シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
今日は土曜日。ハーレイが訪ねて来てくれて、ブルーは楽しい一日を過ごした。最初はブルーの部屋でのティータイム。紅茶とお菓子で語らった後は昼食、午後もブルーの部屋で紅茶とお菓子。夕食は両親も一緒にダイニングで和やかに食べたのだけれど。
食事が終わって、母が飲み物を用意しようと立ち上がった。
「ハーレイ先生はコーヒーでよろしかったかしら? それとも紅茶になさいますか?」
「今日はコーヒーでお願いします」
ハーレイが答え、父もコーヒーを注文した。ブルーには苦すぎて飲めないコーヒー。でも…。
「ママ! ぼくもコーヒー!」
急にコーヒーが飲みたくなった。ハーレイはいつもブルーに付き合って紅茶だけれども、本当はコーヒーが大好きなことを知っている。前の生でも大好きだったし、今のハーレイもブルーが一度だけ遊びに出掛けた家でコーヒーを飲んでいた。それも大きなマグカップで。
ハーレイが大好きなコーヒーだから、たまには飲んでみたいと思った。ハーレイと一緒の夕食の席で、ハーレイと同じ飲み物を。
「いいでしょ、ママ? ぼくも飲みたい!」
せがむと母は「苦いわよ?」と困ったような顔をした。ハーレイも横から口を出す。
「おいおい、眠れなくなるぞ? それに苦いし」
「パパも苦いと思うがなあ…。どうしても欲しいなら薄めに淹れて貰いなさい。なあ、ママ?」
「やだっ!」
同じでなければ意味が無い。ハーレイの大好きな苦いコーヒー。絶対にハーレイと同じがいい。お子様仕様のコーヒーにされてたまるものか、とブルーは駄々をこねた。
「みんなと同じコーヒーがいい! 薄いのなんて子供用だし! コーヒーは前も飲んでたし!」
前の生でも飲んでいたのだ、とソルジャー・ブルーだった前世を持ち出してみたら、ハーレイが「おい」と止めに入った。
「おいおい、ブルー。お前はソルジャー・ブルーだった頃にもだな…」
「紅茶だったって言うんでしょ? それは好みの問題だから!」
コーヒーがいい、と強請り続けると、ハーレイは仕方なさそうに。
「だったらカップに半分にして貰え。薄められるからな」
「それもやだっ! ぼくは絶対、みんなと同じ!」
ハーレイと同じがいいとはとても言えないから、「みんな」と誤魔化す。それに気付いたらしいハーレイがフウと大きな溜息をついた。
「知らんぞ、俺は。…どうなってもな」
「どうもならないっ! ママ、ぼくもコーヒー飲むんだから!」
母は「しょうがないわねえ…」とキッチンに向かう。ブルーは嬉しくてたまらなかった。食後の飲み物はハーレイと同じ。ハーレイの大好きなコーヒーなのだ。
念願の香り高いコーヒーのカップ。湯気を立てるそれを御機嫌で口にしたブルーだけれど。
「……苦い……」
あまりの苦さに顔を顰めれば、ハーレイが「当たり前だ」と呆れ顔で。
「だから言っただろう、半分にしろ、と。薄められるように」
「うー…。ママ、お砂糖…」
ハーレイや両親と同じ量の砂糖では全く足りない。それを見越した母がコーヒーと一緒に持って来ておいたシュガーポットを渡して貰った。
(…ハーレイと同じじゃなくなっちゃうけど、飲めないよりマシ…)
たっぷりと砂糖を入れたというのに、かき混ぜて飲んでもまだ苦い。ブルー好みの味には程遠い苦さ。もっと、とシュガーポットに手を伸ばしたら「無駄だな」とハーレイの声がした。
「砂糖を入れても苦味は残るぞ。お母さんには申し訳ないが、半分捨てて貰ってミルクをだな…」
「ハーレイ先生の仰るとおりだな。ブルー、カフェオレにして貰いなさい」
