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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

眠りの誕生日・第1話

学園祭で存在を明かされたサイオニック・ドリームは「そるじゃぁ・ぶるぅ」の不思議パワーの魅力的な一面として、一般生徒に自然に融け込んでゆきました。個人的に化かしてもらう機会を狙って好物のお菓子を調査中の生徒や、後夜祭での思い出の曲『かみほー♪』を覚えて口ずさむ生徒。
お祭り気分が抜け切らない内に期末試験が迫っているのですけど、私たち特別生には関係無くて…。
「かみお~ん♪ いらっしゃい!」
完熟バナナと栗のタルトを作ったよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が迎えてくれる冬の放課後。クリームたっぷりのホットココアが嬉しい季節、街にはクリスマス・ソングが流れてイルミネーションも華やかです。去年はキース君が道場に行ってしまってクリスマスはお流れでしたっけ。
「もう一年か…。早いもんだな」
夢のようだ、とキース君が感慨深そうに言えば、会長さんが。
「本当だよね。今じゃ立派な副住職だし、あの頃の君には想像もつかない姿だろ? 来る日も来る日も修行三昧、念仏三昧。ついに寝言もお念仏に…」
「あー、あの寝言は怖かったよねえ、ホントに出たかと思っちゃった」
ジョミー君が震えてみせて、私たちは大爆笑。キース君が住職の資格を取りに出掛けた伝宗伝戒道場はクリスマス・シーズンに見事に重なってしまい、恒例のパーティーが出来なかったのです。代わりに後日、仕切り直しのお泊まり会を企画した時、夜中にお念仏が聞こえて来て…。
「笑うな、お念仏を馬鹿にしやがって! 寝ながら唱える所まで行ったら最高なんだぞ、坊主としては!」
「それが毎日のことなら…だけどね」
混ぜっ返したのは会長さん。
「今じゃ毎晩、寝言も言わずに熟睡だろう? それじゃ駄目だよ、道場じゃ誰もが読経マシーンだ。寝言がお念仏になるのも当然! その時の心構えを忘れず常にお念仏を唱え続けて、寝言は今もお念仏です…っていうのが最高の坊主だってば」
「じゃあ、そう言うあんたはどうなんだ! あんたの寝言は!」
「さあねえ? ぶるぅ、ぼくの寝言はどんな感じ? あれ?」
寝ちゃってるよ、と会長さんが視線を向けた先では「そるじゃぁ・ぶるぅ」が丸くなっていました。お気に入りの土鍋までは出ていませんけど、床に置かれたクッションの上にちんまりと…。そういえば何度か欠伸をしていたような気がします。昨日は夜ふかししちゃったのかな?
「うーん、やっぱり無理が出たかな?」
最近どうも眠いらしくて、と会長さんが毛布をかけながら。
「学園祭で頑張りすぎちゃったらしい。ぼく一人でも大丈夫だよ、って言ったのに…。本人がやる気満々だったし問題無いのかと思ってたけど、保護者としては止めるべきだったかも…」
「おい、サイオニック・ドリームがまずかったのか?」
キース君の問いに、会長さんはコクリと頷いて。
「普段だったら平気だったと思うんだ。…だけど今回は時期が悪かった。どうしよう、これからクリスマスだね、って凄く楽しみにしてたのに…。限定メニューを食べに行こうね、って情報集めもしてたのに…」
「…なんのことだ?」
尋ねるキース君の声のトーンが落ち、私たちの胸にも暗い影のようなものが拡がります。だって、会長さんの表情が……「そるじゃぁ・ぶるぅ」を見おろす顔が、なんだか妙に辛そうで…。
「ああ、ごめん。…もうクリスマスが近いんだ。時期が時期だけに、多分、ぶるぅは…」
「だから何だと訊いてるだろう。ぶるぅは具合が悪いのか? それなら俺たちも遠慮しないとな」
今日の皿洗いは俺たちでやる、とキース君は早速空のお皿を積み重ねようとしたのですが。
「…今日はまだ…大丈夫じゃないかな、分からないけど。でも明日以降は保証できない。当分の間、おやつは市販のヤツになるかも」
「「「え?」」」
そこまで具合が悪かったのか、と私たちは息を飲みました。元気そうに見えていたのに、相当無理をしてたのでしょうか? 学園祭でサイオンを使いすぎたのが原因だったら、かなり長い間キツかった筈。そんな子供に毎日おやつや食事を作らせてしまっていたなんて…。
「すまん、俺たちも悪かった。もっと早くに手伝いを申し出るべきだった」
キース君が深々と頭を下げるのに私たちも倣いましたが、会長さんは右手を左右に振って。
「違う、君たちは何も悪くない。ぶるぅはお客様が好きだし、お菓子も料理も食べてくれる人がいるのが嬉しくってたまらないんだ。だから君たちがこの部屋に来るようになって喜んでいたし、毎日、首を長くして放課後になるのを待っているよ」
「…しかし…。具合が悪くても跳ね回るのが子供ってヤツだ。充分休ませてやってくれ」
「そういうわけではないんだ、これは。…時期が来ただけ。もうすぐ、ぶるぅは卵になる」
静かに告げられた短い言葉は衝撃的な内容でした。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が卵になる…。ずっと前から何度も聞かされてきた話ですが、それがこんなに突然に…?

