シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
今年の学園祭も盛況だったサイオニック・ドリームが売りの喫茶『ぶるぅの空飛ぶ絨毯』。初めて開催された年から同じ店名を使い続けて毎年人気を博しています。普段は入れない「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋と世界のあちこちへ旅するサイオニック・ドリーム、行列の出来る定番で。
「かみお~ん♪ 今年も凄かったね!」
お客様が一杯だったよ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。学園祭が終わった翌日の放課後、すっかり元通りになった「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋では会長さんが会計ノートをチェックしながら。
「うん、値上げの影響も全く無し! 来年はもっと上げてもいいかもね」
「あんた…。良心価格ってヤツはどうした!」
学園祭の出し物なんだぞ、とキース君が顔を顰めましたが、会長さんは。
「別にいいじゃないか、学校にはちゃんと届け出してるし…。この値段でもかまいません、と許可が下りたということはさ、それが適正価格なんだよ。良心どうこうは関係ない」
「しかしだな…!」
「そもそも最初に始めた年から観光地価格でぼったくりじゃないか。それでもクチコミで大評判! 今はサービスも向上してるし、より高くなるのは仕方ないよね」
オプショナルツアーもあるんだからさ、と涼しい顔の会長さん。いつの間にやらサイオニック・ドリームでの旅にはオプショナルツアーが出来ていました。割増料金でバージョンアップが出来るのです。普通なら景色を見物するだけですけど、遊覧飛行になっちゃったり。
「オプショナルツアーはサイオニック・ドリームを操る方にも技量が要る。特殊技能が必須の作業は工賃が高くなるのが相場だろ?」
「…あんたにとっては朝飯前の作業だったと思ったが?」
「まあね、ダテにソルジャーはやっていないさ。でも君たちには出来ない技だし…。ゼルたちだって分かってるから値段に文句は言えないんだよ」
お蔭で今年も儲かった、と会長さんは上機嫌です。お金に不自由はしていないくせに儲けたがるのが会長さん。教頭先生から毟り取る日々も続いていますし、言うだけ無駄というものでしょう。と、お部屋の中に携帯端末の着信音が。
「おっと…。誰かな?」
会長さんが端末を取り出し、着信メールを確認するなりサクッと削除。
「…ゴミだった」
「「「は?」」」
ビックリ仰天の私たち。会長さんの端末はソルジャー仕様になっています。セキュリティなどは完璧ですし、迷惑メールが来たなんてことは一度も無かった筈ですが…?
「たまには紛れて来ることもあるよ。君たちがいる時に来ないだけでさ」
なんだ、そういうものですか! ソルジャー仕様というだけで凄いモノだと思ってましたし、そんな会長さんのメールアドレスを知っている私たちも特別なんだと偉くなった気分だったのに…。
「えっ、君たちは特別だよ? 仲間全員にアドレスを教えちゃいないってば」
そんなことをしたら大変だ、と会長さん。お正月の「あけおめメール」で大惨事になる、と言われてみればそのとおり。恐らく全員が送るでしょうし…。
「というわけでね、ぼくのアドレスは一部の人しか知らないさ。いざとなったら思念波ってヤツがあるだろう? 発信源も一発で分かって安全、確実、しかも迅速!」
「あー、そっか!」
やっぱりアレが一番なんだね、とジョミー君。思念波は本当に便利です。私たちも電話やメールの代わりに使える程度には上達しました。でも、そこからの成長は全く見られないまま、今に至っているわけで。
「ブルーみたいな瞬間移動とか、いつ出来るようになるのかなぁ…。ぼくも一応、タイプ・ブルーなのに…」
「お前の場合は努力不足だ!」
キリキリ頑張って修行しろ、とジョミー君の肩をガシッと掴むキース君。
「ついでに仏道修行もどうだ? 来年度の専修コースなんだが、願書の締め切りはまだなんだよな。寮に入って仏の道を…」
「嫌だってば!」
絶対嫌だ、とジョミー君がギャーギャー喚く姿も今やすっかりお馴染みです。いつ諦めて専修コースに入学するかをシロエ君たちと密かに賭けているとは、口が裂けても言えませんねえ…。
学園祭が済むと季節は冬へと一直線。今年は寒くなるのが早くて、学園祭のフィナーレを飾った後夜祭から急激に冷え込んでしまいました。それから後は日々、寒くなる一方で。
「今日からホットココアもあるよ! 寒くなったし!」
