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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

納涼お化け大会・第1話

まだまだ暑さが続いていますが、柔道部の強化合宿が終了したので久しぶりに「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に7人グループが揃いました。会長さんはお留守でしたけど「そるじゃぁ・ぶるぅ」が手作りアイスを御馳走してくれ、お昼は特製チャーハンを作ってくれるとか。ナシゴレン風だよ、と言っているので楽しみです。合宿を終えたキース君たちは一段と精悍な顔になっていましたが…。
「……困った……」
キース君にしては珍しい歯切れの悪い口調に、ジョミー君が首を傾げました。
「どうしたのさ?チャーハン、好きじゃなかったとか?」
「いや、どっちかといえば好物だ。困ったというのは別の話で…」
それに続いたのはシロエ君。
「そうなんです。実はぼくたちも困ってるんです」
ねえ?とマツカ君と視線を交わしたシロエ君がフゥ、と溜息を吐き出して。
「昨日、合宿が終わったでしょう?で、実は今日、柔道部恒例のイベントがあって。部員全員が適当なグループに分かれて参加するんですけど、その中の1グループだけが教頭先生から奥義を教わる権利を得られるんです」
「奥義だって?すげえじゃないか!」
サム君が目を輝かせました。
「もちろん、教わるつもりだろ?」
「…それはその…。教わりたいのは山々ですけど…」
「条件が難しすぎるんだ」
マツカ君の途切れた言葉を引き継いだのはキース君でした。
「俺たちは1年だけで卒業らしいし、なんとしてもチャンスを掴みたいんだが…上級生がいるからな。経験が無い1年生は圧倒的に不利としか言えん」
「もしかして、それって勝ち抜き戦?」
ジョミー君が尋ねるとキース君たちは複雑な表情を浮かべました。
「ある意味、勝ち抜き戦とも言えるが…柔道とはまるで無関係なんだ」
「そうでもないんじゃないですか?元々は武士階級の人がいざという時に覚悟を決めるための度胸を鍛える目的でやっていたっていう話ですし」
「…でも…それとは正反対なんじゃないでしょうか…」
うーん、話が全く見えてきません。キース君たち、何を困っているんでしょう?
「あーっ、もう!じれったいなぁ、その条件ってなんなのさ!?」
「…肝試しだ」
「肝試し?」
「ああ。ただし、普通の肝試しじゃない。挑戦するのは教頭先生で、俺たちが脅かす側なんだ」
ええぇっ!?それって、確かに変。柔道部ってよく分からないかも…。

キース君たちの説明によると、柔道部の夏合宿後の肝試しは伝統の催しなんだそうです。会場は学校から近いアルテメシア公園の裏山。公園の裏手の登山道を登って山頂の小さなお堂に至るコースを教頭先生が一人で歩き、途中に潜んだ柔道部員が持ち場ごとに先生を脅かす決まり。教頭先生を一番怖がらせたグループが奥義を教えて貰えるのだとか。
「先生はホルダー心電図を装着している。その記録とグループの配置を照らし合わせれば、勝者が分かるという仕組みだ。…だが、どうすれば先生に恐怖心を起こさせることが出来るか、さっぱり見当がつかなくてな…」
なるほど。だから経験のある上級生が有利だというわけですね。競争もとても激しそうです。私たちもあれこれ考えましたが、教頭先生が怖がりそうなものなんて思いつきません。どうすれば勝者になれるんでしょう?
「かみお~ん♪ブルー、ちょうどチャーハン出来たとこだよ!」
あ、チャーハンが出来たみたい。…って、会長さん!?
「やあ。みんな、難しい顔してどうしたんだい?ぶるぅのナシゴレン風チャーハンは絶品だよ」
壁を抜けてきた会長さんがテーブルにつき、とりあえずチャーハンを食べることに。うん、本当にとっても美味しい!
「そうだろう?ぶるぅはエスニック料理も得意なんだ。…でも、みんな悩みがあるみたいだね。困ってるんなら相談に乗るよ?」
私たちは顔を見合わせました。人生経験豊富な会長さんなら名案があるかもしれませんけど、相手は教頭先生です。下手に相談してしまったら、とんでもないことになりそうな気が…。
「…ふぅん…。ハーレイの心臓を縮み上がらせればいいわけか」
わわわっ!誰の心を覗き見したのか、会長さんが楽しそうな笑みを浮かべました。や、やばい…。でも、柔道部員限定の行事なんだし、会長さんが手出しするのは反則ですよね?案の定、キース君が不快そうに。
「あんたの力は必要ない。俺たちがやらなきゃ意味が無いんだ」
「だろうね。ぼくも柔道の奥義には興味ないけど…アイデアなら貸してあげられるよ?」
「本当ですか!?」
シロエ君が顔を輝かせ、キース君もアイデアだけなら…と頷いています。会長さんはニッコリと笑い、立ち上がってマツカ君を手招きしました。
「隣に立ってみてくれたまえ。…ああ、うん…ちょうどいいくらいかな」
そして会長さんがマツカ君の顔を覗き込んで言った言葉は…。
「奥義のためなら自分を捨てることができるかい?…だったら秘策を教えよう。どうする、マツカ?決めるのは君だ」
マツカ君は迷いませんでした。強化合宿を経て、より強くなったみたいですね。

