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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

流れのままに・第1話

大迷惑だったソルジャーの恩返しとやらが幕を閉じ、教頭先生と会長さんの関係はすっかり元通り。会長さんときたら、教頭先生に襲われかかったことも大して気にしていないようです。ベッドに運ばれてしまったというのに、タフだと言うか何と言うか…。
「いいじゃないか、何も起こらなかったんだしね。あの程度のことで目くじら立ててちゃ、ハーレイではとても遊べないよ。今までだって色々あっただろ?」
ねえ? と会長さんが笑っているのは放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋。私たちの前には沢山のケーキが入った大きな箱が…。会長さんはそれを指差して。
「それにさ、慰謝料でこんなケーキも買える。あの明くる日には食べ歩きにも出掛けられたしね」
「「「………」」」
会長さんは恩返し騒動の翌日に私たちを連れて教頭先生の家へ押し掛け、慰謝料を毟り取ったのでした。支払わないとゼル先生に全てを話すと脅迫した上、私たち全員が目撃証人だと告げたんですから堪りません。教頭先生は顔面蒼白、言われるままに財布の中身を丸ごと献上する羽目に…。
「ああ、ハーレイの財布を気にしてるわけ? 心配しなくても毎度のことだよ、ぼくのせいで金欠になるのはね。…未来の花嫁に貢いだんだから先行投資さ」
「嫁に行く気もないくせに…」
キース君が呆れたように呟きましたが、会長さんは。
「ハーレイ自身が諦めない限り、そこはどうにもならないんだけど? この間だって言ってたじゃないか、初めての相手はぼくだと決めているってね。…本人が好きで譲らないんだ、何をされても自業自得だよ」
気の毒な教頭先生は何処までもオモチャにされる運命にあるらしいです。ソルジャーの恩返し強化月間でカードと差し入れを貰っていた間は幸せだったんでしょうけれど…。もっとも会長さんに言わせれば、オモチャの分際で幸せ気分など厚かましいそうで。
「あーあ、ブルーが勝手にやっていたとは言っても、ハーレイが幸せだったなんてねえ…。なんだか許せないと思わないかい? このぼくがハーレイを気遣って差し入れしてたと言うんだよ?」
「…たまには気遣って差し上げろ。あんたを大切に思ってらっしゃることは確かなんだ」
傍で見ていても良く分かる、とキース君は溜息まじり。けれど会長さんはフンと鼻を鳴らしただけで。
「本当に大切に思ってるんなら襲ったりしないと思うけど? いくらブルーが唆したにしても、思い切り危なかったんだ」
「魔が差すということもある。あの時はまさにそれじゃないかと」
「普段から妄想を繰り広げているからそうなるのさ。…まあ、ブルーの指導がついていたってハーレイには無理だと思うけどね」
「あんた、危なかったのか大丈夫なのか、どっちなんだ…」
疲れた口調のキース君。私たちの気持ちも同じでした。会長さんは教頭先生に無理やり……そのう、大人の時間に突入されるとは思っていないくせに、その危機だけを強調しては振りかざすから困るのです。
「そんなことを言われても…。危ない時ってあると思うよ、ハーレイだって男だもの。EDにでもならない限り、リスクはゼロとは言えないさ」
「だが、EDはお断りだと言ったじゃないか」
キース君の鋭い突っ込みに、会長さんは。
「そうなると追い掛けて来てくれないからねえ…。身を引かれたらつまらない。でも、襲われるのは趣味じゃない。…こう、ギリギリのバランスっていうのが醍醐味なんだよ。それが崩れたらアウトなわけ」
襲われたのはアウトの内だ、と言う会長さんにとっては大人の時間を巡るドタバタもゲームなのかもしれません。なにしろシャングリラ・ジゴロ・ブルーですから女性と遊ぶのは明らかにゲーム。その感覚を教頭先生との間柄にも持ち込んでいてアウトだ、セーフだとやっているとか…? 私たちがコソコソ話し合っていると。
「失礼な!」
会長さんがピシャリと遮りました。
「女性とハーレイを同列にするなんて、女性に対して失礼だよ! 謝りたまえ!」
「「「はーい…」」」
