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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

役立つ専門家・第1話

坊主カフェやら教頭先生の剃髪ショーやら、坊主一色だった学園祭が終わると空気は初冬。紅葉便りの季節です。来月にはキース君の伝宗伝戒道場入りも控えていますし、暖房が無いという過酷な道場だけに「暖冬になるといいね」と皆で話題にしてたのですけど…。
「残念だったねえ、キース」
会長さんが家から持ってきた朝刊の1面を指差しました。
「恵須出井寺で初雪だってさ。平年よりも1週間ほど早いようだし、来月は寒くなりそうだよ」
「…気が滅入るから言わないでくれ。最近は朝晩も冷え込むしな」
もう考えないことにした、とコーヒーを啜るキース君。私たちはいつものように「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に集まっています。柔道部三人組は部活を終えてからの合流で、焼きそばを平らげてからマロンパイでティータイム。
「先輩に聞いた話なんだが、道場で何が辛いと言って夜の寒さが半端ないらしい。昼間は修行に打ち込んでいるから気にならなくても、布団に入ると一人だしな。もちろん私語は厳禁だ。…畳から冷気が這い上がって来て眠るまで時間がかかるんだとさ」
「「「………」」」
それはなんとも寒そうだ、と私たちは身体を震わせました。寝床の中は暖かいものだと思っているのに、身体の下から冷えるだなんて…。シールドでなんとかならないのかな?
「キースには無理だね」
冷たく突き放す会長さん。
「サイオン・シールドは目的に合わせて使い分けが必要なんだ。姿を隠すとか、衝撃を防ぐとか、周囲の空気を遮断するとか。つまり微細なコントロールが欠かせないわけ。そこまでの力はキースには無いよ」
「俺も頑張ってはみたんだが…。どうも才能が無いようだ」
諦めて霜焼けになってくる、とキース君は溜息をついています。霜焼けは道場の名物だそうで…。
「まあいいさ。いずれはサムもジョミーも行くだろ? 一足お先に体験してくる」
「ちょ、ちょっと待ってよ、なんでぼくが!」
ジョミー君が慌てていますが、キース君の方は心得たもの。
「何を今更…。ブルーの弟子になったんだろうが。本山に届けは出ていなくても、今や立派な仏弟子だ。正式な坊主になるのに大学は必要ないんだぞ? 決められた量の修行をこなせば伝宗伝戒道場に行ける」
「そうだぜ、ジョミー」
サム君が横から割り込みました。
「璃慕恩院でも定期的にやってるらしいし、本格的にやりたいんならキースの大学に特別コースがあるんだってさ。大学の授業とは関係なしに坊主目指してまっしぐら! ただ、全寮制で2年みたいだけど」
「全寮制…? なんだよ、それ…」
真っ青になったジョミー君に、キース君が。
「ああ、そういうコースも存在するな。大学の卒業資格は貰えないんだが、2年の間みっちり学べば伝宗伝戒道場に行ける。ある意味、最短コースとも言うか…。俺は大学も卒業したかったから、普通に大学生だがな」
「……2年……」
青ざめているジョミー君ですが、キース君は楽しそうに。
「他にも1年で終わる専修コースがあるんだぜ。通信教育講座もある。だが、人気は2年コースだな。仏教の聖地への研修旅行なんかも行けるし、なにより坊主に専念できる。寮では法衣か作務衣を着用、男子は丸刈りが鉄則なんだ」
「丸刈り…?」
「当然だろうが。坊主専門コースだぞ? 6時起床で講義の合間にお勤めに掃除、勉強会。…どうだ、サムと一緒に行ってみないか?」
ニヤニヤしているキース君ですが、全寮制だとシャングリラ学園はどうなるんでしょう? 二足の草鞋は難しいのでは…? その心配を払拭したのは会長さんです。
