シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
※シャングリラ学園シリーズには本編があり、番外編はその続編です。
バックナンバーはこちらの 「本編」 「番外編」 から御覧になれます。
シャングリラ学園番外編は 「毎月第3月曜更新」 です。
第1月曜に「おまけ更新」をして2回更新の時は、前月に予告いたします。
お話の後の御挨拶などをチェックなさって下さいませv
衣替えも終わって食欲の秋。もう少し経てば恒例のマザー農場での収穫祭です。その前に薪拾いなんていう面倒なイベントもありますけれど、収穫祭はやっぱり楽しみ。ジンギスカンの食べ放題などに思いを馳せつつ、今日は会長さんの家でピザパーティーというわけで。
「かみお~ん♪ 沢山あるから好きなだけ食べてね!」
ソースもトッピングも選び放題、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が張り切っています。
「俺はボリュームたっぷりで頼む。どうも疲れが抜けなくてな」
お彼岸以来、とキース君が注文すると会長さんがからかうように。
「お彼岸って…。あれから十日以上経つと思うけど? そろそろ年かな、副住職?」
「やかましい! 今年は大変だったんだ!」
ウッカリ連休になったせいで、とキース君は不満たらたら。
「お中日は祝日だなんて、何処のどいつが決めたんだ! そこへ土日が来やがったから、親父が盛大にやると言い出して…。いつもだったら俺はお中日だけでお役御免なのに」
しかも今年は暑かった、とキース君の不満は滔々と。
「暑さ寒さも彼岸までだと? とことんふざけた話だぜ。今でもセミがいるくらいだしな、墓回向に行っても汗だくだくだ。…俺は本当に疲れ果てたんだ」
なのに朝から境内の掃除、と立て板に水の文句三昧。キース君ったら、今日は遊びに行くというのでアドス和尚にみっちりしごかれたらしいです。それもその筈、元老寺では今頃は法事の真っ最中。出ないで済むだけマシと思え、と本堂の設えもさせられたそうで…。
「なるほどねえ…。まあ、仕方ないよね、副住職だし」
そのくらいのことはやって当然、と流す会長さんにキース君は「それはそうだが…」と力なく。
「しかしだな、俺は基本が高校生だ。法事に出てもだ、見た目は小坊主と変わらんぞ」
「見た目だけはね。でもさ、檀家さんには副住職だとバレてるんだし、アドス和尚と二人で出ればお布施の方もグンと増えるのに」
「…小遣い稼ぎは俺には合わんと言っただろう!」
主義に反する、とテーブルを叩くキース君。
「お布施目当てで法事に出るのは嫌なんだ! 御縁のある方の法事には出るが、それ以外は基本はパスなんだ、パス!」
「はいはい、分かった。お彼岸疲れね…」
お大事に、と会長さんが返した所で「そるじゃぁ・ぶるぅ」がピザをドカンと運んで来ました。ワゴンの上にお皿が一杯、注文の品が次々と。うわぁ、とってもゴージャスです。とりあえずキース君の文句はここまで、みんな揃って頂きまーっす!
トマトソースにクリームソース、カレーソースと盛りだくさん。トッピングの方もバラエティー豊かで何枚でもお代わり出来そうな感じ。男の子たちは豪快に手づかみ、スウェナちゃんと私にはナイフとフォークが。会長さんもナイフとフォークですけど…。
「おや? シロエはどうかしたのかい?」
気になることでも、と会長さんが訊くとシロエ君は「いえ、ちょっと…」と。
「大したことじゃないんです。気にしないで下さい」
「そう言われても…。さっきから視線が意味ありげだよね」
キースとサムとジョミーばっかり見ているけれど、と会長さん。
「プラスぼくかな、その四人。なんでそういう面子になるわけ? 特に変わったピザは食べていないと思うんだけど…」
選んだ種類は色々だけどね、と言われてみれば、会長さんが指摘した四人のピザには共通点がありませんでした。ソースはともかく、トッピングがまるで別物です。ジョミー君はソーセージたっぷり、キース君はカルビがメインのチョイス。サム君はチキンで会長さんがポテトとコーン。
「それともアレかな、次に食べたいピザの要素が含まれてるとか?」
「ち、違います!」
慌てて否定したシロエ君ですが、普段の言動からは考えられないうろたえぶり。一歳下とは思えないほどの落ち着きぶりがシロエ君の持ち味の一つなのに…? 会長さんも、すかさず其処を。
「らしくないねえ、何を慌てているんだい? なんだか後ろめたそうだねえ?」
「い、いえ、別に……」
そんなことは、と答えたものの、シロエ君の目は妙に落ち着きがありません。これは明らかに何か隠している顔です。会長さんが挙げた四人の共通点って何でしょう? ジョミー君たちも気になるようで。
「えーっと…。ぼくとキースと、サムとブルーって何だろう?」
「ズバリ坊主じゃねえのかよ?」
サム君の指摘にシロエ君はギクリ。坊主で間違いなさそうです。会長さんの瞳が好奇心に輝き、シロエ君の顔をじっと見詰めて。
「…ふうん……。君も仏道修行を希望かな? お盆にお彼岸と続いたからねえ、キースをライバル視している君としては黙っていられない気分だとか?」
一人前の坊主を目指すなら師僧になってあげてもいいよ、と持ちかけられたシロエ君の絶叫がダイニングに響き渡りました。
「お坊さんになる気はないですってば!!!」
ハアハアと肩で息をしてますけれども、お坊さん志願じゃないんだったら何故にお坊さん組ばかり見ていたわけ…?