そう来たか、と渋々頷く私たち。シャングリラ学園は今日も平和です。教頭先生から毟ったお金で買ったケーキも綺麗でとっても美味しいですよね。

「ところでさ…。EDで思い出したんだけど」
会長さんが2個目のケーキにフォークを入れながら私たちを見回しました。
「今年の校外学習について、何か噂は聞いている?」
「「「え…?」」」
何故にEDで校外学習? ひょっとして今年は何処かの病院に行ってボランティアとかそういうのですか? 去年の一日修行体験も大概でしたが、ボランティアというのも楽しくないかも…。
「なんだ、やっぱり聞いてないのか。情報統制は完璧だね」
流石はシャングリラ学園、と感心している会長さんに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「ねえねえ、EDって何だっけ? 校外学習、今年も水族館には行かないの? イルカさんと遊びたいのに…」
つまらないよ、と言う「そるじゃぁ・ぶるぅ」は水族館がお気に入りでした。私たちが普通の1年生だった頃から校外学習の行き先は水族館。そこのイルカショーのプールでイルカと遊ぶのが「そるじゃぁ・ぶるぅ」の大好きな時間なのですが……去年は水族館からお寺に変更されたのです。また今年も…?
「ぶるぅ、水族館に行きたいのかい?」
会長さんが尋ねると「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「うん!」と元気一杯に。
「イルカさんと遊ぶの、楽しいもん! ブルーに連れてって貰う時には握手だけしか出来ないけれど、校外学習だと一緒にショーが出来るもん!」
あれがやりたい、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。水族館がお休みの日に出掛けて行ってイルカプールでジャンプなどをさせて貰うこともあるそうですが、ギャラリーがいないのがつまらないとか。普通の営業日だと子供たちに混じって握手が精一杯ですし…。会長さんは「うーん…」と考え込んで。
「水族館がダメだった時はジョミーたちに頼もうかな? そうすればギャラリーが少し増えるし」
「えっ、水族館……ダメかもしれないの?」
残念そうな「そるじゃぁ・ぶるぅ」に会長さんは。
「まだ決まってはいないんだ。水族館がいいと主張している先生もいるしね」
「そうなんだぁ…。その先生に頑張って欲しいな♪ ぼく、お願いに行こうかなぁ?」
「いいけど、相手はハーレイだよ?」
ぼくが大金を毟った相手、と会長さんが告げるのを聞いてガックリ項垂れる「そるじゃぁ・ぶるぅ」。でも、教頭先生は「そるじゃぁ・ぶるぅ」を可愛がってますから大丈夫なんじゃあ…? 私たちが口々に慰めると「そるじゃぁ・ぶるぅ」は少しやる気が出たようです。
「うん、やっぱりお願いに行ってくる! 水族館にして下さい、って!」
「そう? 水族館でなくても楽しいんじゃないかと思うけどねえ?」
何処に行くのか話してないよ、と会長さん。…えっと、病院でボランティアなんじゃあ…? それって何か楽しいですか?
「なんでボランティアってことになるのさ? ああ、EDって言ってたからか…」
一人で納得している会長さんに「そるじゃぁ・ぶるぅ」が「EDってなに?」と無邪気に再び問い掛けます。
「ん? ハーレイが自信喪失する病気。…だから水族館を主張ってわけでもないけどね」
えっと…。話がサッパリ見えません。どうして教頭先生が水族館を推していて、EDがどう絡むのでしょう?
「ふふ、知りたい? 情報統制中なんだけどねえ…」
だけどぼくにはお見通し、とクスッと笑う会長さん。
「結論から言えば、去年の行き先は不評だった。発案者のグレイブは「精神修養になって素晴らしかった」と自画自賛だけど、シャングリラ学園の校風には合わないと判断されたらしいんだ。それで今年は元通りに水族館へってことになりかけていたら、今度はゼルが」
「「「ゼル先生?」」」
意外な人が出てきたものです。剣道と居合の達人ですから今年は武術の道場とか? そういえば教頭先生がEDになったのはゼル先生にサイドカーに乗せられて爆走されたせいでしたっけ。教頭先生、ゼル先生のプランに反対するとは、ああ見えて根に持つタイプだとか…?