「そうだね、サムと二人で行ってみるかい? 紹介状なら書いてあげるよ、入試は無くて条件は得度だけだから。…シャングリラ学園の方は休学扱いにするのもいいし、暇な時だけ顔を出すって形にしても問題ない。欠席大王のジルベールなんかは一度も来ない年もあるしさ」
「…で、でも…。全寮制だとサムが困るよ? ブルーに会えなくなっちゃうじゃないか」
「そっちの方は任せといてよ。面会に行けば済む話だ」
毎日でもね、と悪戯っぽく笑う会長さん。
「ぼくは璃慕恩院にもキースの大学にも顔が利く。ついでに寮は二人部屋だ。ジョミーとサムを相部屋にすれば、夜中にコッソリ遊びに行っても誰にも見咎められないし!」
「なるほど。…あんたならシールドも完璧だから、他の連中にはバレないだろうな」
キース君が相槌を打ち、ジョミー君は泣きそうな顔で。
「待ってよ、サムも乗り気なわけ? 全寮制とか本気なわけ…?」
「え? 俺はまだ何も決めてないけど…」
どうしようかなぁ、とサム君が首を捻っています。
「毎年、夏に璃慕恩院とかカナリアさんとかで集中講座があるらしいんだ。三週間って言ったかな? それを三年間ほどこなして、試験を受けて合格すれば伝宗伝戒道場に行けるみたいだし…。シャングリラ学園に通いながら坊主を目指すならコレがいいかな、って」
「うわぁ…。勘弁してよ、ぼくは坊主は嫌なんだってば!」
「得度しただろ? 俺と一緒に頑張ろうぜ」
まずは朝一番のお勤めから、とサム君に勧誘されて逃げ腰になるジョミー君。会長さんの家での朝のお勤めに一度も出掛けていないのだそうで、お坊さんへの道は遠そうですねえ…。

そうやってワイワイ騒いでいると、不意に空気が揺らめいて。
「こんにちは」
紫のマントが翻り、ソルジャーが姿を現しました。
「今日も賑やかにやってるね。えっと、ぼくのおやつは…」
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
お客様だぁ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がキッチンの方へ駆けてゆきます。戻ってきた手にはマロンパイとティーセットを載せたお盆が…。
「いつも悪いね。うん、今日のおやつも美味しそうだ」
ソルジャーは勝手知ったる他人の家とばかりにソファに腰掛け、マロンパイにフォークを入れながら。
「お坊さんの話に花が咲いていたようだけど、ハーレイは結局どうなったわけ? 学園祭でブルーに坊主頭にされてしまって、お金でカタをつけたんだろう?」
「まあね」
思い出し笑いをしている会長さん。
「後夜祭が終わったら勝手に元に戻ると思ってたらしい。なのに家に帰ってもそのままだから、ぼくに電話をかけてきたんだ。それで思い切り吹っかけてやった」
会長さんは「すぐに戻すなら幾ら、一日なら幾ら…」とボッタクリな価格を告げたのです。教頭先生は泣き泣き最高価格を支払い、元に戻して貰ったのですが…。
「ぼくが受け取ったお金は御布施だからね、ついでに法名をプレゼントしようとしたら断られちゃった。ジョミーですら得度したというのに、まだまだ覚悟が足りないらしい」
「そうか…。やっぱりお坊さんにはならないんだ?」
「うん。往生際だけは悪いからね」
ヘタレだから、と溜息をつく会長さんにソルジャーは。
「君一筋に三百年で、童貞まっしぐらのハーレイですら色々と詰めが甘いってわけか…。だったら仕方ないのかなぁ? ぼくのハーレイがマンネリ街道一直線でも」
「「「は?」」」
いきなり飛躍した話に私たちは首を傾げました。マンネリという単語は耳にタコが出来るほど聞かされてますが、またまた何か問題が…? ソルジャー、家出してきたとか…?
