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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

二学期終業式   第1話

初雪が降り、街はクリスマス前で浮かれています。今日は2学期の終業式。1学期の終業式の日は学校中が信楽焼の狸に埋め尽くされていましたけれど、今回は何もありません。1年A組の教室には会長さんが遊びに来ていました。机は無くて本人だけです。アルトちゃんとrちゃんに何か渡しているみたい。
「冬休みはもちろん家に帰るんだよね?…しばらく会えなくなってしまうし、これ、クリスマス・プレゼント。もしもサイズが合わなかったら直して貰うよ。ピッタリのを選んだつもりだけれど、きちんと測ったわけでもないし…教えて貰ってもいないし、ね」
プレゼントの箱はとても小さなものでした。ちゃんとリボンがかかっています。いったい何を贈ったのでしょう?アルトちゃんとrちゃんも箱を手にして怪訝そうな顔。
「大丈夫、怪しいモノじゃないから。クリスマスの朝に開けてみて?…気に入ってくれたら、次にお守りを使う時に着けててくれると嬉しいな。あ、左手じゃなくて右手に、ね。…左手の薬指はぼくの女神のものなんだ」
フィシスの場所だけは譲れなくって…と会長さんは微笑みました。左手に右手、薬指。おまけにサイズと揃ってくれば箱の中身は明白です。アルトちゃんとrちゃんは感激のあまり声も出ません。
「石はついてないし、銀だけど…アルトさんとrさんのイメージに合わせて選んできたんだよ。あ、学校ではアクセサリーは婚約指輪しか許されないし、うっかり着けてこないようにね。没収されたら大変だから」
やっぱり中身は指輪でした。アルトちゃんたち、クリスマスの朝までドキドキでしょうね。会長さんが「じゃあね」と姿を消すと、入れ替わりにグレイブ先生が…。
「諸君、おはよう。2学期も今日でおしまいだ。冬休みの宿題は何も無い。出してもやってこないに決まっているし、用意するだけ労力の無駄というものだからな」
やったぁ!どおりで信楽焼の狸みたいな変なモノが置かれてないわけです。あれは宿題免除の特典用に並べ立てられていたんですから。私たちはグレイブ先生の後に続いて終業式の会場へ行き、校長先生の退屈なお話を聞いて、教頭先生から冬休みに関する注意を聞いて…。
「諸君、冬休み中にはクリスマスと正月という行事がある。羽目を外して学校の恥になるようなことを起こさないよう、くれぐれも気をつけるように」
はーい、と元気のいい声が上がります。教頭先生は「うむ」と頷いて続けました。
「終業式はこれで終わりだが、生徒会から提案があって、今年は諸君にお歳暮を贈ることになった」
えっ、お歳暮?生徒会から提案ですって?…毎日のように影の生徒会室に通っていながら、何も聞いてはいませんでした。生徒会の実務は副会長のフィシスさんと書記のリオさんがやっているので、私たち7人グループは会議はおろか資料作りすら経験してはいないのです。私たちでもそうなのですから、他の生徒は大騒ぎ。教頭先生は咳払いをし、会場が静かになったところで。
「誤解がないよう説明しておく。お歳暮は生徒会が贈るのではなく、私たち教師一同からだ。そして全員が貰えるわけでもない。幸運な1名だけが対象なのだが、その1名が希望した場合、友人もその対象になる。ただし上限は十名まで。先生方からのお歳暮を手に入れたい、という物好きは手を上げるように」
歓声と共に全校生徒が挙手します。もちろん私も、その一人でした。

お歳暮の件の詳しい話は生徒会から聞いてくれ、と教頭先生がマイクを譲ったのは書記のリオさん。サボッてばかりの会長さんと違ってとても真面目な先輩です。
「教頭先生がおっしゃったとおり、今回、先生方からお歳暮を頂けることになりました。ただし1名限りになります。その方がお友だちとお歳暮を分かち合いたいと思った場合は、9人まで恩恵を蒙ることができますが…取り分は人数に応じて減りますよ。よく考えて下さいね」
そりゃそうだ、とあちこちで囁く生徒たち。うーん、私がゲットできたら、どうしましょう?やっぱり分けないといけないかなぁ…。私の他に9人ならばジョミー君たちにも行き渡りますし。
「では、お歳暮の入手方法を説明します。まず、協力者の紹介ですが…我がシャングリラ学園のマスコットである、そるじゃぁ・ぶるぅに盛大な拍手を!」
リオさんが右手を高く差し上げ、壇上に「そるじゃぁ・ぶるぅ」がトコトコと姿を現しました。紫色のマントを靡かせ、全校生徒の拍手を浴びる姿はいつにも増して得意そうです。
「かみお~ん♪みんな、よろしくね!」
ニコニコ笑って手を振っている「そるじゃぁ・ぶるぅ」。協力って何をするのかな?
