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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

羽ばたく友へ・第1話

シャングリラ学園名物のバレンタインデーは今年も無事に終了しました。会長さんは女子生徒たちから山のようなチョコを貰って大満足でしたし、ジョミー君たちもそれなりに…。この学校では「バレンタインデーにチョコをやり取りしない生徒は礼法室で説教」な上に反省文の提出もあるので、ある意味、恐ろしいイベントです。「貰えなかったらどうしよう」と心配な男子のために『友チョコ保険』なんかもあったりして…。
「ジョミーたちは今年も友チョコ保険に入ったんだね」
会長さんがクスクスと笑っているのはバレンタインデーの翌日の放課後。
「もっと自信を持ちたまえ。毎年、ちゃんと貰えてるのに…」
「でも! 万一ってことだってあるし、入っておかないと心配だよ」
ブルーと違って、とジョミー君が言えば他の男子もコクコク真面目に頷いています。
「万一の場合ねえ…。確かに保険は必要だ。…ぼくが教頭室へ行く時は君たちを連れて行くのも保険だし。ハーレイがトチ狂ったら何かと危ない」
「「「………」」」
何を今更、と私たちは溜息をつきました。会長さんときたら、教頭先生に手作り下着をプレゼントしてしまったのです。それもキッチリ予告付きで! 昨日の放課後、『見えないギャラリー』として「そるじゃぁ・ぶるぅ」と一緒にシールドに入ってくっついて行った私たちが見たのは期待に満ちた教頭先生。しかし…。
「まあ、ハーレイの場合はヘタレだからねえ、トチ狂う以前の問題か…。もっと喜んでくれてもいいのにさ」
「…明らかに遊ばれていると分かっているのに、喜ぶヤツはいないと思うが?」
冷静に指摘したのはキース君です。
「何がその場で試着しろ、だ! 教頭先生もお気の毒に…」
「いいじゃないか、ぼくしか見ていないんだから! ヘタレでないなら、あの下着でも自分をアピール出来そうだけど? 腰巻は無理でもTバックならね。なのに勘弁してくれだなんて…」
せっかく心をこめて作ったのに、と不満そうな会長さん。
「見たかったなぁ、ショッキングピンクのTバック! あれからサイオンで覗き見したけど、家でも履いてはくれなかったし…。もったいない」
会長さんはブツブツ言っていますが、私たちはホッとしたというのが正直なところ。教頭先生のTバック姿は人魚の尻尾を装着する時に見ていますけど、あれは紫のヤツでした。今度のはショッキングピンクな上にレースとフリルもたっぷりでしたし、見ずに済むならその方がいいに決まっています。
「あーあ、バレンタインデーは空振りかあ…。これじゃホワイトデーも期待出来そうにないし、卒業式にでも集中するかな」
「「「は?」」」
卒業式がどうかしましたか? 首を傾げる私たちに向かって会長さんは。
「一年経ったらもう忘れちゃった? 卒業式と言えば記念製作に決まってるだろう」
「「「あ…」」」
綺麗サッパリ忘れてましたよ、卒業式前に何があるのか! シャングリラ学園の卒業式では校長先生の大きな銅像が変身するのがお約束です。以前は会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が独占していたみたいですけど、去年から私たちが請け負うことになっていて…。
「今年もシロエの腕に期待してるよ。パーッと派手にやりたいんだよね」
見た目は地味かもしれないけれど、とニッコリ微笑む会長さんの頭の中には既にプランがあるようです。見た目は地味でもパーッと派手に…って、いったい何をやらかすつもり…?