「いや、今回は家出じゃないんだ」
誰の思考が零れていたのか、ソルジャーは苦笑しています。
「毎回々々、家出ばかりじゃ芸が無いしね。それも一つのマンネリってヤツだ。…この前、ぶるぅを預かって貰った時のことは覚えているだろう?」
「ああ、あれな…」
キース君の視線が遠くなって。
「子供だと思って放っておいたら酷い目に遭った。あいつは元気にやってるのか?」
「お蔭様で。こっちにも何度か遊びに来てるし、ゲームの方も楽しんでるよ。だけど悪戯は止まないね。…覗きだけはやらないように厳しく言ってあるけれど」
ソルジャーとキャプテンの大人の時間を覗き見した「ぶるぅ」を預かる羽目に陥った記憶は私たちの中でも鮮明です。悪戯禁止と言われてストレスが溜まった「ぶるぅ」がやらかした悪戯は、自分が覗き見した大人の時間をDVDに記録するというヤツで…。
「ぶるぅを預かって貰ったことは有意義だった」
大いに役に立った、と続けるソルジャー。
「持って帰ったDVDは青の間で再生可能に出来たし、あれでハーレイを教育したんだ。マンネリから抜け出せないなら、せめてサービスに努めるように…って」
「そこまで!」
会長さんが遮りましたが、ソルジャーはチラリと横目で見ただけ。
「いいじゃないか、別に実演するわけじゃなし! 万年十八歳未満お断りの団体様だとは聞いているけど、実年齢は十八歳になってるよねえ? 性教育なんてモノもあるんだし、聞くだけなら特に問題ないさ」
でね、とソルジャーは言葉を続けて。
「ハーレイは真面目に頑張った。あの映像を再生しながらやるというのは刺激的だね。あんなに燃えるシチュエーションは鏡張りの部屋以来かな? とにかく素敵で、大満足で…。そこまでは良かったんだけど」
「「「???」」」
「…過ぎたるは及ばざるが如し、っていうのは本当だったよ。ハーレイときたら、あの映像を流しさえすればぼくが喜ぶと思ったらしい。来る日も来る日も映像つきっていうのはちょっとね…。それを指摘したら平謝りで、映像はそれっきり流さなくなった。そして中身はマンネリだ」
つまらないんだ、とソルジャーは唇を尖らせました。
「ぼくとしては毎日とまでは言わないから、たまには刺激が欲しいんだよ。マンネリから抜け出せなくても、こう、ちょっとした遊び心とか…。それでノルディの所へ行った」
「「「えぇっ!?」」」
腰が抜けそうになる私たち。よりにもよってエロドクターの所へ、ですか…? が、ソルジャーは慌てて手を振って。
「違う、違う。ノルディはノルディでも同じ名前の別人さ。…ぼくのシャングリラのドクターだよ」
「「「………」」」
ああ良かった…。そのドクターなら安心です。仕事の虫だと聞いてますから! ソルジャーは「そうなんだよ」と頷いて。
「誰にも聞かれたくない話があるから、と頼んだら時間を空けてくれた。それでハーレイと二人で出掛けて行ったんだけど、仕事の虫じゃ話にならないねえ…」
事務的すぎる、と嘆くソルジャー。
「ノルディはぼくとハーレイの事情を知っているんだ。だから脱マンネリに知恵を貸してくれるかと思えば、いとも簡単に言ってのけた。倦怠期ってヤツですね…って」
会長さんがプッと吹き出し、キース君も笑いを堪えています。倦怠期って…やっぱり私の考えた意味で合ってるみたい。ジョミー君たちも複雑な顔。ソルジャーは「笑い事じゃないよ!」と声を荒げて。
「とにかくノルディはダメだった。男女間の倦怠期における解決法をつらつらと述べて、挙句になんて言ったと思う? …男同士の倦怠期についてはデータが無いので、被験者になって頂けると嬉しいのですが…って!」
今度こそ会長さんは可笑しそうに笑い出しました。私もついつい笑いがこみ上げてきて、もう止めるのも難しくって…。ソルジャーの世界のドクター・ノルディは最高かも~!

