シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
ソルジャーとエロドクターの模擬結婚式での大騒ぎから数日が経った放課後。いつものように「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ出掛けて行った私たちの頭の中はGWの予定で一杯でした。今年は5月の3日から6日まで4連休! とっても期待できそうです。
「シャングリラ号ってGWは必ず地球に戻って来るもんね」
今年はここに決まってる、とジョミー君。会長さんから聞いた話ではGWは纏まって休みが取れるので長老の先生方が揃って乗り込み、各セクションのチェックなどをなさるのが定例だとか。それに合わせて私たちも乗せて貰って宇宙で過ごすのが一昨年以来のお楽しみで…。
「4日間かあ…。絶対、乗せて貰わなくっちゃな」
穴場なんだし、とサム君も私たちも大乗り気。乗らずにどうする、と意気込みながら生徒会室の壁の紋章に触れ、壁をすり抜けて「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へと。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
「やあ。首を長くして待ってたんだよ」
はい、と会長さんがテーブルの上に薄い冊子を置きました。大判で、薄いと言ってもページ数はそこそこありそうです。雑誌ほどではないですけども。何だろう、と覗き込んだ私たちの目に飛び込んできた文字は…。
「「「月刊シャングリラ!?」」」
「うん。仲間たちのための広報誌さ。最新号が出来たんだ。ああ、ジョミーやキースの家のポストにも今日の間に届くと思うよ」
「えぇっ!?」
反応したのはジョミー君でした。顔色がたちまち青ざめ、冊子を指差し震える声で…。
「も、もしかしてスウェナの写真と記事が載ってるヤツ?」
「そうだけど? ほら、ここにドカンと」
いい出来だろう、と会長さんが広げたページには見開きで特集が組まれていました。『未来を拓くお坊さん』というタイトルで、元老寺での春のお彼岸でスウェナちゃんが写した法衣姿のジョミー君にサム君、キース君のカラー写真が何枚か。アドス和尚の写真入りコラムもくっついています。
「や、やばいよ、これ…。ぼくの家にも送ったって?」
ジョミー君が頭を抱え、会長さんが。
「当然だろう、取材に協力してくれたんだし…。この広報誌は一般配布はしないんだよ? 要職についている人とシャングリラ号のクルーたち、それとシャングリラ学園の先生たちが主な読者で」
他は仲間だけで運営される施設に配られるんだ、と会長さん。マザー農場なんかのことですね。じゃあ、取材に同行した私やシロエ君の家には来ないのかな?
「残念ながら、今回はサムとジョミーとキースの家と……記事を書いてくれたスウェナの家だけ。他のみんなは此処で読んでよ」
どうぞ、と会長さんが差し出す冊子。私たちはおやつよりも先に特集記事に飛び付きました。記事のメインは元老寺の副住職を目指すキース君の抱負と経歴。住職の資格を取ったのですから主役になって当然ですけど、会長さんの直弟子になったサム君とジョミー君の扱いも負けてはおらず…。
「へえ…。会長が伝説の高僧だって話、仲間内では全然隠してないんですね」
シロエ君が言う通り、記事には『銀青』という会長さんの法名と略歴も入っています。スウェナちゃんは会長さんに確認してから記事を書いたそうで、「璃慕恩院と恵須出井寺で修行」の件もキッチリと。
「仲間相手には隠すだけ無駄って話もあるしね。ハーレイたちとは出家前から知り合いなわけだし、ソルジャーの裏の顔はお坊さんっていうのも楽しいじゃないか。ただの生徒会長より意外性がある」
そういう問題なんでしょうか? それはともかく、サム君とジョミー君は会長さんの初の直弟子ということで記事の中でもクローズアップ。結びの一文は「三人の将来が大いに期待されるところです」と。
「酷いや、スウェナ!」
記事を読み終えたジョミー君が叫びました。
「これじゃ喜んでお坊さんをやってるみたいじゃないか!」
「あら、そうでしょ? キースはとても頑張ってるし、サムだってやる気満々じゃない」