「……これって……」
「思いっ切り無理がありすぎるんじゃあ……」
ポカンとしている私たちの前にはテレビ画面がありました。普段は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋でテレビなんかは見ていません。大型テレビが置いてあるのは事実ですけど、会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が退屈しのぎに見るものらしくて、私たちが遊びに訪れる時は消されています。そのテレビに映像が流れていて…。
「なかなか素敵だと思うんだけど? じゃあ、もう一回」
録画してあった映像を何度も繰り返し再生されて、私たちは会長さんの本気をヒシヒシと感じていました。
「いいかい、今年は褌が旬なんだよ。かるた大会の初っ切りでハーレイたちが見せた力士姿といい、バレンタインデーの黒猫褌といい…。そして決め手は相撲だね。初っ切りも、ブルーが喚き立ててた四十八手も相撲関連! だったらやるしかないだろう?」
「そ、それはそうかもしれませんけど…」
本気ですか? とシロエ君が会長さんの方を振り返って。
「見た目は地味でもパーッと派手に、ってことは……動かさないと駄目なんじゃあ…」
「決まってるじゃないか。像を動かせとは言わないけどね、この動きは取り入れて欲しいんだ」
もう一回、と再生された映像の中では化粧回しを締めた力士が土俵の上に立ち、右手に弓を握ってクルンクルンと回しています。相撲中継の締めでお馴染みの弓取り式というヤツらしいですが、こんなのをどう取り入れろと? 銅像は全身像ではありますけれど、手足が動く筈もなく…。
「どう考えても無理ですよ!」
シロエ君が降参しました。
「会長のサイオンを使うんだったら別ですけども、サイオニック・ドリーム以外の手段でコレは無理です。ぼく、今年は下りさせて頂きます」
「おやおや、君らしくもないことを言うねえ…。要は弓をクルンクルンと回してくれればいいんだよ。それとセットで目からビームとか、ちょこっと花火でも出来ればいいなぁ…と」
「絵になりませんっ!」
あの銅像は細身すぎます、とシロエ君。
「バランスとかが悪すぎますよ。弓を回せばいいと言われても、見た目の方も重要ですから! やるからには完璧な仕事をしたいんです。ですから今年は会長が…」
「却下」
もう君たちに任せたんだ、と会長さんは涼しい顔。
「銅像が細身な件は頑張ればどうとでもなるだろう? そもそもスーツを着ている像を力士姿にしようって段階で方法は着ぐるみもどきしか無い筈だ。その過程で体型の方も補正していけば問題ないよ。頭ももちろん、大銀杏でね」
「「「………」」」
えらいことになった、と私たちは顔を見合わせました。着ぐるみと言えば去年シロエ君が作ったモビルスーツもそうでしたけど、力士となると誤魔化しがまるで効きません。出来るだけ継ぎ目とかが目立たないようにしないと変になりますし、おまけに弓をクルンクルン……ですか?
「力士が嫌なら越中褌でもいいけれど? 前に見せてたカタログみたいに煽り文句を書いた幟を隣に添えるだけだから。…そう、『男は黙って越中ふんどし!』っていうアレさ。ただしセンスを疑われるのは間違いないね」
誰がやったかはバレないけれど、と会長さんは笑っていますが、銅像を変身させるのが私たちの仕事なことを知っている人たちが確実にいます。それは数学同好会のパスカル先輩たちで、もしかしたら今はアルトちゃんとrちゃんだって知っているかも…。
「………。褌は必須なんですか?」
シロエ君がハアと溜息をつくと、会長さんは「もちろんさ」と即答でした。
「こういうのはね、インスピレーションが大事なんだよ。閃きで勝負と言ってもいいかな? だから今年は弓取り式! 出来ないんだったら越中褌!」
「分かりましたよ…。弓取り式で頑張ってみます。誰もがアッと驚くような力士に仕上げてみせますとも! アンコ型にしたら腕がめり込んでしまいますから、もちろんソップ型ですよね」
拳をグッと握り締めているシロエ君ですが、アンコ型とかソップ型って何でしょう? 聞いたような気はするんですけど…。悩んでいると会長さんが。
「ああ、知らない? ソップ型っていうのは力士の体型。細身の力士がソップ型でね、太っているのがアンコ型なんだ。…というわけで、今年の卒業式にはソップ型! シロエ、楽しみにしているよ」
「はい! でも、それが限界ですからね」
あんまり無茶は言わないで下さい、と念を押してからシロエ君は弓取り式の映像をもう一度再生しました。更に二度、三度と見てから手帳に何やら書き入れて…。
「この映像を資料にお借りします。それと去年に借りた張りぼての方もお願いします」
張りぼてというのは校長先生の銅像の等身大のヤツで、変身用のアイテムなどをそれに装着させてテストするのでした。会長さんは満足そうにオッケーを出し、シロエ君は今夜から早速アイデアの実現に向けて作業を開始するそうです。私たちは卒業式前夜の変身だけしか手伝えませんけど、シロエ君、卒業制作、頑張って~!