その夜、キース君たちは柔道部全員でアルテメシア公園へ向かいました。会長さんがマツカ君に教えた秘策が何だったのか、私たちは全く知りません。柔道部の三人だけを別室に連れて行って伝授していたみたいですから。
「…肝試しのことが気になるようだね。連れて行ってあげようか?…ぼくとぶるぅでシールドを張れば、誰にも見られずに見物できるよ」
私たちはもちろん、大賛成。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が腕を振るった夕食をしっかり食べてから、部屋の中央に固まって立つと…ほんの一瞬で夜の公園に立っていました。もしかして、これって瞬間移動!?
「そうだよ。ぶるぅと一緒なら、この人数でも飛べる。キースたちがいても飛べるさ。ね、ぶるぅ?」
「かみお~…もごっ!」
雄叫びを上げようとした「そるじゃぁ・ぶるぅ」ですが、会長さんが素早く口を押さえました。登山道の方は街灯も無くて真っ暗です。目を凝らすと木々の間で時々チラッと小さな灯が…。
「やってる、やってる。ハーレイはかなり上まで登っているな。ちょっと早いけど、キースたちの所へ行ってみよう。今度はシールドを張るから姿は完全に見えなくなるし、しゃべったりしても大丈夫」
会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」のシールドに包まれて移動した先は山頂に近い山の中。月明かりの中にお堂の影が小さく見える辺りです。キース君たちは何処に隠れているのかな?
「あそこの大きな杉の陰だよ。登山道からは完全に死角。…あ、今、下でダースベイダーが出た」
は?ダースベイダーって、あの、スーハー、スーハーっていうアレですか?
「うん。それなりに意表を突いたみたいだけども…投げ飛ばされちゃったら意味ないね」
どうやら熾烈な戦いが繰り広げられているらしいです。でも私たちには全く分からず、会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」だけが下の方を見て笑っていました。同時中継してくれればいいのに…。
「ごめん、ごめん。でも今日の一番の見せ場はキースたちだし、そこだけ見れば十分だろう?…ほら、もうハーレイが登ってきたよ」
ザッザッザッ…と教頭先生が白い柔道着に黒帯を締めて夜の山道をやって来ました。首からペンライトを下げています。そこへ杉の陰から飛び出して向かっていったのは鎧武者。折れた矢が何本も刺さってますから落ち武者ですね。あっさりと投げ飛ばされて、漏れた呻き声はシロエ君。次に飛び出したのは不気味に浮かび上がった骸骨で…黒い服にペイントをして頭はマスクを被ってましたが、これも簡単に投げられて…。
「キース、まだまだ修行が足りんぞ。明日からもっと頑張らんとな」
わっはっは、と豪快に笑って教頭先生はお堂の方へ。あぁぁ、もう終点じゃないですか!マツカ君、何処に行っちゃったんでしょう。それに鎧武者とか骸骨くらいで教頭先生が驚くわけが…、と、私たちが歯噛みした時です。お堂の扉がキイッと開いて白い人影が現れました。真っ白な着物を着て、顔を隠すように頭から白い薄衣をかぶり、滑るような足取りでお堂の下へ。
「なんだ、最後は幽霊か?…今年は熱心な1年生がトリをやりたいと申し出たから期待できると聞いてきたんだが、サッパリだ。お化け屋敷にもならんレベルだな」
マツカ君が化けているらしい幽霊を投げ飛ばそうと教頭先生が間合いを縮め、ダッと飛び込むと…幽霊はスッと下がって被った衣を投げ捨てました。月明かりの下に浮かび上がったその姿は…。

