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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

冬休み・第1話

クリスマスイブの日、私たち7人グループはお泊り用の荷物を持って会長さんのマンションに行きました。あくる日は「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお誕生日パーティーですから、昨日はプレゼント選びをしていたのです。会長さんは「手ぶらでおいで」と言っていましたが、バースデープレゼントはあげたいですもの。
「本当にエプロンでよかったのかな?」
バス停からマンションまで歩く途中でジョミー君が言うと、キース君が。
「散々考えた結果なんだし、いいだろう。料理が趣味なのは確かだからな」
本当の1歳児が喜びそうなものを「そるじゃぁ・ぶるぅ」が欲しがるわけがありません。あれこれ探して悩みまくった結果が子供用のエプロンでした。アヒルの便器やお風呂オモチャを持っていますから、アヒルのアップリケがついた水色にしてみましたが…喜んでもらえるかな?プレゼントはキース君のボストンバッグに入れてあります。
「クリスマスプレゼントは要らないんだよな?」
サム君が確認し、みんなで「うん」と頷き合ってからマンションに入り、エレベーターで最上階の十階へ。フロア全部を使って住んでいる会長さんの家のチャイムを鳴らすと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が出てきました。
「かみお~ん♪お昼ごはん、出来てるよ。入って、入って♪」
夜はパーティーだから軽めにしたんだ、と案内されたダイニングには大きなクリスマスツリーが置かれ、何種類ものサンドイッチが盛られた大皿が。確かに軽めには違いないですけど、ずいぶん手間がかかっていそう…。
「たいしたことないよ。スープ温めてくるね」
トコトコとキッチンに向かう「そるじゃぁ・ぶるぅ」を手伝ってスープを運び、サンドイッチを美味しく食べて、きちんと後片付けも済ませたところで会長さんが。
「パーティーまでに大事な話を済ませておこう。リビングに来てくれるかな?」
私たちは好みの飲み物を持ってリビングの方に移動しました。大事な話というのは…この前の謎解きの続きですよね。リビングもクリスマスツリーやリースで綺麗に飾り付けられています。ポインセチアの鉢まであって、クリスマス気分満点でした。

「…今日は君たちのことを話しておくよ。卒業も近いし、年が明けてからよりは今の方がいいと思うんだ」
「「「えっ?」」」
私たちのことですって!?予想外の展開に驚きましたが、会長さんはとても真面目な顔でした。
「この前、ぼくとぶるぅやシャングリラ学園の話を聞かせただろう?それで気付いてくれれば…と願っていたけど、誰も気付いていないんだよね。…無理もないかな」
「気付くって…何に?」
キース君が尋ねると。
「…初めて君たちに会った時から何回となく言った筈だよ。ぼくたちは仲間だ、って」
仲間。…そういえばよく言われました。『友達』のような感覚で聞いてましたけど、もしかして…友達だとか仲良しだとか、そんな単純な意味ではなくって…『仲間』?三百年以上も生きてきたという会長さんと私たちが…仲間!?
「…ま、まさか…」
みんな不安そうな顔をしています。私も血の気が引いてゆくのが分かりました。
「やっと気付いたみたいだね。…そう、君たちもぼくやハーレイたちと同じものだ。ゆっくりとしか年を取らない。何百年もの寿命があって、思念波を操ることができる。普通の人間とは違うんだよ」
「……………」
誰も言葉が出ませんでした。思念波なんて使ったこともありません。なのに普通の人間じゃない、って言われても…。
「思念波は覚えがある筈だ。ぼくがシールドしていなければ何が起こるか、体験したろう?」
あ。…入学してすぐの頃…クラブ見学をしていた頃に、いきなりみんなの心の声が聞こえて驚いたことがありましたっけ。あの時「他の人の心の声を聞く力を持っている」と言われましたけど、いつの間にかすっかり忘れて普通に暮らしていたんです。じゃあ…私たちは本当に…?
「うん。ぼくたちは毎年、入学式で仲間に呼びかけるんだ。因子があればメッセージを受け取ることができる。今年、呼びかけに応えたのは4人。ジョミー、マツカ、みゆとシロエ。…その4人についてきたのがサムとスウェナとキースだった。だから、ぶるぅが力を分けて…呼びかけを聞かなかった3人も一緒に仲間にしたんだよ」
「…あの時の…手形…?」
キース君が言い、サム君とスウェナちゃんも自分の手のひらを見つめました。入学式の日に「そるじゃぁ・ぶるぅ」が赤い手形を押していた手です。
「そう。ぶるぅの力はぼくとは少し違っていてね。…同じタイプ・ブルーでも、ぼくに手形を押す力は無い。卵から生まれてきただけあって、ぶるぅの力は特別なんだ。まぁ、タイプ・ブルーにも色々あるのかもしれないけれど」
二人しかいないから分からないね、と会長さんは微笑みました。
「君たちがいつも溜まり場にしている、生徒会室の奥のぶるぅの部屋に入るための壁の紋章。あれが見えるのも仲間だけだ。普通の生徒には見えていない」
どおりで誰も入ってこない筈です。フィシスさんとリオさん以外は。でも…会長さんや教頭先生と同じなんだと言われても全然ピンと来ませんでした。それに思念波という心の声。会長さんが自在に操ることは知ってますけど、教頭先生やゼル先生は?お二人も思念波が使えるのなら、教頭先生が会長さんに振り回されることは無いような気が…。
「ああ、思念波の使い方か」
会長さんが私の疑問をみんなに言葉で伝え、それからおもむろに口を開いて。
「ハーレイたちは普段は力を使わない。普通の人間と変わらないように生きていたいんだよ、ぼくたちは。だから相手の心を読んだりしないし、読まないように気を付けている。仲間同士でも同じことさ。ぼくだって常に君たちの心の中を覗いてるわけじゃないんだしね」
だからハーレイは振り回されてばかりなんだ、と会長さんは笑いました。
「実はね…。君たちが他の人の心を読まないようにシールドする力は、徐々に弱めていたんだよ。今では殆どシールドしてない。君たちは自分の意思で人の心を読まないようにコントロールをしているわけだ。そうなるように意識の下に働きかけてきたんだけれど」
「「「えぇぇっ!?」」」
それじゃ、私たちは…思念波とかいうモノを無意識にコントロールしてるのでしょうか。あまりにも急な話で頭がついていきません。
「信じられないなら試してごらん。…ぼくの心を読んでみるんだ。今夜のパーティーにゲストを一人呼んであるんだけど、それが誰だか当てるといい。意識を集中して、ぼくの目を見て」
会長さんの赤い瞳が私たちをじっと見つめます。えっと…目を見て、意識を集中して…。本当にそんなこと、できるのかな?えっと…えっと…。
『パーティーにはフィシスが来るんだよ』
頭の中に響いた声に、私たちはハッとしました。
『ぼくの女神、ぼくのフィシス。…フィシスのことも話そうか?』
「…聞いておきたいな」
キース君が答えた瞬間、会長さんはとても綺麗に微笑んで。
「上出来だ。…みんな合格だよ。今、ぼくからは思念波を送っていなかった。それでもぼくの声が聞こえた。…そうだろう?」
「「「………!!!」」」
会長さんの心を読んでいたらしい私たち。ここまで来たらもう信じるしかないようです。私たちは会長さんや「そるじゃぁ・ぶるぅ」や教頭先生と同じ種類の人間である、ということを。