父にも言われて折れるしか無かった。半分がミルクのカフェオレとやらになれば飲めるかと期待したのに、ブルーにはまだ苦すぎる。飲んで飲めない味ではないが…。
それでもハーレイの好きなコーヒー。なんとしても飲み干すのだ、と頑張ってみても苦いものは苦い。顔に出さないよう振舞ったものの、少しずつしか飲んでいなければ見抜かれる。ハーレイがブルーをチラと眺めて、母の方へと視線を移す。
「カフェオレでもまだ苦すぎるようですね。…ホイップクリームに砂糖たっぷりで。それを入れてやって頂けますか?」
「そうですわね…。ブルー、カップを寄越しなさい」
こうなれば諦めるしかない。ブルーは殆ど減っていないカフェオレのカップを母に手渡し、間もなく憧れのコーヒーはホイップクリームをこんもりと浮かべた別物になって戻って来た。泣く泣く飲むことにしたカップの中身は、悔しいけれども口に合うもので。
(…これなら美味しい…)
コーヒー風味の甘い飲み物。コクリと飲んで、またコクリと。さっきまでとは全然違う。
「あらあら…」
母がクスッと笑った。
「これならブルーも飲めるのね。流石はキャプテン・ハーレイですわね」
「…こいつには前科があるんです。都合よく忘れているようですが」
シャングリラでも苦労しました、というハーレイの言葉に両親がブルーを見ながら頷いている。こう見えて頑固な子供なのだし、ソルジャーだった頃はさぞかし強情であっただろうと。
ブルーが頼んだコーヒーは食後の時間の格好の話題となり、ハーレイは両親と何度も笑い合った末に「また明日な」と帰って行った。こんな筈ではなかったのに。ハーレイと同じ食後の飲み物を飲んで、幸せに浸る筈だったのに…。
ハーレイと同じコーヒーが飲めなかった残念さゆえか、悲しさゆえか。その夜、ベッドに入ったブルーは寝付けないまま何度も寝返りを打った。部屋は暗いのに眠くならない。いつもなら直ぐに眠りがやって来るのに、何故か意識が冴え返る。
(…やっぱり悔しかったからなのかな?)
コーヒーが飲めない子供扱い。おまけに本当に飲めなかった上、すっかり別物に化けてしまった自分のコーヒー。ハーレイと両親はほんの少しだけクリームを入れて、砂糖だってブルーが紅茶に入れるくらいしか入れなかったというのに、ブルーは砂糖にミルクにホイップクリーム。
そんな目に遭って悔しくならない筈が無い。自分は子供だと思い知らされたようで、ハーレイと同じ物を飲むには幼すぎると言われたようで。
悔しいから腹が立って眠れないのだ、とブルーはパッチリと目を見開いた。暗い天井を見上げ、情けなかったホイップクリームたっぷりのコーヒーを思い浮かべて睨み付ける。憎くて腹立たしい子供の飲み物。自分が前よりも小さいばかりに登場してきた甘い飲み物。
(ハーレイ、ホントに酷いんだから…!)
子供な自分を鼻で笑ってミルクを入れろだの、砂糖たっぷりのホイップクリームだのと言いたい放題、前の生での好みまで暴露してくれた。お蔭で両親に笑いの種を提供してしまい、昔はもっと頑固だったの、強情だのと…。
(……あれ?)
前の生での自分の好み。コーヒーにはミルクをたっぷりと入れて、ホイップクリームにも砂糖をたっぷり。それをこんもりと浮かべたコーヒーを飲んでいたのはいつだったろう?
(……もしかして、ぼく、子供じゃなかった……?)
アルタミラからの脱出直後はコーヒーを楽しむどころではなかった。けれどその頃が前の生での成長期。成人検査を受けた時のままの姿で時を止めていたブルーの背が伸び、幼さが消えて大人になっていった時期。
(…あの頃、コーヒー、あったっけ…?)
