シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。
「ブルー? ママはお買い物に行って来るから」
学校から帰って来て、制服から家で着る服に着替えて。階段を下りてダイニングに入ったら声を掛けられた。普段ならぼくが学校に行っている間に済ませる買い物。今日はお客さんが来ていて、行けなかったみたい。
「おやつは其処よ。飲み物は自分で好きなのを入れて」
食べ過ぎちゃ駄目よ、と念を押してママは出掛けて行った。ダイニングで一人でおやつの時間。お客さんに出したケーキの残りなんだろう、マロンクリームたっぷりのモンブラン。
(えーっと…)
モンブランはお腹が一杯になりやすいから、小さめに切ったらいいのかな?
いつも食べるケーキがこのくらいだから、モンブランはそれより小さめ…、と切ってお皿の上に乗っけて。お湯を沸かして紅茶も淹れた。ミルク多めでお砂糖も多め。
(モンブランは甘いものね)
甘いミルクティーは思ったとおりによく合った。美味しく食べて、ミルクティーも飲んで。
(…もうちょっとだけ食べようかな?)
ほんの一センチか二センチくらい。それなら食べ過ぎにならないと思う。モンブランはとっても美味しかったし、もう少し…。
(ちょっとくらいなら平気だよね?)
晩御飯さえきちんと食べれば大丈夫。よし、とナイフを取りに行こうとしたら。
(えっ?)
ゴツン、と変な音がした。コツン、だったかもしれないけれど。
ダイニングの窓の方から聞こえた。庭が見えるように、ぼくの背丈よりも大きなガラスを嵌めた掃き出し窓が並んでいる辺り。
(…ゴツン?)
何の音だろう、と見に行って窓から覗いてビックリ。
窓ガラスにぶつかってしまったらしくて、外のテラスに小鳥がコロンと転がっていた。仰向けに転がって動かない小鳥。白いお腹と小さな足はピクリともしない。
(死んじゃった?)
ぼくが慌てて窓を開けたら、その音で気が付いたんだろう。小鳥はなんとか起き上がった。
だけど、まん丸。
身体中の羽根がプウッと膨れてしまって、ふくら雀みたいにまん丸な小鳥。
(…縮むのかな?)
多分、驚いて羽根が逆立っているんだとは思うけれども。
直ぐに縮むと思った小鳥の身体は縮まなくって、まん丸のままで突っ立っている。クルンとした目はちゃんと開いているけれど、動きもしないし、瞬きもしない。
(もしかして打ちどころが悪かったとか…?)
お医者さんに連れて行くべきだろうか、と眺めていて不意に「あっ」と思った。
(青い鳥だよ)
白いお腹をしていた鳥の他の部分は瑠璃色の羽根に覆われていた。
艶々と輝く、目の覚めるような綺麗な青。空の青よりもっと深い青。
前のぼくが憧れた地球よりもずっと、青い青い羽根を纏った本当に本物の青い鳥…。
遠い遠い昔、前のぼくがシャングリラで暮らしていた頃。
シャングリラの中だけがぼくたちの世界だった頃。
なんとか余裕が出来てきたから、本とかを読める時間が取れるようになった。
それまでは本を読むと言っても必要な知識を仕入れることが最優先で、娯楽としての読書の時間じゃなかった。それぞれが得意とする分野の本だけを懸命に読み込んだ時代。
そういう時代がどうにか終わって、気の向くままに色々な本を読めるようになったから。ぼくは普通の本も読んだけど、童話なんかにも手を出した。成人検査とアルタミラでの過酷な人体実験で失くしてしまった昔の記憶が蘇るかも、という気がしたから。
幼かったぼくが何を読んだのか、どんな本や絵本を好んでいたのか。小さな欠片でも思い出してみたくて、折に触れては絵本や童話を手に取っていた。
そんな日々の中、出会ったSD体制が始まるよりも前に書かれた物語。小さな兄妹が夢の世界で幸福の象徴の青い鳥を探しに出掛ける話。
前のぼくが幼い頃にそれを読んだのか、そうでないのかは分からなかったけれど。
青い鳥に無性に心を惹かれた。
幸せを運んで来てくれる青い鳥。青い地球の色を宿した鳥。
シャングリラで青い鳥を飼いたくなった。
青い地球まで行けるようにと、幸福を運んで来てくれるようにと。
だけど…。
「そんなものは何の役にも立たんわ」
まだ若かったゼルにバッサリと切って捨てられた。
「本当に幸福を運んで来るなら使えるだろうが、ただの青い鳥なんか厄介なだけだ」
…ゼルが言う通り。
青い鳥は何の役にも立たない。餌を食べるだけで世話が必要なだけ。
それでも欲しくて、あれこれと調べてみたのだけれど。
(…卵が美味しいとか、そういう青い鳥がいれば良かったんだけどね?)
