忍者ブログ

シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

献立はお任せ

※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
 バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。

 シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
 第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
 お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv






季節は行楽にピッタリの春。恋の季節とも言いますけれども、シャングリラ学園の特別生として高校一年生をやり続けている私たちには全く無縁の話です。ゆえに休日は揃ってお出掛け、ゴールデンウィークもシャングリラ号で過ごしていたりしたわけですが。
「今度の土日は何処がいいかなぁ?」
ジョミー君が振った話題にみんなが食い付き、放課後の「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋は今日も賑やか。遠出しようとか近場でグルメとか、どんどん盛り上がって来た所へ。
「ぼくはグルメに一票かな?」
「「「!!?」」」
会長さんそっくりの声が聞こえて、優雅に翻る紫のマント。暫く見ないと思っていたのに、来ちゃいましたよ、またソルジャーが…。
「こんにちは。えーっと、今日のおやつは…」
「イチゴのロールケーキだよ! 生地もピンクで春らしいでしょ?」
自信作なんだ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」がソルジャーのためにケーキを切り分け、ソファに腰掛けるお客様。グルメに一票とか言ってましたし、参加する気でいるのでしょう。会長さんが大きな溜息をついて。
「要するに君も来たいわけだね、食べ歩きに? でも好物とは限らないよ?」
「あ、その点なら大丈夫! 地球の食べ物って意外なモノでも美味しいってことが分かったからさ」
「「「は?」」」
意外なモノって、どんな食べ物? いえ、それ以前にソルジャーは何処でそういうモノを? こちらの世界でキャプテンとデートをしていることは確かですから、その時に?
「違う、違う、ハーレイは意外に保守的なんだ。食べる事に関してチャレンジ精神ってヤツは無いみたいだねえ、だから別口!」
「「「別口?」」」
ますます謎だ、と思った途端にソルジャーの口が解答を。
「分からないかな、ノルディだよ。美味しいと評判の店があるけど遠過ぎて、とドライブを兼ねて誘われたわけ。先週の土曜はノルディとデートさ」



「デートだって!?」
しかもドライブ、と会長さんの声が引っくり返っていますけれども、ソルジャーはまるで気にせずに。
「遠いって言うだけあってホントに思い切り遠かったね。お昼御飯を食べに行くだけで一日潰れてしまった感じ。アルテメシアに戻ってきたら夕方だったし、そのままホテルに誘われちゃったよ」
「き、君は…。まさかホテルに……」
「ついて行ったよ、当然だろう? でもって、楽しく」
お泊まりしたのか、と誰もが青ざめましたが、ソルジャーはクスクス可笑しそうに。
「やっぱり勘違いしちゃったんだ? 楽しくディナーを食べただけだよ、色々おしゃべりしながらね。お昼御飯のこととかさ…。美味しかったな、卵かけ御飯」
「「「卵かけ御飯!?」」」
そんなのを食べに遠い所までドライブを兼ねて行ったんですか! 呆れ顔の私たちを他所に、会長さんが。
「ああ、アレかぁ…。海の方だろ、ずっと北のさ」
「そう、それ、それ! 御飯に卵をかけるだけなんて、と思っちゃったし、正直、ガッカリしたんだよ。でも食べてみたら目から鱗で、何杯もお代わりしちゃったわけ」
「かみお~ん♪ あそこ、卵が違うんだよ! 放し飼いだし、地鶏だし! 刻み海苔もパリパリ、おネギも新鮮、お醤油も地元で造ってるしね」
こだわり卵かけ御飯なんだよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。もちろんお米も地元で採れた最高級品、炊き立ての味が素晴らしいそうで。
「ノルディと食べに行ったんだぁ…。なんだか食べたくなってきちゃった」
行きたいなぁ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が呟き、私たちも喉が思わずゴクリと。今度の週末は卵かけ御飯ツアーがいいかもしれません。日帰りせずに何処かで泊まって、海が近いなら海の幸とか。
「卵かけ御飯を食べに行こうよ、みんなでさ!」
ジョミー君の案に私たちはワッと飛び付いたのですが。
「却下!」
会長さんお得意の台詞をソルジャーが。
「ぼくは先週食べちゃったんだよ、それ以外のでお願いしたいな」
「「「………」」」
自分の都合で仕切るんじゃない! と叫べる勇者はいませんでした。卵かけ御飯はドロンと消えてそれっきり。食べたかったな、こだわりの味…。