仏弟子志願を全力で否定したシロエ君。しかし気になる対象がお坊さんな事実は疑いようもなく、ピザパーティーの肴はシロエ君になってしまいました。
「坊主になる気がねえんだったら、なんで俺たちを見てんだよ?」
今日は法衣も着てねえぜ、とサム君が言えばキース君が。
「どうせ顰蹙な発想だろう。俺がお彼岸だの法事だのと話していたから、坊主頭を想像中だな」
「あー…。それはあるかも!」
散々練習してたもんねえ、とジョミー君。坊主頭は住職の資格を取る道場の必須条件です。それを回避したかったキース君がサイオニック・ドリームで誤魔化すために努力していて、ジョミー君もその道連れに。挙句の果てに学園祭で坊主頭が売りの坊主カフェなんかもありましたっけ…。
「きっとそれだよ、でもってブルーの坊主頭を必死に想像してたんじゃないの?」
あれだけは誰も見たことないし、というジョミー君の意見に一斉に頷く私たち。会長さんも修行中には坊主頭に見せかけていたと聞いていますが、その姿は誰も知りません。ん? 誰も…?
「そうだ、ぶるぅは見ていた筈だぞ」
璃慕恩院に一緒に行ったんだしな、とキース君が声を上げました。
「どうだった、ぶるぅ? お前ももちろん覚えてるだろう、ぜひ見せてくれ」
「いいね、サイオンで一瞬で画像を共有ってね!」
この機会に是非、とジョミー君も瞳を輝かせましたが、「そるじゃぁ・ぶるぅ」は。
「えーと、えっとね…。ブルーの方が上手かったんだよ、企業秘密だし」
「「「は?」」」
企業秘密って何ですか? 会長さんの坊主頭が? 「そるじゃぁ・ぶるぅ」はコックリと。
「うんっ! ぼく、子供だから、何かのはずみにバラしちゃうかもしれないし…。それでね、ぼくにはサイオニック・ドリームをかけなかったの! だから一度も見たことないよ」
「「「えーーーっ!?」」」
そんな馬鹿な、と私たちは必死に問い詰めましたが「そるじゃぁ・ぶるぅ」は「見たことない」の一点張り。やがて会長さんが可笑しそうに。
「ぶるぅは嘘はつかないよ。ぼくのイメージは守りたいしねえ、身内にバラしたことはない。どうしても知りたかったら当時の知り合いを探すんだね。もれなくあの世に旅立ってるけど」
訊きに行くなら個人情報だけど戒名を…、と言われましても。極楽浄土にお住いの方にインタビューが出来る力の持ち主、私たちの中にはいませんってば…。
「戒名と来たか…。どうにもならんな」
残念だが、とキース君がピザを頬張り、ジョミー君も。
「サムの霊感でも無理そうだよねえ…。あれっ、シロエはどうしたわけ?」
「…い、いえ……」
ホントに何でもないんです、と答える割に俯き加減。そして視線はお坊さん組をチラチラと。
「なるほどね…。ぼくはキーワードは戒名と見たね」
会長さんの言葉にシロエ君の手からピザがお皿に落っこち、語るに落ちるとはまさにこのこと。
「やっぱり戒名だったんだ? もしかしなくても貰ったとか?」
気が早いねえ、と会長さんが呆れ、キース君も。
「お前、いつの間に貰ってきたんだ? どんなのだ、いい戒名か?」
「……そ、それが……。どちらかと言えばその逆で……」
「気に入らんのなら言った方がいいぞ」
死んでからでは手遅れだしな、とキース君。
「今の内ならまだ変えられる。和尚さんにきちんと相談しろ」
「そうだよ、気に入らない戒名を黙って受け入れなくてもねえ…。自分の主張は通すべきだよ」
きちんと意志を貫いてこそ、と会長さんも同意見です。
