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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

二学期期末試験・第1話

修学旅行から帰った次の日はお休みでした。家でゴロゴロして過ごし、翌日登校してみると…。欠席の人が目立ちます。グレイブ先生は淡々と出欠を取り、ギロリと教室を見渡しました。
「…飲酒が6名、喫煙2名。不純異性交遊の疑いで調査中が1名。…実に立派な成績だよ、諸君。今日、正当な理由で欠席している者はない。全員、停学処分中だ」
えぇっ!?慌ててアルトちゃんとrちゃんの無事を確かめ、会長さんの机が無いことにホッとして。欠席者には女の子も1人含まれています。大人しそうな子でしたけれど、飲酒でしょうか、喫煙でしょうか?それともまさかの不純異性交遊とか…。
「停学期間は1週間だが、調査の結果次第で退学者が1人出ることになる。だらけきっている諸君にはいい見せしめだと思わないかね?…学生の本分を思い返して、勉学に打ち込んでくれたまえ」
グレイブ先生が出て行った後、クラス中は大騒ぎです。昼休みになる頃には他のクラスの情報も入り、かなりの数の生徒が停学中だと分かりました。退学かどうかを検討中という子も全部で8人。みんなで楽しく旅をしたのに、その結末がこんなだなんて…。

放課後、「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ行った私たちですが、顔色は冴えませんでした。柔道部の三人はまだ来てませんけど、お昼休みにシロエ君がこう言ったんです。
「停学になっている人の数、前代未聞だそうですよ。ぼくたちにも少し責任あるかも…」
なんで私たちに責任が…と思いましたが、シロエ君の答えは明快でした。
「ぼくたちが1年で卒業するから修学旅行に行ったんですよね?…普通は2年生で行くらしいんです。もう1年先の旅行だったら、みんな1年分の経験を余計に積んでいる訳ですし、それなりに落ち着いた行動をしたんじゃないかと思うんですけど」
ドジを踏まないよう上手く立ち回るとか、危険な橋を渡らないだけの思慮分別を身につけるとか…。要するに経験が絶対的に足りなかったのだ、というのがシロエ君の主張。シロエ君はキース君と張り合うために入学してきた1学年下の生徒なだけに、この意見には説得力がありすぎます。私たちは責任を感じてしまい、今に至るというわけで…。
「どうしたんだい、お通夜みたいな顔をして」
会長さんに声をかけられ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に「どうしたの?」と顔を覗きこまれて、私たちはようやくポツリポツリと事情を話し始めました。
「…なるほどね…。それは確かに経験値ってヤツが足りないな」
クスッと笑った会長さん。
「飲酒するならホテルのバーが最高なんだよ。まさか行くとは思ってないからノーチェックだし、ホテルの方もお客は歓迎してくれるからね。飲み放題とはいかないけれど、けっこう飲める場所なんだ」
タバコを吸っても平気だし、と言われて軽い頭痛を覚えます。会長さんってどこまで悪に染まってるんだか…。
「ぼくはタバコはやらないよ?…お酒だって未成年とかそういうレベルじゃないだろう。三百歳を超えているのに、未成年扱いだなんて心外だな」
そうでした。会長さんは教頭先生に三百年以上も想いを寄せられているんでしたっけ。未成年だったのが何年前かは見当すらもつきません。…ん?教頭先生といえば、ゼル先生が『個人的にみっちり』焼きを入れると宣言してましたけど、大丈夫かな…。思い切って聞いてみよう、としていた所へキース君たちがやって来ました。今日の部活はずいぶん早く終わったんですね。
「…教頭先生が稽古の途中で倒れたんだ」
キース君が憮然とした顔で言い、会長さんを睨み付けます。
「ただの眩暈だって言ってたけども、あれは嘘だな。顔色も良くなかったし、心労からきた寝不足だろう。先輩たちが教頭室へ送って行ったら、倒れるように寝てしまったと言っていたぞ」
「…それで?どうしてぼくを睨むんだい?」
「あんたがやった悪戯のせいでゼル先生に焼きを入れられた結果じゃないかと思っている。柔道部の部活も中止になったし、この落とし前はつけて貰おうか」
キース君が凄み、シロエ君とマツカ君が頷いています。会長さんは溜息をつき、フッと姿を消したと思うと…。
「ただいま。…ゼルにはちゃんと本当のことを話してきたよ」
叱られたけどね、と苦笑しながら帰ってくるまでほんの十五分。ゼル先生は教頭先生に徹夜で嫌味とお説教をして派手に痛めつけていたらしいです。
「ハーレイにも謝っておけ、って言われたけれど、放っておこう。半分は自業自得だし…。停学中の子たちと同じで自己責任ってヤツだよね」
あ。論点がズレて忘れていましたけれど、停学とか退学寸前の人が大勢いるのは私たちのせいかもしれないのでした。なんとか処分を軽くしてあげる方法はないのでしょうか?このままでは気が咎めます。
「…羽目を外した連中を助けようっていうのかい?…確かに、修学旅行までにあと1年あったら、検挙される人数はグッと減っただろうけど…」
「やっぱり…」
シロエ君が項垂れました。
「なんとか助けてあげたいです。停学くらいならまだいいですけど、退学となると…」
「退学って、なぁに?」
無邪気な声がして「そるじゃぁ・ぶるぅ」が怪訝そうに首を傾げています。学校を辞めさせられることだ、と説明すると、飛び上がらんばかりに驚いて。
「ダメだよ、そんなの!…みんなで楽しく旅行したのに、学校を辞めさせられるなんてあんまりだよ。ぼく、行って手形を押してくる。ブルー、何に手形を押せばいいのか教えて!」
赤い手形はパーフェクト。確かに「そるじゃぁ・ぶるぅ」の手形さえあれば、どんな無理でも通るのです。処分の根拠になっている文書に赤い手形が押されるだけで、停学処分も退学の危機も無かったことになりそうでした。文書の在り処は会長さんならいとも簡単に分かるはず。頼もしいです、「そるじゃぁ・ぶるぅ」!
「ぶるぅの手形か…」
会長さんはやる気満々の「そるじゃぁ・ぶるぅ」を見つめ、それから少し考えて。
「…ぶるぅの手形も使えそうだけど、正攻法で行ってみようか。学校という組織を相手に渡り合うのも面白い」
「「「えっ?」」」
今度は私たちが驚く番でした。正攻法ってなんでしょう?
「圧力をかけてやるんだよ。生徒の運命を最終的に左右するのは校長先生のサインだけれど、サインができないようにするのさ。校長先生よりも偉い人って、誰だと思う?」
えーっと…もしかして理事長とか?入学式の来賓で一度見かけただけですけれど。
「そのとおり。理事長の意向は全てにおいて優先される。…まりぃ先生はその理事長の親戚なんだ」
「「「えぇぇっ!?」」」
「まりぃ先生に頼みに行こう。幸い、明日は土曜日で学校は休みだし…個人的にお邪魔してお願いするのがいいと思うよ。みんな時間は空いているかい?」
そういうわけで、明日はまりぃ先生を訪ねることになりました。まりぃ先生、凄いコネを持っているみたいですね。