夢だけ膨らませて瞬時に壊してくれたソルジャー。そのくせにグルメの線は変わらず、何を食べるかと意見を出し合う私たちの横から、ああだ、こうだと。
「うーん、なかなか決まらないねえ? まあ、その気持ちは分かるけどさ」
メニューを出されても悩むもんね、とソルジャーはニヤリと笑みを浮かべて。
「本日はどれに致しましょうか、って渡される時のワクワク感がまた嬉しいんだ。どんなメニューがあるのかなぁ? ってね」
「…君はそれが目当てでノルディとデートをしてるわけ!?」
「誰がノルディとデートって言った?」
「えっ? だって、メニューが出てくる場所って…」
レストランしか無いじゃないか、と会長さんが突っ込みを入れれば、ソルジャーは。
「甘いね、昨夜はすき焼き弁当! お持ち帰りにするかどうかで悩んだんだけど…。そういう機会は滅多にないから、そこは一発、お持ち帰りで!」
「お弁当は普通、持ち帰りだろう? 温めるかどうか訊かれるけどさ」
「うん、温めてもらったよ? もうたっぷりと、蕩けるほどに」
「危なすぎるし!」
耐熱容器にも限界はある、と眉を吊り上げる会長さん。ソルジャーの無茶な注文のせいでお弁当屋さんだかコンビニだかがレンジを掃除する羽目になった上、弁償となれば気の毒すぎです。しかし…。
「温めたのはハーレイだってば、メニューを作った責任がある。それに持ち帰りにしちゃったからねえ、いつもの場所と違うってだけで燃えるものだよ、煽らなくても」
「「「???」」」
何故にキャプテンがメニュー作りを? それも仕事の内なのか、とビックリ仰天の私たち。温める方はソルジャーの分を除いて厨房所属のクルーがやっているのでしょうけど。それにしたって、煽るって、なに? レンジは自動で温まりますし、燃えるとかっていうのも、どういうシステム?



「ふふ、ブルーにも意味が分からないんだ? すき焼きの意味は「好き」の好きだよ、「愛してます」って気持ちをこめて! お弁当の方は、いわゆる駅弁! ノルディに教えて貰ったんだけど、アレって男同士でも出来るものだね、新鮮だったよ」
「退場!!!」
今すぐ帰れ、と会長さんが投げたレッドカードをソルジャーはパシッと受け止めて。
「どうやら君には通じたらしい。そんな感じでメニューが出るのさ、最近の夜の定番なんだよ」
「「「………」」」
そういう意味か、と私たちもそれなりに理解しました。駅弁が何かは分かりませんけど、とにかく大人の時間の言葉。つまりキャプテンがソルジャーに出すというメニューの正体は…。
「ああ、君たちも分かってくれた? お持ち帰りは「ハーレイの部屋で」って意味なんだ。コース料理でお持ち帰りって有り得ないだろ、だから思い切って注文しちゃった」
駅弁にはちょっと狭すぎたかな、と意味不明な言葉を零しながらもソルジャーは満足そうでした。すき焼き弁当、お持ち帰りは素晴らしかったみたいです。
「ちなみに一昨日の夜はフグ尽くし御膳! なんでフグなのか気になって…。ハーレイの思考をちょっと読んでみたら、なかなか素敵なセンスだったよ。こう、口でする時って頬っぺたも含めてフグの顔みたいになる時があるよね、そこからフグでさ。フグ尽くしだけに何回も…」
「退場だってば!!!」
会長さんの怒声もソルジャーにかかれば馬耳東風。悠々とケーキのお代わりを頼み、紅茶も熱々を注いで貰って。
「メニューを出すって、いいアイデアだろ? どんなプレイが待っているのか分からないしね、頼む時からドキドキするわけ。普段と変わらないコースなんかでも「お値打ち! 春のカジュアルフレンチ」と書かれてしまうと盛り上がるしさ」
「…好きにすれば?」
ソルジャーに居座られてしまった会長さんが疲れた声で。
「その発想には脱帽するよ。それともノルディの入れ知恵なのかな…」
「半分はね。ノルディが熱く語っていたのはコースじゃなくて丼だったし」
「「「丼?」」」
なんだソレは、と思わず反応しちゃいましたが、これって墓穴じゃないでしょうね?