「…ハーレイがゼルに反対なのは教頭の立場からなんだ」
会長さんの意外な台詞に首を傾げる私たち。個人的な恨みで反対というのも似合いませんけど、教頭だから反対意見を唱えるというのは何なのでしょう? 教頭先生は先生側に立つのか生徒側なのか、それも今一つ分かりませんし…。どっちなんだろう、と皆で悩んでいると、会長さんが。
「もちろんハーレイは先生側だよ? 教頭なんだし先生たちを束ねる立場。…ただし悲しい中間管理職とも言えるんだよねえ、ハーレイの上には校長先生がいるし」
「そっか、校長先生がいたんだっけ…」
影が薄いから忘れていたよ、とジョミー君。なんとも失礼な話ですけど、そう言う私も忘れていました。校長先生はシャングリラ学園創立当時から校長を務めておられ、理事長先生と共に私財を投じて学園の基礎を築いたと聞かされています。ちゃんと銅像も建っているのに忘れられてしまう影の薄さは何なのでしょう?
「忘れられちゃうのも無理ないけどね。…校長先生も理事長もサイオンは標準以下でしかないし、そのせいで長老のメンバーには加わっていない。仲間内でも影が薄いんだよ」
シャングリラ号にも乗り込まないし、と会長さんが説明してくれて。
「だけど校長には違いないから、シャングリラ学園で何かあったら校長先生の責任になるってわけ。ハーレイはそうならないよう、教頭として反対した。ゼルの意見が通ってしまうと危険だからね」
「「「危険…?」」」
校外学習で危険とくれば、やはり武術の道場でしょうか。慣れない生徒が剣道や居合をするんですから事故が起こるかもしれません。怪我した生徒への謝罪と補償もさることながら、場合によっては新聞記事のネタになるとか、色々と面倒なことになりそうな…。
「そう、考え方としてはそれで合ってる。ハーレイが恐れているのは事故と学校への風当たり」
怖いよねえ、と首を竦める会長さんにシロエ君が。
「やっぱり武術の道場なんかに行くんですか? 剣道と居合の体験とか…?」
「残念でした。ぼくはEDで思い出したって言った筈だよ? 剣道や居合がEDとどう結び付くと?」
ニヤリと笑う会長さん。うーん、確かに剣道も居合もEDなんかとは無縁そうです。
「そりゃね、打ちどころが悪かったりしたらEDもアリかもしれないけどさ。普通はちょっと有り得ないよ。…だけどヒントになるのはED。…どう? 何か見当がつきそうかい?」
「…俺には無理だな」
サッパリ分からん、とキース君が早々に白旗を上げ、私たちもそれに続きました。会長さんと同じ連想が出来るようになったら、それは末期というものでしょう。会長さんは「簡単なのに…」と悪戯っぽい笑みを浮かべて。
「ハーレイがEDになったのはゼルのせい! サイドカーに乗せられて爆走されたせいだけれども、全てはスピードが悪いんだよ。ハーレイは絶叫マシーンも無理だろ? つまりゼルといえばED、でもってスピード」
「…ますますもって分からんぞ」
もっと簡単にならないのか、とキース君が苦情を言えば、会長さんは。
「ゼルが持ち出した案でスピードだよ? ついでに危険も伴うんだ」
「…バイクの講習会とかじゃないだろうな?」
「君たちはともかく、1年生じゃバイクの免許は取れないよ。お試しにしても保護者から苦情が来そうだよね」
「事故と学校への風当たりと言うなら充分に該当しそうだが?」
おまけにゼル先生が好きそうだ、とキース君。けれど会長さんは「違うね」と首を左右に振って。
「ゼルが推してるのはラフティングだよ」
「「「ラフティング!?」」」
「うん。…聞いたことあるだろ、郊外の川でやってるヤツ」
スピードがあって、おまけに危険。ラフティングだと明かされてみれば実に分かりやすいヒントでしたが、教頭先生は反対の立場。校外学習、どうなるのかな…?