呆然としている私たちの前にアップルパイが置かれました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」が切り分けてお皿に入れてくれます。
「みんな大丈夫?…甘いものを食べると元気が出るよ。自信作なんだ」
飲み物も新しいのを用意するね、と小さな手で一生懸命おもてなしをしてくれるのが、いつも以上に嬉しくて。子供なりに私たちを気遣ってくれているのでしょう。アップルパイはとても美味しく、パイ生地もサックリしています。会長さんは私たちが食べ終えるのを待って、静かに話し始めました。
「…フィシスはね…五十年ほど前にシャングリラ学園に来たんだよ。ガニメデの小さな町にいたのを、ぼくが見つけて連れてきた。…正確にはシャングリラ学園に来たくなるよう、意識の下に働きかけたわけなんだけど」
「…なんでそんなに遠い場所から…?」
ジョミー君の疑問はもっともです。この街とガニメデ地方はかなり離れていて、受験に来るのも大変そう。
「どうしても仲間になって欲しかったから。そしてフィシスはシャングリラ学園に来て、寮で暮らすことになったんだ。…その後のことは知ってるだろう?」
「あんたが誘惑したんだったな」
キース君の遠慮の無い言葉に会長さんはクスッと笑って。
「酷いね、キース。…せめて口説き落としたと言ってほしいな」
「どっちでも同じことだろうが」
「それはそうだけど。でも、ぼくがフィシスを欲しがったのは決して軽い気持ちじゃなくて…。いつも女神と言ってるだろう?本当にフィシスはぼくの女神なんだよ」
「ああ、ついでにアルトやrもな」
「それとは違う」
恐ろしく真剣な声がキース君を遮りました。
「アルトさんとrさんも仲間にしたいと思っているけど、フィシスの時とは違うんだ。フィシスはとても特別で…他の人にフィシスの代わりは務まらない。誤解がないよう言っておこう。…フィシスはアルタミラの記憶を持っているんだよ」
「「「ええぇぇっ!?」」」
そんなことってあるのでしょうか?三百年以上も昔に海に沈んだ島の記憶をフィシスさんが持っているなんて。五十年前にシャングリラ学園に来たのだったら、全く計算が合いません。それとも入学したのが五十年前なだけでフィシスさんも三百年以上生きているのかな…。
「いや。ぼくがフィシスを見つけた時には、十歳になったばかりだった。フィシスの先祖はアルタミラから来たらしい。その人の記憶を受け継いでいるのがフィシスなんだ。どうしてなのかは分からない。ただ、フィシスの家系には時々そんな人が出る。…その噂を聞いて出かけてみたらフィシスがいた」
「噂は本当だったんですね」
シロエ君が言いました。
「でも、記憶を見ることってできるんでしょうか?…心を読むのとは違うんじゃないかと思うんですけど」
「似たようなものだよ。記憶は見ることも見せることもできる。ほら、修学旅行でやったじゃないか。まりぃ先生の目から見た男湯の映像を、みんなの夢に一斉に…」
露天風呂で会長さんが教頭先生をからかっているのを夢で見たことを思い出し、頭を抱える私たち。真面目な話をしている時に引き合いに出すなら、もう少しマシな例にしてくれた方が…。
「ごめん、ごめん。でも、一番分かり易いんじゃないかと思ってね。あれは、まりぃ先生の記憶そのものをみんなに見せていたわけだから。…ぼくの視点じゃ面白くないし」
シリアスな雰囲気をブチ壊しながら会長さんは続けました。
「フィシスの記憶も同じことだよ。…見たいと思えば誰でも見られる。ただし、そういう力があれば…ね。思念波が操れないとフィシスの記憶は見られない。だからフィシスの家系に現れたというアルタミラの記憶を持った人たちは、自分の記憶が本物なのか、夢に見ただけの景色なのかも判別できずに終わったようだ」
アルタミラを描いた絵を見て「そっくりだ」と思い、そういう話を周囲に語るだけだったフィシスさんの一族の人。会長さんは噂を知って、確かめたくなったらしいです。そりゃあ…自分が生まれ育った場所の記憶なら気になりますよね。

