惚れた女優に百万本の薔薇を贈るという。なのに振られる以前に存在にも気付いて貰えなかった。ハーレイもそれに近いのではないかと思いますが」
「………」
「薔薇のその後も聞いていますよ。マザー農場に送られて有効活用されたとか? 実にあなたらしい突っぱね方です。しかしハーレイが動いたとなると私も負けてはいられません。…あちらが薔薇なら私の方は指輪です。正式にプロポーズさせて頂きたい」
「「「!!!」」」
げげっ。なんで指輪なのかとは思いましたが、プロポーズ!? 会長さんを食べるのではなくてプロポーズ…。なんでまた、と声も出せない私たちと会長さんにドクターはニヤリと笑みを浮かべて。
「やはり正式に結婚しないと落とせないのかと思いましてね。ハーレイがとある理由で脱落するかと喜んでいたら復活を遂げたようですし…私も本気を出さないと。あなたをモノに出来るのだったら指輪くらいは安いものです。…いえ、結婚したらもっと贅沢をさせて差し上げますとも」
「……そういう問題じゃないんだけど……」
会長さんの声が低くなりました。
「さっきから大安にこだわってたのはプロポーズ日和っていうわけか。お断りだね、ぼくが指輪に釣られるとでも? これは女性に貢ぎたまえ。きっと喜んでもらえるさ」
「とんでもない。それくらいならコレクションにしておきますとも、あなたの瞳にそっくりですから」
美しいでしょう? とエロドクターが箱の中から取り出したルビーは確かに綺麗な色でした。ピジョン・ブラッドとは鳩の血という意味らしいですが、ただ赤いのとは違うのです。ふんわりとした柔らかみを持つ不思議な赤。会長さんが優しく微笑む時の瞳の色を映したような…。けれど今の会長さんの眼光は鋭く、ドクターをジロリと睨み付けて。
「言いたいことは全部でそれだけ? だったら帰るよ、なんだかドッと疲れたから」
「ほほう…。今日は珍しく強気でらっしゃる。まあ、それでこそソルジャーですがね。…そういうあなたもそそられますよ、怯えるあなたも素敵ですが…。では、お帰りになる前にこれを」
会長さんの左手を掴み、指輪を薬指に押し込もうとしたエロドクターを阻んだのはキース君でした。
「待て!」
ドクター人形を包んだ風呂敷を構え、「動くと開けるぞ」と脅します。
「こいつの威力は知ってるな? ブルーを放せ。でないとこいつを殴らせてもらう」
「そう来ましたか…。仕方ありません、指輪は受け取って頂けるまで保管しておくことにしておきますよ」
残念ですが、と会長さんから離れて指輪を眺めるエロドクター。
「綺麗だと思うのですけどねえ…。ブルーの瞳に映えそうですし、白い肌にもよく映る。…それはさておき、お帰りになる前に伺いたい。ハーレイの薔薇は噂通りのプロポーズですか? それとも錯乱したのでしょうか?」
「「「え?」」」
プロポーズに決まってるのにいきなり何を言い出すのでしょう? しかしドクターは大真面目でした。
「ハーレイはプロポーズなど出来る状況ではなかった筈だと思うのですよ。…少なくとも先日まではそうでした。守秘義務というものがありますからね、詳しいことは言えないのですが…。で、どちらですか、ソルジャー・ブルー?」
うわぁ…。ソルジャーの尊称をつけてきましたよ! これじゃ会長さんは適当に誤魔化すことは出来ません。どうなるんだろう、と思った時。
「…プロポーズだよ」
あっさりキッパリ答える声が。そして空間がユラリと揺れて、優雅に翻る紫のマント。…会長さんのそっくりさんがソルジャーの正装を纏って立っていました。また来たんですか、この人は! しかもエロドクターの診療所にまで押しかけるなんて、良からぬことでも企んでますか…?

