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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

三学期始業式・第3話

始業式の翌日は何故か健康診断でした。体操服を持って登校すると、教室の一番後ろに会長さんの机があります。会長さんはアルトちゃんとrちゃんに話しかけていて、机の上には「そるじゃぁ・ぶるぅ」が…。
「諸君、おはよう。やはりブルーとぶるぅが来ているな」
グレイブ先生は二人が来ることを予測していたようでした。
「今日の健康診断は来週行われる『かるた大会』に備えるものだ。体力勝負の大会だけに、健康診断が実施される」
かるた大会が体力勝負?なんだか意外な気がしますけど、この学校なら何でもアリかも。みんなも同じことを思ったらしく、教室はちょっとザワついただけですぐに静かになりました。いつものように体操服に着替え、会長さんの方を見てみると…今日も水色の検査服です。「そるじゃぁ・ぶるぅ」は体操服で女子に混ざって保健室へ。
「ぼく、今日も『せくはら』してもらうんだ♪」
この前の時、まりぃ先生にセクハラされた「そるじゃぁ・ぶるぅ」。特別室の奥のお風呂で身体中を念入りに洗われちゃったわけですけれど、それが気に入ったみたいですね。スウェナちゃんと私の間に並んで順番待ちをしている間もウキウキしているのが分かります。
「お待たせ~。あらあら、今度はぶるぅちゃんなのね♪」
まりぃ先生はスウェナちゃんと私も一緒に呼び込み、テキパキと身長や体重を測って問診をして…。
「二人とも、ちょっと熱があるわよ」
「「えぇっ!?」」
そんなことないです、と答えた途端、まりぃ先生は体温計を2つ取り出し、洗面台の蛇口を捻りました。給湯器から流れ出すお湯に体温計を浸け、ピピッと鳴らして。
「ほら、微熱。頭も痛いんじゃないかしら?」
頭の上にボテッと落ちてきたのはゴマフアザラシのゴマちゃんでした。天井に貼り付いていたんでしょうか?
「ごめんなさいねぇ、最近、忍者ごっこが好きで。…ねっ、二人ともコブができたでしょ?」
うーん、コブは大丈夫だと思うんですけど、頭がちょっとズキズキします。
「微熱に頭痛。休んでいった方が良さそうね」
まりぃ先生は廊下に続く扉を開けると、順番待ち中のクラスメイトに…。
「スウェナちゃんたち、頭が痛くてお熱なの。私が付き添うことにするから、代わりの先生が来るまで待っててちょうだい。…そうそう、ブルー君は今日もA組かしら?」
誰かが「そうです」と答えると、まりぃ先生は。
「じゃあ、ブルー君には私が復帰してから来るようにって言っておいて。あの子は虚弱体質で特別だから、私が診なくちゃいけないの。それじゃ、よろしく~♪」
パタン、と扉を閉めたまりぃ先生は内線でヒルマン先生を呼び、健康診断の代理をお願いしています。了解を得ると
「そるじゃぁ・ぶるぅ」の身長や体重を測り、問診を済ませてしまいました。決まり文句の「男の子は上半身を脱いでもらうことに…」がありません。どうなったのかな?
「ぶるぅちゃん、センセ、今日もみっちりセクハラをしてあげたいわ。奥のお部屋へいらっしゃい」
「ほんと!?」
飛び上がって喜ぶ「そるじゃぁ・ぶるぅ」。まりぃ先生は私たちを特別室に入れて鍵をかけ、大はしゃぎの「そるじゃぁ・ぶるぅ」を連れてバスルームに消えていきました。
「行っちゃった…」
「でも、お風呂だって分かってるんだもの、気が楽よね」
とはいえ、特別室は会長さんがまりぃ先生に「あ~んなことや、こ~んなこと」をしている夢を見せる場所です。ソファやベッドを眺めているのは落ち着きません。バスルームに続く扉にしたって同じことです。私たちは保健室と繋がる扉の前に立ち、部屋に背を向けて扉を見ながら「そるじゃぁ・ぶるぅ」を待ちました。

