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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

華やかな野望・第1話

会長さんが教頭先生とバカップル・デートを繰り広げてから順調に日は過ぎ、新入生のためのエッグハントや親睦ダンスパーティーも終わって普通の日々が始まりました。1年生の授業内容はすっかり覚えた私たちですが、それでも毎日きちんと登校。出席義務の無い特別生も4年目で…。
「かみお~ん♪ 今日もお疲れさま!」
放課後に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ行くのは今年も同じ。これが楽しみで登校しているという話もあります。ジョミー君たちとは休み時間にも話せますけど、やっぱり此処が一番ですよね。
「やあ。グレイブは今日も絶好調だったみたいだね」
ソファで寛いでいた会長さんに微笑みかけられ、キース君が。
「あんたが来るかと思ったんだが…。今年も抜き打ちテストのフォローは無しか?」
「ぼくが出るのは定期試験と年度初めの実力テスト! 抜き打ちテストまで付き合っていたらキリが無い。グレイブだけがやるわけでなし」
「…まあな…」
苦笑いしているキース君。今日はグレイブ先生が抜き打ちテストをやったのでした。点数が悪かった生徒は補習を受けねばなりません。クラスメイトたちは会長さんが来てくれないかと期待していたようですけども、残念ながら救いの神は現れず…。内容からしてクラスの半分は補習を受ける羽目になりそうな予感。
「補習もたまには必要だよ。全面的にぼくに頼るというのは良くないし…。知識のフォローは必要最低限にしておかないと自分で学ぶ力が無くなる」
会長さんの言葉には説得力がありました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の不思議パワーを売りにして1年A組に入り込む会長さんは定期テストで全員に満点を取らせる力を持っています。問題の答えを意識の下に送るわけですけど、同時に実力で解けるようにと知識のフォローもしているわけで。
「そうだな。あんたの力に頼りっぱなしだと来年以降に困るだろうしな…」
キース君が頷き、シロエ君が。
「勉強するにも自分に合った方法とかがありますからねえ…。今の間にコツを掴んでおかなかったら将来色々と苦労しますよ」
「そうだよなあ…」
相槌を打ったのはサム君です。
「俺、この学校に入った時にはブルーと別のクラスだったし、けっこう必死に勉強したぜ。それでも追試の射程圏内に入っちまって、途中からブルーに助けて貰って…。でも勉強をしてた経験は生きてるかな」
「何に? 今じゃ抜き打ちテストも楽勝なのにさ。…サムが勉強って似合わないけど?」
遠慮の無い質問をしたジョミー君に、サム君は。
「いわゆる学校の勉強じゃないぜ? 学校によっては勉強だろうし、キースは勉強したんだろうけど…。ほら、お経って長いし難しいだろ? あれを覚えるのに役に立つんだ」
わわっ、お経の勉強でしたか! サム君は正式に会長さんの弟子になりましたし、将来に向けてお経は必須。そういえばジョミー君だって…。案の定、ジョミー君は真っ青な顔をしています。
「ジョミー、お前も人ごとじゃねえぞ? お盆の棚経にお供するなら覚えないと…」
「パス! ぼくは全面的にパス!!!」
両手で×印を作って騒ぐジョミー君に私たちはお腹を抱えて大笑い。サム君とジョミー君が出家したことはスウェナちゃんが作った記事が広報誌に載った時点でサイオンを持った仲間たちにバレるのですけど、そうなっても果たして逃げ切れるかな?
