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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

収穫祭・第1話

水泳大会からしばらく経って、グレイブ先生とパイパー先生の婚約発表で盛り上がっていたA組もようやく落ち着きを見せてきました。そんなある朝、登校すると…教室の後ろに机が一つ増えています。そこにはもちろん会長さんが。また何か起ころうとしているのでしょうか?
「…ちょっとね、楽しそうな匂いがしたから。あ、アルトさんとrさんが来た」
楽しそうな匂いって何ですか、と尋ねる前に会長さんはアルトちゃんたちの方に行ってしまいました。楽しそうに何か話しています。それから机に戻ってカバンの中から可愛い包みを二つ取り出し、アルトちゃんとrちゃんに渡しに行って…。また「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手作りおやつかと思ったのですが、アルトちゃんたちが包みを開けると、出てきたのは綺麗な小物入れ。
「この間、街で見つけたんだ。お守り袋を入れておくのにいいかと思って」
会長さんの声が聞こえてきます。アルトちゃんたちは顔を赤らめ、小さな声で何か言っていますが、さすがに聞こえてきませんでした。お守り袋っていえば…やっぱりアレしかありませんよね。会長さんは今も頻繁に女子寮に通っているものと思われます。まぁ、学校にバレてないんならいいんですけど。溜息をついているとグレイブ先生がやって来ました。
「諸君、おはよう。…ん?またブルーが来ているのか。まったく油断も隙もないな」
先生はフンと鼻を鳴らして。
「行事に目ざといブルーがいるから、何か起こると期待している者も多いだろう。そのとおりだ。来週、収穫祭が開催される」
収穫祭?…シャングリラ学園の敷地は広いですけど、畑なんて見たことありません。当然、田んぼも無いですし…いったい何を収穫すると?みんなも顔を見合わせています。
「なるほど。ブルーに頼りっぱなしのカボチャ頭な諸君であっても、有り得ない行事だということくらいは分かったようだな。シャングリラ学園には田畑もビニールハウスも無い。よって収穫するものも存在しないが、収穫祭はちゃんとあるのだ。我が学園と提携しているマザー農場が主催してくれる」
なんと!マザー農場といえば農業に酪農と手広くやっているので有名です。もしかしてそこで遊び放題、食べ放題?ジンギスカンとかもありましたっけ。クラス中がザワザワする中、グレイブ先生は咳払い。
「…そういうわけで、来週はマザー農場で収穫祭だ。だが!…働かざる者、食うべからず。汗一つ流していない諸君が収穫祭に行ったところで、有難味は全く無いだろう。よって、その前に労働がある。明後日、弁当持参で薪拾いをしてもらおう。拾った薪はマザー農場の冬の暖房に活用される」
「「「ええぇっ!?」」」
思わぬ展開にブーイングの声が上がりましたけど、決定が覆るはずがありません。なるほど、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が来てないわけです。小さな身体で薪拾いは大変そう。でも収穫祭にはちゃっかり姿を見せるのでしょうね。