無かったこともないのだろうが、ミルクやホイップクリームなどをふんだんに使えた筈が無い。そういったものを嗜好品に回せるようになった頃にはシャングリラの改造も完全に終わっていた。ブルーのために青の間が出来、其処でハーレイとお茶の時間を過ごしていた。
(…うん、ハーレイが紅茶を淹れてくれてた…。熱いですよ、って…)
一緒に紅茶を飲んでいたハーレイ。たまにやたらと時間をかけて自分用にとコーヒーを淹れて、その香りだけは美味しそうに感じる苦い飲み物を楽しんでいた…。
(ひょっとして、ハーレイが言ってたのって…)
前のぼくだ、とブルーの記憶が蘇った。ミルクとホイップクリームたっぷりのお子様仕様の甘いコーヒー。それはソルジャー・ブルーだった自分の好みで、子供の姿では既に無かった。
思い出し始めると次から次へと浮かび上がってくる前の生の記憶。ハーレイが飲んでいるものと同じものが欲しい、と前にも思った。芳しい香りが漂うコーヒー。紅茶よりもずっと濃い色をしたハーレイの大のお気に入り。
「ねえ、ハーレイ。ぼくも欲しいな」。
飲んでみたいな、と強請ってみたら「苦いですよ」と返されたけれど。「あなたの舌には不向きですよ」とも言われたけれども、どうしても飲んでみたかった。せがんで、強請って、頼み込んで淹れて貰ったコーヒー。苦すぎて一口で顔を顰めてしまったコーヒー。
(…ぼくの前科って……)
ハーレイが両親に言った言葉を思い出す。「こいつには前科があるんですよ」という台詞が何を指していたのか、今なら分かる。ソルジャー・ブルーだった自分も全く同じことをしていたのだ。ハーレイが好む飲み物が欲しいと頼んで、そのくせに苦くて飲めなくて…。
(…ハーレイ、あれで大慌てしちゃったんだっけ…)
ハーレイのお気に入りが口に合わなくて悲しかった。ハーレイは美味しそうに飲んでいるのに、飲めない自分。置き去りにされてしまった気がして、寂しくて悲しくて俯いた。決してハーレイのせいではないのに、ハーレイは酷く狼狽えて…。
(最初にミルクを沢山入れてくれて、それでも駄目でお砂糖たっぷりのホイップクリーム…)
そこまでして貰って、ようやく飲めた。ハーレイが好むコーヒーとはまるで別物になった飲み物だけれど、コーヒーの香りは残っていた。
そんな経験をしていたくせに、何度もコーヒーを強請った自分。その度にハーレイは律儀に手をかけて淹れてくれては、ミルクとホイップクリームまで入れる羽目になって…。
(だけど一度も断られたことは無かったよね…)
どうなるか結果が見えているのに、否と言われはしなかった。丁寧に淹れたコーヒーのカップを「どうぞ」と差し出し、ただ穏やかに微笑んでくれた。
(…いつもミルクとホイップクリームたっぷりになっちゃったのに…)
そして眠れなくなっていたのに、と我儘だった自分を思い出す。遅い時間に口にしたコーヒーのせいで目が冴えて眠れず、ハーレイがブリッジから青の間に来た時もまだ起きていて。
(だから言ったでしょう、って叱られたっけ…)
夜にコーヒーを飲むからです、と眉間に皺を寄せはしたけれど、ハーレイは唇に優しい口付けをくれた。眠れないと訴えるブルーを寝かしつけてくれた。
あんなに目が冴えて眠れずにいたのに、ハーレイの腕に抱かれて心地よく眠って、いつの間にか朝になっていて…。
「そっか、コーヒー…」
それで全然眠れないんだ、と今のブルーと前の生の記憶が結び付いた。ハーレイと同じ飲み物が欲しくて頼んだコーヒー。「眠れなくなるぞ」と止めたハーレイはソルジャー・ブルーだった頃のブルーがどうなったのかを恐らく覚えていたのだろう。
(…ど、どうしよう…)
枕元の時計に目をやれば、とっくに日付が変わっている。眠れないままで経った時間が数時間。明日は日曜日で休みだとはいえ、大好きなハーレイが訪ねて来てくれる日。寝不足で過ごしたくはないのに眠れない。眠気は訪れそうもない。
(…どうしたらいいの? どうやったら眠くなって寝られるの?)
ハーレイが得意だった寝かしつけ方。
いつだって魔法のようにブルーを眠りへと導いてくれて、側に寄り添っていてくれた。心地よい眠りをくれたハーレイ。その方法を教えて欲しい。
(ハーレイ、寝られないんだけど…!)