「ぼくが行った時、記憶を持つ人は二人いた。フィシスと、フィシスの曾祖母さんと。二人の記憶を見せて貰って確信したよ、本物だ…ってね。ぼくは運が良かったらしい。いくらアルタミラの記憶だからって…お婆さんをガールフレンドにするのはキツイじゃないか。フィシスがいてくれて嬉しかったよ」
「あんたの方が年寄りだろうが!」
キース君が突っ込みましたが、会長さんは聞こえないフリ。
「フィシスに会って、思ったんだ。…いつかこの子をそばに置きたい、と。でもそんなこと言えないじゃないか。十歳の女の子の親に向かって言えるかい?…お嬢さんをぼくに下さい、って」
「…そういうの、ロリコンって言うんだよな」
サム君が言い、みんな素直に頷きます。いくら会長さんの見た目が若いと言っても、十歳の女の子の将来を予約するのはあんまりでしょう。
「だから黙って帰ってきたさ。それから色々考えた末に、学校へ連れて来ようと決めた。…フィシスは因子を持たなかったら、ぶるぅに頼んで赤い手形を押して貰って。だけど不思議なことって、あるものだね。ぶるぅが手形を押しに行った後、フィシスは予知能力に目覚めたんだ。ぼくもぶるぅも、予知は殆ど出来ないのに」
シャングリラ学園に入学した時、フィシスさんは既にタロット占いに長けていたそうです。幼い頃に会長さんに会った記憶も僅かに残っていたのだとか。
「フィシスは小さかった頃に出会ったぼくを王子様かと思ったらしい。…それを聞かされて決意したんだ。フィシスの王子様になろう、ってね」
「…プレゼント攻撃にデート三昧だったっけ?」
呆れたような声のジョミー君。
「ああ。フィシスはすぐに打ち解けてくれたけれども、ずっとぼくのそばに居てほしかったら努力するしかないじゃないか」
「…だが、今はシャングリラ・ジゴロ・ブルーなんだな?」
キース君が意地悪く言うと会長さんは余裕の笑みで。
「今?…フィシスに出会うずっと前から呼ばれていたよ、そんな名前で」
だって女の子って可愛いじゃないか、と楽しそうに語る会長さん。とことん女好きなんでしょうが、フィシスさんだけは別格ですか…。
「そうなるね。ぼくの故郷の記憶を持っていることが特別なんだ。…だからフィシスはぼくの女神。存在自体が奇跡なんだよ」
フィシスさんだけが持つアルタミラの記憶。それを見るのは至福の時だ、と会長さんは言いました。故郷の記憶とフィシスさんと。…どちらが会長さんを魅了したのかは分かりませんが、ベタ惚れなのは確かみたいです。なのにシャングリラ・ジゴロ・ブルーと呼ばれるくらいにナンパしまくって生きているとは、ある意味、凄いツワモノかも…。




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