薪拾いの日は朝から見事な快晴でした。ジャージに着替え、全校揃ってアルテメシア公園まで歩いて行って、裏山一帯で薪を拾うことになったのですが…渡されたのは四十センチ四方くらいの丈夫な布製トートバッグ。一人あたりのノルマはトートバッグに一杯分です。これってけっこう重くなりそう…。
「嵩張りそうな枝を選んで詰め込んでいけばいいんだよ」
会長さんが裏技を教えてくれました。
「でもジョミーたちは真面目に太い枝を拾った方がいいかもね。この日のために間伐材を切り揃えて置いてくれてるみたいだし…。それが丸々残っていたんじゃ、学校のメンツが丸潰れだろ?」
「うへえ…。そんなの置いといてくれなくていいのに」
「暖房用の薪集めだろう?細い枝ばかりじゃ意味ないさ」
そう言いながら会長さんはさっさと林に入っていきます。この山は柔道部の逆肝試しの時に来ましたっけ。あの時は真っ暗で不気味でしたけど、今日は明るくていい感じ。薪拾いっていうのも楽しいかも。私はスウェナちゃんと一緒に山の中に入り、会長さんに教わったとおり嵩張りそうな枝を見つけてはトートバッグに詰め込みました。うんうん、これなら楽勝です。お昼までにバッグは一杯になり、見晴らしのいい場所を見つけて座っていると。
「…ねえ。あそこに見えるの、会長さんよね?」
スウェナちゃんが下の方を指差しました。ジャージの生徒があちこちに点在していますけど、輝くような銀髪といえば会長さんしかありません。会長さんはトートバッグも持たずに何か探しているようです。
「落し物でもしたのかな?」
「あ、そうかも…。手伝った方がいいかしら?」
私たちはトートバッグを持って斜面を降りていきました。落ち葉に足を取られそう。こんな所で落し物をしたら、探すのはなかなか大変かも…。ズルズルと滑りながら近づいていくと、気付いた会長さんが手を振っています。
「どうしたんだい、二人とも?…薪は拾えたみたいだけれど」
「会長さんこそ、どうしたんですか?」
そばまで行って話しかけると。
「ぼく?…薪は集め終わったからね、ちょっと探し物をしてるんだ」
「…探し物?落し物じゃないんですか?」
「探し物だよ。興味があるなら手伝ってみる?」
会長さんは私たちのトートバッグを「貸して」と手に取り、次の瞬間、バッグは消えてしまいました。公園の集合場所に瞬間移動で送ったんだよ、と会長さん。両手が空いた私たちはお弁当の入ったリュックを背中に、探し物のお手伝いです。
「…探しているのはキノコなんだ」
キノコ?…この山、マツタケとかが出るのでしょうか。マツタケ狩りはもっと別の山だと思ってましたが…。
「違う、違う。そんなのじゃなくて…。あ、やっとあった!」
屈み込んだ会長さんが手に取ったのは毒々しい真っ赤な色のキノコでした。どう見ても毒キノコにしか見えないそれを会長さんはジャージのポケットから出したスーパーの袋に入れて満足そうです。
「これを探していたんだよ。…ジョミーたちにも頼んであるけど、戦力は多い方がいいしね」
「…そ、それって…」
スウェナちゃんが顔を引き攣らせ、袋の中身を指差しました。
「毒キノコだったんじゃないかしら?この間から新聞に度々記事が載っているのよ、キノコ狩りのシーズンだから。確か似たような写真が毒キノコのリストに…」
ジャーナリスト志望のスウェナちゃんは新聞記事をよくチェックしています。じゃあ、真っ赤なキノコはやっぱり本物の毒キノコ…?
「ああ、毒キノコには間違いないね、ベニテングダケって言うんだよ」
会長さんがニコッと笑いました。
「…だけど死んじゃうほどの毒ではないし、そんなに怖がらなくっても…。神経毒で幻覚が見えたりしちゃうんだ。マジックマッシュルームとはちょっと違うけど」
「そ、そんなもの集めてどうするんですか!?」
「…ひ・み・つ」
人差し指を唇に当てて、会長さんが微笑みます。
「毒キノコを触るのはイヤっていうなら、見つけた時に呼んでくれればいいからね。ぼくが採るんなら平気だろ?」
うーん、そういう問題でしょうか?だけどキノコは気になります。キノコ探しをお手伝いしたら、秘密も教えてもらえるのかな?
「もちろんだよ」
会長さんの笑顔に負けて、スウェナちゃんと私はベニテングダケ探しを始めました。なかなか見つからない内にお弁当の時間になって、会長さんがいつもの『頭の中に響く声』でジョミー君たちを呼び集めます。
「その辺の開けた所がいいかな?ちょうど切り株も幾つかあるし」
みんな揃って腰を下ろすと、風もないのにいきなり木の葉が舞い上がって。
「かみお~ん♪」
クルクルクル、と回転しながら現れたのは風呂敷包みを抱えた「そるじゃぁ・ぶるぅ」だったのでした。