間違ったことは書いていないわ、とスウェナちゃんは涼しい顔。
「ジョミーも会長さんの直弟子なのよ? そう聞けば誰でも期待しちゃうわ。実はジョミーは嫌がってます、なんて事実を書けると思う? それにね、この冊子はシャングリラ号のライブラリに保存されるのよ。将来、ジョミーが立派なお坊さんになったとするでしょ? その時にみっともない記事が出てきたら…」
とってもカッコ悪いんだから、と逆に注意するスウェナちゃん。
「そこまで見越して記事を書いたの。よく読んだ? 頑張っていますと書いただけよ。喜んでます、なんて表現、何処にも無いわ」
スウェナちゃんの指摘どおり、記事には当たり障りの無い文章が綴られていました。どう読み解くかは読者次第ということです。ジャーナリスト志望だったスウェナちゃんの全力投球の記事は天晴れな出来。会長さんも手放しで喜んでいて…。
「この記事は仲間にウケると思うよ。ソルジャーのぼくが高僧なのに、仲間たちの中にお坊さんはゼロだったんだ。いろんな専門職がいるというのに、お坊さんはどうも不人気で…。アドス和尚も住職だけど、シャングリラ・プロジェクトで仲間に加わったんじゃ重みがイマイチ」
最初からサイオンを持った人間が頑張ってなんぼ、と会長さんは拳を握って。
「その点、キースは完璧だ。サイオニック・ドリームを使って自慢の長髪を死守しているのもポイントが高い。既に住職の資格も取ったし、立派なお坊さんだよね。更にキースに続く形でぼくの直弟子が二人も誕生! これを切っ掛けにお坊さんを目指す仲間が増えるといいな」
大いに崇めて貰えるし…、と会長さんの夢は大きく果てしなく。ソルジャーとしての特別扱いは嫌いなくせに、緋の衣を見せびらかすのは大好きなのが会長さんです。遠い未来にシャングリラ号のクルーとは別に、会長さんを頂点とするお坊さんの団体が出現するかも? シャングリラ念仏青年団とか…。
その翌日、私たちは月刊シャングリラの最新号の威力を思い知ることとなりました。登校してきたジョミー君が思い切り黄昏れていたのです。
「うえ~…。やっぱり早起きは無理…」
「なんだ、どうしたんだ?」
キース君が尋ねると、ジョミー君は机に突っ伏したままで。
「ママに叩き起こされたんだよ、いつもより2時間以上も早く…。ね、眠い…」
「なんでそうなる?」
「ぼくの家からブルーの家までバスで出掛けて朝のお勤めをする気だったら早起きするよう練習しなきゃ、って。それで学校で居眠るようなら夜更かしせずに早めに寝なさいって言われたんだよ~…」
もう限界、という言葉を最後にジョミー君は眠ってしまい、私たちが顔を見合わせていると。
「よう、おはよう!」
片手を挙げて入って来たのはサム君でした。
「あれっ、ジョミーは寝てるのか? なんで?」
「そう言うお前は元気そうだな。今日も朝からお勤めか?」
キース君の問いに、サム君は。
「決まってるだろう、昨日の今日だぜ? こないだまでは父さんも母さんも「また行くのか?」って顔してたけど、今日は全然違ったなぁ…。「早く立派なお坊さんになって、ソルジャーに喜んで頂きなさい」ってさ」
頑張らなくちゃ、と決意を新たにしているサム君。起きた時間はジョミー君と変わらない筈ですけども、なんとも爽やかな笑顔です。そしてキース君は二人よりも更に早起きなのだそうで…。
「副住職をやるとなったら、親父の留守には一人で寺を取り仕切れるようにしておかないとな。とりあえず朝のお勤めの用意をするのは俺の役目ということになった。朝一番に起きて掃除からだ」
元老寺の掃除は宿坊に勤めている人がするそうですが、本堂の内陣……御本尊様がある大切な場所は住職自ら掃除するのがアドス和尚の方針だとか。そこでキース君は朝も早くから掃除を済ませて仏具を磨き、それから法衣に着替えてアドス和尚とお勤めを…。
「今日は親父も特に気合が入っていてな。広報誌で紹介されたからには無様な姿を見せてはならん、と久しぶりに朱扇で叩かれた」
「「「………」」」
朱扇というのはお坊さんが持つ骨の部分が朱塗りの扇。キース君が除夜の鐘撞きに備えてサム君とジョミー君を指導した時、その扇でジョミー君をビシバシ叩いていましたが……なんと今頃キース君自身が?