エロドクターが熱く語ったという丼。卵かけ御飯なドライブから戻ってホテルで夕食の時に話題に上ったらしいです。エロドクターの夢のメニューだなんて、お金持ちのくせに不思議なような。それとも高級食材を使った珍品でしょうか、一日一食限定とかの…。
「ううん、普通に丼だよ? 親子丼とか他人丼とか。いとこ丼っていうのもあるんだってね」
「いとこ丼に明確な定義は無いよ? そうだよね、ぶるぅ?」
会長さんに訊かれた「そるじゃぁ・ぶるぅ」は料理上手だけに張り切って。
「えっとね、いとこ丼で一番有名なヤツは鴨のお肉なの! 鴨を卵でとじてるんだし、他人丼と全然変わらないよね? 他にもサーモンとイクラを乗っけてあるのとか…。これだと親子丼でしょ?」
イクラはサーモンの卵だもんね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。親子丼は鶏と鶏卵ですから、サーモンとイクラじゃ親子丼です。他人丼も鶏以外のお肉と鶏卵ですし、鴨と鶏卵でいとこ丼は無理っぽいと言うか、こじつけと言うか。
「…なるほど、いとこ丼には決まりが無い、と。それでノルディはいとこ丼でもいいんですが、と言ってたわけか…」
「「「???」」」
エロドクターが食べたいのなら、フォアグラとキャビアでいとこ丼? いやいや、ここはトリュフとツバメの巣だとか、それを言うならフカヒレとツバメの巣だとか、意見が飛び交ったのですけれど。
「どれも見事に大ハズレってね。…ノルディの希望は他人丼か、いとこ丼! 親子丼は親子セットでポピュラーだけど、ぼくとブルーは親子ではないし、血縁関係も無いからねえ…」
「退場!!!」
今度こそ本当に出て行ってくれ、と怒鳴る会長さんは怒り心頭。でも、他人丼だの、いとこ丼だのの、何処が悪いの?



「やっぱり知らない? ぼくも初めて聞いたんだけどさ、親子をセットで食べちゃうことを親子丼って言うらしいんだよ。つまり、お母さんと娘を一人で美味しく頂くって意味」
「「「!!!」」」
そこまで聞いたら分かりました。大人の時間の世界です。そんな世界に親子丼なる隠語があろうとは…。ということは、エロドクターが食べたがっている他人丼だか、いとこ丼だかは…。
「そうだよ、ぼくとブルーを一度に食べるのが夢らしいんだ。文字通り二人揃えて一つのベッドで三人で…ってね。これがホントの他人丼、もしくはいとこ丼だってさ」
「……き、君は……。そういう話題で盛り上がったわけ、ノルディなんかと!?」
「別にいいだろ、盛り上がるくらい! でもってノルディは他人丼だとヤバイかもだから、いとこ丼にしておきましょうか……とも話してたねえ」
「どっちにしたって、おんなじだよ!」
どう転んでも他人でしかない、という会長さんの指摘に、ソルジャーは。
「そこは実際、そうなんだけどさ…。ウッカリ他人と定義しちゃうと、余計な誰かとセットになるかもしれませんしね、と笑っていたよ。ぼくとハーレイなら夫婦ってことで他人じゃないけど、こっちのハーレイはブルーともぼくとも赤の他人だ」
「「「………」」」
それはスゴイ、と誰もが絶句。エロドクターが会長さんとソルジャーを食べたがるのは分かりますけど、そこに教頭先生が紛れ込んだら食中毒を起こしそうです。安全なのはいとこ丼かな、と思ってしまった自分にショック。丼、やっぱり墓穴でしたよ…。