「ブルー、お待たせ!お弁当とお味噌汁だよ」
風呂敷包みの中から出てきたものは会長さんと「そるじゃぁ・ぶるぅ」の分らしいお弁当と、大きな重箱。更に人数分のお碗を取り出し、小さなお鍋からおたまで中身を注ぎ始めたんですけれど…。
「山の中で熱々のお味噌汁って贅沢だよね。イワシのつみれ汁、沢山あるから」
9人分のお味噌汁を注ぎ分けても、お鍋から湯気が上がっています。このお鍋、何処かの空間に繋がってるの?
「お味噌汁?…ぼくのお部屋のお鍋の中から転送してるよ。せっかくのお弁当だし、お味噌汁は熱い方がいいもん」
イワシのつみれ汁の他にも、重箱の中はに旬の食材をたっぷり使ったおかずが一杯。私たちが薪拾いをしている間、頑張って作ったに違いありません。デザートもあるよ、と手作り栗饅頭まで出てきました。
「ほんとはキノコたっぷりのお味噌汁を作りたかったんだけど…」
ブルーが変なキノコを集めてるしね、と「そるじゃぁ・ぶるぅ」。
「キノコ汁だと嬉しくないでしょ?」
「…さすがに今は遠慮したいな」
キース君が答え、私たちも頷きました。ベニテングダケを探してる時にキノコを食べたら、食中毒になりそうな気が…。
「そんなにイヤかな、ベニテングダケ」
会長さんが栗饅頭を食べながら袋を覗き込んでいます。ジョミー君たちが何本か採ってきたので中身は少し増えていました。ひい、ふう、みい…と数えた会長さんは楽しそうな顔でスーパーの袋を地面に置いて。
「今で8本。十本は欲しいところだけれど、みんなの頑張り次第だね」
「…そんなの集めて何するのさ?」
ジョミー君が私たちと同じことを尋ねましたが、どうせ答えは「秘密」だろう…と思った時です。
「好奇心を満足させたいんだよ」
会長さんが拾った枝で袋をつつきながら言いました。え?…もしかして教えてくれるんですか?
「キノコ集めを手伝ってくれてるんだし、教えないわけにはいかないさ。…ベニテングダケを食べると幻覚が見えるっていうからね…。ちょっと試してみたいんだ」
「「「ええぇっ!?」」」
私たちはビックリ仰天。まさか会長さんが食べるだなんて、いくらなんでもあんまりです。
「やめとけ、頼むからやめてくれ!」
「そうだよ、大変なことになるかも…」
キース君もジョミー君も顔色を変えて会長さんに詰め寄りました。シロエ君やサム君たちも思いとどまるように必死の説得。でも会長さんはニコッと笑って。
「…大丈夫、ダテに三百年以上も生きてないから。ね、ぶるぅ?」
「うん!ブルーなら絶対大丈夫だよ。ぼくも頑張ってお手伝いするし♪」
「まさかお前が料理するのか!?」
キース君の叫びに「そるじゃぁ・ぶるぅ」はニコニコ顔で頷きました。
「もちろん!…ぼく、お料理は大好きだしね。初めての食材ってドキドキしない?」
もしかして試食する気でしょうか。それだけはなんとしても止めないと!でもその前に会長さんが…。
「ぶるぅ、料理するのは任せるけれど、試食なんかしちゃいけないよ。お前は子供なんだから」
「そうなの?…なんだかつまんないけど…ブルーが言うなら仕方ないね」
それから「そるじゃぁ・ぶるぅ」は空になった重箱やお碗、お鍋を片付けた風呂敷包みを抱え、瞬間移動で部屋に帰っていきました。お弁当もデザートも食べたし、キノコ探しを頑張らなくっちゃ。

薪拾いの終了時間まで7人グループで探しまくって、新しく見つかったベニテングダケは4本でした。合計十二本の赤いキノコを入れた袋を、会長さんは「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に送ったみたいです。それから各自、トートバッグに詰めた薪をシャングリラ学園まで持って帰って、校庭の指定の場所に積み上げて。
「みんな、今日はよく頑張ってくれた」
教頭先生が薪の山を眺め、慰労の言葉をかけてくれました。
「これだけの量の薪があればマザー農場の人たちも喜ぶだろう。だが、農場の人の仕事に比べれば、薪拾いなどほんんの遊びだ。収穫祭に行ったら大歓迎して下さるのだが、感謝の心を忘れないように」
「「「はーい!!!」」」
全校生徒が元気に返事し、あとは教室で終礼をして下校です。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の部屋に行ってみると、例のキノコがお皿の上に盛られていました。ソファに座った会長さんが目を輝かせてベニテングダケを見ています。
「…まさか、本気で食べるとか…?」
こわごわ尋ねたのはジョミー君。会長さんは余裕たっぷりの笑みを浮かべてキノコをそっと撫でました。
「本気だよ。…幻覚キノコがどれほどのものか、興味ある」
「…やめるつもりは…?」
「ないね」
キッパリと言った会長さん。私たちはもう祈ることしか出来ないようです。三百歳を超えても好奇心旺盛なのはいいんですけど、幻覚を起こすキノコなんかに手を出すなんて…。どうかとんでもないことになりませんように!いつお守りで呼び出されるかも分からないんですし、食べない方が身のためじゃないかと思うんですが…。



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