三百年以上も遠い昔に海に沈んだ会長さんの故郷、アルタミラ。そこでサイオンに目覚めた会長さんが仲間が欲しいと願い続けて、その思いから生まれて来たのが「そるじゃぁ・ぶるぅ」だと聞いています。ある朝、会長さんの枕元にあった小さな青い卵。やがて孵化して可愛くて元気な男の子になって…。
「そうだよ、ぶるぅはアルタミラで生まれた。何年かぼくの家族と一緒に暮らして、それから島が無くなって…。二人きりになってからのことだったんだよね、ぶるぅが卵に戻ったのは」
あの時は本当に悲しかった、と会長さんは眠っている「そるじゃぁ・ぶるぅ」の背中を撫でながら。
「ぶるぅがいたから家族がみんないなくなっても前向きに生きていけたんだ。だって一人じゃないだろう? ぼくの願いから生まれたとしても、ぶるぅは立派な人間だしね。…それなのに卵に戻っちゃうなんて…。卵が孵るのはいつなんだろう、と思ったら泣くしかないじゃないか」
何ヶ月もかかるものなんだから、と溜息をつく会長さん。でも、確かそのお話には続きがあって、卵に戻った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は一晩で孵化したと聞かされたような…? キース君たちも覚えていたらしくって、会長さんに確認してますが…。
「そう、早ければ一晩で孵る。ぶるぅも自分で言っていたよね、お誕生日は次もクリスマスだ、って。イブのパーティーも楽しみだから頑張って起きていてパーティーをして、次の日の朝に起きるんだ…って」
「「「あ…」」」
言われてみればその通りでした。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が宣言したのはいつだったでしょう? アルタミラが沈んだ日に合わせて海沿いの小さな港町を訪ねた去年の夏に張り切って決めていたような…。
「思い出した? ぶるぅが言い出したことだったから、叶えてやろうと思ったよ。今の誕生日がクリスマスなのは偶然だって話しただろう? ぶるぅが自分で誕生日にしたい日が出来たのは君たちのお蔭。みんなで楽しくパーティーしたい、って何度も言うから約束したのに…」
「あんたでも起こしてやれないのか?」
まさか、と青ざめるキース君。会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」が孵化する時の目覚ましの役をすることもあると聞いているのに、今回は無理だと言うんですか?