温かいお菓子の季節だよね、と今日の放課後は「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作ってくれた焼き立てのチーズスフレでティータイムです。遅れてやって来た柔道部三人組は熱々のラーメンをガッツリ掻き込んでからデザート感覚でスフレの時間。お菓子は別腹、いくらでも入るらしくって。
「これが出てくると冬だなあって思いますよね」
ラーメンもですけど、とシロエ君。暑い季節は柔道部三人組のために出される軽食は粉モノ中心になっていました。お好み焼きとかタコ焼きだとか、夏の屋台でも定番になるメニューです。
「確かに冬だな、週末は寒波が来るらしいぞ。俺が道場に出掛けた年も寒かったが…」
今年も寒い冬になりそうだ、とキース君が熱いコーヒーを啜った所で携帯端末の着信音が。会長さんが端末を取り出し、不愉快そうに操作して元のポケットに戻しています。
「またゴミか? あれから毎日来ているぞ」
キース君が尋ねれば、サム君が。
「それ、着信拒否とか出来ねえのかよ? もしかして無理とか?」
「うーん…。残念ながらソルジャー仕様なものだから…。迷惑だから、って拒否にしちゃうと万一の時に困るしねえ…」
「でもよ、まるで関係ねえヤツなんだろ?」
拒否しちまえよ、とサム君が言い募る横から、シロエ君が「でも…」と人差し指を顎に当てて。
「その機能自体が無いって仕様じゃないですか? ほら、会長は一応、ソルジャーですから…。仲間からのSOSなら無条件で駆け付けないとダメだとかっていうのがありそうですよ? こいつキライ、って理由で見捨てたりとかが出来ないように着信拒否は不可能だとか」
「…流石、シロエは鋭いね。キースをライバル視するだけあってさ。お察しの通りの事情だよ、うん。ゴミといえども着信拒否は出来ない仕様さ」
不愉快だけど毎回削除、と会長さん。そんな面倒な仕様でしたか、ソルジャー専用の端末は! 一度迷惑メール業者に引っ掛かったら当分は届くみたいです。…あれ? でも、その辺のセキュリティー対策は万全なんじゃあ…? キース君も其処に気付いたらしく。
「おい。ソルジャー専用ってヤツのセキュリティー仕様はザルなのか? その辺の業者が送り付けるメールを弾くサービスは俺たちのヤツにも有るわけなんだが…。あんた、まさか仲間からのメールをゴミだとか言っていないだろうな?」
「仕方ないだろう、ゴミなんだから!」
ゴミと言ったらゴミなんだ、と会長さんは主張しましたが、その翌日の放課後に再び着信音が鳴り、メールチェックをしようとした会長さんの手からキース君が素早く端末を。
「あっ!」
「うるさい、チェックするだけだ。…おい、何処がゴミだ!」
キース君が私たちにも見えるように掲げた端末の画面には未開封メールが1件というマークと差出人の名前が表示されていました。キャプテン・ハーレイ……。えっ、キャプテン・ハーレイって教頭先生どころかシャングリラ号のキャプテンの方じゃないですか!
「か、会長…。それって、思い切り緊急連絡なんじゃあ……」
シロエ君が口をパクパクとさせ、キース君が。
「いや、毎日削除していやがっただけに、緊急性は無いんだろうが……重要性はあると見た。あんた、会議でもサボるつもりか? それともシャングリラ号への乗船拒否か?」
「それなら別口で連絡が来るさ、ゼルとかからね。メールだなんて面倒な手段は通り越してさ、家に直接押し掛けてくるとか、この部屋にズカズカ踏み込むとかで」
だから削除してかまわないのだ、と会長さんは端末を取り返そうとしたのですけど。
「あんたの言う事は信用出来ん! ソルジャーが速やかに任務を遂行しないなら、気付いた仲間が報告するのが筋だよな? とりあえず用件をチェックさせてもらう」
操作手順は俺たちのと変わらない筈だ、とキース君は会長さんの端末を手早く操作しましたが。
「…な、なんだと……?」
「だから言ったろ、ゴミなんだって!」
「なになに、教頭先生、何って?」
ゴミって何さ、とジョミー君がキース君の手元を覗き込むなり、目を丸くして。
「えーっと…。これって何…?」
「そのまんまだよ、読んであげようか?」
貸して、とキース君から端末を奪い返した会長さんはスウッと息を吸い込むと。
「良かったら私の車で帰らないか? 家まで送ろう。最後にハートの絵文字つきだ」
「「「えぇっ!!?」」」
「来ちゃったらしいね、ハーレイのモテ期。いや、発情期と言うべきか…」
一方的にモテ期と思い込む時期が、と溜息をつく会長さん。教頭先生のモテ期って……なに? 発情期は文字通りでしょうけど、メールとどういう関係が…?