「というわけでね、ノルディが語った丼の世界は深かったわけ」
それをヒントに夜のメニューを思い付いた、とソルジャーは得意そうでした。キャプテンに親子丼やエロドクターの夢のいとこ丼を語って聞かせて、二人で感動しまくった末に出来たのが夜のメニューなのです。
「ハーレイが書いてくるメニューを見ながら質問するのも楽しいよ? 料理長おすすめとか、シェフの気まぐれとか、そういうヤツもあるからね。今日はどういうシチュエーションだい? って訊く瞬間からドキドキだってば!」
癖になりそう、とメニュー効果を喋りまくっているソルジャーは当分の間、キャプテンを自分専属の夜のシェフにするみたいです。大人の時間でも「ぼくは食べる方」と主張するのがソルジャーですけど、これじゃ料理されて食べられる方になっているのでは…?
「そう、君たちの思考は正しい」
会長さんの凛とした声がソルジャーの喋りを遮って。
「万年十八歳未満お断りでも矛盾に気付いたみたいだよ? 君は普段と同じ調子で君のハーレイを食べてるつもりで、実は食べられている方だ…ってね。ぶるぅのママの座は君のものかな?」
「ちょ、ちょっと…! ぶるぅのママはハーレイだし!」
「その辺は揉めるから譲歩してもいい。でも、食べられているのは事実だ。君のハーレイは君を料理して食べるためのメニューを書いてるんだよ、毎日ね」
「えーーーっ???」
そうなるわけ? と混乱しつつも、ソルジャーは夜のメニューを撤廃する気は無いようです。せっかく見付けた素敵な夜のセレモニー。食べ飽きるまでは食べてなんぼ、と開き直ったらしくって。
「いいんだってば、ハーレイを食べるのはぼくだから! 食べられてる方じゃないわけだから!」
「そうかなぁ? 駅弁といい、フグ尽くしといい、どう考えても食べられてるけど?」
君のハーレイのお好みで、とヤケクソ気味の会長さん。猥談の域に入りつつある会話を自分から振り、火に油という状態です。もはや本物のグルメの話は消し飛び、私たちは溜息をつくだけで。
「ああ、たった今、そういう話を思い出したよ」
会長さんがソルジャーをビシッと指差して。
「食べるつもりが食べられていた、っていう君にそっくりの話をね。正確に言えば食べられる前に気付くんだけどさ、その直前まで食べる気満々で飛び込んで行った馬鹿のお話」
「「「???」」」
そんなお話、ありましたっけ? 首を傾げる私たち七人組とソルジャーの前で会長さんが宙に取り出したものは絵本でした。タイトルは『注文の多い料理店』。ああ、この童話なら知ってます! 確かに食べるつもりで食べられる話、未遂で終わっていますけど…。
「これが?」
「君みたいな馬鹿の話だってば、すぐに読めるから読んでみたら?」
どうぞ、と渡された絵本を紅茶をお供に開いたソルジャー。パラリ、パラリとページをめくって最後まで読み、また最初から読み直しています。もしかして意味が分からないとか? 別の世界に住む人ですから、そういう事態も有り得るかも…。えっ、またしても最初から? そんなに難解な本でしたかねえ、『注文の多い料理店』…。