「戒名は生前の人となりとかを表すものだし、コレは違うと思うんだったらハッキリと! 生きてる間に貰った人間だけの特権だってば。ぼくなんかは最高に気に入ってるしね、銀青の名前」
「…俺は正直、微妙だが…。まあ、意味を考えれば悪くはないな」
休須だけどな、と語るキース君の法名は未来の戒名。須弥山で休むような器になれ、とアドス和尚が心をこめてつけたのですけど、読みが「きゅうす」でお茶を注ぐ急須に通じるからとキース君は長年伏せていました。サム君は作夢、ジョミー君は徐未。シロエ君がお坊さん組を見ていた理由は法名が羨ましかったからですか…。
「変えて貰えよ、早い内によ」
俺たちと違って変更可能、とサム君も。
「お師僧さんは絶対だしなぁ、俺たちは簡単に変えられねえけどよ…。お前は普通に一般人だし、頼めば変えて貰えるぜ」
「サムの言う通りさ。これがいい、って思う戒名があるなら書いていくのも一つの手だよ」
そのまんまOKが出るケースもあるし、と会長さん。戒名の上につく院号ってヤツまで個人の好みで決めたツワモノがいるそうです。その名もズバリ青春院。病気で若くして亡くなった青年らしいんですけど、青春院ってカッコイイかも…。
素晴らしい院号を聞いてしまうと、知りたくなるのがシロエ君が貰った戒名です。いい戒名どころか逆だったなんて、どんな戒名なんでしょう? 男の子たちと会長さんの集中攻撃に、シロエ君はついに白旗を。
「…分かりましたよ。白状しますから、絶対に笑わないで下さいよ?」
「そんな失礼なことはしないよ、君にも和尚さんにも悪いしね」
その辺はちゃんと心得ている、と会長さんが太鼓判を押し、キース君たちも神妙な顔。お坊さん組じゃないマツカ君とスウェナちゃん、そして私はイマイチ自信がありませんけど、それでも真剣に真正面から受け止める覚悟。シロエ君はスウッと息を吸い込んで…。
「……珍爆です」
「「「ち、珍爆…」」」
予想を遙かに上回る斜め上っぷりにオウム返しに復唱した後、ダイニングは爆笑の渦に包まれました。キース君は涙を流さんばかりに笑っていますし、会長さんもお腹を抱えて悶絶中です。
「さ、最高だぜ、それ…!」
どうにも笑いが止まらねえ、とサム君がテーブルをバンバンと叩き、シロエ君は仏頂面で。
「………。笑わないって言いましたよね? 会長だって」
「そ、そりゃあ……」
それがマトモな戒名ならね、と会長さんは必死に笑いを堪えながら。
「それ、本職がつけた戒名じゃないだろう?」
「本物ですよ! 戒名は欲しいけどお金が足りないという方に、って書いてありました!」
「「「は?」」」
シロエ君が戒名を頼んだ先は菩提寺ではなかったというわけですか? チラシを見たとか? どういうわけだ、と顔を見合わせる私たちに、会長さんが。
「あれだね、いわゆる戒名作成フリーサイト! シロエ、使い方をちゃんと読んだかい?」
「読みました! 希望の文字を入れて下さいと書いてありましたし、それもきちんと」
「入力したというわけだ? でもねえ、所詮は無料だしねえ…」
アレはとんでもないヤツが出る、と会長さんが端末を立ち上げ、シロエ君が使ったというフリーサイトを呼び出して。
「いいかい、ここにブルーにちなんで青と入れると…」
これで作成、と会長さんがクリックした後に表示された戒名はそれは壮絶なものでした。
「「「せ、青腐…」」」
あんまりと言うにも程がある、と愕然とする私たち。気に入らない人向けの「再作成」というボタンを押せば「眺青」だとか。青い地球へ行くのだと憧れているソルジャー向きの戒名かな?