呼び掛けたくても、今のブルーにはハーレイだけに届く思念は紡げない。それにハーレイだって深く眠っていそうな夜中。自業自得で眠れないブルーのためには起きてくれそうもない。
(…何か方法がある筈なんだけど…)
ハーレイだけが知っていた方法なのか、コーヒーを好む者たちの間では有名なのか。目が冴える飲み物だと知っているのだから、対処法も知っているかもしれない。
(……お薬とか?)
それはありそうだ、とブルーは思った。前の生ではドクターが睡眠薬を処方してくれた。戦闘で心身が疲弊していても気が昂って眠れない時、そういう薬を何度も貰った。もちろんキャプテンのハーレイが知らない筈が無い。どんな薬か、いつ飲んだかも報告が行っていただろう。
(…あの薬かな?)
ブルーがコーヒーを飲んだ夜には貰いに出掛けていたかもしれない。眠れないブルーを叱り付けながら優しい口付けをくれたハーレイ。あの時に口移しで薬を飲ませていたのかも…。
「うー……」
薬だとしたら手も足も出ない。今のブルーは睡眠薬など飲んではいないし、両親も同じ。家庭の常備薬ではないから、薬箱などを覗いて探すだけ無駄。
「…眠れないよ……」
寝られないよ、と届く筈もない声でハーレイに向かって訴える。眠りたいのに眠れないと。前と同じで眠れなくなってしまって辛いんだけど、と。
そうこうする内に身体が疲れ果てたか、ようよう眠りが訪れてくれて…。
翌朝、目覚ましの音で目覚めたブルーは普段よりも頭が重かった。体調不良の兆候ならぬ単なる寝不足と分かっているから、目をゴシゴシと擦って起きる。冷たい水で顔を洗って、両親と朝食を食べる頃には眠かった意識もスッキリとした。
二度とコーヒーなど飲んでたまるか、と思うけれども、ハーレイの大好きな香り高いコーヒー。前の生でも今の生でも、ハーレイが好む苦い飲み物。
(…ハーレイと同じの、飲みたいんだけど…)
しかしハーレイが寝かしつけてくれた前世と違って、今はもれなく寝不足の状態に陥りそうだ。いつかハーレイと同じ家で暮らせる時が来るまで、飲まない方がいいのだろうか?
(…そうなのかも…)
それとも寝かせ方の秘訣をハーレイに訊くか。薬だったらどうしようもないが、そうでないなら望みはある。自分で出来る方法だったら、それを習っておけばいい。
(やっぱりコーヒー、飲みたいもの…)
苦くてもハーレイの大好きな飲み物。大好きなハーレイが好む飲み物…。
そんな思いを抱え込みながら部屋を掃除し、ブルーはハーレイの来訪を待った。
チャイムが鳴り、母に案内されて部屋を訪ねて来たブルーの待ち人。母が紅茶とお菓子を置いて出てゆき、その足音が階下に消えると、ハーレイは椅子に腰掛けながら問い掛けた。
「ブルー、昨夜はよく寝られたか?」
堪え切れない笑みを湛えた表情。投げ掛けられた質問といい、全てを承知している顔。ブルーは憮然としてハーレイの向かいの椅子に座ると、八つ当たり気味に答えをぶつけた。
「ハーレイ、ぼくがどうなったか知ってるくせに!」
脹れっ面になったブルーに、ハーレイが「すまん、すまん」と謝りつつも笑う。
「いや、すまん。しかしだ、俺は言った筈だぞ、眠れなくなる、と」
「言ったけど…! ちゃんと言ってたけど、ハーレイ、酷い!」
酷い、とブルーはハーレイを睨む。
「前はハーレイが寝かせてくれていたこと、忘れていたし! 言ってくれなきゃ!」
「今度は寝かせてやれないからな、と俺は言わなきゃ駄目だったのか?」
「そうだよ、酷いよ!」
寝不足になってしまったんだから、と苦情を申し立ててからハーレイへの質問を口にする。前の生ではどうやって自分を寝かせていたのか、と。
「ハーレイ、口移しで薬でも飲ませてた? それとも何か秘訣があるの?」
それを教えて欲しいんだけど、と言った途端にハーレイが盛大に吹き出した。何が可笑しいのか肩を揺すって笑っている。テーブルの上のカップがカタカタと小さく揺れるくらいに。
「ハーレイっ! なんで笑うの、教えてってば!」
「こ、これが笑わずにいられるかって…! いやはや、まったく…」
「だから、どういう方法なの!?」
「お前にはまだまだ分からんさ、うん」
ハーレイが懸命に笑いを飲み込み、パチンと片目を瞑ってみせた。
「ついでに今のお前の場合は、だ…。あの方法では寝かせられんな、子供だからな」
「……子供?」
やはり睡眠薬だったのだろうか、とブルーは考えたのだけれども、それではハーレイが笑うほど可笑しいわけがない。子供には使えない寝かしつけ方だと言われても…。
(…寝かしつけるのって、普通、子供だよね?)