「…サイオンの使い過ぎで眠るんでなければ起こせたさ。クリスマスまでに眠りそうになったら起こしてくれとも頼まれていたし、そのつもりだった。…だけどウッカリしていたよ。疲れてしまって眠ったことは一度も無い。今度は普通の眠りじゃないんだ」
「前例が無いなら分からんだろうが、やってみないと」
「そうなんだけどね…。そうなる以前の問題として、サイオンを使わせるべきじゃなかった。眠りの時期が近付いてたんだ、消耗させちゃダメだったんだよ」
保護者失格だ、と会長さんは項垂れています。いくら「そるじゃぁ・ぶるぅ」がやりたがってもサイオニック・ドリームの手伝いをさせるべきではなかった、と。
「お、おい…。落ち込んでどうする、あんたがしっかりするべきだろう! 今日の所は寝てるだけだし、精のつく物を食わせてやるとか、規則正しく寝起きさせるとか」
「…ぶるぅは日頃から規則正しくしているよ。夜ふかしも寝坊も、ぼくばかりでさ。ブルー、朝だよ、って何度布団を引っぺがされたか…。そんな日とも暫くお別れかな。多分、そんなに長くは保たない」
「「「嘘…」」」
ただの昼寝だ、大丈夫だ、と私たちは口々に言いましたけど、根拠は全くありませんでした。「そうだったらいいな」「そうであってほしい」という願望を声に乗せているだけで、誰も責任は持てなくて…。そもそも「そるじゃぁ・ぶるぅ」が昼寝をすること自体が珍しいのです。知らない間に寝ていたことが今までに何度もあったでしょうか?

すやすやと眠る「そるじゃぁ・ぶるぅ」は目を覚ましません。これだけ周囲が騒いでいれば瞼くらい動きそうなものですけれど、完全に熟睡しています。でも、子供だったらうるさい場所でも平気で眠れるものですし…。昼寝なのだ、と繰り返すことしか出来ない私たちに向かって、会長さんは。
「…心配してくれるのは嬉しいけれど、あと何日もは無理だと思う。あ、ぶるぅには言わないでよ? ショックでパッタリ倒れてしまって卵になっても可哀想だし…。とりあえず今夜はちょっと早めのクリスマス・ディナーに行ってこようかな」
マンションの近くの行きつけの店、とウインクしてみせる会長さん。
「ぶるぅのお気に入りなんだ。小さな店だけど落ち着いた素敵な庭があってね。その庭が一番よく見える席が指定席。二人でゆっくり出掛けてくるよ」
「…なら、いいが…。後は俺たちが片付けておく。さっさと帰って支度するんだな」
キース君の提案に私たちが立ち上がるのを、会長さんは止めませんでした。代わりに「ありがとう」と小さく呟いて…。
「お言葉に甘えさせて貰うよ、今日は。…ごめんね、後片付けの方をよろしく。ほら、ぶるぅ。…帰るよ、食事に行くんだろう?」
軽く揺さぶる会長さんに「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「う~ん…」と丸まっていた背中を伸ばし、ムニャムニャと寝言を漏らしてから。
「えっ、食事? 行く、行く、今日は何処のお店?」
わーい! と歓声を上げて会長さんの腕をガシッと掴んだかと思うと「そるじゃぁ・ぶるぅ」も会長さんも姿を消してしまっていました。床にはクシャクシャになった毛布が転がっています。
「…あの分なら当分、大丈夫だな」
キース君が苦笑し、シロエ君が。
「眠気よりも食い気ですよね、ぶるぅの場合は。…さてと、お皿を片付けますか」
「その前にタルトの残りがあるわよ、いつもだったら食べちゃってるでしょ?」
スウェナちゃんがお代わりし損ねていたタルトを指差し、私たちは改めて食べる所から始めることに。だって、せっかくのおやつです。明日になったら味が落ちると思いますし…。
「ぶるぅがいないと綺麗に切るのも大変だよねえ、なんかメチャクチャ」
タルトの生地が崩れちゃったよ、とジョミー君がぼやいていますが、それくらいは仕方ないでしょう。お皿に盛り付け、熱いココアをカップにたっぷりと注ぎ、キース君が音頭を取って。
「では、ブルーに頼まれた後片付けを兼ねて」
「「「いっただっきまーす!!!」」」
完熟バナナと甘く煮た栗のハーモニーが嬉しい「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手作りタルト。みんなで残さず平らげてからカップとお皿を綺麗に洗って棚に片付け、布巾の煮沸消毒を済ませ、火の元などを確認して。
「これでよし、と。あいつら、無事に気に入りの席が取れてるといいな」
「きっとバッチリだよ、ブルーだもの」
失敗するわけないってば、とジョミー君が保証し、キース君も「違いない」と笑いながら。
「先客がいてもサイオンで入れ替えそうだよな。早めのクリスマス・ディナーを楽しんで欲しいぜ」
「みんなで後片付けまでしたんだものね、美味しく食べて貰わないとさ」
値打ちが無いよ、とジョミー君。私たちはもう一度お部屋の中を指差し確認し直してから壁をすり抜け、此処を訪ねるようになってから初めて見送り無しで家へと帰ってゆきました。冬の日はもうとっぷりと暮れ、澄んだ空に星が瞬いています。会長さんたちのお気に入りのお店、そろそろ開店時間なのかな…?