お坊さんになる気はまるで無いものの、自分の戒名が気になったらしいシロエ君。好奇心から無料作成サイトを見付けてシロエにちなんで「白」と打ち込み、結果を見れば「珍爆」の名が。肝心の「白」は影も形も無かったそうで、会長さんは笑いを堪えながら。
「そういうケースもあるんだよ、これは。今は続けて青と出たけど…」
ほらね、とクリックで出て来た戒名、「鏡奪」。鏡を奪ってどうするんだ、という気もしますけれども会長さんの自慢は超絶美形なその美貌。世界中の鏡は会長さんのためにあるのかも…。
「えっ、それはないよ! 世界中の鏡はぼくの女神にこそ相応しいってね」
「「「………」」」
始まりましたよ、会長さんの惚気。ひとしきりフィシスさんの美しさについて聞かされた後に、会長さんは真面目な顔で。
「さっきの戒名サイトだけどねえ、本職向けの戒名ソフトだと全く違うよ? そしてそっちは値段も高い。キースなら知っていると思うな」
「あれは邪道だ。元老寺で戒名作成ソフトは使わん」
「そうだろうねえ、亡くなった人の人柄や趣味、生き方なんかをきちんと考えてつけなくちゃ。これは坊主の法名も同じさ、責任をもって命名するんだ。…で、シロエは戒名を希望なのかな?」
「要りません!」
貰ったら最後、坊主一直線ですから! とシロエ君が叫び、ピザパーティーはシロエ君が自分で作った戒名、珍爆を話題に大盛り上がり。機械いじりが大好きなだけに爆発とは無縁じゃないのかも、という見解から「それなりに相応しい」という結論が出たり…。
「酷いですよ、珍爆で決定なんですか!?」
「勝手に作った君が悪いね、人の噂も七十五日さ」
その内に忘れ去られるよ、と会長さん。
「まっとうな手順を踏んで依頼していれば普通の戒名がついたのに…。あ、いけない、忘れるとこだった。まっとうな手順で思い出したよ、大事なことを」
「「「えっ?」」」
今までの流れからして坊主絡みっぽい「大事なこと」。思わず身構えた私たちですが、会長さんはパチンと軽くウインクを。
「坊主絡みじゃないんだな、これが。ぶるぅ、アレを」
「かみお~ん♪ やっと出番だね!」
取って来るね、と駆け出して行った「そるじゃぁ・ぶるぅ」。アレっていったい何なのでしょう?
間もなく戻って来た「そるじゃぁ・ぶるぅ」はラッピングされた平たい箱を抱えていました。そのサイズといい包装紙といい、なんだか嫌な予感がします。かなり小ぶりではありますけれども、二学期の初日に似たような箱を目にした記憶が…。
「これが何だか分かるかい? 心当たりがある人は手を挙げて!」
会長さんがテーブルに置かれた箱を指差しましたが、挙手する人はいませんでした。代わりに私たちは顔を見合わせ、視線で「ヤバイかも?」と意見交換。えっ、思念波はどうしたって? 会長さんに筒抜けな手段を使うほどバカじゃないですってば…。
「その様子だと、見当はついてるみたいだねえ? だけど残念、いつものヤツじゃないんだな」
新学期恒例の紅白縞のトランクスかと思いましたが、どうやらハズレみたいです。それじゃアレかな、同じ下着売り場で売っていると聞く褌とか?
「下着って所は当たりさ、期待したまえ」
見て驚け! と箱の中身を瞬間移動でパッと取り出す会長さん。広げられたソレはトランクスではなくボクサーブリーフ。紅白縞でもありません。地味なグレーで……って、ええっ!?
「いいだろう? 一時期、話題を呼んだパンツさ。ちゃんと本場からお取り寄せ!」
得意げな会長さんが「ここに注目!」と示すパンツには何本もの点線が入っていました。それと似たような模様を見たことがあります。牛とか豚とかのイラストで…。そう、ロースとかヒレとか、食べられる部分を分けて描いてある解説図。な、なんですか、このパンツは?