ソルジャーが読み終えて本を閉じるまでには半時間以上かかっていたかもしれません。難しすぎたか、などとコソコソ囁き合っていたのも耳に入ってなかったかもです。
「…短いけれども、面白いね、コレ」
顔を上げたソルジャーは絵本の表紙を撫でながら。
「まさに天啓というヤツかな? 食べたい気分になってくるよね」
「「「………」」」
何を、と訊き返す勇気は誰も持ち合わせていませんでした。心の中でタラリ冷汗、会長さんも顔が引き攣っています。これがホントの藪蛇でしょうか、ソルジャーが食べたい気分なのは…。
「知らない間に食材ポジションにされていたのは悔しいし…。そりゃ食材でも満足させては貰ってるから、今のままでも充分だけどさ…。やっぱり食べなきゃ損だよねえ? ぼくだけのために思い切り美味しく調えられたハーレイを!」
うわぁ、という悲鳴は誰が発したものだったのか。会長さんは頭を抱え、私たちはパニック状態です。あれ? でも、ソルジャーがキャプテンを食べるとしても別に被害は無いわけですし…。それって普段と変わりませんよ?
「そうか、そう言えばそうだった…」
ぼくとしたことが、と立ち直りをみせた会長さんと、座り直した私たちと。延々と猥談を聞かされたせいで勘が鈍っていたようです。ソルジャーが自分の世界で何をしようと対岸の火事どころか彼岸の火事。早く帰ってキャプテンを美味しく食べてくれ、と誰もが祈っていたのですが。
「この本に出会ったのも何かの縁だと思うんだよね。ノルディから丼についての講義も受けたし、いとこ丼を食べるのもいいんじゃないかと…。ハーレイは二人いるんだからさ」
「「「えぇっ!!?」」」
とんでもない台詞を口にしたソルジャーはウキウキと。



「憧れてたんだよ、三人でってヤツ! だけどハーレイと結婚してから、憑き物が落ちたように忘れちゃってて…。この機会に是非、チャレンジしたいね。ただ、ぼくのハーレイはぼくを二人でシェアすると分かると萎えちゃうだろうし…。こっちのハーレイもブルーじゃないと萎えちゃうし…」
そこでこの本の出番なのだ、とソルジャーはニッコリ悪魔の微笑み。
「ぼくのハーレイとこっちのハーレイ、二人揃って来てもらう。ぼくのハーレイが食べるのはぼくで、こっちのハーレイが食べるのはブルー! それなら萎えずに辿り着けるし!」
そこで美味しく頂くのだ、と燃え上がってしまったソルジャーの瞳は絵本の挿絵でギラギラと光る山猫の目玉のようでした。キャプテンどころか教頭先生まで食べてしまおうとは、恐ろしすぎる展開です。あまつさえ、食い意地が張ったソルジャーは…。
「同じ食べるなら味付けを変えてみるのもいいかもね? 逞しく男らしさに満ちたハーレイと、とろけるように甘いハーレイ! うん、どっちも食欲をそそってくれるよ」
この本みたいにやってみたい、と言い出したソルジャーが挙げたプランは絵本さながらの味付けと風味。何度も何度も読み返していたのはアイデアを練るためだったのか、と気付いても既に後の祭りで。
「それじゃ、ぼくのハーレイには、ぼくから話を通しておくから! 君はこっちのハーレイに招待状を出すのを忘れないでよ、君の名前で愛をこめて…ね。週末を楽しみにしているよ。さてと、今夜のメニューは何かな?」
今夜もハーレイに食べられてくる、とウインクをしてソルジャーは帰ってゆきました。春の恵みだか、シェフの饗宴だか、はたまた料理長美食スペシャルだか。何が飛び出しても不思議ではないキャプテン作のメニューですけど、ソルジャーが企画した料理店の方が何百枚も上手ですってば…。