やがてバスルームの扉が開く音がして、まりぃ先生の弾んだ声が。
「はい、今日のセクハラはこれでおしまい。気持ちよかった?」
「うん!!」
ちゃんと白衣を着たまりぃ先生と体操服の「そるじゃぁ・ぶるぅ」が上気した顔で出てきます。前回はバスローブ姿とフルヌードでしたから、服を見ただけでホッとしますね。
「ぶるぅちゃんったら可愛いのよ~。一生懸命洗ってあげるとキャッキャッ言って喜ぶんだから♪」
「だって、くすぐったいんだもん。まりぃ先生、いっぱい触るし」
いったい何処を触られたのかは聞かない方がいいでしょう。幸か不幸か「そるじゃぁ・ぶるぅ」はセクハラという言葉の意味も分かっていない子供ですから。
「じゃあ、ぶるぅちゃんとお遊びするのはここまでね。センセ、お仕事に戻らなきゃ。…みゆちゃんとスウェナちゃんもお熱が下がって良かったわ。ぶるぅちゃんと一緒に帰りなさいね♪」
のぼせた顔が元に戻ると、まりぃ先生は保健室への扉を開けてくれました。これで自由の身に戻れます。保健室ではヒルマン先生がC組女子の健康診断中でした。
「おお、もう具合はいいのかね?…まりぃ先生も復帰できそうかな?」
ヒルマン先生が気遣ってくれ、少し心が痛みます。温厚な先生に嘘はつきたくありませんけど、こればかりは仕方ないですよね。…ん?もう一人、男の先生が…。白衣を着て問診をしている後姿に、まりぃ先生が呼びかけました。
「あらぁ、ドクター!お久しぶりですぅ」
ドクターと呼ばれて振り返ったのは天然パーマの髪と特徴的な鼻を持った人。初めて目にする顔でした。こんな先生、いましたっけ?
「まりぃか。…希望通り養護教師になれたようだが、ちゃんと責任は果たしているか?」
「あ、あは、あはは…。えっと、そこそこ頑張ってます」
「よし。ヒルマン先生の所に行ったら、保健室だと言われてね…健康診断を手伝っていたんだ。君の仕事ぶりも見ておきたいし、このまま続けてみたいと思う。ヒルマン先生、よろしいですか?」
「そうじゃな…」
ヒルマン先生は白い髭を撫で、「いいだろう」と頷きました。
「私は仕事があるから戻るが、よろしく頼むよ、ドクター・ノルディ」
ドクター・ノルディ。名前を聞くのも初めてです。でも「そるじゃぁ・ぶるぅ」は顔馴染みらしく、頭を撫でて貰ってニコニコ顔。私たちは首を傾げながら保健室を後にしました。
「ぶるぅ、あの人、いったい誰なの?」
教室へと歩く途中でスウェナちゃんが尋ねると…。
「お医者さんだよ。滅多に会わないけど、ブルーの主治医をしてるんだ。ブルーは虚弱体質だもん」
そっか…。本物のお医者さんなのか。
「うん。それに、ぼくたちの仲間だよ。二百年以上は生きてたと思う」
そんな話をしている内に1年A組の教室に着くと、会長さんが待ちかねたように立ち上がりました。
「やっとぼくの番が来たみたいだね。行ってくるよ」
殆どのクラスメイトが制服に着替えを終えた中、水色の検査服の会長さんは保健室へ向かったのですが…。終礼の時間になっても会長さんは戻らないまま。助っ人が現れたせいで、まりぃ先生、張り切ってるとか?それとも会長さんがまりぃ先生に特別サービス?
「ブルー、ぼくのお部屋に帰ったみたい」
会長さんの椅子に腰かけていた「そるじゃぁ・ぶるぅ」が終礼の後で言いました。
「元気がないけど、どうしたのかな?…ちょっと心配」
えっ、あの会長さんが…元気がない?それは確かに心配です。ジョミー君やキース君たちも鬼の霍乱だと言いつつ、不安そうな顔。私たちは会長さんのカバンを抱えた「そるじゃぁ・ぶるぅ」に先導されて影の生徒会室へ向かいました。今日の柔道部は朝練だけで、放課後の部活は無いんです。