「ご覧のとおりの可食部分がモチーフのパンツさ。ついでに切り分ける順番つきだよ」
一番、二番…、と数えながら辿ってゆく会長さんの指。最後に切るように振られた番号は大事な部分を三分割するように書かれていました。な、なんという悪趣味なパンツ…。
「これはね、肉屋のパンツと呼ばれてニュースにもなったパンツなんだな。本場じゃブッチャーズブリーフと言うらしい。広告写真だと生肉の塊と肉切り包丁を持ったマッチョな男が」
「「「………」」」
会長さんが思念で伝えて来た広告写真は、問題のパンツを履いた男性の腰の部分がメインでした。生肉の塊と肉切り包丁もさることながら、履いて見せられると牛だの豚だのの切り分け図解が頭の中にまざまざと…。
「素敵だろ? これをさ、是非ハーレイに履いて欲しくって! 食欲の秋だし」
「あんた、どういう発想なんだ!」
「えっ、コレを履いた男性は恐怖心をかき立てられる、と当時のニュースで話題だったしね」
切り取られる恐怖に怯えるがいい、と大事な所を三分割する部分を会長さんは指でトントンと。
「大事な部分を切られてしまえば妄想も何も…。ぼくとの結婚も夢のまた夢!」
収穫される悪夢にうなされていろ、と勝ち誇っている会長さん。そりゃあ確かに切り取られちゃえば結婚どころじゃありませんけど、あまりにも可哀相すぎませんか…?
手順を踏んで、という点については戒名の付け方も数字の順番での切り分け方も全く同じ。しかし、会長さんが持ち出した肉屋のパンツは、数字の順番で切り分けていけば流血の大惨事は必至な代物です。あまつさえ大事な部分を三分割して切り取るだなんて…。
「…教頭先生、こんなの、履くかな?」
却下されると思うけど、とジョミー君が言い、キース君が。
「そうだぞ、教頭先生にも選ぶ権利はある筈だ。…まず無理だな」
「履いてくれって言ったら履きそうだけど? ぼくのお願い」
それならハーレイは逆らえない、と会長さんはニヤニヤと。
「でもって壮大な勘違いをね…。数字の順番に食べるんだよ、って言えば誤解をする筈だ。大喜びで履いた所で肉切り包丁を出せば一気に地獄さ。ね、ぶるぅ?」
「かみお~ん♪ 包丁、研いでおいたよ!」
おっきなお肉も一発だもん、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大きな肉切り包丁を。教頭先生のパニックぶりが頭を掠めて、私たちは心でお念仏を唱えそうになりましたが。
「へえ…。面白そうなパンツだねえ?」
「「「!!?」」」
ユラリと空間が揺れて紫のマントが優雅に翻り。
「こんにちは。ピザパーティーと戒名の後は食欲の秋の出番だってね?」
美味しそうだ、と艶やかな笑みを浮かべるソルジャー。美味しそうも何も、ピザは残っていないんですけど…。ソルジャーのお目当てはデザートですか? たらふくピザを詰め込みましたし、おやつの予定は無しですが?
「いらっしゃい! えとえと…。ピザの生地、もう無いんだけど…」
みんなで全部食べちゃったの、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「ソーセージとかも無くなっちゃったし…。おやつ兼用で食べていたから、おやつも無いし…」
昨日に焼いたパウンドケーキの残りなら、と小さな頭を悩ませている「そるじゃぁ・ぶるぅ」にソルジャーは。
「いいよ、美味しそうだって言っていたのはピザじゃないから! それにソーセージは特大のヤツがあるようだしねえ?」
「えっ? えぇっ?」
そんなチラシが入ってたっけ、とキョトンとしている「そるじゃぁ・ぶるぅ」ですが、ソルジャーの方は肉屋のパンツを赤い瞳で眺めながら。
「チラシじゃなくって、もうすぐ此処に入る予定さ。ここの番号」
三つ分だね、とアッと言う間に私服に着替えたソルジャーの白い指先が肉屋のパンツの真ん中を。
「こっちのハーレイに履かせるんだろ? 切り落とすなんて勿体ない。せっかく食欲の秋なんだ。美味しく食べてしかるべきだよ、ソーセージ」
「お、美味しくって……」
絶句している会長さんに、ソルジャーは。
「握って良し、しゃぶって良し、頬張って良し! でも最高に美味しく食べるんだったら…」