散々笑って笑い転げて、涙まで溢れ始めた頃。…物凄い殺気で我に返ると、ソルジャーが射殺しそうな瞳で私たちを見詰めています。
「…所詮やっぱり他人事か…。こんなことなら事前承諾なんかを貰いに来るんじゃなかったかな?」
「あ…。ごめん」
会長さんが素直に謝り、私たちにも謝るようにと促してから。
「事前承諾って何のことさ? 話がサッパリ見えないんだけど…?」
「今までの流れで分からないかな? ぼくはマンネリで悩んでるんだよ。ハーレイを連れてわざわざ相談に行くくらいにね」
無駄だったけど、と盛大な溜息を吐き出すソルジャー。
「ぼくの世界のノルディ相手じゃ話にならないことは分かった。…だったら相談相手を変更するしかないだろう? ぶるぅのストレスを的確に診断してくれたノルディは信頼できる」
え。それってまさかのエロドクター? 目が点になった私たちにソルジャーはフンと鼻を鳴らして。
「こっちのノルディはテクニシャンだと自負しているし、百戦錬磨のツワモノだしね。ぼくとハーレイの倦怠期とやらにも相応の助言をしてくれそうだ。…それで相談に行こうと思ったんだけど、ブルーの承諾が必要かなぁ…って」
「…なんで?」
怪訝そうな会長さんに、ソルジャーは心底呆れた風で。
「えっと…。危機感が無いとは天晴れだねえ? こっちのノルディは君に御執心で、そのお蔭でぼくも美味しい思いをしているんだよ? そんなぼくがパートナーも一緒だとはいえ、とてもデリケートな相談をしに行くんだけれど? …あのノルディが提示してくる解決策が下心ゼロと言い切れるかい?」
「「「………」」」
それはヤバイ、と私たちも遅まきながら気が付きました。なんと言ってもエロドクターです。ソルジャーとキャプテンのためと言いつつ、自分にも利益がありそうな策を練らないとは断言できないわけで…。
「今頃やっと気付いたわけ? まあいいけどね、それならそれで勝手に行くから」
「え?」
会長さんが赤い瞳を見開いて。
「勝手に…って、初めからそういうつもりなんじゃあ? ぼくが止めても行くんだろう?」
「君の承諾を貰いに来たって言ったじゃないか。…心配だったら付き合ってくれればいいんだよ。そこの子たちも一緒にね」
ソルジャーは唇を笑みの形に吊り上げました。
「ぼくのハーレイも連れて行くけど、ハーレイに遠慮は無用だから! どうせ元からヘタレなんだし、ギャラリーが山ほど居並ぶ前で診断を受けて貰うつもりさ。とても素敵な見世物だろう?」
「…見世物って…」
それはあまりに酷過ぎるのでは、という会長さんの言葉は無視されました。
「ハーレイのマンネリは今に始まったことじゃないんだよ? ぼくが家出をしてきたのだって一度や二度じゃないだろう? 本当はハーレイを叩き出したい所だけれど、キャプテンを船から放り出したら大変なことになるからねえ…」
ヒラのクルーなら良かったのに、とソルジャーは肩を竦めていますが、何かとお騒がせでトラブルメーカーなソルジャーのお相手が普通のクルーに務まるとは思えません。だからこそキャプテンが恋人なのでは…と思うのですけど、余計なお世話ってヤツなんでしょうか? 私たちが顔を見合わせていると、ソルジャーは。
「そういうわけで、ぼくのハーレイを呼んでもいいかな? ついでにノルディに診療の予約を入れたいんだけど、君たちも一緒についてくる? それともぼくとハーレイだけで…」
「ついて行く!」
間髪を入れずに叫んだのは会長さんでした。
「さっきは真面目な相談に行くんだと思っていたけど、急に不安になってきた。君のハーレイを見世物だなんて言い出すしね…。そこへノルディだ。君とノルディが揃うとロクなことにならない。…診療の予約は取ってあげるから、ぼくも一緒に…」
「ついでにそこの子たちもね。ブルーのボディーガードなんだろう?」
ソルジャーに訊かれて、頷かざるを得ない私たち。サム君だけは会長さんのためなら火でも水でも気にしませんけど…。こうしてエロドクターの診療所へのお出掛けが決まり、会長さんが予約の電話を入れました。ソルジャーの名前は出さずに、です。エロドクターが何か勘違いをしてそうですけど、知ったことではないですよねえ?