ソルジャーがキャプテンと教頭先生を平らげるための計画、注文の多い料理店。会長さんの家が舞台に選ばれ、土曜日の朝早くから招集された私たち七人組と会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」、それにソルジャーとで開店準備を頑張って。
「……レストラン、タイプ・ブルー……」
教頭先生が玄関の扉に取り付けられた看板に頬を染める姿を、私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」のサイオン中継で家の中から見ていました。会長さんが教頭先生に出した招待状に書いた言葉はソルジャーの指示で決まった『ぼくを食べに来てよ』の殺し文句です。
「素晴らしいシチュエーションでしょう?」
最近これに凝ってましてね、とキャプテンが教頭先生の肩をポンと叩いて。
「毎晩、メニューを作るんですよ。今夜はこんな料理が出来ます、とブルーに渡すと非常に喜んでくれましてねえ…。たまにはお返しに御馳走したい、と考えてくれたのがこの企画です」
「そうでしたか。なかなかに味わいのあるものですねえ……」
男心をそそられます、と返す教頭先生、日頃のヘタレは何処へやら。いえ、自分の家では妄想まみれで夜を過ごしてらっしゃるのですし、会長さんの視線が無ければヘタレないのかもしれません。
「では、入りますか」
「入りましょう!」
キャプテンと教頭先生は頷き合って扉を開き、中へと足を踏み入れました。玄関ホールから奥へと続く通路の手前には私たちが設置した扉。教頭先生は首を傾げて。
「…此処に扉は無かったように思うのですが…」
「おや、張り紙がありますよ? 先にシャワーを浴びて下さい、と」
「なるほど、それは当然のマナーでしたね」
ブルーに嫌われる所でした、と教頭先生が張り紙に感謝し、二人は壁に張られた矢印に従ってバスルームへ。その間に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が瞬間移動で二人の服を隠してしまい、代わりに置かれたのはバスローブです。
「おや? 服が見当たらないようですが…」
「バスローブが置いてありますよ。ブルーも待ち切れないようで…」
せっかちですね、とニヤニヤしながらキャプテンがバスローブを纏い、教頭先生も同様に。二人とも気分が高揚してきたらしく、ズンズンと元の廊下を進みましたが。



「また扉ですか?」
「待って下さい、此処にも張り紙が。…ほほう、どちらになさいます?」
バターかオリーブオイルだそうですよ、と楽しげなキャプテンの視線の先には小さなテーブル。壺が二つ置かれ、「バターの方と、オイルの方と、各一名様でお願いします」のダメ押しの文字が。
「どうしてバターなのでしょう? オリーブオイルも気になりますが…」
首を捻っている教頭先生に、キャプテンが「さあ?」と考え込んで。
「全身に塗れ、と書いてありますしね…。ボディーローションの代わりなのでは?」
「言われてみればそうですね。エステティシャンらしからぬ失言でした、忘れて下さい。無塩バターとオリーブオイルには美肌効果があるんですよ」
「では、私はバターにしてみましょうか。ブルーはお菓子が大好きですし」
「それなら、私はオリーブオイルで。男らしさをアピール出来そうな気がします。御存知ですかね、その昔、オリンピックという名の競技会では全裸で競い合ったんです。オリーブオイルだけを塗りましてね」
選手になった気分ですよ、とオリーブオイルを全身に塗りたくる教頭先生。その隣ではキャプテンが無塩バターを塗り込んでいます。バスローブとは此処でサヨナラ、二人は奥へズンズンと。
「…また扉ですか…」
「例によって張り紙がありますよ? 今度はハーブと蜂蜜だそうです。これも全身にまぶすようですね。おや、あなたにピッタリのハーブなのでは?」
勇気の象徴のタイムだそうです、とテーブルに乗った壺に添えられたメモを示すキャプテン。教頭先生は嬉々としてタイムの香りのアロマオイルを全身に振り掛け、キャプテンの方は蜂蜜を。
「…蜂蜜とは妙じゃないですか?」
教頭先生の疑問に、キャプテンはケロリとした顔で。
「蜂蜜プレイがしたいのでしょう。無塩バターを選んでおいて正解でした。あなたがいきなり蜂蜜プレイは、失礼ながらハードルが少し高すぎるかと…」
「そ、そうですね…」
ウッと呻いて鼻の付け根を押さえる教頭先生。辛うじて鼻血は出なかったらしく、勇気の香りのタイムを纏ってキャプテンと並んでズンズンズンと。いよいよ最後の扉です。私たちはシールドで隠れて扉の前に潜んでいるため、もう中継は要らないのですが…。