役に立つ青い鳥は見付からなかった。
青い色の鳥が沢山いることは分かったけれども、どれも生活に役立つものじゃなかった。小鳥を飼っても子供たちしか喜ばないだろうし、公園に放すわけにもいかない。
前のぼくの憧れの青い鳥。幸せを運ぶ、地球と同じ色の羽根をした青い鳥。
いくらソルジャーでも、我儘を言って青い鳥を飼うことは褒められたことじゃなかったから。
(…諦めるしかなかったんだよね、青い鳥…)
その代わり、ナキネズミを開発した時に青い毛皮をしたのを選んだ。
開発途中では白とか茶色の個体もいたんだけれども、毛皮の色で能力に差は生じないとの説明を聞いて青い毛皮の個体を推した。絶対に青がいいと思った。
だって、幸せの青い鳥と同じ青だから。
ミュウに幸福を運んで来てくれるようにと、願いをこめて青を選んだ。
そういうわけで、ミュウが創り出した思念波を操る生き物、ナキネズミは青い毛皮を纏うことになった。幸せの青い鳥の代わりに…。
(前のぼくは青いナキネズミが精一杯だったんだけどね?)
ぼくはテラスでまん丸になったままの青い小鳥を見詰めた。
流石は地球だ。
ぼくがおやつを食べてる所へ、青い鳥が降って来るなんて。
(ホントに本物の青い鳥だよ)
お腹は白いけど、他は全身、見事な瑠璃色。染めたわけじゃなくて、自然の瑠璃色。
ぼくの所へ飛び込んで来てくれた青い鳥。
前のぼくの憧れだった幸せの青い鳥。
ハーレイにも見せてあげたいな、と思うけれども…。
(…もし来てくれても、学校の帰りに寄ってくれる時間は夕方だしね…)
そんな時間まで飛び立てなかったら小鳥はおしまいだと思う。
暗い中では目が見えない鳥も多いって聞くし、ねぐらに帰れなくなるとか、迷うとか…。森には小鳥を餌にしているフクロウとかも棲んでいる。見付かってしまったらそれでおしまい。
(早く飛べるようになるといいんだけれど…)
ぼくのサイオンがもっとマシなら「元気出してね」って言ってあげられるかもしれないのに。
お医者さんに連れて行くべきかどうか、調べられるかもしれないのに。
ママにもそういうサイオンは無い。それに、そのママは今、買い物で留守。
(……どうしよう……)
青い小鳥は嬉しいけれども、死んでしまったらそれどころじゃない。
(家に鍵を掛けて、お医者さんまで連れて行く?)
だけど、小鳥を診てくれるお医者さん。
獣医さんに行けば診てくれるだろうけど、ぼくは獣医さんに行ったことがない。
(…人間の病院と同じかな? お願いします、って言えばいいのかな…)
とにかく連れて行ってみようか、と入れ物を探すことにした。
ペット専用のケージなんかは家に無いから、普通の箱でもいいんだろうか。
(えーっと、空き箱…)
何処にあるかな、と立ち上がった途端にチャイムの音。
お客さんだろうと思ったのに…。
「はーい!」
返事したぼくは、お客さんが誰か分かって目を見開いた。
「えっ、ハーレイ!?」
大慌てで玄関の扉を開けて飛び出し、門扉を開けに庭を走って行った。チラリと見たガレージにハーレイの車。生垣の向こう、門扉の脇でハーレイが軽く右手を上げている。
「すまんな、お前しかいなかったのか?」
「うん。ママは買い物」
門扉を開けて、ハーレイが庭に入って来て。
玄関まで二人並んで庭を歩きながら、ぼくはハーレイに尋ねてみた。
「なんで早いの? まだ夕方にもなっていないよ」
「今日は特別だ。柔道部がお疲れ休みというヤツなんだ」
昨日は大会だったからな、と話すハーレイと一緒に玄関から入る。ハーレイは靴を脱いで上がる途中で、先に上がっていたぼくを見上げてニッと笑った。
「お前と一緒に帰って来てもいいくらいだったな、この時間だとな」
「そうだね、学校で待ってれば良かったのかも…」
待っていればハーレイの車に乗せて貰って家まで帰って来られたかもしれない。
それはちょっぴり残念だけれど、こんなに早い時間にハーレイが家に来てくれるなんて…。
(もしかして、これが青い鳥の幸せ?)