教頭先生のモテ期という言葉は初耳でした。モテ期とくれば「モテる時期」ですが、一方的に思い込んでのモテ期というのが分かりません。首を傾げる私たちに向かって、会長さんは。
「ハーレイは本来、どうしようもないヘタレだというのは知ってるよね? そのせいもあって未だに童貞なんだけど…。たまにスイッチが入るんだ。頑張ればいける、自分がモテない筈が無い…って思い込んじゃって熱烈にアタックしてくるわけ」
「…そうだったのか?」
普段とお変わりなく見えるのだが、とキース君が怪訝そうに言えば、会長さんは大袈裟に肩を竦めてみせて。
「普段のハーレイだったらともかく、モテ期の時には強気なんだよ。自分に絶大な自信があるから、
毎日メールを抹殺されても気にしない! 自信に溢れているわけだからね、心の方も至って平穏、周りの人間が不審に思うような態度は取らないさ」
そしてアタックを繰り返すのだ、と会長さん。
「覚えてないかな、君たちが普通の一年生だった時の夏休み! マツカの山の別荘に行った時にさ、持ち込んで見せたと思うけど? ハーレイにプレゼントされたベビードールを」
「「「あーーーっ!!!」」」
思い出した、と誰もが悲鳴。ジョミー君が「これを着たあなたを見てみたい」と書かれたカード付きで渡されて騙され、スケスケの青いベビードールを着てましたっけ。あまりにも昔のことで綺麗サッパリ忘れてましたが、教頭先生が会長さんに贈ったものだと聞かされたような…。
「やっと分かったみたいだね。いつものハーレイには絶対出来ないプレゼントだ。あれがモテ期の副産物! そして現在、ハーレイはモテ期の真っ最中。スイッチが入った理由は多分、寒ささ」
いきなり寒くなっちゃったから、と会長さんは早過ぎる冬の到来を恨んでいます。
「ぼくと一緒に住む日を夢見て家族持ち用の大きな家に住んでるからねえ…。寒さがひときわ身に沁みるんだよ、でもって一緒に住みたくなる、と。それが無理でもせめて一緒に帰りたい、と思う気持ちが例のメールだ。一人寂しく車で帰るのは侘しいらしい」
冬は日暮れも早いから、とモテ期到来に頭を痛める会長さんの家にはプレゼントも届いているのだそうです。朝一番で立派なフラワーアレンジメント、夕食の頃には真紅の薔薇の花束。もちろん会長さんに着て見せて欲しいガウンや夜着もドッカンと。
「…そのチョイスがまた信じられないセンスでさ…。こんなエロイのが何処にあったんだ、と目が点になるような下着とセットで届いたりするし、もう毎日が地獄の日々」
端から処分してるんだけど、と会長さんは疲れた顔で。
「一度モテ期に入ってしまうと、迂闊に手出しが出来ないんだよ。自分に都合のいい方向にしか解釈しないし、下手に怒れば火に油なわけ。照れてるんだと思われちゃってさ、更にアタックが熱烈に」
「「「………」」」
それはどうにもならないだろう、と言われなくても分かりました。モテ期とやらが過ぎ去るまでは毎日のように迷惑メールが来るのでしょう。差出人がキャプテンなだけに着信拒否は出来なくて…。
「そこなんだよねえ、困るのは…。ぼくの端末でも着信拒否の設定は一応、出来る。だけどハーレイの個人名なら拒否は出来てもキャプテンの方は無理なんだ。…シロエが言ってたような理由で」
「うっわー…。教頭先生、それを知っててキャプテンの方で出してくるわけ?」
ジョミー君がポカンと口を開け、マツカ君が。
「公私混同じゃないですか、それ…」
「そうなんだけどね、どうにもこうにも。…ゼルとかに通報するって手段もあるけど、それをやっちゃうと今後のオモチャが…」
「「「オモチャ?」」」
「うん。ハーレイは基本、ぼくの楽しいオモチャなんだと言ってるだろう? モテ期だからって通報しちゃうと厳しい処置が取られそうでさ。…ハーレイがぼくの半径数メートルとかに接近したら、ゼルの所でアラートが鳴るとか」
そんな仕様にされてしまったら遊べない、と会長さん。えーっと、教頭先生をオモチャにしたいから、今は耐えるというわけですか?