「坊主の世界は形にうるさい。立ち居振る舞い、経の読み方、鐘や木魚の叩き方…。何から何まで作法があるんだ。一通り覚えたつもりなんだが、何十年も続けてきている親父からすれば甘い部分があるんだろうさ」
当分は厳しくしごかれそうだ、と苦笑しているキース君。月刊シャングリラの影響はキース君にも及んでましたか…。この調子ではジョミー君も御両親に無理やり朝のお勤めへと送り出されてしまうかも?
「そうは言っても、今、爆睡だ。とても務まるとは思えんな」
お勤め中に居眠りするのが目に見えている、とキース君がジョミー君の頭をつつきましたが、起きる気配はありません。ジョミー君、そのまま気持ち良く眠り続けて…。
「諸君、おはよう」
ガラリと教室の扉が開いてグレイブ先生が現れました。流石のジョミー君もやっと目が覚め、出欠を取るグレイブ先生に眠そうな声で「は~い…」と返事し、再びコックリコックリと。朝のホームルームは恐らく何一つ聞いてはいなかったでしょう。そして。
「ジョミー・マーキス・シン!」
「は、はいっ!」
いきなり大声で名前を呼ばれてしまったジョミー君。慌てて立ち上がったはずみに椅子がガターン! と倒れていたり…。
「私は立てとは言っていないが? 随分気持ち良く寝ていたようだな」
「す、すみません……」
「まあいい。それと、サム・ヒューストン」
「はいっ!」
こちらはきちんと座ったままでサム君が返事。グレイブ先生は満足そうに頷いて。
「二人とも、放課後に進路指導室まで来るように。…いや、この時期に進路指導室というのは無いのだったな…。生活指導室でいいだろう。とにかく来なさい」
「「は、はい…?」」
サム君とジョミー君は怪訝そうな顔をしつつも従うより他にありません。何故に今頃、進路指導室? 二人とも私たちと同じく特別生ですから、針路なんてものはとっくの昔に決定している筈ですが? そう、特別生という立ち場そのものが私たちの選んだ道なのですし…。
一日中、眠そうにしていたジョミー君は、終礼が済むとサム君と一緒にグレイブ先生に連れてゆかれてしまいました。行き先は生活指導室。私たちが踏み込める場所ではないので、追跡しても無意味です。こういう時は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に行くのがベストでしょう。会長さんならきっと色々知っている筈!
「かみお~ん♪ 授業、お疲れさま!」
「おや。いつもの顔が見えないようだね」
遅刻かな? と、会長さん。けれど唇には楽しそうな笑みが…。
「ぶるぅ、おやつを用意して。サムとジョミーは遅くなりそうだ」
「やっぱりそうなの? えとえと、生活指導室って…」
怖いんだよね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。授業とは無関係な子供ですけど、シャングリラ学園のマスコットだけに様々な施設の意味は漠然と分かっているようです。生活指導室が全校生徒に恐れられる場所だというのは間違いではなく…。
「はい、今日のおやつは紅茶のシフォンケーキだよ♪ でも、サムたちって…叱られちゃうの?」
ちょっと心配、と「そつじゃぁ・ぶるぅ」がケーキのお皿を配ってくれます。この様子では「そるじゃぁ・ぶるぅ」は何も事情を知らないみたい。ジョミー君たち、大丈夫かな?