翌日の十時に私たちが集合したのはアルテメシア公園に近いコンビニでした。「そるじゃぁ・ぶるぅ」も来ています。緑の多い住宅街を少し歩いて、会長さんが立ち止まったのは白い瀟洒な家の前。薔薇の生垣が素敵で見とれていると、『アトリエまりぃ』の小さなプレートと扉が薔薇に隠れてひっそりと…。
「あ、そっちはお店の入り口なんだ。先生の家の玄関はこっち」
会長さんが指差した先には別の扉があり、チャイムを押すと、まりぃ先生が…。
「いらっしゃぁ~い♪さあ、どうぞ中へ入って頂戴」
まりぃ先生は白衣を着ていないせいか、ドキドキしちゃう色っぽさ。お茶を御馳走になっている間、サム君がボーッと見とれています。私たちがケーキを食べ終えるのを待って、まりぃ先生が切り出しました。
「私にお願いって、何かしら?…わざわざ家まで来てくれるなんて、センセ、とっても嬉しいけれど♪」
「理事長に口利きをして欲しいんだ」
ズバリ言ったのは会長さん。
「修学旅行で羽目を外しすぎて停学中の子と、退学の危機に追い込まれてる子。…処分を撤回してくれるよう、理事長に頼んでくれないかな?…まりぃ先生しか頼れる人がいなくって…」
「あら、どんなことかと思ったら…。それくらいお安い御用だけれど、私にメリットはあるのかしら?」
無さそうだね、と答えた会長さんを、まりぃ先生はじっと眺めて。
「いいわよ、理事長に電話してあげる。…その代わり、絵のモデルになって欲しいのよね」
まりぃ先生の…絵…。スウェナちゃんと私は真っ青になり、ジョミー君たちも不安そうな顔。まりぃ先生の怪しい趣味の記憶が完全に消えたわけではないようでした。ですが、会長さんは「いいよ」とあっさり頷いてしまい、まりぃ先生はその場で理事長宅に電話をかけておねだりです。
「オッケーよん♪月曜日の朝一番で一切無かったことになるわ。処分中の子には日曜日の内に連絡が行くし、みんな月曜日からちゃんと登校できるわよ。よかったわね」
「「「ありがとうございます!!」」」
私たちが頭を下げると、まりぃ先生はウフンと笑って。
「お礼はブルー君に言うべきよ。…さ、約束どおりモデルをお願いね♪」
会長さんと私たちが案内されたのは奥まった部屋。スケッチブックや絵の具があちこちに広げられ、描きかけの絵が散らばっています。会長さんを描いたものや、会長さんと教頭先生の怪しげな絵が…。ジョミー君たちの顔が引き攣り、記憶が戻ってきたみたい。
「これ、なぁに?」
不思議そうに絵を眺め回す「そるじゃぁ・ぶるぅ」は1歳児だけあって、やっぱり分かっていませんでした。まぁ、その方がいいんですけど。「ブルーの裸がいっぱい…」と呟いているのを私たちは隅っこへ引っ張って行き、「邪魔にならないように見学しなきゃ」と納得させて一緒に床に座りました。距離を取った、と言うべきかも。
「うーん、警戒されちゃったわね」
まりぃ先生はクスッと笑い、会長さんを窓辺に座らせて鉛筆でスケッチを始めます。流石に本物の会長さんを目の前にして怪しい作業はできないのでしょう、まっとうな絵が描き上がりました。
「さあ、これからが本番よ。調子も出てきたし、ちょっと着替えてもらおうかしら」
扉の向こうに消えるまりぃ先生。どんな衣装を持ってくるのかドキドキですが、怪しくないならドンと来い、です。