「まあね。…今回のモテ期がどのくらい続くか分からないけど、変に動いてストーカー禁止みたいな形にされたら困るだろう? オモチャにしたくても出来なくなるし、お金も毟り取れないし…。とにかく今は耐えるのみ!」
その内にモテ期も終わる筈、と会長さんがグッと拳を握った時です。
「…なるほど、モテ期だったんだ?」
「「「!!?」」」
あらぬ方から声が聞こえて、一斉に振り返る私たち。フワリと紫のマントが翻り、そこにソルジャーが立っていました。教頭先生のモテ期だけでも大概なのに、ソルジャーまで来ちゃったんですか! 今日は厄日と言うかもです。三隣亡で仏滅、おまけに十三日の金曜日とか…?
「言われてみれば金曜日だねえ、十三日じゃないけどさ。…ぼくが来ただけで厄日だって?」
そう思った人が大多数、と私たち全員を見回しながらソルジャーは空いていた場所にストンと腰を下ろしました。
「ぶるぅ、ぼくの分のおやつもある? スフレは時間がかかりそうだけど」
「えとえと…。20分くらい? 待ってる間に食べるんだったら栗のパウンドケーキがあるよ!」
お代わりに出そうと思ってたんだ、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大皿を持ってきて手早く切り分け、ソルジャーは見事に居場所を確保。御注文のチーズスフレもオーブンに入ったみたいです。
「ありがとう、ぶるぅのお菓子は最高だしね。で、ハーレイのモテ期だけどさ…。最近、随分と大胆だなぁって感心してたら、一種の発作?」
「一言で言えば発作かな。迷惑この上ないけどね」
見ていたんなら分かるだろう、と会長さんはブツブツと。
「もっと症状が悪化してくると待ち伏せ攻撃が始まるんだよ。出待ち入り待ちってヤツじゃないけど、限りなくアレに近いかな。花束を持って家の玄関の前に立つわけ。…なにしろ相手がハーレイなだけに、管理人さんも入口のドアを開けちゃうからね」
「「「………」」」
それはストーカーに近いのでは、と私たちは目を白黒。ただし待ち伏せの段階まで来るとモテ期の終わりも近いのだそうで。
「花束攻撃を無視し続けると、最後は強引に押してくるんだ。私の気持ちを受け取ってくれ、って百本くらいの真紅の薔薇を抱えてさ。押し付けられたヤツをバシッと床に叩き落として、足でグシャグシャに踏み付けてやると涙目になる。そしてガックリ肩を落として正気に戻るという寸法」
あんまりやりたくないんだけれど、と会長さん。花を踏みにじる時に良心が咎めるらしいのです。
「花だって命があるだろう? 切ってしまったのは人間だしねえ、飾ってあげずに踏むというのは…。それに散華ってヤツもある。花を踏み潰すと散華を足蹴にしてるみたいで気分が良くない。…だけどハーレイを正気に返すためだし、後でひたすら南無阿弥陀仏さ」
懺悔の気持ちで五体投地、と語る会長さんは花束を踏み潰した後で南無阿弥陀仏と口にしながら罰礼百回。罰礼とは南無阿弥陀仏に合わせて五体投地を行うことで自分の罪を償うものだと聞いています。そっか、罰礼百回ですか…。会長さんにも良心ってヤツがあったのか、と驚きましたが。
「ふうん? ストーカーを撃退したのに自分に罰って、なんだか割に合わないねえ…」
何か間違っているような気がする、と呟くソルジャー。
「モテ期とやらを終わらせるために必要なのかもしれないけどさ、もうちょっと、こう…。ストーカーの撃退法って他にも何か無いのかい?」
「知らないよ! 経験則として知っているのが花束グシャリで、その他にはさ」
毎回それで終了するから、と会長さんは憮然とした表情。しかしソルジャーは納得がいかない様子で、パウンドケーキをモグモグと。やがてお待ちかねのチーズスフレも出来上がり…。
「かみお~ん♪ お待たせ! スフレ、出来たよ~!」