それから間もなく「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に呼び出されたのはソルジャーの世界のキャプテンです。船長服のキャプテンは周囲を見回し、私たちがズラリと居並ぶ光景に首を傾げて。
「…ソルジャー、極秘のお呼び出しだと伺いましたが…?」
「極秘だよ? ゼルたちにも秘密にしてあるしね。ああ、シャングリラのことなら大丈夫だ。ぶるぅが青の間で頑張っている」
いざとなったら連絡が来るよ、とソルジャーは澄ましていますが、キャプテンの方はそれどころではないようで…。
「せ、先日の件の続きなのでは…? 行き先が違うようなのですが…」
「だから、これから行くんじゃないか。そうそう、予約はこっちのブルーがしてくれた。君からも御礼を言いたまえ」
「…御礼……ですか…?」
キャプテンは見事に固まりました。言動から察するに、キャプテンはエロドクターの診療所へ相談に行くものと思っていたようです。なのに違う場所に呼ばれ、あまつさえ診療の予約は会長さんが入れたとなると、プライバシーも何もあったものではありません。顔面蒼白のキャプテンに、ソルジャーがクッと喉を鳴らして。
「心配しなくても、ブルーは予約を入れただけだよ。こっちのノルディは誰を診るのかも知らないから」
「そ、そうなのですか? …すみません、お手数をおかけしました」
深々と頭を下げたキャプテンでしたが、ソルジャーは容赦なく追い打ちを。
「ノルディは何も知らないけどね、ここの連中は全部知っている。ついでに診療所にも付き添ってくれることになっているから、覚悟しといて」
ぐえっ、と短い悲鳴が聞こえてきたのは気のせいではないと思います。キャプテンは脂汗を流しながら必死に付き添いを断ろうとしたのですけど、ソルジャーが許すわけがなく…。
「旅の恥はかき捨てって言うだろう? ここは究極の旅先だ。どんな恥をかいてもシャングリラの皆には絶対バレない。君のセックスがマンネリだとか、しょっちゅう飽きられて家出されてるとか、そういうことはとっくの昔にこっちの世界じゃバレバレなんだよ。恥の上塗りの一枚や二枚、気にしなくっても問題なし!」
キャプテンはガックリ項垂れ、眉間の皺を揉んでいます。こんな調子でエロドクターの診療所に乗り込んで行ったら、どんな展開になるのやら…。気の毒としか言いようのない状況でした。けれども時間は止まることなく、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が早めの夕食を用意してくれ、食欲の無いキャプテン以外はピラフやシチューを詰め込んで…。
「そろそろかな?」
壁の時計を眺めるソルジャー。
「この面子だと、タクシーよりも一気に飛ぶのが一番だよね?」
「えっと…」
会長さんがサイオンで診療所の様子を探ってから。
「うん、受付の人もスタッフもいない。予約を入れたのはぼくなんだから、そうするだろうと思ってたけどさ。情報撹乱の必要もないし、瞬間移動も問題ないね」
「よし! それじゃ行こうか。ハーレイ、専門家の質問には包み隠さず答えること! でないと正確な診断結果が出ないから。…ブルーとぶるぅはそこの子たちを連れてくんだよね?」
あぁぁぁぁ。私たちには逃げる機会もありませんでした。元気一杯な「かみお~ん♪」の雄叫びを合図に青いサイオンの光が溢れ、身体を包む浮遊感。万事休すってこのことですか~!