ホントに幸せを運んで来たよ、と嬉しくなった。
でも…。
その青い鳥は、テラスでまん丸。
動かないままで、ふくら雀みたいに膨れてまん丸。
お医者さんに行こうとしてたんだっけ、と思い出した。
(ハーレイが来てくれたことは嬉しいけれども、命懸けで幸せを運ばなくてもいいんだよ…)
それじゃ、ぼくと同じ。
ミュウの未来を守るためにメギドを沈めて死んでしまった前のぼくと同じ。
そこまで頑張らなくてもいい。
いくら幸せの青い鳥でも、そこまで頑張ってくれなくていい……。
きっとぼくは悲しそうな顔になったんだろう。ハーレイが「どうした?」と訊いて来た。
「どうしたんだ、ブルー? 急に元気が無くなったぞ?」
「……ぼくの青い鳥……」
「青い鳥?」
ハーレイは怪訝そうな顔をして問い返したから、ぼくはハーレイの腕をグイと掴んだ。
「こっち! 大変なんだよ、ぼくの青い鳥…!」
大きな身体をグイグイ引っ張って、ダイニングの窓際へ連れて行った。
青い小鳥はやっぱり、まん丸。
膨らんだままでテラスに突っ立っている。そう、魂が抜けてしまったみたいに。
「ハーレイ、これ…」
指差すと、ハーレイは「オオルリか」と小鳥の名前を口にした。
「なるほど、ガラスにぶつかったのか…。映った景色を本物の景色と間違えたんだな」
「…オオルリって言う鳥なんだ?」
「ああ。綺麗な鳥だが、鳴き声の方も有名なんだぞ? ウグイスにも負けない綺麗な声だ」
しかし、この状態では鳴くどころではなさそうだな…。
どれ、とハーレイが窓際に屈み込んで大きな手を差し出しても、青い小鳥は動かない。膨らんだ身体も縮みはしないし、ハーレイの手が真上に来たって動かない。
「うーむ…」
「大丈夫そう?」
「さてな…。俺もこの手のサイオンってヤツは、だ…」
あまり得意じゃないからな、と言いながらも褐色の手からふわりと淡い緑のサイオン。そうっと青い小鳥をサイオンで包むようにして、直接触らずに暫く探っていたけれど…。
「どうやら驚いているだけのようだ。人間で言えば腰が抜けたといった所か」
深刻なダメージは受けていない、と聞かされて心の底からホッとした。
命懸けで幸せを運んで貰ったとしたら、申し訳ないなんてものじゃないから。
ぼくに幸せをくれたんだったら、青い鳥にも幸せになって欲しいから…。
ほうっと息をついて膨らんだ小鳥を眺めていたら、ハーレイが訊いた。
「それにしても、お前…。この程度のことも出来なくなっちまったのか? こいつがどんな状態かくらい、前のお前なら一瞬で分かった筈なんだがな?」
「うん…」
とことん不器用になってしまった、ぼくのサイオン。前のぼくと同じタイプ・ブルーのくせに、何ひとつ満足に出来やしないし、思念だって上手く紡げやしない。だから小鳥を見詰めて呟く。
「小鳥が大丈夫か調べるどころか、青い鳥が来ることも分からなかったよ」
「青い鳥って…。そりゃ青いだろう、オオルリだぞ?」
「そうじゃなくって、青い鳥だよ。幸せの青い鳥、覚えていない?」
「そっちの方の青い鳥か…」
前のお前だな、とハーレイは懐かしそうな瞳になった。
「お前、飼いたがっていたっけなあ…。シャングリラで」
「うん。思い出したんだよ、この鳥を見たら。…青い鳥だ、って」
前のぼくが欲しかった青い鳥。
憧れの地球と同じ青い色をした、幸せを運ぶ青い鳥。
でも、青い鳥は何の役にも立たなかったから、ナキネズミで我慢するしかなかった。
青い毛皮のナキネズミを飼って、ミュウの幸せを祈ることしか出来なかった。
欲しくて欲しくてたまらなかった青い鳥。
その青い鳥が降って来た。
今のぼくの前に空からコツンと、あるいはゴツンと、窓のガラスにぶつかって。
オオルリという名前を持っているらしい青い鳥。
ウグイスに負けない綺麗な声で鳴くとハーレイに聞いた青い鳥。