次の日、授業と終礼を終えた私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へと歩く途中で会長さんたちの昨日の夕食のメニューを当てっこ。そのものズバリは難しいですから、食材の推測がメインです。
「キャビアとフォアグラは外せないよね」
ジョミー君が指を立てれば、サム君が。
「トリュフもだよな。クリスマス限定メニューなんだろ、その辺は絶対出てるって!」
「オマール海老か伊勢海老なのかが悩む所だな、俺はオマールだと思うんだが…」
「キース先輩、この時期は牡蠣も外せませんよね」
海の幸だけでも当てにくいです、とシロエ君。魚料理は魚の種類だけでも色々。かと言って肉料理の方は当たりやすいかと言えばそうでもなくて…。
「あいつとぶるぅの行きつけとなると、ジビエってこともありそうだしな」
今は鹿肉のシーズンだぜ、とキース君が例を挙げると他のみんなもイノシシだのウサギだのキジだのと…。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」はどんな料理を食べたのでしょう? 食べた料理を再現するのが得意な「そるじゃぁ・ぶるぅ」ですから、近い将来に作ってくれるかもよ、と楽しみにしつつ生徒会室に着き、目印の紋章に触れて壁を通り抜けると…。
「…やあ。昨日は綺麗に後片付けしてくれてありがとう」
会長さんが一人でソファに座っていました。耳に馴染んだ「かみお~ん♪」の挨拶は聞こえず、焼き立てのパイやケーキの匂いもしていなくって、テーブルの上に小さなバスケットが一つ。
「…ぶるぅは昨日が限界だったらしい。食事から帰ってお風呂に入って、パジャマに着替えるとこまでは見てた。先に寝るね、って言っていたからテレビを見ててさ、それから寝ようと部屋に行ったら…」
「卵に戻ってしまったのか!?」
キース君が思わず怒鳴ると、会長さんは。
「そうなんだ。気を付けてやれって君に言われてたのに…。食事もペロリと平らげてたから油断していた。土鍋の中に姿が無いな、と見回してみたらパジャマが落ちてて、その中で卵になっていたんだ。慌てて呼んだけど起きなかった。…卵になってからすぐに気付いたら起こせたのに…」
テレビなんか見るんじゃなかった、と会長さんは肩を落としています。卵に化けるのは「そるじゃぁ・ぶるぅ」の得意技なだけに、眠りに入るための卵でも完全に眠ってしまう前なら元の姿に戻れるのだとか。そこで人間の姿のままで熟睡するまで見守ってやれば一晩は乗り切れるというわけで。
「…その繰り返しでクリスマス・イブまで引っ張るというのが、ぶるぅの予定。昨日の時点でそれは無理だと分かっていたけど、一週間くらいは持ち堪えるかとも思ってた。…なのに卵にしちゃったんだよ、ぼくが目を離したばっかりに…」
もう取り返しがつかないんだ、と落ち込んでいる会長さん。なんでも食事から帰った「そるじゃぁ・ぶるぅ」は次に行く店のチョイスに燃えていて、御贔屓様にだけ届く案内状を熱心に見比べていたのだとか。会長さんは一緒に覗き込みつつ、心の中で優先順位を密かに決めて…。
「今日の内に予約を入れるつもりだったんだ。もしも卵に戻っちゃったら、キャンセルすればいいんだしね。だけど、予約云々以前の問題。…同じメニューがまた出ればいいけど…」
本当に楽しみにしてたんだから、と呟きながら会長さんが開けたバスケットの中には青い卵が入っていました。鶏の卵サイズの卵に戻った「そるじゃぁ・ぶるぅ」。敷き詰められたクッションはフィシスさんが「そるじゃぁ・ぶるぅの誕生日の度に一枚ずつプレゼントしていた手作りです。
「「「……ぶるぅ……」」」
私たちは青い卵を見詰め、あれこれと声をかけてみましたが答えは返ってきませんでした。本当に眠ってしまったのです。サイオンの使いすぎで眠りに入るのが早まっただけに、いつ孵化するかも分からなくって…。
「そうだ、クリスマスはパーティーしようぜ」
キース君の急な提案に誰もがポカンとしています。会長さんがクリスマス限定メニューを食べさせてやれなかったと悔やんでいるのに、どうしてパーティーに話が飛ぶの?
