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シャングリラ学園シリーズのアーカイブです。 ハレブル別館も併設しております。

卒業式・第1話

期末試験は終わりましたが、1年生と2年生は終業式まで平常授業。特例で卒業する私たちも、卒業式までは1年A組でみんなと一緒に授業です。今日は期末試験の結果の発表日。そして私たちが卒業することも発表されると家にお知らせが来ていました。やっぱり緊張してしまいます。
「諸君、おはよう」
グレイブ先生がいつものようにカツカツと靴音をさせて入ってきました。
「先日の期末試験だが、我がA組は学年1位を獲得した。諸君、1年間の全ての試験と競技で1位を取ってくれたことに感謝する。私にとっても実に素晴らしい1年だった。ありがとう」
みんなの歓声が上がります。グレイブ先生は更に続けて。
「そして、重大なお知らせがある。修学旅行を実施した時、この学年には1年で卒業する生徒がいると言ったのを覚えてくれているだろうか?…その生徒の名前が発表された。我がA組から5人、C組から2人が卒業する」
「「「えぇぇぇっ!?」」」
教室中が大騒ぎの中、私たちの名前が読まれました。ああ、本当に卒業することになるんですね…。
「今、読み上げた生徒たちだが、卒業式までは平常どおり諸君と一緒に授業を受ける。彼らが楽しく過ごせるように、好奇心からの質問などは慎みたまえ」
はーい、と返事するみんなを眺めて、ちょっぴり寂しくなった時です。
「重大発表はもう1つある」
グレイブ先生が眼鏡をツイと押し上げました。
「ホワイトデーだ」
「「「ホワイトデー!?」」」
まるで次元の違う話に、みんなポカンとしています。特例で卒業する生徒がいるのは重大でしょうが、ホワイトデーの何処が重大なんでしょう。それともホワイトデーが違うのかな?バンレンタインデーと対の行事とは別物だとか?
「ホワイトデーと言えば3月14日だ。知らない筈はないと思うが」
グレイブ先生はコホンと咳払い。
「カレンダーに従うならば、卒業式の後にホワイトデーがやって来る。だが、我が校ではそれは許されないのだ。あれだけ盛大にバレンタインデーをやっておきながら、ホワイトデー無しで3年生を卒業させてはバランスが取れん。そこでシャングリラ学園では例年、カレンダーとは別にホワイトデーが設定される」
なんと!ホワイトデーを別の日にするですって!?ザワザワと皆が騒ぎ始めます。
「静粛に!…本年度のホワイトデーは卒業式の三日前だ。女子からチョコレートを貰った男子は必ずお礼をするように。たとえ義理チョコであったとしても、返礼をするという気持ちが大事だ。我が校は礼節を重んじる。…そうそう、友チョコはホワイトデーの対象外だから安心したまえ。なお、今回は罰則は無い。諸君の自主性を尊重しよう」
以上、と言ってグレイブ先生は教室を出てゆきました。繰上げホワイトデーとは驚きです。おかげで私たちの卒業のことは何処かへ吹っ飛んでしまい、賑やかな日常が戻ったのでした。

男の子たちが右往左往し、女の子たちが期待に胸を膨らませる内に、学園指定のホワイトデーがやって来て…。ダントツの数のチョコを貰った会長さんは朝一番から学校中を回っていました。「そるじゃぁ・ぶるぅ」をお供に連れてチョコレートのお礼を配るのに大忙しです。
「…うちのクラスは最後かしら?」
スウェナちゃんが廊下の方を眺めています。ジョミー君たちからはお菓子や小物を貰いましたが、会長さんはまだ現れません。全校生徒がホワイトデーのプレゼント配達を終えるまで授業の開始時間は遅らせるのだと聞いています。会長さん、どの辺りにいるのでしょうね?アルトちゃんとrちゃんも廊下をしきりに気にしていました。