腰を抜かしているだけだったら、お医者さんには連れて行かなくてもいい。それに…。
「ねえ、ハーレイ。この鳥、飼ってもかまわないかな?」
ぼくの所へ飛び込んで来てくれた青い鳥。
前のぼくが欲しくて欲しくてたまらなかった青い鳥。おまけに地球の青い鳥。
飼っていたら幸せを沢山貰えそうだから、飼ってみようと思ったのに。
「そいつは駄目だぞ。自然の鳥は自然のままに…、だ」
自然の中で生きるのが一番なんだ、とハーレイにピシャリと言われてしまった。
「お前だって籠に閉じ込められたら嫌だろう? 籠じゃなくってシャングリラでも……だ」
シャングリラの中しか無かった時代より今の方がずっと幸せだろうが。
違うのか、ブルー?
「…そうだけど…。でも、せっかく青い鳥が家まで来てくれたのに…」
「幸せの青い鳥だと言うなら、なおのこと自由にさせてやらんと駄目だと思うぞ」
こいつは幸せを配達中の青い鳥なんだ。
お前の所の用事が済んだら、次の幸せを配りに行くんだ。
「それなのに、お前、まだ幸せをくれって欲張るつもりか? 家に閉じ込めて」
「……そっか……」
ハーレイの言葉で思い当たった。
ママが買い物でいない間に、空から降って来た青い鳥。
青い小鳥が降って来たから、いつもより早く来てくれたハーレイと一緒に幸せな時間。
ハーレイと二人きりで過ごせる場所は家の中ではぼくの部屋だけで、ダイニングで二人きりでの時間が持てるだなんて一度も考えたことが無かった。一階のダイニングもリビングもパパとママも一緒の食事やお茶の時間に使う場所。ハーレイと二人きりで独占するなんて不可能な場所。
そのダイニングでハーレイと二人、青い小鳥を見守っている。
(これ以上、欲張っていたら駄目だよね…)
もっと幸せが欲しいだなんて願ったら神様に叱られそうだ。
幸せなんて数えるほどしか持っていなかった前のぼくなら大丈夫だけど、今のぼくだと青い鳥を自分で飼いたいだなんて充分、欲張り。
飛んで来てくれただけで幸せなんだし、空へ返してあげなくちゃ…。
ふくら雀みたいに膨らんでいた鳥は、少しずつ縮んで普通になって。
ぼくとハーレイとが見ている間に羽を何回かパタパタさせてから飛び立っていった。テラスから真っ直ぐ青い空へと。瑠璃色の羽根より薄い色をした、まだ充分に明るい空へと…。
「良かったあ…。まだフクロウには見付からないよね」
「そうだな、もう一軒くらい幸せを配達しに行けるんじゃないか?」
窓ガラスにぶつからなければな。
お前みたいな欲張りに捕まっちまって、籠に入れられなければいいな。
「酷いよ、ぼくは入れなかったよ!」
「どうだかな? 俺が来なかったら入れたんじゃないか?」
「箱に入れて獣医さんに持ってくだけだよ、大丈夫か診て貰うだけだってば!」
言い返したものの、もしもハーレイが来なかったなら。
獣医さんに連れて行って、診察して貰って、飼い方を訊いて。
もしも鳥籠を扱っていたならその場で籠に入れて貰って、餌も買って帰っていたかもしれない。獣医さんに鳥籠が無かったとしたら、帰り道でペットショップに寄って鳥籠と餌。
(…飼っちゃってたかもね…)
だって、前のぼくが欲しかった青い鳥。
ぼくだって見たら欲しくなったし、飼いたくなったことは間違いないから。
そうして青い鳥を飼っていたなら、家に来たハーレイが鳥籠を見付けて訊いて来るんだ。「その青い鳥はどうしたんだ?」って。
(欲張りめが、って呆れられるね…)
ぼくが大切に世話をしていても、ハーレイはきっと呆れた顔をしただろう。
青い鳥が欲しかった前のぼくよりも幸せなくせに、まだ幸せが欲しいのかと。
幸せを一人占めしようと思って青い鳥を捕まえて飼っているのか、と。
(…呆れられるより、逃がしてあげて多分正解だったんだよね?)