しぼまない内に食べちゃってね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。スフレはふんわり膨らんだ熱々を食べてなんぼのお菓子です。ソルジャーはスプーンを握って美味しそうにパクパクと。ストーカーの件もスフレの前には吹っ飛んだのかな、と思ったのに。
「御馳走様~! 栄養補給って大切だよねえ、スフレで一気に頭が冴えた」
「「「???」」」
「ストーカーが攻めてくるなら、目には目を! 逆ストーカーをするっていうのはどうだろう?」
「「「逆ストーカー?」」」
なんじゃそりゃ、と訊き返した私たちに、ソルジャーは赤い瞳を煌めかせて。
「そのまんまだってば、逆ストーカー! ハーレイの方から逃げ出すように仕向けるんだよ、そうなる時点まで付き纏うわけ。車で帰ろうと誘われる前から乗り込んじゃってさ、強引に家まで」
「それは喜ばれるだけだろう!」
会長さんの怒声に、ソルジャーは。
「さあ、どうだか…。乗り込んでるのはストーカーだよ? ハーレイの一挙手一投足を舐めるように観察しまくり、付き纏い! お風呂に入ろうがトイレに行こうが、ただひたすらに追い続けてればどうなるだろうね?」
「……喜ぶだけだと思うけど……」
「うん、ストーカーが君一人ならね。…大量にいたらどうなるのかな?」
「「「は?」」」
思わず反応した私たち全員にソルジャーはパチンとウインクをして。
「逆ストーカーはブルーも含めて君たち全員! ブルーの大好きな『見えないギャラリー』ってヤツが表に出るんだ、堂々と!」
「そ、それは……。それはハーレイも流石に引くかも……」
考えるだに恐ろしい、と会長さんが視線を宙に泳がせ、ソルジャーが。
「いいアイデアだと思うけど? でもってアイデアの提供者として、ぼくも仲間に加わりたいな」
ちょうど週末で暇になるしね、とソルジャーはやる気満々でした。教頭先生に逆ストーカー、しかも面子はこのメンバー。モテ期とやらも凄いですけど、逆襲だなんて怖すぎとしか…。
会長さんに熱を上げる余りに、一人モテ期な教頭先生。今日もお誘いメールの返事が来ないというのに、ガッカリどころか「次があるさ」と余裕たっぷり。勤務を終えると教頭室の鍵を事務局に返して駐車場へとおいでになったわけですが。
「やあ、ハーレイ。今日も寒いね」
待ってる間に凍えちゃった、と愛車の隣に会長さんが立っていたから大変です。
「ブ、ブルー!? それならそうと言ってくれれば…!」
残業をせずに帰ったんだ、と大慌てで車のロックを開ける教頭先生。すかさず会長さんが助手席に乗り込むと同時に、後部座席のドアがバンッ! と左右に開かれて。
「かみお~ん♪ ぼく、いっちばぁ~ん!」
「ぶるぅはブルーの膝でいいだろ、助手席でさ」
乗り込みながらソルジャーが声を掛け、キース君が。
「待て、それは道交法ではどうなるんだ? あんたと俺と、ぶるぅが後ろで」
「細かい事は言いっこなし! ぶるぅが前ならもう一人いける。ジョミーでどうかな?」
「オッケー! 教頭先生、お邪魔しまぁーす!」
ドヤドヤドヤと後部座席に三人が座り、ドアがバタンと閉まってロック。助手席では会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」を膝に抱えてシートベルトを装着中で。
「な、何なんだ、これは?」
教頭先生は軽くパニック状態でしたが、会長さんとソルジャーに「早く車を出せ」とせっつかれて仕方なく運転席へ。ドアが閉まると会長さんからの思念波が。
『みんなはタクシーでハーレイの車を追うんだよ? 校門前に誘導してあるからさ』
『『『はーい!!!』』』
暗くなった駐車場からは見えにくい位置で見守っていた私たちは校門へ走り、客待ち中の二台のタクシーに素早く分乗。ちょうどノロノロと門を出てきた教頭先生の車を指差し、追跡開始というヤツです。えっ、門衛の人たちですか? ソルジャーには気付いていませんとも!