「…ごめん、ごめん、遅くなっちゃった」
会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」と一緒に入ってきたのは普段なら2時間目が終わろうかという頃でした。
「せっかくチョコレートやプレゼントをくれた子たちに、ただお返しを渡すだけ…っていうのは味気ないだろ?やっぱり色々話をしたいし」
そう言いながら会長さんはクラスメイトの女の子たちに小さな包みを渡していきます。みんなと言葉を交わしているので、普段から顔なじみのスウェナちゃんや私は後回しみたい。アルトちゃんとrちゃんも同じです。私たち4人は教室の隅っこに固まり、会長さんが「そるじゃぁ・ぶるぅ」に持たせた袋から取り出した包みを配って回るのを見ていました。
「あ~、なんだかドキドキしちゃう」
rちゃんが祈るように両手を組んでいます。
「あの包み、何が入っているのかしら?きっと全員お揃いよね…」
「rちゃんとアルトちゃんのは特別なんじゃないかと思うわ」
スウェナちゃんが真剣な顔で言いました。
「二人とも普段から色々貰ってるもの。ホワイトデーみたいな特別な時に、みんな纏めて買いました…っていうプレゼントをするのは有り得ないでしょ?」
そうかなぁ、と心配顔のアルトちゃんとrちゃん。その間も会長さんは笑顔でプレゼントを配り続けて、とうとう私たちがいる教室の隅へ。
「お待たせ。自分の席で待っていればいいのに、こんな所に立ってるなんて…。でも、ぼくにとっては好都合かな」
会長さんはクラス中に配っていたのと同じ包みを取り出し、スウェナちゃんと私にくれました。
「はい、バレンタインデーのお返しだよ。中身はハンカチなんだけど…他のみんなに配ったのとは違うんだ。ぶるぅが編んだレースが縁についてるし、君たちの名前も刺繍してある」
特製だよ、と会長さんが言うと「そるじゃぁ・ぶるぅ」が得意そうに。
「あのね、みんなに配ってきたのはデパートで買ったヤツなんだ。みゆとスウェナの分はぼくの手作り♪」
開けてみて?と促されて包みを開くと綺麗なハンカチが出てきました。手編みレースの縁取りにアルファベットで刺繍してある私の名前。これは大事にしなくっちゃ!もったいなくて使えません。アルトちゃんとrちゃんも同じものを貰って大感激です。そこへ「そるじゃぁ・ぶるぅ」が私たちの袖を引っ張って…。
「ぼくもホワイトデーのプレゼント持ってきたんだよ。みんな、ぼくにもチョコレートくれてありがとう。でも、ぼく…いいプレゼント思いつかなくて…ただのクッキーになっちゃった」
はい、と渡されたのはベビーピンクのサテンで出来た袋の形のポーチでした。縛ってある紐を解くといろんな形のクッキーが詰まった袋が入っています。
「袋もぼくが作ったんだ。クッキーだけじゃプレゼントらしくないものね」
なんて可愛い発想でしょう。こういう場合はクッキーの方がオマケでは…。ポーチにはちゃんと『ぶるぅ』と刺繍がしてありますし、クッキーを食べてしまった後は小物を入れたりできそうです。私たちは「そるじゃぁ・ぶるぅ」と会長さんにお礼の言葉を何度も繰り返しました。繰上げホワイトデーの行事はこれでおしまい。会長さんがプレゼントを配り終えたら、間もなく授業開始です…って、まだ何か?
「実はね、本当のプレゼントはこれじゃないんだ」
会長さんがアルトちゃんとrちゃんに声を潜めて囁きました。
「ここで渡したら目立っちゃうから、寮の方に送ってあるんだよ。ぼくの名前じゃまずいと思って、贈り主はフィシスにしてあるけれど」
え?フィシスさんの名前で贈り物…?目立つってことは、かさばるとか?