ハーレイを早い時間に連れて来てくれた青い鳥。
ハーレイと二人、ダイニングで過ごす幸せをくれた青い鳥…。
青い鳥が飛んで行った後、ママが帰って来て、ハーレイが早く来ていることにビックリして。
「ブルー、ハーレイ先生にお茶とお菓子をお出しした?」
「えっ?」
訊かれるまでもなく、テーブルを見れば一目瞭然。
モンブランは置いてあるけれど、食べた後のお皿はぼくが使った分だけ。紅茶のカップもぼくの分だけで、ハーレイのお皿もカップも無い。
ママは恐縮してバタバタとお茶の用意を始めて、ぼくとハーレイは二人で二階へ。ダイニングはママも居る普段の空間に戻ってしまった。
解けてしまった、青い鳥が運んで来てくれた幸せの魔法。
(青い鳥も何処かへ飛んでったしね…)
だけど、いつもと違う場所でハーレイと二人きりで色々と話せたから。
青い鳥が欲しかった前のぼくの思い出話も出来ちゃったから。
(…やっぱり幸福の青い鳥だよ)
間違いないよ、と確信した。
ぼくの所へ飛び込んで来てくれた青い鳥。
幸せを運んで来てくれそうだからと、前のぼくが欲しがった青い鳥…。
窓の外の木の枝を覗いてみたけど、青い小鳥の姿は無かった。
ぼくに幸せを配り終わって次の家へと飛んで行ったか、明日に備えて眠るために森に帰ったか。
(…もう一度ぼくに幸せってことはないよね、今日の間は…)
明日はどうかな、と考えていたら、ハーレイに「こらっ」と軽く頭を小突かれた。
「お前、まだ青い鳥がいないか探しているな? 欲張りめが」
「分かっちゃった?」
「俺の方を見ないで庭ばかり見てれば馬鹿でも分かる」
それで、青い鳥の方がいいのか?
俺よりもそっちがいいと言うなら今日は早めに帰ることにするが。
「そ、それは無しだよ、せっかく早く来てくれたのに!」
「なら、欲張るな。今日は充分幸せだろうが、お前というヤツは本当に…」
青い鳥を飼おうとするとか、また来ないかと探しているとか。
何処まで欲が深いんだか、とハーレイは呆れているんだけれど…。
(えっと、オオルリだったっけ?)
元気に森へ飛んで行ってね、ぼくの青い鳥。
今度は窓にぶつかったりせずに、また幸せを運んで来てね。
(そして綺麗な鳴き声も聞けるといいんだけれど…。ハーレイが来てくれている時に)
ハーレイに欲張るなって言われてるのに、また欲張りになっているぼく。
自分でも酷いって思うけれども、青い鳥は前のぼくが欲しかった夢の鳥だから…。
(……欲しくなっても仕方ないよね?)
幸せも、幸せを運んで来てくれる青い小鳥も。
空から降って来た幸せの鳥。
青い鳥、またぼくの家に飛んで来てくれるといいんだけれど…。
ぼくの幸せの青い鳥。鳥籠には絶対閉じ込めないから、いつか鳴き声をぼくに聞かせて。
ハーレイと二人で聞ける時間に、庭に来て綺麗な声を聞かせて。
お願い、ぼくの幸せの小鳥。瑠璃色の羽根をした、まん丸だったオオルリ……。
青い鳥・了
※ブルーに幸せを運んで来てくれた青い鳥。無事に飛んで帰れて良かったですよね。
前のブルーが飼いたがっていた青い鳥が落ちてくるのも、地球ならではの幸せかも…。
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