「教頭先生、思い切りビビったみてえだぜ?」
サム君が可笑しそうに笑い、スウェナちゃんも。
「そりゃそうなると思うわよ? あれだけワラワラ沸いて出るとは思わないでしょ」
「だよな、これで終わると思いてえよなぁ、ストーカー!」
早いとこブルーを開放しなきゃ、と気勢を上げるサム君の言葉に運転手さんが。
「お客さん、前の車、警察に通報しましょうか? お友達が強引に連れ去られたとか?」
「え? えっと…。そこまでしなくていいんだけどさ…」
言い澱むサム君の代わりにスウェナちゃんが「大丈夫です」とキッパリと。
「ボディーガードも乗ってます! いざとなったら通報出来ます」
「ははぁ…。おとり捜査みたいなモンですか。こういうお客さんは初めてですねえ、頑張って追わせて頂きますよ」
信号無視も任せて下さい、とノリノリになった運転手さん。後ろのタクシーのシロエ君とマツカ君も似たような状態にいると思念波が届き、教頭先生の愛車は二台のタクシーに追跡されつつ自宅へと。
ワクワクしながら街を走って住宅街に入り、目的地に無事に到着して。
「お客さん、頑張って下さいよ~!」
困った時には警察ですよ、と念を押してからタクシーは走り去りました。その間にガレージの中では教頭先生がオタオタと。
「わ、私はだな、ブルー、お前を家まで送るつもりで…!」
「だから送って貰ったじゃないか、君の家まで。で、入ってもいいのかな? かまわないよねえ、来ちゃったんだしさ」
お邪魔するよ、と会長さんが門の方に回って来て鍵を開け、タクシー組も敷地内に乱入です。教頭先生が玄関の扉を開くと逆ストーカーを目指す面子がゾロゾロと中へ。おおっ、これがモテ期の教頭先生のお宅ですか! リビングに山と積まれたプレゼントの箱。これ全部、会長さん宛ですよね?
「す、すまん、あちこち散らかっていて…。今、コーヒーでも入れるから」
その辺に座って待っていてくれ、とキッチンに向かおうとした教頭先生でしたが。
「…なんだ、ブルー?」
「ちょっとね、君を追い掛けてみたくなっちゃって…。いつも花とかプレゼントとかを貰ってるから、ほんのお返し」
ニッコリ微笑む会長さんの隣では会長さんそっくりのソルジャーが。
「君の全てを知りたいらしいよ、ブルーはね。…どんな風に生活しているのかとか、こう、色々と」
「そ、そうなのですか?」
教頭先生、自分にいいように受け取ったらしく、頬っぺたを染めておられます。確かに聞き様によってはプロポーズっぽく思えないこともないですけれども、その実態は…。
「どうぞ、ハーレイ。ぼくに遠慮は無用だから」
「し、しかし…! わ、私はだな…」
トイレに行きたいわけなのだが、と教頭先生は大きな身体を縮めるようにしてモジモジと。人数分のコーヒーを入れに立ったつもりが、会長さんを先頭にしてソルジャーを含む全員がついてきたのです。トイレの前の廊下は鮨詰め状態、押すな押すなの大賑わいで。
「遠慮は要らないって言ってるだろう? ほら、気にせずに入りたまえ。…ドアはきちんと押さえておくから」
「そ、そうか? では…」
失礼して、と教頭先生はトイレに入りかけて。
「…お、おい、もしかしてドアを押さえておくというのは…」
「ん? こうして開けて押さえるんだよ、遠慮なくどうぞ、大でも小でも」
ぼくは全く気にしない、と会長さんは綺麗な笑み。私たちがひしめき合う廊下からはトイレが丸見え、こちら向けに据えられた便座も見えます。つまり教頭先生がトイレを使えば全てが見えるというわけで。
「ま、待ってくれ! わ、私は本当にトイレに用が…!」
「いいじゃないか。追い掛けたいと言った筈だよ、君をトイレの中までも…ね。でもスリッパは一人前しか無いみたいだし、ここで見てるさ」
会長さんがクスクスと笑えば、ソルジャーが。