「起きないんなら起こせばいいんだ、何が何でもクリスマスにな。サイオンってヤツは人数が多けりゃそれだけパワーが出るんだろう? ブルー、あんたの思念もぶるぅに届くさ」
「え? あ、ああ…。そうだね、そうかもしれないね。元々ぶるぅは誕生日パーティーに期待してたし、それじゃイブから集まろうか。ぶるぅに悪いから普通の食事で」
少し浮上した会長さんにマツカ君が。
「クリスマス限定メニューのことなんですけど、済んでしまっても頼めばいけるんじゃないですか? 食材の仕入れの関係とかで少し高めにはなるでしょうけど…」
「あっ、そうか! 普段から色々と無理をお願いしてるんだっけ…。クリスマスメニューの再現くらい簡単だよねえ、一度はメニューに載せたんだから」
無い物を頼むんじゃないんだしね、と会長さんの顔に微笑みが戻って来ました。会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」は食材や料理法を指定した特注品を食べることもあるのだそうです。料理人泣かせらしいのですけど、それに比べればクリスマスメニューの再現なんかはお安い御用。
「ありがとう、マツカ。…落ち込んでるとやっぱり駄目だね、全然頭が回らないや。ぶるぅを起こすのに君たちも協力してくれるのなら、なんとか約束を守れそうかな」
クリスマスにぶるぅを叩き起こそう、と会長さんは前向きに。卵に戻った「そるじゃぁ・ぶるぅ」をバスケットごとテーブルの真ん中に据えて、みんなでお喋り開始です。卵の中にも周囲の気配が伝わることがあると聞いていますし、しんみりするより賑やかに! おやつは当分、市販品ですが…。

卵に戻った「そるじゃぁ・ぶるぅ」。手作りおやつが会長さんが買っておいてくれるケーキなどに変わり、期末試験がやって来て…。会長さんは普段通り「そるじゃぁ・ぶるぅ」の不思議パワーと御利益を引っ提げて1年A組に現れ、その力の持ち主の不在には誰も気付かないまま、五日間の試験が終了。
打ち上げパーティーも開催することになり、会長さんが教頭先生から費用を毟りましたが、一人で出掛けてゆきましたから「そるじゃぁ・ぶるぅ」が卵に戻ったことはバレていません。
「…あんた、いつまで隠しておくんだ?」
キース君が尋ねたのは打ち上げで出掛けた焼肉店です。会長さんは「ああ…」と傍らに置いたバスケットの蓋を撫でながら。
「試験終了までは隠し通しておかないとマズイ。ぶるぅがいないのに不思議パワーがあるというのは変だろう? サイオンという名称は出してないけど、サイオンはぶるぅの特権だからね。…敵を欺くにはまず味方から! ハーレイや長老たちといえども知られるわけにはいかないんだよ」
だから今日まで、と卵の入ったバスケットに触れる会長さん。その言葉通り、間もなくやって来た終業式でのこと。恒例の先生方からの御歳暮が発表されて、ブラウ先生が入手方法の説明を…。
「いいかい、全校生徒と教頭先生とのジャンケン勝負だ! 勝ち残った一人が所属するグループが御歳暮をゲットできるのさ。グループの人数は十人まで。まず届け出て、グループ名を書いたブレスレットを装着すること!」
今年の御歳暮は好みの先生一人の引率でマザー農場での特製ステーキ・ディナーコースの豪華版です。私たちも届け出に行ったのですけど、受付係のエラ先生が。
「あら、ぶるぅは? …ああ、風邪なのね、それじゃ名前だけ書いておくわね」
頑張って勝ってあげてね、と渡されたブレスレットには『そるじゃぁ・ぶるぅを応援する会』の文字。えっと、もう隠さなくってもいいんじゃあ? 風邪だなんて…。