「ジョミーの往生際の悪さもピカイチだねえ…」
クスクスと笑う会長さん。
「誰かさんを思い出させるよ。もっとも、あっちは逃げるんじゃなくて追いかけてくる方だけど」
「「「???」」」
「ハーレイだってば。何度痛い目に遭っても懲りやしないし、ひたすら前進あるのみ…ってね。バカップル・デートで失敗した後、めり込んでたのはほんの数日! ぼくを追い掛けて三百年以上だし、ジョミーの場合は仏の道から三百年以上逃げ続けたって不思議はないね」
「「「三百年?」」」
何処まで逃げて行くんでしょうか、ジョミー君は? 教頭先生ほどのタフさは無さそうですから、三百年後にはお坊さんになっていそうですけど…。そして本人にもそういう自覚はあるらしく。
「三百年も逃げられるかなぁ? パパもママも怒ると怖いしね…」
広報誌に載ったら「頑張りなさい」と言われそうだ、とガックリ肩を落としています。
「あーあ、お経の勉強かぁ…。やりたくないけど、やっぱりやるしかないのかな?」
「さあね。ハーレイを見習って諦めの悪さを貫いてもいいよ」
ぼくは止めない、と会長さん。ジョミー君の未来は流されるままにお坊さんなのか、逆らい続けて肩書きだけがお坊さんという意味不明な結果に落ち着くのか。三百年後が楽しみなような…?

私たちがワイワイ盛り上がっていると、会長さんが「ところで…」と口調を変えました。
「今週の金曜日は空いてるかな? 授業中じゃなくて放課後だけど」
「「「えっ?」」」
「この時期と言えばアレだよ、アレ。…健康診断の通知が来たんだ」
げげっ。健康診断と言えば毎年恒例のヤツですか? ソルジャーとしての義務だとかいう、エロドクターの診療所に行って受けるヤツ…。
「そう、それ」
会長さんが溜息をついて。
「あれだけは逃げるわけにはいかないからねえ、ジョミーみたいにイヤだと言って済ませられないし。正直、行きたくないんだけれど…通知が来た以上、どうしようもない」
「で、俺たちがボディーガードか?」
キース君が尋ねると会長さんは。
「察しが良くて助かるよ。来てくれるんなら、とっておきのネタを披露してもいい」
「ネタ? なんだ、それは?」
怪訝そうなキース君。私たちにもまるで見当がつきません。エロドクター絡みのネタなんでしょうか?
「違うよ、ノルディのネタじゃない。…それで、付き添いはお願いできるのかな? 来られる人だけでいいんだけれど」
「俺は行くぜ!」
サム君がグッと拳を握り締めています。
「ブルーを一人で行かせるなんて出来ねえよ! 元々用事は入ってないけど、あってもそっちをキャンセルするし!」
「…見捨てるわけにはいかんだろうな…」
危険なことは分かっているし、とキース君が続き、シロエ君たちも賛同しました。男子全員が出掛けるとなれば、スウェナちゃんと私も同行するのが筋でしょう。あまり役には立ちませんけど、監視人が増えればエロドクターも自重するかもしれませんしね。
「悪いね、毎年お願いしちゃって…。金曜日はお礼に御馳走するから泊まりに来てよ」
「かみお~ん♪ ブルーをよろしくね!」
そういうわけで金曜日の放課後は会長さんのお供でエロドクターの診療所に行くことに決定です。ところで、ネタって何だったのかな?

「ああ、ネタね。…これなんだけど」
会長さんが宙に取り出したのは立派な封筒。これって何…?
「ブライダルフェアで写してもらった写真だよ。ハーレイが大事に持っているのをちょっと拝借」
はい、と封筒から引っ張り出された台紙つきの写真は本格的な仕様。表紙の次に薄紙が入り、それをめくると…。
「……すげえ……」
「フォトウェディング並みに凝ってますよね…」
感嘆の声を上げるサム君とシロエ君。去年の春休みに会長さんがホテル・アルテメシアでフォトウェディングを申し込んで遊んでいた後、写真が沢山届きましたが、その時のヤツに負けていません。ウェディングドレスの会長さんはとても綺麗で、この姿を生で見た教頭先生が指輪を贈ったのも無理はなく…。
「その写真よりも、こっちかな。ぼくとハーレイのツーショット」
「「「………」」」
チャペルで写したという二人の姿はどう見ても新婚カップルでした。しかもドレスとタキシードを着替えたものが他に二種類。幸せ一杯な顔の教頭先生、さぞかし結婚への夢が膨らんでいたことでしょう。
「ね、いいだろう、この写真。バカップル・デートで失敗したって写真が残れば幸せらしいね、ハーレイは。毎日眺めてニヤニヤしてるよ。さてと、バレない内に返しておくかな」
写真を封筒に戻した会長さんは瞬間移動で教頭先生の家に送り返して。
「ネタとして形になっているのは現時点ではアレだけだけど、近い将来、もう一つ増える」
「他にも写真を撮ったのか?」
キース君の問いに、会長さんは。
「写真じゃなくって、もっとしっかり形になって残るモノ。ぼくの嫁入り道具だよ」
「「「嫁入り道具!?」」」
会長さんったら今度は何をやらかす気ですか? エロドクターの健康診断を控えて困っているというのに、ストレス発散で悪戯ですか?