「ご存じの方は少ないでしょうが、そるじゃぁ・ぶるぅは卵に化けることができるのです」
リオさんが言うと「そるじゃぁ・ぶるぅ」がクルンと空中で一回転して消えました。後に残ったのは青い卵。それをリオさんが壇上で掲げ、「見えますか?」と声を張り上げます。
「これがぶるぅの卵です。皆さんにはこれを探して頂くことになります」
ボワンと青い卵が消え失せ、「そるじゃぁ・ぶるぅ」に戻りました。
「ぶるぅは今から校内の何処かに隠れるのですが、もちろん卵の形です。それを探しに行って下さい。首尾よく卵を見つけられた人は、本館前においでのブラウ先生とゼル先生に提出すればいいんです。お歳暮を貰う権利はぶるぅの卵を見つけた人に与えられます」
新入生歓迎会のエッグハントを思い出しました。あの時はあちこちにいろんな卵がありましたけど、ひょっとして今度もそうなのでしょうか。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の卵そっくりの偽物が隠されていたりして…。
「それでは今から、そるじゃぁ・ぶるぅに隠れに行って貰います。皆さんは百、数えて下さい」
「みんな、頑張って捜しに来てね!隠れたらヒントを教えるよ♪」
言うなり「そるじゃぁ・ぶるぅ」は会場を飛び出して行き、私たちは声を揃えてカウントダウン。百を数え終わったところでリオさんが大きな声で…。
「もういいか~い?」
『ま~だだよ~』
頭の中に響いた声は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のものでした。私やジョミー君たちは馴れていますが、他の生徒は驚いてキョロキョロしています。リオさんがすかさず解説しました。
「そるじゃぁ・ぶるぅの力です。離れた場所から皆さんの心に直接、呼びかけています。テレパシーという言葉はご存じですよね?シャングリラ学園では思念波と呼ばれているものです」
ザワザワという声が広がり、「そるじゃぁ・ぶるぅ」の不思議な力にみんなは興味津々ですが…リオさんはそれ以上のことは語らず、再度マイクで呼びかけます。
「もういいか~い?」
『もういいよ~♪』
子供らしい声がして、その後、すぐに。
『ヒントを言うからよく聞いてね。1回だけしか言わないよ。…いい?…白とクリスマス。愛情こめて捜して欲しいな。ぼく、楽しみに待ってるからね~』
それっきり声は聞こえなくなり、リオさんが壇上で微笑みました。
「聞こえましたか?もう1度、ぼくがヒントを言います。白とクリスマス、これだけです。頑張って探して下さいね。制限時間は正午まで。今から2時間以上ありますし、皆さんの健闘を祈ります」
さあ大変。「そるじゃぁ・ぶるぅ」の卵は1個限りです。急がなくっちゃ!