「ブルー!?…なんでお前が!」
教頭先生が叫んだとおり、そこにいたのは会長さん。会長さんはクルッと身を翻して登山道とは反対の方へ駆け出します。その先の木立を抜けると展望台で、夜は暴走族の溜まり場になっているという噂でした。
「ブルー!止まれ、そっちは危ないから行くんじゃない!!」
教頭先生の心拍数は明らかに上がったと思われます。会長さんを追って走る教頭先生はアッという間に遠ざかって…。あれ?…距離が全然開かない…。
「追いかけて飛んでいるんだよ。ぼくとぶるぅの力でね」
そう言ったのは会長さん。私たちはシールドに包まれたまま、地面の上を滑るように移動して教頭先生を追っていたのです。驚きましたが、瞬間移動に比べたら簡単なのかも。そして会長さんがここにいるってことは、教頭先生の前を走っているのは…。
「マツカに決まっているじゃないか。背格好と髪の色がよく似ていたから、ちょっと髪型を変えさせたんだ。見事に騙されたみたいだね。…ふふ、もっと面白いことになる」
会長さんに化けたマツカ君が走りながら白い帯を捨て、展望台に辿り着きました。駐車場にたむろしていた暴走族のお兄さんたちがヒュウ、と口笛を吹く中、マツカ君は殆どはだけていた着物をスルッと落とし、現れたのはゾクリとするほど艶めかしいデザインの…街灯に妖艶に映える深紅のベビードールと白い肌。
「うひゃ~っ、今夜は最高だぜ!!!」
下品な歓声と口笛が上がり、マツカ君の周囲に暴走族のお兄さんたちが群がります。
「ブルーっ!!!」
教頭先生が絶叫しながら野獣の群れの中に飛び込み、掴んでは投げ、掴んでは投げ…。その間にマツカ君も何人かをヒョイと背負い投げして群れから抜け出し、着物を着込んでしまいました。そうとも知らない教頭先生は阿修羅のような勢いで暴走族のお兄さんたちを全て倒してから、眉間に深い皺を刻んで振り返って。
「…ブルー、なんて危ないことをするんだ!寿命が百年は縮んだぞ」
「ごめんなさい!…ぼく、生徒会長さんじゃないんです…」
マツカ君が深々と頭を下げると教頭先生はヘタヘタと座り込み、ただ呆然とするばかりでした。極限まで上がった心拍数が正常値に戻るまで、どれくらいかかったのかは分かりません。だって私たち、その後すぐに「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に瞬間移動してしまったんですから。

柔道部恒例の逆肝試し、キース君たちのグループは見事に1位。教頭先生から奥義を習えることが決まって大喜びです。マツカ君が身体をはっただけのことはあったというわけですが、暴走族のお兄さんたちを興奮させたベビードールは何処から湧いて出たのでしょう?…まさか、あれも教頭先生が…。
「ハーレイの部屋から失敬したのさ」
会長さんがクスッと笑い、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に集まっていた私たちに綺麗にラッピングされた箱を見せました。ちゃんとリボンもかかっています。
「この中に入っていたんだよ。ハーレイのヤツ、必死の思いで買ったはいいけど、渡す勇気が無かったらしい。そりゃ、デザインがアレじゃあね…。ぼくの瞳の色に似ているのがいい!と決めたくせに」
マツカ君が着ていた深紅のベビードールは、それはセクシーなデザインでした。ジョミー君が着せられた青いベビードールが清楚に思えてしまうほどに。
「ぼくに着てもらえて本望だろうさ、ハーレイは。…あの瞬間はマツカをぼくだと信じてたんだし、きっと幸せだったと思うよ」
本当か!?という私たちの心の叫びは会長さんにサックリ無視されました。
「ハーレイは心臓が破裂するほど喜び、キースたちは1位になれた。ベビードールは元通り箱に入れたし、ハーレイの部屋に返しておくよ。ぼくの残り香に酔えるといいね」
フッと消え失せた箱の今後は考えない方がいいでしょう。あ…、マツカ君が落ち込んでる…。そっか、マツカ君の残り香だっけ。でも「奥義のためなら自分を捨てる」と決めたんですから、その内に浮上しますよね、きっと。 




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