壁を通り抜けて入った部屋の中では、会長さんがソファに寝転んで暗い顔。あまつさえ「そるじゃぁ・ぶるぅ」まで「眠くなっちゃった」と土鍋に入って寝てしまったではありませんか。えっと…私たち、どうしたら…?
「…ぶるぅはぼくが寝かせたんだ…」
会長さんが億劫そうに身体を起こしてソファの背もたれに寄りかかりました。
「聞かせたくない話なんだよ、子供にはね。…これを見て」
制服のワイシャツのボタンを外した会長さんの白い胸元に赤い花が1つ咲いていました。まりぃ先生、またキスマークですか!私たちの顔はみるみる真っ赤に…。
「…違うんだ。まりぃ先生は騒いでただけ。…ノルディのヤツにしてやられたよ」
「「「ノルディ?」」」
ジョミー君たちは怪訝そうです。スウェナちゃんと私は今ひとつ話が飲み込めません。
「ああ、ごめん。君たちは知らなかったんだっけ。…こんな男さ」
会長さんが思念でドクター・ノルディの姿を伝えてきました。
「ぼくの主治医をしてくれている。でも…ちょっと困った性癖があって、あまり診察されたくないんだ。ハーレイはぼく一筋の片想いだけど、ノルディは本物なんだよね」
「「「本物?」」」
何が本物なんでしょう?それに教頭先生の名前が出てくるわけは?
「…君たちも知っているだろう?ハーレイがぼくをどうしたいのか。…なのにヘタレで何もできないから楽しいんだ。だけどノルディはそっちの道では百戦錬磨のテクニシャン。…そのノルディに前から迫られてるんだよね…。抱かせてくれ、って」
ひぇぇぇ!!!私たちは度肝を抜かれました。教頭先生の他にも会長さんを欲しがってる人がいたなんて。でも、会長さんなら夢を見せて逃げれば済む話では…?
「それが…ノルディには通用しないんだ。夢で誤魔化そうとしたらバレちゃって…。まさかバレると思わなかったし、腹立ち紛れについ、うっかりと…」
余計なことを言っちゃったんだ、と会長さんは項垂れます。
「ぼくを抱きたいだなんて百年早い。もしもキスマークをつけることが出来たら抱かせてやるから、顔を洗って出直して来い、って。それから長いこと、上手に逃げてきたんだけれど…」
「…じゃ、…じゃあ…」
ジョミー君が唇を震わせました。会長さんの肌に赤い痕があるということは…。
「そう。ノルディが口説きながら顔を近づけたんで、まりぃ先生がキャーキャー騒いじゃって。…そっちに意識が行った途端にやられたんだ。ぼくはどうしたらいいと思う?…ノルディが思念で伝えてきた。今夜あなたの家に行きます、って」
「「「えぇぇぇっ!?」」」
こ、今夜ですって!?…会長さんの夢攻撃が通用しない人が相手だと、会長さんの身が危険です。タイプ・ブルーの力にモノを言わせて撃退するとか、居留守を使って逃げるとか…。
「ダメなんだ。ノルディは居留守くらいで諦めるようなタイプじゃないし、仲間を攻撃するのも避けたい。…なんとか穏便に済ませたいけど…」
会長さんは思い詰めた顔をしていましたが、白い左の手をじっと見据えて。
「…やっぱり、ハーレイのものになるしかないかな」
昨日のルビーの指輪が宙に現れ、会長さんはそれを左手の薬指に。
「今、ノルディは教頭室にいる。みんな、証人になってくれるよね?…ぼくはハーレイと婚約してる、って。後はハーレイ次第だけれど」
ハーレイの所に行くよ、と立ち上がった会長さん。いったいどうする気なんでしょうか?