「…これはこれは」
驚きました、とエロドクターが両手を広げて立っています。私たちは瞬間移動で待合室に飛び込み、会長さんがサム君に護衛されながらソルジャーの方を指差して。
「電話じゃ話が長くなるから省略したんだ。…診察を受けるのはぼくじゃない。そこのブルーとハーレイだよ」
「おや。…それは少々残念ですね。とはいえ、ブルーを診察できるというのも嬉しいものです。お医者さんごっこしかやったことがありませんのでねえ…」
「「「お医者さんごっこ!?」」」
私たちの声が引っくり返り、ソルジャーがペロリと舌を出して。
「ちょっとだけね。食事に付き合うだけじゃ物足りないって時もあるとは思わないかい? あ、心配しなくてもホテルとかには行っていないよ、本物の病院があるんだからさ」
「「「………」」」
どんなお医者さんごっこなんだか知りたくもない、と頭を抱える私たちの前にエロドクターが奥からカルテを持ってきました。
「どうです、ご覧になりますか? これがブルーのカルテですが…。お遊びですから、キスマークの場所を記録してあるだけですけどね。それも上半身限定です」
「そういうこと。お医者さんごっこの正体はコレ」
見る? とカルテを受け取ってヒラヒラさせるソルジャーでしたが、見たがる人がいる筈もなく…。キャプテンなんかは真っ赤になって俯いています。そりゃそうでしょう、自分とソルジャーの間の秘密を記録されていたというのですから。
「ほほう…。そちらのハーレイにお会いするのは初めてですが、こちらのハーレイに負けず劣らず、ヘタレでらっしゃるようですねえ…。お医者さんごっこなど可愛いものではありませんか。キスマークを見られて困ることでも…?」
明らかに面白がっているエロドクターは、実はキャプテンと初対面ではありません。ドクターは記憶を失くしてますけど、その昔、ソルジャーを食べようとしてあちらの世界に乗り込んだ時、ソルジャーに一服盛られた挙句にキャプテンにヤられてしまった不幸な過去が。ですからキャプテンはもっと強気に出られるんだと思いますけど、違うのかな?
『無理、無理! ぼくの命令でやったことだし、そこに至るまでの事情も知っているからねえ…。こっちのノルディには敵うわけないよ、なんと言ってもヘタレだから!』
ソルジャーの思念に解説されて、私たちはキャプテンの負けを確信せざるを得ませんでした。エロドクターはそんなキャプテンとソルジャーを診察室へ促し、並んで椅子に腰掛けさせて。
「…さて、本日はどうなさいました? そちらの世界にも私そっくりのドクターがいたと思うのですが、お役に立てなかったのですか? それとも、お医者さんごっこのカルテが必要になったとか…?」
意味深な笑みを浮かべるエロドクターに、ソルジャーが。
「お医者さんごっこで作ったカルテねえ…。案外それもいいかもしれない。…ただし、ハーレイがお医者さんになり切れないと意味が無いけど」
「「「は?」」」
ドクターもキャプテンも、私たちも首を捻りました。お医者さんごっこが何ですって?
「なんて言えばいいのかな? そういうプレイも新鮮かな、って…。ハーレイがぼくにキスマークをつけながら、丹念にカルテに記録する。そういえば、お医者さんごっこはしたことなかった」
思い付きもしなかったよ、とソルジャーは一人で納得してから。
「ノルディ、君に折り入って相談がある。…ぼくとハーレイのプライベートに関わることで、外に漏らしたくないからよろしく頼むよ」
「守秘義務…というヤツですか? それにしては付き添いの数がやたらと多いようですが…? ぶるぅはともかく、他の皆さんはどうするのです?」
「かまわないのさ、ギャラリーだから。ぼくのシャングリラに知れ渡らなければいいんだしね。…ぼくの世界のノルディにも相談したんだけれど、全く話にならなくてさ。それでこっちに来ることに…」
ソルジャーはキャプテンの肩をポンと叩いて。
「ハーレイ、さっきのカルテごときで赤くなるとは情けないねえ…。脱マンネリの相談に乗って貰うんだろう? アドバイスに耳を傾けなくちゃ」
「脱…マンネリ…ですか?」
ポカンとしているエロドクターに、ソルジャーはパチンとウインクをして。
「そうなんだ。ぼくの世界のノルディは倦怠期だと診断した。…この状態から脱出するにはどうすればいい? 名案を期待しているよ」
瞳を輝かせているソルジャーと、大きな身体を縮こまらせているキャプテンと。…エロドクターは何と答えを返すのでしょうか? 万年十八歳未満お断りでも理解できればいいのですけど、分からない方が幸せかな…?



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