「この奥がブルーの寝室ですよ」
緊張しますね、と頬を紅潮させている教頭先生の大事な部分にはしっかりモザイク。キャプテンもモザイク、どちらも会長さんのサイオンの力によるもので。
『来ちゃったよ…。この勢いだとブルー相手でもヤッちゃうかもね』
会長さんの嘆きも知らず、教頭先生の大事な部分は臨戦態勢らしいです。キャプテンも同じらしいですけど、扉の張り紙を見詰めながら。
「蜂蜜とハーブをよく塗りましたか、肝心の部分にも塗りましたか…、だそうです。蜂蜜プレイで決まりですね。私としたことがウッカリしておりましたよ、此処が一番大切ですのに」
肝心の場所に塗り忘れました、とテーブルに置かれた壺の中身を塗り塗り塗り。教頭先生も忘れていたようで、慌ててアロマオイルを振り掛けて…。
「うっ…!」
「どうなさいました?」
「い、いえ、先に行って下さい! わ、私は少々…」
「おやおや、我慢し切れませんか…。しかし、ブルーが焦れてしまいますよ?」
もう少し辛抱出来ませんか、とキャプテンが声を掛けた時です。
「待ち切れないってば、本当に!」
扉の向こうで待ち構えていたソルジャーの声が響きました。
「早く食べたくて待ってるんだよ、そのまま真っ直ぐ突っ込んで来てよ!」
「「………」」
素っ裸の二人は顔を見合わせ、扉の向こうを伺いながら。
「……ブルー……ですか?」
「…ブルー…ですね……」
まさか一人しかいないのでは、と青ざめる二人。
「わ、私は一生、ブルーだけと決めておりまして…。この展開は…ちょっと……」
「わ、私も私の大事なブルーをあなたとシェアしたいとは思いませんが…」
きっともう一人いるのですよ、と互いに勇気を奮い立たせて扉を開けようとした所で。



「かみお~ん♪ 凄いや、絵本そっくり!」
「シッ、ぶるぅ!」
会長さんが大慌てで「そるじゃぁ・ぶるぅ」の口を両手で塞ぎましたが、二人分の声はシールドを突き抜け、キャプテンと教頭先生の耳に。
「い、今の声は…?」
「…ぶるぅのようです。そしてブルーの声もこちらで」
「ということは、やはり扉の向こうには…」
一人だけしかいませんね、と二人の腰は引け気味になり、我慢がどうのと限界だった教頭先生も一気に萎えてしまったようで。
「そ、そういえば…。絵本そっくりで思い出しましたが、今の私たちに瓜二つの話がありまして…」
「どんな話です?」
「レストランに入ると次々に注文をつけられるんです。クリームを塗れとか、塩を揉み込めとか」
「クリームと塩…。それは身体にいいのでしょうか?」
美肌効果があるのですか、と怪訝そうなキャプテンに教頭先生は声を潜めて。
「そういうオチならいいのですがね、この話の最後で待っているのは山猫なんです。クリームと塩とで味付けをした人間をペロリと食べてしまうべく、ナイフとフォークを…」
「で、では、その話そっくりということは…」
「恐らく食べられる運命かと…。食べに来たつもりが、ブルーにペロリと」
それもあなたのブルーにです、と震え上がった教頭先生、一目散に元来た道を玄関へと。
「ブルー、私が悪かった! これは決して浮気ではーっ!!!」
騙されたんだ、と素っ裸で逃げ出した教頭先生のパニックぶりはキャプテンにも伝染したらしく。
「す、すみません、ブルー、シェアする気は…! 決してあなたをシェアしようとは…!」
本当にすみませんでした、とオタオタしながら逃げるキャプテンの背後で扉が開いて。
「なんで逃げるのさ、ハーレイのヘタレ!!!」
待ちぼうけを食らったぼくの立場は、とバスローブ一枚で叫ぶソルジャー。教頭先生とキャプテンの逃げ足は更に速くなり、ダッシュで玄関の扉を開けて飛び出して行ってしまいました。最上階のフロアが会長さんの家だけで良かったです。でないと通報モノですってば…。