「さあね。…大丈夫なんだか、そうでないのか、叱られちゃうのか、違うのか…。やっぱり気になっちゃうのかな?」
クスッと笑う会長さんに、キース君が。
「当然だろうが! どうして生活指導室なんだ? なんで今頃、進路指導が…」
「ん? そりゃあ…。昨日からの流れで分からないかな?」
これ、と会長さんが取り出したものは例の月刊シャングリラでした。
「先生たちの家にも届く、と言っただろう? 本当は学校にも置いておきたいとこなんだけど、教職員はともかく生徒は一般人が殆どだしねえ…。どんなはずみで目に触れないとも限らない。だから先生の家には個別に配達。そして楽しく読まれているわけだけど…」
今回はちょっと問題が、と会長さん。月刊シャングリラは広報誌だけにシャングリラ号の航行スケジュールなど重要な情報も載っていますが、連載小説や仲間へのインタビューなども掲載される総合誌。ゼル先生がお料理コーナーを持っているのも分かりました。そういう気楽な読み物を先生方は毎月楽しみにしていて…。
「最初に気付いたのが誰だったのかは分からない。とにかく、キースたちの特集記事が注目を集めたことは確かだ。でもって、本格的にお坊さんの道を目指すんだったら全面的にサポートを、という話になった」
「それで進路指導室と言っていたのか!?」
キース君が素っ頓狂な声を上げ、シロエ君が。
「そ、それじゃ今頃、サム先輩とジョミー先輩は…」
「うん。進路指導の真っ最中ってところかな?」
こんな感じで、と会長さんがパチンと指を鳴らすと、壁の一部がスクリーンに。今日は会長さんが自らサイオンで中継をしてくれるつもりみたいです。画面の中には長老の先生方が勢揃い。そこにグレイブ先生が加わり、生活指導室の机を挟んでサム君とジョミー君が腰掛けていて…。
「で、この先はどうするのかね?」
ヒルマン先生が温厚な眼差しでジョミー君たちを見守っています。
「その昔、ブルーが修行に出掛けた時は学校は休学扱いだった。何年もかかる長い修行だ、それも当然の成り行きと言える。しかし、君たちの同級生のキースがやり遂げたように、大学に行って二足の草鞋という道もあるようだ。…まずは君たちの希望を聞こうか」
「き、希望って…」
ジョミー君は恐れおののき、サム君の方は。
「俺…いえ、ぼくは大体決めてます。ブルーの家で朝のお勤めをしながら作法なんかを教えて貰っているんですけど、お寺の師弟なら子供の頃から自然にやってることらしいので…。ブルーの指導で基本的なことを身につけてから本格的に勉強しようと思っています」
「ほほう…。では、大学に行くのだね」
「それが一番早そうですから。ただ、キースみたいに一般の講義も受けるコースにするのか、仏教だけを専門的に勉強するかは、まだ決めてなくて…」
どちらも一長一短なんです、とサム君は先生たちに逆に説明を始めました。
「一般コースだと卒業までに四年かかってしまうんです。キースみたいに頭が良ければスキップできますけど、そんな自信は無いですし…。専修コースは二年で卒業出来る代わりに全寮制で、休学しなくちゃいけません。それに住職の資格を貰える時には専修コースは格下なんです」
「「「格下…?」」」
よく分からない、といった面持ちの先生方。サム君はそこへ滔々と…。
「ブルーの話では勉強の内容が違うそうです。一般コースの方が広い範囲を学ぶことになるので、知識が多いと認定されます。ですから住職の資格を取りに道場へ行った場合、知識が多い一般コースの出身の方が一段階上の位を貰えることになってます」
「ほう…」
そうだったのか、とヒルマン先生。
「確かにそれは判断に苦しむ所だね。ただ住職の資格を取れればいいというなら専修コース、より上を目指すなら一般コースで四年間か…。よく考えてから決断するのが良さそうだ。具体的なビジョンもあるようだし…。他の先生方はどう思われますかな?」
「私たちの出番は無さそうですわね。いずれ大学に行こうという時に改めて相談してくれれば…」
エラ先生が微笑み、教頭先生が。
「そうだな、それが一番だ。休学するにせよ、二足の草鞋で頑張るにせよ、君の居場所はこの学校だし」
「うむ。特別生はわしらの可愛い生徒じゃしな」
頑張るのじゃぞ、とゼル先生。おおっ、進路指導はこれでサクッと終了ですか? やったねサム君、会長さんの家に通って仏の道に精進した甲斐がありましたよ~!