何か変だ、とハーレイがしてくれていた寝かしつけ方を頭の中で追ってゆく。口付けをくれて、抱き締めてくれて。その腕の中に自分を閉じ込めて…。
(…あっ!)
それで終わりではなかった気がする。寝付くまでの間に、ハーレイと二人…。
「…も、もしかして……」
ブルーの頬が真っ赤に染まった。その先は声に出せないけれども、ハーレイが前の生で眠れなくなった自分を寝かしつけていた方法は…。
「思い出したか? お前が大きく育つまではだ、あの方法は使えないわけだ。なにしろお前は消耗しちまって寝ていただけで、そこまで消耗させるには……なあ?」
(……や、やっぱり……)
今はまだ叶わない本物の恋人同士になること。そういう仲になった時しか出来ないハーレイとの甘い過ごし方。二人でベッドで眠る前にする、とても暖かくて幸せな…。
赤くなったまま口をパクパクとさせるブルーに、ハーレイは「分かったか?」と微笑んだ。
「今のお前には、何年早過ぎる手なんだか…。今はコーヒーを飲んだら寝不足になるしかないってことだな、今日みたいにな」
「…うー……」
ハーレイを上目遣いに睨み付けても、こればっかりはどうにもならない。ブルーは本当に小さな子供で、前の生での寝かしつけ方は不可能で…。
「それじゃコーヒー、もう飲めないの?」
ハーレイが大好きな苦いコーヒー。今の生でも前の生でも好きなコーヒー。
「今のところは諦めるしかなかろうが? 寝不足になって懲りたんならな」
コーヒーは当分やめておけ、と頭をポンポンと叩かれた上に。
「そうだ、コーヒー牛乳を買って貰うか? あれなら立派にお子様向けだ。シャングリラにアレは無かったな、うん」
「コーヒー牛乳!?」
「気分だけでもコーヒーだろう? なあ、ブルー?」
子供にはそれが丁度いいのさ、とハーレイは笑い続けるけれど。
ブルーが飲みたいものはコーヒーであって、コーヒー牛乳などではなかった。
大好きなハーレイが好きなコーヒー。ブルーの舌には苦すぎるけれど、ハーレイが大好きな苦い飲み物。ハーレイが好きな飲み物だから飲んでみたいし、同じコーヒーを飲みたいと思う。
(…やっぱり諦められないよ…)
大きくなるまで待つなんて無理、とブルーは目の前の紅茶を見詰めた。
紅茶なら寝不足にならないけれども、これよりも絶対、コーヒーがいい。
眠れなくなってしまったとしても、またコーヒーを飲みたいと思う。
ハーレイが大好きなコーヒーだから。ハーレイのことが好きでたまらないから、苦い飲み物でもコーヒーが欲しい。ハーレイと同じコーヒーを飲んで、ハーレイの側にいたいから…。
憧れのコーヒー・了
※ブルーには苦すぎて飲めないコーヒー。大人の飲み物だったからではなかったのです。
ソルジャー・ブルーだった頃からの苦手、眠れなくなっても幸せだったみたいですけどね。
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