「その先、禁止!」
我に返った会長さんの制止も聞かずに言い放たれたソルジャーの台詞。
「やっぱり、お尻が一番だよね!」
そこが最高、と親指を立てるソルジャーの顔面に会長さんが投げたレッドカードが。
「退場!!」
「えっ、なんで? 食べなきゃ損だと思うんだけどなぁ、お尻から」
それが一番美味しいんだよ、とソルジャーが撫で擦っているボクサーブリーフのド真ん中。ソルジャーの言うソーセージとやらが何のことかは私たちにも分かりました。ところが、ここに正真正銘のお子様が一人。
「そっかぁ、サーロイン、美味しいもんね! お尻に一番近いロースだよねえ、お尻は牛刺しにしてもいけるし、ローストビーフに向いてるし♪」
ブルーもお肉に詳しいんだね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」は尊敬の眼差しで見ています。
「うーん、ぼくはそれほど詳しくは…。強いて言うならハーレイ限定?」
「そんな種類の牛さんがいるの?」
「そう、褐色でとても美味しいよ。筋肉が発達していてね」
ミルクも沢山出せる品種で、とソルジャーが誇らしげに話す品種の牛は多分一頭しかいないでしょう。あちらの世界のシャングリラ号のブリッジをメインに放牧中の…。
会長さんの悪戯心から取り寄せられた肉屋のパンツ。教頭先生に履かせて脅すつもりが、余計な人が出て来たばかりに話は真逆の方向へ。美味しく食べろと囃すソルジャー、肉切り包丁を持っていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」に滾々と。
「いいかい、ぼくの世界の美味しい牛には敵わないけど、こっちにもハーレイがいるだろう?」
「ハーレイはいるけど牛さんじゃないよ?」
「子供の君には分からないかもしれないけれどね、ブルー限定だと雄牛になれるさ」
そしてブルーが美味しく食べる、とソルジャーは笑顔。
「だけど切り分けたら肝心の牛が台無しで…。肉切り包丁は上手に使わなくっちゃ」
「でも…。ブルーがしっかり研ぎなさいって…」
「そりゃね、上手に使うためには切れ味も大切になってくるから」
使い物にならない肉なら切り落とされても仕方ないから、とニッコリ笑うソルジャー。
「頑張らないと三等分に切っちゃうぞ、と脅すためには必要だよ、うん。…ついでにその役、ぼくがやる方が効果的かもしれないねえ…」
「んとんと…。包丁、持ってくれるの? よく切れるから気を付けてね!」
「「「あーーーっ!!!」」」
イマイチ噛み合っていない会話に気を取られている間に、ソルジャーは首尾よく肉切り包丁を「そるじゃぁ・ぶるぅ」から奪ってしまいました。これは非常に危険です。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が持っていたなら、会長さんのシナリオどおりに脅しておしまいだったんでしょうが…。
「ん? ぼくの顔に何かついてるかい?」
何か言いたいなら御自由に、とギラリと光る肉切り包丁。ただでも怖いソルジャーの手にサイオンどころか刃物とくれば、誰も文句は言えませんでした。会長さんだって顔を引き攣らせていますけれども、怒鳴る度胸は無いらしく。
「…そ、それで…。君はいったい何をしたいわけ?」
震える声で尋ねた会長さんに、ソルジャーは。
「嫌だな、そんなに怯えなくっても…。君が美味しく最高の肉を味わえるように付き添うだけだよ、何も心配いらないってば!」
肉屋のパンツを届けるんだろ、とニコニコ笑っているソルジャー。
「ほら、早く! お届け物なら箱に戻して、グルメツアーに出発だよね!」
もちろん其処の君たちも、とグルリ見渡された私たちに逃げ道がある筈もなく。元通りに箱に納められた肉屋のパンツを会長さんが抱え、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の元気な声が。
「かみお~ん♪ しゅっぱぁ~つ!」
フワリと身体が浮く感覚があって、教頭先生宅のリビングへ。大人数の乱入に驚愕の表情の教頭先生、これからどうなってしまうんでしょう?