『ダメダメ、一般生徒には卵の話は知られたくない。卵に化けるのは問題ないけど、卵から生まれるというのは流石にちょっと…』
あまり驚かせたくないからね、とブレスレットを嵌めようとした会長さんは。
『…やばい、サイオンの検知装置が入ってる。これじゃハーレイの手が読めないよ、人数が減って来たら壇上での勝負になるから引っ掛からない程度のサイオンで読めるんだけどさ…。これはエラたちが思い切り勘違いをしてそうだ。ぶるぅがいないのは戦略だ、って』
「「「戦略?」」」
『シッ、サイオンの存在は極秘だよ? …ぶるぅはぼくの願いから生まれただけあって、距離が離れてても微弱な思念で会話できる。検知装置に引っ掛からない程度の…ね。風邪と称して離れた場所からハーレイの手を読み、ぼくに知らせてくるのは可能』
『なるほど…。それなら確実に勝てるわけだな』
残念ながらそうではないが、とキース君がブレスレットを嵌め、私たちも次々と装着。思念での会話は不可能となり、壇上に立つ教頭先生とのジャンケン勝負も会長さんからの指示は飛んで来ず、会長さん自身も教頭先生の手が全く読めず…。
「「「あ~…」」」
負けちゃった、と全員が溜息をつく中、私たちの中で最後まで勝ち残っていたキース君が自分の席に座りました。敗者は腰を下ろす決まりで、立っているのは勝者のみです。
「すまん、頑張ってはみたんだが…。まあ、俺の場合、壇上まで勝ち残っても勝てる見込みは少ないんだがな」
申し訳ない、と謝るキース君が勝ち進んでもサイオンで教頭先生の手は読めません。会長さんが早々に敗退した時点で私たちは諦めていたんですけど、キース君が意外に強かったので、ちょっと期待を…。そうこうする内にもジャンケンは続き、御歳暮を見事ゲットしたのは三年生のグループで。

「欲しかったなぁ、ディナー券…。ぶるぅもきっと欲しかったよね」
負けてごめんね、とジョミー君がバスケットの中の卵を撫でているのは全てが終わった後のこと。私たちは
「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋で会長さんが買い出しに行ったサンドイッチで昼食中です。
「仕方がないよ、ぼくたちばかりが勝つというのも申し訳ない」
たまには他の生徒にも…、と会長さんが言った所へ。
『ちょっといいかい?』
ブラウ先生の思念が届きました。お邪魔するよ、と壁をすり抜けて入って来たのはブラウ先生だけではなくて、ゼル先生に教頭先生、ヒルマン先生、エラ先生。
「そうか、やっぱり寝ちまったんだね」
いつからだい? とブラウ先生がバスケットを覗き込み、エラ先生が。
「あなたたちが負けちゃったから、これは変だと思ったの。考えてみれば今度のクリスマスで六年でしょ? 卵に戻ってしまったのかも、って」
「…ごめん。隠すつもりは無かったんだけど、普通の生徒の目があるから…。今までと違って」
本当にごめん、と謝る会長さんの肩を教頭先生がポンと叩いて。
「まあ、お前も今は一人じゃないからな。フィシスだけじゃなく、この連中まで揃っているんだ。卵が孵るまで、そう寂しくはないだろう?」
「うん。…実は期末試験の前からなんだよ、ぶるぅが卵に戻ったのはね。クリスマスには起こしてね、って頼まれてたから頑張るつもり」
心配してくれてありがとう、と頭を下げる会長さんに軽く手を振って先生方は帰ってゆきました。クリスマスまであと少し。可愛い願いを叶えるためにも「そるじゃぁ・ぶるぅ」を起こさなくっちゃ~!



 

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