「嫁入り道具で思い出さない? ハーレイが夫婦茶碗に憧れてたのが発端じゃないか。片方を叩き割って置いてきたけど、ハーレイは本当に諦めが悪かった。…アレを金継ぎに出したのさ」
「きんつぎ…?」
それって何さ、とジョミー君。私も初めて聞く言葉です。けれどキース君とマツカ君は知っていたようで。
「金継ぎか…。確かにそれなら直せるな」
「ちょっと味わいもありますしね…」
意味が分からない私たちに会長さんが金継ぎについて教えてくれました。割れたお茶碗やお皿の破片を漆でくっつけ、金を塗って仕上げる修復方法のことだとか。
「漆が乾くのに時間がかかるから、出来上がるのは今月末かな? 修理できたら並べて棚に飾る気らしいね、ぼくの分の湯呑みとセットにして」
そう来たか、と教頭先生のタフさに感動を覚える私たち。この様子では会長さんが残していった黒白縞のトランクスも凄いことになっていそうです。見せパンツとは知らない教頭先生、会長さんの生パンツだと固く信じているわけで…。
「うん、それが究極のネタだとも言える」
誰の考えが零れていたのか、会長さんがパチンとウインクをして。
「ぼくが残した黒白縞は大切に箱に仕舞われてるよ。普通の防虫剤だと無粋だと思ったらしくて、ラベンダーのサシェが添えてある。まったく、どんな顔して買いに出掛けたのやら…」
通販にすればいいのにねえ、と会長さんは笑っています。教頭先生はわざわざ専門店でサシェをお買い上げ。黒白縞を保管するのに使う品物は自分の目で確かめて最高の物を、という心意気は天晴れとしか言えません。なのにネタ扱いにされている上、黒白縞も生パンツではなく…。
「いいんだってば、ハーレイだから! それよりも週末のノルディが問題」
セクハラされなきゃいいんだけれど…、と顔を曇らせる会長さん。いっそ教頭先生をボディーガードに…って、それは無理なんでしたっけ。うっかり二人で結託されたら会長さんの危機ですもんねえ…。

そしてやって来た金曜日。お泊まり用の荷物は出掛ける前に会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が瞬間移動で運んでくれたので、私たちは通学用の鞄だけ持って登校です。キース君も大学を卒業しましたから以前のような辞書やノートパソコンの詰まった大きな鞄はお役御免で…。
「去年までだと、この時期は忙しかったんだがな…」
放課後に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ向かう途中でキース君が呟きました。
「えっと…。大学の講義が始まる頃だっけ?」
そう訊いたのはジョミー君です。
「ああ。俺は登録できる講義は端から登録していた上に、聴講もやっていたから大変だった。あっちの教室からこっちの教室、と駆け回っていたのが懐かしいぜ」
「でもさ、最初の頃しか出てなかった講義も沢山あった筈だよね? ウチの学校で授業を受けてる時間がどんどん長くなっていたもの」
「必要最低限に絞っていたんだ。出席は取らない、内容は自分の著書を読んでいるだけ…、なんて講義も多かったしな。そういう講義はレポートさえ出せば問題ない」
押さえる所さえ押さえておけば…、とキース君は笑っていますが、それでも首席で卒業するには相当努力した筈です。第一、本を読んでいるだけの授業と言っても、自分で読んで理解不能なら出席しないとマズイわけで…。
「そうとも言うな。たかがレポートだが、これが案外難しいんだぞ。教授の持論に反対の立場で書くと容赦なく落とすってケースもあったぜ。要は傾向と対策だ」