「やあ、こんにちは。驚かせてしまって申し訳ない」
ブルーが行きたいと言うものだから、とソルジャーが頭を下げました。
「君にお届け物があるんだってさ、どうしても履いて欲しいパンツらしくて」
「…ぱ、パンツ……? 二学期の分は貰いましたが…」
いつものを五枚、と答えた教頭先生に、ソルジャーはチッチッと指を左右に振って。
「そんなパンツは目じゃないよ! ぼくは一目で感動したね。だからこっちに遊びに来たわけ。そうだよね、ぶるぅ?」
「うんっ! なんかね、ブルーを美味しく食べる…んだったかな? 凄い牛さんになれるパンツなんだよってブルーが言ったの!」
「…ブルーを…?」
どっちのブルーだ、と会長さんとソルジャーをキョロキョロ見比べている教頭先生。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の言葉の中には二人のブルーが混在していたわけですけれども、其処まで見抜けるわけがなく…。
「…お気持ちは有難いですが…。私の相手はブルーだけだと昔から決めておりまして…」
「分かってないねえ、そっちのブルーを美味しく食べられるパンツだってば!」
論より証拠、とソルジャーが会長さんをグイと押し出し、箱ごと前へと。会長さんも既にヤケクソらしく、ラッピングされた箱を差し出して。
「ぼくを美味しく食べるかどうかは君次第だね。とにかく履けば分かるから!」
「なんだって?」
「履いて見せてって言ってるんだよ、その中身!」
早くしてよね、と会長さんにせっつかれても、下着の履き替えを衆人環視の下で行う度胸は教頭先生にはありません。もちろん箱を開けることも出来ずにオロオロと…。会長さんが舌打ちをして、一瞬キラリと光るサイオン。
「「「……!!!」」」
教頭先生の服の上下が消え失せ、逞しい身体にパンツ一丁。お馴染みの紅白縞ではなくてグレーの肉屋のパンツです。うーん、会長さんに見せられたモデルの画像さながら、切り取り用の点線クッキリ、切る順番を書いた数字もハッキリと…。
「…な、何なのだ、このパンツは!?」
自分の下半身を見下ろして驚く教頭先生に、会長さんが冷たい口調で。
「食欲の秋だし、食べる部分と切り取る順番! 履かされた男は焦るらしいねえ、相手を怒らせたら最後、大事な部分が三分割! ぼくも切りたい気分なんだな、妄想まみれの君のヤツをね」
「…そ、そんな……」
まさか切る気か、と後ずさりする教頭先生。そこへギラリとソルジャーが手にした大きな肉切り包丁が出たからたまりません。ギャーッ! と野太い悲鳴が響いて…。
「…おかしいなぁ…。どうしてこういう展開に……」
卒倒しちゃったら雄牛も何も、とブツブツ文句を垂れるソルジャー。
「切られないようにブルーを思い切り満足させて、と励ますつもりだったんだけど」
「先走りすぎだよ、君の発想!」
まあいいけどね、と仰向けに倒れた教頭先生を会長さんがゲシッと蹴飛ばして。
「ぼくは脅しだけで済ませるつもりだったし、卒倒までしたらバカバカしい妄想が少しはマシになるかもしれない。ぼくを怒らせたら切り取られるぞ、とね」
「それだとぼくが出て来た意味は!? 君にハーレイを美味しく食べて欲しかったのに…」
食べ方色々、とぼやくソルジャー、会長さんと教頭先生を何が何でも両想いにさせたい夢を諦め切れないようで。
「…食べられる部分がこんなに沢山あるんだよ? 最高に美味しい部分が三つと、他の部分もそれなりに…。数字の順番にキスを落とせば美味しい部分がもっと美味しく」
「そういう趣味は無いってば!!」
「食わず嫌いはよくないよ。ハーレイの気分をうんと高めて爆発させるのも素敵だよ?」
こんな風にね、とソルジャーは肉切り包丁を捨てて教頭先生の傍らに屈み込み、腰の辺りの「1」と書かれた部位の真ん中にキスを。
「…ん…。布越しだと風味がイマイチかな? こっちの方が向いているかも」
「「「えぇっ!?」」」
カプッと「2」の部位に歯を立てたソルジャー、満足そうに。
「ふふ、ハーレイもピクッと反応したから、甘噛みするのがいいみたいだね。こういう調子で攻めていくのがぼくのお勧め。ブルー、3番の部分で試してごらんよ」
「お断りだよ!」
「そう? だったら代わりに食べてもいいかな、ちょっとドキドキしてきちゃってさ」
ハーレイよりも前にぼくがイきそう、とソルジャーは頬を赤らめています。えーっと、行くって、どちらまで? 教頭先生が正気に返って鼻血を噴いて、救急搬送されるより前に病院へ…?