終業式会場を出た全校生徒が学校中に散らばりました。先生方からのお歳暮とくれば内容も期待できそうです。ヒントは白とクリスマス。えっと…確か温室の噴水が白で、横にクリスマスツリーがあったような。大急ぎで行くと既に先客が何人かいて、噴水の中を覗いていました。
「ありそうか?」
「…いや、水盤の中には無さそうだ」
チームを組んでいるらしい男子生徒が話しています。クリスマスツリーの方もチームを組んだ女子や男子が飾りをチェックしていました。オーナメントに紛れていないか、枝の間に隠れてないか…と梯子まで持ち出す騒ぎです。単独行で卵探しは難しいかもしれません。私も誰かと組むべきかも…。スウェナちゃんのケータイにメールしてみると、すぐに「一緒に探そう」と返事が来ました。本館前で待ち合わせです。そこには机と椅子が置かれて、ブラウ先生とゼル先生が…。
「おや、もう見つけてきたのかい?」
ブラウ先生が声をかけたのは私ではなくて二人連れの男子。片方の子の手に青い卵が乗っかっています。そんなぁ…。お歳暮、アッサリ持ってかれちゃった…。ちょうど歩いてきたスウェナちゃんも青い卵に気付いてガッカリ。男の子たちが差し出す卵をブラウ先生が受け取りました。
「うん、上出来だ。…あんたたち、名前と学年は?」
二人は三年生でした。ゼル先生が紙に名前を記入し、ブラウ先生は卵を持って。
「いいねぇ、これは新鮮だ。殻がザラザラしてるじゃないか。ああ、でも…割ってみなけりゃ分からないかねぇ?」
「ふむ。器を持ってくるとしよう」
えっ。ゼル先生が本館に入り、ガラスの器を取ってきました。ブラウ先生が卵を机の角にコンコンぶつけています。だ、ダメぇっ!そ、その卵の中には「そるじゃぁ・ぶるぅ」が…!!
「やめてーっ!!」
叫んだ瞬間、クシャッと音がして卵にヒビが入りました。悲鳴を上げた私の前で卵が割れて、器の中にポテッと落下したものは…。
「ほら、ゼル…。黄身がこんなに盛り上がってる。ザラザラは絵の具のせいじゃなかったようだ」
「そのようじゃな。目玉焼きにしたら美味かろうて」
青い卵に入っていたのはニワトリが産んだ卵でした。男の子たちは真っ青になり、脱兎のごとく逃げてゆきます。ブラウ先生は私にウインクをしてみせました。
「ぶるぅを心配してくれたんだ?…大丈夫、ぶるぅの卵なら割りやしないさ。もっとも、割ろうったって机の角じゃ傷もつかないだろうけどね」
「…そういえば…」
呟いたのはスウェナちゃん。
「エッグハントで拾った時には石の卵だと思ってたわ。ズシリと重かったんだもの」
「なるほど、あんたが拾ったんだね」
ブラウ先生が「今度も頑張って探してごらん」とスウェナちゃんを励まし、私たちは二人で校内巡り開始です。途中でジョミー君やキース君が次々に合流してきて、いつの間にか7人グループに。
「結局、いつものメンバーだよな」
サム君が言い、マツカ君が。
「でも、見つかりませんよね…ぶるぅの卵。どこに隠れているんでしょう?」
「白とクリスマスが揃ってる場所は全部探した筈なんだがな」
キース君が溜息をつき、ジョミー君は疲れた声で。
「偽物を作るヤツらの気持ちが分かってきたよ。石みたいに重いって噂が広がる前はけっこういたよね…」
「今もやってる人がいますよ?」
シロエ君が声を潜めました。
「卵の中身を抜き取ってから、色々詰めて細工してます。…すぐにバレると思うんですけど」
赤くなったりしませんしね、と言われてエッグハントのことを思い出し、吹き出してしまう私たち。催涙スプレーとスタンガンで「そるじゃぁ・ぶるぅ」が化けた卵を攻撃しちゃったんでしたっけ。
「あの時の恨みを晴らそうとして、意地でも出てこないつもりなのかな?」
ジョミー君はそう言いますけれど、今頃になって復讐するとは思えません。私たちの目が節穴なのか、よほど上手に隠れたのか。…残り時間は三十分。お歳暮ゲットは無理でしょうか?