「おやおや…。お久しぶりですね」
ソルジャーの登場に笑み崩れているエロドクター。この二人はキース君と男子全員を屈辱に遭わせたバニーちゃんコンテストで手を組んでいた過去があります。そうでなくてもソルジャーはエロドクターからお小遣いをせしめてみたり、妖しげな写真を撮らせてみたりと良からぬことばかりしているわけで…。
「ぼくが呼ばれたんだと思ったけどな? ソルジャー・ブルーと言ったじゃないか」
ウインクしてみせるソルジャーに、会長さんが舌打ちをして。
「…どうだか…。どうせ覗き見していたくせに」
「まあね。でもさ、君は決して答えないだろうし、代わりに答えてあげようかと…」
ボランティアってヤツだよね、とソルジャーはニッコリ笑いました。
「それでノルディは何を知りたい? 多分ぼくでも分かると思う。ここ最近のブルーの様子はだいたい把握しているからね」
「なるほど…。では、先日の薔薇の話は御存知で? ハーレイがブルーの住むマンションの庭一面に真紅の薔薇を撒いたのですが」
「ああ、あれね。とっても派手なプロポーズだったよ、ぼくも見ていて感動した」
「……プロポーズですか……」
ドクターは苦虫を噛み潰したような顔になり、指輪を持った手を握り締めて。
「あのまま脱落するかと思っていたのにプロポーズとは…。諦める前の死に花なのかと思ってもみたのですけどねえ…」
「死に花ねえ…」
生憎そうではなかったようだよ、とソルジャーは会長さんに視線を向けます。
「そうだよね、ブルー? ハーレイは庭一面に薔薇を並べて、薔薇の花束を抱えてきて…君にプロポーズをしたんだっけね、改めて」
「改めて…?」
聞き咎めたドクターにソルジャーは「うん」と事も無げに頷き、世間話でもするような調子で続けました。
「君はとっくに知ってるだろう、ハーレイがEDになってしまったことを。…脱落するって踏んでた理由もそれだよね? …でもハーレイは治ったんだ。ただ、その前にもうダメだって思ったらしくて、さよならデートをしたものだから…」
「さよならデート? デートですって!?」
「一対一じゃなかったけどね。そこの連中やぶるぅも一緒に出掛けていたから問題ないさ。だけどハーレイにとってはブルーへの想いを断ち切るための最初で最後のデートだった。ところがその晩にEDが治っちゃったから…さよならデートをチャラにしようとプロポーズ。…庭一面の薔薇は感動的だったよ」
ロマンティック、と熱い溜息をつくソルジャーの前でドクターはポカンと口を開けて。
「治ったですって? …EDが? 私は治療をしていませんし、病院にも診察を受けに来た様子は無いですが…」
「心因性のEDだしねえ…。ついでに言うなら治療したのはブルーだよ」
「ブルー!!!」
余計なことは言わなくていい、と叫んだ会長さんは無視されました。ソルジャーはクスクス笑うと「ほらね」とドクターに視線を向けて。
「ハーレイがEDになったのはブルーに騙されたせいなのさ。それだけってわけでもないんだけれど、とにかくブルーは責任ってヤツを感じたらしい。…身を引かれるとつまらなくなるし、そうなるよりは…って治療する道を選んだらしいよ」
「治療…。また随分と思い切ったことを…」
「ノルディ、君の考えは先走り過ぎだ。あのブルーがハーレイのために身体を張るわけないだろう? 治療方法というのはデート。絶叫マシーンでスピード克服」
「スピード克服?」
話についていけない様子のエロドクターにソルジャーは思念で仔細を伝えたみたいです。ドクターがプッと吹き出し、「失礼」と普段の顔に戻って。
「実にハーレイらしいですね。…立ち直りの早さも素晴らしい。私も負けてはいられませんよ、いつか必ずブルーをモノにしてみせます。…指輪はそれまでお預けですか…」
せっかく用意しましたのに、とドクターは残念そうでした。けれども無理に押し付けたりしない辺りは流石に大人。ルビーの指輪は箱に仕舞われ、健康診断も無事に終わって…後は一週間後に検査結果を聞きにくるだけでオッケーです。私たちとソルジャーは呼んでもらったタクシーに分乗して会長さんのマンションに向かいました。

夕食を兼ねた慰労会は焼肉パーティー。お肉の他に海老やホタテもたっぷりあって、締めは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作ってくれるガーリックライス。今日はエロドクターがセクハラをしなかったせいで平和でしたし、ドクター人形も出番がなくてラッキーでした。指輪には驚きましたけれども…。