「ブルーをお嫁に貰うんだろう? なのにトイレに入る姿も見せられないっていうのはねえ…。夫婦たるもの、下の世話まで頼んでなんぼだと思わないかい?」
ぼくは頼んだことも頼まれたことも無いけれど、と仁王立ちして言い放つソルジャー。
「将来のための予行演習だと思いたまえ。嫁の前でも出来ないようでは詰まってしまって死ぬかもよ? それともアレかな、別の目的でトイレかな? ズボンの前が窮屈だとか?」
だったら尚のことブルーの前で、とソルジャーはまさに立て板に水。
「それって燃えるシチュエーションだよ、パートナーの前で一人エッチというのはね。…若干余計なオマケがいるけど、そっちの方は気にしない! 女子にはモザイクのサービスもするし」
「……そ、そんな……」
本当にトイレに行きたいのですが、と教頭先生の声には泣きが入っているようでした。どうやら本気で切羽詰まっておられるみたいなんですけれど…。
「ほらほら、ハーレイ、遠慮しないで」
ぼくはどっちでもかまわないから、と会長さんがダメ押しを。
「ブルーが言ってる方だとしてもね、ぼくは全然気にしないから! 普段だったらキレるけれども、今は君からプレゼントとか花とかを貰って気分がいいし…。たまにはサービスで視線だけでも付き合うよ。いつも孤独にやってるもんねえ」
「ハーレイ、ブルーもこう言ってるよ? 君の大事な御令息をさ、披露しなくちゃ損だってば! ぼくも興味が出て来ちゃったなぁ、ぼくのハーレイとどっちが立派か」
「……あ、あのう……」
もう本当にそれどころでは、とズボンの前を両手で押さえる教頭先生。我慢の限界が近いのでしょう。しかし…。
「気にしなくっていいってば! 君が一人でやってる所を覗き見したことは何度もあるし、君だって承知してるだろう?」
「我慢のしすぎは身体に悪いよ? あんまり辛抱しすぎちゃうとさ、役立たずになるって話もあるんだ。何事もほどほどが一番なんだよ、イかせて貰えないのも素敵だけどさ」
「「「???」」」
ソルジャーの台詞の意味はイマイチ分かりませんでした。教頭先生は耳まで真っ赤で、今の台詞で煽られたのか、トイレの方がピンチなのかは判別不能。
「…た、頼む、もう……!」
もう一秒も持たないのだが、と教頭先生の哀れな悲鳴が開け放たれたトイレと廊下に木霊して…。
「オン クロウダノウ ウンジャク、オン シュリ マリ ママリ マリシュシュリ ソワカ」
会長さんが謎の呪文を朗々と唱え、キース君が合掌しています。やがて扉の閉まったトイレの中からジャーッと水の流れる音が聞こえたものの、教頭先生が出てこられる気配は全く無くて。
「なんだい、今のは?」
何の呪文? とソルジャーが尋ね、会長さんが溜息交じりに。
「烏枢沙摩明王の御真言だよ」
「「「ウスサマ…?」」」
「枢沙摩明王! 不浄を清める明王様でね、特にトイレの清めで有名。…こんな所で唱える羽目になるとはホントに夢にも思わなかったよ。なんでハーレイのためなんかに…!」
でも万一ってコトがあるから、と会長さんはトイレの扉を睨み付けて。
「それでハーレイ、間に合ったわけ!? トイレを汚してないだろうね! ズボンとかはどうでもいいんだけどさ!」
返事は帰って来ませんでした。教頭先生、まさか間に合わなかったとか…? 会長さんとソルジャーの二人がかりで限界突破の直前くらいまで引っ張りまくっていましたもんねえ…。
「なんとか間に合ったみたいだよ、うん」
ソルジャーがサイオンで中を覗き見したらしく、プッと小さく吹き出して。
「でもね、下ろす時に勢いが付きすぎちゃってさ、ズボンもベルトも紅白縞も床にバッサリ落ちちゃってるよ。あそこまで派手に落としてしまうと我に返ると情けないよね」
「…そうなんだ? どれどれ…」