そして三学期の期末試験がやって来ました。試験開始の前日には1年A組の教室の後ろに会長さんの机が増えて、今年度最後の試験に向けてクラスメイトの期待が高まります。なんと言っても会長さんには「そるじゃぁ・ぶるぅ」の不思議パワーがついてますから、一緒に試験を受けて貰えばクラス全員が満点に間違いないわけで…。
「会長、よろしくお願いします!」
「そるじゃぁ・ぶるぅに差し入れです!」
ワイワイと会長さんの机を囲んだクラスメイトたちは口々にお願いしたり、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が気に入りそうなお菓子なんかを渡したり。会長さんは「来年からは自分で頑張るんだよ」と釘を刺しつつも、まんざらではない様子です。この調子ではまた来年度も私たちのクラスに来るんでしょうねえ…。
試験期間は五日間。これが終われば特別生には登校義務が無くなります。元々、出席の有無は問われませんけど、建前上は「出席するのが望ましい」とされているのが三学期の期末試験まで。とはいえ、私たちは去年、暇を持て余して期末試験の後も真面目に登校しちゃったわけですけども…。
「やったー、自由だ!!!」
「終わったぞー!」
クラスメイトの大歓声が響き渡ったのは五日間の試験と終礼が終わった後でした。グレイブ先生が「羽目を外さないように」と言っていたのをサラッと無視して、誰もが打ち上げに飛び出してゆきます。それは私たち七人グループにしたって同じことで…。
「かみお~ん♪ 試験、お疲れ様! やっと終わったね!」
元気一杯に迎えてくれた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は試験期間中の放課後、毎日の昼食と午後のおやつを頑張って作ってくれていました。試験は午前中で終了ですから、お昼御飯が要るわけです。今日も美味しそうな匂いがしていて、スープとマカロニグラタンが…。あれ? マカロニに何か詰まってる?
「フォアグラとトリュフをペーストにして詰めたんだよ。ブルーがね、最後の試験が済んだんだから、ちょっと贅沢しちゃおうか…って」
「「「えぇっ!?」」」
フォアグラとトリュフだなんて、そんな高級食材をマカロニの中に詰めたんですか? でもって普通にホワイトソースとチーズをかけてオーブンで焼いてしまったと…? 確かに濃厚な味わいで美味しいですけど…。
「いいんだよ、スポンサーはハーレイだから」
ペロリと舌を出す会長さんに、私たちは「またか…」と頭を抱えました。試験の打ち上げパーティーの資金を教頭先生から毟り取るのは会長さんの生甲斐の一つ。とうとうパーティーに出掛ける前の昼食代まで毟る方へと走りましたか! やっぱりバレンタインデーの手作り下着の恨みを引き摺ってるってことなのかな…?