中継画面に向かってパチパチパチ…と拍手していた私たち。サム君たちは晴れて無罪放免、生活指導室にはオサラバなのかと思ったのですが。
「では、君も同じ方向で考えているというわけかね?」
ヒルマン先生がジョミー君の方に向き直りました。あちゃ~、すっかり忘れてましたよ、ジョミー君の存在を! 会長さんの家での朝のお勤めには出たことも無く、お坊さんにもなりたくないと叫び続ける問題児を…。案の定、ジョミー君は血相を変えて。
「ぼ、ぼくは何にも考えてません!」
「「「………」」」
たちまち先生方の表情が変わり、キース君が「馬鹿め…」と深い溜息。
「ジョミーのヤツ…。嘘も方便と言うだろうが! サムとおんなじ考えです、と答えておけば済んだのに」
「無理、無理! ジョミーはサムの話が全く分かってないからね」
会長さんが可笑しそうに笑っています。
「ああ言っておけば何年間でも長考の構えで逃げられるのに…。普段から関心を持ってないから墓穴を掘る。さて、ヒルマンたちはどう出るかな?」
生活指導室ではヒルマン先生が腕組みをして難しい顔。グレイブ先生はジョミー君の前の机を神経質そうに指でコツコツ叩きながら。
「君はふざけているのかね? 今の発言が皆に知れたらソルジャーの顔に泥を塗ることになるのだぞ? ブルーの顔なら泥を塗っても問題は無いが、ソルジャーとなれば大問題だ」
「…グレイブ。ブルーの顔ならいいと言うのか?」
それも失礼な話だが、と突っ込んだのは教頭先生。けれどグレイブ先生は微塵もひるまず。
「ソルジャーとブルーは別物です! やっていることは根本的に同じだという感はありますが、皆が従うのはソルジャーですから」
「ふむ。確かにグレイブの言うとおりじゃな」
ソルジャーは別格、とゼル先生がグレイブ先生の肩を持ち、他の先生方も続きました。会長さんの日頃の行いの悪さがこういう結果を招くのでしょう。とはいえ、それでジョミー君から矛先が逸れる筈もなく…。
「つまり、だ。…君はまだまだ覚悟が足りないというわけだね」
まるで自覚が出来ていない、とヒルマン先生が呆れたように。
「同じソルジャーの直弟子でもサムとは随分違うようだ。さて、君の指導をどうしたものか…。ソルジャーの直弟子という肩書きがついて回る以上、せめてそういう発言だけでも謹んで貰わねばならないのだが…」
「いっそ大学に進学させては?」
口を開いたのはエラ先生。
「今からきちんと手順を踏めば推薦入学が可能です。そもそも、今日はそういう相談で二人を呼んだわけですし…」
「おお、そうじゃ。大学に行けば周りは坊主の卵じゃからのう、自覚も出来ようというものじゃて」
大賛成じゃ、とゼル先生が自慢の髭を引っ張り、教頭先生が。
「…強引な気がしないでもないが、やはり直弟子の自覚は持って貰わないと…。近い内に御両親も交えて相談しよう。グレイブ、個人懇談の機会を設けてジョミーの御両親を呼び出すように」
「分かりました。早急に手配いたします」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
それは困る、と真っ青な顔のジョミー君。そりゃそうでしょう、このまま行けば坊主街道一直線。来年の春にはキース君が卒業してきたあの大学へ推薦入学させられちゃって、お念仏の日々が始まるのです。まさに大ピンチですが、鬼の進路指導陣から逃げを打つには圧倒的に力不足。
「……終わったな、ジョミー……」
気の毒に、とキース君が呟いた時。
「あれっ、会長!?」
シロエ君がキョロキョロと周囲を見回し、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「後はよろしく、って言われたよ? ぼくの力で中継してるの!」