シャングリラ学園の情報統制はそれから後も続きました。行き先で揉めているなら生徒の意見を取り入れるために投票だとか、そんなのがあっても良さそうなのに…。数日経った放課後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で私たちがブツブツ言い合っていると、会長さんが。
「ちなみに、君たちは水族館? それともラフティング、どっちがいいわけ?」
「え? えっと…」
どっちだろう、とジョミー君が首を捻っています。シロエ君も考え込んでいますし、キース君だって…。水族館はお馴染みの場所になってますけど、自由行動が出来てのんびりまったり。ラフティングはスリリングな急流下り。どっちがいいかと尋ねられても、ちょっと即答しにくいかも…。と、元気な声が弾けました。
「ぼく、ラフティング!」
楽しそうだもん、と燃えているのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ブルーに教えてもらったんだ! みんなで一緒にボートを漕いで川を下っていくんでしょ? それに他にも色々あるよ、って!」
「色々って…?」
ジョミー君が尋ね、私たちもそれに便乗です。川下りってだけではないんですか? 「そるじゃぁ・ぶるぅ」はエヘンと胸を張って。
「えっとね、ボートから下りて川で泳いだり出来るんだって! なんてったかなぁ……ライフジャケット? 浮き輪みたいなのを着けていくから泳がなくってもプカプカ浮けるし、ボートと一緒に流れていったり…。ぼく、そういうのがやってみたいな」
「へえ…。そんなオプションがあったんですか」
知りませんでした、とシロエ君が言うと会長さんがニッコリ笑って。
「オプションじゃなくてコースの内だよ? 川に親しむというのがコンセプトでね、あれこれ工夫してるんだ。面白そうだと思わないかい?」
「…教頭先生が来なくても…か?」
念を押したのはキース君です。スピードが苦手な教頭先生はラフティングも好きではなさそうな気が…。会長さんが教頭先生を引き摺り込んで何かやらかさないという保証は何処にもありません。ところが…。
「ハーレイは校外学習には必ず参加するんだよ。そういう決まりになっている」
「あんた、また良からぬことを考えてるな?」
キース君の鋭い指摘に、会長さんは。
「…ラフティングに関しては別に何も? たかが急流下りだろ。いくらハーレイがスピードが苦手だと言っても、急流下りくらいじゃねえ…。そりゃEDは連想したけど、それは速いって言葉からでさ」
特に何も起こらないだろうから期待はしてない、と会長さんは微笑んでいます。
「学校行事で出掛けるんだし、手出しのしようがないんだよ。…個人的に行くんだったら川に突き落とすとかも出来るけどさ」
「…だったら、あんたは水族館派か?」
「ぶるぅがラフティングを希望してるから、ラフティング。…たまには真っ当に楽しんでみるよ、校外学習。去年は修行体験でイマイチだったし、ぼくだって遊べる所を希望」
水族館よりラフティング! と会長さんも期待しているようです。教頭先生を巻き込まないのなら、ラフティングにするのがベストでしょうか? ああ、でも…選択権は私たちには無いんでしたっけ…。決めるのはあくまで先生たちで、生徒はそれに従うのみです。ラフティングがいいな、と呟き始めた私たちですが。
「…そろそろ決まるみたいだよ?」
会長さんが本館のある方角へ視線を向けて。
「ぶるぅ、中継をお願い出来るかな? 会議室のハーレイたちだ」
「オッケー!」
たちまち壁に映し出されたのはテーブルを囲む先生たち。配られた資料を前に検討中です。
「わしは断固、ラフティングじゃ! 力を合わせてボートを漕ぐ! 皆で難コースを乗り切った後の達成感は学校生活のいい思い出じゃし、人間としても成長出来よう」
ゼル先生が熱弁を揮い、頷いている先生が多数。これはラフティングに決定だな、と画面をワクワク眺めていると…。