「ずいぶん苦労しているようだね」
いきなり声がして会長さんが私たちの後ろに立ちました。瞬間移動してきたのかも。
「ぶるぅの卵、どこにあるのか知りたいかい?」
「知ってるのか!?」
キース君が叫ぶと会長さんは涼しい顔で。
「ぶるぅの居場所も分からないんじゃ、保護者失格だと思うんだけど。…で、知りたい?」
「知りたい!!」
ジョミー君が即答しました。会長さんはニッコリ笑って「ついておいで」と促します。私たちが散々探した場所を次々に無視して横を通り過ぎ、辿り着いたのは本館の前。まさか今回も教頭先生を脅すのでは…。
「やらないよ。教頭室には用が無いんだ」
会長さんは先に立って本館に入り、1階中央の広いスペースで立ち止まりました。中央にクリスマスツリーがありますけれど、そこはとっくに大勢の生徒が探した後で今は閑散としています。私たちだって探しました。けれど卵は何処にも無くて…。
「ヒントは白とクリスマス。…愛情をこめて探さなければ、見つかるものも見つからないさ」
会長さんが指差したのはクリスマスツリーが植わっている大きな鉢の中でした。ツリーが映えるようにと敷き詰められた白い石が沢山入っています。それの何処に青い卵が…?
「ぶるぅの卵が青いだなんて、いったい誰が決め付けたんだい?確かに本当の色は青だけど、赤やピンクに色を変えるのを君たちも知っているだろう。…だからヒントは白だったんだよ」
「あっ、そうか!!」
ジョミー君が鉢に駆け寄り、白い石を選り分け始めました。出遅れたキース君や私たちが駆けつける前に歓声が上がり、ジョミー君の手に白から青へと変わりつつある卵形の石が…。
「やったぁ、お歳暮!…みんなにも分けてあげるね、せっかくだから」
意気揚々と本館を出て、ブラウ先生に卵を渡したジョミー君がゼル先生から貰ったものは。
「……お手伝い券……?」
「そうじゃ。この学園の教師を1人指名し、手伝いをさせるためのチケットじゃぞ。ただし間違いがあってはいかんから同性に限る。君の場合は男性教師というわけじゃ」
ゼル先生は咳払いをして言いました。
「冬休み中、仕事納めから正月三が日を除く全ての期間が対象でな…。指名された教師が丸々一日、勉学の手伝いをしてくれる。友達を呼んで勉強会をするのも大いに良かろう。専門外の科目であっても、他の教師と連絡を取ってとことんフォローするのが売りじゃ!」
ここに名前を、とブラウ先生がペンと書類を差し出します。ジョミー君の顔から血の気が失せて、お手伝い券が手から落ちました。宿題も無い冬休み中に何が悲しくて丸々一日、先生に付き添われて勉強しなくちゃならないんですか!ジョミー君が受けたショックは半端なものではないでしょう
「…い、いやだ…。こ、こんなチケット…」
欲しくないよ、と泣きそうな声のジョミー君。ゼル先生とブラウ先生が「やれやれ」と顔を見合わせています。そこへスッと会長さんが割り込んで…。
「ジョミーが要らないのなら、ぼくが貰うよ。…かまわないかい?」
そうだねぇ、とブラウ先生。
「無駄になるよりはいいかもね。でも、あんたじゃ意味がなさそうじゃないか。今更勉強しなくたって…」
「たまには真面目に勉強するのもいいか、と思ったんだ」
会長さんは書類にサインし、ジョミー君が落とした『お手伝い券』を拾ってポケットに入れました。そして机の上に置かれた青い卵を優しく撫でて。
「ぶるぅ、お疲れさま。もういいよ」
「わーい!!」
疲れちゃったぁ、と叫んで元に戻った「そるじゃぁ・ぶるぅ」が大きく伸びをしています。それに気付いて集まってきた生徒のみんなは、お歳暮の正体を知って仰天したり呆れたり。無駄な労力を使ってしまった、と嘆いていますが、自分がゲットせずに済んだ幸運を噛み締めているのは明らかでした。そんな代物をあえて貰おうという会長さんには恐れ入るしかありません。三百年以上も生きている人の考えることって、理解不能かも…。




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