「へえ…。やっぱり高校とは違うんだね」
面白いや、とジョミー君が返すと、シロエ君が。
「ジョミー先輩もどうですか? 聴講だけなら登録できると思いますよ」
「イヤだってば! お坊さんに近くなっちゃうだろ!」
お坊さんの大学なんか…、とジョミー君は膨れっ面。会長さんの弟子になっても努力する気は皆無ですから、諦めの悪さで教頭先生と張り合いながら逃げ回るのでしょうか。そんなこんなで漫才のような会話を繰り広げつつ生徒会室に行き、壁の紋章に触れて壁を通り抜けて…。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
「ごめんね。今日はよろしく頼むよ」
会長さんがペコリと私たちに頭を下げると「そるじゃぁ・ぶるぅ」が早速おやつを運んできます。ボリュームたっぷりのミートパイは明らかにこの後の修羅場を乗り切るための栄養剤というヤツでしょう。夕食は健康診断が終わってからになりますしね。
「お代わりもあるから沢山食べてね! ブルーが栄養つけときなさい、って」
ああ、やっぱり…。でも栄養剤だと分かっていても美味しいものは美味しいです。みんなでパクついていると、会長さんが風呂敷包みを取り出しました。
「これの中身は分かるかな? ぼくも忘れていたんだけれど」
「「「え?」」」
「健康診断の通知が届いたら思い出したんだ。…ほら、ブルーが作ったノルディの人形」
私たちの顔がサーッと青ざめ、キース君が。
「わ、分かったから出さなくていい! 俺も思い出した。確かジルナイトとか言っていたな?」
「うん。ノルディの身体とシンクロさせられる人形だよ」
それはサイオンを伝達しやすいジルナイトという鉱石で作られた人形。元々は会長さんが悪戯で教頭先生の人魚姿の人形を作って遊んでいたのが発端です。エロドクターを封じるのに使えるかも…、と思い付いたまではいいのですけど、本人そっくりに出来ていないと効果が無いため、会長さんは作りたくなくて…。
「あいつが普通の人形を作ってくれていたらマシだったんだが…」
溜息をつくキース君。「あいつ」というのは会長さんのそっくりさんのソルジャーのことで、エロドクターの人形はフルヌードでポージングしているのでした。
「ブルーには言うだけ無駄ってヤツさ。だから普段は存在自体を忘れるように自分に暗示をかけているわけ。…でも、健康診断の時には役に立つから」
「今回も痛覚とシンクロさせたのか?」
「それが一番効果的だろ? で、君にお願いしたいんだけど」
「また俺か…」
いいけどな、とキース君が包みを預かっています。エロドクターが何もしなければ人形の出番は無いのですけど、果たして今日はどうなることやら…。

年に一度の会長さんの健康診断が行われるのはエロドクターの豪邸の隣に建っている診療所。予約の時間に合わせてタクシーに分乗して着くと、扉には『本日休診』の札が。会長さんが行く時はいつもこうです。受付の人もスタッフもおらず、いるのはドクターただ一人。
「…今、ふと思い付いたんだが…」
キース君が扉の前で会長さんを振り返りました。
「なんでドクターは野放しなんだ? 教頭先生の家に一人で行くのは禁止されてると言っていたな? だったらドクターも同じだろう? ゼル先生とかに付き添いを頼めばいいんじゃないか?」
あ。それはそうかもしれません。エロドクターはお医者さんですけど、危険度は教頭先生の比ではない筈。そんな所へ会長さんを一人で健康診断に行かせるだなんて、長老の先生方は何を考えているんだか…。