「その件についてだが、校長の御意見も一応伺ってきた」
教頭先生の言葉に、ゼル先生がギッと怒りの形相で睨み付けて。
「なんじゃ、ハーレイ、余計な事を! 校長なんぞはただの飾りじゃ!」
「そうは言っても最終的な責任は校長に行く。水族館に行くなら往復の交通事故くらいしか危険は無いが、ラフティングとなれば話は別だ」
「で。校長はなんて言ったんだい?」
早く言いな、とブラウ先生。教頭先生は軽く咳払いすると。
「…例年、水族館と決まっていたものを敢えて変更しなくても…と。昨年の一日修行体験のように危険を伴わない場所ならともかく、ラフティングは危険すぎないか…とも仰っていた」
「なるほどねえ…。あんたと同じ意見なわけか。こいつは考え直さないとね」
「ええい、そんな必要は微塵も無いわい! 校長とハーレイが反対しようが、他の連中は賛成なんじゃ!」
ラフティングじゃ、とゼル先生は叫びましたが、最初に反対意見に賛同したのはヒルマン先生。そこから先は雪崩を打つように反対票が次から次へと…。
「では、今年の校外学習の行き先は恒例の水族館に決まりだな」
これで私も安心だ、と会議を終えて立ち上がった教頭先生、校長先生の所へ報告に行くみたいです。解散してゆく先生方の中でゼル先生だけが頭から湯気が出そうな勢いで怒っていたり…。
「……水族館になっちゃった……」
ションボリしている「そるじゃぁ・ぶるぅ」。ラフティングに行く気満々だっただけに意気消沈しているのでしょう。まったく、教頭先生ときたら…。中間管理職は大変なのかもしれませんけど、ラフティングでいいじゃないですか~!

目先の変わった行き先になるかと期待してしまった校外学習。水族館になったからには「そるじゃぁ・ぶるぅ」は行かないかも…と心配でしたが、翌週の朝、1年A組の一番後ろに会長さんの机が増えて。
「やあ、おはよう。今日は校外学習のお知らせが配られるからねえ」
「かみお~ん♪ イルカさんに会うのも楽しいもんね!」
みんなで行けばギャラリーも増えるし、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は前向きに考え直したようです。やがてグレイブ先生が教室に現れ、会長さんの姿に舌打ちしながらお知らせを配ると。
「諸君、校外学習もいいが、本来の学習にも身を入れるように。…先日の抜き打ちテストを採点してみたが悲惨だったぞ」
今日から補習だ、と対象者の名前を順に読み上げるグレイブ先生。呼ばれてしまったクラスメイトは縋るような眼で会長さんを見ています。抜き打ちテストは会長さんのフォローの範疇外。年度初めの実力テストと定期試験だけしか請け負わない、とキッパリ宣言しているのですが、姿があれば気になりますよねえ…。
「なんだ、ブルーを見ているのか? 諸君はブルーに頼り過ぎだ」
嘆かわしい…、とグレイブ先生は溜息をついて。
「抜き打ちテストは全部のクラスで実施してきたが、大多数が補習などという無残な結果はA組だけだ。中間試験で全員満点、堂々の学年一位に輝いたのと同じクラスとも思えんな。…校外学習の前日まで補習を行う」
「「「………」」」
楽しいお知らせの後は補習のお知らせ。教室はお通夜状態です。補習を免れたクラスメイトはほんの数人、そうなってしまうのも無理はなく…。と、会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」に。
「ぶるぅ、出番かもしれないよ? 手形パワーの」
「かみお~ん♪ どこに押したらいいの?」
「グレイブが持ってる名簿じゃないかな。でも、その前に…」
会長さんがスッと席を立ち、スタスタと教卓の方に歩いて行きます。手形パワーと聞いたグレイブ先生は補習対象者の名簿を挟んだ出席簿を両手でしっかり抱えてガードして…。