「当然じゃないか、好意を無にされたんだから。ぼくの手縫いの下着なんだよ? 試着もしないなんて最低だってば!」
ぼくは静かに怒ってるんだ、と会長さん。教頭先生は打ち上げパーティーの費用を熨斗袋に入れて準備しているのですが、それに加えてフォアグラとトリュフのレシートを突き付けるそうで…。
「でもね、ハーレイも今回は損はしないんだよ。ほら、三学期の期末試験の打ち上げだけはハーレイも一緒に来ているだろう? 今日も招待するつもり。…招待と言っても自腹だけども、ぼくと会食できるチャンスだから大感激に決まっているさ、ハーレイだもの」
「「「………」」」
またまた嫌な予感がしてきました。贅沢食材の代金を支払わせたくらいで会長さんの怒りが鎮まるでしょうか? 教頭先生、打ち上げパーティーに引っ張り出されて散々な目に遭わされなければいいんですけど…。
私たちのそんな心配を他所に、会長さんは夕方近くまで「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋でのんびりまったり。いつものようにおやつを食べて寛いでいる内に教頭先生のことはウッカリ忘れてしまった頃。
「そろそろいいかな? スポンサーの所に行こうよ、それから焼肉パーティーだ!」
三学期の打ち上げはあのお店、と会長さんが言い、「そるじゃぁ・ぶるぅ」もニコニコ笑顔で「個室を予約してあるからね!」と御機嫌です。花街、パルテノンの一角にある高級焼肉店を目指していざ出発……じゃなかった、その前に教頭室ですか…?

邪魔な鞄は会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が瞬間移動で家に送ってくれ、私たちは揃って教頭室へ。中庭を抜け、本館に入って、重厚な扉を会長さんがノックして…。
「失礼します」
カチャリと扉を開けると教頭先生が書類から顔を上げました。
「来たか。…いつものヤツなら用意してあるぞ」
机の引き出しから取り出したのは熨斗袋です。
「今年度の試験はこれで終わりだからな、多めに用意しておいた。好きなだけ楽しんでくるといい。足りなかったら私の名前でツケにしておけ」
「ありがとう、ハーレイ。いつも悪いね」
悪いだなんて思っていないくせに、会長さんは綺麗な笑みを浮かべています。教頭先生はその笑顔だけで充分らしく頬がほんのり赤いんですけど、会長さんの方はと言えば熨斗袋を開けて中身のお札を数えていたり…。
「うん、打ち上げパーティーの費用としては、そこそこいい線いってるかな? でも、前祝いでお昼御飯を張り込んじゃって、そっちのお金も欲しいんだけど…」
「なんだと? 昼も外食だったのか?」
「ううん、ぶるぅの手作りだよ。だから材料費だけでいいんだ」
これ、と会長さんが渡したレシートを見た教頭先生の目がギョッと見開かれて。
「…お、おい……。これが材料費か? 一桁間違っているような気がするのだが…」
「高級品だとそんなものだよ。トリュフとフォアグラ、どっちも本場の輸入物! その辺で売ってるヤツとは違うんだ。…キャビアが入ってないだけマシだと思えば?」
「お、お前たち、いったいどんな昼飯を…」
「えっ? ごくごく普通にマカロニグラタン。トリュフとフォアグラはマカロニに詰めた」
美味しかったよ、と答える会長さんに、教頭先生は眉間の皺を揉みながら。
「食ってしまったものは仕方ないな。次から少し控えてくれると嬉しいのだが…」
そう言いつつも財布を出して支払う所は太っ腹です。会長さんに惚れているだけに、何でも許せてしまうのでしょう。お金を受け取った会長さんは…。
「気前の良さは相変わらずだね。…その心意気に免じて、ってわけでもないけれど…今日は一緒に出掛けないかい? 三学期の打ち上げパーティーは君が来ないと張り合いがない。この子たちが来てからは毎年みんなで行ってるじゃないか」
「あ、ああ…。そう言われればそうなのだが…」
いいのか? と尋ねる教頭先生に、会長さんはコクリと大きく頷いて。
「予約も入れてあるんだよ。スポンサーを囲む会っていうのも年に一度は必要だよね」
さあ、と教頭先生の腕を引っ張る会長さん。教頭先生が参加しての打ち上げパーティーは騒ぎになったこともありましたけど、去年は平穏無事でした。そのせいか、教頭先生もさほど悩むということはなくて…。
「誘って貰って悪い気はせんな。…少し待っていてくれ、この書類のチェックを終えたら出掛けるとしよう」
残りは明日に回すことにする、と教頭先生は羽ペンを手にして仕事を片付け始めました。線を引いたり、サインをしたりと実に素晴らしいスピードです。キリのいい所で書類を揃えて引き出しに入れ、鍵をかけて厳重に保管して…。
「よし。出掛けるか」
「車は家に送った方がいいよね? もちろん飲むだろ?」
任せといて、と会長さん。教頭先生の愛車を教職員用の駐車場から自宅のガレージへと瞬間移動させたようです。いよいよ打ち上げパーティーですよ~!