「えと、えと…。ぼくって、失敗しちゃった?」
シールドを張ってたと思うんだけど、とガックリ項垂れる「そるじゃぁ・ぶるぅ」。目の前で展開される絵本の世界にワクワクしすぎてシールドが緩んだらしいのです。小さな子供にはありがちなだけに、責めても可哀想というもので。
「いいんだよ、ぶるぅ。どっちかと言えば殊勲賞だし!」
ブルーの野望を間一髪で食い止められた、と会長さんが銀色の頭をクシャリと撫でれば、ソルジャーが唇を尖らせて。
「…食べ損ねちゃったぼくはどうなるのさ! 男らしいハーレイと甘いハーレイ、二人揃えて前も後ろもって思ってたのに! どっちを前にしようかなぁ、って悩みながら待っていたのにさ!」
二度とこういうチャンスは無さそう、と脹れっ面のソルジャーですが、私たちの方はホッと一息。
「よくやった、ぶるぅ。お蔭で俺たちは命拾いだ」
「そうですよ。ぼくたちじゃ、とても叫ぶ勇気はありませんしね」
キース君とシロエ君に褒められ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は元気が出てきたみたいです。
「よかったぁ! えっとね、もうすぐお昼だし…。何か食べたいものはある?」
「俺、ラーメン!」
サム君が元気よく手を挙げ、マツカ君が。
「レストランっぽくない料理がいいですね。コロッケなんかどうでしょう?」
「いいわね、キャベツをたっぷり添えて!」
レストランのショックは忘れるべきよ、というスウェナちゃんの意見にソルジャー以外は全員賛成。今日のお昼はシャングリラ学園の学食っぽくなりそうです。



「…そうか、学食…」
それもハーレイに教えなくっちゃ、とソルジャーは悔しそうにブツブツと。
「レストラン計画は壊れちゃったし、残るは毎晩のメニューだけ…。バリエーションを増やすためにも学食メニューを取り入れよう。あそこって何があったかな?」
「ゼル特製とエラ秘蔵だよ」
会長さんは即答でした。ソルジャーが目を丸くして。
「そ、それは確かに知ってるけどさ! そんなメニューをどうしろと!?」
「そのまま使えばいいだろう? シャングリラ学園の食堂自慢の隠しメニューはゼル特製とエラ秘蔵! これをメニューに取り入れられたら、それでこそ一流のシェフってね」
君の専属シェフなんだろう、と会長さんはニッコリと。
「ぼくは猥談は好みじゃないし、この子たちも万年十八歳未満お断りだからレッドカードを出している。だけど、ゼル特製とエラ秘蔵だけは除外にしよう。君のハーレイが編み出した時は是非、詳細な報告をお願いするよ」
謹んで五つ星を贈呈するね、と会長さんに鼻で笑われ、ソルジャーは奥歯をギリギリギリ。
「…ゼル特製とエラ秘蔵……。ハーレイの頭を坊主に剃ったらゼル特製でいけるかも…。ああ、でも、そんなの笑えるだけだし! 旨味が全く無いプレイだし!」
ましてエラ秘蔵なんてどうしろと、と呻くソルジャーのメニューごっこは当分続きそうでした。それは全く構いませんけど、気の毒なのは今日の犠牲者二名です。えーっと、そろそろ入れてあげたら? まだ真っ裸で玄関の外って、あまりにも悲惨すぎますよ~!




                             献立はお任せ・了


※新年あけましておめでとうございます。
 シャングリラ学園番外編、本年もよろしくお願い申し上げます。
 このお話はオマケ更新ですので、今月の更新はもう一度あります。
 次回は 「第3月曜」 1月20日の更新となります、よろしくお願いいたします。 

 そしてハレブル別館の方に転生ネタな 『聖痕』 をUPいたしました!
 こちらもどうぞよろしくです。
 ハレブル別館へは、TOPページに貼ってあるバナーからお入り下さいv
  ←こちらからは直接 『聖痕』 に飛べます。
 毎日更新の場外編、 『シャングリラ学園生徒会室』 にもお気軽にお越し下さいませ~。


毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
 こちらでの場外編、1月はソルジャーが姫はじめを頑張っているようですが…。
 ←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv





PR
Copyright ©  -- シャン学アーカイブ --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]