「ホームルーム中の勝手な行動は慎みたまえ! 席に戻って黙って座る!」
「…ぼくに常識が通じるとでも? 補習の発表を終礼まで待てば良かったんだよ。そしたらぼくは帰った後だし、何も問題無かったのにねえ? …みんなに頼りにされてしまうと見捨てて帰るのは良心が痛む」
どいて、とグレイブ先生を押し退けてしまった会長さんは教卓の横に姿勢よく立つと。
「校外学習の行き先は水族館! ぶるぅはイルカが大好きだから、イルカとショーをするんだよ。イルカショーの案内板に貸し切りと書かれた時間帯がある筈だ。その時間にショーを見に来て声援を送ってくれるんだったら、補習を無しにしてあげてもいい」
「ホントですか!?」
「行きます、絶対見に行きますっ!」
口々に叫ぶクラスメイトに会長さんは大満足で。
「ありがとう。ぶるぅの応援、よろしくね。…ぶるぅ、手形だ!」
「かみお~ん♪ グレイブ、名簿、ちょうだい!」
くれなかったら黒い手形を押しちゃうもんね、とニコニコ笑顔で脅迫されたグレイブ先生は慌てて名簿を渡しました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の右手から出る赤い手形はパーフェクトですが、左手から出る黒い手形を押された人はアンラッキー。グレイブ先生はとっくの昔に経験済みです。
「押しちゃった~! 補習、無しだよ!」
ピョンピョン飛び跳ねる「そるじゃぁ・ぶるぅ」にクラスメイトは拍手喝采。きっと水族館のイルカプールでも惜しみない拍手が送られるでしょう。ラフティングがお流れになっちゃった分、「そるじゃぁ・ぶるぅ」にはショーを楽しんで欲しいです。会長さんもそう思ったから手形をサービスしたんでしょうね。

「あーあ、ホントに水族館だよ…」
ジョミー君が残念そうに校外学習のお知らせを眺めているのは放課後のこと。中継で一部始終を見ていたものの、奇跡の大逆転でラフティングの方になりはしないかと誰もが思っていたのです。しかしお知らせが出てしまった以上、水族館に決定で。
「ぶるぅはショーに出られるけれど、ぼくたちは別に何もないしね…」
「ですよね、ラフティングだったら目新しいこともあったんでしょうけど…」
水族館は見慣れてますし、とシロエ君も相槌を打っています。あーあ、行きたかったなぁ、ラフティング…。
「ぼくだってラフティングの方が良かったさ」
ぶるぅもね、と会長さんが言えば「そるじゃぁ・ぶるぅ」が。
「イルカさんと遊ぶのも大好きだけど、ラフティングもやりたかったのに…。あんなに楽しそうなのに~!」
会長さんにラフティングの内容を聞かされて以来、夢が大きく膨らんでいたらしいです。そうは言っても決まったものは変えようがなく、水族館で我慢するしかありません。小さな子供には酷ですけども。
「…うーん…。これはハーレイに文句を言うべきだよね」
せっかくのプランをボツにしたのはハーレイだから、と会長さん。えっと……教頭先生のせいでボツになったのは確かですけど、校長先生が言い出したんじゃあ?
「ハーレイが意見を聞きに行かなかったら校長先生だってノータッチだよ。ゼルも言ったろ、お飾りだって」
責任は全てハーレイにある、と会長さんは完全に決めてかかっています。
「生徒の安全第一というのもいいけどねえ…。ぼくに言わせれば万一の時に責任を被るのを回避しただけのヘタレ根性! 他の学校は実施してるのに」
けっこう人気のコースなのだ、と会長さん。それに今まで無事故だそうで…。
「よし、決めた。ハーレイに責任を取らせよう」
「「「え?」」」
「ぶるぅをガッカリさせた責任だよ。子供の夢は大切なんだ」
夢を壊すような大人は論外、と言ってますけど、そもそも覗き見していなければラフティングなんて知らずに終わっていたのでは? こんな展開ってアリなんですか…?



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