高級焼肉店での時間は和やかに過ぎてゆきました。広い個室で高いお肉を頼みまくって、会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」と教頭先生はお酒も飲んで…。いい感じに盛り上がってきた頃、会長さんが。
「そろそろ座興が欲しいかな? ハーレイ、披露して欲しいんだけど」
「………。何をだ?」
教頭先生の顔から笑顔が消えて警戒感が滲んでいます。会長さんはクスクスと笑い、空中に箱を取り出して。
「この箱に見覚えがあると思うけど? 要は一発芸なんだよ」
「そ、それは……その箱は……」
顔面蒼白の教頭先生。畳の上に置かれた箱には私たちも嫌というほど見覚えが…。それはバレンタインデーに会長さんが教頭先生に贈った箱。つまり中身は会長さんの手作り腰巻とTバックの下着というわけです。
「まずは腰巻から着けてみるのがいいと思うよ。でもって、腰巻をバスタオルの代わりにしといて、トランクスからTバックに履き替えるコースがお勧めかな。…ぼくはどうしても見たいんだってば、せっかく手作りしたんだからね」
「…いや、しかし…! そ、そのう……見ているのはお前だけではないし…」
「ぼくだけだったら履けるって? 大嘘つき! バレンタインデーに届けに行ったら嫌だと言って試着もせずに終わったよね? ハッキリ言ってぼくは傷ついたんだ」
本当に深く傷ついたんだ、と会長さん。
「ぼくを好きだと言っているのは口だけかなぁ、って。せっかく頑張って手作りしたのに、試着さえして貰えないなんて……君の気持ちはその程度かな、って。真面目に受け止めてバカだったかなとも思ったよ」
「け、決してそんなつもりでは…! 私はお前一筋で…!」
「そうかな? だったら履けると思うけど? 他に何人見ていようとも、どれほど笑い転げられようとも、ぼくが喜べば満足だろう? ……ぼくは試着をして欲しいんだ。この際、宴会芸でいいからさ」
期待してるよ、と会長さんはパチパチパチ…と拍手をして。
「ハーレイが芸をしやすいように手拍子を打ってくれるかな? ここの個室は防音の方も完璧だしね、ぼくと一緒にTバック・コール! はい、声もきちんと揃えてね」
「「「………」」」
どうしろと、と固まってしまった私たちにはお構いなしに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が元気な声を張り上げました。
「Tバック! Tバック!」
そっか、チューハイでいい気分になってるんでしたっけ…。声に合わせて手拍子を打ち、楽しげに踊りまくっています。そこに会長さんの声と手拍子が重なり、赤い瞳が私たちをギロリと睨み付け…。えーい、こうなった以上は最早やるしかないでしょう。せーのっ…。
「「「Tバック! Tバック!」」」
教頭先生、万事休す。まだサイオンで無理やり着替えさせられた方がマシだったかもしれません。衆人環視の中で恥ずかしさに耐えながらベルトを外してズボンを下ろし、今日はたまたま履いていたらしいステテコを脱いで紅白縞のトランクス一丁という格好に。そこへ「そるじゃぁ・ぶるぅ」が腰巻を渡し…。
「ぷぷっ…」
会長さんが吹き出しました。スーツ姿で下半身が腰巻だなんて、民族衣装みたいです。教頭先生には自分の姿が見えないというのが救いと言えば救いかも? けれど。
「「Tバック! Tバック!」」
容赦なく手を打ち続ける会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」。私たちも続けるしかなく、教頭先生が腰巻の下でゴソゴソとやって、パサリと落ちた紅白縞。その手に会長さんが例のTバックを握らせて……またゴソゴソ。教頭先生が覚悟を決めて腰巻を外すまでには長い時間がかかりました。外れた後には…。
「「「わはははははは!!!」」」
笑っちゃダメだと思っていても、笑わずにいられないこの破壊力。ジャストサイズとやらのショッキングピンクの手作りTバックは最高に似合っていませんでした。レースはともかく可愛いフリルが致命的です。教頭先生、バレンタインデーに試着しておけば良かったものを…。気の毒ですけど、もう笑うしかありませんです~!