「そうじゃなくって…。ぼくが爆発しそうかなぁ…って。このシチュエーションは初めてだしねえ、ぼくとしたことがイッちゃいそうだ。あ、爆発って言えばシロエの戒名、それだった?」
「違いますーっ!!!」
ぼくの戒名は珍爆でした、と喚くシロエ君にソルジャーが。
「珍爆ね。…うん、何処が爆発するのかを思うと実にピッタリな感じかも…。その戒名、ぼくのハーレイに貰っていいかな」
でもって今夜からドカンと大爆発、とウットリしているソルジャーの首筋に会長さんがピタリと肉切り包丁を。
「…盛り上がってる所を悪いんだけどね、その先、本気で禁止だから!」
切られたいのか、と思い切り凄んだ所まではいいんですけど…。
「……もう懲りましたよ、戒名サイト……」
泣きの涙のシロエ君。私たちは会長さんの家のリビングで懸命にシロエ君を慰めていました。ソルジャーときたら、よりにもよってキャプテンの大事な部分に名付けるから、とシロエ君の情けない戒名、珍爆を失敬して行ったのです。強奪したと言うべきか…。
「盗られたんだから、もういいじゃないか。君の戒名は改めて付けてあげるよ」
御希望ならば、と会長さん。
「戒名泥棒なんて初耳だけれど、異文化だから仕方がない。肉屋のパンツも盗まれちゃったし、何処まで手癖が悪いんだか…」
「おまけに悪戯書きして帰ったぞ」
どうするんだ、とキース君が深い溜息をつけば、マツカ君が。
「油性ペンですし、除光液で拭けば落ちると思います。今の間に拭いて来ますか?」
「放置しとくよ、抑止力ってヤツになるだろう。誰が書いたか分からないから、肉屋のパンツより効果的かも…」
ぼくが肉切り包丁持参でぶった切りに行く可能性大、と会長さんは悪魔の微笑み。
「うっかりオカズでサカッた途端にバッサリやられたら大変だしねえ、消えるまで大人しくしてると思う。妄想男には切り取り線だよ、大事な部分を三分割!」
「かみお~ん♪ それで、牛さんはどこ?」
美味しい牛さんをお料理するんだぁ! と肉切り包丁を振り回している「そるじゃぁ・ぶるぅ」は未だに気付いていませんでした。牛といえば教頭先生、切り取る部位と順番はソルジャーが褐色の肌にマジックでじかに書いたのに…。
「ぶるぅ、牛肉はマザー農場で貰ってくるから! 幻の最高級のヤツをたっぷりね」
「ホント!? わぁーい、ステーキパーティーしようね!」
食欲の秋だし沢山食べなきゃ、と御機嫌で跳ねている「そるじゃぁ・ぶるぅ」。教頭先生の肉屋のパンツを奪って帰ったソルジャーの方はキャプテンと大人の時間でしょう。珍爆と名前がついた部分が大活躍だと思うのですけど、具体的なことは分かりません。
「……ぼくの戒名、どうなったでしょう……」
「多分、元気に活躍してるよ。肉屋のパンツとセットでね…」
その件はもう忘れたまえ、と会長さんがシロエ君の肩を叩いています。その一方で、切り取り線と切る順番とを肌に書かれた教頭先生は素っ裸で御自宅で卒倒したまま。早く気付いてお風呂に入って、落書きを落として下さいです。
えっ、会長さん、サイオンで落書きをコーティングした? それは鬼だと思いますけど、取れるまでに何日かかるんでしょう? お気の毒な教頭先生の可食部分に合掌です、はい~。
手順と順番と・了
※いつもシャングリラ学園を御贔屓下さってありがとうございます。
戒名作成サイトと肉屋のパンツは実在してます、本当です。
肉屋のパンツはインパクト大です、現物を見たわけじゃないですけどね(笑)
シャングリラ学園シリーズは4月2日で本編の連載開始から7周年になりました。
7周年記念に4月は月に2回の更新です。
次回は 「第3月曜」 4月20日の更新となります、よろしくです~!
そしてハレブル別館の更新ペースが上がりますが、シャン学の方は従来通り。
毎日シャン学があるほどですから、あくまでシャン学がメインです。
シャン学が止まることはありませんので、どうぞよろしくお願いしますv
※毎日更新な 『シャングリラ学園生徒会室』 はスマホ・携帯にも対応しております。
こちらでの場外編、4月は恒例のお花見に出掛けるようです、どうなりますやら…。
←シャングリラ学園生徒会室は、こちらからv