会長さんは姿が見えなくなっていました。いったい何処へ行っちゃったのかな…って、わわっ!? 生活指導室の扉がカチャリと開いて、顔を覗かせたのは会長さんです。
「やあ。…なんだか揉めてるみたいだけれど、ジョミーの自覚が足りていないのは、ぼくのせいでもあるんだよね」
「「「ソ、ソルジャー!?」」」
「ブルーでいいよ、学校だから。それで、ジョミーのことなんだけど…。何年もかけて指導してきて、この程度っていうのが現実。ジョミーを無理やり大学に行かせるとなると、ぼくの力量不足を大々的に宣伝することになっちゃうわけ。…まずくないかな?」
「……まずいですな……」
非常にマズイ、とヒルマン先生。会長さんは「そうだろう?」と困った顔をしてみせて。
「とりあえずジョミーの個性は非常に強くて反発心も旺盛だ、っていう方向でイメージ作りをするしかないかな。それを立派に仏の道へと導いていけば、ぼくの株だって上がるわけだし」
「なるほど、逆の発想ですか。…ジョミーが見事な仏弟子になれば、ソルジャーの徳の高さを広められるというもので」
我々も気長に行きますか、とヒルマン先生が応じ、他の先生方も賛同しました。こうしてジョミー君は進路指導から解放されて、サム君や会長さんと一緒に「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へと…。
「あーあ、酷い目に遭っちゃった…」
私たちと合流したジョミー君の第一声はこれでした。テーブルの上には月刊シャングリラが乗っかっています。ジョミー君はそれを恨めしそうに眺めながら。
「…スウェナがあんな記事を書くから、進路指導までされちゃったよ。もうちょっとで大学生にされちゃう所だったんだから!」
「それはジョミーが悪いのよ。サムは何にも言われてないわよ? 中継でちゃんと見てたんだから」
ねえ? と同意を求められ、揃って頷く私たち。会長さんがクスクスクス…と笑っています。
「ジョミーも真面目に勉強してれば、サムと同じでいいと答えるのが逃げ道にもなるって分かったのにねえ…。とにかく助けてあげたんだから、今後はもう少し心構えと自覚を持って」
「無理だってば! 今日もママに早起きさせられたんだけど、朝御飯を何処に食べたか覚えてないし!」
多分寝ながら食べたんだ、とジョミー君は膨れっ面。
「朝のお勤めなんて絶対無理! ぼく、お坊さんには向いてないんだ」
きっと体質の問題だよね、と屁理屈をこねるジョミー君。早起きはお坊さんに限ったものではないんじゃないかと思いますけど、恐らく言うだけ無駄でしょう。会長さんも苦笑してますし…。
「ジョミーをお坊さんに仕立て上げるのは大変そうだ。だけどその分、遣り甲斐もあるよね。ヒルマンたちも言ってたみたいに気長に行くさ」
急いては事を仕損じる、と月刊シャングリラの特集ページを開いて見せる会長さん。
「ほらね、『未来を拓くお坊さん』って書いてある。ジョミーの未来を開拓するにはサムとキースも役に立つかも…。まずは結束を高めなくっちゃ」
「「「結束?」」」
なんじゃそりゃ、と首を傾げる私たち。みんなでジョミー君の包囲網とか? いえ、サム君とキース君とか言ってますから二人でせっせと追い込み漁?
「結束と言うか…。団結力と言うべきか。みんな、今年のGWは暇かな? 良ければシャングリラ号に来ないかい? 5月の3日から6日までの予定なんだけど…」
おおっ、渡りに船とはこのことでしょうか? これが言いたくて「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋を目指して出発してから紆余曲折。月刊シャングリラに行く手を阻まれてしまいましたが、回り回って目的地に辿り着けそうですよ~!