会長さんがサイオンで覗くよりも早くソルジャーがトイレの扉をバァン! と開けてしまったからたまりません。私たちはズボンも紅白縞も床に落として便座に座った教頭先生と御対面で。
「「「!!!」」」
スウェナちゃんと私の視界にはモザイクがしっかり入りました。え、えーっと……パンツを下ろすどころか全開状態な教頭先生は今までに何度も見てますけれど…。
「「「わはははははは!!!」」」
遠慮なく笑い出す男の子たちと会長さんとソルジャーと。勿論「そるじゃぁ・ぶるぅ」もケタケタ笑い転げています。スウェナちゃんと私も堪え切れずに吹き出してしまい、教頭先生だけが便座に座って呆然自失。そりゃそうでしょう、こんな姿を会長さんに見られたら…。
「ふふ、ハーレイ。なかなかに凄い格好だねえ? 間に合わなかったよりかはマシだけれどさ」
間に合わなければ幼児並み、と会長さんが嘲笑う横からソルジャーが。
「ぶるぅ以下だよ、トイレには余裕を持って行くよう言ってある。遠慮しないで行けばいいってブルーが何度も言ったのに…。これじゃ百年の恋も冷めるってね」
現に冷めちゃったみたいだよ、とソルジャーはフフンと鼻を鳴らして。
「君のトイレまで拝みたいほど追っかけに燃えていたのにさ…。今やブルーも大笑いだし、リビングにあるプレゼントの山は用済みになってしまう予感がするね」
その時はぼくに引き取らせてよ、と艶やかな笑みを浮かべるソルジャー。
「ちょうど色々欲しかったんだよね、ぼくのハーレイとの夜の時間の盛り上げアイテム! いい感じにエロいのが揃ってるから、いつでも纏めて引き取りOK! 有効活用しなくっちゃ」
立ち直れるんなら初志貫徹でプレゼント、と言い残してソルジャーは姿を消しました。教頭先生は便座の上で今も放心しておられます。逆ストーカーは功を奏したと言えるのでしょうか?
「さあねえ…。とりあえず、花は暫く届くんじゃないかと思うんだ。お店に予約を入れてるだろうし…。週明けにメールが届かなかったら、モテ期はこれにて終了ってね」
その時はブルーが殊勲賞だ、と会長さん。私たちは教頭先生を放置して引き揚げ、週明けの放課後、会長さんの端末宛にメールは届きませんでした。ということは、今度のモテ期は…。
「終わったようだよ、妙なプレゼントも届かなかったし! ブルーもたまには役に立つよね」
次から逆ストーカーで攻めるに限る、と会長さんは大喜びでした。ソルジャーも会長さんが貰っていたら処分される運命だったプレゼントの山を引き取れることになりそうです。教頭先生と便座の映像は当分頭に残るでしょうけど、終わり良ければ全て良し。まずはめでたし、めでたしです~!
訪れたモテ期・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
教頭先生のモテ期については、本編の方の「夏休み・第3話」にも書かれております。
青文字の部分からリンクしてあります、よろしかったら、そちらもご覧下さいです。
今月は月2更新でしたが、2月は月イチ更新です。
来月は 「第3月曜」 2月17日の更新となります、よろしくお願いいたします。
そしてハレブル別館の方に転生ネタな 『君の許へと』 をUPいたしました!
前回の 『聖痕』 と繋がるお話になっております、こちらもどうぞよろしくです。
ハレブル別館へは、TOPページに貼ってあるバナーからお入り下さいv
←こちらからも入れます。
毎日更新の場外編、 『シャングリラ学園生徒会室』 にもお気軽にお越し下さいませ~。
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こちらでの場外編、1月はソルジャーが姫はじめを頑張っておりますが…。
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