「あの指輪。…値打ち物だよね?」
リビングに移ってジュース片手に寛ぎながら口を開いたのはソルジャーです。
「非加熱のピジョン・ブラッドだっけ? ぼくの世界だと地球で採掘された宝石ってだけで破格の値がつく。鑑別に出せば産地は簡単に分かるものだし、あれ1個あればシャトルくらいは造れるかも…」
「じゃあ、貰ってくればいいじゃないか」
おねだりするのは得意だろう、と会長さんが言いましたが。
「うーん…。あの手の物を売買するには特殊なルートが必要だから、売るのはちょっと難しいかな。でも君はつくづく恵まれてるよね、ノルディは指輪を買ってくれるし、ハーレイは薔薇を贈ってくれるし」
「…ぼくには迷惑なだけだけど?」
「贅沢な悩みってヤツだよ、それは。…ハーレイの薔薇は本当に羨ましかったんだ。ぼくのハーレイはヘタレな上に、ぼくとの仲を必死に隠しているからね…。君がハーレイに庭一面の薔薇を貰ったって話をしても「そうですか」としか言わなかったし、一面の薔薇もくれなかった」
「「「………」」」
そりゃそうだろう、と私たちは納得しました。ソルジャーとの仲を隠しているのに派手なプロポーズは不可能です。ついでにシャングリラ号という閉ざされた世界で大量の薔薇をどうやって入手できるでしょう? 手に入ったとしても飾る場所が…。青の間の水に浮かべるわけにも、公園を薔薇で埋め尽くすわけにもいきません。
「…本当にそう思うかい?」
無理だよね、と話し合っていた私たちにソルジャーが割って入りました。
「ぼくとハーレイの仲はバレバレなんだよ、実際の所。だからハーレイが青の間とか公園を薔薇で埋めても問題ないと思うんだけど、ハーレイはそこを分かっていないんだ。でも、問題は薔薇より情熱。こっちのハーレイを見習いたまえ、と言ってやったらどうしたと思う?」
「…えっと…。花束を持って来たとか…?」
首を捻りながら答えた会長さんに、ソルジャーは「大正解!」と頷いて。
「薔薇の花束を持って来たんだ、真紅のヤツをね。…どうやって調達したのかを考えてみると、そこまでは評価できるんだけど…。その後が悪い。これをどうぞ、って言われても! プロポーズの言葉はどうなったんだ、と」
ソルジャーは明らかに不機嫌でした。
「薔薇の花束を用意すればいいってモノじゃないんだよ! 前にこっちのノルディが薔薇の花束を買ってくれたことがあったけど…。あの時は「この薔薇を散らしたベッドで素敵なことをしませんか?」って口説かれた。そっちの方がよっぽど気が利いている」
「「「………」」」
「だから出直せって言ったんだ。気の利いた口説き文句の一つでも提げて出直してこいって言ったんだけど…」
嫌な予感がしてきました。ひょっとしてキャプテン、またも失敗しちゃいましたか? ソルジャーの御機嫌を損ねたとか? 戦々恐々とする私たちに向かってソルジャーは。
「ハーレイはきちんと出直してきたよ、とても気の利いた台詞つきでね。それは素晴らしい歯の浮くような口説き文句を。…ただし問題は嫌というほど見覚えのある台詞だったって所かな。…恋愛小説」
「「「は?」」」
恋愛小説って何でしょう? 色々と種類はありますけども、参考にしてはダメなんですか?
「参考にしたんなら許せるさ。…朴念仁のハーレイがやらかしたことは丸暗記! ぼくのシャングリラで人気絶頂の恋愛小説に出てくる台詞を丸覚えして出直してきたんだ、薔薇の花束を抱えてね。…よりにもよって丸暗記! 庭一面の薔薇に感動したって言っていたぼくにこの仕打ち!」
許せないよね、とソルジャーは柳眉を吊り上げて。
「だから家出をすることにした。…ブルーの健康診断結果が心配だからって書き置きを置いて出てきたけれども、ぶるぅにきちんと言い含めてある。折を見て家出の本当の理由をハーレイに説明するように、って」
あちゃ~…。また家出してきちゃいましたか、ソルジャーは! エロドクターとの縁が切れない期間中にソルジャーがこっちへ来てしまうなんて最悪です。会長さんも真っ青ですけど、これってやっぱり大惨事ですか…?




PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]