「はぁ~い、お待たせ♪」
まりぃ先生が運んできたのは色とりどりの布の山でした。
「どお?うちのお店の人気商品に、入ったばかりの新作に…。どれも素敵だと思うんだけど」
ひえええ!次々に広げられてゆく様々な色とデザインの夜着。ベビードールにネグリジェに…。まりぃ先生は夜着のお店のオーナーだ、って会長さんが言っていたのを今の今まで忘れていました。生垣の陰にあった『アトリエまりぃ』というプレートはお店の案内だったんですね。…まともな服が出てくる筈がありません。気付かなかったとはなんて迂闊な…。会長さんは艶めかしい夜着を平気で手に取り、「どれにしようか」と微笑んでいます。
「そうねぇ…。これなんかどうかしら」
まりぃ先生が差し出すセクシーな夜着を服の上から当ててみたりして、会長さんは楽しそう。どんな神経をしてるんだか、と私たちは頭を抱えるばかりでしたが「そるじゃぁ・ぶるぅ」も平気みたい。
「ぼくが作った服に似てるね。まりぃ先生のお店のだよ、ってブルーが言ったのホントだったんだ♪」
私たちの頭の中に恐ろしい思い出が蘇りました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が縫った特大サイズのベビードールを着た教頭先生の姿です。青い清楚なベビードールと紅白縞のトランクス。深紅のセクシー・ベビードールと紅白縞のトランクス。…ついでに共布のセクシーショーツ。視覚の暴力としか思えなかったアレに比べたら、会長さんが怪しげな夜着を纏うくらいは問題ないかもしれません。
「じゃあ、最初はこれでいいのかな?」
会長さんはまりぃ先生に渡された水色のベビードールを持って別室に行き、すぐに着替えて戻ってきました。透ける布地の下は青月印の白黒縞…ではなく、どう見ても紐で結んだ申し訳程度の…。
「いいわぁ、イメージにピッタリよん♪」
まりぃ先生は大喜び。会長さんにポーズを取らせて鉛筆を走らせ、凄い速さで描き上げて…「お次はこれね」とレースがついたペパーミント・グリーンのゴージャスなネグリジェを渡しています。こんな調子でお召し替えが続き、ふと気がつくとお昼をとうに過ぎていました。
「あらら…。ごめんなさい!ついつい夢中になっちゃって」
まりぃ先生が宅配ピザを頼みに行っている間に、会長さんは元の服へと着替え完了。私たちは絵に占領された部屋を後にしてリビングでピザを御馳走になり、デザートも出てきたのですが。
「…あのね…」
食事が済んで少し休んだらモデルを再開して欲しい…と、まりぃ先生が言いました。
「どうしても着てほしい服があるのよ。ポーズも色々注文したいの。…構わないかしら?」
「…それって、断れないんだろうね?」
会長さんがクスッと笑うと、まりぃ先生は「物分りのいい子は大好きよ」とウインクして。
「実は、これからがメインディッシュなの。理事長に電話してあげたお礼、忘れちゃったとは言わないわよね」
まずはゆっくり休憩してね、とフレッシュジュースをグラスにたっぷりと注ぐ先生の目が妖しい光を帯びています。どうしても会長さんに着せたい服って、いったいどんな服なのでしょうか?…できれば見たくないんですけど、強制的に連行でしょうね…。




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