会長さんが教頭先生にズボンとステテコを履く許可を出したのは涙が出るまで笑ってから。そう、ズボンとステテコの許可で紅白縞は含まれません。トレードマークの紅白縞は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が瞬間移動で教頭先生の家へ飛ばしてしまったらしく、何処にも見当たらないのでした。
「この格好でズボンを履くのか…?」
「仕方ないだろ、その辺に落ちていないんだから。ぶるぅは気を利かせて君の家まで送ったようだし、好意を無にしちゃいけないよねえ…。なにしろ君がぼくの好意を無にした結果が今日の一発芸なんだよ?」
歴史を繰り返してもいいんだったら紅白縞を取り寄せさせるけど…、と会長さんに言われた教頭先生は震え上がって首を左右に振りました。紅白縞にこだわったばかりに更に大変なことになったら…、と思ったのでしょう。泣く泣くTバックの上にステテコを履き、ズボンを履いてベルトを締めて…。
「なんとも落ち着かない感じなのだが…」
「そう? 黒猫褌でも似たような履き心地じゃないかと思うけどなぁ。それにさ、そのTバックは正真正銘、ぼくの手作りなんだからね。君の下半身にはもったいなくて」
「うっ…」
教頭先生が短く呻いてポケットからティッシュを取り出しました。会長さんの手作り下着だという事実に考えが及んでいなかったようです。そこへ会長さんが懇切丁寧に手作りの過程を説明したからたまりません。教頭先生の鼻の血管はあえなくプッツリ切れてしまって…。
「す、すまん…。お前が作ってくれたと思っただけで……つい……」
「だったら素直にバレンタインデーに試着しとけば良かったのに。そしたら少しはぼくの心も動いたかもね? 今となってはホワイトデーしか頭の中には無いけどさ」
「ホワイトデー?」
「うん、ホワイトデー。ウチの学校では卒業式の三日前に繰り上げでやるよね、ホワイトデーを。去年はぼくがプレゼントをする方だった。今年はぼくが貰う立場だ」
手作り下着のお返しには心のこもった手作り品を! と会長さんはブチ上げました。ひょっとして手編みのセーターをもう一度…ですか? 会長さん、懲りていないんですか? 教頭先生も目を白黒とさせていますが…。
「ハーレイ、ぼくの欲しいものはねえ…」
会長さんは教頭先生だけに何やら思念を飛ばしたらしく、教頭先生がビクンとして。
「…わ、私にこれを作れと言うのか? 無理だ、絶対に無理だと思うが…!」
「ぼくが作ったのはTバックだよ? それも君のサイズに合わせて立体的に…だ。どのくらいの努力と忍耐が必要だったか分かりそうなものだけど? だから君にも努力してもらう」
頑張って、と微笑む会長さんと青ざめている教頭先生。会長さんがホワイトデーに欲しいものとは何なのでしょう? 問い詰めても会長さんには教えて貰えず、教頭先生も複雑な顔で答えないまま、パーティーはお開きになりました。帰りは会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が瞬間移動で家まで送ってくれることに決まって…。
「ありがとう、ハーレイ、楽しかったよ。ホワイトデーも期待しているからね」
お会計をする教頭先生の隣でウインクしている会長さん。卒業式まで賑やかなことになりそうですけど、ホワイトデーも卒業式での弓取り式も、今からとっても楽しみです~!



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