「君たちに似合いそうなのを選んで買ってみたんだ。…今度会う時に着ててくれると嬉しいな。大丈夫、ちゃんと普通のネグリジェだから」
ひえぇぇ!なんてものをプレゼントするんですか!?アルトちゃんとrちゃんは真っ赤です。他のクラスメイトに聞こえない場所だとはいえ、夜着を贈ったとサラッと言っちゃう会長さんは流石でした。シャングリラ・ジゴロ・ブルーの名前はやはりダテではないんですねぇ…。
「ふふ、ほっぺたが真っ赤だよ。そんな所も可愛くて好きさ。じゃあ、またね」
手を振って出て行く会長さんをアルトちゃんとrちゃんは目をハートにして見送っていました。

繰上げホワイトデーの放課後、私たちは例によって「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋に集合。キース君たちの部活が終わるまでレモンパイを食べながらおしゃべりです。こんな時間ともお別れの日が近いのかな…とは思いますけど、卒業式の日までの残り二日を楽しまなくちゃ。会長さんもそう言いましたし。
「卒業してからの君たちの進路は決まってないし、気楽にね。…卒業しても、シャングリラ号が迎えに来るまで好きに過ごしていいんだよ」
シャングリラ号がいつ来るのかは知りません。迎えに来たら何処へ行くのか、何があるのかも分かりません。卒業しないと教えて貰えないことなのかも…。やがてキース君たちが来て、レモンパイを一気に食べて、「そるじゃぁ・ぶるぅ」が作った熱々のラーメンを啜り始めます。柔道部って本当にお腹が空くんですね。
「食べ終わったら、ぼくに付き合ってくれないかな?」
会長さんが意味ありげな微笑を浮かべ、私たちの心臓がドクンと音を立てました。このパターンには散々振り回されているんですから。
「…どこへ…?」
恐る恐る聞いたのはジョミー君。
「教頭先生の所だよ。…ぶるぅがシールドを張ってくれるから心配いらない」
「あんたの場合、シールドを張られた方が不安なんだが…?」
キース君が突っ込みを入れましたけど、会長さんは気に留めません。
「だって、ホワイトデーのプレゼントを貰いに行くんだよ?バレンタインデーの時も君たちはシールドの中でハーレイには姿を見られてないし、今回シールド無しっていうのはまずいじゃないか。第一、ハーレイに警戒される」
またまたロクでもないことを…と思いましたが、会長さんに逆らえる猛者がいる筈もなく。
「…結局、こうなってしまうのか…」
ボソリと呟くキース君。私たちはシールドの中に入って『見えないギャラリー』になり、会長さんの後ろに続いて教頭室へ行ったのでした。本館の奥の厚い扉を会長さんがノックして…。
「こんにちは、ハーレイ」
スルリと滑り込むのに遅れないよう、私たちが教頭室の中へ入ると扉はバタンと閉まりました。
「来てくれたのか、ブルー」
教頭先生がにこやかに微笑みます。
「バレンタインデーにチョコレートを貰ったからな…。貰いっぱなしでは悪いと思ってプレゼントを取りに来るよう連絡したが、なんといってもお前のことだ。無視されるかと諦め半分だった」
「くれるっていう物は貰うのがぼくの主義なんだ。…どうせなら可愛い女の子から貰いたいとは思うけどね」
クスクスと笑う会長さんに教頭先生が差し出したのはリボンがかかった平たい箱。
「開けてみてくれ。…お前に似合いそうだと思ってな」
「ふぅん?」
会長さんは教頭先生の机の上に箱を下ろすとリボンを解いて包装紙を外し、蓋を取って中身を広げました。それは真っ白なシルクオーガンジーに豪華なレースの縁取りがついた…とても大きなウェディング・ベール。マリアベールというヤツです。3メートルはありそうで幅もたっぷり。…会長さんに似合いそうだとか言ってましたけど、教頭先生、御乱心とか!?
「…これをぼくにどうしろと?」
「かぶって見せてくれると嬉しいんだが…。どうやらお前と結婚するのは無理そうだしな」
せめてベールをかぶった姿だけでも、と教頭先生は言いました。
「制服の上からでいいから、一度だけ頼む。後はフィシスにやってくれ」
「へえ…。珍しく強気なんだね。それともヤケクソ?…ずいぶん高そうなベールだけれど、ぼくはプレゼントを貰いに来たんで、ハーレイにサービスしに来ているわけじゃないんだよ」
「だからプレゼントだと言ったろう。…お前にやるから好きに使えと言っているんだ。ただ、その前に一目だけ…それを着けたお前を見られれば…」
そこまで言って教頭先生は深い吐息を吐き出します。
「バレンタインデーに悪戯とはいえ告白メッセージつきのチョコを貰ったから、私からもその手の悪戯を…と思ってみたが、やはり駄目だな。こういうのは向いてないらしい。…ブルー、それは箱に戻してくれ。欲しければ持って帰ればいいし、要らないのなら改めて別のものを…」
そっか、悪戯だったんですね。御乱心かと焦りましたが、よかった、よかった…って、会長さん!?