「ノルディは後発部隊だからだよ。危険視されていなかったんだ」
最初からね、と会長さん。
「だって、ゼルたちから見れば百歳も下の若造だし…。つまり、ぼくから見ても百歳下だとブラウたちも端から思い込んでる。ぼくが相手にするわけもないし、ノルディが熱を上げても無駄だ、って」
「しかし…。現に危険があるわけだろう? 事情が変わったと説明すれば…」
「ぼくが挑発したって事実を告白しないとダメなんだよ? キスマークをつけることが出来たら抱かせてやる、と言ったってことをゼルたちの前で白状しろと? …しかもドジを踏んでその条件を飲む羽目になっただなんて言いたくないね」
ぼくのプライドが許さない、と会長さんは唇を尖らせています。エロドクターの毒牙と自分のプライドを秤にかけたらプライドが勝つというのが凄いですけど、いい加減、白状すればいいのに…。
「それにノルディがブラックリストに入ったりしたら、ぼくだけの問題じゃ済まなくなるんだ」
「「「え?」」」
「サイオンを持つ仲間を専門に診られる医者はノルディしかいない。その医者がセクハラでマークされちゃうと大変なんだよ。今は単なる同性愛者で済んでいるけど、ソルジャーにセクハラしたとか強姦しようとしているとかが表沙汰になったら懲戒免職」
それは絶対に避けないと…、と会長さんは大真面目でした。
「代わりになれる医者が育ってくるまで我慢するしかないわけさ。ぼくが悪戯心を出さなかったら、ノルディも指を咥えて見ているだけで終わっただろうし、ゼルたちは今もそうだと信じてる。…仮に君たちが訴え出たとしても、ぼくは全力で否定するからね」
ノルディを失うわけにはいかない、と言い切った会長さんに、キース君は「分かった」と頷いて。
「あんたが覚悟を決めてるんなら俺たちの出る幕じゃない。セクハラの危機を回避できるよう、地道に努力するまでだ。しかし、あんたも大変なんだな…。自業自得と言えなくもないが、ソルジャーの肩書きは思った以上に重たいらしい」
行くか、とキース君が扉を開いて診療所に足を踏み入れました。サム君が会長さんをガードして続き、その後ろに私たちと「そるじゃぁ・ぶるぅ」がズラズラと。煌々と明かりが灯った待合室に人影は無く、受付もやはり無人です。その奥の診察室から白衣のエロドクターが満面の笑みで現れて…。
「ようこそ。お待ちしておりましたよ。…今年もお供を大勢お連れのようですね」
「ボディーガードと言ってほしいな。健康診断は欠かせないから仕方ないんだ」
「ソルジャーの健康チェックを怠るわけにはまいりませんよ。それでは早速始めましょうか」
あちらで着替えを、と促すドクター。更衣室に向かう会長さんにはサム君がピッタリくっついて行き、その一方でキース君が風呂敷包みを取り出すと。
「…こいつの中身は分かっているな? ブルーにおかしな真似をしてみろ、力一杯ぶん殴る!」
「おやおや、例の人形ですか? 私は暴力には反対ですよ」
「人形を殴っても傷害罪にはならないそうだぞ。法律は呪術の存在を認めていない」
「そうきましたか。お互い平和にいきたいものです」
ブルーに会うのも久しぶりですし…、とエロドクターはニヤニヤしています。去年は会長さんにプロポーズしようと指輪を用意してましたからセクハラは全く無かったのですが、今年は何が起こるのでしょうか…?

検査服に着替えた会長さんが更衣室から出てくると、私たちは揃って診察室へ。まずは問診で、この辺はセクハラの危険はありません。聴診器や血圧計が出てくる辺りからドクターの手つきがアヤシイ感じになる筈ですけど…。あれ…?