見慣れた扉を会長さんがルビーの指輪を嵌めた手でノックし、「どうぞ」という声が聞こえてきます。
「…こんにちは、ハーレイ」
教頭室に入った会長さんは、応接セットのソファに腰を下ろしたドクター・ノルディの姿を見るなり小さく悲鳴を上げました。テーブルを挟んで座った教頭先生が驚いた顔で。
「どうした、ブルー?…来客中だと気付かなかったか?いつもの連中もいるようだな」
「…ハーレイ…」
次の瞬間、会長さんは教頭先生に飛びつくようにしがみついて。
「ハーレイ、ぼくたち婚約したよね?…ぼく、ハーレイと一緒に暮らすんだよね…?」
「…ブルー…?」
戸惑う教頭先生の肩に顔を埋めて会長さんが訴えます。
「ぼく…。ぼく、ハーレイと婚約したのに…。ノルディが今夜、ぼくを抱くって。家に行くって脅すんだ。嫌だよ、ハーレイ…!昨日婚約したばかりなのに…」
「…なんだと…?」
教頭先生の目が険しくなり、眉間に皺が寄せられました。向かいに座ったドクターを睨み、会長さんを強く抱きかかえて。
「ノルディ…。ブルーが言っていることは本当なのか?」
「…本当ですよ」
ドクターは不敵に笑いました。
「以前からの約束だったのです。ある条件をクリアできたら抱かせてもらえる筈でした。今日、やっと条件を満たしたのですが…手遅れだったというわけですか。いくら私でも、婚約者がいるのに無理強いしたりはしませんよ。…本当に婚約しているのなら」
嘘も方便と言いますし…、と会長さんの指輪を見つめるドクター。
「婚約指輪は認めましょう。ですが、そんなものは何とでもなる。今まで歯牙にもかけなかった相手と急に婚約だなんて、不自然だとは思いませんか?…他に証拠があるならともかく」
「…証人が…。証人になってくれる子たちが…そこに…」
教頭先生の腕の中から、会長さんが指差したのは私たち。ドクターの鋭い視線にたじろぎながらも、私たちは震える声で、会長さんの婚約に立ち会ったのだと証言しました。これが認めて貰えなかったら、会長さんは…。
「なるほど。…ですが、教頭。あなたからは何も聞いていません。婚約なさったのなら、そうおっしゃれば…。お祝いの都合もありますしね」
「…校内で話すことではないと判断した」
威厳に満ちた声でピシャリと言って、教頭先生は会長さんを抱き締めます。
「ブルーは私の婚約者だ。…ある条件を満たしたら…、と言っていたな。ブルーに何かしたというなら、黙って見過ごすわけにはいかない。ブルーは私が全力で守る」
ヘタレな教頭先生とは思えないほどの気迫でした。ドクターはフッと笑って、楽しそうに。
「では、キスをしていただきましょうか。…婚約も済ませてらっしゃるのですし、それくらい問題ないでしょう」
「……!!」
教頭先生はウッと息を詰まらせ、私たちも息を飲みました。ドクターが言っているキスは唇を重ねるキスでしょう。けれど教頭先生と会長さんは全然そんな仲ではなくて、それどころか教頭先生ときたら会長さんの額にキスする度胸も持ってなさそうなヘタレです。…ヤバイなんてものじゃありません。
「…いいよ、ハーレイ…。ぼくにキスして?」
会長さんが細い声で言い、教頭先生を見上げます。赤い瞳が誘うように揺れていましたが、教頭先生は金縛り。もうダメです。…百戦錬磨だというドクター相手に嘘をつき通せるわけが…。
「…そんなにブルーが大事ですか?」
ドクターがクッと笑いました。
「あなたは昔からブルーに甘い。知っていますよ、散々オモチャにされてらっしゃることは。それでも大切に想い続けて、未だにキスひとつ出来ないままで…。よくも我慢ができるものです。指輪は本物みたいですがね」
どうせ受け取って貰えなかったのでしょう、と図星を突いて。
「…あなたの我慢強さと三百年の忍耐に免じて、ブルーは見逃してあげますよ。ただし今回限りですが…。お楽しみはまた次の機会に」
そしてドクターはソファから立つと、教頭室を出て行ったのでした。

「…ハーレイ…」
会長さんが身じろぎをして、教頭先生の腕から抜け出します。
「ノルディが家に来るって言った時には、おしまいだって思ったよ。ドジを踏んだのはぼくなのに…昨日、指輪を騙し取ったのに、ぼくを助けてくれたんだ…?」
「……当たり前だろう」
教頭先生は頬を赤らめて視線を逸らし、静かな声で言いました。
「三百年以上、お前のことを見てきたんだぞ?…ノルディに何をしたのか知らんが、二度と馬鹿な真似はしないようにな。お前の悪戯が通用するのは、私だけだと思っておけ」
「…うん…。確かにノルディには通じなかったね…」
今回の騒ぎの発端は、会長さんが言い出した約束でした。教頭先生をからかって遊ぶのに馴れてしまって、からかったら危険な相手に同じようなことをしたわけで…。もしもドクターが引き下がってくれなかったら、会長さんは食べられてしまう所だったんです。
「ハーレイ。…この指輪、返しておくよ。これが無かったら、ノルディは諦めていないと思う。ぼくを助けてくれたプレゼントなのに、フィシスにあげてしまうのは…いくらなんでもあんまりだろう?」
会長さんはルビーの指輪を抜き取り、教頭先生の手に乗せました。
「今日のお礼に預かっておいて。…いつか本当に貰いたくなったら、改めてプレゼントしてもらうから」
「…ブルー…。希望を持ってもいいのか?」
「いいと思うよ。それじゃ、またね。…ありがとう、ハーレイ」
指輪を手にして感激している教頭先生。ドクター・ノルディの魔手から逃れた会長さんも本当に嬉しそうでした。教頭室を出た会長さんは、すっかりいつもどおりです。…会長さんを襲った未曾有の危機とドクター・ノルディの魔手を退けたのは教頭先生。三百年越しの片想いが実るとはとても思えませんが、ルビーの指輪が手許に戻っただけでも、きっと気分は最高でしょう。
「うん。それに希望もあげたしね」
会長さんが極上の笑みを浮べました。
「人生、希望を持たなくちゃ。そういう意味で言ったんだけど、ハーレイは誤解しちゃったかな」
あぁぁ、また教頭先生をからかって楽しんでいるようです。それでこそ会長さんですけれど、教頭先生、ご愁傷様…。




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