「…これでいい?」
フワッとベールが宙に広がり、会長さんの銀色の髪を覆って床まで長く垂れました。冬物の制服の上下を縁取るように流れ落ちるオーガンジーとレースのベールは妖しいほどに美しく、倒錯的で。「制服の上からでいい」という教頭先生の安易な考えが生み出した会長さんのベール姿は、下手なウェディング・ドレスを身に着けるよりも心を揺さぶる艶姿でした。
「…ブルー…」
教頭先生は魂を奪われたように会長さんに見とれています。ベールを纏った会長さんがクスッと小さく笑いました。
「涎が出そうな顔だよ、ハーレイ。よっぽどこれが見たかったんだね」
「ああ。…満足だ。ありがとう、ブルー…」
感慨をこめて答えた教頭先生は本当に幸せそうでした。結婚できないのならウェディング・ベールだけでもかぶせてみたい…って、悪戯にしても思いついたのは普段のヘタレ具合からすれば飛躍的な進歩です。この間のキスで自信がついたとか?ニンニクの素揚げつきでパワーたっぷりでしたしね。

それからしばらく二人の間に会話はなくて、教頭先生は会長さんを頬を緩めて見ていました。頭の中では会長さんと結婚式を挙げる妄想が流れていたかもしれません。私たちもシールドの中で無言のまま。やがて会長さんが口を開いて…。
「ねえ、ハーレイ。もしも…ぼくがハーレイと結婚するとしたら、どうしたい?」
「………?」
「どんな風にしたい?…シンプルなのか、ゴージャスなのか」
会長さんの質問の意味は私たちにもよく分かりません。ウェディング・ドレスのことか、それとも式のことなのか。教頭先生が答えられずに黙っていると、会長さんは言葉を変えて。
「質素なのと贅沢なのと、どっちが好きかと言ってるだ。ハーレイの価値観を聞いているんだよ。…どっち?」
うーん、結婚生活についてかな?価値観だっていうんですし。教頭先生は少し考えてから尋ねました。
「お前と一緒に暮らすとしたら…という質問か?質素倹約を旨として生活するか、贅沢三昧の暮らしをするか…。どちらなのかと聞いているのか?」
「さあね。…自分で考えてみたら?」
小首を傾げる会長さん。豪華なレースに縁取られた美貌の中で、赤い瞳が煌きます。教頭先生は会長さんを見つめ、思いの丈をぶつけるように。
「お前と結婚するというのは私の長年の夢なんだぞ?それが叶うのなら、苦労させるわけがないだろう?…贅沢三昧とはいかないまでも、私の力が及ぶ範囲でのんびり暮らして欲しいと思う。質素倹約しろとは言わん。お前には…幸せでいて欲しいからな」
「そうか。どっちかといえば贅沢なのがいいんだね?」
「贅沢とまではいかないが…。そんなに給料を貰ってないのは知ってるだろう」
教頭先生は苦笑しています。会長さんったら、結婚する気なんかまるで無いくせに、またからかって遊んでますよ。まぁ、教頭先生もまんざらではなさそうな顔をしてますけども。会長さんは悪戯っぽい笑みを浮べて、ベールの端を軽くつまんで。
「質素なのは好みじゃないってことは…。これがいいのかな?」
青い光が会長さんを包み、制服がドレスに変わりました。真珠の刺繍に細かいレース、長いトレーンの清楚で真っ白なウェディング・ドレス。親睦ダンスパーティーの時に目にしたあのドレスです。マリアベールとウェディング・ドレスを纏った会長さんは制服の時よりも遥かに華やかで輝いていて、まるで本物の花嫁のよう。
「ハーレイが見たかったのは…制服じゃなくてこっちだろう」
本当に結婚するんだったらウェディング・ドレスは必須だものね、と会長さんが微笑みます。
「でも、結婚はしてあげない。バレンタインデーの時に言っただろう?…ぼくの気が変わらない限り、ハーレイにチャンスは無いんだよ。だけどベールをプレゼントした度胸に免じて、ウェディング・ドレスを着てあげたんだ。こんな機会はもう無いだろうし、目と魂に焼き付けておけば?」