「…今年も普通って感じじゃない?」
スウェナちゃんがそう言ったのは私と一緒に待合室へ戻った後。心電図から後は女子は放り出されてしまうのです。そりゃあ…検査服をキッチリ着込んだままでは心電図は取れませんものね。
「んーと…。やっぱり普通に見えた?」
「どう見ても普通のお医者さんだったわよ? 前はもっとベタベタ触って、採血なんかサドじゃないかって思うくらいに痛そうな針の刺し方してたけど…」
去年はそうじゃなかったわよね、とスウェナちゃん。
「また下心があるのかしら? 懲りずにプロポーズしてくるとか?」
「さあ…」
エロドクターの発想が分かるようになったら終わりじゃないか、という言葉が口まで出かかったのをゴクリと飲み込み、待合室で大人しく待っていると。
「お疲れ様でした。一週間後に結果を聞きにいらして下さいね」
「分かってるよ。…着替えてくるから、タクシーを呼んでおいてくれるかな?」
会長さんと男の子たちが診察室から出てきました。キース君が握り締めている風呂敷包みが解かれた形跡はありません。もしかしてエロドクターが改心したとか、そういう素敵なオチだったりして…?
「…さっきブルーがタクシーを呼べと言ってなかったか?」
更衣室へ行った会長さんとサム君が扉を閉めた後で口を開いたのはキース君です。着替えはすぐに済むんですから、タクシーを早く呼ばないと…。けれどドクターは動こうとせずに。
「確かめたいことがありましてね。…ああ、ブルーが戻ってきたようです」
制服に着替えた会長さんが「タクシーは来た?」と尋ねると、エロドクターは。
「まだですよ。それよりも…。先日、不思議なものを見かけました」
「…不思議なもの?」
「ええ。狐に化かされたか、はたまたこの世の終わりが来たかと大いに驚きましたとも。あなたとハーレイが仲良く腕を組んでチャペルに入って行きましたよ。…ホテル・アルテメシアでね」
「「「!!!」」」
エロドクターが何を見たのか、誰もが瞬時に理解しました。会長さんが教頭先生とバカップル・デートをした時のブライダルフェアのスペシャル・コース。チャペルで記念写真を撮りに出掛けていった所を目撃されていたのです。
「はて、私は幻を見たのでしょうか? 医師会の集まりで多少飲んではいましたが…。もしも事情を御存知でしたら、ぜひ説明して頂きたい。平和にお話合いをしたくて今日は控えていたのですよ」
触ったり色々としたい気持ちを抑えてね…、とエロドクター。えっと、平和にお話合いって、何を話そうというんでしょうか? セクハラを我慢してまでお話合い…。ヤバイんじゃあ、と私たちの背中に冷たいものが流れた時。
「…いいねえ、平和にお話合い。ぼくも一緒に説明とやらを聞きたいな」
フワリと紫のマントが揺れて、現れたのはソルジャーでした。
「ブルーの健康診断は面白いから、ちょっと覗き見してたんだけどね。今年のノルディも紳士的だったし、素敵なことがあるんじゃないかと思っていたら…。ブルーとハーレイが腕を組んでチャペルに入って行ったって? それが幻覚ならノルディの頭も末期かな」
クスクスクス…と笑いを漏らすソルジャー。果たしてソルジャーは何処まで知っているのでしょう? バカップル・デートもコッソリ覗き見してそうですけど、このタイミングで来なくても…。でも、エロドクターは嬉しそうに。
「これはこれは…。ようこそいらっしゃいました。お話合いは人数が多いと盛り上がりますしね」
こちらへどうぞ、と待合室のソファを勧めるエロドクター。この二人が組むとロクな結果になりません。そうなる前にお話合いを済ませてサッサと帰ってしまわなきゃ…。
「さて、ブルー。…御説明して頂けますね? 手帳にメモもしておりますし、幻覚ではなかったと思うのですが」
この日でしたね、とエロドクターが読み上げたのはバカップル・デートの日付とブライダルフェアの会場にいた頃の時刻。会長さんはウッと息を飲み、視線を宙に彷徨わせています。エロドクターがお話合いを持ち掛けて来た目的は? 私たち、無事に帰れるのかな…?




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