等身大の写真と違って本物だよ、と会長さんは優雅にクルリと回りました。長いベールとドレスのトレーンが乱れないのはサイオンを使っているのでしょうか?教頭先生の目は会長さんの動きに釘付けです。
「気に入ってくれた?…ちなみに質素なのがいいって答えた場合はね…」
フワリと青い光が広がり、マリアベールが翻って…会長さんの細い身体を覆っていたのは白ぴちアンダー。まりぃ先生の妄想から生まれた、ぴったりフィットの衣装でした。何も着ていないように見えるアンダーウェアと身体を縁取る純白のマリアベールが組み合わさると、どうしようもなくエロティックで。
「どう?…もしかして、これが一番好みとか?」
まりぃ先生のモデルをした時のように扇情的なポーズを会長さんがやってみせると、教頭先生は慌てた様子でティッシュを取り出し、鼻血を押さえにかかりました。白ぴちアンダーにマリアベールはちょっと刺激が強すぎたかも…。
「ほらね、やっぱり向いてない。慣れない悪戯なんかするからだよ」
青いサイオンの光の中で会長さんは制服姿に戻りました。マリアベールをくるくると畳み、元の箱の中に詰め込んでいます。
「ドレスは親睦ダンスパーティーで貰ったヤツで、さっきの服はまりぃ先生からの無断借用。どっちも見たことあるくせに…ベールもかぶせてみたかったくせに、鼻血を出しちゃうなんて情けないね。ベールがプレゼントだって言い出した時はヘタレが治ったのかと思ったんだけどな」
「……………」
教頭先生はまるで反論できません。その間に会長さんはベールを片付け、箱にきちんとリボンをかけて。
「それじゃ、このベールは貰っていくよ。早速フィシスにかぶらせてみよう。…ぼくよりもずっと似合うだろうし、ホワイトデーのプレゼントを渡すついでにそっとかぶせて…。ふふ、考えただけでドキドキする」
フィシスはぼくの女神だからね、とのろけてみせる会長さん。
「ハーレイもぼくばかり追いかけてないで、女神を探すべきだと思うな。釣書を書いてくれたらツテを当たってお見合いの口を探してあげる。…人には向き不向きってあるものね。ハーレイのヘタレ具合じゃ、ぼくとの結婚は全然向いて無さそうだし…女性の方が絶対いいよ。うん、それがいい」
会長さんは勝手に納得すると、ベールの箱を抱えました。
「ハーレイの結婚式には呼んでくれると嬉しいな。精一杯おめかしをして出席するから、お幸せに」
「…ちょっと待て、ブルー!」
教頭室を出て行こうとする会長さんに必死の声が追い縋ります。
「私は…私はお前だけしか…」
「甲斐性なし」
クルッと振り返った会長さんが投げた言葉は強烈でした。
「三百年以上も振られっぱなしの、寂しい独身人生だろう?…そういうのって甲斐性なしって言うんだよ。ハーレイがなんと言おうと、生徒はみんな思ってるさ。…教頭先生は結婚してくれる相手もいない憐れな中年男だ…ってね」
ズーン…と教頭先生が深く落ち込み、机の上に突っ伏しています。会長さんはクスクスと笑い、廊下に出るとパタンと扉を閉めました。そしてシールドの中の私たちに。
「ハーレイったら、秘かに気にしていたのかな?…一般生徒からの評価ってヤツ。でも、ぼくは本当のことを言っただけだし、悪いのはハーレイの方だろう?」
ねえ?と同意を求められても困ります。「そるじゃぁ・ぶるぅ」のお部屋へ帰る道中、私たちの頭の中には会長さんが言い放った言葉が繰り返し木霊していました。甲斐性なしに寂しい独身人生、そして憐れな中年男。これが教頭先生の評価だとしたらキツイかも。せめて『独身主義のダンディーなおじさま』とか…って、『おじさま』と言った時点で中年認定しちゃってますね。教頭先生、心からお詫びを申し上げます…。




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